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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

国際法務・ブラジル連邦共和国

モノリス法律事務所には、ブラジル弁護士資格を有する海外弁護士も所属しており、ブラジル法務に積極的な対応を行っています。
異なる法制度や商慣習への対応は、事業成功の鍵を握る重要な要素です。
予期せぬ法的リスクを回避し、円滑な事業運営を実現するためには、専門的な法務サポートが不可欠です。

ブラジルは南米最大の経済大国として、広大な国内市場と豊富な天然資源を擁する成長市場として注目されています。特に、近年の農業生産の好調に加え、国内消費と投資の増加が経済活動を活性化させています。この巨大な市場は、日本企業にとって新たなビジネスチャンスの宝庫となり得ます。
しかし、ブラジルへの進出は、その独自の複雑な法制度、税制、労働規制など、日本とは大きく異なる法的環境を伴います。これらの相違点を適切に理解し、現地の法規制に適合した事業戦略を構築することが、ブラジルでの事業成功の鍵を握ります。ブラジルの経済成長は魅力的である一方で、その複雑な法制度は日本企業にとって大きな参入障壁となる可能性があります。この状況下では、単に市場の魅力を追うだけでなく、法的リスクとコンプライアンスコストという二重の課題をいかに効率的に管理するかが重要です。

ブラジル法務に対応するチームと国際的なネットワーク

モノリス法律事務所弁護士

特にITなど先端分野に関わる国際法務には、専門性の高いチームによるサポートが必要不可欠です。モノリス法律事務所は、ITに強い弁護士やブラジルの弁護士資格を有する外国語話者、現役エンジニアを含むITコンサルタント等による組織を組成し、また、ブラジルの各専門家を含む国際的なネットワークを活用して、知見の共有や蓄積を行う体制を整備しています。

ブラジル政府主催のイベントに登壇

ブラジル政府・JETRO主催のイベントに登壇

モノリス法律事務所は、ブラジル弁護士資格保有者の所属する法律事務所として、ブラジル政府とJETROの共催で行われた「Brazil: A Scaleup Destination for Innovative Companies」に登壇するなど、日本企業のブラジル法務支援を積極的に行っております。

ブラジルにおけるビジネス法務

ブラジルの法制度は、ポルトガル法に由来する大陸法(Civil Law)の伝統に基づいており、成文法典が主要な法源となります。これは、個別の判例を重視する英米法系とは異なるアプローチであり、法条文の厳密な解釈が重視される傾向にあります。司法制度は連邦と州の二層構造で組織されており、市町村は独自の司法制度を持たず、事案の性質に応じて州または連邦の司法制度に依拠します。司法の頂点には連邦最高裁判所(Supreme Federal Court, STF)があり、憲法の守護者として連邦法や州法の違憲性を宣言する排他的な管轄権を有しています。連邦最高裁判所の下には、連邦法や条約の解釈・適用を担当する高等裁判所(Superior Court of Justice, STJ)があります。さらに、地域連邦裁判所(Regional Federal Courts)や州裁判所があり、それぞれ特定の管轄範囲を持っています 。商事、雇用、環境など、特定の分野に特化した専門裁判所も存在します。

  1. 会社法・投資法

    ブラジルで最も一般的な法人形態は、有限責任会社(Sociedade Limitada – Ltda.)と株式会社(Sociedade Anônima – S.A.)です 。有限責任会社は中小企業に最も人気があり、1名以上の株主で設立可能で、最低資本金の要件はなく、株主の責任は出資額に限定されます。株式会社は大企業や公開投資を求める企業に適しており、最低2名の株主が必要で、厳格なコーポレートガバナンスが求められます。
    支店形態での事業展開は、ブラジル連邦政府の事前承認が必要であり、手続きが煩雑で時間もかかるため、銀行業や航空業などの規制業種を除き、ほとんど利用されません。
    すべての外国直接投資は、ブラジル中央銀行(BACEN)に登録される必要があります。ブラジル政府は外国直接投資を積極的に奨励していますが、医療サービス、マスメディア、鉱業、農村不動産、海運、銀行・金融業、通信業など一部の分野では外国投資に制限が設けられています。また、全ての外国投資家は、ブラジル国内に代表者を任命する義務があります。

