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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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インド工業意匠の保護とロカルノ分類:スタートアップ優遇制度の活用

インド工業意匠の保護とロカルノ分類:スタートアップ優遇制度の活用

インド市場において、自社のブランド価値や製品の競争力を維持し、他社の模倣品を排除するためには、知的財産権の戦略的な確保が不可欠です。とりわけ、製品の外観デザインを保護する意匠権の登録は、特許権の取得と比較してコストや時間を抑えつつ、市場からデッドコピーを効果的に排除するための強力な手段となります。

本記事では、インドにおける意匠権の登録実務を深掘りし、2021年改正のインド意匠規則によって導入された最新のロカルノ分類への対応や、スタートアップおよび小規模企業向けの手数料割引制度について詳しく解説します。さらに、デジタル時代におけるGUIの登録に関する最新の判例や、日本の法律との重要な相違点にも触れながら、インドで確固たる意匠権ポートフォリオをいかに構築すべきかを提示します。

インドにおける意匠権保護の重要性と特許権との実務的な違い

インド市場は急速な経済成長を遂げている一方で、安価な模倣品が市場に出回りやすいというリスクを常に抱えています。自社の独自製品を市場に投入した直後に、外観を酷似させた競合他社の製品が現れるケースは後を絶ちません。このような状況下で自社の市場シェアを守るためには、インドの2000年意匠法(The Designs Act, 2000)に基づく意匠権の登録が重要です。同法第2条(d)において、意匠とは、物品に適用される形状、輪郭、模様、装飾、線または色彩の組み合わせであり、工業的プロセスによって適用され、完成品において視覚によってのみ評価される特徴であると定義されています。

特許権が製品の技術的な機能や動作原理を保護するのに対し、意匠権は純粋に製品の美観や外観デザインを保護する法的権利です。特許の取得には、発明の新規性や進歩性を証明するための膨大な技術資料の提出が必要であり、審査から権利化までに数年の歳月と高額な費用を要することが一般的です。しかし、インドにおける意匠登録の手続きは、特許に比べて要件が視覚的な新規性と独自性に限定されるため、審査期間が短く、通常であれば出願から数ヶ月程度で権利化できます。製品のライフサイクルが短い消費財やデジタルデバイスにおいては、特許ほどコストや時間をかけずに模倣品を差し止めるための、迅速かつ実務的な防衛手段として、意匠権をポートフォリオの第一線に組み込むことが推奨されます。

2021年改正によるインド意匠登録実務へのロカルノ分類の導入

2021年改正によるインド意匠登録実務へのロカルノ分類の導入

インドの意匠登録実務において近年最も重要な転換点となったのが、2021年1月25日に施行された2021年意匠(改正)規則(The Designs (Amendment) Rules, 2021)です。この改正により、インドの意匠分類システムは根本的な近代化を遂げました。以前のインドの意匠実務においては、製品の材質に基づく古い独自の分類基準が混在しており、国際的な基準との間に齟齬が生じていました。しかし、2021年改正規則の第10条(1)により、意匠登録における物品の分類は、世界知的所有権機関(WIPO)が発行する「意匠の国際分類(ロカルノ分類)」の最新版に完全に準拠することが法的に義務付けられました。

このロカルノ分類への完全移行は、インドで複数の意匠権を取得しようとする企業にとって、大きなメリットをもたらします。ロカルノ分類は製品の機能や用途に基づいて32のクラスと237のサブクラスに体系化されているため、日本を含む他国で既に出願している意匠と同じ分類基準を用いて、インドでも出願戦略を構築できます。これにより、グローバルな意匠権ポートフォリオの管理が容易になり、分類の不一致による方式審査での拒絶や補正の労力を削減できます。

参考:CGPDTM(インド特許意匠商標総局)|意匠規則リソース(The Designs (Amendment) Rules, 2021 等)

インドにおけるスタートアップおよび小規模企業向けの優遇制度

2021年の意匠規則改正のもう一つの目玉は、スタートアップおよび小規模企業に対する大幅な手数料の割引です。改正規則の第2条(eb)において、「スタートアップ」の法的定義が新設されました。インド国内の事業体だけでなく、インド政府の「Startup India」イニシアチブが定める売上高や設立年数の基準を満たし、その旨の宣言書を提出した外国企業であっても、法的にスタートアップとしての認定を受け、優遇措置を享受できます。

