チュニジアの外国人投資規制を弁護士が解説

北アフリカに位置し地中海を挟んでヨーロッパと隣接するチュニジア共和国(以下、チュニジア)は、その戦略的な地理的優位性を活かし、国家の経済成長を牽引するために外資誘致を積極的に推進しています。2016年に制定された基本法である投資法(Loi n°2016-71)に基づき、チュニジアは国際的な基準に沿った自由経済への移行を図り、民間投資家へのより柔軟な手続きの提供と投資家保護の強化を実現しました。
この新しい投資法の最大の目的は、国家経済の付加価値の向上、国際的な競争力の強化、地域間の均衡ある統合的な発展、そして持続可能な開発の実現です。しかしながら、チュニジアの外国人投資規制は、基本法である投資法に基づき外資誘致を積極的に推進している一方、一部の業種や外国人労働者の雇用において厳格な制限が設けられている点に最大の特徴があります。日本企業がチュニジアへ進出するにあたっては、こうした自由化の原則と厳格な例外規制の境界線を正確に見極めることが不可欠です。
記事全体の要点として、第一に、多くのセクターで外国人の100%出資や事前認可不要での参入が認められている原則自由の投資環境がある一方で、特定の事業分野ではネガティブリスト方式による事前認可が義務付けられていることが挙げられます。第二に、土地所有に関しては極めて厳格であり、非居住外国人は中央銀行の認可や県知事の事前許可が必要であり、農業用地の取得は全面的に禁止されています。第三に、労働および雇用規制において、法人設立から3年目までは管理職総数の最大30%、4年目以降は最大10%までという外国人役員および従業員の厳格な雇用制限が存在します。第四に、投資資金の還流を確実にするためには、中央銀行を通じた厳格な為替管理と投資証明書の取得が不可欠となります。
チュニジアにおいて安全かつ円滑に長期的ビジネスを展開するためには、原則自由とされる投資環境の裏にあるこれらの例外的な規制や実務上の要件を正確に把握しておくことが不可欠であり、これらを総合的に理解することが事業成功の鍵となるということが言えるでしょう。本記事では、日本の法律と大きく異なるこれらの独自規制について、運用実態や判例を交えながら体系的に解説します。
この記事の目次
チュニジアにおける投資の基本方針と認可制度
チュニジアにおける外国人投資の基本枠組みは、2016年9月30日に制定され2017年4月1日に施行された投資法(Loi n°2016-71)によって規定されています。この法律は、国内外の投資家に対して公正かつ公平な待遇を保障するものであり、原則として多くの経済分野において外国人が事前の認可を得ることなく、最大100%の資本参加を行うことを認めています。この枠組みの下で、投資家は特定の要件を満たすことにより、付加価値の向上や地域開発を目的とした様々な税制優遇措置や財政的支援(総投資コストの最大3分の1に達する投資プレミアムなど)を享受することが可能となっています。
一方で、すべての分野で投資が完全に自由化されているわけではなく、特定の事業やセクターについては例外として事前の政府認可が義務付けられています。2018年5月11日に制定された政令第2018-417号(Decree No.2018-417)は、事前認可が必要な経済活動の排他的なリスト(ネガティブリスト)を明確に定めています。
| 規制の枠組み | 対象となる主なセクターまたは活動 | 適用される規制内容 |
| 原則自由 | 製造業、ITサービス、輸出向け産業(オフショア事業)など | 100%の外国資本での設立が可能であり事前認可は不要。 |
| 事前認可必須(ネガティブリスト) | 天然資源の採掘、有害・汚染産業、金融、保険、運輸、教育、医療など | 政令第2018-417号に基づく関係省庁や認可委員会の厳格な事前審査と許可が必要。 |
| 商業活動の制限 | 不動産仲介業、商業代理店、一般的な小売業など | 政令第61-14号に基づき原則禁止。例外的に外国人商業カードの取得が必要。 |
このネガティブリストには、金融、鉱業、エネルギーなどの特定セクターが網羅されており、国家の基幹や安全保障、環境保護に関わる活動への参入には関係省庁を通じた厳格な審査を経る必要があります。さらに、商業活動に関しても独自の制限が存在します。1961年8月30日の政令第61-14号に基づき、外国人がチュニジアで不動産業、仲介業、商業代理店、ディーラーなどの特定の商業活動を行うことは原則として禁止されており、これらを行う場合には別途「外国人商業カード」の取得が義務付けられています。
日本法においては、外国為替及び外国貿易法(外為法)による安全保障等を理由とした一定の業種への事前届出制度は存在するものの、一般的な商業活動や仲介業への参入そのものを国籍を理由に禁止したり、特別なライセンスを要求したりするような広範な外資規制はありません。チュニジアでは、輸出志向型の製造業やITサービス業への投資は強く奨励されている一方で、国内の小売市場や仲介等の商業活動については国内産業保護の観点から非常に慎重な姿勢をとっているということが言えるでしょう。
