インド恒久的施設(PE)認定リスクの高度な防衛:契約形態と出張管理の実務

インドは巨大な人口と急成長する市場を背景に世界中の企業から注目を集めており、数多くの日本企業が新たなビジネスチャンスを求めて事業展開を推進しています。しかしこの魅力的な市場に進出する日本企業が直面する最も深刻な課題の一つが、インド特有の複雑な税制とそれに伴う予期せぬ課税リスクです。
中でも日本本社からインドへの出張者による技術指導や営業活動がインド税務当局によって「恒久的施設(PE)」として認定されるリスクは事業計画に大きな影響を及ぼします。ひとたびインド国内にPEが存在すると認定されれば、インド子会社の所得だけでなく、日本本社の事業所得のうち当該PEに帰属する部分がインドでの課税対象として引き込まれ、追徴課税やペナルティ、さらには二重課税による深刻な財務的ダメージを受けることになります。
本記事では、インドでビジネスを展開する日本企業の皆様に向けてインドにおけるPEリスクの核心と日印租税条約に基づく代理人PEの回避条件を解説します。あわせて、インド税制特有の移転価格税制やインド法人への費用請求の適正な処理方法について、インド最高裁判所の重要判例や法令情報を交えながら整理します。
この記事の目次
インド税制における恒久的施設(PE)リスクの根底と基本構造
インド所得税法と日印租税条約の枠組み
インドにおける外国法人の課税関係を理解する上で最も重要な出発点となるのが、2025年インド所得税法(2025年法律第30号)第9条です。同法は2026年4月1日に施行され、1961年インド所得税法は同法第536条により廃止されました(2026年4月1日前に開始する課税年度については、なお1961年法が適用されます)。第9条はインド国内で発生したとみなされる所得を定義しており、非居住者や外国法人のインドにおける課税根拠となっています。2025年インド所得税法(2025年法律第30号)第9条第1項および第2項では、インド国内の資産もしくは所得源、インド国内の財産、インド国内の事業上の繋がり、またはインド所在の資本資産の譲渡を通じて直接的または間接的に生じる所得は、インドで発生したものとみなされると規定されています。
ここで注目すべきは、インドの国内法である所得税法に基づく事業上の繋がりという概念です。これは日印租税条約における恒久的施設の概念よりもはるかに広範な網を掛けています。インド国内法上は、物理的な拠点が存在しなくても、インド国内で一定の事業活動の一部が行われているだけで事業上の繋がりがあると認定され得ます。近年では、デジタル経済への対応として一定のユーザー数や取引額を超えるデジタル取引を行う非居住者に対しても、重要な経済的プレゼンスを認定しこれをもって事業上の繋がりとみなす規定が導入されました。
しかしながら、日本企業にとっては日印租税条約が適用されるため、原則としてインド国内法よりも条約が優先されます。日印租税条約第5条では、恒久的施設を企業がその事業の全部又は一部を行っている一定の場所と定義しており、管理拠点や支店などがこれに該当します。したがって日本企業は、インド国内法上の広範な事業上の繋がりがあったとしても、日印租税条約に基づくPEが存在しない限り原則としてその事業所得に対してインドで課税されることはありません。それにもかかわらず、インド税務当局はしばしば国内法の広範な概念を背景に、日本企業に対してPE認定を主張してくる傾向があるため、条約上のPE要件を厳密に理解し防衛策を講じることが不可欠です。
日本の税制との違いとインドにおける執行実務
日本の法人税法も、長らく経済協力開発機構のモデル条約の原則に準拠しており、近年では帰属主義に基づくPE課税を導入しています。日本の税制下では、PEに帰せられるべき所得は、そのPEが果たす機能や負担するリスクに基づいて、独立の企業として活動したと仮定した場合に得られるであろう所得として算定されます。この基本的な枠組みはインドでも同様ですが、実務における法解釈と執行は日本と大きく異なります。以下の表は、日本とインドにおけるPE課税の実務的なアプローチの違いを整理したものです。
| 比較項目 | 日本の税務実務の傾向 | インドの税務実務の傾向 |
| PE認定のハードル | 国際的ガイドラインに沿った比較的慎重な解釈が行われる | 些細な物理的接触や出張者の活動から積極的にPE認定を試みる |
| 準備的・補助的活動 | 厳密に事業の核心機能でなければ例外規定として非課税となる | 本社の事業に少しでも貢献していれば核心的機能の一部とみなす傾向がある |
