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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

ロシア連邦における日本企業への影響を伴う制裁措置と国際法務実務の解説

日本企業が国際ビジネスを展開する上で、地政学的リスクと「制裁法務」は不可避なトピックとなっています。とりわけ、ロシア連邦および同国に関わる取引を検討する、または現地に子会社・合弁などの事業拠点を有している日本企業にとっては、以下のような「二重拘束」の問題が発生しています

  • 米国や欧州連合(EU)をはじめとする西側諸国の厳格な経済制裁
  • それに対抗するロシア連邦独自の「対抗制裁措置」

このため、単に日本国内の外国為替及び外国貿易法に違反しないように注意すればよい、あるいは制裁対象企業と直接取引しなければ問題ない、という段階は、既に過去のものになっていると言えます。

現在、日本企業が直面するリスクの所在は多角化しています。第一に、米ドルのグローバル決済網を利用する全金融機関を対象に、ロシアの防衛・技術関連セクター等との重要な取引への関与を禁じる米国の「二次制裁」(大統領令第14114号)が挙げられます。これにより、第三国の金融機関がセルフ・サンクション(過剰準拠)に走り、日本企業の合法的な決済や撤退実務すらマヒさせる深刻な事態が発生しています。第二に、名義移転や信託を利用した制裁回避を見破る「50パーセントルール」と「仮装取引(Sham Transactions)」に対する米国政府の徹底的な追跡調査です。

さらに、ロシア国内法に目を転じれば、2022年5月3日に署名された大統領令第252号による非友好的国家の企業への取引制限や、2023年8月4日に公布された連邦法第470-FZ号(ESO法)により、ロシア国内の重要企業の株式支配権を外国持株会社から一方的に剥奪・分配する外資接収プロセスが現実のものとなっています。

何より、紛争解決における大前提を破るロシア仲裁手続法第248.1条および2020年8月に施行された通称「ルゴボイ法」(連邦法第171-FZ号に基づきロシア仲裁手続法:APC第248.1条および第248.2条として新設)は、日本企業が合意したはずの外国仲裁条項を「無効」とし、ロシアの裁判所に専属管轄を認めるため、ロシア国内で一方的に敗訴し、挙句の果てには西側制裁の遵守を「不法行為(デリクト)」に再構成されて損害賠償を命じられる判例実務が定着しつつあります。ロシア民法典第401条第3項が定める「不可抗力(Force Majeure)」を事業者の債務不履行における免責事由として援用しようとしても、契約締結時期によっては制裁リスクが「契約時点で予見可能であった」として退けられるなど、極めて厳格かつ保護主義的な法執行が繰り返されています。

本記事では、これら西側制裁と、ロシア連邦独自の強硬な対抗法制、最新の重要判例、および日本の外為法との違いについて解説します。

なお、ロシアの包括的な法制度の概要は下記記事にてまとめています。

米国等の国際制裁措置が日本企業にもたらす不利益とメカニズム

米国等の国際制裁措置が日本企業にもたらす不利益とメカニズム

日本企業がロシアやその利害関係者とのビジネスを行う場合、直接的な日本の法律違反だけでなく、米国の外国資産管理室(OFAC)や欧州連合(EU)、英国などの管轄機関が科す経済制裁の網の目に巻き込まれるリスクを常に評価しなければなりません。とりわけ、非米国企業である日本企業が最も注意を払うべきなのが、米国の法域(US Nexus)が直接存在しない取引であっても、米国決済網からの完全な締め出しなどの強力なペナルティを科す「二次制裁(セカンダリー制裁)」の存在です。

2023年12月22日に署名された米国大統領令第14114号は、従前のリストに基づく個別制裁から、ロシアの軍事産業基盤や重要セクター(防衛、技術、建設、製造、航空宇宙など)を支援する「外国金融機関(FFI)」を直接ターゲットにする二次制裁へと、その射程を決定的に拡張しました。この大統領令の下では、たとえ米国の直接の取引制限に違反していない非米国法人同士の決済であっても、その取引がロシアの軍事関連セクターに「重要(significant)」な支援を提供したとOFACに認定された場合、その取引を処理した外国銀行や金融機関そのものが、米国のコルレス口座開設を禁止され、または全面的な資産凍結を受ける対象となります。

