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香港の資金決済法を弁護士が解説

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香港の資金決済法を弁護士が解説

中華人民共和国香港特別行政区(以下「香港」)は、1997年に中国へ返還された後も、「一国二制度」によって中国本土とは異なる法体系を維持しています。法体系の土台は、英国から受け継いだコモンロー(判例の積み重ねが法となる英米法)です。香港の憲法に当たる基本法の下で、香港は独自の通貨である香港ドルを発行し、金融制度も独自に運営しています。デジタル決済の分野でも、国際金融センターとして独自の法整備が進められてきました。

日本の資金決済法(資金決済に関する法律)に当たる仕組みは、香港では一つの法律にまとまっておらず、サービスごとに条例が分かれています。条例(Ordinance)は香港の立法機関である立法会が定める法律で、「Cap.」は条例ごとの章番号です。電子マネーなどの前払式支払手段(SVF)は、決済システム及び前払式支払手段条例(Payment Systems and Stored Value Facilities Ordinance、Cap. 584)が規律します。送金・両替と仮想資産取引プラットフォームは、マネーロンダリング及びテロ資金供与対策条例(Anti-Money Laundering and Counter-Terrorist Financing Ordinance、Cap. 615)の対象です。ステーブルコインの発行には、2025年8月施行のステーブルコイン条例(Stablecoins Ordinance、Cap. 656)が適用されます。

日本の資金決済法は、自社の店舗などでだけ使える自家型の前払式支払手段には届出、他社の店舗でも使える第三者型には登録を求めています。これに対し香港のSVF免許とステーブルコイン発行者の免許では、2,500万香港ドル以上の払込資本や、預かり資金・準備資産の分別保全が必要です。日本のポイントや電子マネーを香港の複数の加盟店で使える形で提供すれば、香港の免許が要る場合があります。仮想資産とステーブルコインでは、免許のない事業者による香港の公衆への積極的な勧誘も規制されています。

本記事では、香港で決済ビジネスを検討している日本企業の経営者や法務担当者の皆様に向けて、香港の資金決済法制を日本法と比べながら解説します。扱うのは、法制の全体像、SVFと金銭サービス事業者の免許、仮想資産とステーブルコインの規制、マネーロンダリング対策、実務上の留意点です。内容は2026年10月時点の法令に基づいています。

香港の資金決済法制の全体像と日本法との違い

香港は独自の通貨と金融市場を持ち、その中核にあるのが、中央銀行の役割を果たす香港金融管理局(HKMA)です。香港は判例が法の重要な柱となるコモンローの地域ですが、金融規制は条例と規制当局のガイドラインで細かく定められています。

日本では、前払式支払手段、資金移動業、暗号資産交換業、電子決済手段等取引業を資金決済法でまとめて規制しています。これに対し香港では、決済サービスの機能ごとに条例と監督当局が分かれています。利用者から前払いを受けて残高を預かるなら、Cap. 584(HKMA)です。両替や香港と香港外の間の送金を手配するならCap. 615第5部(香港税関)、仮想資産の取引の場を提供するなら同第5B部(SFC)です。法定通貨に連動するトークンの発行には、Cap. 656(HKMA)が適用されます。自社のサービスがどれに当たるかを判定し、適用除外や免除を確かめたうえで、自社で免許を取るか、免許保有者と提携するかを決めます。

香港の決済システム及び前払式支払手段条例とSVF免許制度

香港の決済システム及び前払式支払手段条例とSVF免許制度

決済システム及び前払式支払手段条例の成り立ち

香港で電子マネーやプリペイドカードなどを発行する事業は、決済システム及び前払式支払手段条例(Cap. 584)が規制しています。この条例は、2004年制定の清算決済システム条例を2015年の改正で改称し、SVF(Stored Value Facility)の免許制度を加えたものです。改正は2015年11月13日に施行されました。既存の発行者には1年間の移行期間が認められ、2016年11月からは免許のないSVFの発行が禁じられています。

