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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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トルコの二面性を持った不動産法制を弁護士が解説

トルコの二面性を持つ不動産法制を弁護士が解説

トルコ共和国(以下、トルコ)における不動産法制は、2012年の劇的な法改正以降、外国人投資家に対して広く門戸を開く一方で、国家安全保障や公共の利益を確保するための精緻な管理体制を強化するという二面性を持った進化を遂げています。欧州、アジア、中東の結節点という地政学的な重要性から、トルコの不動産法は単なる私法上の権利関係にとどまらず、公法的な規制が色濃く反映される分野です。

トルコの不動産法制は、2012年の改正により相互主義が撤廃され、日本を含む多くの国に市場が開放されましたが、国家安全保障と国土保全の観点から依然として厳格な管理下にあります。具体的には、外国人個人に対して全国土で30ヘクタール、かつ地区面積の10%という取得上限が課されており、未開発地を取得した場合には2年以内の開発プロジェクト提出が義務付けられています。

また、日本企業が出資する現地法人は、資本構成によっては「外国資本企業」と見なされ、不動産取得に際して知事部局および軍当局による事前審査の対象となります。さらに2024年から2025年にかけては、居住許可取得のための最低不動産投資額が20万米ドルに引き上げられるなど、投資移民政策に関連した規制も厳格化の傾向にあります。

本稿では、トルコへの事業進出や資産形成を検討されている日本の経営者および法務担当者の皆様に向けて、こうした現地法の構造を詳説します。特に、外国人個人の取得制限、外国資本企業の特別な地位、軍事・安全保障区域における厳格な制限、そしてこれらを正当化する憲法裁判所の判例法理について、日本の法制度との比較を交えて分析します。トルコの不動産取引には、日本法にはない「国家の事前審査」や「総量規制」という概念が深く根付いており、これを理解することがリスク管理の第一歩となります。

トルコにおける相互主義の撤廃と外国人個人の権利取得

トルコの不動産法制における最大の転換点は、2012年5月18日に施行された「土地登記法および地籍法の一部を改正する法律(法律第6302号)」です。これ以前、トルコは「相互主義(Reciprocity)」の原則を厳格に適用しており、日本人がトルコの不動産を取得することは事実上困難でした。しかし、この改正により第35条から相互主義の要件が削除され、大統領(当時は閣僚会議)が指定した183カ国の国民に対して、一方的に不動産市場が開放されました。現在、日本国民はこのリストに含まれており、原則としてトルコの不動産を取得する権利を有しています。

しかし、この自由化は無条件ではありません。外国人個人(自然人)による取得には、以下の表に示すような厳格な量的・質的制限が課されています。これらは、特定の地域における外国人の集中や、大規模な土地の買い占めを防ぐための措置です。

制限の種別規制内容の詳細
全国土における総量規制一人の外国人が取得できる不動産および限定的物権(地上権など)の総面積は、全国で最大30ヘクタールまでとされています。大統領の権限により最大2倍(60ヘクタール)まで増枠可能ですが、これは例外措置です。
地域(地区)ごとの総量規制外国人が取得できる不動産の総面積は、その行政地区(District/İlçe)の私有対象面積の10%を超えてはなりません。この枠が埋まっている場合、取得は許可されません。
未開発地の開発義務建物が存在しない土地(更地や農地)を取得した場合、取得から2年以内に開発プロジェクト案を関連省庁(環境都市整備省等)に提出し、承認を得る必要があります。この義務を怠ると、国による強制売却(清算)の対象となります。

特に注意すべきは「未開発地の開発義務」です。日本の国土利用計画法における届出義務や、農地法による転用制限とは異なり、トルコでは「購入後の具体的な開発計画の提出」が所有権維持の条件となっている点に、土地に対する強い公益的制約が見て取れます。

トルコの外国資本企業に対する第36条の規制構造

トルコの外国資本企業に対する第36条の規制構造

日本企業がトルコに進出する際、現地法人の法的地位を正しく理解することが不可欠です。トルコで設立された法人はトルコ法人となりますが、その資本構成によっては、土地登記法第36条に基づく「外国資本企業」として分類され、不動産取得に際して純粋な内国法人とは異なる特別な手続きが課されます。

外国資本企業の定義と取得要件

第36条は、外国の投資家が発行済株式総数の50%以上を保有している場合、または取締役の過半数を任命・解任する権利を有している場合、その企業を規制対象と定めています。これらの企業が不動産を取得できるのは、定款(Articles of Association)に記載された事業活動を遂行するために必要な場合に限られます。つまり、事業と無関係な投資目的の取得は認められません。

知事部局による委員会審査

第36条に該当する企業が不動産を取得する場合、登記所の通常の審査に加え、不動産が所在する県の知事(Valilik)の下に設置された委員会の承認を得る必要があります。この委員会は、県計画調整局が事務局となり、軍当局や警察当局、その他関連部局の代表者で構成されます。

企業形態不動産取得の可否と条件
外国に本店がある法人(外国会社)原則不可。石油法、観光奨励法、工業地域法など、特定の特別法に基づく場合にのみ例外的に認められます。一般的なオフィス等の取得はできません。
外国資本のトルコ法人(第36条適用企業)許可制。定款の事業目的に適合し、かつ知事部局(委員会)の審査を経て、軍事・治安上の問題がないと確認された場合にのみ取得可能です。
純粋なトルコ法人(外国資本50%未満かつ支配権なし)原則自由。内国法人として扱われ、特段の追加規制なく取得可能です。