この制裁メカニズムの存在から、第三国(中国、トルコ、アラブ首長国連邦、中央アジア諸国など)の銀行を含む世界中の金融機関は、米国から制裁を科されるという致命的なシナリオを恐れるあまり、ロシア関連の取引については、外為法や欧米の一次制裁において適法な取引であっても、一律に決済処理を遅延させ、あるいは送金そのものを拒絶する「過剰準拠(オーバーコンプライアンス)」に走るという実務的な現象を引き起こしています。これにより、日本企業は適法なプロジェクトの維持や、現地からの正当な資本還流、さらには完全な事業撤退に伴う資産売却プロセスの完了すら実質的にマヒさせられるという、甚大な不利益を被ることになります。

米国大統領令第14024号を改正し、二次制裁リスクを飛躍的に高めた大統領令第14114号に関する公式な大統領令の全文および関連するQ&A情報は、米国財務省(OFAC)の公式ポータルサイトで確認することができます。

参考:米国財務省による大統領令公開ページ

さらに、西側諸国が運用する「50パーセントルール」は、単に制裁対象者リストに名称が掲載されているかどうかという形式的なチェックを無力化する仕組みです。このルールでは、指定された特定の個人や法人が、直接または間接的に、累計で50%以上の株式や出資持分を保有している下位の全ての組織が、自動的に制裁対象(Blocked Person)として扱われます。

このルールにおいて特に関心を持つべきなのが、2026年3月31日にOFACが発表した「仮装取引および制裁迂回に関するサンクション・アドバイザリー」です。西側の制裁強化に伴い、多くのロシア企業やオリガルヒ(ロシアの新興財閥)が、親族、第三国のペーパーカンパニー、あるいは不透明な信託(トラスト)を利用し、形式的に出資比率を49%以下に引き下げて制裁を回避しようとする行為(Sham Transactions:仮装取引)が横行しています。これに対しOFACは、形式的な紙の上の名義変更や比率のみを判断材料とするのではなく、実質的に「誰がその資産を支配し、誰が経済的な受益を得ているか」という実態を追求する機能的なアプローチを適用すると明言しています。実態を伴わない虚偽の譲渡や名義借りとみなされた取引は「無効」と判定され、意図せずにこれらの不透明な「名義変更後の企業」と取引を行った日本企業に対しても、過失の有無を問わない「厳格責任(strict liability)」が適用されるため、結果として多額の制裁金や名誉的毀損、銀行取引の全面停止といった不利益が及び得ることが言えるでしょう。

制裁管轄支配・所有の判断比率複数SDNによる合算「実質的支配」の考慮(50%未満の場合)
米国(OFAC)50%以上有(複数のSDNの持分を累積合算)所有率が50%未満でも、実質的な支配権や経済的な利益供与が存在する場合は「仮装取引」とされ、資産凍結・制裁対象となるリスクが極めて高い
英国(OFSI)50%超(50.001%以上)有(共同で支配している場合も含む)実質的に支配(取締役の過半数指名権や意思決定の主導など)していると判断される場合は自動的に制裁対象に準ずる
欧州連合(EU)50%以上有(同一基準で合算)所有権や実質支配力を総合評価して資産凍結の対象とする

この仮装取引アドバイザリーが示す、信託構造や親族間譲渡におけるレッドフラッグの詳細な分析は、OFACの公式アドバイザリー文書で一般に公開されています。

参考:米国財務省外国資産管理室公式アドバイザリー

ロシア連邦による対抗制裁法制と外資接収・権利剥奪の脅威

日本企業が国際的な西側制裁を気にするあまり、ロシア法上の規制や同国政府が発出する「対抗制裁(報報的特別経済措置)」の考慮を怠れば、ロシア国内で重大な財産権の剥奪を受けるという壊滅的な結果を招きかねません。