条例には二つの柱があります。一つは、HKMAが指定した清算決済システムや小口決済システムの監督です(第4条)。もう一つがSVFの免許制度です。香港でSVFを発行し、またはその発行を促進する事業には、適用除外や免除に当たらない限り、HKMAのSVF免許が必要です。「促進」とは、発行者以外の者が発行者に対価を提供し、その額でSVFに保存できる価値が決まるような関わり方をいいます(第2B条)。

SVFの定義と適用除外・免除の類型

条例上、SVFとは、利用者が前払いした金銭の価値を保存し、商品やサービスの代金や他の人への支払いに使える仕組みです(第2A条)。個人間の送金に使える電子ウォレットも含まれます。HKMAの解説では、ICカードなどに価値を記録する機器型と、ネットワーク上の口座に記録するネットワーク型の両方が対象です。香港と香港外の間で送金や両替を手配する機能を持たせる場合は、MSOの免許との関係も確認が必要です。

ただし、すべての前払式サービスが免許の対象になるわけではありません。発行者自身が提供する商品やサービスの支払いにしか使えない単一目的のSVFは、条例の対象外です(第2A条第4項・第5項)。日本の自家型は、親会社や子会社などの密接関係者の店舗で使えるものも含みます。これに対し香港の条文は「発行者自身」に限っており、グループ会社の店舗でも使える設計では単一目的に当たらないおそれがあります。

単一目的のSVFがそもそも条例の対象外であるのに対し、附表(条例の末尾の別表)8の類型は、SVFに当たったうえで規制の大部分が免除されます(第8ZZZB条)。主な類型は、キャッシュバックの仕組み、デジタル商品の購入専用のもの、発行者や提携先が与えるボーナスポイント(航空会社のマイルなど)です。発行者の施設内や特定のクラブの施設内でだけ使えるものも、預かり資金が100万香港ドル以下なら免除されます。いずれも条件は狭く、利用者が現金で購入できるポイントは、ボーナスポイントの免除に当たらないおそれがあります。

SVF免許の要件と預かり資金の保全

SVF免許の要件は、条例の附表3に最低基準として定められています。主な要件は、払込資本2,500万香港ドル以上(またはHKMAが認める同等の財務資源)、SVFの発行が主たる事業であること、リスク管理やマネーロンダリング対策の体制です。最高経営責任者・取締役・支配株主は、適格性(fit and proper)の基準を満たさなければなりません。主たる事業の要件があるため、小売や通信などの事業会社がそのまま免許を取るのは難しいと考えられます。SVFの発行を専業とする会社を設けるか、免許保有者と提携するかの検討が必要です。

中でも重要なのが、利用者の預かり資金(float)の保全です。SVF発行者は、預かり資金を固有資産から分別し、十分に保護しなければなりません(附表3第2部第7条)。HKMAのSVF監督ガイドライン(Guideline on Supervision of Stored Value Facility Licensees)は、原則として信託による保全を求めています。理由があれば、銀行保証や保険で代替・補完することもできます。利用者から償還を求められたときは、実務上可能な限り速やかに全額を償還する義務もあります(附表3第2部第8条)。払戻しを原則として禁じる日本の前払式支払手段(資金決済法第20条第5項)とは、考え方が逆です。

銀行業条例(Banking Ordinance、Cap. 155)に基づく銀行免許を持つ銀行は、SVF免許を受けたものとして扱われます(第8G条)。資本、主たる事業、適格性の要件は適用されませんが、預かり資金の管理や償還、マネーロンダリング対策などの要件は銀行にも及びます。

HKMAはSVF免許の保有者に対し、情報の提出要求(第12条)、帳簿の検査(第12A条)、指示(第13条)などの監督権限を持ちます。違反には、1,000万香港ドルか違反で得た利益の3倍の大きい方まで制裁金を科せます(第33Q条)。免許なくSVFを発行し、または発行を促進することは犯罪です(第8B条)。重い事件を扱う正式起訴の手続では、上限は100万香港ドルの罰金と5年の拘禁刑です。より簡易な略式の手続では、10万香港ドルの罰金と6か月の拘禁刑が上限です。

