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チュニジアの不動産法を弁護士が解説

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チュニジアの不動産法を弁護士が解説

チュニジア共和国(以下、チュニジア)への事業展開や投資を検討する日本企業の経営者や法務担当者の皆様にとって、現地の法制度を正確に把握することは不可欠なステップとなります。とりわけ不動産法制は、事業拠点の確保や工場および店舗の設立、あるいは駐在員のための住宅手配といった投資計画の成否に直結する極めて重要な領域です。チュニジアは北アフリカに位置し、地中海を挟んでヨーロッパと隣接する地理的優位性を持つことから、製造業や観光業を中心に多くの外資系企業が注目する有望な市場です。しかしながら現地の法制度には、国家の歴史や経済政策を反映した固有の厳格なルールが存在しており、事前の周到な法的調査が欠かせません。

チュニジアの民商事法や不動産法制は、かつてフランスの保護領であったという歴史的背景から、フランス法に由来する大陸法を基盤として発展してきました。この点は、明治期以降に同じく大陸法系の影響を強く受けて近代法を整備した日本の民法や不動産登記法と共通する概念も多く、契約の成立要件や所有権の絶対性といった基本原則においては、日本人の法務担当者にも比較的理解しやすい構造を持っています。

しかしながら、外国人や外国法人による不動産取得という局面に焦点を当てると、日本法とは全く異なる極めて厳格な規制が敷かれている点に最大の注意を払う必要があります。日本では原則として、外国人であっても日本人と同様に不動産を自由に取得し所有することが可能ですが、チュニジアでは、国家の経済的自立や安全保障の観点から、外国資本による土地所有に強い制限が設けられています。

本記事全体の要点として、チュニジアにおける外国人の不動産取得においては、食料安全保障の観点から農業用地の取得が法律で絶対的に禁止されているという点と、市街地等における住宅や商業用不動産の取得には、原則として対象地域を管轄する知事の事前許可が不可欠であるという点が挙げられます。知事の事前許可の取得には数ヶ月から年単位の長期間を要することが一般的であるため、不動産売買の前提となる売買予約契約の段階で、許可が下りなかった場合の確実な返金条項などを設けることが実務上必須となります。

さらに、商業や産業、および観光投資などの事業目的の場合には、一定の条件下で知事の認可が免除される特例が存在することや、将来的な物件の売却資金を国外へ滞りなく送金するためには、チュニジア中央銀行の規定に基づく適法な外貨導入手続きが不可欠であることなど、多角的なコンプライアンス対応が求められます。これらの法的要件を正確に理解し、適切な手続きを踏むことが、チュニジアにおける安全で円滑なビジネス展開を実現するための鍵となります。

本記事では、チュニジアにおける不動産法の基本構造から外国人による不動産取得の具体的な手続き、および実務上留意すべき重要判例に至るまで、日本の法律との違いを明確に対比させながら詳細に解説いたします。

チュニジアの不動産法制の基礎と日本法との比較

チュニジアの不動産に関する法律関係は、主に1965年2月12日に制定された法律第65-5号である物権法(Code des Droits Réels)によって厳格に規律されています。この法律はフランス民法典の影響を色濃く受けており、所有権や用益権、あるいは地役権や抵当権といった物権の基本概念を定めています。日本の民法における物権編とも類似した構造を持っており、所有権が絶対的かつ排他的な権利であるという基本的な考え方は、日本法と共通しています。この物権法に関する公式な法令の記述は、以下のウェブサイト等で確認することができます。

参考:チュニジア共和国物権法の公式ウェブサイト

しかしながら不動産登記制度の実務においては、日本との間に重大な法理上の違いが存在します。日本では法務局が不動産登記を管轄していますが、日本の不動産登記にはいわゆる公信力が認められていません。つまり、登記簿上の名義人を真の所有者と信じて取引を行ったとしても、その名義人が無権利者であった場合には、買主は所有権を取得できないというリスクが法理上存在します。

これに対しチュニジアでは、不動産所有権局(Conservation de la Propriété Foncière)が登記を厳格に管理しており、不動産裁判所(Tribunal Immobilier)の厳密な手続きを経て発行されるブルータイトル(Titre Bleu)と呼ばれる権利証が絶対的な証明力を持ちます。このブルータイトルに記載された権利関係は国家によって強力に保護され、公信力に相当する強い法的効力を持つため、取引の安全性は制度上極めて高く保たれています。