ロシア連邦大統領が2022年5月3日に署名した大統領令第252号「一部の外国及び国際機関の非友好的な行為に関連する報報的な特別経済措置の適用について」は、不親切な国家(日本を含む)やその管理下にある企業、個人に対するロシア側の制裁制度の根幹を成すものです。同令は、ロシア連邦の管轄下にある国、地方自治体、法人および個人に対し、ロシア政府が定めた制裁対象リスト(Government Decree No. 851により追加・改定)に掲載された外国の個人・法人とのあらゆる取引の実施を禁じています。さらに、これらに該当する者に対するロシア産原材料や製品の輸出も厳格に禁じており、支払いをはじめとする金銭的取引全般も遮断されます。

ロシア大統領令第252号を具体化し、非友好的な国の企業に対する報報措置の法的根拠を提示している専門的な法的ドキュメントや関係法令は、モスクワおよび欧州拠点の国際法律事務所などの解説で確認できます。

参考:対ロシア対抗措置に関する法的アップデート

さらに深刻な脅威となるのが、2023年8月4日に公布・採択され、同年9月4日に施行された連邦法第470-FZ号(経済的に重要な組織に関する法、以下「ESO法」)です。この法律は、ロシア政府が指定する「経済的に重要な組織(ESO)」のリストに含まれるロシア法人について、非友好的な国(日本もこれに含まれます)に籍を置く外国持株会社(Foreign Holding Company:FHC)が有する株式持分やコーポレート権利(議決権、配当請求権、先買権等)を、ロシアの裁判所命令によって強制的に停止(実質的な剥奪)する手続きを確立したものです。

ESO法に基づく権利の停止および持分の移転プロセスは、以下のような仕組みで機能します。

ロシアの連邦行政機関やESO自身の役員、またはESOのロシア籍の受益者(間接的に持分を有していたロシア居住者等)がモスクワ州仲裁裁判所に申請を行うと、裁判所は極めて迅速な特別審理(最速で5日、最長でも1か月以内)により、外国持株会社のコーポレート権利の停止を決定します。決定が下されると、外国持株会社が保有していたESO株式は、一時的にESO自体(自己株式)に強制的に移転され、ロシアの登録機関に記録されます。その後、間接株主であったロシア人受益者に対して、外国持株会社を通じた間接保有割合に比例する形で直接の株式保有権が分配・譲渡されます。この結果、非友好的な国に籍を置く元々の外国親会社やその投資家は、ロシア国内にある事業の支配権(議決権等)を一方的に奪われ、意思決定から完全に排除されることになります。

このESO法の適用例として、ロシアで最大規模の食品小売チェーンを展開するX5 Retail Groupの事例は象徴的です。オランダに設立された持株会社X5 Retail Group N.V.は、ロシアで莫大な売上を誇る事業子会社(X5 Corporate Center LLC)を所有していましたが、2024年3月4日、同子会社がロシア政府によりESOリストに掲載されました。

その後、モスクワ州仲裁裁判所は2024年5月3日の決定により、オランダ親会社のコーポレート権利を強制的に停止し、ロシア子会社の株式をロシア籍の預託領収書(GDR)保有者や受益者に分配・直接所有化させるプロセスを開始させました。オランダ親会社はこれに対し、不当な持分接収として2024年9月に上訴(Cassation Appeal)を行い抵抗しましたが、ロシア側子会社は2024年12月25日に権利停止期間の延長を裁判所に申請するなど、そのコーポレート権利の凍結を恒久化させ、2025年1月には新ロシア法人(PJSC X5 Corporate Center)としてのモスクワ証券取引所への上場・取引開始を強行しています。

