NASDAQ「MVLS500万ドル」規則がSEC本委員会レビューへ―10月6日の意見書提出期限と日本企業への影響

NASDAQの新たな継続上場基準「MVLS500万ドル」をめぐる手続きが、SEC本委員会による審査へ進みました。2026年9月11日、米国証券取引委員会(SEC)は、承認命令に対する審査申立てを認め、賛否の意見書の提出期限を10月6日としました。ただし、これは最終判断の期限ではありません。承認命令の効力停止は継続しており、新基準が再び適用されるか、その時期がいつになるかは確定していません。
新基準は、上場有価証券の市場評価額であるMVLSが500万ドルを30営業日連続で下回ると、通常の是正期間を設けずに取引停止・上場廃止手続きへ進む内容です。適用された場合の影響が大きいため、効力停止中も複数の発行会社が関連リスクを開示しています。本記事では、執筆時点(2026年10月1日)で確認した手続の状況、停止の法的意味、開示の具体例を整理し、NASDAQ上場を目指す、または既に上場している日本企業に必要な備えを解説します。
この記事の目次
NASDAQ「MVLS500万ドル」規則をめぐるSEC審査の経緯
対象は規則変更案「SR-NASDAQ-2026-004」です。規則の内容に関する審査と、承認命令を見直す審査とを分けると、現在の位置付けが明確になります。
修正案の提出から承認命令の効力停止まで
NASDAQは令和8年6月18日、当初の申請を全面的に差し替える修正案第1号(Amendment No.1)を提出し、同月25日に連邦官報で公告されました。その後、7月22日、SECの取引・市場部門が、委員会から委任された権限に基づいて修正後の規則案を承認しました。承認命令はRelease No.34-105971で、連邦官報への掲載日は7月27日です。
7月29日には、Small Public Company Coalition(SPCC)とCemtrex社が、それぞれ承認命令の審査を申し立てる意思を通知しました。これに伴い承認命令の効力が自動的に停止し、両者は8月5日に正式な審査申立書を提出しています。
効力停止までの規則内容や議論については、以下の記事にて詳しく解説しています。
2026年9月11日の命令は本委員会による審査を認めるもの
9月11日の命令は、SPCCとCemtrex社の申立てを認め、本委員会が承認命令を審査する手続に進めるものです。反対当事者の主張が正しいと判断したものでも、規則案を撤回したものでもありません。
委任された部門による承認と、本委員会による見直しは別の段階です。企業としては、「一度承認されたから実施が確実」「審査が認められたから規則は廃止される」という、いずれの前提にも依存しない対応が必要です。
SECの2026年10月6日期限とMVLS規則の効力停止の意味

今後の予定を判断するうえでは、意見書の提出期限と、効力停止が終了する条件の違いが重要です。
10月6日は最終判断ではなく意見書の提出期限
SECは、承認命令に賛成または反対する意見書を、当事者その他の者が10月6日まで提出できるとしています。SECの公式掲載ページも、同日をコメント提出期限として表示しています。審査申立人だけが提出できる仕組みではありません。
一方、この日付を「本委員会の審査期限」や「新基準の適用開始日」と説明することは適切ではありません。同日を過ぎれば自動的に承認が確定するという内容でもなく、企業の対応日程を10月6日だけに結び付けることは避けるべきです。
参考:米国証券取引委員会(SEC)|Order Granting Petitions for Review and Scheduling Filing of Statements(提出期限の公式表示)
効力停止は規則の撤回や恒久的な適用免除ではない
SEC実務規則431(e)は、委任権限に基づく行為について、審査申立てを行う意思の通知により、委員会が別途命令するまで自動的に効力を停止する仕組みを定めています。9月11日の命令も、さらなる委員会の命令があるまで承認命令の停止を維持すると明示しました。
したがって、確認した命令の下では、本件新基準の執行は停止しています。しかし、その停止は、将来にわたって適用しないとの判断ではありません。また、従来から存在する他の継続上場基準まで停止するものではなく、別の基準に抵触した場合の対応は引き続き必要です。
停止が解除される場合には、実施時期や30営業日の算定についても、その時点の命令・NASDAQの案内を確認する必要があります。「停止中の日数は当然に算入されない」「解除後は必ず30営業日の準備期間がある」といった前提を、現在の資料だけから置くべきではありません。
