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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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NASDAQキャピタル・マーケット新規上場時の最低株価が一律4ドルへ──代替基準廃止と日本企業の価格設定への影響

米国株式市場への新規参入を目指す日本企業にとって、上場適格性の確保と公募価格の設計はIPO実務の根幹をなす要素です。ナスダック証券取引所は、中小型成長企業向け市場であるキャピタル・マーケット(Nasdaq Capital Market:NCM)の新規上場基準を定めた上場規則の改正申請を米国証券取引委員会(SEC)に提出しました。これまで一定の純有形資産や売上高要件を満たすことで認められていた2ドルまたは3ドルでの新規上場という「代替価格基準」が全面的に削除され、新規上場時の最低株価要件が一律4.00ドルへと統一されました。

本規則改正は、先行して低価格帯の上場を禁止したNYSE Americanとの取引所間平仄を合わせるとともに、低位株を巡る不公正取引の抑止を主眼としています。

本記事では、規則変更の具体的条文と規制背景を整理した上で、日本企業が米国IPOやADR公募を行う際の価格設計、ADR比率の調整、株式併合をはじめとする資本政策実務への影響を解説します。

NASDAQキャピタル・マーケットにおける最低株価要件の規則変更概要

NASDAQのグローバル市場群の中で新興企業向けに柔軟な数値基準を提供してきたキャピタル・マーケットにおいて、新規上場時の参入基準を改定する規則改正が行われました。本節では、規則変更申請の概要と変更点について整理します。

SR-NASDAQ-2026-082による上場規則5505の改正内容

NASDAQは、自社の上場規則集(Listing Rules)に定められている規則5505を改定するための規則変更申請(SR-NASDAQ-2026-082)をSECへ提出しました。本変更は1934年証券取引所法第19条(b)(3)(A)および規則19b-4(f)(6)に基づき、提出とともに即時効力が発生する形式で届け出が行われ、提出日である2026年9月30日から30日を経過した2026年10月30日より運用が開始されます。

参考:米国証券取引委員会(SEC)|Notice of Filing and Immediate Effectiveness of Proposed Rule Change to Amend Listing Rule 5505

改正前のNasdaq Listing Rule 5505(a)(1)では、キャピタル・マーケットへの新規上場において原則として4.00ドル以上の最低株価(最低入札価格または公募価格)が要求されていました。しかし、同条(a)(1)(B)の「代替価格要件(Alternative Price Requirement)」を満たす場合には、例外的に3.00ドルまたは2.00ドルの株価による上場が認められていました。

今回の申請によりListing Rule 5505(a)(1)(B)が削除され、キャピタル・マーケットに普通株式などの第一種株式(Primary Equity Securities)を新規上場させようとするすべての発行体は、適用する財務基準の種類を問わず、例外なく一律4.00ドル以上の株価要件を満たすことが義務付けられました。

参考:NASDAQ|Nasdaq Listing Center Rulebook Listing Rules 5500 Series

従来の2ドル・3ドル代替基準とペニーストック除外要件

従来の代替価格要件は、米国証券取引法上の「ペニーストック(Penny Stock)」規制の除外要件と連動して運用されていました。一般にペニーストックとは、流動性が低く投機性が高いとされる5ドル未満の低位株を指します。証券会社が投資家に対してペニーストックを勧誘・売買する場合、書面によるリスク開示や顧客適合性の確認が義務付けられており、円滑な市場流通が妨げられやすい性質を持ちます。

従前のListing Rule 5505(a)(1)(B)では、連邦証券規則(17 CFR § 240.3a51-1(g))に規定された財務基準を満たすことで、ペニーストックに該当しないものとして株価要件の緩和が認められていました。選択する審査基準に応じて以下の株価水準と財務要件が設定されていました。

審査基準の区分必須とされていた代替財務基準改正後の最低株価要件
自己資本基準(Equity Standard:規則5505(b)(1))①純有形資産200万ドル超(3年以上の操業実績)、②純有形資産500万ドル超(3年未満の操業)、または③直近3年平均売上高600万ドル以上一律4.00ドル
上場有価証券市場価値基準(Market Value Standard:規則5505(b)(2))同上(①〜③のいずれかを直近の監査済財務諸表で立証)一律4.00ドル
当期純利益基準(Net Income Standard:規則5505(b)(3))同上(①〜③のいずれかを直近の監査済財務諸表で立証)一律4.00ドル

