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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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インドの州別投資奨励策:タミル・ナドゥ州やグジャラート州の独自支援事例

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インドの州別投資奨励策:タミル・ナドゥ州やグジャラート州の独自支援事例

インドは世界有数の経済成長率を維持しており、巨大な内需と輸出拠点としてのポテンシャルを求めて、多くの日本企業がビジネス展開を検討しています。広大な国土を持つインドにおいて特筆すべきは、連邦政府のみならず各州政府が強力な権限を持ち、独自の産業政策を展開している点です。外資系企業を誘致するために各州は激しい競争を繰り広げており、進出企業に対して多種多様な投資優遇策を提示しています。進出先を決定する際には、州政府が提供する電気税の減免や雇用奨励金、そして工場設立の基盤となる土地補助などの具体的なインセンティブ制度を正確に把握し、比較考量することが不可欠です。

本記事では、特定の州における最新の支援事例として、タミル・ナドゥ州造船政策2026(Tamil Nadu Shipbuilding Policy 2026)などを詳述します。さらに、約束された優遇措置を確実に享受するために不可欠な州政府との覚書(MoU)締結プロセスや、法的な交渉およびフォローアップ体制の重要性について解説します。

インドにおける州政府の投資優遇とインセンティブの全体像

インドにおける投資優遇の枠組みは、連邦制という国家構造を反映して、州政府の裁量に大きく左右されます。そのため、進出先の州によって利用できるインセンティブの内容や条件が根本的に異なります。多くの州政府は、地域の雇用創出や特定産業の育成を戦略的目標として掲げており、これに合致する外資系企業に対しては手厚い支援策を用意しています。代表的なインセンティブとして、製造業のランニングコストに直結する電気税の減免や、新たな雇用を生み出した企業に対する長期間の雇用奨励金が挙げられます。

また、事業拠点の確保を支援するための土地補助も重要な要素です。州の産業開発公社を通じて工業団地内の区画が割り当てられ、長期のリース契約に基づく優遇条件での土地取得や、インフラ整備済みのプラグアンドプレイ施設の利用が可能となるケースが一般的です。これらのインセンティブを戦略的に活用することは、インド市場における初期投資コストを削減し、事業の早期安定化を後押しする重要な鍵となります。

近年では、環境配慮型の製造業や先端技術産業に対する優遇措置が各州で拡充されており、投資先の選定にあたっては、各州の最新の政策動向を確認する必要があります。

インドのタミル・ナドゥ州における造船政策によるインセンティブ

インドのタミル・ナドゥ州における造船政策によるインセンティブ

たとえばタミル・ナドゥ州は、州産業政策2021(TNIP 2021)において自動車・自動車部品やソフトウェアを重点セクター(Focus Sectors)と位置づけています。さらに航空宇宙・防衛をサンライズセクター(Sunrise Sectors)とし、地区区分に応じた投資規模の要件を満たしたうえで柔軟資本補助(Flexible Capital Subsidy)を選択したプロジェクトには、追加の資本補助を認めています。これに加えて同州は、長い海岸線と既存の港湾インフラを活かした海事産業の育成に注力しており、海事経済の強化と持続可能な産業化を目的としたタミル・ナドゥ州造船政策2026を打ち出しています。

この政策は、同州を持続可能かつ技術的に先進的な造船分野における世界的リーダーとして、また超大型原油タンカー(VLCC)を含む高付加価値の大型外航船舶の建造拠点として位置づけることを目指しています(同政策が適用対象とする船種には代替燃料を用いる船舶も含まれます)。これは、国際海事機関(IMO)のGHG削減戦略に沿って海事分野の排出を削減するという連邦政府のビジョン(海事アムリット・カール・ビジョン2047)とも軌を一にするものです。

同政策の特徴的な柱の一つが、造船事業者向けの財政インセンティブです。政策の実行を担保するため、タミル・ナドゥ州産業振興公社(SIPCOT)の傘下に独立した法人格を持つ特別目的事業体(SPV)を設立することとされており、造船クラスターの陸側・海側インフラの整備や合弁事業の組成、資金調達の円滑化を担う体制が構築される予定です。人材育成の面でも、同州はインド海事大学(IMU)と連携し、産業界の要請に沿った専門コースを設計・提供する計画も進めています。