外国親会社に対しては、一応「分配されなかった端数持分等について、市場価値に応じた金銭補償(Cash Compensation)を請求する権利」がESO法上認められていますが、実際の支払いにあたってはロシア政府(外国投資管理委員会)の個別の認可要件が課されており、資金をロシア国外へ還流することは実質的に極めて困難となっており、名目的な財産権保護にとどまっています。

オランダ持株会社からのコーポレート権利停止と株式のロシア国内への実質的な強制還流を命じた、ロシア裁判所決定に関する公式プレスリリースおよび分配プロセスについての公式ドキュメントは、PJSC X5 Corporate Centerの公式インベスター・ポータルから直接入手可能です。

参考:PJSC X5 Corporate Center公式発表

司法実務における「ルゴボイ法」とロシア独自の裁判所専属管轄化

司法実務における「ルゴボイ法」とロシア独自の裁判所専属管轄化

日本企業がロシアの取引先と契約を結ぶ際には、将来の紛争に備えて「ストックホルム仲裁(SCC)」や「国際商業会議所(ICC)」、あるいは英国法などの第三国を紛争解決地(管轄裁判所・仲裁機関)として合意することが一般的です。しかし、ロシア連邦が2020年6月に施行した通称「ルゴボイ法(ロシア仲裁手続法:APC第248.1条および第248.2条の新設)」は、これらの一切の合意管轄を無力化し、強引にロシア国内の法廷に排他的に管轄権をもたせるものです。

ルゴボイ法第248.1条は、外国の経済制裁を科されたロシアの個人・法人、あるいは「制裁を原因(契機)とする紛争」について、ロシアの仲裁裁判所(ロシアにおける商業・民事紛争を扱う州立仲裁裁判所)に「排他的(専属的)な管轄権(Exclusive Jurisdiction)」を認めます。同条4項は、当事者間で有効に成立した外国の裁判管轄合意や国際商業仲裁合意が書面上存在していたとしても、外国制裁を理由として「アクセス・トゥ・ジャスティス(司法手続きに平等に参加する権利)に障害が生じている」とみなされる場合には、それらの外国合意は「不履行(unenforceable)」となり、ロシアの裁判所が事件を審理する独占的な管轄権を有すると規定しています。

さらに第248.2条は、ロシアの制裁対象者が外国で訴訟や仲裁を提起されることを防ぐため、ロシアの裁判所に対して「外国での手続きを中止(または開始を禁止)せよ」と命じる訴訟禁止命令(アンチスーツ・インジャンクション:ASI)の申し立てを認めます。このロシア側が発したASI命令に反して、日本企業などが外国で裁判や仲裁を維持・強行した場合、ロシアの裁判所は、外国手続きの対象となっている請求額を上限とする巨額の罰金(賠償金)を、ロシア国内の資産に対して科す決定を執行することができます。

ルゴボイ法の制定初期、ロシアの地方の仲裁裁判所は「単に西側諸国の制裁指定を受けただけでは不十分であり、現実にビザの発給拒否や送金拒絶などによって海外での裁判に出席できない具体的な立証が必要」として、管轄排除の適用に比較的慎重な態度を保っていました。しかし、ロシア連邦最高裁判所が下した決定的な判決により、このハードルは完全に撤撤されました。

ロシア連邦最高裁判所は、2021年12月9日に言い渡した判決(Case No. А60-36897/2020、当事者:JSC Uraltransmash v PESA)において、「外国の制裁措置がロシアの法人に対して課されたという事実そのものが、当該ロシア法人が海外で公平、平等、かつ偏りのない裁判を受ける権利(アクセス・トゥ・ジャスティス)を侵害する合理的な疑念を生じさせるのに十分であり、これ以上の具体的障害の存在を立証する必要はない」という極めて明確な司法解釈を確立しました。

この最高裁判所の判断により、ロシア企業は、どのような外国裁判所合意があろうとも、制裁対象であることを理由にロシア国内で日本企業を提訴することができるようになり、ロシア国内での一方的な裁判を余儀なくされる実務的リスクが固定化されたことが言えるでしょう。

