ロシア連邦の法律の全体像とその概要を弁護士が解説

ロシア連邦は、広大な国土と豊富な天然資源を背景に、独自の経済発展を遂げてきた新興経済国です。名目GDPで世界第11位、購買力平価(PPP)では第4位の経済規模を誇り、特にエネルギー分野への依存度が高い経済構造を有しています。近年、経済の多角化も進められていますが、高水準の軍事支出、家計消費の増加、低失業率、政府支出の拡大などにより、経済の安定性と成長を維持する強靭さも示しています。
ロシアの法制度は、日本と同様に大陸法系に属し、その法体系はローマ法にルーツを持ち、18世紀から19世紀にかけてはドイツ法やオランダ法の影響を強く受けました。さらに、20世紀のソビエト連邦時代には社会主義法の影響を受け、1990年代以降は再びヨーロッパ大陸法の要素を取り入れながら、現在も進化を続けています。このような歴史的背景を持つロシアの法制度は、日本の法体系と共通の基盤を持つ一方で、独自の発展を遂げた分野や、近年の地政学的状況を反映した特有の規制も多く存在します。
本記事では、ロシアの法律の全体像とその概要について詳しく解説します。
この記事の目次
ロシアの法制度の全体像と裁判所の構造
ロシアの法制度は、憲法を最高規範とし、連邦憲法法律、連邦法律、大統領令、政府決議・命令、その他国家機関の法的行為、地方の法律・規制が階層的に適用される、成文法の大陸法システムです。日本の法体系と同様に、判例法は公式な法源とはみなされていません。
しかしロシアでは、ロシア連邦最高裁判所が下級裁判所による法律の統一的かつ正しい適用を確保することを目的として、特定の法的規定の解釈に関する「勧告」を定めた総会決議を定期的に採択する、というシステムが採用されています。この「総会決議」の権限は、ロシア連邦憲法第126条および連邦憲法法律によって定められており、公式には法源ではありませんが、下級裁判所はこれらの勧告を「厳格に遵守」することが求められています。もし、下級裁判所がこれを無視して判決を下した場合、その判決は取り消される可能性があるとされています。日本の最高裁判所の判例も、事実上、下級審を拘束していますが、ロシアではこの「厳格な遵守」が明文化されていることで、実務上の拘束力がより明確になっています。
裁判所制度は、連邦レベルと地域レベルの二層構造を持ち、憲法裁判所、一般管轄裁判所(軍事裁判所を含む)、商事(Arbitrazh)裁判所の三種類の系統に分かれています。商事裁判所は、旧ソ連時代に商事案件を扱う準仲裁機関として設立されたものが、現代の商事裁判所に発展したものであり、商事紛争の第一審および控訴審を管轄します。2013年には、知的財産権に関する紛争を専門的に扱う知的財産権裁判所も設立され、商事裁判所の一部として機能しています。民事および刑事裁判は「半対審的」な性質を持ち、当事者が弁護士によって代理される一方で、裁判官も事実調査に積極的に関与します。
ロシアにおける会社設立とコーポレートガバナンス

ロシアにおける事業体の主要な法的形態は、有限責任会社(OOO)と株式会社(公開株式会社OAO、非公開株式会社ZAO)です。これらの形態では、株主の責任は原則として会社の債務に対して出資額に限定されます 。特に有限責任会社(OOO)は、最低資本金が1万ルーブルと低く、株式の発行手続きが不要であるため、外国投資家にとって最も一般的で人気のある形態となっています。外国資本が参加するOOOも、簡易課税制度(STS)の適用を受けることが可能です。
外国企業は、駐在員事務所や支店を設置することもできますが、これらは親会社の活動の一部を担うものであり、独立した法人格を持たない点が重要です。支店は商業活動を行うことができますが、駐在員事務所は通常、広告、マーケティング、現地契約締結の支援など、補助的・準備的な活動に限定されます。
会社設立には、定款の作成、最低資本金の銀行口座への預け入れ、登録料の支払いなどの手続きが必要です。海外で発行または署名された書類は、公証およびアポスティーユ(または合法化)が必要であり、ロシア語への翻訳と公証も義務付けられています。会社は統一国家法人登録簿(EGRUL)に登録され、登録には通常5営業日かかります。