事前認可対象を定めた政令第2018-417号に関する関連情報は、以下の世界貿易機関の文書等で確認することができます。
チュニジアの不動産および土地所有に関する規制

チュニジアにおける外国人投資規制のなかで、日本法との違いが最も顕著に表れるのが不動産および土地所有に関する分野です。日本では、農地法などの一定の許可要件を満たせば、外国籍であっても不動産の所有権を比較的自由に取得することが可能ですが、チュニジアでは国土の保全や農業保護の観点から非常に厳格な制限が敷かれています。
| 不動産の用途・地域 | 外国人による取得の可否 | 根拠法令および必要な手続き |
| 農業用地 | 全面的に禁止 | 1969年9月22日の法律第69-56号。所有は不可(長期リースのみ可能)。 |
| 工業団地・観光特区内の不動産 | 取得可能(経済プロジェクト目的) | 投資法第5条等。経済活動の推進を目的とする場合に限り自由に取得可能。 |
| 上記以外の非農業用不動産 | 条件付きで取得可能 | 1957年6月4日の政令に基づく県知事の事前許可、および中央銀行の認可が必須。 |
まず、農業用地に関する規制として、1969年9月22日の法律第69-56号により、外国人が農業用地の所有権を取得することは全面的に禁止されています。外国人が農業分野に投資する場合、農業法人の資本の最大66%までを保有することは認められていますが、個人または法人として農地そのものを所有することはできず、長期リースによる土地の利用のみが許可されています。
次に、農業用地以外の不動産(居住用や一般商業用の土地および建物)に関する規制です。工業団地や観光特区内に位置する不動産については、経済プロジェクトの推進を目的とする場合に限り、外国投資家は比較的自由に取得することができます。しかし、それ以外の地域にある不動産を取得するためには、1957年6月4日の政令に基づく県知事(Gouverneur)の事前許可が不可欠となります。さらに、非居住外国人が不動産を購入する場合には、チュニジア中央銀行の認可も同時に必要となります。
この県知事の許可要件は単なる形式的な手続きではなく、これに違反した場合には重大な法的制裁が伴います。チュニジアの破毀院(最高裁判所に相当)の確立された判例によれば、知事の許可を得ずに締結された外国人との不動産売買契約は「絶対的無効(nullité absolue)」とみなされます。たとえば、2004年に当時のチュニス県知事であるMahmoud Mhiri氏が関与した事案において、2009年に破毀院が下した判決(判決番号:7025990/2004)などでも、行政の許可を欠いた不動産取引の法的効力が厳格に否定されています。この絶対的無効は、事後的に許可を取得したとしても契約が有効に治癒されることはなく、不動産登記所に所有権移転を登記することも不可能です。
日本人投資家がチュニジアでオフィスや駐在員用の住宅を購入する場合には、この手続きの煩雑さと法的リスクを十分に認識し、現地の弁護士を通じて知事および中央銀行の許可を確実に取得するか、あるいは購入ではなく賃貸を選択するなどのリスク回避策を講じる必要があります。チュニジアにおける外国人の不動産取得の法的枠組みと破毀院の判例に関する詳細な分析は、以下の法学専門サイトで確認することができます。
チュニジアの労働および雇用に関する制限
外国企業の進出にあたって重要なもう一つの柱が、外国人労働者の雇用に関する規制です。チュニジアは若年層や大卒者の失業率が高い状態にあるため、自国民の雇用機会を保護する目的で、外国人の雇用に対して厳格な人数制限を設けています。チュニジアの投資法第6条によれば、新たに設立された企業には、外国人役員および従業員の雇用制限が適用されます。
| 企業設立からの経過年数 | 外国人管理職の法定上限割合 | 例外的な人数の保障 |
| 設立から3年目まで | 管理職総数の最大30% | 企業規模に関わらず最低4名は雇用可能 |
| 設立から4年目以降 | 管理職総数の最大10% | 企業規模に関わらず最低4名は雇用可能 |
具体的には、法人設立の日から起算して3年目までは、管理職総数の最大30%まで外国籍の役員や従業員を自由に雇用することが認められています。しかし、4年目以降はこの割合が最大10%にまで引き下げられます。ただし、企業規模や全体の管理職数にかかわらず、例外として最低4名の外国人管理職を雇用することは常に保障されています。この法定の割合や人数を超える外国人を雇用したい場合には、雇用省(Ministry of Employment)からの特別な許可を取得しなければなりません。
日本における外国人の雇用規制は、出入国管理及び難民認定法に基づく在留資格の要件を満たしているかどうかが主たる基準であり、企業内で外国人を何パーセントまでしか雇用してはならないというような、企業単位での画一的な総量規制は存在しません。チュニジアの制度は、設立初期の技術移転や経営の立ち上げ期には一定の外国人の参画を許容しつつも、長期的にはチュニジア人への管理職の移行を強制する意図を持った制度設計であるということが言えるでしょう。
