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インドの医療機器規制(MDR2017):リスク分類別の登録と品質マネジメント

インドの医療機器規制(MDR2017):リスク分類別の登録と品質マネジメント

インドで医療機器ビジネスの展開を目指す日本企業にとって、現地の複雑な法規制への適合は最優先課題です。インド政府は近年、国民の安全確保と国際基準との調和を目指し、医療機器に対する規制体制を強化してきました。本記事では、インドの医療機器規則(MDR2017)に基づくクラスAからクラスDまでのリスク分類別の製品登録プロセスや、中央医薬品標準管理局(CDSCO)を通じた輸入ライセンス取得手順について網羅的に解説します。

さらに、2023年までに完了した強制登録・ライセンス取得のタイムラインや、品質マネジメントシステム(QMS)の適合要件についても詳述します。日本企業が直面しやすい現地試験の要否やラベル表示基準の厳格化について、日本の法令との重要な違いを踏まえながら、インドのメディカルビジネスにおける参入障壁を乗り越えるための実務ガイドを提供します。

インドにおける医療機器規制の法体系とリスク分類

インドにおいて医療機器ビジネスを展開するためには、基礎となる法体系を理解する必要があります。インドでは1940年に制定された医薬品化粧品法が法体系の根幹をなしており、医療機器もこの法律のもとで医薬品と同等の枠組みで管理されています。この法律に基づき2017年に新たに制定され、2018年1月1日より施行されたのが医療機器規則(通称MDR2017)です。このMDR2017が、インドにおける医療機器の輸入や製造、および販売や臨床調査などを包括的かつ具体的に規制する中核的な法令となっています。この医療機器規制の実質的な執行を担っているのが、インド保健家族福祉省の傘下にある中央医薬品標準管理局(CDSCO)です。CDSCOの長官であるインド医薬品総監(DCGI)がMDR2017上の中央ライセンス権限機関として、医療機器の安全性や有効性を審査し、承認を与えています。

参考:CDSCO(インド中央医薬品標準管理局)|医療機器規則2017(G.S.R. 78(E)・2018年1月1日施行)の統合版および改正告示一覧

リスク分類別のCDSCOと州当局の管轄と役割

MDR2017における最大の特徴は、製品が人体に及ぼすリスクの程度に応じて、医療機器を4つのクラスに分類している点です。極めてリスクの低い製品がクラスAに分類され、中低リスクの製品がクラスBとして指定されます。さらに中高リスクの製品はクラスCに分類され、極めてリスクの高い生命維持等に関わる製品はクラスDに分類されます。このリスク分類に応じて、申請先となる規制当局や要求される品質管理手続きの厳格さが大きく変化するため、自社製品がどのリスク分類に属するのかを正確に特定することが、インドでのライセンス取得の第一歩となります。以下の表は、リスク分類と管轄機関の関係を整理したものです。

リスク分類リスクの程度具体的な製品例インド国内製造の管轄機関輸入手続きの管轄機関
クラスA低リスク外科用ドレッシング、非滅菌の手術器具州ライセンス権限機関(SLA)中央医薬品標準管理局(CDSCO)
クラスB中低リスク超音波診断装置、電子体温計、血圧計(いずれも代表例。実際のクラスは機器ごとにCDSCO公表の分類リストで確認が必要)州ライセンス権限機関(SLA)中央医薬品標準管理局(CDSCO)
クラスC中高リスク人工呼吸器、骨固定プレート、透析装置中央医薬品標準管理局(CDSCO)中央医薬品標準管理局(CDSCO)
クラスD高リスク心臓ペースメーカー、人工股関節、血管用ステント(いずれも代表例。人工膝関節はクラスCなど、実際のクラスは機器ごとにCDSCO公表の分類リストで確認が必要)中央医薬品標準管理局(CDSCO)中央医薬品標準管理局(CDSCO)

インド国内で医療機器を製造する場合、クラスAおよびクラスBに関しては、各州の政府機関である州ライセンス権限機関が主に製造ライセンスの審査を管轄します。クラスCおよびクラスDに関しては、中央政府の機関であるCDSCOが直接手続きを統括します。これに対し、医療機器を輸入する場合は、リスク分類のクラスにかかわらず全ての製品においてCDSCOが唯一の管轄権限を有しており、CDSCOのオンラインポータルである「Online System for Medical Devices」を通じて、一元的に輸入ライセンスの審査と発行を行っています。