ロシアで外国人が会社の総支配人(CEO)に就任する場合、労働許可証の取得に約1ヶ月を要します。この手続きの煩雑さを避けるため、実務上、ロシア国籍の人物を総支配人として雇用することが多く行われています。日本の企業が、本社からの直接的な指揮系統を重視する場合、この点に特に注意し、現地での人材確保や信頼できる代理人の選定が重要となります。
コーポレートガバナンスに関しては、ロシアの会社は少なくとも1名の総支配人(CEO)を置く必要があります。複数の総支配人を置くことも可能で、その場合は定款に従って共同または個別に職務を遂行します。公開会社は取締役会を設置しなければならず、経営陣のメンバーが取締役会の議長を務めることは禁じられています。取締役は、誠実かつ合理的に、会社の最善の利益のために行動する義務を負います。株主の責任は原則として有限ですが、未払込株式がある場合や、親会社が子会社に指示を与えて取引を行わせた場合など、例外的に親会社が子会社の債務に責任を負うことがあります。
有限責任会社 (OOO) | 公開株式会社 (OAO) | 非公開株式会社 (ZAO) | |
特徴 | 最も一般的で人気。株式発行不要 | 株式の公開募集が可能。証券とみなされる | 株式の公開募集は不可。株式は証券とみなされる |
設立要件(主要なもの) | 最低資本金1万ルーブル。定款 | 中央銀行への株式発行登録が必要。取締役会(5名以上)必須 | 中央銀行への株式発行登録が必要 |
株主の責任 | 出資額に限定 | 出資額に限定 | 出資額に限定 |
コーポレートガバナンス | 総支配人、株主総会 | 総支配人、取締役会、株主総会 | 総支配人、株主総会 |
ロシアにおける海外資本からの投資規制
ロシアは、国家防衛および国家安全保障にとって重要な企業への外国投資を規制する「戦略的投資法」(連邦法第57-FZ号)を運用しています。この法律は、外国投資家(外国政府や国際機関を含む)が戦略的事業体における株式または持分を移転する取引に適用されます。
「戦略的事業体」とは、ロシア連邦で設立され、戦略的に重要な活動を少なくとも1つ行う法人と定義されています。連邦法第6条には45種類の戦略的活動が列挙されており、これには天然資源の採掘、防衛関連、メディア、独占事業が含まれます。注目すべきは、このリストが厳密には国家防衛や安全保障に直接関係しないような広範な活動(例:乳製品製造における酵母の使用、製薬会社の滅菌検査、銀行の暗号化業務)にまで及ぶ可能性がある点です。一般的な「戦略的投資」の概念よりも広いため、意図せず規制の対象となる可能性があり、デューデリジェンスを行う必要性が高いと言えます。
外国投資家が戦略的事業体を「支配」する場合、または公開外国投資家がロシアのいかなる事業体(戦略的か否かを問わず)の議決権の25%以上を取得する場合、事前承認が必要です。ここでいう「支配」とは、議決権の50%超の保有、単独執行役員の任命権、取締役会または経営委員会の50%超の任命権などと定義されています。また、戦略的事業体の株式の5%以上を取得した場合は、取引完了後45日以内に連邦独占禁止庁(FAS)に通知する必要があります。これらの規制に違反した場合、取引は無効となり、行政罰(罰金)が科される可能性があります。承認手続きはFASへの申請から始まり、最終的には首相が率いる委員会によって審査されます。このプロセスは通常3〜6ヶ月、場合によっては9ヶ月かかることもあります。この戦略的投資法は、広範な適用範囲に加え、首相が率いる委員会による審査プロセスや、承認・不承認の理由が明確に示されない場合があるなど、その運用において不透明性や予測可能性の低さが指摘されています。
分野 | 具体的な活動例(抜粋) |
天然資源 | 地質調査、連邦重要地下資源区画の天然資源採掘 |
防衛関連 | 武器・軍事装備、放射性物質、宇宙・航空、暗号化、インフラ・輸送手段のセキュリティ評価・監視 |
メディア | テレビ・ラジオ放送、特定の印刷・出版活動 |
独占事業 | 通信・鉄道会社、その他「自然独占」事業 |
その他 | 乳製品製造における酵母の使用、製薬会社の滅菌検査、銀行の暗号化業務など、一見戦略的でない活動も含まれる場合がある |
ロシアの民法と不動産