参考:香港金融管理局(HKMA)|Regulatory Regime for Stored Value Facilities

日本の前払式支払手段規制との違い

日本の資金決済法の前払式支払手段の規制と香港のSVF規制とでは、規制の対象となる範囲と資金保全の考え方が大きく異なります。主な違いは次の表のとおりです。

比較項目日本(資金決済法の前払式支払手段)香港(Cap. 584のSVF)
発行者自身の店舗等でのみ使えるもの自家型。基準日未使用残高が1,000万円を超えると財務局へ届出(密接関係者の店舗で使えるものを含む)単一目的SVFとして条例の対象外(グループ会社の店舗で使えるものは含まない)
複数の加盟店で使えるもの第三者型。事前の登録が必要HKMAのSVF免許が必要(附表8の免除に当たるものを除く)
財務要件第三者型のみ純資産額1億円以上(原則。自家型は要件なし)払込資本2,500万香港ドル以上(銀行を除く)
利用者資金の保全基準日未使用残高が1,000万円を超える場合、その2分の1以上を発行保証金として供託(保全契約・信託契約で代替可)預かり資金を固有資産から分別し、原則として信託により保全
払戻し原則として禁止(少額の場合などの例外あり。資金決済法第20条第5項)利用者の請求に応じて速やかに全額を償還する義務
監督当局金融庁(財務局に委任)香港金融管理局(HKMA)

このように、香港で複数の加盟店で使える汎用型のSVFを発行するには、日本より高い財務要件と、預かり資金を分別して保全する義務が課されます。財務要件の物差しは、日本は純資産、香港は払込資本です。日本のポイントや電子マネーを香港で使えるようにするときは、設計によって免許の要否が変わり得ます。使える店舗を発行者自身に限る、現金で買えないボーナスポイントにとどめる、施設内利用の預かり資金を100万香港ドル以内に収める、個人間の送金機能を外す、といった点が検討の対象です。

香港の金銭サービス事業者の免許制度

マネーロンダリング及びテロ資金供与対策条例に基づく規制

香港で業として両替を行う事業者や、香港と香港外の間の送金を手配する事業者は、金銭サービス事業者(Money Service Operator、以下MSO)の免許が必要です(Cap. 615第5部)。MSOの監督当局は、HKMAではなく香港税関(Customs and Excise Department)です。

MSO免許では、個人事業主・パートナー・取締役と、25%を超える持分などを持つ最終的な所有者が、適格性の基準を満たす必要があります。事業所が金銭サービスの運営に適していることも求められます(第30条)。無免許営業の罰則の上限は、正式起訴の手続で100万香港ドルの罰金と2年の拘禁刑です。略式の手続では、10万香港ドルの罰金と6か月の拘禁刑です(第29条)。

参考:香港税関|Supervision of Money Service Operators

日本の資金移動業との違いと預金受入れ規制との境界

日本の資金移動業は、銀行以外の事業者が為替取引(送金)を行う制度で、送金額の上限により第一種から第三種に分かれます(資金決済法第36条の2)。上限は第二種が1回100万円、第三種が5万円です(同法施行令第12条の2)。100万円を超える送金も扱える第一種には、登録に加えて業務実施計画の認可が要ります。いずれも、送金途中の資金の全額以上を、履行保証金の供託や保全契約・信託契約で保全しなければなりません。

これに対し、香港のMSO免許は一種類で、送金額の上限による区分はありません。一方で、本人確認などのマネーロンダリング対策が細かく定められています。継続的な取引や疑わしい取引では金額にかかわらず、1回限りの電信送金では8,000香港ドル以上で、本人確認が必要です(附表2第3条)。また、銀行業条例は、認可を受けた機関以外による業としての預金の受入れを禁じています(第12条)。この預金には無利息のものも含まれます。SVFの預かり資金は預金から除かれていますが、送金や両替の範囲を超えて顧客の資金を預かると、無認可の預金受入れに当たるおそれがあります。