  2. 知的財産法

    ブラジルでは、国立産業財産庁(INPI: National Institute of Industrial Property)が、特許、実用新案、意匠、商標、著作権、ソフトウェア、集積回路配置設計の登録を管轄しています。基本的な制度は日本と同様であり、商標は、ロゴ、名称、スローガン、シンボルなど、企業や製品を識別し区別するブランド要素を保護するもので、INPIへの登録により、他者が競合する商品やサービスに同一または類似の商標を使用することを法的に阻止できます。特許(Patents)は、発明者に対し、その創作物に対する排他的権利を付与し、通常20年間、他者が許可なくその発明を製造、使用、販売することを防ぐためのもので、ブラジルでは、発明特許(Invention Patent, PI)と実用新案特許(Utility Model Patent, MU)の2種類が認められています。著作権は、ブラジル著作権法(Law No. 9.610/98)によって保護されます。著作権の発生には登録は不要であり、作品が作成された時点で自動的に保護されます。ただし、INPIに任意で登録することも可能です。ブラジル国外に居住する外国人も、ブラジルが締結している条約や協定に基づき保護を受けることができます。

  3. 労働法

    ブラジルは、労働者の権利保護を重視する包括的な労働法典(Consolidação das Leis do Trabalho, CLT)を有しています。CLTは、1943年に制定されたブラジルの労働法の基盤であり、雇用関係を包括的に規定し、労働者の権利を保障するため、労働時間、賃金、福利厚生、有給休暇、解雇手続きなど、多岐にわたる分野をカバーしており、世界で最も規制の厳しい労働市場の一つと言われています。CLTに基づくすべての従業員は、正式な雇用契約を結び、労働手帳(Carteira de Trabalho e Previdência Social – CTPS)に登録する必要があります。解雇に関しては、正当な理由が必要であり、雇用主は通知期間の遵守や、勤続期間に応じた退職金(FGTSからの支払いを含む)などの金銭的義務を負うことが一般的です。ブラジルのCLTは、労働者保護が手厚い反面、企業にとっては高い労働コストと複雑なコンプライアンス義務を伴います。雇用主のコストは給与の50%から100%増になる可能性があるとされており 、これはブラジルでの事業計画において人件費を過小評価するリスクを生みます。なお、ブラジルで合法的に就労するためには、すべての外国人労働者は就労ビザと居住許可の両方を取得する必要があり、外国人労働者は、雇用主のスポンサーシップがなければ、単独で就労ビザや居住許可を申請することはできません。

  4. データ保護法

    ブラジルの個人情報保護法(Lei Geral de Proteção de Dados Pessoais, LGPD)は、2020年8月に施行された包括的なデータ保護法であり、EUの一般データ保護規則(GDPR)と密接に連携しています 。この法律は、組織の所在地に関わらず、ブラジル市民の個人データの収集、利用、保管を規制し、ブラジル国内で処理されるデータやブラジルで収集されたデータにも適用されます。LGPDは、データ最小化、品質、目的制限、透明性、セキュリティといったデータ保護の基本原則を確立し 、データ主体にはアクセス、訂正、削除、データポータビリティなどの権利を付与しています。また、組織に対しては、データ保護責任者(DPO)の任命、データ保護影響評価(DPIA)の実施、およびデータ漏洩時の通知義務を課しています。LGPDに違反した場合、年間総収益の最大2%または最大5,000万レアル(約850万米ドル)の行政罰金が科される可能性があります。国際データ移転に関しては、LGPDは、ブラジル国家データ保護庁(ANPD)が十分なデータ保護を提供していると認めた第三国への移転、または標準契約条項(SCCs)、拘束的企業準則(BCRs)、その他の保護措置(認証など)を介した移転を許可しています 。ブラジルのLGPDは、GDPRと密接に連携しているため、日本を含めた他国の企業がブラジル市民の個人データを扱う際には、その物理的な所在地に関わらず、重大なコンプライアンス義務が生じます。

  5. 契約法

    ブラジルの契約法は、民法典(Civil Code)に基づいており、契約の成立、有効性、履行、債務不履行、損害賠償などに関する原則が定められています 。契約の自由の原則が認められていますが、法律、道徳、公序良俗に合致する必要があります 。契約はポルトガル語で作成されなければ法的有効性を持ちません。国際取引においては、準拠法や紛争解決条項の選択が特に重要となります。債務不履行が発生した場合、損害賠償請求が可能であり、実際の損害と逸失利益の両方が含まれる場合があります。不可抗力による債務不履行は責任を免除されることがありますが、契約で特定の事象を不可抗力としない旨を定めることも可能です。ブラジルでは、仲裁が紛争解決の有効な手段として広く利用されており、ブラジル仲裁法(Brazilian Arbitration Act)は国際基準に準拠しています。ブラジルは外国仲裁判断の承認と執行に関するニューヨーク条約を批准しており、外国仲裁判断の国内での執行が法的に保障されています 。