ロシアの民法は、ロシア連邦民法典(Гражданский кодекс Российской Федерации, ГК РФ)を主要な法源とし、民事法の基本原則として、参加者の平等、私有財産の不可侵、契約の自由、民事権利の自由な行使、および民事権利の法的保護を掲げています。これらの原則は日本民法における基本原則と多くの共通点を持っています。
不動産に関しては、ロシア法では土地とそれに固く結合しているもの(建物、構造物など)が不動産として分類され、すべての不動産情報は国家不動産登録簿に登録されます。日本と同様に、土地と建物は別個の不動産として扱われ、異なる所有者が存在し得ます。不動産の売買には書面による契約が必要であり、共同所有する不動産を売却する際には、配偶者の公証された同意が必要となります。ただし、この同意の提出は登記機関に対しては必須ではないため、同意なしに登記が完了する可能性もありますが、その場合、同意しなかった配偶者は取引を知った時から1年以内に異議を申し立てる権利を有します。
ロシアの土地登記制度は「権利登記方式」に属するとされています。これは日本が「契約登記方式」に分類されることとは異なりますが、日本においても不動産物権変動の第三者対抗要件として登記が不可欠である点と、実質的には同様であると言えます。
ロシアにおける広告規制
ロシアの広告は、連邦法「広告について」(連邦法第38-FZ号)によって厳しく規制されており、消費者保護を目的として、不当表示や誤解を招く表現を禁止しています。特に医薬品や医療機器、金融サービスなど、広範な産業に適用されます。
近年、インターネット広告に対する規制が強化されており、2022年の改正により、すべての商業的なオンライン広告に対してラベリング(タグ/トークン付与)が義務付けられました。広告に関する情報は、統一インターネット広告登録簿(ERIR)に広告データ事業者(ADO)を通じてアップロードされなければなりません。2025年1月1日からは、ERIRへの広告素材登録時に、OKVEDコードに代わり「商品・サービスカテゴリ分類器(KKTU)」の使用が義務化されます。さらに、2025年4月1日からは、オンライン広告収入に対して3%の税金が導入されました。フォロワーが1万人を超えるブロガーのページやチャンネルも、2024年11月1日以降、Roskomnadzorへの登録と個人識別データの提供が義務付けられています。これらの規制に違反した場合、最大50万ルーブルの罰金が科される可能性があります。
ロシアにおけるオープンソースソフトウェア(OSS)
オープンソースソフトウェア(OSS)については、2023年7月28日に、未登録のOSS開発者に刑事責任が問われる可能性のある法案が採択されました。これは、国際的なOSSプロジェクトに参加するロシア人開発者に懸念をもたらしています。
一方で、2022年6月には、憲法裁判所が、第三者のオープンライブラリの使用を理由に著作権保護を拒否することは許されないとの判決を下し、OSS利用者の権利保護を強化する動きも見られます。
ロシアの資金決済法
ロシアの資金決済システムは、国内取引において「Mirカード」が重要な役割を担っています。2017年には、公務員や年金受給者などへの給付金支払いにMirカードの使用が義務付けられ、2022年のVisaおよびMastercardのロシア事業停止以降、その市場シェアは大幅に拡大し、国内カード取引の過半数を占めるに至っています。Mirカードは一部の友好国でも受け入れられています。
資金移動に関しては、2025年5月30日に施行された連邦法第522-FZ号により、マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策が強化されました。主な変更点として、簡易本人確認による送金の上限が10万ルーブルに設定され、これを超える送金には送金者と受取人の完全な本人確認が義務付けられます。また、疑わしい取引が検出された場合、最長30日間のカード一時停止が可能となり、銀行は疑わしい取引をRosfinmonitoring(金融監視サービス)および連邦税務サービス(FTS)に報告する義務を負います。これらの新ルールは、すべての個人間送金に課税するものではなく、所得とみなされる送金(商品・サービスの対価、未申告給与など)のみが課税対象となります。