この制度を活用することで、意匠登録にかかる公定費用を削減できます。大企業が意匠出願を行う際の基本手数料と比較して、自然人、スタートアップ、および小規模企業は大幅に減額された費用で出願できます。権利維持のための更新手数料に関しても同様に減額されるため、多数のバリエーションを持つ製品デザインをポートフォリオとして一挙に出願および維持する際の財務的負担が、4分の1に軽減されます。以下の表は2021年改正規則に基づく主要な手数料の比較を示しています。

手続き内容自然人・スタートアップ・小規模企業大企業(その他)
意匠登録出願(第5条および第44条に基づく)1,000ルピー4,000ルピー
意匠権の期間延長(更新)2,000ルピー8,000ルピー
失効した意匠の回復請求1,000ルピー4,000ルピー
意匠登録の取消請求1,500ルピー6,000ルピー

インドの特許制度には専用のフォームを用いた明示的な早期審査の枠組みが存在しますが、意匠法には特許法のような専用の早期審査請求フォームは規定されていません。スタートアップ認定によって受けられるのは、Form 24を用いた申告による意匠登録出願の手数料割引(自然人・スタートアップ・小規模企業は大企業の4分の1)です。なお、意匠登録出願は特許と異なり審査請求が不要で自動的に審査が開始されますが、スタートアップであっても審査の順番や期間は他の出願人と同一です。

参考:DPIIT(インド商工省 産業国内取引促進局)|官報告示 G.S.R. 45(E)(Gazette of India, Extraordinary, Part II, Sec. 3(i), 2021年1月25日)

インドにおけるデジタル時代の意匠権保護とGUIの登録可能性

インドにおけるデジタル時代の意匠権保護とGUIの登録可能性

ITビジネスを展開する企業にとって、ソフトウェアのグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)やアプリアイコンをいかにして模倣から守るかは、長年の課題でした。インドの意匠登録局はこれまで、GUIは画面の電源を入れた時にしか表示されず物理的な永続性がないことや、ソフトウェア自体は工業的プロセスによって製造される物品ではないことを理由に、GUIの意匠登録を拒絶する厳格な運用を行ってきました。

しかし、2026年3月9日にカルカッタ高等裁判所が下した「NEC Corporation 対 Controller of Patents and Designs事件」の判決により、この解釈は完全に覆されました。この画期的な判決において裁判所は、2000年意匠法における「物品」という用語は広義かつ目的に沿って解釈されるべきであり、GUIが表示されるディスプレイやスマートフォンなどのデバイスが物品に該当すると判示しました。さらに、意匠法第2条(d)における「工業的プロセス」という文言は、手作業や機械的および化学的プロセスに限定されるものではなく、ソフトウェアを生成するデジタル処理もこれに含まれると明言しました。

裁判所は、意匠が常に物理的に視認可能である必要はなく、製品が意図された用途で使用されている際に視覚的な特徴が認識できれば、要件を満たすと結論付けました。この判例により、デジタル製品における画面レイアウトやアイコン、および操作画面の色彩構成などのGUIデザインが、インドにおいて意匠権として正式に保護される道が確立されました。自社のソフトウェア製品のインターフェースに競争力の源泉がある企業にとっては、自社のデジタルデザインを特許庁の審査プロセスに乗せ、模倣アプリを排除するための強力な手段を手に入れたことを意味します。

参考:Indian Kanoon|判例 NEC Corporation v. Controller of Patents and Designs(2026-03-09判決, doc/111943221)

日本の法律との違いとインドでの意匠権登録における留意点

インドで意匠権を取得しビジネスを展開するにあたっては、日本の意匠法との重要な違いを正確に理解しておく必要があります。日本の法律とほぼ同じである新規性や創作非容易性の要件については割愛し、実務上致命的な影響を与え得る重要な相違点に焦点を当てます。

第一に、インドは意匠の国際登録に関するハーグ協定の加盟国ではありません。日本の企業がインドで意匠権を取得する場合、WIPOを通じた国際出願ルートを利用してインドを指定することは不可能です。したがって、必ずパリ条約に基づく優先権を主張して、最初の出願から6ヶ月以内にインド特許意匠商標総局に対して直接国内出願を行う必要があります。