強制登録のタイムラインとインド医療機器ライセンスの最新動向

強制登録のタイムラインとインド医療機器ライセンスの最新動向

インドにおける医療機器規制は、数年間に及ぶ段階的な移行期間を経て、より強固な強制ライセンス制度へと切り替わりました。かつてはインド国内で流通する多くの医療機器が未規制の状態にありましたが、インド政府は2020年2月11日に、インド国内の全ての医療機器を医薬品として定義づける画期的な通知を発布しました。これを契機として、全ての医療機器を対象とする包括的な規制強化のロードマップが実行に移されました。その根拠となるのは、この通知(S.O. 648(E))と、規制を段階的に及ぼすために同日付で公布された医療機器規則2020年改正(G.S.R. 102(E))です(いずれも2020年4月1日施行)。下表の義務化期日は、同改正が第8付表に定めた30か月・42か月の経過期間について、CDSCOが通達(2022年9月30日付・2023年10月12日付)で示した日付です。

規制の対象クラス自発的登録期間強制ライセンス取得の義務化期日
クラスAおよびクラスB2020年4月1日〜2021年9月30日2022年10月1日
クラスCおよびクラスD2020年4月1日〜2021年9月30日2023年10月1日

このロードマップに従い、2020年4月からCDSCOのオンラインポータル「Online System for Medical Devices」を通じた自発的な登録期間が始まりました。現在では、有効なライセンスやCDSCOへの登録なしに医療機器をインド国内で製造販売することは違法行為であり、医薬品化粧品法第27条(b)(ii)により3年以上5年以下の拘禁刑と10万ルピー以上(または押収された製品価額の3倍のいずれか高い額)の罰金が科されます(無許可輸入については同法第13条(1)(b)により6か月以下の拘禁刑または500ルピー以下の罰金)。

2025年以降のCDSCOモジュール拡充とクラスA機器の特例

規制当局は手続きの効率化と透明性の向上も同時に進めており、2025年にはオンラインシステム上に新たなリスク分類モジュールの運用が始まりました。これにより、公式の分類リストにまだ掲載されていない新規の医療機器であっても、オンライン申請を通じてリスク分類の判定を求められるようになりました。さらに、輸出向け製品の製造プロセスを簡素化するため、2025年4月にはシステム上で自動生成されるニュートラルコードが導入され、2026年5月15日からは「Special code」の申請を受け付けるなど、新機能の拡充が続いています。

強制ライセンス制度が確立される一方で、MDR2017では、最もリスクの低いクラスAに属する機器のうち、滅菌されておらず測定機能も持たない製品に対しては、実務的な規制緩和措置を導入しています。政府通知により、これら非滅菌かつ非測定のクラスA製品は、通常の製造や輸入のライセンス取得義務の対象から免除されました。ただし、これは完全に規制から除外されたわけではなく、製造者や輸入者はCDSCOが運営する専用のオンラインシステムにおいて、安全性基準への自己適合宣言を登録する法的義務を負います。オンライン上での登録手続きが完了すると、システムから自動的に登録番号が生成されます(これに対し、第8付表項7に基づく一般の登録では、この登録番号を製品ラベルに表示することが2022年6月1日以降すべての登録保有者に義務づけられています)。

インドの品質マネジメントシステム(QMS)要件と日本法との違い

インドで医療機器のライセンスを取得しビジネスを展開する事業者には、製造施設における品質マネジメントシステム(QMS)の構築と維持が義務付けられています。MDR2017の第5付表には、医療機器の製造業者が遵守しなければならないQMSの詳細な技術的基準が網羅されています。このインド独自の第5付表に記載されている要件は、国際的な医療機器の品質マネジメントシステム規格であるISO13485の基準と整合しており、マネジメントの責任や資源の配分、および設計管理や是正予防措置といった基本的な枠組みをほぼ同じ形で採用しています。