従前は純有形資産や売上高の実績を有していれば2ドル台や3ドル台での上場が可能でしたが、今回の改正でこれらの例外経路が撤廃され、純資産や売上高の多寡にかかわらず、4.00ドルという絶対的な価格基準が課されることとなりました。

参考:Cornell Law School Legal Information Institute|17 CFR § 240.3a51-1 – Definition of penny stock

最低株価が一律4ドルへ引き上げられた規制背景と市場環境

最低株価が一律4ドルへ引き上げられた規制背景と市場環境

NASDAQが維持してきた代替基準を撤廃した背景には、競合市場のルール改定への追随と、低位株市場における投資家保護の強化という2つの側面が存在します。

先行したNYSE Americanの規則改正と同調

NASDAQがキャピタル・マーケットにおいて2ドルおよび3ドルの代替価格要件を導入した発端は、2005年におけるアメリカン証券取引所(現NYSE American)との市場間競争にありました。当時、全米の主要証券取引所で4ドル未満の株価による新規上場を認めていたのが同市場のみであり、中小型株の上場誘致で対抗する必要があったためです。

しかし、NYSE Americanは2026年3月に会社規程(Company Guide)第101条および第103条を改正し(SR-NYSEAMER-2026-02)、4.00ドル未満の新規上場を全面的に禁止しました。

参考:米国証券取引委員会(SEC)|Notice of Filing of a Proposed Rule Change to Amend the Initial Listing Standards Set Forth in Sections 101 and 103 of the NYSE American Company Guide

競合市場が低価格上場を廃止したことで、NASDAQが代替基準を維持する競争上の意義は消失しました。NASDAQのみが低価格での上場を許容し続ければ、規制水準の緩い市場に質の劣る案件が集まる「レギュラトリー・アービトラージ(規制の抜け穴)」が生じかねません。主要市場間での整合性を保つため、NASDAQも同調する措置をとるに至りました。

ペニーストック規制と市場操作の防止

もう一つの主要な目的は、低位株市場における相場操縦や不正行為の抑止です。株価が1株あたり数ドルの水準にある銘柄は、機関投資家の投資対象から外れやすく、市場での流動性が限定的になりがちです。その結果、作為的な情報流布や仮装売買で株価を吊り上げて売り抜ける「ポンプ・アンド・ダンプ」などの標的になりやすい課題が指摘されてきました。

新規上場時の株価が2ドル台や3ドル台にある場合、上場後に市場地合いが悪化すれば容易に1ドルを割り込み、投機的取引の温床となります。最低価格を4.00ドルに統一することで、低価格帯で取引される銘柄数を絞り込み、公正な市場形成と一般投資家の保護を図る狙いがあります。

既存上場企業の取扱いと継続上場要件における最低株価の維持

今回の改正は「新規上場(Initial Listing)」を対象とするものであり、既上場企業や継続上場基準への影響を正確に区別して理解する必要があります。

過去の代替基準上場企業に対する経過措置と監視規定

過去に代替価格要件(2ドルまたは3ドル)を利用して上場した企業について、新規則の施行によって直ちに上場資格が取り消されることはありません。既上場企業は市場に留まることが認められています。

ただし、NASDAQは解釈規則であるListing Rule IM-5505-2の運用を継続し、監視規定を適用します。

参考:NASDAQ|Listing Center Rulebook Listing Rule IM-5505-2

過去の代替基準で上場した企業が、上場時に満たしていた純有形資産要件や売上高要件を事後的に割り込み、かつペニーストック除外事由に該当しなくなった場合、NASDAQは当該企業名を自社ウェブサイトの公表リストに掲載します。このリストから除外されるには、市場で5営業日連続して終値4.00ドル以上を記録し、他の新規上場要件を充足することが必要とされます。

継続上場基準である1ドルルールとの関係性

新規上場基準と、上場を維持するための「継続上場基準(Continued Listing Requirements)」は別個の規定です。今回の改定は新規上場基準(Rule)に限定されており、継続上場基準を定めたNasdaq Listing Rule 5550(a)(2)における最低入札価格要件(Minimum Bid Price Requirement)は、従前どおり1.00ドルが維持されています。

参考:NASDAQ|Nasdaq Listing Center Rulebook Listing Rule 5550 Continued Listing of Primary Equity Securities

上場後に株価が4.00ドルを下回っても直ちに上場廃止となるわけではなく、終値が1.00ドル未満となる状態が連続30営業日続いた場合に不適格通知(Deficiency Notice)が出され、180日間の是正期間が与えられます。