相殺型の送金を無免許営業とした裁判例

香港で免許なく送金や両替のサービスを提供すると、刑事罰の対象になります。この点について、国境を越えた資金の移動を伴わない相殺型の取引でも、送金サービスの運営に当たるとされた裁判例があります。

香港高等法院原訟法庭が上訴審として言い渡した判決(HKSAR v Fu Guangmiao、HCMA 20/2020、2020年8月6日判決)を紹介します。被告人は香港の大学の職員で、中国本土出身の教職員や学生向けの学内オンラインフォーラムで客を募っていました。顧客に香港ドルを自身の香港の口座へ入金させ、同じ価値の人民元を自身の本土の口座から顧客の指定先に送っていたのです。被告人は、資金は国境を越えていないので送金に当たらないと主張しました。しかし原審は、被告人の手元で香港ドルが増え、本土の人民元が同じ価値の分だけ減る以上、送金に当たると判断しました。上訴審は、利用が私的な範囲を超え継続性もあることから、業として送金サービスを運営していたと認め、有罪判決への上訴を棄却しました。量刑は、資金洗浄とは無関係であることなどから、社会奉仕命令を2万香港ドルの罰金に改めています。

参考:HKLII|HKSAR v Fu Guangmiao, 2020 HKCFI 1783

本件は個人の事案で、上訴審の判断も一件にとどまります。それでも、資金が国境を越えない相殺型の取引でも、業として行えば無免許の送金サービスとされた例がある点は押さえておくべきでしょう。企業が日本で円を受け取り、香港で香港ドルを支払う仕組みも、同じ考え方で送金と評価されるおそれがあります。

香港の暗号資産とステーブルコインに関する規制

香港の暗号資産とステーブルコインに関する規制

仮想資産取引プラットフォームの免許制度

暗号資産(香港の条例では「仮想資産」)を扱う事業は、電子マネーや送金とは別の枠組みで規制されています。2023年6月1日から、香港で仮想資産取引プラットフォーム(VATP)を運営するには、Cap. 615第5B部に基づく証券先物委員会(SFC)の免許が必要です(第53ZRD条、第53ZRK条)。無免許営業の罰則の上限は、正式起訴の手続で500万香港ドルの罰金と7年の拘禁刑です。仮想資産のディーリング(売買の取次ぎ)やカストディ(保管)についても、免許制度を設ける改正案が準備されています(2026年10月時点)。

取り扱うトークンには、証券に当たるものと当たらないものが混ざり得ます。このためSFCは、証券及び先物条例(Securities and Futures Ordinance、Cap. 571)とCap. 615の両方の免許を取るのが適切だとしています。要件を満たした事業者は、個人投資家にもサービスを提供できます。ただし、2026年10月時点のSFCのガイドラインでは、個人向けに扱えるのは主に大型の仮想資産です。別々の会社が算出する、SFCが認める二つ以上の指数に組み入れられていることなどが条件です。

参考:証券先物委員会(SFC)|Lists of virtual asset trading platforms

免許のない事業者による積極的な勧誘の禁止

日本企業が特に注意すべきなのは、香港の公衆に向けた「積極的な勧誘(actively markets)」の規制です。香港の免許を持たない事業者が香港の公衆に仮想資産取引を積極的に勧誘すると、香港で事業を営んでいるものとして扱われます(第53ZRB条)。勧誘を香港の外から行っても同じで、無免許営業の罪の対象になります。SFCは、マーケティング計画の有無、勧誘の規模、計画的・組織的かどうか、中国語や香港ドル建ての表示など香港向けの作りかを総合して判断するとしています。日本の居住者向けのサービスでも、ウェブサイトやSNS広告が香港の利用者を狙ったものと評価されれば、調査の対象になるおそれがあります。

参考:証券先物委員会(SFC)|”Actively markets” under section 115 of the SFO and section 53ZRB of the AMLO

