弁護士のキャリアと求められる能力とは:河瀬季(代表弁護士)
以下の記事における年次は、あくまで「一つの目安」です。もう少し細かい意味内容としては、「(次の段落との関係で)最短で上の階層に上がりたいと思った場合に、それでも必要となるケースが多い期間に関する、あくまで一つの目安」となります。
モノリス法律事務所では、「この年次を超えても上の階層に上がらないこと、それ自体をネガティブに捉え、例えば退職勧告を行う」といった発想はありません。「どの階層の業務に楽しさややりがいなどを感じるか、ワークライフバランスをどう考えるか」は、狭義に「人それぞれ」であるからです。
この記事の目次
2~4年目頃まで:アソシエイト(第1階層)
新人弁護士に期待されることは、端的に言えば、
「先輩弁護士から渡される各種のタスク、例えば契約書のチェックや裁判書面作成などの業務について、内容やデッドライン、予測必要時間などを踏まえた上で、適切な優先度設定の上で、処理を行う、場合によっては不明点確認などのために適切なタイミングで先輩に相談をすること」
となります。
特に入所間もない頃は、このタスク処理の、「質」と「量」を高めること、そして、企業法務弁護士としてチームワークの中で、クライアントのために行う仕事であるが故に求められる「仕事のやり方」を学ぶこと、といった点に集中して頂きたいと考えています。
そしてその際には、クライアントのニーズや複雑な技術的部分は「翻訳」されており、自分がどのような書面等を作成するべきかはある程度ブレイクダウンされた状態で、タスクが渡されること、また、「そもそも契約書の構造等がこれで正しいのか」といった高次のチェックは先輩弁護士によって行われることを、前提として大丈夫です。
「仕事のやり方」に関して、例えば、ある日のある朝、自分が処理すべきタスクが10個あるとして、どれを優先的に行うべきなのか。例えば、その中のあるタスクAは、納期は1週間後で余裕がありますが、しかし、自分一人では判断できない問題を含んでおり、先輩弁護士に検討して貰って、その判断を仰いだ上でないと、終わらせることができないものであるかもしれません。そのタスクAに6日間手をつけないでいると、「先輩弁護士からの回答を待っていたら納期に間に合わない」という事態になってしまいます。そうしたことが起きないよう、独力では解決できない業務を、適切なスケジュール管理の下で発見し、適切なサポート要請を行う必要があります。
そして、上記のような形で仕事を進めていくと、例えば、
「IT企業からの請負型のシステム開発関連契約書の場合、細部についてどのような点をヒアリングすれば良いのか」
「SNS上での誹謗中傷投稿の削除仮処分の場合、どのような期日報告を行えば良いのか」
といった点について、先輩弁護士の仕事ぶりを見ながら、少しずつ理解できていくはずです。仕事に慣れてきた頃からは、こうした、クライアントに対する、ある種「一般的」なヒアリング・報告も、担当して頂くことになります。
ある言い方をすれば、「いわゆる意味でのプレイヤー」ということになります。
3~8年目頃まで:アソシエイト(第2階層)
第1階層での業務に慣れた後に求められることは、端的に言えば、
「困ったらシニアアソシエイト~代表弁護士に相談さえすれば、適切な判断の下で即座にバトンタッチが行われる、という前提の上で、継続的に契約書作成などの業務を依頼してくれるクライアントを担当したり、第三者割当増資~訴訟といった中期プロジェクトを担当したりすること、その際に経験値の低い弁護士もチームに加え、適切なサポートを行うこと」
となります。
数年目になると、投資(第三者割当増資)案件、システム開発関連の訴訟、発信者情報開示請求事件など、スケジュールとの関係で適時の処理を行うことが必要な案件を担当する機会が増えてきます。こうした案件は、単に例えば「投資契約のタームシートを●日までに作成しなければならない」というだけではなく、その後に予定されている工程を見据えながら、中期的なスケジュール設定の上で進行されなければなりません。
すなわち、「第1階層の時は、目の前のタスク(投資契約のタームシート作成を●日までに終わらせること)」だけを見ていれば良かったのに対し、この段階では、「目の前のタスクが全体工程の中のどの部分で、中期的にどのようなスケジュール設定が必要であるか」という視点を持つことが求められます。また、「そもそも、この投資について、タームシートを作成することが必要かどうか」というように、「実施の必要性」が必ずしも明確でない業務について、クライアントに対する適切なヒアリングや判断を行うことも、必要となってきます。
そして、(基礎的な教育が行われている)新人弁護士等に仕事を教えながら案件を処理する、ということが求められるようになります。つまり、「自分が行う仕事の質と量」ではなく、「自分と『自分とともに当該案件を担当する新人弁護士等』(仮にチームと呼びます。)が行う仕事の質と量」について、目を配る立場になります。このため、チームメンバーである新人弁護士等への指示を適正に行うことが必要になってきます。
また、当事務所の事務局等には、例えば英語能力を有するメンバーもいます。「自分のチームが行っている仕事の量」を把握しながら、そうしたメンバーへの分業検討や適正な指示を行うこと、言い換えれば、「そうした手段も視野に入れながら、自分のチームの業務の質と量を確保すること」が求められます。