さらに、就労許可を得ていない外国人労働者を雇用した場合の契約の効力についても、日本法とは異なる厳しい判断が下されています。日本の労働法制下では、不法就労状態であっても、労働者が実際に提供した労働に対する賃金請求権などの一定の労働者保護は認められる傾向にあります。これに対し、チュニジアの破毀院の判例(1994年4月21日判決および1998年2月2日判決)では、労働省のビザや正式な就労許可を得ていない外国人労働者の労働契約は「絶対的無効」であると明確に判示されています。これは、労働法上の保護すら否定されかねない重大なリスクを意味しており、駐在員や現地採用の外国人スタッフを赴任させる際には、就労許可の取得プロセスを厳密に管理する必要があります。
チュニジアにおける外国為替管理と資金還流の手続き

海外投資において、得られた利益や投下資本を本国に安全に還流(送金)できるかどうかは、投資判断の決定的な要素となります。日本の外為法では、原則として資本取引は自由であり事後報告で済むケースが大半を占めますが、チュニジアにおいては中央銀行(Banque Centrale de Tunisie)が厳格な外国為替管理を行っています。
チュニジアの投資法では、投資家の資金や財産権の保護が明記されており、外貨による資金の海外への送金は外国為替法の規定に従って自由に行えるとされています(投資法第9条)。特に、資本の66%以上を外国人が保有し、かつ生産品の全量を輸出するようなオフショア企業(完全輸出企業)については、為替管理上「非居住者」として扱われ、外貨口座の開設や事前の許可なしでの外貨取引が広く認められています。
しかし、国内市場向けのビジネスを中心とするオンショア企業の場合や、配当金および投資引き揚げ時の売却益を海外へ送金する場合には、中央銀行の厳格な規制に服することになります。ここで極めて重要な実務上の要件となるのが「投資証明書(Fiche d’Investissement)」の取得です。チュニジア中央銀行の2018年通達第14号(Circulaire N°2018-14)によれば、非居住者がチュニジアに対して外貨で投資を行う場合、資金がチュニジア国内の銀行口座に着金した日から2ヶ月以内に、指定された仲介機関(認可銀行など)を通じてこの投資証明書を作成し、中央銀行のデジタルプラットフォームに登録しなければなりません。
投資証明書は、初期投資が適法な外貨の持ち込みによって行われたことを公的に証明するものであり、将来的に配当やキャピタルゲインを日本に送金する際の必須書類となります。もしこの証明書の取得手続きを怠った場合、後になって資金を国外へ持ち出すことが極めて困難になります。日本では資金の出し入れに関する手続きの不備が直ちに送金不能に直結することは稀ですが、チュニジアでは為替規制の遵守が投資回収の可否に直結します。したがって、投資を実行する段階から、現地の銀行や専門家と緊密に連携し、資金の流れと各種申告手続きを確実に完了させることが求められます。
まとめ
チュニジアの外国人投資規制は、基本法である投資法によって幅広い分野での投資の自由と強力なインセンティブを保障し、国家を挙げて外資誘致を積極的に推進しています。同国の地理的な優位性や税制上の優遇措置を最大限に活用することで、ヨーロッパ市場や急速な成長を遂げるアフリカ市場への足がかりとして、大きなビジネスチャンスを掴むことが可能です。
しかしその一方で、これまでに解説してきた通り、日本の法制度とは根本的な枠組みが大きく異なる厳格な外資規制や行政手続きの壁が存在していることを忘れてはなりません。ネガティブリストに基づく特定事業の事前認可、県知事の許可がない非観光・非工業用不動産売買の絶対的無効、法人設立年数に応じた外国人管理職の最大30%から10%への段階的な雇用枠制限、そして中央銀行の通達に基づく投資証明書の厳格な登録義務など、事業を進める上で実務的に乗り越えなければならない法的なハードルは決して低くありません。これらの手続きに瑕疵があった場合、不動産取引や労働契約の絶対的無効、さらには将来的な配当金や投資引き揚げ時の資金還流の停止といった、企業経営にとって致命的なコンプライアンス上のリスクを負うことになります。
チュニジアでのビジネスの展開を検討している日本人の経営者や法務部員の皆様にとって、現地の法律の枠組みを表面的な原則レベルで把握するにとどまらず、実際の運用や実務手続きの厳格さを深く理解し、事業計画の初期段階から入念な対策と法務デューデリジェンスを講じることが不可欠です。モノリス法律事務所では、こうした現地の複雑な法規制を踏まえたチュニジアでのビジネスの展開に関して、法務リスクの精緻な洗い出しから現地の商慣習に即した各種法的手続きの対応に至るまで、皆様のプロジェクトを幅広くサポートいたします。
































