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ブルネイのコーポレートガバナンスを弁護士が解説

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ブルネイのコーポレートガバナンスを弁護士が解説

東南アジアのボルネオ島北部に位置するブルネイ・ダルサラーム国(以下、ブルネイ)は、豊富な石油・天然ガス資源を背景に安定した経済を維持しており、近年では経済の多角化を目指して海外からの投資誘致を積極的に推進しています。日本企業にとっても、エネルギー分野だけでなく、インフラ、通信、食品など多様なセクターにおいて魅力的な市場となりつつあります。しかし、ブルネイに進出するにあたって、現地の法規制やコーポレートガバナンスの枠組みを正確に理解することは、事業の成功と直結する極めて重要な課題です。

日本のコーポレートガバナンスは、証券取引所が定めるコーポレートガバナンス・コードや機関投資家からの市場圧力を軸とする「市場主導型」の性格が強いのに対し、ブルネイのコーポレートガバナンスは、強力な規制当局による「規制当局主導型」で発展を遂げてきたという根本的な違いがあります。国家の戦略的方針として厳格な法令遵守が求められており、単なる形式的なコンプライアンスではなく、実質的な内部統制やリスク管理の徹底が行政機関から直接的に監督される構造となっています。

本記事では、ブルネイでのビジネス展開を検討している日本人の経営者や法務部員の皆様に向けて、同国のコーポレートガバナンスの全体像を詳細に解説します。まず、すべての法人が遵守すべき基盤となる「会社法(Companies Act, Cap.)」を取り上げ、現地居住取締役の選任義務、年次報告や株主総会の厳格なスケジュール管理、そして監査要件とその免除規定について、日本の会社法制との重要な違いを交えながら詳述します。

次に、ブルネイ経済の中核を担う政府系企業(GLC)に対する国家主導のガバナンス体制に焦点を当て、ダルサラーム・アセッツ(Darussalam Assets Sdn Bhd)による統括体制や、2026年から本格施行される「個人データ保護令2025(Personal Data Protection Order)」への対応要件を解説します。さらに、ブルネイ・ダルサラーム中央銀行(BDCB)が所管する金融・規制セクターにおける高度な内部統制とリスク管理のガイドラインを分析します。

最後に、取締役の信認義務違反と第三者の個人的責任に関するコモンロー上の画期的な判例である「Royal Brunei Airlines Sdn Bhd v Tan」事件(1995年5月24日枢密院判決)を紐解き、現地の司法環境がいかに経営者の義務に対して厳格な姿勢を取っているかを明らかにします。これらの法的・制度的枠組みを体系的に理解することで、ブルネイにおける安全で持続可能なビジネス展開の基盤を築くことができます。

法的及び制度的基盤としてのブルネイ会社法制と日本法との異同

ブルネイにおいて事業を展開するすべての企業が拠り所とする中核的な法律が、会社法(Companies Act, Cap.)です。この法律は、企業の設立、財務諸表の作成、法定書類の提出、監査、そして取締役会の運営に関する包括的なルールを定めています。企業登録をはじめとする規制の管轄は、財務経済省(Ministry of Finance and Economy)の傘下にある企業・ビジネスネーム登記局(Registry of Companies and Business Names、以下「ROCBN」)が担っています。近年、ROCBNは「One Common Portal(OCP)」という統合デジタルプラットフォームを導入し、法人の設立から税務申告までの手続きをオンラインで一元管理することで、行政手続きの透明性と効率性を高めています。

以下の表は、ブルネイで最も一般的な進出形態である非公開株式会社(Sendirian BerhadまたはSdn Bhd)と、日本の非公開の株式会社における主要な会社法制の要件を比較したものです。

比較項目ブルネイ・ダルサラーム国(Sdn Bhd)日本(非公開の株式会社)
根拠法会社法(Companies Act, Cap.)会社法
管轄当局企業・ビジネスネーム登記局(ROCBN)法務局(登記所)
取締役の居住要件少なくとも1名は現地居住者であること居住要件なし(全員非居住者でも設立可能)
定時株主総会(AGM)設立から18ヶ月以内、以降は前回から15ヶ月以内毎事業年度の終了後一定の時期(通常3ヶ月以内)
年次報告書の提出AGM開催日から30日以内に提出登記義務はあるが、毎年の年次報告書の提出義務はなし
会計監査の義務原則必須(ただし厳格な条件を満たす小規模企業は免除)大会社(資本金5億円以上等)等を除き原則任意