近年では、このルゴボイ法を根拠に、ロシアの裁判所が西側企業に対して極めて強硬かつ不合理な判決を下すケースが急増しています。特に注意を要する司法実務のトレンドとして、契約関係の紛争をわざわざ「ロシア国内での不法行為(デリクト)」に再構成し、契約書に定められた免責条項を一切適用させずに損害賠償を命じるという驚くべき判例が出でいます。

その典型例が、ムルマンスク州仲裁裁判所で2025年8月1日に下され、同年11月21日に北西管区連邦仲裁裁判所がこれを維持したLavna Coal Terminal設備供給紛争(Case No. A42-5661/2025)に関する一連の判決、および2026年4月27日にロシア裁判所が言い渡した不法行為(デリクト)認定判決です。

この事案は、2018年に締結されたムルマンスク港の石炭ターミナル建設における設備供給および設置契約に基づき、EUの経済制裁の導入(2022年4月)を理由に、外国企業側が設置サービスの履行を拒絶し、支払われた前払金(約880万ユーロ)の返還も西側制裁による資産凍結を理由に拒否したものです。外国企業側は、オランダ・アムステルダムを合意地とするICC仲裁において「西側制裁に基づき返金は不能である」とする勝訴の仲裁判断を勝ち得ていました。しかし、ロシアの原告はルゴボイ法(APC第248.1条)を盾に、ロシアの裁判所に訴訟を提起しました。

ロシアの裁判所は、「外国の制裁措置はロシア公序に反するものであり、それを理由にロシア企業に対する前払金の返還を拒絶し続ける行為は、単なる契約不履行ではなく、ロシア国内において財産的損害を惹起させる違法な不法行為(デリクト:ロシア民法典第1064条(不法行為による損害賠償の一般規定)に該当する」と結論付けました。これにより、ロシア側はICC仲裁判断の効力を完全に否定し、契約書に設けられていた免責上限や手続きの合意をすべて無視して外国企業に対して多額の賠償請求を認めました。

日本企業にとってこの事例から言えることは、西側制裁に従うあまりロシアでの契約債務や返金を拒絶した場合、ロシア国内に保有する子会社の持分や口座資産、工業所有権、あるいはグループ企業の現地資産が、ロシア国内の「不法行為訴訟」を根拠とする差し押さえや強制執行の犠牲になり得るという点です。

ロシア民法典に基づく不可抗力と契約上の制裁免責条項

西側諸国による各種制裁の導入は、日本企業がロシアとのビジネスを継続することを物理的・法的に困難にさせます。こうした場面において、多くの日本企業は「契約不履行について、不可抗力(Force Majeure)に基づき責任を免れることができるのではないか」と考えます。ロシアの契約法制における不可抗力免責の基本規定は、ロシア連邦民法典第401条第3項に規定されています。

民法典第401条第3項によれば、債務不履行が「異常かつ回避不可能な状況下における不可避の力(不可抗力)」によって引き起こされたことを証明した場合に限り、金銭債務不履行に伴う損害賠償や違約金の支払い責任から免責されます。しかし、2022年以降、ロシアの各仲裁裁判所が示した「外国の制裁措置が不可抗力に該当するか否か」の解釈トレンドは、政治的かつ保護主義的な意図に左右されながら段階的に変遷を遂げてきました。