ISO13485とインドMDR第5付表の環境基準の差異

日本からインド市場に参入するメーカーにとって、注意すべき重要な違いがあります。それは、インドの第5付表が、一般的なISO13485認証の枠組みには明示されていない具体的な環境制御要件を課している点です。特に、無菌医療機器や特定の滅菌設備が必要な製造エリアに関しては、第5付表のアネックスAが、機器の種類と工程ごとに静止時(At rest)のISOクリーンルームクラスを直接指定しています。たとえば薬剤溶出ステントでは一次包装・圧着工程がクラス5、洗浄・超音波洗浄・薬剤コーティング工程がクラス7、組立・包装工程がクラス8と定められ、眼内レンズでは一次包装・封止工程がクラス5とされています。ISO13485が要求事項の枠組みを示すにとどまるのに対し、インドでは工程単位のクラス指定そのものが法令の別表に書き込まれている点が実務上の違いです。したがって、日本国内でISO13485の有効な認証を保持し、それに準拠した施設を運営していたとしても、インドの法規制に基づく査察基準に合致しているか、また、アネックスAで指定された環境パラメーターを完全に満たしているかを、書面等で別途実証しなければなりません。

日本の医薬品医療機器等法(薬機法)では、製品の品質と安全に対する最終的な法的責任は日本国内の製造販売業者が全面的に負い、海外の製造元は外国製造業者登録を受けるという構造になっています。これに対してインドのMDR2017では、輸入ライセンス(Form MD-15)はインド国内の公認代理人に対して交付され、公認代理人がライセンス保持者となります(海外の製造業者は同ライセンス上に製造者として記載されるにとどまります)。監査方法についても、日本の薬機法では外国製造所を含むQMS適合性調査は厚生労働大臣による書面調査または実地調査として行われ(第23条の2の5第6項)、既に交付を受けた基準適合証と同一の区分・同一の製造所に属する品目については、この調査自体が免除されます(同条第7項。ただし同条第8項により、厚生労働大臣が必要と認めるときは書面又は実地の調査が行われます)。

しかしインドのMDR2017では、CDSCOが裁量により海外の製造工場へインドの検査官を派遣して立ち入り監査を実施する権限を有しており、この実地査察のリスクを念頭に置いた事前のドキュメント整備が欠かせません。

日本メーカーが直面するインドメディカルビジネスの参入障壁

日本メーカーが直面するインドメディカルビジネスの参入障壁

海外メーカーがインドで医療機器を流通させるためには、法令を理解するだけでなく、現地の独特の行政手続きといった実務的な課題を克服する必要があります。インド国外に本社や製造拠点を持つ海外メーカーが、CDSCOに対して直接ライセンス申請を行うことは制度上認められていません。海外メーカーはインド国内の者(個人・組合・団体を含みます)をインド公認代理人として指定し、正式な委任状を交わして規制当局との窓口業務を委託する法的義務があります。この代理人は単なる連絡窓口ではなく、MDR2017に基づく販売用の製造ライセンス、卸売販売ライセンス、または医療機器の販売に係る登録証(Form MD-42)のいずれかをインド国内で有効に保持している事業者である必要があります。

インド公認代理人は、輸入ライセンス(Form MD-15)上、海外メーカーのインドにおける事業活動全般について責任を負う立場に置かれ、上市後の安全監視や第89条に基づく製品回収の実務も担います。その選定は、実務能力と信頼性を見極めたうえで行う必要があります。

現地試験の要否とラベル表示基準の厳格化

輸入ライセンスを申請する際、時間とコストを要する問題の一つが、インド国内での臨床調査や現地製品試験の要否です。原則として、オーストラリア、カナダ、日本、欧州連合諸国、英国、米国のいずれかの規制当局が自由販売証明書を発行済みの医療機器については、MDR2017の第36条(3)により、インド国内での臨床調査を行うことなく輸入ライセンスが付与されます(同項は現地での販売実績年数を要件としていません)。原産国での臨床評価レポートや市場での安全性データ、および自由販売証明書を提出することで、CDSCOは追加の臨床調査を求めることなく輸入ライセンスを付与することができます。しかしながら、インド国内に同等性を示す既承認の対照医療機器が存在しない新規開発医療機器に分類される場合には、原則としてインド国内での臨床調査を経たうえでForm MD-26による許可申請が必要となります。ただし第63条(1)の第4但書により、英国、米国、オーストラリア、カナダ、日本のいずれかで承認され、かつ当該国で2年以上販売されている機器については、中央ライセンス権限機関が安全性・性能データに納得すれば臨床調査結果の提出は求められません。

また、インド市場で医療機器を適法に流通させるためには、MDR2017の第44条に定められた独自の表示要件を満たした製品ラベルを用意しなければなりません。このラベルには、製品の名称(第44条(a))や使用期限(同(e))に加えて、輸入機器の場合は第44条(n)により、輸入ライセンス番号、輸入者の名称および住所、実際の製造施設の住所、製造年月を明記することが必須要件とされています。この規制に対して、海外メーカーが日本の製造ラインでインド専用のラベルを直接印刷することは、生産効率の観点から困難であることが多いのが実情です。