取締役の要件と厳格な信認義務

ブルネイの会社法における最大の特徴の一つは、取締役の居住要件です。ブルネイで非公開株式会社(Sdn Bhd)を設立する場合、少なくとも1名の現地居住取締役(Local Resident Director)を選任することが会社法によって義務付けられています。日本においては、2015年に代表取締役の日本居住要件が撤廃され、現在では取締役全員が海外居住者であっても株式会社の設立と運営が可能となっています。この点において、ブルネイの法制度は外資系企業に対してより厳格なハードルを設けていると言えます。この居住要件を満たすため、外国人投資家は現地の企業向けサービスプロバイダーを通じてノミニー・ディレクター(名義貸し取締役)を選任するという実務対応を採ることが一般的です。

ブルネイにおける取締役の役割は単なる名義にとどまらず、コモンローに基づく高度な信認義務(Fiduciary Duty)善管注意義務(Duty of Care)が課されています。取締役は、常に会社の最善の利益のために誠実に行動し、利益相反を回避する義務を負います。また、会社法に基づく年次報告書の提出や税務申告などの法令遵守を徹底し、会社の法的・財務的・オペレーショナルなリスクを管理する内部統制システムを構築する責任があります。ノミニー・ディレクターであっても、会社法上の責任から完全に免責されるわけではなく、法令違反があった場合には罰金や法的制裁の対象となるため、実質的な親会社たる日本企業も現地のコンプライアンス管理を極めて慎重に行う必要があります。

具体的な法令の該当箇所や法改正を確認するための公式な情報源は、ブルネイ財務経済省(MOFE)のウェブサイトで確認することができます。

参考:ブルネイ財務経済省公式ウェブサイト(2020年会社法改正令)

年次報告と株主総会に関する規制の時間軸

日本企業がブルネイで事業を運営する際に特に注意すべきなのが、定時株主総会(AGM)の開催時期年次報告書(Annual Return)の提出期限に関する規定です。日本の実務においては、会社法および法人税法の規定を背景として、事業年度の終了から3ヶ月以内に定時株主総会を開催し、決算を承認するというスケジュールが定着しています。

一方、ブルネイの会社法第107条から第109条に基づく規定では、法人のスケジュール管理は「事業年度」よりも「前回の総会開催日」や「設立日」を基準としています。具体的には、最初の定時株主総会は会社設立から18ヶ月以内に開催しなければならず、その後の定時株主総会は、暦年で年1回、かつ前回の開催日から15ヶ月以内に開催することが義務付けられています。

さらに、定時株主総会の開催日から30日以内に、すべての取締役および株主の詳細情報、株式資本の概要などを記載した年次報告書をROCBNに対して提出しなければなりません。この30日という期限を徒過した場合、会社法に基づく罰金が科されるだけでなく、法人の登録が抹消されるリスクや、将来のコーポレート・トランスアクションにおいて法人としての適格性証明(Good Standing Certificate)を取得できなくなるなど、事業継続に重大な支障をきたす恐れがあります。会社法第312条は、レジストラーに対する虚偽の申告に厳しい罰則を設けており、日本本社からの適切な管理監督が不可欠です。

監査要件と免除規定の特殊性

ブルネイの会社法制において、日本法と大きく異なるもう一つの点が会計監査の義務付けです。日本の非公開会社(大会社等を除く)においては、会計監査人の設置は任意であり、多くの中小企業は外部監査を受けていません。しかし、ブルネイでは原則としてすべての法人が監査人を選任し、監査済みの財務諸表を提出する義務を負います。

ただし、ビジネス環境の改善を目的とした2014年の会社法改正(Companies Act Amendment No.2 Order,)により、特定の中小企業に対する監査免除規定が導入されました。会社法第133B条および第133C条によれば、休眠会社(会計取引が発生していない会社)や、一定の厳格な条件を満たす非公開会社(Exempt Private Company)は監査義務が免除されます。

この非公開会社が監査免除を受けるための条件は以下の3点すべてを満たすことです。

  1. 当該年度の収益が100万ブルネイドルを超えないこと。
  2. 当該法人の株式の受益権が、直接的または間接的に他の法人によって保有されていないこと。
  3. 株主数が20名以下であること。

ここで日本企業が留意すべき最大のポイントは、第2の条件です。ブルネイ法人に出資する親会社が日本法人である場合、「他の法人によって株式が保有されている」ことに該当するため、免除の要件から外れてしまいます。したがって、日本企業がブルネイに完全子会社や合弁会社を設立する場合、その子会社の売上規模がいかに小さくとも、原則として会社法に基づく外部監査が毎年義務付けられるという厳しい規制環境にあることを想定しておく必要があります。

