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企業の法務部員と法律事務所の事務職員:職務とキャリアパスの違いとは?

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企業の法務部員と法律事務所の事務職員:職務とキャリアパスの違いとは?

法務関連のキャリアに関心をお持ちの方にとって、企業の法務部員と法律事務所の事務職員(※1)は、それぞれ異なる専門性とキャリアパスを持つ魅力的な選択肢です。どちらも「法律」を扱う職業ではありますが、その役割や働き方、求められるスキルには大きな違いがあります

たとえ法律知識を活かしたいという目的が同じでも、その知識をどのように用いるかは職種によって異なります。ご自身のキャリアプランに合致する選択肢を見つけるために、両者の特性を詳細に比較してご紹介します。

業務の目的と働き方の違い

企業の法務部員:予防と安定を重視する戦略部門


目的:自社の安定的成長、リスクヘッジ、紛争解決など
法律の利用:主に戦略的・予防的利用
業務内容:契約書作成・チェック、社内の法律相談、法改正への対応、知的財産・商標の管理、M&Aのサポート、労務・労働問題の管理、訴訟・紛争対応など


企業の法務部は、「自社の利益を最大化する」「トラブルを未然に防ぐ」といった目的を持っており、戦略的・予防的な業務が大きな比重を占めます。

例えば、契約書関連の業務(作成・チェック・改定)では、取引先との良好な関係を維持しつつ、自社の利益を確保するための条項設計や条件交渉を行います。新規事業の法的リスク評価、M&Aの手続き支援、知的財産の管理なども、企業の持続的成長に直結する重要な業務です。

もちろん、実際に法的トラブルが発生した場合には、訴訟対応や社内外との調整にもあたります。ただし、日常の業務はルーティン化される傾向にあり、その分、安定した環境で中・長期的に企業を支えていく役割が大きくなります。

法律事務所の事務職員:多様な問題解決に携わるプロフェッショナル


目的:クライアントの法的問題の解決
法律の利用:主に紛争解決(企業法務系事務所では戦略的・予防的利用)
業務内容:書類・証拠の作成、資料・証明書の取得、クライアント対応(電話・メール・来客対応など)、法令・判例のリサーチなど


法律事務所の事務職は、弁護士のパートナーとして、クライアントが直面している法的問題の解決に向けて動きます

訴訟案件では、裁判所や行政機関に提出する書面・証拠の作成、書面の発送、手続きの進行管理(スケジュール調整、やり取りの記録など)を担当します。進行上の支障はクライアントの利益に悪影響を与えかねないため、日々の業務には丁寧さ・慎重さが欠かせません

企業法務を扱う法律事務所ではさらに、弁護士の指示のもと契約書のドラフト作成やレビューをはじめ、企業の法務部に近い内容の業務も行います。例えば、当事務所では以下のような企業法務案件を手がけています。

・美容・医療系の広告や記事に関するリーガルチェック https://monolith.law/operationofmedia
・スマホアプリの利用規約レビュー https://monolith.law/termsofservice
・システム開発関連の紛争処理 https://monolith.law/systemdevelopment
・ベンチャー投資やMBOの包括的支援 https://monolith.law/stockrelatedlaw
・リスティング汚染の削除対策 https://monolith.law/listingadspollution
・VTuberのマネジメント契約書レビュー https://monolith.law/vtuberlaw


しかし、企業の法務部と決定的に異なるのは、「携わる案件の多様性」です。クライアントの業種や抱えている問題は千差万別であり、ある週はVTuberのトラブル対処、次の週は医薬品広告のリーガルチェックといった働き方は珍しくありません。業務内容は日々大きく変化し、幅広い事業領域の最先端の法律問題に触れることができます

