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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

ロシア制裁対策

ロシア企業と取引していなくても、ロシア関連制裁のリスクは生じます。
中央アジア企業との米ドル建て取引は、その最も典型的な例です。
モノリス法律事務所は、ロシア法関連案件への知見やノウハウに基づき、日本企業のロシア制裁リスクの検証・対応を支援します。

日本国内で、日本企業とのみ取引を行っている限り、ロシア制裁のリスクが問題となることはほとんどありません。しかし、いったんクロスボーダー取引に踏み出した瞬間、とりわけカザフスタン、ウズベキスタン、キルギスといった中央アジア諸国の企業との取引においては、日本企業自身がロシア制裁リスクを確認し、必要な対応を行うことが求められます。
契約書のどこにも「ロシア」という名称が出てこない取引であっても、取引先の株主、利用する銀行、その顧客や仕入先、物流業者、そして最終使用者を通じて、ロシア制裁のリスクは生じます。中央アジア企業との米ドル建て取引は、その最も典型的な例です。
モノリス法律事務所には、ロシア連邦において法律実務に従事可能なForeign Associateが在籍し、ロシア法関連案件およびロシア制裁関連案件を主要な取扱分野としています。特に、ロシアの対抗措置は、大統領令、政府決定、中央銀行の決定等から構成され、頻繁に改正される一方、信頼できる公式英訳が存在しないものも多く、ロシア語の一次資料を直接確認できることが、ロシア制裁対応では重要な意味を持ちます。

モノリス法律事務所弁護士

特に中央アジアへのビジネス展開では、契約当事者としてロシア企業が登場しない場合でも、ロシア制裁リスクの検証が必要となります。
これは、日本国内で新規取引を行う際に「反社チェック」が必要となるのと同様に、取引開始前に確認すべきコンプライアンス上の問題です。
そして、「信頼できる現地パートナーがいるから、自社でロシア制裁チェックを行う必要はない」という考え方は、非常に危険です。

「ロシア企業と取引していないから関係ない」という誤解

多くの日本企業は、ロシア企業と直接取引しない限り、制裁は自分たちには関係のない問題と考えています。その結果、契約の相手方がロシア国外の企業であれば、制裁に関する検討を一切行わないまま取引が進みます。

しかし、この考え方は危険です。ロシア制裁リスクは、契約書のどこにもロシアの名称が出てこない取引でも、取引先の株主、利用する銀行、その顧客や仕入先、物流業者、そして最終使用者を通じて生じる可能性があります。

たとえば、日本企業がウズベキスタンの商社に産業機械部品を米ドル建てで販売し、当該商社はSDNリスト(米国の指定対象者リスト)に掲載されておらず、契約書のどこにもロシアの当事者は登場せず、貨物は日本からウズベキスタンへ向けて出荷されるという取引は、一見すると、ロシア制裁とは何の関係もない取引に見えます。しかし、この取引には、少なくとも次の論点が潜んでいます。

  1. 当該ウズベキスタン企業の50%以上が、直接または間接に、単独または合算で、一者または複数の資産凍結対象者によって所有されていないか
  2. 決済に用いる米ドルが米国のコルレス銀行を経由することで、「米国との接点」が生じないか
  3. 当該部品が、G7が共同で迂回を監視するCommon High Priority Itemsに該当しないか(参考:経産省による「Common High Priority Items」関連ページ
  4. ウズベキスタンで販売されるとされた物品が、実際にはロシアへ再輸出されないか
  5. 相手方が指定する受取銀行は、将来にわたって国際送金を処理できる銀行なのか

これらのいずれかを見落とした場合に生じるのは、抽象的な法的リスクだけではありません。代金を回収できない、貨物が差し止められる、日本法上の責任が問題となる、といった現実的な結果です。中央アジアをはじめ、ロシアの貿易・金融ネットワークと密接に結びついた市場で事業を行う日本企業にとって、ロシア制裁のスクリーニングは、反社会的勢力チェックと同様に、日常的な取引先審査・コンプライアンスの一部として組み込まれるべきものです。

ロシア関連制裁リスクの4つの特徴

  • 契約書に現れない

    ロシア制裁リスクは、契約当事者としてロシア企業が登場する場合にだけ生じるものではありません。取引先の株主、利用する銀行、その顧客や仕入先、物流業者、最終使用者を通じて、契約書のどこにも「ロシア」と記載されていない取引にも生じます。中央アジア企業との米ドル建て取引は、その典型例です。