日本でも、登録のない海外の暗号資産交換業者による日本の居住者への勧誘は無登録営業に当たるとして、金融庁が警告を行っています。また、日本の暗号資産に関する規制は、令和8年の改正法(2026年7月23日公布)により資金決済法から金融商品取引法へ移る予定です。施行は公布から1年以内とされています。

ステーブルコイン条例に基づく発行と提供の規制

法定通貨に連動するステーブルコインについて、香港は暗号資産とは別にステーブルコイン条例(Cap. 656)を設けました。2025年5月に立法会で可決され、同年8月1日に施行されています。対象は、一つまたは複数の法定通貨などに価値が連動する「指定ステーブルコイン(specified stablecoin)」です。香港で発行する場合と、香港外で香港ドル連動のものを発行する場合に、HKMAの免許が必要です(第5条)。2026年4月には、最初の2社に免許が付与されました。

免許の主な要件は、次の表のとおりです。

規制項目ステーブルコイン条例とHKMAのガイドラインによる要件
最低資本払込資本2,500万香港ドル以上(またはHKMAが認める同等の財務資源)
準備資産時価で常に流通額面以上の、高品質・高流動性の資産を保有
準備資産の分別管理自社の資金などから分別して保全(ガイドラインでは信託によることを要求)
償還額面で速やかに償還(ガイドラインでは原則として、償還請求を受けた日の翌日から1営業日以内に処理)
利息の禁止ステーブルコインの保有者に利息を支払ってはならない

日本でも、令和4年の資金決済法改正(2023年6月1日施行)で「電子決済手段」の枠組みが設けられました。発行者は銀行・資金移動業者・信託会社などに限られ、売買や仲介には電子決済手段等取引業の登録が要ります。香港の特徴は、これに加えて免許のない発行者のステーブルコインを個人に提供できない点です。指定ステーブルコインを提供できるのは、免許を受けた発行者、SFC免許のVATP、SVF免許の保有者、銀行などの許可された者に限られます(第9条)。免許のない発行者のものは、専門投資家にしか提供できません。香港外からでも、香港の公衆に積極的に勧誘すれば、香港の公衆に提供しているものとして扱われます(第6条)。

参考:香港金融管理局(HKMA)|Regulatory Regime for Stablecoin Issuers

香港の決済事業者に課されるマネーロンダリング対策の義務

SVF免許の保有者、MSO、VATPの事業者、ステーブルコインの発行者は、いずれもCap. 615上の金融機関に当たり、附表2の義務を負います。ただし、SVFの発行そのものに附表2が及ぶのは、上限3,000香港ドル超の物理的な媒体の場合に限られます(第5条第4項)。それ以外は、HKMAのガイドラインで対策が求められます。主な義務は、顧客の本人確認、取引の継続的なモニタリング、取引記録の保存(取引や取引関係の終了から少なくとも5年間)です。香港税関のMSO向けガイドラインは、制裁対象者リストとの照合も求めています。

財産が犯罪収益に関わると知ったり疑いを持ったりした場合は、届け出る義務があります。根拠は組織的及び重大な犯罪条例(Organized and Serious Crimes Ordinance、Cap. 455)第25A条などで、事業者に限らず個人にも課されます。届出があったことを捜査の妨げになる形で漏らす行為(tipping-off)も犯罪です(同条第5項)。日本の犯罪収益移転防止法では届出義務は特定事業者に限られるため、香港拠点の社員個人の義務や、日本の本社へ報告する範囲に注意が必要です。届出先は、香港警察と香港税関が共同で運営する共同金融情報機関(Joint Financial Intelligence Unit、JFIU)です。