まとめ:目的と働き方の比較

企業の法務部と法律事務所の大きな違いは、業務の目的が「自社の利益最大化」か「クライアントの問題解決」かという点です。自社の利益を追及する法務部では、将来の事業展開を見据えた戦略的・予防的な業務が中心であるのに対し、法律事務所では、現行の問題の解決を目指します。ただし、当事務所のように企業法務に主軸を置いた法律事務所では、戦略的・予防的に法律を利用する機会も少なくありません。

手がける案件の幅広さ、業務の多様性も異なります。法務部では自社の事業領域に沿った案件が中心であり、一定の仕事を繰り返す場面も多いため、業務の性質は比較的安定していると言えます。一方、法律事務所では、幅広い事業領域に関わり、扱うテーマもその時々で変化するため、日々の業務には流動性があります

それぞれで活かせるスキルと求められる資質

企業の法務部員:ビジネス視点と高い交渉力


法律知識:民法、商法、会社法、知的財産法、労働法など(自社事業に関連する法令)
スキル:法的思考、コミュニケーション能力、交渉力、ビジネス知識


企業の法務部では、自社の事業領域に関する法律知識を土台として、学部やロースクールで培った法的思考を活かすことができます。

一方で、実務の現場では、法的な観点のみならず、自社の財政状況や企業戦略も視野に入れた「ビジネスの感覚」が重視される場面も多くあります。また、法務部の業務の多くは社内の他部門・他部署との連携を通じて進行するため、ヒアリングや調整を行う高いコミュニケーション能力、取引先と協議を行う交渉力も不可欠です。

法律事務所の事務職員:正確な事務処理能力と専門的な法知識


法律知識:民法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法、商法、会社法をはじめ、案件によって多岐にわたる
スキル:法的思考、法律文書・用語の知識、リサーチ能力、集中力・注意力(マルチタスク対応力)、裁判所対応特有のルール理解(※2)


法律事務所で扱う法律は、案件によって多岐に渡ります。事務職は訴訟の進行や書面でのやり取りなどを担当するため、法令・規則の手続きに関する知識も必須です。 法務部と同様に、法的思考や条文・判例の読解力が直接役に立ちますが、法律事務所ではさらに、法律文書の構成や用語、論述方法といった知見が活かされます。例えば、訴状のドラフト作成を弁護士の指示のもと行う際、基礎用語や論理構造(法的三段論法など)の理解が役立ちます。 また、法律事務所では、複数案件を同時並行で進行します。裁判期日の管理や、証拠書類の整理など、期限と正確性が非常に重要な業務が多く、マルチタスクへの対応力も必要です。

あなたの法律知識をどう活かすか

法律知識や法的な思考力は、企業の法務部でも法律事務所の事務職でも共通して求められる土台ですが、実務での活かされ方はそれぞれ異なります。

企業の法務部では、交渉、ヒアリング、調整の機会が多く、最適解を自分たちで探っていく主体的な姿勢が期待されます。 

一方で、法律事務所では、正確かつスピーディーな事務処理を通じ、弁護士主導の案件進行を的確にサポートすることが求められます。縁の下で誰かを支える仕事がしたいという方は、法律事務に適性があると言えます。 さらに、当事務所のような法律事務所の事務職は、特定の事業領域に縛られず、幅広い業界の最先端の法律問題に触れることができます

「法学部で学んだ知識を、特定の企業に限定せず、様々な課題解決のためにダイナミックに活かしたい」と考える方にとって、法律事務所は、キャリアパスの魅力的な選択肢の一つとなるはずです。


※1 法律事務所の事務職員について 

この記事は学んだ法律知識を活かしたい方を対象としていますが、法律事務所の事務職員として勤務する場合、入所後に徐々に仕事を覚えていけば十分に対応できる業務がほとんどです。過度に心配する必要はありません。

※2 裁判所対応特有のルール 

法律事務所の事務職員として働く上では、裁判所ごとに存在する運用ルールや書面の提出方法といった実務上の細かなルールを覚えることが必須となります。これらはOJTを通じて習得していく部分が大きいです。


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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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