  • 制裁と対抗措置は別物

    EU・英国・米国・日本等が科すロシア制裁と、ロシアが非友好国(日本を含む)に対して講じる「対抗措置」は、全く別の法制度です。日本法・EU法・英国法・米国法上は適法な取引であっても、ロシアの対抗措置によって履行できない場合があり、その逆もあります。双方の確認が必要です。(参考:外為法に基づく経済制裁措置

  • 統一された規律はない

    国連安全保障理事会には、ウクライナ侵攻に関連してロシアを対象とする制裁レジームは存在せず、「国際的に統一されたロシア制裁リスト」を1つ確認すれば足りる、という訳ではありません。1つの取引について、日本・米国・EU・英国などのロシア制裁制度をそれぞれ個別に検討する必要があります。

  • 米国接点がなくても及ぶ

    米ドル決済は、米国の金融機関を経由する場合等に、米国の一次制裁(primary sanctions)の適用範囲に入る可能性があります。さらに米国の二次制裁(secondary sanctions)のもとでは、通常の意味で米国の禁止規定に違反していなくても、一定のロシア関連取引を行ったこと自体を理由として、日本企業自身が指定対象となる可能性があります。

なぜ今、日本企業が制裁対応を求められるのか

「停戦交渉が進んでいるのだから、制裁もそのうち解除されるだろう」という見方は、危険です。2026年8月時点、ロシア制裁は、緩和の方向には全く進んでいません。

EUは2026年7月23日に第21次制裁パッケージを採択し、翌24日に発効させました(参考:EUの第21次対ロシア制裁パッケージ)。資産凍結の対象に個人48名・団体170を追加しており、これは直近4年間の単一パッケージとしては最大の指定数です。同じパッケージでは、輸出管理を強化する附属書IVに51の主体が新たに追加され、そのうち27は中国(香港を含む)、トルコ、キルギス、インド、カザフスタン、UAEといった第三国に設立された主体でした。中央アジア・中国との取引において、ロシア制裁リスクは高まっていると言えるでしょう。また、その3か月前、2026年4月23日に採択された第20次パッケージにおいても、EUは、国単位の迂回防止ツールを初めて適用し、ロシアへの再輸出リスクが高いことを理由として、特定のコンピュータ数値制御工作機械および無線機器のキルギス共和国向け輸出を制限しました。

米国においても、2026年8月7日に上院は、ロシア産石油・ガスの上位5か国の購入国、およびロシアのエネルギー制裁回避に最も関与している5か国からの物品に対して、最大100%の関税を課す権限を大統領に付与する内容などを含む法案を可決しています。下院での審議は9月以降に持ち越されましたが、第三国への圧力を強めるという方向性は明確です。

つまり、ロシア制裁の枠組みは緩和されるどころか、第三国、とりわけ中央アジアへと拡大を続けています。日本企業がロシア制裁対応を検討する必要性も、それに応じて高まっているのです。

検証が必要となる典型的な場面

  • 米ドル建て取引

    中央アジア等との米ドル建て取引は、ロシア制裁リスクが生じる最も典型的で、最も見落とされやすい場面です。国際的な米ドル送金は、米国の金融システムを通じたコルレス銀行取引によって処理されることが多く、米国との接点が生じて、米国の一次制裁が問題となる可能性があります。単に決済通貨を変更すればロシア制裁リスクを回避できる、という単純な問題ではありません。

  • 第三国を経由した輸出

    第三国を経由した輸出についても注意が必要です。輸出貿易管理令別表第2の3に掲げる貨物について、仕向地が別表第2の4に掲げる国であり、経済産業大臣が指定する者に関連して直接または間接に輸出が行われる場合には、輸出承認が必要となります。別表第2の4には、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンという中央アジア3か国も明記されています。

  • 中央アジアを通じた決済

    ロシア関連の支払を仲介した、指定対象者を支援した、あるいはロシア制裁の回避を助長したこと等を理由として、ロシア国外の金融機関が指定される例が増えています。2025年1月には米国財務省が、同年2月には英国が、キルギスのKeremet Bankを指定しました。現在利用できる銀行が、将来にわたって利用できるとは限りません。