ブルネイの政府系企業に対する国家主導のガバナンスと法令遵守

ブルネイの政府系企業に対する国家主導のガバナンスと法令遵守

ブルネイ経済において、石油・ガス、電気通信、輸送、電力、金融といった主要なインフラや基幹産業は、政府系企業(Government-Linked Companies:GLCs)が圧倒的なシェアを占めており、市場を主導しています。これらの政府系企業の動向やガバナンス体制を理解することは、日本企業が現地でBtoBビジネスを展開する上で欠かせません。

ダルサラーム・アセッツによる統合的な管理体制

ブルネイの政府系企業は、財務経済省が全額出資して2012年に設立された持ち株会社「ダルサラーム・アセッツ(Darussalam Assets Sdn Bhd)」によって統合的に管理・統括されています。ダルサラーム・アセッツは、政府の資産を単に保有するだけでなく、商業的原則に基づいて政府系企業を世界クラスの企業へと育成するという積極的な役割を担っています。

この目標を達成するため、ダルサラーム・アセッツは2013年に「コーポレートガバナンス・コード(Corporate Governance Code)」を制定し、さらに2015年には具体的な役割、責任、リスク管理の手法を定めた「コーポレートガバナンス・マニュアル」を正式に導入しました。同社は、各政府系企業の取締役会レベルで国際的なベストプラクティスを遵守させ、国際財務報告基準(IFRS)の導入を推進するなど、透明性の高い経営体制の構築を主導しています。

ダルサラーム・アセッツの統括体制に関する公式な情報は、同社の公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:ダルサラーム・アセッツの公式ウェブサイト

一般法令の遵守と新たなデータ保護法制への対応

政府系企業は国家の支援を受けていますが、ブルネイの立法評議会(LegCo)における議論でも明言されている通り、政府系企業であっても一般の民間企業と同様に会社法をはじめとする法規制の適用対象であり、いかなる免除も受けません。財務諸表の作成、法定監査の受審、取締役会のガバナンスに関する規定を厳格に遵守することが求められています。

加えて、すべての企業は所得税法(Income Tax Act, Cap.)や雇用法(Employment Act, Cap.)といった基本法令のみならず、近年急速に整備が進むデジタル分野の規制にも対応しなければなりません。その代表例が、2025年1月8日に制定され、2026年1月から本格的に施行される予定の「個人データ保護令2025(Personal Data Protection Order 2025:PDPO)」です。

この新しい法令は、ブルネイ国内で事業を行う組織による個人データの収集、使用、開示を包括的に規制するものであり、日本の個人情報保護法(APPI)や欧州の一般データ保護規則(GDPR)に匹敵する現代的なプライバシー保護の枠組みを提供します。企業はデータ処理に対する有効な同意の取得、説明責任の確保、適切なデータ保持期間の設定、そしてデータ漏洩が発生した際の規制当局への通知義務などを負うことになります。違反した場合には罰金や禁固刑が科される可能性があり、ブルネイのコーポレートガバナンスの焦点が、伝統的な会社法のコンプライアンスから、情報セキュリティやデータプライバシーといった高度なデジタルガバナンスの領域へと拡大している事実から、市場環境の急速な近代化ということが言えるでしょう。

ブルネイの金融及び規制セクターにおける内部統制とリスク管理

ブルネイにおけるコーポレートガバナンス規制が最も先鋭化しているのが、金融セクターです。金融機関や保険会社などの許認可事業者は、ブルネイ・ダルサラーム中央銀行(BDCB)の強力な監督下に置かれており、国際的な金融システムの安定性を担保するための極めて厳格な内部統制とリスク管理が義務付けられています。

ブルネイ・ダルサラーム中央銀行による包括的なガイドライン

BDCBは、経済協力開発機構(OECD)の原則などの国際的なベストプラクティスに準拠した詳細なコーポレートガバナンスガイドラインを策定し、各金融機関にその遵守を命じています。代表的なものとして、銀行向けの「Guidelines of Corporate Governance for Banks」や、保険会社およびタカフル(イスラム保険)事業者向けの「Notice on Corporate Governance for Insurance Companies and Takaful Operators (Notice No. TIU/N-3/2017/7)」などがあります。

これらのガイドラインでは、取締役会が単なる業務執行の承認機関ではなく、金融機関の戦略的目標の設定、企業文化の醸成、そして財務の健全性を維持するための「究極の責任(Ultimate Responsibility)」を負うことが明記されています。また、特定の個人や少人数のグループに意思決定の権限が過度に集中することを防ぐため、取締役会に強い独立性を持たせることが要求されています。