もっとも、NASDAQは近年、継続上場基準の運用も厳格化しています。株式併合を繰り返して形式的に株価を維持する行為を取り締まるため、直近1年以内に株式併合を実施した企業が再び1ドルを割り込んだ場合の即時上場廃止手続きや、過去2年間の累積併合比率が250対1以上に達した企業に対する制限が導入されています。新規上場時の株価を4.00ドル以上とすることは、1ドル割れまでの価格マージンを広げる実効性を持つ一方で、継続的な事業成長による株価維持が強く求められます。

米国上場を目指す日本企業の最低株価設定と資本政策への実務的影響

キャピタル・マーケットは、日本国内市場を経由せずに直接米国市場を目指すクロスボーダーIPOや、新興企業の資金調達先として活用されてきました。最低株価の一律4ドル化は、発行条件の設計や資本政策に直接的な影響を及ぼします。

IPO想定発行価格の引き上げとバリュエーション設計

新規上場時の株価要件が一律4.00ドルとなったことで、発行体および引受証券会社(アンダーライター)は、公募価格(Offer Price)の想定仮条件レンジを確実に4.00ドル以上に設定する必要があります。

従来、株式価値総額に対して発行済株式数が過大な企業が、公募価格を2ドル台や3ドル台に抑えて上場基準を充足させる実務が見られましたが、新規則下ではこの手法が使えません。ブックビルディングでの需要動向により公募価格が4.00ドルを下回ると、その時点でNASDAQの新規上場基準を満たさなくなり、上場手続き自体が停止します。仮条件レンジの下限値でも4.00ドルを下回らない余裕を持った価格設計が不可欠です。

加えて、キャピタル・マーケットの各上場基準が定める流動性要件との整合性確保も求められます。主要な新規上場基準の数値を以下にまとめます。

基準項目自己資本基準(規則5505(b)(1))市場価値基準(規則5505(b)(2))純利益基準(規則5505(b)(3))
最低株価(公募価格)4.00ドル4.00ドル4.00ドル
株主資本(Stockholders’ Equity)500万ドル以上400万ドル以上400万ドル以上
上場有価証券市場価値(MVLS)─5,000万ドル以上─
当期純利益(直近年度又は直近3年のうち2年)──75万ドル以上
非制限公開株式市場価値(MVUPHS)1,500万ドル以上1,500万ドル以上500万ドル以上
公開株式数(Publicly Held Shares)100万株以上100万株以上100万株以上
ラウンドロット株主数(100株以上保有)300名以上300名以上300名以上

公募価格を4.00ドル以上とする際には、非制限公開株式市場価値(自己資本基準では1,500万ドル以上)などの流動性要件を同時に満たす資本計画の策定が必要です。

ADR比率の調整による最低株価4ドルの達成手法

日本企業が米国市場へ上場する際、原株式を日本の保管機関に預託し、米国の預託銀行が裏付け証券を発行する米国預託証券(ADR:American Depositary Receipt)の手法(SEC登録を伴うLevel 3 ADRプログラム)が広く採用されています。

ADRを活用したIPOでは、「1 ADR=原株式○株」という比率(ADRレシオ)を任意に設定できます。このADRレシオの調整が、最低株価4ドル要件を充足するための実務的な解決策となります。

例えば、原株式1株あたりの公正評価額が300円(1ドル=150円換算で2.00ドル相当)である場合、1対1の比率では1 ADRが2.00ドルとなり上場基準を満たせません。しかし、ADRレシオを「1 ADR=2株」に設定すれば理論価格は600円(4.00ドル相当)となり基準を満たすことができます。相場変動への安全マージンを見込んで「1 ADR=5株」(理論価格1,500円/10.00ドル相当)などに設定すれば、上場直後の株価下落によって上場維持基準(1ドル)に抵触するリスクを抑えられます。

ただし、ADRレシオを引き上げる(1 ADRあたりの原株数を増やす)と、市場に流通するADRの発行総数が減少します。キャピタル・マーケットでは最低公開株式数(100万株以上)やラウンドロット株主数(300名以上)が求められるため、ADR供給数の減少がこれら流動性要件の不充足を招かないよう、双方が成立する均衡点を精査する必要があります。為替の急激な円高・ドル安によってドル建て価格が下振れするリスクにも配慮した比率設計が求められます。