インセンティブの種類支援内容の概要と適用条件
グリーン船舶建造補助構造化支援パッケージ(SPA)で資本補助(オプション3)を選択した造船所を対象に、グリーンイニシアチブ/グリーン技術の導入へ10億ルピー以上を投資する場合、投資完了後の一括支給として、プロジェクト総コストの2パーセントまたは1件あたり5億ルピーのいずれか低い額を上限に、50パーセントの補助金を交付します(法令上の義務として設置するグリーン設備への投資は対象外)。
リサイクル施設資本補助5億ルピー以上を投資し100人以上を雇用する最初の5つの船舶リサイクル施設に対し、香港国際条約およびEU船舶リサイクル規則に基づく認証取得を条件に、適格固定資産額の最大15パーセントを15年間の均等分割で資本補助として交付します。
大規模投資への優遇措置100億ルピー以上の投資と1,000人以上の雇用を創出する造船所(政策の対象範囲に列挙された海事構造物の建造・修繕・保守を行うもの)は、構造化支援パッケージ(SPA)の対象となり、州の資本参加や固定資産に対する資本補助など4つの支援メニューのうち1つを選択して利用できます。
コンポーネント製造優遇生産額(インボイス価額)の50パーセント以上を造船所に供給する船舶部品メーカーに対し、5億ルピー以上の投資と100人以上の雇用を条件に、サンライズセクターとしての認定を付したうえで州産業政策2021(TNIP 2021)のインセンティブを適用します。
用地の優先割当と長期リース適格プロジェクトに対して沿岸部・港湾隣接地の用地を優先的に割り当て、最長99年の長期リース契約で提供することにより、初期負担を軽減しつつ長期的な事業計画の立案を可能にします。

SIPCOTの工業団地では、申請時にA・B地区で1エーカーあたり10万ルピー、C地区で5万ルピーの初期預託金(区画代金に充当され、申請が不採択または取下げとなった場合は返還)と、別途1万ルピー+GST(返還不可)の手続手数料が定められており、工業用地の割当は雛形上99年の長期リースによるものとされています(実際の条件は個別の割当書によって定まります)。

参考:Guidance Tamil Nadu(タミル・ナドゥ州政府投資促進機関)|州政策文書 Tamil Nadu Shipbuilding Policy 2026(Industries, Investment Promotion and Commerce Department, Government of Tamil Nadu・全32頁)

インドのグジャラート州における雇用奨励金と電気税の免除

インドのグジャラート州における雇用奨励金と電気税の免除

インド西部に位置するグジャラート州は、国内屈指の工業州であり、連邦政府が掲げる自立したインド(Aatmanirbhar Bharat)政策を牽引する中核として大規模な投資優遇プログラムを展開しています。同州のインセンティブ制度は、大規模な製造業のみならず、サプライチェーンの基盤を支える中小企業(MSME)に対しても支援を用意している点が特徴です。アートマニルバル・グジャラート・スキーム2022では、大企業向けに利子補助、純州GST(SGST)の還付、従業員積立基金(EPF)拠出分の還付、および電気税(Electricity Duty)の免除が定められています。

雇用奨励金に関しては、地域の雇用創出を促すため、従業員プロビデントファンド(EPF)の制度を活用した独自の支援策が設けられています。新たな従業員を雇用した企業に対し、雇用主が負担する法定拠出金を商業生産開始日から10年間にわたり100パーセント還付する制度が導入されており(還付額は従業員の基本給に物価手当等を加えた額の12パーセントか月額1,800ルピーのいずれか低い額を上限とします)、新規事業立ち上げ時の人件費負担を軽減できます。電力面の優遇として本スキームが定めているのは、電力料金そのものの補助ではなく電気税(Electricity Duty)の免除です。政府決議(GR)は根拠法を「Gujarat Electricity Act, 2003」と記していますが、電気税の賦課と免除を定めているのはグジャラート電気税法1958(Gujarat Electricity Duty Act, 1958)であり、同法の誤記と思われます。同法第3条(2)(vii)は、新規の工業事業者が所定の適格証明書を得ることを条件に、初めて製品を製造・生産した日から5年間、動力用および照明用の電気に係る電気税を免除すると定めています(なおタルカ区分によって差がつくのは利子補助の期間と純SGST還付の率です)。

インセンティブの種類支援内容の概要と適用条件
雇用奨励金(EPF還付)新規雇用者のプロビデントファンドに対する雇用主負担分(100パーセント)を、商業生産開始日から10年間にわたり還付します(上限は基本給に物価手当等を加えた額の12パーセントか月額1,800ルピーのいずれか低い額)。
金利補助(タームローン)タルカ区分がカテゴリー1の地域において大規模産業が設備投資を行う場合、タームローンに対して年7パーセントの金利補助を10年間にわたり提供します(年間の補助額は適格固定資本投資額の1パーセントが上限で、企業は最低2パーセント分の金利を自己負担します)。
SGST(州物品サービス税)還付地域のカテゴリーに応じて、純SGSTの最大100パーセントを商業生産開始日から10年間にわたり還付し、企業の税負担を軽減します(カテゴリー1の場合、年間の還付額は適格固定資本投資額の7.5パーセントが上限)。
電気税(Electricity Duty)免除新規工業事業者は、初めて製品を製造・生産した日から5年間、動力用・照明用の電気に係る電気税の免除を受けられます(所定様式の適格証明書が必要です)。既存事業の単なる拡張は対象外ですが、独立して識別可能な別敷地に設ける追加ユニットは別途5年間の免除対象となります。なお電力関税そのものを補助する制度は本スキームには規定されていません。