  • 法人設立・合弁・出資

    ロシア制裁の検証対象は、合弁相手の会社名だけではありません。その株主構成、最終実質所有者(UBO)、役員その他の支配者、関連会社まで遡る必要があります。OFACの50%ルールのもとでは、一者または複数の制裁対象者が直接・間接に、単独・合算で50%以上を所有する主体は、自らの名称がSDNリストに掲載されていなくても、資産凍結対象として扱われます。(参考:OFACの50%ルール

「適法な取引」と「完結できる取引」の違い

「適法な取引」と「完結できる取引」の違い

ロシア制裁との関係で法的に禁止されていない取引であっても、銀行その他の仲介者が法律上要求されるより厳格な内部コンプライアンス基準を適用することにより、支払が遅延し、拒絶され、あるいは返送されて、取引を実際に完結できないことがあります。ロシア制裁対応では、法的な禁止の有無だけでなく、「その取引を現実に履行できるか」を確認する必要があります。

日本の銀行は、外為法第17条に基づき、顧客の送金が支払規制等の対象に該当しないことを確認する義務を負っています。実務上、銀行は、送金目的、物品の名称・原産地・船積地、仕向地、資金の最終受益者などについて詳細な申告を求め、ロシア制裁上の疑義があれば送金を留保することがあります。

支払が遅延・拒絶・返送される理由はさまざまです。取引先に間接的なロシアとの関係がある、支払に関与する銀行が高リスクとみなされる法域に所在する、貨物がロシアを経由して輸送される、所有関係や取引目的を十分に確認できない、といった事情があります。いずれも、支払を止めるために明確な法的禁止規定が存在することを必要としません。

ロシア制裁上、法的に許容される取引が、必ずしも実務上完結できる取引であるとは限りません。この違いを理解しないと、契約は締結したものの履行できないという状態に陥ります。法務部門では適法と判断された取引が、経理・財務部門で送金できずに止まるという部門間の断絶も、ロシア制裁対応で生じやすい問題です。

検証を怠った場合に生じる典型的な不利益

  • 米国市場からの排除

    ロシア制裁に関する最も深刻な帰結の一つです。米国の二次制裁のもとでは、通常の意味で米国の禁止規定に違反していなくても、一定のロシア関連取引や支援を行ったことを理由として、米国以外の者が指定対象(SDN)となる可能性があります。指定されれば、米国内の資産が凍結されるだけでなく、米国人・米国企業との取引は原則として禁止され、米ドル決済システムから事実上締め出されます。米国での子会社設立、資産取得、上場、資金調達が事実上困難となり、指定解除には多大な時間と費用を要します。

  • 代金回収不能・資金凍結

    物品や役務を提供したにもかかわらず、代金を受け取れないケースです。米ドル送金が米国のコルレス銀行で凍結される、EUの中間銀行で送金を拒絶される、中央アジアの受取銀行がロシア制裁との関係で指定され、口座内で資金が動かなくなる、といった事態が生じ得ます。契約上は支払期日が到来し、法律上も債権が存在するのに、資金を物理的・技術的に動かせないという重大なリスクです。

  • 物品の持ち込み不可

    ロシア制裁では輸入側のリスクも見落とせません。日本・EU・米国・英国は、それぞれロシア原産の特定物品について輸入規制を導入しています。また、一定の物品については、第三国で加工・組込みが行われた製品まで規制対象となる場合があります。中央アジア経由で物品や原材料を調達する日本企業は、完成品の表示上の原産国だけでなく、そこに組み込まれた規制対象原材料の原産地も確認する必要があります。

  • 欧米取引先からの排除

    EU・米国・英国の企業は、自らのロシア制裁コンプライアンス義務を果たすため、取引先を厳格に審査しています。日本企業の中央アジア事業についてロシア関連の疑義が生じれば、既存の取引関係が終了し、新規サプライヤー候補から外される可能性があります。これは法律上の制裁そのものではありませんが、事業への影響という点では罰金以上の打撃となる場合があります。上場審査、IR、M&Aのデューデリジェンスでも、ロシア制裁に関するエクスポージャーは重要な確認事項となります。