この変遷プロセスを詳細に把握することは、日本企業がロシア現地での訴訟を防御する上で必須の知識です。

時期・フェーズ裁判所の判断トレンドの概要理由と法解釈のメカニズム代表的な裁判例
初期(2022年後半)
Categorical Rejection
(一律拒絶期)
外国による制裁措置は不可抗力として一切認めず、履行拒絶に対して厳格なペナルティを課す外国制裁はロシアの公序良俗に反する違法なものであり、企業が自己の責任と危険負担で行うビジネスのリスク(商業リスク)に過ぎないとする厳格なナショナリズム的解釈ロシア第13仲裁控訴裁判所 2022年7月判決(Case No. A56-13654/2022、Spetsavtomatika v Torgovy Dom Severo-Zapadny)
中期(2023年)
Conditional Acceptance
(条件付容認期)
SWIFTからのロシア銀行排除や、厳格な個別送金拒絶など、物理的・客観的に履行が絶対に不可能な事象については不可抗力を例外的に認める銀行決済網の物理的遮断(CNY等の送金失敗)や、西側の厳しい対抗・凍結措置(SDN指定)は、個別の取引当事者の意思を完全に超えた客観的障壁(民法401条3項の不可避的状況)であると容認ロシア第13仲裁控訴裁判所 2023年4月判決(Case No. А56-95623/2022、Germestorg LLC v VTB Bank)
後期(2024年〜2026年)
Judicial Reluctance
(予見可能性・再厳格期)
長期化する地政学的環境を踏まえ、紛争発生後に締結された契約や履行期について制裁措置の影響を不可抗力として退けるすでに制裁が常態化している環境下において、制裁措置や流通・物流の遮断リスクは契約時に「当然予見可能(foreseeable)」であったと判断され、債務者の注意義務として別ルートを手配すべきだとみなされるロシア第4仲裁控訴裁判所 2025年3月判決(Case No. A58-2466/2024、Resource Center v Sintra)

このように、単に「制裁が導入されて輸出入やドル送金ができなくなった」と主張するだけでは、ロシアの民法401条3項による不可抗力免責を認められる確率は極めて低くなっているのが現実です。

ここで、日本企業が契約法務上注目すべきなのが、民法典第401条(法律上の不可抗力規定)による事後的な抗弁に頼るのではなく、契約を締結する初期段階において、明示的な「条件成就型の制裁免責条項(Sanctions Clause)」を組み込んでおくことの実務上の重要性です。

この有効性を示す重要な判例が、モスクワ管区仲裁裁判所が第一審として2023年10月10日に言い渡し、その後モスクワ管区仲裁裁判所(カッサーション審)も同旨の判断を維持した判決(Case No. А40-6734/2023、当事者:Uchalinsky GOK JSC v Sandvik Mining and Construction CIS LLC)です。

この事案は、2022年2月8日(ロシアによる軍事行動の開始直前)にスウェーデン製機械設備をロシア国内の購入者(Uchalinsky GOK、UMMCグループ傘下)に供給する契約を締結した、スウェーデンメーカーのロシア現地法人が、製造親会社による対ロシア輸出拒否に直面して引渡しを遅延・断念し、ロシア側から契約違約金(約15万ユーロ)を請求されたものです。

ロシアの第1審および控訴審・上告審(モスクワ管区仲裁裁判所)は、本契約の「第10条」に独立して規定されていた「制裁条項」の文言に依拠しました。この第10条は、「両当事者、および契約上の債務、並びに目的物自体が、米国、英国、EUなどの輸出貿易ルールやエンバゴ(禁輸)の制限、行政規制、その他の類似事態に服する場合があることを確認し、これに該当する事由によって直接・間接を問わず不履行(遅延)が生じた場合、他方当事者はいかなる直接・間接の損害賠償、ダウンタイム費用、遅延損害金などの請求を行えず、かつこれらを請求する権利を明示的に放棄する」という極めて包括的な内容でした。

裁判所は、ロシア民法典第401条に基づく一般的な「不可抗力(Force Majeure)」の成立性を審査するまでもなく、当事者間での「第10条の免責合意」自体が有効な特約として機能することを認めました。この条項は「履行の絶対的な不可能性」までは要求しておらず、政府の通商制限等によって「影響を受ける可能性がある」段階で直ちに免責がトリガーされる設計となっていました。結果として、裁判所はロシア側企業による違約金請求を却下し、被告スウェーデン現地法人に対する一方的な履行責任の追及を阻みました。