MVLS500万ドル規則の厳しさと不服申立ての限界
以下は、承認された内容が適用される場合の説明です。現時点で本件新基準が執行されているという意味ではありません。
株価だけでなく上場有価証券の評価額を判定する
MVLSはMarket Value of Listed Securitiesの略で、上場有価証券の市場評価額を意味します。承認命令では、市場価値は統合終値気配値に評価対象数量を乗じて計算し、上場有価証券にはNASDAQまたは他の全国証券取引所に上場する証券が含まれると説明されています。
新たな500万ドル基準は、NASDAQのグローバル・セレクト、グローバル、キャピタルの各市場に関係します。最低株価の基準とは異なり、1株当たりの価格だけを管理しても十分ではありません。また、会社が保有する現預金や純資産の額とも異なる指標です。
30営業日連続の不適合後に通常の是正期間を与えない
承認された内容では、MVLSが500万ドルを30営業日連続で下回ると、NASDAQの担当部門による上場廃止決定(Staff Delisting Determination)が発せられ、直ちに取引停止・上場廃止手続の対象になります。決定前に通常の是正期間は与えられず、聴聞パネルへの適時の審査請求も、取引停止を止めません。
ここで、担当部門の決定と、争う余地のない最終的な上場廃止の確定は区別が必要です。不服申立ての機会は残りますが、その間もNASDAQで売買できるとは限らない点が、この仕組みの実務上の重さです。
委員会はこの設計の根拠として、自らの分析により、MVLSが500万ドルを30営業日連続で下回った発行会社の65%が、その後180日を経過してもなお500万ドル未満であり、評価額の中央値は370万ドルを下回っていたと認定しています。従来型の180日の是正期間が、この水準の発行会社にとって回復期間として機能していなかったという判断です。
OTC取引と最大180日の例外にも注意が必要
NASDAQは、聴聞パネルの審査中、証券は一般にOTC市場で取引されると説明しています。OTCとは、取引所を通さない店頭取引です。ただし、NASDAQでの取引停止後に必ず代替市場が確保され、同じ条件で売買できることを保証する説明ではありません。
承認された規則では、新設のListing Rule 5815(c)(1)(I)により、担当部門の上場廃止決定から最大180暦日の例外期間を聴聞パネルが認める仕組みが設けられています。しかし、その目的は、新規上場に必要な全要件を満たすことを企業が示すためのものです。MVLSだけを回復すれば足りる通常の是正期間とは異なり、全社に当然に与えられるものでもありません。決定に誤りがあればパネルが取り消す余地もあります。
効力停止中でも進むMVLS規則のリスク開示
企業の提出書類では、執行停止と将来の上場廃止リスクを分けた説明が確認できます。以下はSECの電子開示システムEDGARで公開されている例です。企業自身のリスク説明であり、SECがその予測を保証したものではありません。
目論見書・四半期報告書に見られる具体例
Elong Power Holding Limitedの目論見書には、承認命令が停止されていることに加え、規則が維持された場合に基準を満たせない可能性が記載されています。上場廃止後に代替市場が確保できなければ、株主による売却が極めて困難になる可能性にも言及しています。
参考:米国証券取引委員会(SEC・EDGAR)|Elong Power Holding Limited, Form 424B3, Risk Factors
Aterian社も四半期報告書のリスク要因で、停止が解除され規則が実施された場合の取引停止・上場廃止リスクを説明しています。その影響として、株式の流動性、追加の資金調達、投資家や取引先からの信頼などを挙げています。
参考:米国証券取引委員会(SEC・EDGAR)|Aterian, Inc., Form 10-Q, Risk Factors
さらにPRF Technologies社は、9月2日時点の自社MVLSを約340万ドルと記載し、停止解除後に規則が発効して基準を満たせなければ、取引停止・上場廃止の対象になると説明しています。制度の一般論だけでなく、自社の数値との関係を示した例です。
参考:米国証券取引委員会(SEC・EDGAR)|PRF Technologies Ltd, Exhibit 99.2, Risk Factors
日本企業の開示も自社の状況に即して検討する