中央アジアでのビジネスにおいてロシア制裁リスクを無視すると、
将来にわたってアメリカ等への進出を
事実上諦めざるを得なくなる可能性があります

ロシア関連制裁リスクの構造と5つのレイヤー

体系的なロシア制裁対応を行うためには、リスクを構造として整理することが必要です。

まず、ロシア制裁には大きく分けて、特定の個人・企業・銀行等を対象とする「リスト型」の規制と、経済の特定分野や取引類型を対象とする「分野型」の規制があります。前者には資産凍結や指定対象者との取引制限等があり、後者にはエネルギー・金融分野の規制、先端技術・デュアルユース品目の輸出規制、一定のサービス、投資、石油関連取引の規制等があります。ロシア制裁対応では、単に取引先の社名を制裁リストと照合するだけでは不十分です。

検証の範囲は、契約相手方の名称だけでなく、その所有・支配構造(UBO、親会社、役員、実質的支配者)、関連当事者、支払に関与する銀行・決済仲介者、最終使用者と最終用途、物品の性質・分類・原産地、輸送ルートとそこに関与する運送人・フォワーダー・港湾・ターミナル・倉庫業者、さらには取引の商業的合理性にまで及びます。

そのうえで当事務所では、ロシア制裁リスクを次の5つのレイヤーに分けて整理することをお勧めしています。この分類は、「何が問題なのか」を企業の意思決定に利用できる形に整理するためのものです。

レイヤー内容課題
(1)直接の法的禁止日本・米国・EU・英国の法令が、その取引を明示的に禁止し、または許可・承認を求めていないかそもそもこの取引を行ってよいか
(2)指定・二次制裁リスク現時点では禁止されていないが、この取引を行うことで、自社が将来指定されるリスクが生じないかこれを行うと自社が制裁対象になるか
(3)銀行・実務リスク法的には可能でも、銀行・保険・物流の実務上、履行が困難または不可能ではないかこの取引を実際に完結できるか
(4)対抗措置リスクロシアの対抗措置により、支払、資産の移転、権利の行使が制限されないか期待した対価・資産・権利を実際に受け取れるか
(5)情報ギャップ評価に必要な情報がどこで欠けており、確定的な結論を出せないのはどこか何が分かっていないのか

このうち日本企業が最も見落としやすいのが、(2)(3)(5)です。(2)は、「違法ではない」という結論に安心し、将来の指定リスクを評価しないという失敗。(3)は、法務部門が適法と判断した取引が経理・財務の段階で止まるという、部門間の断絶から生じる失敗。そして(5)は、分からないことを「問題なし」として処理してしまうという失敗です。

中央アジアとの取引に特有の課題

ロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシアと西側諸国との直接の貿易・金融チャネルが縮小する中、中央アジア諸国は、ロシアと外部世界を結ぶ結節点としての役割を拡大しています。そのため、ロシアが西側の制裁によって従来の供給元から輸入しにくくなった品目が、中央アジアを経由して流通するケースも問題となっています。

同時に、中央アジア諸国は貿易相手の多角化を進めており、日本企業にとって同地域は、ロシアに代わる成長市場として、また中国と欧州を結ぶ物流ハブとして、正当かつ魅力的な進出先です。この2つの側面が同居していることが、難しさの本質です。中央アジアとの取引は完全に正当な事業活動であるにもかかわらず、市場の構造上、ロシア関連の要素が入り込む確率が構造的に高いのです。

なお、現地政府も二次制裁のリスクを強く意識しています。カザフスタンはロシア関連の規制の執行を本格化させており、中国からのトラックが国境で滞留しているとの報道もあります。キルギスの中央銀行も、Keremet Bankの指定が同国の銀行システムに及ぼす悪影響を最小化するとの立場を表明しています。しかし、政府の姿勢と、個々の企業・銀行のレベルにおける実態とは、別の問題です。取引先が所在する国が制裁遵守に取り組んでいるからといって、その取引先自体が安全であるとは言えません。

もう一点、合弁事業に関して整理しておくべき論点があります。別法人として設立された合弁会社は、日本企業が多数持分を保有し、または支配しているというだけで、当然に日本企業自身と同視されるわけではありませんが、日本企業が合弁会社を通じて制裁対象となり得る行為を指示し、これに関与し、またはこれを助長した場合には、日本企業自身の責任や制裁上のエクスポージャーが生じ得ます。一方、日本企業が少数持分しか有していない場合であっても、資産凍結対象者が直接・間接に、単独・合算で50%以上を所有していれば、OFACの50%ルールにより、合弁会社自体が資産凍結対象として扱われる可能性があります。

