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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

クロスボーダー

NASDAQ、2026年12月6日から23時間取引へ──日本企業の開示・IR実務と夜間の価格保護

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NASDAQは、2026年12月6日から、平日1日23時間の株式取引を開始する予定です。米国証券取引委員会(SEC)は4月に取引時間の拡大を承認し、8月には夜間取引における価格保護の第一段階を承認しました。実際の開始には関連制度と市場インフラの整備が関わるため、承認済みの事項と実施予定を区別して理解する必要があります。

日本企業にとって重要なのは、追加される米国の夜間取引が、日本の日中と重なる点です。米東部時間21時から翌4時は、日本時間では米国の夏時間中が翌10時から17時、冬時間中が翌11時から18時に当たります。日本で決算や重要な事業上の決定を公表する際、米国では自社の株式や米国預託証券(ADR)が取引されている状況になります。そのため、日本語の適時開示、英語のプレスリリース、SECへの情報提供、投資家対応を一体として設計することが重要です。

本記事では、令和8年9月24日時点の公表資料に基づき、23時間取引の仕組みと価格バンドを整理し、開示時刻、社内の売買管理、自己株取得、企業行動に伴う売買停止への対応を解説します。

NASDAQの23時間取引はいつ、どのように始まるのか

今回の変更は、通常取引の時間帯をそのまま23時間に延ばすものではありません。既存の時間外取引に新たな夜間セッションを加える仕組みです。

SECは2026年4月10日、SR-NASDAQ-2025-109について、修正後の規則変更を承認しました。対象は米国の全国市場システムで取引される株式等であり、取引時間を週5日、1日23時間に拡大する枠組みです。

一方、8月5日の承認は、異常な価格変動を抑制する市場横断的な仕組みであるLULDプランの変更に関するものです。夜間の価格保護を段階的に整備する第一段階であり、NASDAQだけの個別の取引時間変更とは区別されます。

参考:SEC|取引時間を1日23時間・週5日に拡大する規則変更の承認命令

参考:SEC|夜間取引の暫定的価格バンド保護に関するLULDプラン第27次変更の承認命令

NASDAQの8月17日付案内では、新たな夜間取引を12月6日の日曜日、米東部時間21時に開始する予定です。日本時間では12月7日月曜日の11時に当たります。

新設される夜間セッションは米東部時間21時から翌4時です。従来の取引時間帯と組み合わせ、毎日20時から21時の1時間を取引休止とする構成になります。SIPと呼ばれる、複数市場の価格・取引情報を集約して配信する仕組みの対応なども必要であり、実務上は開始直前の正式案内を確認すべきです。

ADR等を発行する企業は、自社銘柄の取引市場、取扱証券会社、夜間取引への対応状況を確認します。米国で取引される預託証券がすべてNASDAQ上場とは限らず、米国上場でも普通株式を直接上場する企業があります。自社の上場形態に即した対応が出発点です。

参考:NASDAQ|Nasdaq Stock Market:New Trading Hours Effective December, 2026

NASDAQの夜間取引と日本時間の重なり

NASDAQの夜間取引と日本時間の重なり

日本の営業時間と米国の取引時間の関係は、夏時間と冬時間で1時間変わります。年間を通じて「午前10時から午後5時」と固定して管理することはできません。

新たな夜間セッションと日本時間の関係は、次のとおりです。日本の日付は、米東部時間でセッションが始まる日の翌日になります。

区分米東部時間日本時間
米国の夏時間21時〜翌4時翌10時〜17時
米国の冬時間21時〜翌4時翌11時〜18時
令和8年12月6日の開始予定12月6日21時12月7日11時

この時間換算から、例えば日本時間15時30分の決算発表は、夏時間でも冬時間でも新たな夜間セッション中に行われることになります。国内市場の取引終了後に発表しても、米国市場の価格形成とは切り離せません。

参考:NASDAQ|Global Trading Hours FAQs

実務上想定される問題は、日本語の決算短信や業績予想修正が先に公表され、その内容を基に米国で取引が進む一方、公式の英語資料がまだ公開されていない状況です。非公式の翻訳や断片的な情報が先行すれば、数字の意味や将来見通しの前提が正確に伝わらないおそれがあります。

対応としては、発表時刻だけを変更するよりも、決算数値の確定、日英資料の確認、社内承認、公開準備を同じ工程表で管理することが有効です。

もっとも、英語資料の完成や米国市場の休止を待つために、日本で必要な開示を遅らせる運用は避けなければなりません。東証の案内でも、急な発生事実等で同時英文開示が日本語開示を遅らせる場合には、同時開示の例外が認められています。