これらから、効力停止中であることだけを理由に、将来の適用リスクを検討対象から外す対応は適切でないと考えられます。他社の記載の転記だけでは不十分です。
実務上は、自社MVLSの水準と変動、資金調達への依存度、取引停止が事業計画へ与える影響を整理し、個別事情に応じて開示の必要性と内容を検討することが有益です。「既に適用中」と誤認させず、停止解除や実施を条件とするリスクとして説明する必要があります。
NASDAQ上場を目指す日本企業のMVLS管理と資本政策

ここからは、以上の制度と開示例を踏まえた実務上の提案です。規則にない独自の数値を義務として扱わず、対応に必要な時間を確保する観点から管理体制を設計します。
日次の監視と社内での早期判断を組み合わせる
日次管理では、MVLSの額、500万ドルまでの余裕、基準未満の日数、株式数と価格の出所を記録します。担当者が数値を把握していても、経営判断へつながらなければ十分ではないため、経営陣への報告時点と対応責任者も決めておくことが有益です。
例えば、対象株式数が変わらないという仮定では、MVLSが600万ドルでも株価が20%下落すれば480万ドルになります。この例からも、単に500万ドルを上回っていることと、対応余力があることは同じではありません。社内の警戒水準は、株価変動と資金調達に要する期間から設定するのが合理的です。
計算に際しては、情報サイトの「時価総額」をそのまま採用せず、上場する証券の種類や算定対象を確認します。米国預託証券を用いる場合も、その表示単位と原株との関係を整理する必要があります。米ドル建てで評価する証券について、円安だけを理由にMVLSが機械的に減ると捉えることは適切ではありません。
株式併合とMVLS回復策を分けて検討する
SECの投資家向け説明では、株式併合は複数の株式を少ない数の株式にまとめるもので、例えば10対1の併合では10株が1株になるとされています。実務上は最低株価基準への対応手段として用いられることが多い手法です。
参考:米国証券取引委員会(SEC・Investor.gov)|Reverse Stock Splits
しかし、株式数が10分の1となり、価格が理論上10倍になっても、その積は変わりません。したがって、株式併合だけでMVLS不足を解消できるという計画は成り立ちません。最低株価への対応と、市場評価額全体への対応を別々に検討する必要があります。
増資を検討する際も、調達額がそのままMVLSの増加額になるとは限りません。発行条件や希薄化に対する市場の評価によって株価が変動するためです。調達額、発行後の株式数、複数の想定株価を組み合わせて検証し、資金調達後も基準への余裕が残るかを確認することが考えられます。
上場前から取引停止後までを見据えて備える
上場準備中の企業は、公開時の評価額だけでなく、上場後に株価が下落した場合の対応可能性を事業計画に織り込むことが重要です。追加資金が必要になる時期と、上場維持への対応が必要になる時期が重なれば、資本政策の選択肢が狭まるおそれがあります。
既上場企業では、増資の実行手続きや所要期間を平時に整理し、米国の弁護士、証券会社等との連絡体制を整えておくことが有益です。最大180日の例外を検討する場合にも、自社が新規上場要件を満たせる見込みを確認し、例外の取得を当然の前提にしない計画が求められます。
また、取引停止が資金調達契約や投資契約に影響するかは、個別の契約条項を確認する必要があります。株主への説明、代替市場での取引の見込み、当面の運転資金を一体として点検すれば、手続上の不服申立てだけでは対応しきれない事業上の影響にも備えられます。
まとめ:NASDAQのMVLS500万ドル規則の動向には注視を
NASDAQのMVLS500万ドル規則は、SEC本委員会による審査へ進みましたが、承認命令の効力停止は継続しています。10月6日は賛否の意見書の提出期限であり、最終判断や適用開始が予定された日ではありません。一方、規則が実施されれば、通常の是正期間なしに取引停止・上場廃止手続へ進む可能性があり、不服申立てだけでNASDAQでの取引を維持できる仕組みでもありません。
「停止は戦略ではない」という視点が重要です。日本企業は、停止解除を予断せず、MVLSの継続的な把握、資本政策の実行可能性、自社に即したリスク開示を準備する必要があります。新たな命令や実施案内を確認しながら、株価変動と対応期間を踏まえて判断できる体制を整えることが、上場維持と事業継続の両面で有益です。
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タグ: NASDAQ上場支援アメリカ
