「パートナー任せ」が危険である4つの理由

中央アジアに進出する日本企業には、通常、現地パートナーがいます。現地の商慣習、許認可手続、当局対応、人的ネットワークを持たない日本企業にとって、パートナーは不可欠であり、それ自体には何の問題もありません。問題は、制裁の分析までパートナーに委ねてしまうことです。現地パートナーの多くは国際的に事業を展開する企業ではなく、米国やEUの制裁リスクを本格的に検討したことがない場合が少なくありません。現地では、ロシア企業との取引もロシア経由の物流も、ごく自然な商慣習であり、「リスク」としてすら認識されていないのです。

  • 責任は日本企業に生じる

    外為法上の支払規制や輸出承認の名宛人は、日本企業自身です。パートナーが誤った説明をしたという事実は、日本企業を免責しません。米国のsecondary sanctionsによる指定リスクについても同様で、指定されるのは日本企業です。「パートナーがそう言っていた」という説明は、当局に対しても、取引銀行に対しても、欧米の取引先に対しても機能しません。

  • パートナーが選ぶ第三者

    日本企業がパートナーとしか契約していない場合でも、実際の取引には、パートナーが選定した銀行、フォワーダー、通関業者、倉庫、運送人、下請業者が関与します。実務上、その選定はパートナーに委ねられており、日本企業が気づかないまま、高リスクの参加者が取引に組み込まれます。ルート自体が規制対象となり得るという問題も、多くはこの経路から入り込みます。

  • パートナー自身のリスク

    第三国の企業・銀行に対するロシア制裁上の指定は増えています。今日クリーンなパートナーが、自らの取引を理由として後日指定されない保証はありません。そうなれば日本企業は、合弁持分の処分、契約の終了、進行中の取引の停止、資金の回収という、いずれも極めて困難な問題に同時に直面することになります。

  • 契約による対応が困難

    表明保証、コンプライアンス条項、解除権は、もちろん必要です。しかしこれらはいずれも事後の救済手段です。海外の銀行口座で資金が凍結された後に契約上の請求権を持っていても実益は乏しく、SDNリストに指定された後にパートナーに対する損害賠償請求権を得ても、失われた米国市場へのアクセスは回復しません。そもそも、現地でその請求権を実現できるかという別の問題もあります。

物流ルートの検証

ロシア関連制裁リスクの評価において、物流の検証は最も作業量が多く、最も見落とされやすい領域です。理由は単純で、日本企業にとって物流は、従来、物流事業者へ任せることの多かった分野だからです。

しかし制裁は、当事者だけでなく、ルート上の物理的な地点そのものにも直接及びます。EUは2025年2月に採択した第16次パッケージにおいて、ロシア国内の特定の港湾・閘門および特定の空港との間で、直接または間接に取引を行うことを禁止する措置を導入しました(参考:EUの第16次対ロシア制裁パッケージ)。対象施設はその後のパッケージで拡大し、第20次パッケージ(2026年4月23日採択)ではムルマンスクとトゥアプセの両港に加え、第三国のインフラとして初めてインドネシアのカリムン石油ターミナルが追加されました(参考:EUの第20次対ロシア制裁パッケージ)。第21次パッケージ(2026年7月23日採択、24日発効)では、オリャ港とヴィソツク港、およびシェレメーチエヴォ(モスクワ)をはじめとする4空港が追加されたほか、ロシアおよび第三国の特定の製油所との取引を禁止する枠組みが創設され、ジョージアのクレヴィ製油所が最初の指定対象となりました(2027年1月25日から適用)(参考:EUの第21次対ロシア制裁パッケージ)。

ここで注意すべきは、法的な判断基準です。単に地理的に通過したという事実そのものではなく、当該取引が、指定施設に関して禁止される行為を含むかどうかが問われます。指定された港湾や空港を使用することは、当該施設との取引や、当該施設からの役務の調達を伴い、その結果として取引禁止措置の適用範囲に入る可能性がある、ということです。取引先の名称を指定リストと照合するだけのアプローチでは、この種のリスクを捉えることはできません。

これらはEUの規則であり、直接の名宛人はEUの事業者です。しかし、日本企業の取引にEUの銀行、EUの保険会社やP&Iクラブ、EUのフォワーダー、EUの子会社や関連会社、あるいはEU加盟国の国籍を有する役職員が関与していれば、その部分はEU規則の適用範囲に入ります。国際物流と海上保険の実務において、EU事業者が一切関与しない取引は、むしろ例外的です。

