インドの食品安全基準(FSSAI):輸入・製造ライセンスとラベル表示実務

インド市場において食品や健康食品を適法かつ円滑に展開するためには、現地の食品安全基準を正確に理解し、厳格なコンプライアンス体制を構築することが不可欠となります。本記事では、インドで食品ビジネスを行う上で必須となるFSSAIの輸入ライセンスおよび製造ライセンスの制度設計から、宗教的・文化的な背景に根ざしたベジタリアンマークなどの特殊なラベル表示実務までを網羅的に解説します。
また、法改正の最新動向として注目を集めているQRコードを用いた情報提供に関するFSSAIの勧告や、事業者に対して求められる汚染物質検査の頻度についても詳細に分析します。通関時の検査においてラベル表示の不備が発覚した場合、不備の種類によっては保税倉庫内での事後修正が認められず、通関拒否から積み戻しや廃棄処分に至る重大なリスクが存在します。日本側の出荷前段階で確実なチェック体制を構築するための実践的な洞察もあわせて提供します。
この記事の目次
インドにおける食品安全基準の全体像と日本法との構造的差異
インドにおける食品の安全性および品質基準は、2006年食品安全基準法(Food Safety and Standards Act, 2006)によって包括的に規定されています。この法律の施行に伴い設立されたのが、インド食品安全基準庁(Food Safety and Standards Authority of India、以下「FSSAI」)です。FSSAIは、食品の製造、加工、保管、流通、販売、および輸入に至るすべてのサプライチェーンを単一の権限で監督し、科学的根拠に基づいた安全基準を策定する強力な規制機関として機能しています。
日本の法体系と比較した場合、最も留意すべき違いは規制の一元化と執行の厳格さにあります。日本では食品衛生法、食品表示法、JAS法など複数の法律が存在し、厚生労働省や消費者庁など複数の官庁が管轄を分担していますが、インドでは1954年食品不純物防止法や1955年果実製品令をはじめとする第2附則掲記の8項目の法令・命令が2006年食品安全基準法により廃止され、これらの法令・命令はFSSAIのもとに統合されました(ただし正味量や小売価格の表示など、食品以外の法令が引き続き適用される領域も残ります)。
したがって、インドで食品ビジネスを行う事業者は、添加物の許容基準からパッケージのラベル表示に至るまで、食品固有のコンプライアンス要件をFSSAIの規制枠組みの中で満たさなければなりません(ただし、正味量・小売価格・消費者への問い合わせ先の表示方法は2009年法定計量法およびその下位規則に従います)。
FSSAIによる強力な行政処分と、それに伴う法的リスクを如実に示しているのが、ボンベイ高等裁判所において2015年8月13日に判決が下された「Nestle India Limited v. Food Safety and Standards Authority of India & Others」(Writ Petition (L) No. 1688 of 2015)の判例です。この裁判では、ネスレ・インディア社が製造する即席麺(マギー)9種類に対し、FSSAIが鉛の含有量が許容基準を超過しているなどとして製造・販売・流通の停止を命じ、あわせて製品承認を取り消さない理由を示すよう求める通知(show cause notice)を発した行政処分の適法性が争われました。ボンベイ高等裁判所は、FSSAIによる販売禁止措置が事前の聴聞を欠いて自然的正義に反すること、認定を受けていない試験所の分析結果に依拠したこと、および同法第47条の手続を踏んでいないことを理由に、当該処分は恣意的で憲法第14条および第19条(1)(g)に違反するとして取り消しました。ただし同時に、製造と販売の再開には二段階の再検査を経るよう命じており、まず同社が保管する各バッチの5検体を判決が名指しした3か所のNABL認定試験所(ハイデラバードのVimta Lab、モハリのPunjab Biotechnology Incubator、ジャイプルのCEG Test House)で検査し、鉛が基準値内であれば製造の再開が認められ、さらに製造した製品を同じ3試験所で再度検査して基準値内であることが確認されて初めて販売が認められるものとされました。
この判例は、インドにおいて食品安全基準に疑義が生じた場合、外資系の大手企業であっても即座に事業継続が困難になるレベルの強力な処分が下されうること、そしてその是正には司法審査を経る必要があり相応の時間と負担を要することを示しています。
インド食品安全基準に基づく製造ライセンスと汚染物質検査の実務要件