以下の表は、日本とチュニジアにおける不動産法制の主要な違いを整理したものです。

比較項目日本の不動産法制チュニジアの不動産法制
法体系の基礎大陸法(ドイツ法およびフランス法の影響)大陸法(フランス保護領時代の影響)
登記の公信力なし(登記に絶対的な証明力はない)あり(ブルータイトルによる絶対的な法的保護)
外国人の不動産取得原則自由(外為法に基づく事後報告が中心)厳格な規制あり(知事の事前許可が原則必須)
農地の外国人取得農地法の要件を満たせば国籍を問わず可能法律により外国人の取得は絶対的に禁止
売却資金の国外送金原則自由中央銀行への事前申告と外貨導入証明が必須

このようにチュニジアで不動産取引を行う際には、対象物件が正式にブルータイトルを取得している不動産であるかどうかの確認が最優先事項となります。未登記の不動産や旧来の慣習的な権利証しか存在しない不動産を取引対象とすることは、法務上の重大なリスクを伴うため避けるべきです。

チュニジアにおける外国人による不動産取得の原則と厳格な規制

チュニジアにおける外国人による不動産取得の原則と厳格な規制

日本企業がチュニジアで不動産を取得しようとする際、最も注意すべきなのが外国人に対する取得制限の存在です。日本の外国為替及び外国貿易法(外為法)では、外国人が日本の不動産を取得した場合、一部の例外を除き事後報告で済むことが大半であり、事実上内外無差別の原則が貫かれています。

これに対しチュニジアでは、農業用地の所有に関する1964年5月12日制定の法律第64-5号により、外国人および外国法人による農業用地の所有が絶対的に禁止されています。食料安全保障と国家主権の保護を目的としたこの法律により、外国人は農業用地をいかなる目的であっても購入することはできず、長期賃貸借による利用のみが認められています。

さらに、農業用地以外の市街地や住宅用地、あるいは商業用地であっても、外国人が不動産を取得するためには、1957年6月4日の政令および1961年8月8日の政令に関する法律第61-13号に基づき、物件の所在する地域を管轄する知事(Governor)の事前許可を取得することが義務付けられています。この事前許可を得ずに締結された最終的な売買契約は、法的に無効とされます。この厳格な規制は、不動産市場への投機的資金の流入を防ぎ、自国民の居住環境を保護するという国家の強い意志を反映したものです。

チュニジア不動産取得の実務上プロセスと中央銀行の役割

チュニジアにおいて、外国人が知事の許可を要する一般的な不動産を取得する場合の実務プロセスは、日本の不動産取引実務とは大きく異なります。

日本では手付金を支払い売買契約を締結した後に、住宅ローンの本審査などを経て決済と所有権移転登記を同時に行うのが一般的です。チュニジアにおいても売買予約契約(Promesse de vente)を先行して締結する点は似ていますが、この予約契約には、知事の認可取得を停止条件とする条項を必ず盛り込む必要があります。知事の認可には数ヶ月から1年以上の期間を要することも珍しくなく、万が一認可が拒否された場合には、支払った前渡金が確実に返金される旨の条項(フォールバック条項)を明記しておかなければ、資金回収が不可能になるリスクがあります。

知事への許可申請にあたっては、売買予約契約書のコピーに加えて、対象物件のブルータイトルや建築計画書、地形図、さらには売主の納税証明書や買主の無犯罪証明書など、膨大な公式書類を準備し提出する必要があります。書類に不備があれば審査は容易に停止するため、現地の法制に精通した専門家による正確なファイル作成が不可欠です。

そしてもう一つ極めて重要な要件が、チュニジア中央銀行(Banque Centrale de Tunisie)の規定に基づく外国為替管理手続きです。外国人がチュニジアで不動産を購入する際、その購入資金は合法的に国外から導入された外貨でなければなりません。具体的には、現地の銀行に非居住者用の口座(または特定の居住者口座)を開設し、国外から外貨を送金した上で、資金到着後48時間以内に銀行から投資申告書(fiche d’investissement)を発行してもらう必要があります。この手続きを怠り現金で支払ったり、国内で得た出所不明な資金を用いたりした場合、将来その不動産を売却した際に、売却代金を日本へ送金することが不可能になります。

