弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

クロスボーダー

チュニジアのビジネスにおける許認可制度を解説

クロスボーダー

チュニジアのビジネスにおける許認可制度を解説

チュニジア共和国(以下、チュニジア)は、北アフリカにおいて地中海に面し、欧州とアフリカ大陸、さらには中東市場を結ぶ戦略的な地理的拠点として、多様な多国籍企業から長年にわたり注目を集めています。歴史的にフランス法体系の強い影響を受けつつ独自の発展を遂げてきたチュニジアの法制度は、近年、経済成長と外資誘致を至上命題として、大規模な法改正を通じた近代化と国際標準への適合を急速に進めています。チュニジアは、2016年投資法およびそれを具体化する2018年政令の施行により、長年続いてきたポジティブリスト方式から転換し、原則として投資の自由を広く保障しているということが言えるでしょう。

しかしながら、その一方で、天然資源の開発、大規模インフラ整備、通信、そして安全保障に関わる分野など、特定の100事業分野においては依然として関係各省庁の承認を伴う厳格な事前許可制度が維持されています。さらに、外資企業が直面する実務上の障壁として、2022年10月に電撃的に導入された消費財の輸入に関する事前管理規則や、チュニジア・ディナールの持ち出しを厳しく制限する外貨管理規制など、日本の法制度とは根本的な思想を異にする独自の強行法規が存在しています。日本においては、国家の安全保障に関する一部の例外を除き、外国為替及び外国貿易法(外為法)等の枠組みの中で比較的緩やかな事後報告や自由な取引が原則とされていますが、チュニジアにおいては事前の承認と厳格な書面審査がビジネスのあらゆる局面に介在します。

したがって、現地で適法かつ円滑に事業を立ち上げ、持続的な成長を実現するためには、投資促進庁(API)が提供するワンストップ窓口を戦略的に活用し、複雑な行政手続を効率的に処理することが求められます。同時に、行政庁による不当な許認可拒否に対しては、行政裁判所における判例法理を背景とした不服申立てのメカニズムを理解しておくことも、投資家保護の観点から極めて重要です。

本記事では、チュニジアでのビジネス展開や拠点設立を検討している日本企業の経営者や法務部員の皆様に向けて、事業開始の根幹をなす許認可(ライセンス)制度を中心に、現地の最新法令に基づき網羅的に詳説します。平均的な日本の実務家が抱く法意識とチュニジアの現行法令との間の重要な差異を明確にし、読者の皆様が安全かつ確実な海外進出の意思決定を行うための一助となる詳細な解説を提供します。

チュニジアの新投資法と2018年政令に基づく許認可制度の枠組み

チュニジアのビジネス環境において最も重要な転換点となったのは、2016年に制定された新投資法(法律第2016-71号)およびその施行規則として制定された2018年政令(政令第2018-417号)です。従来の法制度下においては、外資企業がチュニジア国内で事業を行うためには広範な分野で事前の認可が必要とされる方式に近い運用がなされていました。しかし、新投資法体制への移行により、原則としてすべての分野における投資の自由が明記され、例外的に事前許可を要する事業領域をネガティブリストとして限定する方式が採用されました。

この2018年政令により、経済的影響や国家の安全保障上の観点から、特定の100分野に関する事業活動においてのみ厳格な事前許可の取得が義務付けられています。これらの分野への外資参入には、所管する各省庁からの承認が必要となり、事業開始までに相当の期間と複雑な手続きを要します。事前許可の対象となる100分野は、国家の根幹に関わるインフラや資源、安全保障に関連する領域に集中しています。具体的には、石油や天然ガスの探査および開発、鉱物資源の採掘、国内消費を満たすための再生可能エネルギーによる電力生産事業といった天然資源およびエネルギー分野が含まれます。また、セメント等の建設資材の製造や大規模なインフラ開発事業においては、地方自治体レベルでの厳格な建築許可の取得も併せて要求されます。さらに、陸上輸送事業、航空サービス、海運事業などのロジスティクス分野、電気通信インフラの構築や国防省等の審査を要するドローン飛行を伴う事業、そして武器や爆発物の製造といった危険物関連産業も事前許可の対象として明記されています。

日本の法制度と比較した場合、この枠組みは外為法に基づく対内直接投資の事前届出制度と類似する目的を有しているということが言えるでしょう。日本でも、国の安全や公衆の秩序の維持を理由として、武器製造、原子力、航空、通信等の指定業種について事前届出と審査が義務付けられています。しかし、チュニジアのネガティブリストは、単なる安全保障の枠を超えて、国内産業の保護や資源の国家管理という経済的意図を強く反映しており、日本では原則として自由な参入が認められている領域まで広く網羅している点に重大な違いがあります。

規制の比較要素チュニジアの法規制(2018年政令等)日本の法規制(外為法等)
基本的な法理念投資の自由を掲げつつ100分野は厳格な事前許可制原則として事後報告制であり指定業種のみ事前届出制
対象分野の範囲資源、通信、インフラから建設資材製造まで広範に及ぶ安全保障、公衆秩序、特定インフラなど限定的な範囲
手続の主幹機関投資促進庁(API)および各事業の所管省庁財務省および対象事業を所管する各省庁

