システムエンジニアとしての経験・知識を弁護士が活かす方法:河瀬季(代表弁護士)
私は、システムエンジニアとして仕事を行った後、法律を勉強し、弁護士になりました。モノリス法律事務所は、私のこうした経験や知識を、そのルーツとした法律事務所です。
現在、モノリス事務所は、弁護士やスタッフも増え、当然に、システムエンジニアとしての経験等を持たない弁護士も多く所属しています。そして後述するように、当事務所は、弁護士、特に弊所に加入した直後の弁護士がITに関する専門的な知識や経験を持っていなくてもIT法務を行うことができるよう、組織を設計しています。
ただ、そうは言っても、エンジニアとしての知識や経験がある弁護士は、それらがない弁護士よりも、IT法務を手がける上で、「有利」な点もあると思います。
システムエンジニアとしての知識や経験を、弁護士、特にBtoB、当業界でいう「企業法務」の弁護士としての業務に活かすという点について、エンジニア出身の弁護士として、見解を書かせて頂きます。
この記事の目次
エンジニアとしての経験や知識と、IT関連の法的紛争
まず、言うまでもなく、システムエンジニアとしての知識や経験は、IT法務を手がける上で、重要な能力となります。
IT関連は、法的紛争が頻発する領域となっています。システム開発関連、著作権侵害、データ保護関連など、様々な問題が絶え間なく発生しています。このような状況の中で、弁護士の果たす役割は非常に重要です。
特にシステム開発関連の紛争処理の領域では、複雑なITシステムやソフトウェアの仕組みを深く理解し、問題の所在や論点などを適切に理解する能力が必要不可欠です。例えば、あるシステム開発の納品物について、ユーザーが「不満」を持っている場合に、それが要件定義との関係で、どの部分に対するどういった「不満」なのか、という分析は、システム開発関連の紛争を手がける上での「最初の一歩」ですが、IT関連の知識がないと、この分析自体を行うことが困難です。
システムエンジニアの経歴を持つ弁護士は、IT分野の複雑な技術的背景を理解しているため、こうした分野の法務において大きな強みを持っています。いわば、「技術と法律の橋渡し役」としての役割です。
参考:システム開発関連法務
法的紛争の処理と予防法務
そして、「予防法務」とは、上記のような紛争が発生する前に、万一紛争が発生した場合の帰結等を検討し、その検討の上で、どういった契約書を作成すれば紛争発生を回避できるか・紛争発生時にクライアントにとって有利な帰結となるかを、検討する営みです。「紛争が発生する前」の時点で上記の検討を行うということは、
- (自然言語的に)どういった事態が発生し得るか
- その場合にどういった(法的意味での)事実が発生するのか
- その場合にどういった証拠群が存在することになるのか
を、未発生の紛争に関して想像しなければならない、ということです。エンジニアとしての経験は、そうした「想像」や「検討」のために、必ず役に立つでしょう。
当事務所は、IT関連の専門的な知識を持っていない弁護士でも上記のような分析を行えるよう、システムエンジニアを含むITコンサルタントのチームを、有してはいます。ただ、弁護士が単独で分析を行える方が、スムーズであることには変わりはありません。
ビジネスモデルの適法性検討や法的整備
また、クライアントの新規事業の適法性検討や契約書等の作成といった場面でも、クライアントが行おうとしている事業の技術的意味を理解できるか、といった点で、IT関連の知識は、上記と同質に、重要となります。
例えば、クライアントが検討しているAI関連の新規事業についての、
- それが個人情報保護法との関係で適法であるか
- 仮に疑義がある場合、どの部分をどのように変更すればクリアになるのか
- その場合に、プライバシーポリシーをどのように設定すれば良いのか
- 第三者企業との契約をどのように設計すれば良いのか
といった検討には、個人情報保護法に関する理解に加えて、そもそも技術的に何が行われようとしているのかという点に関する理解も、必要となるからです。
契約書チェックとデバッグの類似性
そして、システムエンジニアとしての経験、その中で培ってきた分析や検討の能力は、ITと必ずしも関係のない、ビジネスに関する契約書作成や契約書チェックを行う上でも、有用なものだと思われます。「契約」とは、現実世界におけるビジネスを制御するためのアルゴリズムに他ならず、契約書のチェックは、「デバッグ」に近いからです。
契約書とは、その当事者について、将来生じるかもしれない事象を想定した上で、その場合には両当事者にどのような権利や義務が発生するのか、その結果、両当事者がどう行動することになるのか、といった点を規律するためのものであり、その意味で「現実世界を規律するプログラム」と言えるものです。
「契約書のチェック」とは、当該契約書が規律している「現実世界を規律するプログラム」としてのアルゴリズムを分析し、それが「入力される可能性のあるインプット」に対して「想定外動作」を引き起こす可能性がないかどうかを、確認・検討し、「デバッグ」を行う営みなのです。
システムエンジニアは、少なくともプログラムに関して、上記のような思考を行うことに、慣れているはずです。「法律」という言語に関しても、少なくとも一定の経験を積めば、同じような「デバッグ」を行うことが、できるようになるはずです。この意味で、システムエンジニアと予防法務系の弁護士の業務には、類似性があると思います。
参考:契約書チェックとデバッグの相似性を元ITエンジニア弁護士が解説
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