インド国内で食品の製造や加工を行う事業者は、FSSAIから適切な製造ライセンスを取得した上で、自社製品の安全性を継続的に証明するための厳格な品質管理義務を負います。2011年食品安全基準(食品事業のライセンスおよび登録)規則のライセンス条件第12項により、事業者は製品に化学的または微生物学的な汚染物質が含まれていないことを確認するため、定期的な汚染物質検査を実施することが法的に義務付けられています。
FSSAIが2021年7月8日に発出した命令(No. 15(31)2020/FoSCoS/RCD/FSSAI)により、この汚染物質検査の実施期間の区切りと検査間隔が明確化されています。製造者はインドの会計年度を基準として、上半期(4月から9月)に1回、下半期(10月から3月)に1回、必須製品検査を実施しなければなりません(ライセンス条件第12項は6ヶ月に1回以上と定めており、これが下限となります)。ただし、9月または3月に新規のライセンスを取得した事業者は、その半期の必須検査を免除されます。さらに、同一製品に対する2回の必須検査の間隔は、最低でも3ヶ月以上空けることが要求されています。この検査は自社の設備で行うか、インド国家試験所認定委員会(NABL)の認定を受けた外部の研究所、またはFSSAIが公式に通知した認定研究所を利用して実施する必要があります。
日本企業がインド現地で製造委託を行う場合、委託先工場がこの厳格な汚染物質検査の頻度を遵守し、年次報告書の提出に向けたテスト結果の記録を適切に保管しているかを定期的に監査することが、法的リスクを低減する上で不可欠な実務対応となります。
インド食品安全基準に基づく輸入ライセンスと通関時のリスク管理
海外からインド市場へ食品を供給するためには、中央ライセンス当局から食品輸入ライセンスを取得する必要があります。インドの輸入通関は、税関の電子データ交換システム(ICEGATE)上のシングル・ウィンドウ(SWIFT)に一本化されており、輸入申告(Bill of Entry)はリスク管理システム(RMS)による選別(リスクベースのサンプリング判定)を経て、該当する貨物の申告がFSSAIの食品輸入クリアランスシステム(FICS)で処理される仕組みです。申告後、FSSAIの権限を与えられた職員(Authorised Officer)による厳密な書類審査と目視検査が実施され、これに合格して初めてサンプリング検査へと進むことができます。
目視検査において特に厳しくチェックされるのが、製品の残存賞味期限と輸送時の保管条件です。インドの輸入規制では、輸入申告の時点で製品の賞味期限が元の期間の60%以上残っているか、または最低でも3ヶ月以上残っていなければ(いずれか短い方を適用)、その食品を輸入することはできません。ただし、賞味期限が7日未満の極端に短い食品については分析報告の到着を待たずに手続を進めるための特則があり、冷凍・チルドなど特殊な保管条件を要する食品については、保税地域に所要の保管設備がない場合に限り、設備の整った施設へ貨物を移すための特則が設けられています。
特殊な保管設備が保税地域にない場合は、税関が輸入者の倉庫を保税地域として扱うことに異議がない旨を確認したうえで、輸入者が誓約書(FORM-12)を提出することを条件に暫定的な無異議証明書(Provisional NOC)が発行され、設備の整った保管施設へ貨物を移動させることが認められています。また、賞味期限が7日未満の食品については、輸入者が申告書(FORM-13)を提出し、権限を与えられた職員がサンプルを採取したうえで、試験所からの分析報告を待つことなく税関に対して暫定的な無異議証明書が発行されます。小売用の事前包装食品についても、目視検査とサンプリングが完了した後であれば、FORM-13Aの提出により保管施設への移動が認められることがありますが、正式な無異議証明書が発行されるまで販売はできません。このような迅速な手続きを活用するためには、現地の通関業者と連携した事前の書類準備が鍵となります。
独自文化を反映したインドの厳格なラベル表示実務

インドの食品市場において最も注意を払うべき要件の一つが、2020年食品安全基準(ラベル表示および表示)規則に基づくパッケージのラベル表示実務です。日本の法律には存在しないインド特有の厳格な制度として、宗教的および文化的な食習慣に配慮した「ベジタリアンマーク」および「ノンベジタリアンマーク」の表示義務が挙げられます。