ロシアの個人情報保護法
個人情報保護については、連邦法「個人データについて」(連邦法第152-FZ号)が主要な法令であり、ロシア国民の個人データの収集、処理、保管、移転を規制しています。この法律は、ロシア国外に所在する企業であっても、ロシア国民の個人データを扱うすべての事業体に適用されます。特に、生体認証データ、人種、政治的意見、健康状態などの「特別カテゴリーの個人データ」は、より厳格な保護と明示的な同意が求められます。個人データの処理には、原則として本人の「自発的、特定の、情報に基づいた」同意が必要であり、本人はいつでも同意を撤回する権利を有します。
最も特徴的なのは「データローカライゼーション義務」です。ロシア国民の個人データを扱うすべての事業者は、その個人データをロシア国内のデータベースに保管・処理することが義務付けられています。この義務は、外国企業がロシア国民の個人データを収集する場合にも適用され、一次的な保管はロシア国内で行う必要があります。この義務に違反した場合、Roskomnadzor(個人情報保護監督庁)によるウェブサイトのブロックや、初回違反で100万〜600万ルーブル、再犯で600万〜1800万ルーブルという高額な罰金が科される可能性があります。
ロシアの個人情報保護法における「データローカライゼーション義務」は、日本の個人情報保護法(APPI)が、越境移転に関して本人の同意や契約上の保護措置を求めるものの、必ずしも国内保管を義務付けない点と大きく異なります。
ロシアにおける医薬品の流通
ロシアの医薬品の流通は、連邦法「医薬品の流通について」(連邦法第61-FZ号)によって包括的に規制されています。この法律は、医薬品の開発、前臨床試験、臨床試験、審査、国家登録、品質管理、市販後調査など、医薬品のライフサイクル全体を網羅しています。
特に注目すべきは、2017年に導入された国家追跡・追跡デジタルシステム「Chestny ZNAK」です。このシステムは、医薬品の品質管理、偽造医薬品対策、供給・需要・支出の監視を目的としており、すべての医薬品(OTC医薬品を含む)にシリアル化を義務付けています。これは、EUの偽造医薬品指令(FMD)や米国の医薬品サプライチェーンセキュリティ法(DSCSA)がOTC医薬品にシリアル化を義務付けていない点と大きく異なる、厳格な規制です。日本の製薬企業がロシア市場に進出する際には、このChestny ZNAKシステムへの対応が必須となり、既存のサプライチェーンおよびITシステムを大幅に改修する必要があるため、特にOTC医薬品の製造・流通コストに大きな影響を与える可能性があります。医薬品の各単位には、GTIN、シリアル番号、ロット番号、有効期限、FEACNコードを含む2Dデータマトリックスコードが付与され、中央データベース(FSISMDC)に登録されます。
ロシアにおける医薬品の広告

医療や医薬品の広告は、連邦法「広告について」(連邦法第38-FZ号)および医薬品の流通に関する連邦法(連邦法第61-FZ号)によって厳しく規制されています。一般原則として、広告は完全かつ信頼できる情報を含み、医薬品の合理的な使用に貢献するものでなければなりません。
広告には、必ず「禁忌の存在」「使用説明書を熟読する必要性」「専門家への相談の必要性」のいずれかの警告文を含める必要があります。これらの警告文の表示時間や面積も厳しく規定されています(ラジオ広告で3秒以上、テレビ広告で5秒以上かつ画面面積の7%以上、その他書面広告で5%以上)。処方箋医薬品の一般向け広告は原則として禁止されており、医療・製薬関係者向けの専門誌や展示会、セミナーなどでのみ許可されます。
広告で禁止される表現には、即効性の誇示、医師の画像の使用、特定の個人の回復事例の紹介、添付文書に記載されていない効能の言及、国家登録によって優位性が保証されているかのような示唆、消費者が特定の疾患を持っているかのような示唆、医師の診察が不要であるかのような印象を与える表現などが含まれます。他の医薬品との比較広告も禁止されています。
ロシアの労働法
ロシアの労働関係は、ロシア連邦労働法典によって包括的に規制されています。この法典は、雇用契約、労働時間、賃金、休暇、労働安全など、雇用に関する広範な権利と義務を定めており、国籍を問わずすべての従業員に適用されます。