株式併合および株式分割を活用した事前資本政策

米国持株会社を新設して傘下に日本法人を収める方式(コーポレート・インバージョン)や、普通株式を直接上場させる手法では、ADRレシオによる価格調整が利用できません。この場合、発行体の発行済株式数を直接変動させる資本政策(株式併合等)が必要となります。

1株あたりの想定株価が4.00ドルを下回る場合、上場申請の完了前または公募価格の決定前に適切な比率で株式併合(Reverse Stock Split)を実施し、1株あたりの株式価値を引き上げます。

日本企業が原株を扱う場合、会社法第180条に基づく株主総会の特別決議、端数株式の処理、基準日公告などの法的手続きを要し、効力発生まで相応の準備期間が生じます。海外持株会社を通じた上場でも定款変更や取締役会決議などの手続きが不可欠です。

さらにNASDAQは株式併合の実施に対し厳格な事前届出規則を設けています。発行体は株式併合の効力発生予定日の少なくとも5営業日前(米国東部時間正午まで)に所定の企業事象通知書(Company Event Notification Form)をNASDAQに提出し、かつ効力発生の少なくとも2営業日前までにプレスリリース等で公開開示を行わなければなりません。事前のスケジュール管理に不備が生じると、取引所側のコード変更や承認手続きが遅れ、上場スケジュール全体に影響を及ぼす点に注意が必要です。

日本企業がNASDAQキャピタル・マーケット上場を検討する際の留意事項

日本企業がNASDAQキャピタル・マーケット上場を検討する際の留意事項

最低株価の一律4ドル化は、投資家層の変化や上場維持コストとの向き合い方を含め、企業の経営判断に多面的な検証を求めています。

引受人選定とロードショーにおける機関投資家対応

最低株価が4.00ドルに引き上げられたことは、適格な投資家層へアクセスする観点からはプラスに働く側面を持ちます。

米国の機関投資家の多くは、内規によりペニーストック(5ドル未満または4ドル未満の株式)への投資を制限しています。従来の代替基準を利用して2ドルや3ドルで上場した銘柄は、当初から主要な機関投資家の投資対象から外れ、個人主体の投機的資金に依存しがちでした。

一律4.00ドル以上でのプライシングが義務付けられることで、ロードショーにおいて機関投資家を対象とした提案が可能になります。したがって、主幹事証券会社を選定する際には、単なる上場適格性の確保にとどまらず、4ドル以上の水準で長期保有を志向する質の高い機関投資家基盤を持つファームを起用することが重要となります。

上場維持コストと上場廃止リスクの総合的評価

キャピタル・マーケットへの上場にあたっては、初期の上場申請費用のみならず、上場後に継続して発生するコンプライアンス費用を厳密に試算する必要があります。

米国上場企業には、年次報告書(Form 20-F等)や適時開示(Form 6-K等)の提出、US-GAAPまたはIFRSに準拠した財務監査、サーベンス・オクスリー法(SOX法)への対応が義務付けられます。米国の監査法人・法律事務所への報酬、取引所への年間維持料、IR活動費用を合わせると、年間で数億円規模の維持コストが発生することも珍しくありません。

近年では、新規上場を果たしたものの、重い維持コストや取引流動性の低迷を理由に、早期の上場廃止や非公開化を選択した日本企業の事例もみられます。上場基準の厳格化に伴い、企業には米国上場による資金調達・知名度向上のメリットと、継続的な財務的・人的負荷とを客観的に比較考量した慎重な意思決定が求められます。

まとめ:NASDAQキャピタル・マーケット上場は弁護士に相談を

NASDAQキャピタル・マーケットにおける新規上場最低株価の一律4ドル化(SR-NASDAQ-2026-082)は、低位株を巡る不正取引防止と取引所間の規則平仄を目的とした重要な制度改正です。従来の2ドル・3ドル代替基準が廃止されたことで、米国上場を目指す日本企業は、4.00ドル以上の公募価格を前提とした資本設計を行わなければなりません。ADR比率の調整や株式併合を活用することで株価基準への適合は可能ですが、公開株式数や株主数といった流動性要件とのトレードオフに留意が必要です。米国IPOを検討する企業は、現地規制と市場慣行に精通した専門家と連携し、上場後の維持コストや事業成長を見据えた長期的な資本戦略を構築することが強く求められます。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。モノリス事務所では、日本企業のNASDAQ上場について、米国・香港等の各専門家と連携しながら、日本法側の窓口として一貫した支援を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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