チュニジア投資促進庁が提供するワンストップ窓口と会社設立手続

チュニジア投資促進庁が提供するワンストップ窓口と会社設立手続

チュニジアにおいて外資企業が法人を設立し事業を開始する際、中核的な役割を果たすのが投資促進庁(API)です。APIは、煩雑な行政手続を簡素化し、海外からの直接投資を促進するために、ワンストップショップと呼ばれる統合窓口を設置しています。このワンストップ窓口の最大の特徴は、単なる情報の集約にとどまらず、財務省(税務署)、国家社会保障基金(CNSS)、内務省、雇用省など、会社設立や事業運営に不可欠な各省庁の代表者が同じ施設内に物理的に常駐している点です。

申請者は、APIのシステムを通じてオンラインで投資宣言を提出し、原則として24時間以内に受領証明書を取得することが可能であり、この証明書を起点として登記、税務登録、社会保障への加入手続きが連鎖的に進行します。駐在員などの外国人がチュニジアで適法に就労し、居住するためには、雇用省が管轄する労働許可と、内務省が管轄する滞在許可証の双方を取得する必要がありますが、これらの一連の手続きもAPIのワンストップ窓口内で処理することが一般的です。労働許可を得た後、その労働許可を要件として内務省の窓口で滞在許可証を申請し、申請時に交付される受領証によって暫定的に国内での就労や滞在が認められます。

日本の会社設立実務においては、法務局での設立登記、税務署への法人設立届出、年金事務所への社会保険加入手続きなど、複数の行政機関を個別に訪問または個別のシステムを通じて手続きを行う必要があります。近年、日本でもマイナポータルを通じたオンラインのワンストップサービスが普及しつつありますが、チュニジアのように関係各局の担当者が一堂に会して対面での調整や即日発給を行う物理的な統合窓口システムは、官僚主義的な遅滞を回避するための極めて実践的なアプローチであるということが言えるでしょう。

チュニジアにおける行政庁の裁量に対する司法統制と判例法理

指定分野において事前許可を要する場合、行政庁による裁量権の逸脱や不作為が投資家の重大なリスクとなります。この点に関して、2016年投資法第2条は、行政庁に対する許認可申請への応答義務と、一定期間の沈黙をもって許可があったものとみなす黙示の許可の原則を定めています。さらに重要な法理として、行政庁が投資家に対して許認可の拒否決定を下す場合、その決定には必ず実質的かつ十分な理由が付記されていなければならないという厳格な義務が存在します。

チュニジアの行政裁判所における確立された実務によれば、理由付記を欠く許認可の拒否処分は重大な形式的瑕疵として無効の制裁を受けます。この行政行為に対する厳格な司法統制の歴史的背景には、フランス行政法の強い影響が及んでいます。チュニジアの行政法理を形成する上で規範的な役割を果たした比較法的な歴史的判例として、フランス国務院(コンセイユ・デタ)の1965年11月12日判決(当事者:Compagnie marchande de Tunisie、事件番号:55315)が挙げられます。この判決に見られるような、行政権の行使に対する厳格な司法的監視というフランス法由来の哲学が、現在のチュニジアにおける投資家保護のメカニズムにも継承されています。

日本の行政手続法第8条においても、行政庁が申請を拒否する不利益処分を行う場合には理由を提示する義務が課されており、理由の提示が不十分な処分は日本の裁判所によっても取り消される傾向にあります。この点においては、チュニジアと日本の行政統制システムは共通の法の支配の理念を共有しているということが言えるでしょう。

外資参入時に直面するチュニジア特有の規制と実務上の留意点

外資参入時に直面するチュニジア特有の規制と実務上の留意点

消費財の輸入に関する独自の事前管理規則

物品の輸出入を伴うビジネスを展開する上で、極めて重大な実務的影響を及ぼすのが、2022年10月17日に導入された消費財の輸入に関する新たな事前管理制度です。チュニジア政府は、国内産業の保護および外貨準備高の流出防止を目的として、特定の消費財を輸入する際の手続きを劇的に厳格化しました。

この新制度の最大の特徴は、輸出国(製造国)の生産工場からの直接輸入を実質的に義務付けている点です。輸入業者は、製造元からの直接の請求書、輸出国政府機関が発行する工場の適法な操業証明書、自由販売証明書、品質管理システムを証明する書類などを事前に提出しなければなりません。これにより、第三国の中間商社や卸売業者を介した並行輸入や三国間貿易が極めて困難となりました。なお、国家による輸入や、製造業者が使用する原材料、再生可能エネルギー関連設備などはこの規制の適用対象外とされています。

この事前管理規則の導入に関する当時の詳細な公式発表と対象品目に関する報道は、現地の主要な経済メディアで確認することができます。

参考:チュニジアの経済ニュースサイトビジネスニュース

日本においては、真正商品の並行輸入は商標法や関税法上も原則として適法とされ、総合商社や専門商社がサプライチェーンの中間に介在する取引形態が広く定着しています。したがって、商社を挟むことで流通の効率化を図ろうとする日本企業の標準的なビジネスモデルは、チュニジアの新輸入規則と真っ向から衝突する可能性が高く、直接取引への商流の根本的な再構築が不可欠となります。