ある言い方としては、「フィールド上でゲームメイクを行うプレイヤー」ということになります。
6~12年目頃まで:シニアアソシエイト
シニアアソシエイトに求められることは、端的に言えば、
「困ったらパートナー~代表弁護士にエスカレーションを行えば良い、という前提の上で、各アソシエイト弁護士の業務量や適性を把握し、適切に業務配分を行うこと、そしてその際には、経験値に大きなギャップがある新人弁護士等に対して、適正な指示・教育を行いながら業務を遂行させること」
となります。
例えば、請負契約書作成など基礎的な業務であれば、普段そのクライアントを担当することが多い第2階層のアソシエイト弁護士のチームで処理して貰えば良いかもしれません。
しかし同じクライアントの案件であっても、敵対的買収(MBO)など、複雑・高度な案件であれば、自分もその案件に加わって、第2階層のアソシエイト弁護士には自身の担当業務の処理に集中して貰い、第1階層のアソシエイト弁護士の教育は自分が行いながら、自分がドライブしてその案件を進めるべきかもしれません。
そうした判断が求められるようになってきます。
また、クライアントとの基礎的な信頼関係を構築・維持し、適切な提案を行うことも求められます。すなわち、契約書作成や類型的な紛争処理を通じ、そのクライアントとの信頼関係を維持すること、その際にクライアントのニーズを汲み取って、クライアントにとって最善の提案を行うことが、必要となります。
ただ、これら全ての業務は、「困ったらエスカレーションを行えば良い」という前提の上で大丈夫です。言い換えれば、イレギュラーな事態の発生時には、速やかにエスカレーションを行うこと、その前提として「イレギュラーな事態の発生」に気付くことが、大事になってきます。
「アソシエイト弁護士であれば、イレギュラーな事態の発生時には、シニアアソシエイト~代表弁護士が(進捗状況の共有等さえしていれば)気付いてバトンタッチに来てくれることを期待して良い」が、「シニアアソシエイトは、自分で気付いて明示的にエスカレーションを行う必要がある」ということです。
ある言い方をすれば、「(選手兼任的な)現場監督」ということになります。
7~12年目頃から:パートナー
パートナーとは、端的に言えば、
「シニアアソシエイト弁護士の業務等に加えて、時にはシニアアソシエイト弁護士からのエスカレーションを受けて、イレギュラーな事態の解決にも責任を持つ立場」
です。
当事務所の主要取扱分野である、IT・ベンチャーの企業法務や、事業会社を含む各種企業のIT・知財法務では、単に「契約書をオーダー通りに作成できる」「紛争を適切に処理できる」といった能力だけでは解決できない、重大・重要で高度な判断を迫られる場面が、どうしても一定頻度で発生します。そうした際にクライアントの信頼を失わない、かえって「この先生に顧問をお願いしていて良かった」と思って頂けるような弁護士が、「当該クライアントにとってのパートナー弁護士」という形で、当該クライアントとの関係を構築できる弁護士である、ということになります。
言い換えると、シニアアソシエイト弁護士とパートナー弁護士の違いは、下記です。
すなわち、「シニアアソシエイト弁護士」とは、例えば仮に、事務所から30社の顧問先を引き継いだとすると、数ヶ月~半年程度は各クライアントの信頼を失わず、淡々と業務処理を行うことができ、しかしイレギュラーな事態の発生時にクライアントの信頼を失ってしまう可能性がある、しかしそのことを特にネガティブには評価されない立場です。
そして、「パートナー弁護士」とは、イレギュラーな事態の発生時にこそ、かえってクライアントの信頼を強化できる、そのような判断と対応を行う、感覚や能力を要求される、だからこそ顧問先の引継を受けることができる立場です。
何が違うのか、最初はなかなか分からないと思いますが、これは、「いわゆる経営感覚と呼ばれることがある能力」、私の言葉としては「法務コンサルタントとしての感覚」ということになります。
これは、特にいわゆる「クライアントワーク」を行った経験がある社会人出身者でもない限り、なかなか数年目あたりでは、「そもそも何を意味しているのかが分からない」というもので、そして、少しずつその正体が分かってきても、5年目あたりでは身につけることが難しいものだと思われます。
ただ、自分がアソシエイト~シニアアソシエイトとして関わった案件やクライアントについて、どのようなイレギュラーな事態が発生し、その際にパートナー~代表弁護士は、どのような対応を行ったのか。その結果何が起こったのか。そうした経験を積むことで、少しずつ身につけることができるはずです。
ある言い方をすれば、「(必要な時は現場に来るという意味で選手兼任的な)経営層」ということになります。
ただ、弁護士の場合、この立場になっても、例えば複雑・長大な契約書作成業務に関して、「最初の方向性決定は自分とクライアントの役員とで行い、細部のディテールのヒアリング等はシニアアソシエイトとクライアント技術担当者間に任せた上で、契約書内の骨幹・重要部分は自分自身で作成する」といった稼働になるケースが多く、第1階層アソシエイト弁護士~シニアアソシエイト弁護士に要求されていた能力は、この立場になっても、「それは当然に高い精度でできることが前提」では、あります。
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