この判例から言えることは、ロシアが関与するビジネスにおいては、いかにロシアの民事裁判所やルゴボイ法による管轄権の包囲網が厳格であっても、当事者合意としての制裁免責条項の具体的な有効範囲や、免責事由が発生した際の責任放棄の記述が論理的に明確であれば、ロシア法下においても免責特約の不遡及・私法自治の原則が守られる可能性があるという点です。これによって、日本企業が契約書をドラフト・レビューする際における実務的戦略の重要性が一層浮き彫りになります。

日本の外国為替及び外国貿易法(外為法)との違い

日本の外国為替及び外国貿易法(外為法)との違い

ロシア市場での事業活動について考えるにあたり、日本の法制度、とりわけ「外国為替及び外国貿易法(外為法)」における制裁実施の法的な枠組みと、ロシア連邦独自の対抗法制や欧米の域外適用型制裁との間の「決定的な異同」について、正しい関心を持つことが要求されます。日本の法律における共通点や差異を知ることで、日本企業の経営陣が直面する特異なジレンマの構造をより深く理解することができるでしょう。

日本の外為法は、日本の領土内、あるいは日本国籍を有する法人・個人の行為に対して適用される属地・属人主義を基本とする一時制裁(プライマリー制裁)の枠組みです。外為法第48条第3項や輸出貿易管理令に基づき、軍事転用の恐れがある物品や、ロシアの工業力強化につながる特定品目(高級車、建設機械、産業用ソフトウェアなど)の輸出を「経済産業大臣の許可制」とすることによって実質的な禁輸措置を講じています。

一方で、日本の外為法と、米国やロシアの法制度との間には、以下の表に整理されるような重要な「違い」が存在します。

比較項目日本の「外為法」の枠組み米国の「OFAC制裁」の枠組みロシア連邦の「対抗制裁」の枠組み
資産凍結の定義・強制没収の有無法律上の「資産凍結(接収)」という手続きの明文定義はなく、対象者への支払行為に都度「財務大臣または経済産業大臣の許可」を課すことで実質的なブロックを実現するSDN(特別指定国民)に対する全面的な財産凍結。米国の管轄内にあるすべての資産・利害関係を凍結し、事実上の没収的扱いとする連邦法第470-FZ号(ESO法)等に基づき、非友好的な外国持株会社のコーポレート権利を裁判所命令によって一方的かつ恒久的に「強制停止」し、その持分をロシア籍受益者に移転・分配する
域外適用(二次制裁)の有無有しない。非日本国籍かつ日本国外で完結する取引に対して、日本の警察権や行政処分を直接適用するメカニズムはない強く有する(大統領令第14114号など)。米国法との直接の繋がりがない非米国企業同士の取引であっても、ドル決済の全面遮断などを科すことができる有しないが、ルゴボイ法に基づき、契約上の外国合意を「不法」として無視し、ロシア国内に何らかの拠点・資産を有する外国企業に対して排他的にロシア裁判所に引きずり込む域内囲い込みを行う
制裁迂回取引(第三国経由)へのアプローチ迂回取引の明文上の処罰規定は従来乏しいとされてきましたが、政府は「制裁迂回の防止」を目的に、実質解釈および第三国の名簿追加や、外為法違反(無許可輸出)の疑いに対する積極的な行政・警察捜査による逮捕・刑事罰執行を強めている「50%ルール」や「仮装取引の無効化」などを適用し、ダミー会社、親族、信託を介した実態なき名義譲渡取引を「無効」と判断して厳格な無過失責任により摘発する非友好的な国の企業からの株式譲渡や資産処分を、「外国投資管理委員会」による事前許可制や「Cアカウント」の義務化によって国内に資金・財産価値を強制拘束し、無認可の国外流出を防ぐ