船舶についても同様の注意が必要です。EUは指定船舶(いわゆるシャドーフリート)について、EU港湾へのアクセス禁止と海事役務の広範な禁止を課しており、第21次パッケージ時点で673隻が指定されています。同パッケージでは、指定船舶に対して燃料供給やタグ役務を提供した船舶、指定船舶との間で洋上積替えを行った船舶自体も指定され得るよう、指定事由が拡大されました。つまり、現に使用する船舶が指定されているかどうかだけを確認すれば足りる段階ではなくなっています。

物流で検証すべき対象

  • フォワーダーと実運送人

    物流の当事者は、運送を「手配する」フォワーダーと、貨物を「実際に運ぶ」実運送人の二層に分かれます。両者は別々にロシア制裁の検証対象とする必要があります。実運送人はフォワーダーが自らの裁量で選定する下請業者であることが多く、契約段階では名称を特定できない場合もあります。「物流会社は確認済み」というだけでは、十分なロシア制裁チェックとはいえません。

  • 港湾・ターミナルと船舶

    港湾自体が取引禁止の対象となる場合があるほか、1つの港湾には複数の港湾運営会社・ターミナル運営者が存在するのが通常です。「どの港を利用するか」だけでなく、「その港のどのターミナルを、どの運営会社が運営しているか」まで特定することで、ロシア制裁の検証範囲を適切に設定できます。船舶については、IMO番号による確認が必要です。

  • 通関業者の資格

    通関業務は日本では通関業法上の許可事業であり、ロシアやモンゴル等でも資格要件が設けられているのが一般的です。フォワーダーが通関対応も行う場合、自ら必要な資格を有しているのか、有資格の第三者へ再委託するのかを確認します。再委託が行われる場合、その委託先もロシア制裁その他の検証対象となります。

  • 輸送関連支払と貨物保険

    運賃、港湾使用料、荷役料、保管料、通関手数料、保険料等は、物品代金とは別に支払われます。ロシア国内の事業者への支払が含まれる場合もあるため、商品の決済ルートだけではなく、輸送関連支払についても、支払先、経由銀行、通貨を個別に確認する必要があります。貨物保険についても、保険契約を締結できるかだけでなく、事故発生時に実際に保険金を受け取れるかまで区別して検討する必要があります。

ロシアの対抗措置

2022年の国際的な制裁の拡大を受けて、ロシア政府は、ロシアに対して非友好的な行動をとったとされる国に対する独自の対抗措置を導入しました。この非友好国のリストはロシア政府が定めるもので(2022年3月5日付ロシア連邦政府指令430-r、その後複数回改正)、日本は現在このリストに掲載されています。

したがって日本企業は、支払、資産の移転、知的財産、貸付、配当その他の取引に関するロシア側の制限を受ける立場にあります。ここで重要なのは、ロシアの対抗措置は、日本・米国・EU・英国等によるロシア制裁とは全く別の法体系だということです。各国のロシア制裁上は禁止されていない取引でも、ロシアの対抗措置によって、日本企業が期待する資金・資産・権利を受け取れない場合があります。

対抗措置の枠組みは、複雑です。大統領令、政府決定、中央銀行をはじめとする所管当局の規則・決定から構成され、頻繁に改正され、その多くについて信頼できる公式英訳が存在しません。この分野では、ロシア語の一次資料を直接読める体制は、決定的な意味を持ちます。

さらに近年は、正式な対抗措置に加えて、ロシア国内の訴訟手続や行政上の措置が、外国投資家にとって同等のリスクとなっています。EUは2026年7月の第21次パッケージにおいて、ロシアにおける一定の訴訟・行政措置に対する保護を強化し、回復に関する権利を拡大するとともに、特定のロシアの司法・行政上の決定について、EU加盟国内での承認・実施・執行を妨げる規定を導入しました。制裁と対抗措置の応酬によって、法的な関係は一層複雑になっています。

したがって、対象となる取引や事業活動が、ロシア当事者、ロシア国内の資産、ロシアからの支払、またはロシア国内での履行を伴う場合には、日本・米国・EU・英国等のロシア制裁のみを確認するのでは不十分であり、その事業活動に関連するロシアの対抗措置についても、併せて検討する必要があります。

