カザフスタンの資金決済法および暗号資産規制を解説

カザフスタン共和国(以下、カザフスタン)は豊富なエネルギー資源を背景に中央アジア最大の経済規模を誇る国家であり、近年は金融テクノロジーおよびデジタル資産分野の国家的なハブとしての地位を確立すべく、急速な法整備を進めています。2025年から2026年にかけて同国は従来の放任主義的な暗号資産マイニングの拠点から、カザフスタン国立銀行およびアスタナ金融サービス局の厳格な監督下に置かれた透明性の高いデジタル金融エコシステムへと大きく変貌を遂げました。この変革の核となるのが、日本の資金決済法に相当する決済システム法制と、2023年に施行され2025年および2026年に大幅に改正されたデジタル資産法に基づく包括的な規制枠組みです。
カザフスタンの最新規制動向は大きく4つの柱から構成されています。第一に、暗号資産およびデジタル資産の法制化に関する厳格なライセンス制度の導入です。ビットコインなどの無担保デジタル資産は中央銀行またはアスタナ国際金融センターの承認を受けた銘柄のみが国内取引可能となり、無許可のプラットフォームは徹底的に排除されています。
第二に、キャッシュレス決済とステーブルコインの普及に向けた国家インフラの整備です。民間におけるQRコード決済の圧倒的な普及に加え、中央銀行デジタル通貨であるデジタル・テンゲが実用化段階に入り、世界的企業と提携したステーブルコイン決済のロードマップが推進されています。
第三に、世界有数の規模を誇る暗号資産マイニング事業者に対する厳しい規制です。電力網の保護と国家の利益確保を目的とし、国内での法人登記義務に加え、2026年8月からは採掘したデジタル資産の一部を国家戦略暗号資産準備金へ拠出することが新たに義務付けられました。
第四に、市場の透明性向上を目的とした大胆な税制優遇措置の導入です。2026年から2028年末までの期間限定で、国内の認可プラットフォームへ資産を移転および申告した個人の暗号資産取引における所得税を免除する措置が講じられており、アンダーグラウンドの資金を正規の金融システムへ統合する動きが加速しています。
これらの枠組みは日本の資金決済法や金融商品取引法と比較して特区を用いた規制の柔軟性と国家主導のデジタル化という点で大きな違いを持っており、進出企業はこれらの法廷要件を正確に把握することが求められます。本記事では、カザフスタンにおける資金決済や暗号資産に関する法規制の最新動向について、同国でのビジネス展開を検討する上で不可欠となる法的知識を詳細に解説します。
この記事の目次
カザフスタンのデジタル資産法に基づく暗号資産の定義と法制化
カザフスタンにおける暗号資産規制の根幹をなすのが、2023年4月1日に施行され、その後2025年および2026年にかけて大幅な改正が加えられたデジタル資産法(法律第193-VII号)です。この法律はデジタル資産を法的に定義し、その発行から流通までのプロセスを国家の管理下に置くことを目的としています。この法律に基づくデジタル資産規制の概要や制度改正については、カザフスタン国立銀行の公式ウェブサイトで確認することができます。
参考:カザフスタン国立銀行「デジタル資産市場の規制」(英語)
同法第1条においてデジタル資産は大きく担保付きデジタル資産と無担保デジタル資産の2つに分類されています。担保付きデジタル資産とは金銭や有価証券を除く有形または無形の資産に対する権利を証明するトークンを指し、日本の金融商品取引法における電子記録移転有価証券表示権利等や資金決済法における一部の前払式支払手段に近い性質を持ちます。一方でビットコインやイーサリアムなどに代表される無担保デジタル資産は、原資産の裏付けを持たないデジタル資産として明確に定義されています。カザフスタンの法制度における最大の特徴は、この無担保デジタル資産の国内での発行および流通を原則として禁止し、法的に認可された特定のプラットフォーム上でのみ例外的に許可している点にあります。
2026年1月の関連法改正によりカザフスタン国立銀行の権限が大幅に強化され、これまで暗号資産取引所の運営は主に英米法をベースとした経済特区であるアスタナ国際金融センターの管轄下でのみ許可されていましたが、新たな法制下では国立銀行の厳格な審査とライセンス付与を受けた事業者も国内でデジタル金融資産の取引所として活動することが可能となりました。同法第12-4条では無担保デジタル資産取引所の経営陣に対する適格性要件が定められており、過去に破綻した金融機関の役員であった者やマネーロンダリングへの関与が疑われる者は徹底的に排除されます。