この日本の外為法の執行強化をめぐる実務上の最も顕著な変化として、制裁迂回(第三国を経由したロシアへの転売など)に対する捜査当局の強硬な姿勢が挙げられます。

かつては、日本国外を経由したロシアへの密輸について故意を立証することはハードルが高いとされていました。しかし、2024年7月、大阪府警は貿易会社の代表者(ロシア国籍)が韓国等を経由してジェットスキーや船外機などを無許可でロシアへ迂回輸出したとして外為法違反(無許可輸出)容疑で逮捕しました。同年10月には、大阪地方裁判所にて当該個人に対して懲役3年、罰金500万円の実刑(有罪)判決が言い渡され確定しました。

この日本の執行の厳格化と国際的な判例潮流から言えることは、日本企業はもはや「日本の一次制裁(自社からロシアへの直接輸出の有無)だけを注意していれば安全である」という狭い法務認識に固執してはならないという点です。

第三国のディストリビューターを経由した製品が結果的にロシアへ流入している場合、日本国内での逮捕・起訴リスクに直面するだけでなく、米国財務省(OFAC)から「ロシアの軍事産業を支援する重要な取引に関与した」として大統領令第14114号に基づくセカンダリー制裁(外国金融機関のドル口座遮断等)の判定を下される引き金ともなり得ます。

一方で、西側諸国の要請に応じてロシア市場から完全に、あるいは段階的に撤退し、ロシア国内の合弁や子会社の持分を現地のビジネスパートナーへ形式的に譲渡しようとすれば、今度はロシア法上の「ESO法」や「Cアカウント」等の罠にかかります。西側のペナルティを回避するための措置が、ロシア国内法においては「正当な理由のない非友好的行為」「不法行為(デリクト)」と認定され、現地にわずかに残る営業拠点やブランド、債権がロシア企業による訴訟および差し押さえの標的になるという、文字通りの「二重の挟み撃ち」を覚悟しなければならないことが言えるでしょう。

この二重拘束をいかにして克服し、最適なコーポレート政策やリスク回避ストラクチャーを構築するかが、ロシアに関わるすべての日本企業の意思決定者に突きつけられた最大の法務課題です。

まとめ

国際社会における対ロシア制裁措置の長期化と、これに対抗するロシア連邦の多角的な「対抗制裁法制」の展開は、ロシアビジネスやそれに関係する取引を構想する日本企業に、かつてない高次元での法務リスクの分析を求めています。

米国の大統領令第14114号による二次制裁の脅威は、中立国を介した銀行の決済や適法な商流すらブロックする「過剰準拠(オーバーコンプライアンス)」という深刻な阻害要因を誘発しています。これに加え、親族や信託を巻き込む形での「仮装取引」を厳しく追及するOFACの監視姿勢は、形式のみに頼る所有権移転実務のリスクを一層際立たせています。

その一方で、ロシア連邦大統領令第252号や連邦法第470-FZ号(ESO法)による外資企業の「コーポレート支配権の強制剥奪・受益者への分配」の実態、さらにはロシア仲裁手続法第248.1条および第248.2条(ルゴボイ法)を背景とした外国仲裁条項の強制的な無力化と「不法行為(デリクト)への請求再構成」といったロシアの極めて利己的な判例実務は、契約書に免責を定めておけば安心であるという従前の私法解釈を根底から揺るがしています。

日本の外為法による執行強化を踏まえれば、日本企業は西側制裁の適合性を注意深く順守しながら、同時にロシア側からの報復的な財産権侵害から身を守らなければならないという、極限状態での選択を繰り返さなければなりません。これらの複雑に絡み合ったリスクを事前に見極め、未知の市場における規制管理や盲点の抽出、最適なコーポレートストラクチャーの再設計といった防御的かつ戦略的なアプローチを実行するためには、最新の国際制裁実務を総合的に見通した上での適切な意思決定が強く要求されます。

モノリス法律事務所では、企業の状況やターゲット国の動向を踏まえた制裁リスクの適正評価、国際スキームにおける法域ごとの抵触関係の整理、および契約書上での高度な制裁免責条項のドラフト設計を含め、企業が直面するこれらの困難な地政学的課題への実務的対応を、総合的にサポートいたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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