対抗措置の主要な仕組み

  • C型口座

    2022年3月5日付大統領令95号により、非友好国に関係する債権者に対して負う一定の債務のうち、暦月あたり1,000万ルーブル(または外貨相当額)を超えるものについて、特別の手続が適用されます。同じ仕組みは、大統領令254号により、一定のロシア企業から当該外国参加者への利益分配にも拡大されました。対象となる支払はルーブル建てのC型口座を通じて履行され得ますが、当該口座の資金の利用には厳しい制限があり、国外への自由な送金は原則としてできません。

  • O型口座

    知的財産に関する一定の支払は、外国権利者のためにロシアの銀行に開設される特別のルーブル口座(O型口座)へ入金することができ、ロシア法上はこれによって債務者の支払義務が履行されたものとして扱われます。しかし、その資金を権利者の通常口座へ移すには、原則としてロシア政府委員会の許可が必要です。「ロシア法上は支払済みだが、日本企業は資金を受け取れない」という状況が生じ得ます。

  • 政府委員会の許可と撤退

    大統領令618号等により、非友好国関係者が関わる一定の取引には、政府委員会の許可が必要です。撤退取引については、独立評価人が算定した市場価値から60%以上のディスカウント(すなわち売却価格は市場価値の40%以下)を条件として審査され、加えて市場価値の35%以上を連邦予算へ「任意」拠出することが求められます。市場価値が500億ルーブルを超える場合には大統領の承認も必要です。

  • 外部管理

    2023年4月25日付大統領令302号等により、非友好国の企業が保有するロシア法人の株式が、ロシア国家による一時的な管理下に置かれる場合があります。国際的な企業がロシア事業に対する支配を失った例もあり、ロシアからの撤退可能性を検討する際には、このような対抗措置も考慮する必要があります。

検証対象とすべき企業の選定

「特定の海外企業との取引について、ロシア制裁リスクの有無を確認すること」が、この分野において法律事務所が提供することのできる、基本的な業務です。「この会社と取引してよいか」という具体的な問いについて、適用されるロシア制裁等を踏まえて検討します。

しかし、ロシア制裁対応でより難しいのは、そもそも「どの当事者、どの銀行、どの物流ルートについて、上記の検討を行うべきか」を判断することです。ここを誤れば、どれほど詳細な調査を行っても、重要なロシア制裁リスクを見落とす可能性があります。

日本企業から「この会社を調べてほしい」とご依頼を頂く場合、通常は契約書に記載された直接の取引相手が対象となります。しかし、ロシア制裁リスクは、契約書に登場しない、例えば以下のような要素からも生じます。

  1. 取引先の親会社・最終実質所有者・共同出資者や、合弁事業の他の出資者
  2. 利用する銀行・中間銀行・コルレス銀行や、代替的な決済手段・暗号資産関連事業者
  3. フォワーダーと実運送人・通関業者・荷役業者・倉庫業者
  4. 利用される港湾・空港・ターミナル、使用船舶
  5. 物品の最終使用者・最終用途

とはいえ、考えられるすべての関係者を無制限に調査することは、時間・費用の両面から現実的ではありません。そこで、取引構造を理解することが重要となります。例えば一例として、「港湾に関わるリスク」を考える場合、港湾には複数の運営会社が存在しますが、取扱貨物の種類等によっては、明らかに関係しない運営会社を、調査範囲から除外することができます。

取引構造を理解し、ロシア制裁リスクが存在し得るポイントを予測し、検証範囲を適切に設計することが、この分野における最初の重要な専門的作業です。この診断(検証対象とすべき企業の選定・スコーピング)のみをご依頼いただき、その結果を踏まえて追加調査の要否をご判断いただくことも可能です。

サンクションマップとリスクマップ

モノリス法律事務所は、検証の結果を、原則として2つの文書としてご提出します。

  1. サンクションマップ

    ロシア制裁分析の本体となる文書です。取引の構成要素を洗い出し、それぞれについて、日本・米国・EU・英国等のロシア制裁およびロシアの対抗措置の枠組みのもとで評価します。分析では、直接の法的禁止、指定・二次制裁リスク、銀行・実務上のリスク、ロシアの対抗措置リスク、確定的な結論を妨げる情報ギャップを区別します。各国のロシア制裁とロシアの対抗措置を別々の欄に整理したマトリクスによって、どの法域のどの規制が、取引のどの部分に関連するのかを一覧で把握できる形とします。