チュニジアにおける投資促進のための特例措置と近隣国への免除

チュニジアにおける投資促進のための特例措置と近隣国への免除

チュニジアは厳格な不動産規制を維持する一方で、経済成長を牽引する外資誘致を促進するための例外規定も設けています。2005年5月11日の法律第40号により、産業用または観光用として指定された地域において、投資ガイドラインに基づく特定の経済プロジェクトを実施する場合には、外国投資家であっても知事の事前許可なく不動産を取得することが可能となりました。日本企業が現地で製造工場や観光施設を建設する場合には、この投資優遇枠組みを適切に活用することで、事業展開のスピードを大幅に引き上げることが可能となります。

またチュニジアは、近隣諸国との二国間協定に基づき、特定の国籍を持つ外国人に対して知事の事前許可を免除する制度も運用しています。例えば、1961年6月14日の二国間協定に基づくリビア国民への免除措置や、アルジェリア国民に対する一定金額以上の不動産取引における特例措置などがこれに該当します。日本企業が直接これらの免除を受けることはできませんが、現地における合弁パートナーの選定やジョイントベンチャーの構築において、現地の国籍や免除対象国籍を持つ企業と提携することで、不動産取得のハードルを下げるという戦略的な判断が可能となります。

チュニジアにおける不動産法に関する重要判例

チュニジアの不動産法制においては、制定法の厳格な規定に対して現地の破棄院(Cour de Cassation)がどのような判断を下しているかを知ることが、実務上のリスク評価に役立ちます。

第一に、知事の事前許可要件の適用範囲に関する判例です。破棄院2004年12月16日判決(判決番号3823)においては、外国人を含む不動産取引において知事の事前許可が欠如している場合、その法的効力について厳格な判断が下されています。チュニジアの裁判所は、知事の事前許可を単なる行政手続きの遅滞ではなく、契約の有効性を根底から左右する絶対的な要件として扱っています。この判決から、外国人が関与する取引において事前許可を回避しようとするいかなる脱法的な試みも、司法によって厳しく無効化されるということが言えるでしょう。

第二に、外国人駐在員や現地にルーツを持つ日本人が関与する可能性のある相続に関する判例です。イスラム法(シャリーア)の影響を受けるチュニジアの身分法制においては、歴史的に非教徒がイスラム教徒から財産を相続することが強く制限されてきました。しかし、破棄院第8小法廷の2011年判決において、非教徒であってもイスラム教徒の財産を適法に相続する権利があることが最終的に法的に確立されました。これにより、現地のパートナーを持つ外国人が不動産を相続する際の重大な法的障害が取り除かれています

国際的な人権意識の高まりとともに、現地の司法機関が国籍や宗教による財産権の不平等を是正する方向へ法解釈を進めている実態が確認できます。この相続に関する重要判例の詳細は、以下の国際的な法務実務記事において確認することができます。

参考:フランス人居住者等に向けたチュニジア共和国の相続法務に関する解説記事

まとめ

チュニジアは、地中海を挟んだヨーロッパ市場へのアクセスや豊富な労働力を背景に、日本企業にとって非常に魅力的なビジネス環境を提供していますが、その不動産法制は外国人に対して極めて厳格な側面を持っています。農業用地の取得が完全に禁止されていることに加え、都市部での事業所や駐在員用住宅の取得には、対象地域を管轄する知事の事前許可という高いハードルが存在します。また、将来の確実な資金回収を見据えた中央銀行の適法な外貨導入手続きの遵守や、ブルータイトルに基づく絶対的な権利関係の調査など、日本の不動産取引には存在しない多層的なリスク管理が要求されます。例外規定による投資枠組みの戦略的な活用や、売買予約契約における精緻な返金条項の設計が、現地でのビジネスプロジェクト成功の鍵となります。

モノリス法律事務所では、国際的な事業展開に伴う複雑な現地の法規制調査をはじめ、各国の法令に基づいた適法かつ安全な契約書面の作成や、現地機関との折衝における法務アドバイスなど、日本企業の皆様が直面する多様な法的課題に対して包括的にサポートいたします。チュニジアのような独自の法体系と厳格な外資規制を持つ国への進出においても、法的リスクを最小限に抑え、皆様のビジネスが円滑に推進できるよう力強くサポートいたします。現地の不動産取引や投資規制への対応にご不安がある場合は、ぜひ当事務所までご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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