厳格な外貨管理と税関申告の義務

チュニジアは、自国通貨であるチュニジア・ディナールの国外流出を防ぐため、厳格な外貨管理体制を敷いています。為替取引の自由を原則とし、事後報告を主体とする日本の外為法体制とは根本的に異なり、チュニジアでは現金の持ち込みおよび持ち出しに関して極めて低い閾値での税関申告が要求されます。

旅行者や駐在員がチュニジアに入国する際、持ち込む外貨の総額が2万ディナール以上である場合は、税関での申告が法的に義務付けられています。しかし、実務上最も陥りやすい罠は、出国時の持ち出し規制に関する独自のルールです。非居住者がチュニジアを出国する際、5,000ディナール以上の外貨を持ち出す意図がある場合は、入国時の持ち込み額が2万ディナール未満であっても、必ず入国時に税関申告を行っておかなければなりません。この入国時の申告は3ヶ月間のみ有効であり、出国時の外貨持ち出し申告には金額にかかわらず10ディナールの印紙税が課されます。

日本の関税法においては、マネーロンダリング対策等を主目的として100万円相当額を超える現金の持ち出しおよび持ち込みに税関申告を課していますが、チュニジアの規制は純粋な国家の資産防衛という意図に基づく強権的な措置であるということが言えるでしょう。

国家安全保障を理由とするドローン等の先端技術規制

通信および先端技術分野への参入や、現地のプロモーションを目的としたインフラ整備において注意すべきなのが、ドローン(無人航空機)に関する極めて厳格な法規制です。日本においては、航空法に基づき機体登録や飛行禁止区域の遵守、一定の条件下での事前許可取得が義務付けられているものの、機体自体の所有や国内への持ち込みが無条件に阻止されることは通常ありません。

対照的に、チュニジアにおけるドローンの扱いは、純粋な航空安全の枠を超え、国家の安全保障およびテロ対策の観点から厳しく制限されています。ドローンをチュニジア国内に持ち込み、または飛行させるためには、事前の計画書とともに、国防省および内務省等の複数の政府機関から個別の事前の書面許可を取得する必要があります。一部の国で見られるような軽量ドローンの免除規定は存在せず、事前の承認なくドローンを国内に持ち込もうとした場合、空港の税関で例外なく没収の対象となります。レジャー目的や直前の申請による許可の取得は事実上不可能であり、業務目的であっても数ヶ月単位の綿密な事前の行政折衝が要求されます。

欧州特許庁とチュニジアの連携による知的財産権の保護状況

独自の強行法規が目立つチュニジアですが、知的財産権の分野においては、国際的な協調と権利保護の強化に向けた画期的な制度を導入しています。特筆すべきは、欧州特許庁との間で締結された検証合意です。この制度は2017年12月1日に発効しており、特許権者は欧州特許出願においてチュニジアを指定し、所定の手数料の納付等を行うことで、付与された欧州特許をチュニジア国内の国内特許と全く同一の効力を持つものとして有効化することが可能となりました。

日本は各国の特許庁との間で特許審査ハイウェイ(PPH)を推進し審査の迅速化を図っていますが、欧州特許が直接国内で有効化されるチュニジアの制度は、欧州市場とアフリカ市場を一体として捉え、知的財産戦略を構築する日本企業にとって極めて利便性の高い仕組みであるということが言えるでしょう。

まとめ

本稿では、チュニジアにおけるビジネス展開の前提となる許認可制度や独自の法規制について、日本の関連法令との比較を交えながら詳細に解説してきました。2016年投資法によるネガティブリスト方式の導入や投資促進庁が提供するワンストップ窓口の存在は、チュニジアが外資誘致に向けて行政手続の簡素化に尽力していることを示しています。しかしながら、特定の主要100事業における厳格な事前許可制度や、行政の不作為に対する司法統制のあり方からは、国家による確固たる経済統制の意図が読み取れます。

特に、2022年に施行された消費財の直接輸入を義務付ける事前管理規則や、チュニジア・ディナールの流出を防ぐための厳格な外貨管理制度、そしてドローン等の先端技術に対する安全保障上の制約は、日本企業の一般的な商慣行や法感覚とは大きく異なるため、現地進出にあたっては想定外のコンプライアンス違反を招かぬよう最大の注意を払う必要があります。

これらの複雑かつ頻繁に変動する現地の法規制に適切に対応し、事業を成功に導くためには、現地の法令や実務慣行に精通した法務専門家による事前の綿密な調査と戦略的なスキーム構築が不可欠であるということが言えるでしょう。モノリス法律事務所では、日本企業がチュニジアをはじめとする海外市場へ進出する際に直面する言語的、文化的な障壁や、複雑な現地の法務課題に対し、最新の法令動向を踏まえた適切なリーガルアドバイスを提供し、皆様のグローバルな事業展開を法務面から総合的にサポートいたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る