雇用契約は原則として無期雇用とされ、有期雇用契約は労働法典第59条に列挙された特定の状況でのみ許可されます。有期雇用契約の期間は最長5年です。試用期間は通常3ヶ月以内ですが、一部の管理職では6ヶ月まで延長可能です。試用期間が不成功に終わった場合、雇用主は3日前の書面通知で解雇できます。
賃金は連邦法で定められた最低賃金を下回ってはならず、月に2回、ロシア・ルーブルで支払われる必要があります。夜間労働、休日労働、時間外労働には割増賃金が適用されます。通常の労働時間は週40時間を超えてはならず、16歳未満は週24時間、16歳から18歳および障害者は週35時間など、特定の年齢層や属性に応じて制限があります。時間外労働は原則として従業員の書面による同意が必要で、年間120時間に制限されます。
年次有給休暇は最低28暦日であり、平均賃金が支払われます。出産休暇や育児休暇も認められています。雇用主は、安全で健康的な労働環境を提供する義務を負い、労働安全衛生に関する予防措置や訓練、必要な設備の提供が求められます。
ロシア労働法典は、雇用契約の解除に「正当な理由」を要求し、労働法典に明記された理由以外での解雇を許しません。
ロシアで許認可が必要なビジネスと各許認可の概要
ロシアでは、法律で禁止されていない限り、あらゆる活動が可能ですが、一部の活動には特別な許認可(ライセンス、認証)が必要となります。これらの許認可なしに活動を行った場合、事業の閉鎖や総支配人・会社経営陣への刑事罰を含む厳しい処罰が科される可能性があります。
許認可が必要な活動の例としては、銀行、保険、投資、通関仲介、輸送、物流、車両・航空機修理、医療・医薬品、教育、電気通信、公証サービス、危険物施設の建設・保守、武器・麻薬・毒物関連活動、旅行代理店などが挙げられます。製品に関しては、医薬品、洗剤、医療機器、電気通信機器など、特定の製品の輸入および販売には認証が義務付けられています。
ライセンスは通常、ロシアの法人または個人事業主が申請者となる必要があり、手続きには1日から15営業日かかります。ただし、暗号化手段には連邦保安庁(FSB)の通知、無線電子機器(REM)や高周波機器(HFD)にはRoskomnadzorの許可や無線周波数センター(RFC)の声明、医薬品やその前駆体には連邦麻薬統制サービスの許可など、追加の書類が必要となる場合があります。
このように、ロシアでは、特定の事業活動や製品の輸入・販売に多岐にわたる許認可が義務付けられており、特に外国企業は、原則としてロシア法人を設立しなければライセンスを取得できないという点が、日本企業にとって大きな参入障壁となる可能性があります。一部の分野では外国企業の支店によるライセンス取得が検討されているものの、多くの分野で依然として制限が厳しい状況です。
まとめ
本稿では、ロシア連邦における法制度の主要な側面を、日本法との比較を交えながら解説しました。ロシアは、大陸法系の伝統を受け継ぎつつも、独自の歴史的経緯と近年の地政学的状況を反映した特有の法制度を有しています。
日本の企業がロシアでのビジネス展開を検討する上で留意すべき点は多岐にわたります。例えば、ロシアの裁判所は公式には判例を法源としないものの、最高裁判所の勧告が実質的に強い影響力を持つため、日本の判例法理とは異なる形で法的予見可能性を確保する必要があります。会社設立においては、有限責任会社(OOO)が最も一般的な選択肢ですが、外国人役員の労働許可取得に関する実務的課題があります。海外からの投資に関しては、国家安全保障に関わる「戦略的事業体」への投資が厳しく規制されており、その対象範囲は一見無関係な事業にまで及ぶ可能性があります。承認プロセスの不透明性も、投資判断の不確実性を高める要因となり得ます。
このように、ロシア市場は大きな潜在力を秘めている一方で、その法制度には多岐にわたる複雑な規制があり、また、急速な変化が発生する可能性があります。これらの法的リスクを理解し、適切なコンプライアンス体制を構築することが、ロシアでのビジネスには不可欠です。
関連取扱分野:国際法務・海外事業
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務