| 立証責任の運用 | 税務当局が客観的証拠に基づいて事実認定を行う傾向が強い | 納税者側がPEを構成していないことの厳格な反証を求められることが多い |
| 利益帰属の算定 | PEの機能とリスクに見合った合理的な利益のみを帰属させる | 本社のグローバル利益の相当部分をインドのPEに帰属させようとする |
日本の税務当局が、比較的予測可能なガイドラインに沿ってPEの有無を判定するのに対し、インド税務当局は外資系企業からの税収確保に向けて攻撃的なアプローチをとります。例えば、日本の親会社からインド子会社へ派遣された品質管理の技術者や市場調査のために頻繁にインドを訪れる営業担当者の活動をベースに、インド子会社の施設を日本本社の固定施設PEとして認定したり、後述する代理人PEとして認定したりする事例が後を絶ちません。
日本であれば準備的・補助的な活動として非課税とされる範疇の活動であっても、インドでは事業の核心的機能の一部を構成していると主張され、本社のグローバル利益の一部をインドに帰属させるよう求められるリスクが常につきまといます。
インドにおける出張者の技術指導や営業活動と代理人PEの回避条件

代理人PEが認定される要件と多国間条約による厳格化
日本企業がインド事業において苦慮するのが、出張者による営業活動や交渉が引き金となる代理人PEの認定です。日印租税条約第5条の規定によれば、非独立代理人がインド国内において日本企業のために行動し、日本企業を拘束する契約を締結する権限を反復継続して行使した場合、代理人PEが存在するとみなされます。また、契約締結権限を持たなくても、日本企業に代わって反復継続して在庫を保有し引き渡しを行う場合や、ほぼ専らその日本企業のために反復継続して注文を取得する場合も代理人PEを構成します。
さらに、日本とインドは共に税源浸食と利益移転を防止するための多国間条約(BEPS防止措置実施条約)の当事国であり(インドは2019年6月25日に批准書を、日本は2018年9月26日に受諾書を寄託)、両国間の租税条約はこの多国間条約によって修飾されています。多国間条約第12条の適用により、代理人PEの要件はさらに拡大されました。具体的には、名目上の契約締結権限を持っていなくても反復継続して契約締結に至る主要な役割を果たし、当該契約が企業によって重要な変更を加えられることなく日常的に締結される場合にも、代理人PEが認定されるようになりました。
参考:財務省(日本国財務省)|我が国の租税条約等の一覧(インド:原条約および改正議定書の正文・統合テキスト・BEPS防止措置実施条約の適用関係)
参考:OECD(経済協力開発機構=BEPS防止措置実施条約の寄託者)|インドの批准書寄託時の留保及び通告一覧(第12条(5)・(6)として日印条約第5条(7)(a)・第5条(8)を通告)
これにより、日本の営業担当者がインドに出張し顧客との間で実質的な価格交渉や契約条件の合意形成をすべて行い、日本本社は単に送られてきた契約書に形式的なサインをするだけといった実務運用を行っている場合、多国間条約適用後の新基準のもとでは高い確率で代理人PEとして認定されます。出張者が最終的な決裁権限を持っていないという反論だけでは、もはやインド税務当局を退けることはできません。
準備的・補助的活動と契約締結権限の境界線
代理人PEリスクを回避するためには、出張者の活動を日印租税条約第5条第6項に規定される準備的又は補助的な性質の活動の範囲内に厳格に留める必要があります。この例外規定には、商品の保管や展示のための施設の利用や情報の収集を目的とした活動などが含まれます。インド中央直接税委員会は、IT活用型のBPO拠点の課税に関する通達第5/2004号において、インドの拠点が非居住者の恒久的施設を構成する場合には、当該恒久的施設に帰属する利得を独立企業間原則に基づいて算定すべきものとしています。中核的業務か非中核的業務かで課税の有無を切り分けていた旧通達第1/2004号は、この第5/2004号第8項により即時撤回されているため、非中核的業務の委託であることのみを理由に本社への追加的な課税所得が生じないと判断することはできません。
参考:インド中央直接税委員会 通達第5/2004号(2004年9月28日)
実務上、日本の技術者がインドの顧客に対して製品の使用方法のデモンストレーションを行ったり市場動向を調査したりする活動単体であれば、準備的・補助的な活動としてPEを構成しないと解釈されます。しかし、これらの活動が顧客からの具体的な注文の獲得に直結していたり、技術的な仕様の合意が事実上の契約合意と同義であったりする場合、税務当局は一連の活動を分割不可能な事業の核心的活動とみなし、PEを認定します。したがって、技術指導や市場調査を目的とした出張と実際の販売や契約交渉のプロセスを、物理的にも組織的にも明確に分離する社内体制の構築が不可欠となります。