  6. フィンテック等

    ブラジル中央銀行(BCB)とブラジル証券取引委員会(CVM)が主要な規制機関です。暗号資産はブラジルで合法的な金融資産として認められていますが、法定通貨ではありません 。ライセンスを持つ取引所またはP2Pプラットフォームを通じての取引が許可されています。暗号資産からのキャピタルゲインは累進課税の対象となり、月間取引が35,000レアルを超える場合は報告義務があります。また、マネーロンダリング防止(AML)およびテロ資金供与対策(CFT)に関して厳格なコンプライアンス義務があります。

ブラジルのビジネス関連主要法規

法分野概要当事務所の支援領域
会社法・投資法有限責任会社(Ltda.)と株式会社(S.A.)が主要な法人形態。外国投資はブラジル中央銀行(BACEN)に登録必須。医療サービス、マスメディア、鉱業、農村不動産、海運、銀行・金融業、通信業など一部規制業種あり。最適な法人形態の選定、会社設立手続き、各種許認可の取得、現地法人登記、M&A・合弁事業支援
知的財産法特許、商標、著作権は国立産業財産庁(INPI)が管轄。特許は発明特許と実用新案特許の2種。著作権は登録不要で自動保護。知的財産権のブラジルでの登録出願、権利侵害時の対応、ライセンス戦略の策定
労働法労働法典(CLT)が雇用関係を包括的に規定。労働時間、賃金、福利厚生、有給休暇、解雇手続きなど詳細な規定あり。外国人労働者は就労ビザと居住許可が必要。雇用契約書の作成・レビュー、就業規則の整備、労働紛争対応、外国人雇用に関するアドバイス
データ保護法個人情報保護法(LGPD)がブラジル市民の個人データ処理を規制。GDPRと密接に連携し、国際データ移転にはANPDの承認またはSCCs等が必要。LGPD準拠体制構築、プライバシーポリシーの作成・改定、データ移転に関するアドバイス
契約法民法典に基づく契約原則。契約の自由が認められるが、法律、道徳、公序良俗に合致が必要。ポルトガル語での作成が必須。仲裁は有効な紛争解決手段。各種契約書(国際商取引、ライセンス、秘密保持など)の作成・レビュー、交渉支援
電子商取引法インターネット市民権法(Marco Civil da Internet)がインターネット利用の基本権を確立。消費者保護法も適用され、情報開示や信用分析義務あり。オンラインビジネスに関する法務相談、利用規約作成、広告規制対応
金融サービス規制ブラジル中央銀行(BCB)とブラジル証券取引委員会(CVM)がフィンテック、ブロックチェーン、暗号資産を規制。暗号資産は合法的な金融資産だが法定通貨ではない。金融サービス関連事業の許認可取得、AML/CFT対策支援、コンプライアンス体制構築
税法2026年から二重付加価値税(VAT)構造へ移行予定。非居住者デジタルサービスプロバイダーはVAT徴収・送金義務あり。統合VAT税率は約26.5%。税務戦略に関する法的アドバイス、税務コンプライアンス支援

ブラジル法務のトータルサポート

海外事業の展開は、日本のビジネスマンや起業家にとって、必ずしも簡単ではありません。国際的なネットワークを保有する日本の法律事務所によるサポートは、進出前の検討・進出時に必要な会社設立等やビザ・労働法間系の問題の処理、進出時の契約等まで、全ての場面において、非常に有益です。書面や契約書等を現地言語で、現地法に準拠して作成する必要があるため、日本の法律事務所がハブとなって、現地の事務所等と連携しながら行うサポートが、非常に重要となります。

海外事業のトータルサポート

ブラジルにおける会社設立やその運用は、ブラジル法のレギュレーションに服し、
ブラジルでのビジネス展開はブラジルの民法・会社法や行政法規等に、
その雇用関係はブラジルの労働法に服します。
これらには、日本におけるレギュレーションと異なる規律が多数存在します。