用地面では、グジャラート州工業開発公社(GIDC)が工業用地の割当を行っています。その申請窓口となるのが、グジャラート州が推進する投資円滑化ポータル(IFP)という単一窓口システムです。IFPでは電力接続(インフラ整備不要の場合7日)、GIDCによる土地割当(90日)、工場図面承認(90日)、グジャラート州公害管理委員会(GPCB)の設置同意(Consent to Establish、120日)および操業同意(Consent to Operate、120日)などをオンラインで申請できます。ただし環境クリアランス(EC)自体はIFPの取扱対象ではなく、環境影響評価に基づく別系統の許認可です(GPCBの設置同意申請では、取得済みのECとEIA報告書の提出が添付書類として求められます)。

インドにおける州政府との覚書締結プロセスと日本法との違い

インドでビジネスを展開し、これらの州政府による投資優遇や用地の支援を確実に受領するためには、州政府との間で覚書(MoU)を締結するプロセスを正しく理解し、戦略的に進める必要があります。大規模な投資家向けサミットなどで、州政府の要人と進出企業が華々しく覚書を交わす場面が頻繁に報道されますが、この初期段階での法的な位置づけには最大限の注意を払う必要があります。

ここで留意すべき、日本の法律との重大な違いが存在します。日本の法律実務においては、契約交渉が最終契約に至らなかった場合でも、民法第1条第2項の信義誠実の原則を根拠として、契約準備段階における信義則上の注意義務違反を理由に損害賠償責任が認められた最高裁判例があります(最高裁昭和59年9月18日判決)。ただしこの損害賠償義務の法的性質(不法行為責任か債務不履行責任か)は裁判例上分かれており、2017年の民法改正でも明文化はされていません。しかしインドの法律では、前提となる法体系が異なります。インド契約法(Indian Contract Act, 1872)第25条においては、対価(Consideration)を伴わない合意は原則として無効であると明確に規定されています(例外とされるのは、近親者間の情愛に基づき書面で作成され登録された合意、約束者のために既に自発的になされた行為または約束者が法的に強制されえた行為に報いる約束、時効により消滅した債務について書面で作成され本人もしくは代理人が署名した支払約束の3類型であり、このほか現実になされた贈与の効力は同条の影響を受けないとされています)。

契約法上は、対価(consideration)を伴わない一方的な表明は原則として強制執行可能な契約とは扱われません。もっとも州政府による表明の場合には、後述のとおり公法上の正当な期待の法理により救済が認められる余地があります。したがって、契約上の請求としては限界がある一方、州政府の表明については、憲法第226条に基づき高等裁判所に令状請求(writ petition)を行い、恣意的な国家行為を禁じる第14条違反を理由として救済を求める経路が別に存在します。

約束された投資インセンティブを法的に保護し確実に受領するためには、覚書の内容を法務的な視点から精査し、単なる協力の意思表示にとどまらず、具体的な対価や履行条件を明記した法的拘束力のある最終契約へと確実に移行させるための周到な法的交渉が不可欠です。

インドで約束されたインセンティブを確実に受領する法的な交渉

インドで約束されたインセンティブを確実に受領する法的な交渉

州政府から約束されたインセンティブや用地の割当を現実のものとするためには、契約締結後も行政機関に対する継続的な法的フォローアップ体制の構築が不可欠となります。インドにおいては、州政府が華々しく投資優遇政策を発表し、企業がその約束を信頼して多額の投資を行ったにもかかわらず、その後の行政側の怠慢や所管官庁による通知の遅れによって優遇措置が適時に受けられないという事案が実際に発生しています。正当な期待(legitimate expectation)の法理とは、行政庁が明確な表明を行った場合に相手方が抱いた期待を保護する法理であり、インド最高裁はこれを憲法第14条が定める恣意的な国家行為の禁止が具体化したもののひとつと位置づけています。ただし最高裁の判例上、正当な期待はそれ自体で独立した権利となるものではなく、その否定が第14条違反に至る場合に援用できるにとどまり、また公益に適合し法律の規定に基づいてなされた決定に対しては援用できないとされています。