第二に、インドの意匠法には、日本の意匠法に規定されている「秘密意匠制度」が存在しません。日本では登録後最大3年間は意匠の内容を公報に掲載せず秘密にしておくことができ、新製品の発表と同時に権利を行使する戦略が取れます。しかしインドでは、意匠が登録されると速やかに公式の意匠公報で公開され、第三者が閲覧可能となります。したがって、未発表の製品デザインをインドで出願する場合には、公開のタイミングが自社の製品発表やマーケティング戦略に与える影響を十分に計算した上で、出願時期を調整しなければなりません。

第三に、意匠権の存続期間が異なります。日本の意匠権は出願日から25年間存続しますが、インドの意匠権は登録日(優先権主張を伴う場合は優先日)から当初10年間であり、その後1回のみ5年間の更新が認められ、最大でも15年間で権利が消滅します。長期的なブランドアイコンとなるような製品形状については、意匠権の期限切れ後も見据えて立体商標による保護への移行を検討するなど、多角的な知財戦略が求められます。

第四に、意匠権侵害に対する救済手段において、インドでは刑事罰の規定がありません。日本の意匠法では権利侵害に対して懲役や罰金などの刑事罰が規定されていますが、インドの2000年意匠法においては、意匠権侵害は純粋な民事紛争として扱われます。そのため侵害者の排除は、各州の高等裁判所または地方裁判所における民事訴訟を通じた差止請求、および損害賠償請求に完全に依存することになります。

第五に、他社の模倣品を排除して損害賠償を請求するためには、2000年意匠法第15条(1)(b)に基づく「製品への表示義務」を厳密に遵守する必要があります。インド法では、登録意匠が適用された製品を市場で販売する前に、その製品が意匠登録されている旨を示す規定のマークまたは登録番号を、製品自体またはそのパッケージに明記することが法律で義務付けられています。この表示義務を怠った場合、意匠権者は、自ら表示を確保するための相当な措置を講じたことを立証するか、または侵害者がその意匠が登録されている事実を知っていた(もしくは通知を受けていた)ことを立証できない限り、意匠権侵害に関する一切の損害賠償を請求する権利を失います。

実際にボンベイ高等裁判所で争われた「Herbertsons Ltd. 対 Crag Martin Distillery Private Limited事件」においては、ボトルの意匠権を有していた原告が、製品への登録番号の表示を開始するのが遅れた結果、裁判所は法律が要求する表示義務への違反を理由に、原告の損害賠償請求権を否定しました。この判例が示す通り、インド市場に向けて製品を出荷する際には、現地での製造であれ日本からの輸出であれ、製品パッケージや金型に意匠登録番号を刻印する社内プロセスを確実に取り入れることが不可欠です。

参考:Bombay HC(ボンベイ高等裁判所 ゴア支部)|判例 Herbertsons Ltd v. Crag Martin Distillery (P) Ltd(Civil Suit No. 2 of 2003, 2016-10-14, Bhadang J)

まとめ

本記事で解説したように、インドにおける意匠権は特許権の取得に比べて時間的かつ財務的なハードルが低く、他社の模倣品を迅速に市場から排除するための有効な手段です。2021年の意匠規則改正によるロカルノ分類の導入によって国際的な出願戦略の連携が容易になったほか、スタートアップおよび小規模企業向けの手数料割引制度を活用することで、限られた予算内でも強固な意匠権ポートフォリオを構築できます。

さらに、2026年のカルカッタ高等裁判所による画期的な判決により、ソフトウェアやアプリのGUIデザインも法的な保護対象として明確に認められたことで、デジタル領域でのビジネスを展開する企業にとっても、インドの意匠制度の重要性は高まっています。ただし、ハーグ協定の非加盟や秘密意匠制度の不在、そして損害賠償請求の前提となる製品への厳格な表示義務など、日本の法制度とは異なるインド特有の規定にも十分に留意する必要があります。

モノリス法律事務所は、ITおよびデジタルビジネスに関連する法務に特化した専門性を有しており、インドの現地法律事務所と強固な提携関係を築いています。最新のGUI意匠登録の動向を踏まえたIT製品のデザイン保護戦略の立案から、2021年改正に基づくスタートアップ優遇制度を活用したコスト効率の高い出願実務、さらには現地での模倣品に対する迅速な差止請求や民事訴訟の遂行に至るまで、インド市場でのビジネス展開を法務面からシームレスかつ強力にサポートすることができます。

モノリス法律事務所は、インド法務に関する調査および情報提供を目的として、現地法律事務所Quest IP Attorneysと非独占的な提携関係(Associate Firm / Correspondent Firm)にあります。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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