参考:共同金融情報機関(JFIU)|About JFIU

送金や仮想資産の移転では、金融活動作業部会(FATF)の基準に沿った「トラベルルール」も適用されます。電信送金では、送金人と受取人の情報を記録して送金に添えなければなりません(附表2第12条)。仮想資産の移転にも2023年6月1日から同様の義務があり(附表2第13A条)、日本でも同日から犯罪収益移転防止法で導入されています。附表2に違反した金融機関には、1,000万香港ドルか利益などの3倍の大きい方まで制裁金が科され得ます(第21条)。故意の違反は、正式起訴の手続で100万香港ドルの罰金と2年の拘禁刑が上限です(第5条第5項)。役員などの適格性が失われれば、免許の取消しや停止にもつながります。

日本企業が香港で決済ビジネスを展開する際の留意点

日本企業が香港で決済ビジネスを展開する際の留意点

越境でのサービス提供と無免許営業のリスク

日本の事業者が香港の居住者に決済サービスを越境で提供する場合、最も警戒すべきなのは無免許営業のリスクです。日本で適法に発行しているポイントやプリペイドカードでも、香港の複数の加盟店で使える形で提供すれば、SVFとして免許が必要になる可能性があります。香港の加盟店では使えず、香港の居住者が購入やチャージをするだけの場合の扱いは、個別の確認が必要です。SVFについては、無免許の発行の宣伝や幇助も禁じられています(第8C条)。仮想資産やステーブルコインでは、前述のとおり、香港外からの積極的な勧誘も規制の対象です。規約で香港の居住者を除くだけでは足りません。香港向けの広告や表示をせず、香港からの申込みを実際に受け付けない措置を講じるなど、実態として香港の公衆に向けていないことを示す必要があります。

香港の免許保有事業者と提携する場合の契約上の留意点

香港の各免許には相応の資本と体制が必要なため、HKMAのSVF免許、税関のMSO免許、SFCのVATP免許などを持つ香港の事業者と提携する方法もあります。自社で免許を取るか提携するかは、要件を満たす現地法人を用意できるか、参入の時期、利用者のデータやブランドを自社で持つ必要があるか、費用などを比べて決めます。提携する場合は、決済サービスの提供主体が香港の免許保有者であることを、利用規約や契約で明確にしておくのが実務上の対策です。ただし、契約上の名義だけで判断されるわけではなく、日本企業が入金の受領や送金の手配を担えば、それ自体が免許の対象となるおそれがあります。マネーロンダリング対策の義務は免許保有者が負うため、契約では顧客情報の提供範囲、疑わしい取引の連絡方法、監査への協力などを定めます。

個人データについては、香港の個人資料(私隠)条例(Cap. 486)のうち域外移転を制限する第33条は、2026年10月時点で施行されていません。ただし、収集・利用目的・安全管理などのデータ保護原則は適用されます。日本から香港の提携先に個人データを渡す場合は、日本の個人情報保護法第28条(外国にある第三者への提供の制限)にも対応が必要です。

まとめ

香港の資金決済法制は、サービスごとに条例と監督当局が分かれています。SVFはCap. 584(HKMA)、送金・両替はCap. 615(香港税関)、仮想資産取引プラットフォームは同じCap. 615(SFC)、ステーブルコインはCap. 656(HKMA)の対象です。SVFとステーブルコイン発行者の免許では、払込資本2,500万香港ドル以上や預かり資金・準備資産の分別保全が求められます。無免許営業には、日本と同様に拘禁刑を含む刑事罰があります。

日本企業が香港で決済に関わる事業を展開する際は、まず自社のサービスがどの条例の対象かを判定し、単一目的や附表8の免除に当たるかを確認します。当たらなければ、自社で免許を取るか、免許保有者と提携するかを決めます。あわせて、香港向けの宣伝が積極的な勧誘に当たらないかを確かめ、マネーロンダリング対策や契約の体制を整えておきましょう。

当事務所では、香港での事業展開をご検討の日本企業の皆様をサポートいたします。たとえば、自社のポイントや電子マネーが免除の類型に当たるかの検討、香港向けの宣伝が積極的な勧誘に当たるかの確認、提携契約でのマネーロンダリング対策や個人データの扱いの整理などです。香港での決済サービスの展開をお考えの際は、お気軽にご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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