ベジタリアン向けの食品においては、緑色の輪郭線を持つ正方形の中に、緑色で塗りつぶされた円を配したマークを表示することが義務付けられています。対照的に、肉、魚、卵などの動物由来の原材料(動物由来の食品添加物や加工助剤を含む)を使用したノンベジタリアン食品の場合は、茶色の輪郭線を持つ正方形の中に、茶色で塗りつぶされた三角形を配したマークを表示しなければなりません。このマークは、背景と対照的な色を用いて、製品パッケージの前面(フロント・オブ・パック)の主表示面に、製品名またはブランド名のすぐ近くへ目立つように表示しなければならず、マークの最小寸法は主表示面の面積に応じて定められています。ただし、ミネラルウォーター、包装飲料水、炭酸水、アルコール飲料、液状ミルク、粉乳および蜂蜜については、この表示義務は適用されません。
さらに、FSSAIのロゴおよびライセンス番号についても、背景色と明確に対照的な色(例えば白地に黒文字など)を用いてラベル上に表示することが求められます。アレルゲン情報に関しても詳細な規定があり、グルテンを含む穀物、乳、卵、魚、甲殻類、ピーナッツ、大豆などの主要アレルゲンに加えて、濃度が10mg/kg以上の亜硫酸塩を含有する場合も明記が義務付けられています。これらのラベル表示要件を欠いた場合、原則として製品はインド国内での流通を認められません。ただし輸入貨物については、ロット番号・日付表示・原産国の3項目を除き、保税倉庫内での事後修正が認められています。
インド通関時のラベル表示不備による廃棄処分リスクと実務対応
日本からインドへ食品を輸出するプロセスにおいて、企業に甚大な損害をもたらしやすいのが、通関時の目視検査におけるラベル表示の不備の指摘です。FSSAIは、税関の保税倉庫内において許容されるラベル表示の事後修正について、厳密な制限を設けており、修正が認められない不備が発覚した場合は即座に通関拒否(非適合報告書の対象)となり、積み戻しや廃棄処分を余儀なくされます。
2023年11月28日にFSSAIが発出したラベル修正に関する公式命令(F. No. TIC-B02/3/2023-IMPORTS-FSSAI)により、輸入食品貨物のラベル不備は、権限を与えられた職員またはその代理人による目視検査または再検査を受ける前であれば、剥がれない単一のステッカーの貼付その他の非取り外し可能な方法によって、原則として保税倉庫内で修正することが認められました。ただし、下表の右列に掲げる3項目についてはいかなる修正も認められません。
| 修正可能な表示項目(税関保税倉庫内での事後ステッカー貼付による対応が可) | 修正不可の表示項目(不備が発覚した場合、即時通関拒否・廃棄処分の対象) |
| 輸入者の名前および住所 | ロット番号・コード番号・バッチ識別番号 |
| FSSAIロゴおよびライセンス番号 | 日付表示(製造年月日・包装年月日・賞味期限など) |
| ベジタリアン・ノンベジタリアンのロゴ | 原産国名(輸入食品の場合) |
| プロプライエタリ食品のカテゴリー、一般的な名称、性質、成分 |
表に示される通り、ロット番号や日付表示、原産国といった製品のトレーサビリティや安全性に直結する重要な情報については、通関時の事後修正が一切認められていません。したがって、日本側の製造ラインで製品パッケージに情報を印字する段階から、インドの法令に合致した日付フォーマットやロット番号を付与することが絶対条件となります。
QRコードを活用した情報提供に関するFSSAIの勧告と最新動向

インドにおける食品安全規制の最新のトレンドとして、デジタル技術を活用した情報の透明性確保と消費者保護の強化が急速に進んでいます。近年の動向として特に注目すべき要件が、デジタルQRコードを通じた情報提供です。もっとも、これはFSSAIの勧告(advisory)にとどまり、中央法令・規則の統合版(表示陳列規則2020 Version VIII・2025年9月9日時点)には、事前包装食品のラベルへのQRコード表示を義務付ける規定は置かれていません。
FSSAIは2023年10月12日付の公式勧告(File No. SS-M017/1/2023-Standard-FSSAI)において、視覚障害者を含む消費者が食品の情報に容易にアクセスできるよう、製品ラベルにQRコードを組み込むことを食品事業者に推奨しました。
このQRコードには、製品の原材料、栄養成分、アレルゲンおよびアレルゲンに関する警告、製造日、賞味期限、顧客からの問い合わせ先などを含めることが望ましいとされています。ただし同勧告は、QRコードがラベル上に義務付けられた表示事項に代わるものではないことを明記しています。情報アクセシビリティの観点から、今後の動向を注視すべき要素です。
さらに、デジタル対応を求める動きは製品パッケージに留まらず、食品を提供する事業所の実店舗における規制にも及んでいます。FSSAIは2025年7月25日付の勧告(F. No. RCD-18001/1/2021-Regulatory-FSSAI(E-2682))でデジタル対応を求め、同年8月1日付のプレスリリースを通じてこれを公表しました。