ブラジル連邦共和国の法制度の詳細

ブラジル共和国の法制度の中で特徴的なのは、労働者保護を目的とした労働法の規制が非常に厳格である点です。労働契約の形式や解雇規制、福利厚生の義務など、使用者に課される義務が詳細かつ広範であり、他国と比較しても企業側の負担は大きいといえます。また、1990年に制定された消費者保護法(Código de Defesa do Consumidor)は、ラテンアメリカでも先進的な内容を含み、事業者に対する高いコンプライアンスが要求されます。

一方で、ブラジルの司法制度には手続の複雑さや審理の遅延といった課題があり、これを回避するために近年では仲裁(Arbitragem)や調停(Mediação)の活用が進んでいます。特に商事紛争では、国際仲裁機関の利用も一般化しつつあり、企業の法的リスク管理の一環として重視されています。

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海外事業をサポートするソリューション

当事務所は、リーガルリサーチや契約書作成、契約締結交渉などの一般的な弁護士業務に加えて、
国内企業の海外進出をサポートするための様々なソリューションを提供しております。

法務デューデリジェンス(DD)への対応

法務デューデリジェンス(DD)への対応

企業買収などの場面において、対象会社の設立・会社組織・株式、株主・関係会社・M&A、不動産・動産その他の資産、知的財産権、ファイナンス、契約、訴訟・紛争、コンプライアンスといった各分野について、特に重大な法的問題の有無を確認する法務調査である、いわゆる法務デューデリジェンス(DD)は、法律事務所側に組織力の求められる業務です。当事務所は、弁護士22名の所属する組織であり、ブラジル国内企業を対象とした法務DDや、DDレポートの作成を迅速に行う体制を整備しています。

※DDレポート作成を行う場合、概ね弁護士の稼働時間が30時間(弁護士費用100万円強)以上となります。

法務デューデリジェンス(DD)の実施例

法務デューデリジェンスにおいては、企業や事業運営の前提条件となる事項や、企業活動に重要な影響を及ぼす事項を、そのスコープとすることが基本となります。

具体的には、まず、会社機関やガバナンスの観点から当該企業や事業が存続し得るか、当該事業を推進するために必要な法令・許認可は何であり、その許認可は維持が可能か、といった点です。また、事業活動において重要な資産や負債の状況はどのようなものか、重要な各種契約(労務や関連当事者間取引等を含む)に欠缺はないか、有利な条件での継続が可能か、現段階では顕在化していないリスクが発生した場合の影響はどの程度か、といった点も問題となります。

これらを基本としながら、例えば下記のように、企業や事業の性質に応じたポイントを加えてスコープを決定し、法務デューデリジェンスを実施することとなります。

  1. フィンテック

    Lei nº 14.478/2022(仮想資産法)に基づき、仮想資産サービス提供の適法性、ライセンス要件を精査 。ブラジル中央銀行(BCB)およびブラジル証券取引委員会(CVM)の規制遵守、LGPDに基づくデータ保護体制、AML/CFT対策の有効性を評価

  2. SaaS開発

    Lei Geral de Proteção de Dados Pessoais (LGPD)に基づき、顧客データの収集・処理・保管の適法性を精査。Lei nº 9.610/98(著作権法)およびLei nº 9.279/96(産業財産法)に基づき、ソフトウェアの知的財産権保護、ライセンス契約の有効性を評価。

  3. サイバーセキュリティ

    Lei Geral de Proteção de Dados Pessoais (LGPD)に基づき、データ漏洩時の通知義務、セキュリティ対策の有効性を精査。Lei nº 12.965/2014(インターネット市民権法)に基づくインターネット利用の基本原則遵守、Código Civilに定めるサービス契約の法的有効性も評価。

  4. 農業・不動産

    Lei nº 5.709/1971(外国人による農村不動産取得法)に基づき、外国資本による農村不動産取得・賃貸の許認可状況を精査。Consolidação das Leis do Trabalho (CLT)に基づく農村労働者の雇用条件、環境規制への遵守状況も評価。

  5. 物流企業

    Consolidação das Leis do Trabalho (CLT)に基づく労働条件、外国人雇用に関する規制遵守状況を精査。Código Civilに基づく運送契約の有効性、Lei nº 11.442/2007(道路貨物輸送法)など関連法規への準拠も確認。

モノリス法律事務所は、クロスボーダー化・グローバル化の進むIT領域において、日本をリードする法律事務所を目指し、国内企業や事業体によるブラジル事業のサポートを、その重要な使命の一つと位置付けています。

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