参考:日本取引所グループ|すべての適時開示について、必ず日英同時開示が求められるのでしょうか

NASDAQのオーバーナイト価格バンドと売買停止

夜間取引には、流動性、すなわち売買の成立しやすさが低くなり、価格が大きく動くリスクがあります。価格保護の導入は、このリスクを完全に解消するものではありません。

8月5日の承認命令による保護対象時間は、米東部時間の日曜日から木曜日の21時から、それぞれ翌4時までです。主要上場取引所が算定する価格バンドには、企業行動を反映して調整した公式終値と、19時45分時点の直近の通常売買単位による統合約定価格という、二つの基準価格を使用します。

基本となる上限は二つの価格の高い方から20%上、下限は低い方から20%下です。ただし、終値が1ドル以上なら各方向に最低3ドル、1ドル未満なら最低1ドルの幅が設けられ、レバレッジ型の商品には別の調整があります。

例えば二つの基準価格が100ドルと110ドルなら、基本の下限は80ドル、上限は132ドルです。この計算例のとおり、「前日終値から20%を超える変動は起こらない」という説明は誤りです。特に低価格の銘柄では、最低幅の影響を確認する必要があります。

参考:SEC|夜間取引の暫定的価格バンド保護に関するLULDプラン第27次変更の公示

承認された枠組みでは、夜間にバンドへ到達したことだけで自動的に売買が一時停止する仕組みは採用されていません。一方、バンドが価格発見、すなわち売買を通じた価格の形成を妨げる場合などには、主要上場取引所が規制上の売買停止を行うことができます。この停止となった銘柄は、当該保護対象時間中には再開しません。

したがって、決算発表後に夜間価格が上限付近にとどまっていても、それだけで市場の評価が落ち着いたとは判断できません。IR担当者は約定価格だけでなく、売買高、注文状況、停止情報も併せて確認する体制を検討すべきです。

参考:SEC|夜間取引の暫定的価格バンド保護に関する承認命令

23時間取引に対応する適時開示とForm 6-Kの設計

日本での適時開示、米国上場規則に基づく情報開示、SECへの情報提供は、それぞれ根拠と役割が異なります。一つの手続を済ませれば、他の対応も完了するとは限りません。

国内上場の有無と外国民間発行体の資格を確認する

国内にも上場する企業は、日本の適時開示制度への対応が必要です。東証プライム市場の上場内国会社には、令和7年(2025年)4月以降、決算情報と適時開示情報について原則として日本語と同時の英文開示が求められています。一方、NASDAQだけに上場する日本企業について、東証の義務が当然に適用されるわけではありません。

また、米国では外国民間発行体(FPI)に該当するかを確認します。これは米国証券規制上の資格であり、日本法人であることだけで判断できません。SECの説明上、FPIは選択的開示を規律するRegulation FDの適用対象外ですが、このことは重要情報を自由に特定の投資家へ提供できるという意味ではありません。

参考:日本取引所グループ|Company Announcements Service概要

参考:SEC|Information about Foreign Issuers

Form 6-Kの迅速な提供と公表時刻を区別する

Form 6-Kは、報告義務のあるFPIが、本国法令に基づき公表した情報、取引所に提出して公表された情報、株主に配布した情報などのうち、所定の重要情報をSECに提供するための様式です。公式の記載要領は、対象情報が公表された後、速やかに提供することを求めています。

このため、日本で公表した情報について「米国の通常取引が始まる直前に提出すればよい」と一律に扱うことはできません。ただし、23時間取引の開始によって、すべての日本語開示と同時刻にForm 6-Kを提出する新たな義務が当然に生じるわけでもありません。

実務では、対象情報の判定、英文資料の確認、署名権限者の承認、提出担当者への引継ぎを事前に定めます。

参考:SEC|Form 6-K・General Instructions

EDGARの受付時間とNASDAQへの連絡を工程に入れる

SECの公表案内では、電子提出システムEDGARの受付時間は、原則として米国の営業日の米東部時間6時から22時です。取引時間が延びても、EDGARが同じ時間帯に利用できるとは限りません。例えば冬時間の日本時間15時30分は米東部時間1時30分に当たり、この受付時間外です。

したがって、米国の夜間に重要情報を公表する場合は、英文リリース等による情報発信と、EDGARでの情報提供を分けて工程化する必要があります。受付時間外であることを理由に公表そのものを保留するのではなく、利用可能な公表手段と、受付再開後の提出手順を確認します。

NASDAQへの重要情報の事前連絡も別の手続です。開始準備では、MarketWatchへの連絡対象、連絡期限、担当者不在時の代替経路を、その時点で適用される上場規則に照らして更新します。