インド最高裁判所等の重要判例から読み解くPE認定の実務的教訓
インドにおけるPEリスクや移転価格税制を理解するためには、インド最高裁判所および高等裁判所が下した判例を確認することが不可欠です。以下の表は、日本企業のインド事業に影響を与える重要な判例を要約したものです。
| 事件名 | 判決年月日と裁判所 | 主要な争点と判決の核心 |
| Morgan Stanley事件 | 2007年7月9日(インド最高裁判所) | 米印租税条約の事案。バックオフィス業務は固定施設PEを構成しないが、出向者が現地法人の業務に従事する場合は同条約のサービスPE条項によりサービスPEを構成し得ると判示(同条項は日印租税条約には置かれていない) |
| E-Funds IT Solution事件 | 2017年10月24日(インド最高裁判所) | 固定施設PEが成立するには当該場所が米国法人の自由な処分下(at the disposal)になければならず、子会社への業務委託やソフトウェアの無償提供は固定施設PEの判定基準として関連性がないとしたデリー高等裁判所の判断を是認して、税務当局の上告を棄却 |
| Formula One事件 | 2017年4月24日(インド最高裁判所) | 短期間のイベントであっても施設への完全なアクセス権と支配権を有して事業を行えば固定施設PEを構成すると判示 |
| Centrica India Offshore事件 | 2014年4月25日(デリー高等裁判所) | 英国法人およびカナダ法人からの出向者に対する給与の実費精算は技術的役務に対する料金に該当し、かつ出向者を通じたサービスPEを構成するとして源泉徴収義務を認めた |
| Northern Operating Systems事件 | 2022年5月19日(インド最高裁判所) | グループ会社間の出向と給与の精算は人材供給サービスに該当し、サービス税(1994年財政法)の課税対象となると判示(ただし延長除斥期間の適用は否定され、通常の除斥期間内の課税のみが是認された) |
バックオフィス業務と出向に関する判断基準
2007年7月9日にインド最高裁判所が下したモルガン・スタンレー事件の判決は、外資系企業がインドに設けたバックオフィス機能やサポート業務がPEを構成するか否かについて重要な判断基準を示しました。事案の概要として、米国の法人がインドに子会社を設立しデータ処理やバックオフィスサポート業務を委託していました。米国本社からインド子会社に対して業務の品質管理のための人員と、実務を担当する出向者が派遣されていました。最高裁判所は、バックオフィス業務そのものは準備的又は補助的な活動の例外規定に該当し固定施設PEを構成しないと判示しました。
また、親会社が自らの投資の保護や品質基準の確保を目的として行う活動についても、親会社自身の利益のための活動であるためサービスPEを構成しないと判断しました。しかし一方で、出向については異なる判断が下されました。出向者について最高裁判所は、出向者が海外法人との雇用関係を保持し海外法人がその雇用条件に対する支配を保持している限り、当該出向者を通じて海外法人がインドでサービスを提供しているとみなされ、米印租税条約のサービスPE条項に基づくサービスPEが成立し得ると判示しました。もっとも日印租税条約にはこれに対応するサービスPE条項が置かれていないため、日本企業の場合は、サービスPEではなく固定施設PE・代理人PEの成否や、日印租税条約第12条の技術的役務に対する料金としての課税が問題となります。
さらに、この固定施設PEの判断枠組みをバックオフィス業務の委託という場面に適用したのが、2017年10月24日のインド最高裁判所によるイー・ファンド事件の判決です。米国企業であるイー・ファンドは、インド子会社に対してデータ処理等の業務を委託し、無償で独自のソフトウェアやデータベースを提供していました。最高裁判所は、税務当局の主張を退け、固定施設PEが成立するためにはインド国内に固定的な事業の場所が存在し、それが米国法人の自由な処分下(at the disposal)にあって、そこを通じて米国法人自身の事業が行われている必要があるという原則を再確認しました。そのうえで、課税処分および不服申立ての各決定には、上記の基準を適用したうえで米国法人の自由な処分下に固定的な事業の場所が置かれていたとする具体的な認定が存在しないと指摘しました。そして、ソフトウェアが無償で提供されたか否かは固定施設PEの判定基準として関連性がないとする理由を含め、本件の事実関係の下で固定施設PEは成立しないとしたデリー高等裁判所の判断を是認しました。