これにより、認可を受けた取引所のみが合法的に運営を許され、顧客身元確認およびマネーロンダリングおよびテロ資金供与対策の徹底が義務付けられています。
カザフスタンの二元的な規制アプローチと日本法との異同

カザフスタンのデジタル資産法制を日本の資金決済法や金融商品取引法と比較すると、規制のアプローチに構造的な違いが存在します。日本の資金決済法では暗号資産を代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値と定義し、国内で業として暗号資産の交換等を行うすべての事業者に対して金融庁への暗号資産交換業者としての登録を一律に義務付けています。日本法は利用者の財産保全とマネーロンダリング対策を全国一律の基準で適用する一元的な規制を採用しています。
これに対し、カザフスタンの規制は二元的な規制アプローチを採用している点から、海外企業に対してより戦略的な市場参入の選択肢を提供しているということが言えるでしょう。カザフスタンでは国内の一般法に基づくカザフスタン国立銀行の監督を受けるルートに加えて、アスタナ国際金融センターという特区を利用するルートが存在します。アスタナ国際金融センターはアスタナ金融サービス局という独立した規制当局を持ち、同局が制定するデジタル資産活動規則に基づいてライセンスを付与しています。外資系企業や大規模な暗号資産取引所は英米法に準拠し英語での手続きが可能で、なおかつ特定の金融サービスにおいて2066年まで法人税の免除措置を受けられるアスタナ国際金融センターの枠組みを選択するのが一般的です。
ただし、暗号資産取引所の運営事業そのものについては例外的に法人税免除の対象外となり標準税率である20%が適用されるなど、細かな課税要件が設定されている点には留意が必要です。アスタナ金融サービス局の規制に関する詳細は同局の公式ウェブサイトで確認することができます。
日本の経営者や法務部員がカザフスタンでのビジネス展開を検討する際、自社のサービスが特区のライセンスを必要とするのか、あるいは一般法に基づく国立銀行のライセンスで十分なのかを見極めることが最重要課題となります。また日本では暗号資産は法定通貨ではないものの広く決済手段としての利用が法的に容認されていますが、カザフスタンでは暗号資産を法定通貨であるテンゲの代替として商品やサービスの直接的な決済に使用することは法律で固く禁じられており、あくまで投資対象や限定的な交換媒体としての位置付けに留められている点に注意が必要です。
キャッシュレス決済の浸透とデジタル・テンゲの社会実装
カザフスタンにおける資金決済の領域では民間主導のキャッシュレス化と国家主導のデジタル通貨プロジェクトが並行して急速に進行しています。国内の決済および送金サービスは決済および決済システムに関する法によって規制されており、日本の資金決済法における資金移動業や前払式支払手段の発行に相当する業務要件が定められています。
民間の決済インフラにおいて圧倒的なシェアを誇るのが現地のフィンテック企業が提供する金融スーパーアプリのKaspiです。KaspiはQRコード決済や個人間送金およびオンラインショッピングなどを統合したプラットフォームであり、カザフスタン国民の日常生活に不可欠な社会インフラとして機能しています。日本の決済市場が多様なQRコード決済事業者やクレジットカード会社によって細分化されているのとは対照的に、カザフスタンでは単一のスーパーアプリが市場を席巻しており、同国に進出する小売業やサービス業はこの独自の決済エコシステムへの統合を前提としたビジネスモデルを構築する必要があります。
これと並行してカザフスタン国立銀行は、中央銀行デジタル通貨であるデジタル・テンゲの導入を強力に推進しています。2023年11月に商用運用が開始されたデジタル・テンゲは、2025年に公開されたホワイトペーパーにおいてその実用化の成果が詳細に報告されました。日本のデジタル円が現在も実証実験の段階にあり慎重な検討が続けられているのに対し、カザフスタンは既にデジタル・テンゲを実際の国家予算の執行や公共調達のプロセスに組み込んでいます。デジタル・テンゲの社会実装に関する成果報告はカザフスタン国家決済公社の公式ウェブサイトで確認することができます。
特に注目すべきはデジタル・テンゲに実装されたスマートコントラクトによるプログラマビリティです。パイロットプロジェクト(実証実験プログラム)では国家ファンドから拠出される鉄道建設の資金や学校給食の補助金などに対して用途や支払い条件を限定するマーキング技術が適用されました。これにより資金が指定された目的以外に使用されることをシステム上で防ぎ、汚職の防止と公的資金の透明性向上に成功しています。