参考:SEC|Understand EDGAR and its Three Websites

参考:NASDAQ|上場規則5200シリーズ・重要情報の開示とMarketWatchへの通知

NASDAQの23時間取引を踏まえた社内売買管理と自己株取得

NASDAQの23時間取引を踏まえた社内売買管理と自己株取得

取引可能な時間の拡大は、役職員の売買や企業自身の買付けについても、従来の規程や委託条件を点検する契機になります。

インサイダー取引規程の「営業日」と禁止期間を明確にする

米国のインサイダー取引規制では、信認義務等に違反して重要な未公表情報に基づき売買する行為などが問題になります。日本の営業時間外であることや、米国の通常取引時間外であることは、規制を免れる理由にはなりません。

社内規程に「決算発表日の翌営業日から売買可能」などの定めがある場合は、どの市場の営業日か、どの時刻から許可するかを明確にする必要があります。NASDAQの案内では、21時から深夜0時までの約定には翌取引日の取引日付が付されるため、暦日だけによる管理には注意が必要です。

実務上は、国内普通株式とADR等を売買申請の対象として整理し、事前承認の有効期間を日時とタイムゾーンで示す方法が考えられます。承認後に新たな未公表情報を知った場合の取扱いや、未約定注文の取消手順も定めておくべきです。

参考:SEC・Investor.gov|Insider Trading

参考:NASDAQ|New Trading Hours Effective December, 2026

夜間の自己株取得は買付条件を個別に検討する

米国での自己株取得では、一定条件を満たす買付けについて相場操縦に関する責任の保護を与えるRule 10b-18のセーフハーバーが検討対象になります。条件には買付方法、時間、価格、数量があり、条件を外れたことだけで直ちに相場操縦になるわけではありません。

SECのFAQは通常取引終了後の買付けにも限定的な保護を説明していますが、これは新たな夜間セッション全体で無条件に買付けができるという意味ではありません。23時間取引という市場の制度と、自己株取得の適法性・保護要件は分けて検討する必要があります。

夜間にも買付けを行う場合は、米国法の助言を得て、執行証券会社との間で対象時間、価格・数量制限、取引日付の扱い、重要情報公表時の停止条件を確認します。

参考:SEC|Rule 10b-18に関するFAQ

NASDAQの企業行動に伴う売買停止とIR対応

株式分割など、株式の内容や取引条件を変更する企業行動は、開示だけでなく、取引・決済システムの更新を伴います。夜間取引の導入に向けて、この処理時間を確保する売買停止の枠組みも示されています。

NASDAQの公表FAQでは、規制上の承認を条件とする提案として、株式分割・併合、ティッカーや証券識別番号の変更、一定の大型配当、De-SPAC、スピンオフなどを停止対象に挙げています。De-SPACはSPACと事業会社との企業結合等を指し、単に「SPACの上場廃止」と言い換えることはできません。

提案された運用では、対象銘柄を市場での効力発生日の前日20時から21時の間に停止し、夜間セッションを通じて停止を継続します。再開予定は効力発生日の米東部時間8時であり、9時30分に始まる通常取引まで一律に停止するという説明とは異なります。

参考:NASDAQ|Corporate Action Mandatory Regulatory Halt Rules FAQs

ADR等を発行する企業は、国内株式の変更が米国側の預託証券にどう反映されるかを預託銀行と確認する必要があります。実務上は、効力発生日、交換比率、識別情報の変更、停止・再開予定を一つの管理表で共有する方法が考えられます。

IR上は、企業行動に伴う事務処理のための停止と、重要情報や価格形成上の問題による停止を混同させない説明が重要です。停止理由と確認先を公開資料に示し、再開が変更された場合の更新担当者も決めておきます。

さらに、決算発表日の日本側担当者が米国の夜間価格を確認し、必要に応じて米国の法律顧問やIR支援会社へ引き継ぐ体制を用意することが有効です。問い合わせには公表済み情報で回答し、説明が不足している場合は、個別回答だけで補うのではなく追加公表の要否を検討します。

まとめ:NASDAQ23時間取引への対応は弁護士に相談を

NASDAQの23時間取引は、2026年12月6日の米東部時間21時、日本時間では12月7日11時の開始が予定されています。日本の日中と米国の夜間取引が重なることで、国内で公表する決算や重要情報が、米国の価格形成にも直ちに影響する場面が広がります。対応の中心は、日英開示、Form 6-K、NASDAQへの連絡、投資家対応の工程を整えることです。EDGARの受付時間や夏時間・冬時間の違いを反映し、社内売買規程と自己株取得の条件も確認する必要があります。

また、夜間の価格バンドは一律の終値上下20%ではなく、企業行動による停止には別の運用が予定されています。承認済みの制度と提案段階の事項を区別し、開始までの追加公表を確認しながら、自社の上場形態と取引実態に応じた開示・IR体制を構築することが重要です。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。当事務所では、米国証券規制と日本の会社法の双方にまたがる資本政策の設計、上場維持リスクのマネジメント、コーポレート・アクションの実行支援について、経営陣の意思決定を支える助言を提供しています。NASDAQ上場支援については、下記記事をご参照ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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