固定拠点における支配権とアクセス権の解釈
一方で、場所の占有や支配権が存在する場合には短期間であってもPEが認定されることを示したのが2017年4月24日のインド最高裁判所によるフォーミュラ・ワン事件です。F1世界選手権の商業的権利を保有する英国法人がインドの企業との間でレース開催契約を結び、インドのサーキットでF1グランプリが開催されました。レース自体の開催期間は短期間でしたが、税務当局は英国法人がサーキットという固定施設PEを有していると主張しました。
最高裁判所は、英国法人がレース開催期間中およびその前後の期間においてサーキットに対する完全なアクセス権と事実上の支配権を有しており、自らの事業であるレース興行をその場所を通じて行っていたと認定しました。この判例は、他者の施設であっても自社の事業目的のために排他的に利用し支配権を及ぼしている場合には、その空間がPEとみなされるリスクがあることを示しています。
インド法人への費用請求(Recharge)と移転価格税制の適正な処理

給与の費用請求に潜む技術的役務に対する料金と間接税リスク
日本企業がインド子会社に駐在員を出向させる際、給与の一部または全部を日本で支払いその費用をインド子会社に請求する実務が広く行われています。しかし、このリチャージ行為は、インドにおいて高い税務リスクを孕んでいます。2014年4月25日にデリー高等裁判所が下したセントリカ事件において、この問題が真正面から争われました。英国法人およびカナダ法人である海外関連会社は、インド子会社に出向者を派遣しその給与コストを利益上乗せなしの実費でインド子会社に請求していました。会社側は、インド子会社が経済的雇用主であり本国での給与支払いは単なる立て替えに過ぎず、インドでの課税所得にはならないと主張しました。
しかし裁判所は、海外法人が真の雇用主であると認定したうえで、出向者の給与リチャージは海外関連会社(英国法人およびカナダ法人)がインド法人に提供した技術的役務に対する料金に該当し、かつ出向者を通じたサービスPEを構成すると認定して、源泉徴収の対象となると判示しました。
さらに近年では、所得税だけでなく間接税の観点からも出向者のリチャージが問題視されています。2022年5月19日にインド最高裁判所が下したノーザン・オペレーティング・システムズ事件では、海外のグループ会社からインド法人への従業員の出向について、出向契約の実態が詳細に分析されました。その結果、最高裁判所は、海外の雇用主が出向期間終了後も従業員を自社に戻すことを前提としており、これは単なる雇用の移転ではなく海外法人がインド法人に対して人材供給サービスを提供しているものと認定しました。
この判決により、日本からインドへの出向に伴う給与のリチャージについては、所得税におけるPEリスクだけでなく、間接税上も人材供給サービスとして課税され得るという論点が生じました。もっとも本判決が判断したのは1994年財政法に基づくサービス税(物品サービス税の導入前の税目)であり、物品サービス税の下での取扱いを直接判示したものではないため、現在の取引については個別に検討する必要があります。もし人材供給サービスとみなされた場合、移転価格税制の観点からも単なる実費精算ではなく独立企業間価格に基づき適切な利益のマークアップを加算すべきであるという論点も浮上します。
移転価格税制におけるセーフハーバールールの活用
インドの移転価格税制については、2025年インド所得税法第165条において国際取引の独立企業間価格は、独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法、利益分割法、取引単位営業利益法その他所定の方法のうち、最も適切な方法によって算定されなければならないと定められています(2026年3月31日以前に開始する課税年度については、1961年インド所得税法第92C条)。税務当局は、これらの方法により算定した独立企業間価格と実際の取引価格との差が法定の許容幅(中央政府が告示する率で、実際の取引価格の3%を超えない範囲)を超える場合に、同法第165条の定める手続に従って調整を行います。