日本の法制度では、外資規制(外為法)による事後報告や事前届出はあっても、不動産登記の前提条件として県知事レベルの委員会が個別の取引ごとに「事業目的との適合性」や「安保上の懸念」を審査する仕組みはありません。トルコのこの制度は、事実上の事前許可制として機能しており、手続きには通常1〜2ヶ月を要します。

トルコの軍事禁区および治安区域における国家安全保障規制

トルコの不動産規制において最も重要かつ日本法との差異が大きいのが、軍事および治安に関する制限です。「軍事禁区および治安区域法(法律第2565号)」に基づき、特定の区域での不動産取得は厳しく制限、あるいは禁止されています。

規制の階層構造と不可視性

軍事禁区は第一種と第二種に分類されます。第一種軍事禁区では、外国人による不動産取得は絶対的に禁止されています。第二種軍事禁区や治安区域では、知事の許可(内務省や軍当局の同意)を得ることで取得できる可能性がありますが、ハードルは極めて高いと言えます。実務上厄介なのは、これらの区域の正確な境界線が国家機密として扱われ、一般に公開されていない点です。そのため、契約前のデューデリジェンスとして、土地登記所を通じた照会が必須となります。

日本の「重要土地等調査法」との比較

日本においても2021年に「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律(重要土地等調査法)」が施行されました。両国の法制度を比較すると、規制の強度とアプローチに明確な違いがあることが分かります。

比較項目トルコの規制日本(重要土地等調査法)
規制の対象者外国人および外国資本企業に特化して厳格化。国籍を問わずすべての者(日本人も含む)。WTOルール等に配慮し内外無差別形式をとる。
規制の手法取得の事前許可・禁止。許可がなければ権利移転(登記)自体が行われない。利用状況の事後調査・勧告・命令。特別注視区域でのみ事前届出が必要だが、不届出でも私法上の所有権移転自体は有効(罰則はある)。
権利の性質国家安全保障が所有権に優先し、取得そのものを遮断する。所有権の取得自体は禁止せず、機能阻害行為(利用)を規制する。

日本の法律が「利用の規制」に主眼を置いているのに対し、トルコは「所有の遮断」に主眼を置いています。これは、本件国において土地が単なる財産ではなく、国家主権そのものであるという憲法上の解釈が背景にあります。

憲法裁判所判理と「公共の利益」

本件国の不動産規制の根底には、憲法裁判所(Anayasa Mahkemesi)による一連の判決があります。2000年代の法改正プロセスにおいて、憲法裁判所は「土地は国家の不可分な要素であり、外国人への無制限な売却は国家の安全と主権を脅かす」という理由で、規制緩和の一部を違憲として無効化しました。

現在の法制度に見られる「30ヘクタール」や「10%」といった数値基準は、憲法裁判所が求めた「法律による明確な制限」に応える形で導入されたものです。つまり、トルコにおける外国人規制は、行政の裁量だけでなく、司法によって裏付けられた「国家意思」の表れであり、公共の利益や安全保障のためであれば、外国人の財産権取得を制限することは正当であるという法理が確立しています。

2024-2025年の最新実務動向:投資額基準の引き上げと鑑定評価

近年の経済情勢と移民政策の変化に伴い、不動産取得に関する実務要件は厳格化の一途をたどっています。特に注目すべきは以下の2点です。

鑑定評価レポート(Valuation Report)の全件義務化

かつては市民権申請などの特定のケースでのみ求められていた不動産鑑定評価ですが、現在は外国人が当事者となるすべての不動産取引において、資本市場委員会(SPK)の認可を受けた鑑定士による評価レポートの提出が義務付けられています。これは、実際の取引価格と登記上の申告価格の乖離を防ぎ、脱税やマネーロンダリングを防止するための措置です。

居住許可および市民権取得のための投資額引き上げ

不動産投資を通じた在留資格の取得についても、基準額が大幅に引き上げられています。

目的旧基準2024-2025年以降の新基準
短期居住許可(不動産所有に基づく)7.5万米ドル(大都市)20万米ドル相当以上の市場価値が必要(2023年10月以降の実務運用)。
トルコ市民権(投資による国籍取得)25万米ドル40万米ドル相当以上の購入が必要。かつ、3年間の転売禁止特約を登記する必要あり。

これらの変更は公式官報(Resmi Gazete)等を通じて告示されており、投資家は常に最新の基準額を確認する必要があります。特に居住許可については、特定の地域(イスタンブールの一部の区など)で新規の許可発行が停止されているケースもあり、物件購入前にエリアごとの規制状況を確認することが不可欠です。

結論

トルコの不動産法は、形式的には外国人に対して開かれた市場ですが、実質的には重層的な許可制度と監視体制によって管理されています。日本企業にとって、トルコでの不動産取得は単なる売買契約の締結ではなく、知事部局や軍当局を含む行政機関との折衝プロセスそのものです。特に第36条に基づく外国資本企業の認定や、軍事禁区の確認、そして頻繁に変更される投資基準額への対応は、専門的な知識と経験を要します。

モノリス法律事務所では、現地の最新の法改正情報を常にアップデートし、複雑な許可申請手続きやデューデリジェンスにおいて、貴社のビジネスを法的な側面から強力にバックアップできる体制を整えています。本件国への進出をご検討の際は、ぜひご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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