  2. リスクマップ

    サンクションマップで特定した主要なロシア制裁上の論点を、簡潔かつ実務的に整理する文書です。その目的は、取引を進めるかどうか、進める場合にはどのような条件のもとで進めるかという、企業の意思決定を支援することです。主要な法的・実務的リスク、全体的なリスク評価、追加確認事項、取得すべき資料、契約上講じるべき措置、取引を停止・再検討すべき状況等を記載し、それぞれのリスクを評価します。

いずれの文書も、検証時点で入手できた情報と法的枠組みに基づきます。ロシア制裁の検証は、クライアントから提供いただく情報・資料と、公開情報その他合理的に入手可能な情報を基礎とするため、評価の正確性・網羅性は入手できる情報の質に影響されます。

また、所有・支配関係等を十分に確認できない場合には、その事実自体を独立した「情報ギャップ」リスクとして記録します。ロシア制裁対応では、「分からない」ことと「問題がない」ことを区別することが重要です。継続的な取引については、制裁リスト、所有構造、銀行、決済ルート、適用法令等が時間とともに変化するため、定期的な再スクリーニングも重要となります。

ロシア連邦の法律実務経験を持つForeign Associate

ロシア連邦の法律実務経験を持つForeign Associate

Foreign AssociateのEvgeniia Savelevaは、ロシア連邦において法律実務に従事することが可能な立場にあり(2019年~)、モスクワの法律事務所において約4年半、紛争解決およびコーポレート分野の実務に従事してきました。ロシア企業とフランス企業との間の国際物品売買をめぐる事件や、ドイツ企業の商品が許諾を得ずに国外で販売されていた並行輸入の事件では、いずれも主任として案件を担当し、解決に導いています。その後、ストックホルム大学において国際商事仲裁のLL.M.を修了しています。修士論文のテーマは「制裁対象当事者に対するロシア裁判所の専属管轄と、ニューヨーク条約第2条3項との相関」であり、ロシア制裁と国際的な紛争解決手続が交錯する問題についても研究してきました。

ロシアの対抗措置は、大統領令、政府決定、中央銀行の決定等から構成され、頻繁に改正される一方、信頼できる公式英訳が存在しないものも少なくありません。ロシア語を母語として一次資料を直接確認できること、そしてロシア制裁と紛争解決の双方を実務・研究の両面から見てきた経験が、この分野における当事務所の対応体制の一つとなっています。同氏は日本語も学習しており、日本企業からのロシア制裁に関するご相談について、日本の弁護士とチームで対応します。

※Evgeniia Savelevaは、日本国における外国法事務弁護士の登録を行っておりません。日本法に関する法律事務は、当事務所所属の日本の弁護士が担当いたします。

料金体系

  • 特定企業の検証

    1社3.85万円(税込)

    特定された企業に関して、ロシア制裁リスクの検証を行います

    ※対象企業によって上記金額でお受けできないケースもございます。検証開始前に正式のお見積もりを行います。

  • スコーピング等プロジェクト型

    1時間3.85万円(税込)

    1時間3.85万円(税込)にて稼働を行います

    検証対象とすべき企業の選定(スコーピング)、当事者・資本関係の検証、物流ルート・決済の検証、契約書のドラフト・レビュー等に対応いたします

  • インシデント対応

    1時間6.6万円(税込)

    1時間6.6万円(税込)にて最優先対応を行います

    送金の拒絶、貨物の差止め、取引銀行からの照会、当局からの報告要請、取引先の指定といった有事における初動対応に最優先対応いたします

稼働時間の共有方法

稼働時間の共有方法

タイムチャージ型契約というのは、「弁護士が稼働した時間」によるものとして、ある意味分かりやすいものではありますが、しかし一方で、ある業務を行うために弁護士にどの程度の稼働時間が発生するのか、事前に分かりづらく、したがって依頼前の段階で弁護士費用の総額が見えづらいという欠点があります。

当事務所は、本ページ記載の通り、各契約書の作成等に関する稼働時間目安を事前に明示することを務めております。また、当事務所はクライアント企業様との連絡手段として、ChatWork・Slack・Teams・Facebookメッセンジャー・LINE・電子メール等、様々なサービスを利用しておりますが、こうした連絡手段内にて、Googleスプレッドシートでのタイムチャージ管理表によって、実際の稼働時間を随時共有しております。

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