以下はカザフスタンと日本における資金決済および暗号資産関連制度の主要な違いをまとめた表です。
| 比較項目 | カザフスタン | 日本 |
| 規制および監督の主体 | カザフスタン国立銀行およびアスタナ金融サービス局 | 金融庁および日本銀行 |
| 中央銀行デジタル通貨の状況 | デジタル・テンゲが商用運用中でありプログラマビリティを社会実装 | 実証実験段階であり本格的な社会実装には至っていない |
| 個人向け税制措置 | 認可プラットフォーム利用で2028年末まで個人所得税を免除 | 雑所得として最大55%の総合課税が適用される |
| マイニング事業者への規制 | 法人登記義務および国家戦略暗号資産準備金への一部拠出義務 | 業としての直接的なライセンス規制はなく一般法が適用 |
さらに2026年に向けては世界的暗号資産取引所のバイナンスなどの民間プラットフォームと提携し、デジタル・テンゲのインフラを活用した法定通貨裏付け型のステーブルコインの発行や中央アジアおよび東欧圏をターゲットとしたクロスボーダー決済ハブの構築が進められており、カザフスタンは決済技術の革新において世界の最前線に立っているということが言えるでしょう。
カザフスタンの暗号資産マイニング事業者に対するライセンス要件

カザフスタンは安価な電力と寒冷な気候を背景に、一時期は世界有数のビットコイン採掘速度を誇る巨大なマイニング拠点へと成長しました。しかし急速なマイニング産業の膨張は国内の電力網に深刻な負荷をもたらし電力不足を引き起こしたため、カザフスタン政府はマイニングを完全に合法な産業として認める一方で、国家の管理下に置く法整備を実施しました。
2023年に施行されたデジタル資産法第1条第7項および第8項等により、マイニング活動を行うためには国家からのライセンス取得が義務付けられ、事業者はカザフスタン国内で法人または個人事業主として登記を行わなければならなくなりました。これにより実態のない海外からのクラウドマイニング事業者は排除されました。さらにマイニング事業者が使用できる電力は国家の電力網において余剰がある場合に限定されるなどの厳しい運用ルールが課されています。
この規制は年々厳格化されており、2026年8月に施行された最新の法改正では、国家戦略に基づく新たな義務が追加されました。これまでは採掘されたデジタル資産の最大75%を国内の認可取引所で売却することが義務付けられていましたが、新たなルールではこの売却義務が撤廃された代わりに、戦略的地位を持つ大手マイニング事業者は、採掘したデジタル資産の約10%を国家戦略暗号資産準備金として国立銀行が管理するファンドへ拠出することが義務付けられました。この措置は国家のエネルギー資源を消費して生み出された富の一部を国家の準備資産として直接的に還元させることを目的としています。
日本の法律では、暗号資産マイニングそのものを直接的に規制する業法は存在せず、一般的な電気通信事業法や税法の枠内で扱われているにとどまっています。カザフスタンのように、マイニングを国家のエネルギー安全保障および戦略的資産の蓄積と直接結びつける法体系は、独特かつ強力な規制モデルであると考えられます。
暗号資産取引の合法化を促進するカザフスタンの税制優遇措置
カザフスタン政府は暗号資産市場への規制を強化する一方で、国内の適法なエコシステムを育成しアンダーグラウンドで行われている取引を正規の金融システムに組み込むためのインセンティブ政策を打ち出しています。その代表的なものが個人投資家向けの時限的な税制優遇措置です。
この措置により、2026年から2028年12月31日までの期間、カザフスタン国内で認可を受けた暗号資産プラットフォームを通じて行われた暗号資産取引によって得られた個人のキャピタルゲインについて、個人所得税が完全に免除されることとなりました。カザフスタンでは、2026年1月より個人の所得税が累進課税制度へと移行しており最大15%の税率が適用されますが、指定された国内取引所を利用する限りこの税負担から免れることができます。これは事実上の免罪符制度として機能しており、海外の無許可プラットフォームや個人のコールドウォレットに隠匿されていた暗号資産を国内の監視可能なシステムへと移転させることで市場の透明性を高め、将来的な国際的な税務情報自動交換に向けた準備を整える狙いがあります。