この実務的な課題に対応するため、インドの医療機器規則では、輸入ライセンス番号、輸入者の名称および住所、実際の製造施設の住所、製造年月といったインド特有の情報に限り、ステッカーを後から貼付してラベル表示を補完することを例外的に認めています(第44条(n)。なお貼付場所を限定する定めは同号には置かれていません)。

インド医療機器規制におけるCDSCO権限の合憲性に関する判例

インドにおける医療機器規制の厳格化と、すべての機器を医薬品と同等に扱うという政府方針をめぐっては、現地業界団体とインド政府との間で法的な対立も生じました。この対立において、CDSCOをはじめとするインド政府の規制権限の合憲性が争われた重要な司法判断があります。

それが、デリー高等裁判所が2023年9月1日に言い渡した Surgical Manufacturers and Traders Association 対 Union of India 事件(W.P.(C) 10514/2019 および W.P.(C) 10478/2020 の併合審理、Rajiv Shakdher 判事・Tara Vitasta Ganju 判事)の判決です。この訴訟において、原告である Surgical Manufacturers and Traders Association(インド全土で外科・医療・病院・ヘルスケア機器の製造および取引に従事する400名を超える会員を擁すると自称する登録社団)は、インド保健家族福祉省が2018年12月3日および2020年2月11日(S.O. 648(E))の各通知によりすべての医療機器を医薬品とみなして一元管理下に置いたことについて、医薬品化粧品法第3条(b)(iv)および第5条(2)の各規定とあわせて、憲法第14条が保障する平等原則および第21条が保障する生命及び人身の自由(life and personal liberty)に反すると主張し、その取り消しを求めました。

デリー高等裁判所は、原告側の主張を容れず、争われた各通知に介入する必要はないとして、当該各令状請願を終結させました。裁判所は、患者の安全という広範な公益上、すべての医療機器を規制の枠内に置くことが要請されるとしたうえで、この政策転換は医薬品技術諮問委員会(DTAB)の専門的助言に基づくものであって明白な恣意性や不合理性は認められず、原告は憲法第14条および第21条の違反を立証できなかったと判断しました。

参考:Indian Kanoon|判例 The Surgical Manufacturers & Traders Association v. Union of India(デリー高等裁判所 W.P.(C) 10514/2019・W.P.(C) 10478/2020/2023年9月1日判決/doc/92660056)

この判決は、CDSCOが保有する医療機器規制の権限について憲法上の疑義が正面から退けられた点で重要な判断となり、インドにおける強制ライセンス化の流れを確実なものとしました。ただし裁判所は同時に、当局側に対しても移行に伴う不具合を速やかに解消するよう求めています。インド市場に参入する企業は、この司法判断を前提としてコンプライアンス体制を構築する必要があります。

まとめ

インドの医療機器規制であるMDR2017は、急速に拡大するインドのヘルスケア市場に参入するための前提であると同時に、専門的な法的知見なしに突破することが難しい参入障壁でもあります。クラスAからクラスDまでのリスク分類に応じた適切な申請ルートの選定や、要件を満たしたインド公認代理人の登用、そしてインド独自のQMS要件への適合から現地試験の要否の見極めにいたるまで、インド市場への参入には法的な適合性と実務的な対応力の双方が必要です。近年インド政府は、国内産業の活性化を推進しつつ、国民の安全確保を最優先として製品の法規制の更新を続けており、最新の法令情報を継続的に把握する必要があります。

モノリス法律事務所は特にIT関連に専門性を有する法律事務所です。モノリス法律事務所はインドの法律事務所と提携しており、現地法令や現地における手続きに対応することができます。日々刻々と変化するインドの医療機器規制に関する最新のリーガルアドバイスから、現地代理人との法的な契約書面の作成および交渉、さらには現地の複雑な規制手続きに関する実務的なサポートまで、インド市場へ安全かつスムーズに参入するための包括的な支援を提供いたします。複雑なインドの法規制への適合や現地展開に関する法的リスク評価でお悩みの際には、ぜひ専門家によるサポートをご活用ください。

モノリス法律事務所は、インド法務に関する調査および情報提供を目的として、現地法律事務所Quest IP Attorneysと非独占的な提携関係(Associate Firm / Correspondent Firm)にあります。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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