この勧告により、レストラン、ダバ、カフェ、飲食店をはじめとする食品事業者は、入り口やレジカウンター、客席など顧客から見える場所に、FSSAIがライセンス/登録証の1頁目に印刷した「Food Safety Connect」アプリのQRコードを含む当該証明書を掲示するよう求められています。これは新たな義務の創設ではなく、様式Cのライセンス写しを店舗内の目立つ場所に常時掲示するというライセンス条件第1項の履行として位置づけられています。消費者はこのQRコードをスマートフォンでスキャンしてアプリを利用することで、食品の安全性や衛生面に関する苦情の申し立て、食品の誤解を招く表示の通報、ライセンス・登録を受けた事業者の基本情報の確認などを行うことができます。申し立てられた苦情は、当該事業者を管轄する当局へ自動的に回付されます。インドでビジネスを展開する企業は、自社の製品や店舗、ウェブサイト等のデジタル資産上において、こうした最新のFSSAIのデジタルコンプライアンス要求に迅速に対応する必要があります。
日本側の出荷前チェック体制でインドの法的リスクを回避
インド市場における厳格な法執行と通関手続きの特性を踏まえると、事後的なトラブル対応よりも、日本側の出荷段階で法的リスクを排除する予防的なチェック体制の構築が有効な対応となります。インドの通関における食品検査では、非適合報告書に対する審査申立ての手続は設けられているものの、判定を覆すことは容易ではなく、貨物の滞留による物流コストの損失やブランドイメージの低下に直結します。
日本から食品を輸出する前に、まずは製品に使用されているすべての原材料や食品添加物がFSSAIの許可リストに掲載されており、かつインドの定める使用上限値の範囲内に収まっているかを科学的に照合するプロセスが不可欠です。日本国内で合法的に使用されている一般的な添加物であっても、インドでは食品安全基準法第19条により添加物の使用が同法および同法に基づく規則への適合を条件とされているため、使用が認められないケースが存在します。
また、パッケージのラベルデザインを最終決定する前に、ベジタリアンマークの色や配置が規定通りに前面パネルに設定されているか、FSSAIロゴのコントラストが十分に確保されているか、アレルゲン表記に漏れがないかを法的な視点で徹底的に監査する必要があります。特に、事後修正が認められない「ロット番号」「製造年月日」「賞味期限」「原産国」については、出荷前の日本の倉庫で最終的な抜き取り検査を実施し、印字の欠落やフォーマットの誤りがないかを確認する強固なオペレーションを組み込むことが推奨されます。
現地の輸入業者や通関業者と緊密に連携し、出荷前にラベルのデジタル校正刷りを共有して現地の税関当局の目線による事前確認を行っておくことが、廃棄処分という最悪の事態を防ぐための最も効果的な実務対応となります。
まとめ
インドにおける食品ビジネスは巨大な市場機会を提供する一方で、FSSAIが一元的に管理する厳格かつ複雑な法規制を遵守する必要があります。製品の安全性を担保するための半期ごとの汚染物質検査義務から、インド独自の文化を反映したベジタリアンマークのラベル表示、さらにはロット番号・日付表示・原産国の3項目という事後修正が認められない項目を含む通関検査まで、事前の準備不足は製品の廃棄処分や販売禁止といった致命的な経営リスクに直結します。加えて、QRコードを活用したデジタル情報提供に関するFSSAIの勧告など、現地の法令や運用は継続的に更新されており、これらに適応するための機敏なコンプライアンス体制の構築が不可欠です。
モノリス法律事務所は特にIT関連に専門性を有する法律事務所です。モノリス法律事務所はインドの法律事務所と提携しており、現地法令や現地における手続きに対応することができます。当事務所の専門的な知見と現地の強力なネットワークを活用することで、最新のFSSAI規制への適合性評価、デジタル化要件への技術的かつ法的な対応、そして通関トラブルを未然に防ぐための強固な日本側の出荷前チェック体制の構築を全面的にサポートいたします。複雑化するインドの食品安全基準を正確にナビゲートし、安全かつ持続可能な市場参入を実現するための法務戦略を共に構築してまいります。
モノリス法律事務所は、インド法務に関する調査および情報提供を目的として、現地法律事務所Quest IP Attorneysと非独占的な提携関係(Associate Firm / Correspondent Firm)にあります。
カテゴリー: クロスボーダー
