この点は日本の税制と決定的な違いをもたらしています。日本では暗号資産の売却等による利益は原則として雑所得に分類され、給与所得など他の所得と合算された上で最大55%の総合課税の対象となります。日本における高い税率と損益通算の制限は、多くの投資家や起業家にとって暗号資産ビジネスを展開する上での大きな足かせとなっているのが現状です。カザフスタンが導入した期間限定の税制免除措置は、同国を暗号資産関連の拠点として検討する日本の経営者にとって、非常に魅力的な事業環境を提供しているということが言えるでしょう。
違法取引所に対するカザフスタンの厳格な法執行と裁判例

カザフスタンは合法的なデジタル資産市場の育成と並行して、無許可で運営される違法な暗号資産取引所や詐欺的スキームに対する法執行を強化しています。この取締りの中核を担うのが金融監視庁です。同庁はマネーロンダリングおよびテロ資金供与対策の観点から、適法なライセンスを持たずにカザフスタン居住者に対してサービスを提供するプラットフォームへのアクセス遮断や関連する銀行口座の凍結を大規模に実施しています。
具体的な法執行の事例として摘発されたAmir Capitalを巡る大規模な詐欺スキーム事件が挙げられます。Amir Capitalは国際的な投資ファンドを装いカザフスタンを含む複数の国の市民から高利回りを謳って資金を集めていました。金融監視庁の主導による捜査の結果このスキームは完全に崩壊し、当局は被害者救済と犯罪収益剥奪のため総額約1,000万ドル相当の暗号資産を押収するに至りました。この事件に関する金融監視庁の対応方針は関連する公的報告を通じて確認することができます。
また、司法の場においても暗号資産の法的地位に関する判断が蓄積されつつあります。カザフスタン共和国最高裁判所は2023年11月2日付の規範的決定第2号において、破産および再生手続における法人の財産評価の基準を示し、暗号資産などのデジタル資産が法人の破産財団に組み込まれる財産としての性質を有することを明確に示しました。カザフスタン最高裁判所の規範的決定に関する法務解説は専門家の分析記事で確認することができます。
さらにアスタナ国際金融センター内に設置されたアスタナ国際金融センター裁判所においても、デジタル資産を巡る企業間の紛争解決が実務として定着しています。2025年に同裁判所で審理された併合事件第26号および第30号においては、外国企業の登録取り消しやデジタル資産に関連する清算手続きの法的解釈が示され、英米法に基づく予測可能性の高い司法判断が提供されました。このように最高裁判所や特区内の独立した裁判所のレベルでデジタル資産の財産的価値と法的拘束力が明文化されたことは、カザフスタンの法制度がデジタル時代の実体経済に即して高度にアップデートされている証左です。
日本の裁判実務においても、暗号資産の強制執行や破産財団への組み入れは認められていますが、カザフスタンでは法制度の改定から司法判断の確立に至るまでのスピードが極めて速い点に特徴があります。
まとめ
カザフスタンの資金決済および暗号資産に関する最新の法規制は単なる規制強化に留まらず、国家主導で透明性の高いデジタル金融ハブを構築するための戦略的な制度設計に基づいています。デジタル資産法による厳格なライセンス制度、デジタル・テンゲの実用化とプログラマビリティの活用、マイニング事業者への国家戦略準備金拠出義務、そして市場健全化を目的とした2028年までの個人所得税免除措置など、これらはすべてカザフスタンが中央アジアにおけるテクノロジーと金融の中心地となるための布石です。特に英米法に基づくアスタナ国際金融センターの特区制度と一般的な大陸法系の国内法制度が併存するデュアルシステムは、日本企業に対して柔軟かつ有利な進出スキームを提供しています。
しかしながらこうした急激な法改正や税制およびマネーロンダリング対策規制の厳格化に伴うコンプライアンス要件の複雑さは、海外から進出する企業にとって大きな法的リスクにもなり得ます。日本法との差異を正確に理解し現地規制当局の要求水準を満たすためには、現地の法制度に精通した実務的かつ専門的なリーガルチェックが不可欠です。カザフスタンでのビジネス展開やコンプライアンス体制の構築をご検討される場合、モノリス法律事務所が法務面からサポートいたします。事前の規制調査からライセンス取得に向けた法的手続きに至るまで、カザフスタンにおける安全かつ円滑な事業展開に向けた対応をご提供いたします。
