インド当局との移転価格に関する長期にわたる紛争を回避するための制度として、2025年インド所得税法第167条に基づくセーフハーバールールが設けられています(2026年3月31日以前に開始する課税年度については、1961年インド所得税法第92CB条)。これはソフトウェア開発サービスや情報技術活用サービスなど規則で定められた適格な国際取引について、納税者が規則の定める水準以上の利益率を申告し、かつ所定の選択手続の要件を満たした場合に限り、税務当局がその移転価格を受け入れるという制度です(2026年インド所得税規則第88規則・第89規則)。日本企業がインド子会社に対して技術支援やバックオフィス業務を委託する場合、このセーフハーバールールを適用することで、移転価格税制に基づく更正処分や移転価格調査のリスクを軽減できます。
また、事前に税務当局との間で独立企業間価格の算定方法について合意する事前確認制度を活用することも、法的な確実性を担保するための有効な手段となります。
インド税務当局との摩擦を避け効率的な支援を行うための仕組み
業務委託契約と出向契約の法的および実務的な切り離し
これらのPEリスク、移転価格税制および間接税に関するリスクに総合的に対処するためには、日本本社とインド子会社間の契約ストラクチャーを根本から見直す必要があります。最も重要なのは、業務委託契約と出向契約を法的に明確に分離し、それぞれの契約の実態が文言と完全に一致するように運用することです。出向契約においてはインド法人が経済的雇用主であることを明確にするため、インド法人が出向者に対する業務の指揮命令権を掌握し出向者の業務から生じるリスクや責任をすべてインド法人が負担する旨を明記する必要があります。
また、日本本社が出向者の人事評価に対する最終決定権を保持しないことや、出向期間中の解雇権限をインド法人が有することなどを契約に盛り込むことが推奨されます。同時に、ノーザン・オペレーティング・システムズ事件の教訓を踏まえ、給与の費用請求を行う際には単なる実費の送金ではなく立て替え払いに関する明確な合意書を作成し、日本本社がいかなる利益も得ていないことおよび人材供給事業を営んでいるわけではないことを、書面上および実務上で立証できるように整備しなければなりません。
厳格な出張管理規則の策定と証跡の保全
短期出張者による代理人PE認定リスクを防ぐためには、全社的な出張管理規則を策定し徹底したコンプライアンス管理を行う必要があります。具体的には、第一に出張の目的を事前承認制とし市場調査や技術的な情報提供といった準備的・補助的な活動に限定されているかを、法務や税務部門がチェックする体制を構築します。出張申請書には交渉や契約締結行為を行わない旨の宣誓を含めるべきです。
第二に、実際の商談プロセスにおける権限の分掌を明確にします。インドへの出張者が顧客と面談する場合であっても、価格や納期といった契約の核心部分に関する決定は必ず日本の本社における正規の決裁プロセスを経ることを、議事録や電子メールの記録として保存します。多国間条約適用により契約締結に至る主要な役割を果たしただけで、代理人PEと認定されるリスクが高まっているため、出張者が顧客に対して実質的な確定意思を示すことは避けなければなりません。
第三に、モルガン・スタンレー事件やイー・ファンド事件で示されたように、固定施設PEの認定を避けるために出張者がインド子会社のオフィス内に専用のデスクや執務空間を継続的かつ排他的に確保し、そこから自由に事業を行っているような外観を与えないことが重要です。出張者はあくまで訪問者として施設を利用しているに過ぎないことを、社内規定やファシリティ管理の記録として残す必要があります。
まとめ
本記事では、インド進出企業が直面する恒久的施設認定リスクの深層と、日印租税条約の枠組みにおける代理人PEの回避条件、そしてインド法人への費用請求に伴う移転価格税制や間接税の取り扱いについて、判例と法令に基づき詳細に解説しました。インド所得税法による広範な課税権の主張や多国間条約の導入による要件の厳格化、さらには最高裁判所の判例が示す判断枠組みに鑑みると、インドにおける税務コンプライアンスは事業戦略を左右する経営課題です。出張者の活動内容の不用意な拡大や曖昧な出向契約によるコストリチャージは、税務当局による課税処分の標的となり得ます。こうした複雑かつ高リスクなインドの法務および税務環境において安全かつ効率的な事業運営を実現するためには、現地の法令と実務動向に精通した専門家による事前の契約ストラクチャー構築が不可欠です。
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