この点に関してインド最高裁判所は、2020年12月1日に、インドでビジネスを展開する企業にとって極めて重要となる画期的な判決を下しました(ジャルカンド州対ブラマプトラ・メタリックス社事件)。この事案においてジャルカンド州政府は、2012年の産業政策において、自家消費用の自家発電設備の稼働開始日から5年間にわたり電気税(electricity duty)の50パーセントを免除することを明確に約束していました。ブラマプトラ・メタリックス社は、20メガワットの自家発電設備を備えた製造拠点で2011年8月17日に商業生産を開始していましたが、州政府が2012年産業政策(2012年6月16日公示)に基づく法的な免除通知(S.O.67)を発行したのは約3年後の2015年1月8日であり、しかもその効果を発行日以降の将来に向かってのみ適用すると主張し、過去の期間の免除を拒否しました。

インド最高裁判所はこの州政府の対応を憲法第14条に違反する恣意的なものと判断し、電気税の免除を認めた高等裁判所の判断を2012-13年度および2013-14年度について維持したうえで、控訴を上記の趣旨で終結させました(2011-12年度については、2012年産業政策第35.7(b)項により免除の権利は生産開始の翌事業年度から生じるとして、救済を明示的に否定しています)。最高裁は、州政府が投資を促進するために行った厳粛な表明に企業が信頼を置いて投資を行った以上、行政側の怠慢によって企業の正当な権利と期待を奪うことは明白に不公正かつ恣意的であり、インド憲法第14条が規定する恣意的な国家行動の禁止に真っ向から違反すると判示しました。そのうえで判決は「国家は、意のままに施しを与える主権者であるという植民地的観念を捨てなければならない」と述べ、国家の政策は公の場で示したとおりに行動するという正当な期待を生じさせるものであり、国家はそのすべての行為において公正かつ透明に行動する義務を負うとしています。

この判決が示すのは、州政府が産業政策などで明確な表明を行った場合、その表明を恣意的に反故にすることは憲法第14条に照らして許されず、公法上の令状救済の対象となりうるということです(覚書一般に契約上の履行請求権が生じるという趣旨ではありません)。インドにおいて投資インセンティブを確実に獲得するためには、こうした判例に基づく法理を熟知し、必要に応じて法的措置も視野に入れて州政府と交渉を進める姿勢が求められます。

参考:インド最高裁判所(Supreme Court of India)|判例 The State of Jharkhand & Ors. v. Brahmputra Metallics Ltd., Ranchi & Anr.(Civil Appeal Nos. 3860-3862 of 2020・2020年12月1日判決/Dr. D.Y. Chandrachud, Indu Malhotra両裁判官)

まとめ

インドでのビジネス展開を成功させるには、各州政府が独自に提供する投資優遇やインセンティブ制度を理解し、自社の戦略に合わせて活用することが欠かせません。グジャラート州では、電気税の免除や、GIDCによる工業用地の割当といった、製造業の立ち上げを支える制度が用意されています。しかしながら、これらの魅力的な優遇措置を確実に享受するためには、州政府との覚書締結プロセスにおいてインド契約法などに基づく厳密な法的審査を行い、法的に拘束力のない意向表明を実効性のある確実な契約へと昇華させる高度な交渉力が不可欠です。また、万が一行政の手続きに遅延や不作為が生じた場合には、インド最高裁判例に基づく正当な期待の法理などを踏まえて企業の権利を主張できる法的フォローアップ体制を、あらかじめ構築しておく必要があります。

モノリス法律事務所は、特にIT関連分野をはじめとする多岐にわたる高度なビジネス法務に専門性を有する法律事務所です。モノリス法律事務所はインド現地の有力な法律事務所と強固な提携関係を築いており、常に変動する現地の最新法令や複雑な行政手続きの枠組みに迅速かつ的確に対応することができます。州政府との覚書締結に向けた戦略的な契約書面の作成から、約束された投資インセンティブを確実に獲得するための行政機関との粘り強い交渉、さらには進出後の現地における包括的なコンプライアンス体制の構築に至るまで、インド市場への本格的な参入を目指す日本企業を全面的にバックアップいたします。複雑な法制度と独特の行政文化を持つインドにおいて確実な事業成長を実現するためには、現地の実務と法理に精通した専門家による法的な後ろ盾が最大の競争力となります。

モノリス法律事務所は、インド法務に関する調査および情報提供を目的として、現地法律事務所Quest IP Attorneysと非独占的な提携関係(Associate Firm / Correspondent Firm)にあります。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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