このガイドラインに関する詳細は、ブルネイ・ダルサラーム中央銀行の公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:ブルネイ・ダルサラーム中央銀行の公式ウェブサイト

健全性とリスク管理の徹底

BDCBの規制は、取締役会の構造にとどまらず、日々のオペレーションや人事評価制度にまで深く踏み込んでいます。たとえば報酬体系については、短期的な利益追求による過度なリスクテイクを助長するようなインセンティブ構造を厳しく制限しており、リスクの不確実性を定性的および定量的な指標を用いて慎重に評価した上で報酬を決定しなければならないと定めています。

さらに、マネーロンダリングやテロ資金供与(AML/CFT)、贈収賄、あるいは内部不正を未然に防ぐため、実効性のある内部通報制度(Whistleblowing System)の構築が義務付けられています。この制度は、経営陣から独立した報告ルートを確保し、通報者の保護を確実にするものでなければなりません。また、業務を外部に委託する場合のアウトソーシング規制(Notice No. TIU/N-1/2019/11)も厳格であり、委託先のデューデリジェンスやリスク評価の最終責任は常に金融機関の取締役会と上級経営陣にあることが規定されています。

このように、ブルネイの金融セクターにおいては、規制当局の強いイニシアチブによって、形式基準を超えた高度なガバナンス体制が直接的に強制されているのです。

ブルネイの判例から見る取締役の義務と個人的責任の厳格性

ブルネイの判例から見る取締役の義務と個人的責任の厳格性

ブルネイにおける取締役の信認義務がいかに厳格に解釈され、また司法がいかに強い態度で臨んでいるかを理解する上で、コモンロー法域全体に多大な影響を与えた「Royal Brunei Airlines Sdn Bhd v Tan」事件の判例分析は欠かせません。この事件は、法人の背後にいる経営者個人の責任を追及した事案であり、日本から現地法人の役員として赴任する経営者にとって極めて重要な教訓を含んでいます。

信認義務違反と第三者の責任

本件は、Royal Brunei Airlines(原告)が、自社の航空券販売代理店であったBorneo Leisure Travel Sdn Bhd(BLT)の代表取締役であり主要株主であったPhilip Tan Kok Ming氏(被告)に対し、信託義務違反に対する「不誠実な支援(Dishonest Assistance)」を行ったとして、損害賠償の個人的責任を追及した事案です。

代理店契約によれば、BLTが顧客から受け取った航空券の販売代金は、原告のための信託財産として別の口座で保管する義務がありました。しかし、BLTは被告であるTan氏の指示と協力の下、これらの資金を自社の一般当座預金口座に振り込み、従業員の給与や一般経費など、自社の運転資金として流用してしまいました。その後、BLTは債務超過に陥り、原告に対して代金を支払うことができなくなりました。

第一審であるブルネイ高等裁判所(High Court of Brunei)は、被告がBLTの信託違反における不誠実な支援を行ったとして、被告個人の責任を認めました。しかし、その後のブルネイ・ダルサラーム控訴院(Court of Appeal of Brunei Darussalam)は、法人たるBLT自体が詐欺や不誠実な意図を持って資金を流用したことまでは証明されていないとし、主たる受託者(BLT)が不誠実でない以上、第三者である被告も責任を負うことはないとして、第一審の判決を覆しました

枢密院による客観的基準の確立と経営者への警鐘

最終的に、この事件は当時のブルネイの最高上訴裁判所としての機能を有していた枢密院(Judicial Committee of the Privy Council)に持ち込まれました。1995年5月24日に下された判決( 2 AC)において、枢密院(Nicholls裁判官が判決理由を執筆)は控訴院の判決を破棄し、原告の請求を全面的に認める画期的な判断を下しました。

枢密院は、主たる受託者(法人)の心理状態や意図がどうであれ、その信託義務違反を支援した第三者(取締役)自身の行為が「不誠実(Dishonest)」であれば、その第三者は個人的に責任を負うという明確な法理を確立しました。さらに重要な点として、この「不誠実さ」の判断基準は、個人の主観的な道徳観念ではなく、「通常の誠実な人間がその状況で取るべき行動基準」という『客観的基準(Objective Standard)』によって評価されると判示しました。つまり、「自分としては会社のために良かれと思ってやった」「横領する意図はなく、一時的に資金を借りただけであり、悪いことだとは思わなかった」という被告の主観的な弁明は、客観的に見てその行為が不適切であれば、一切法的保護の対象にはならないということです。

この画期的な判例は、現在でもコモンロー諸国で広く引用されています。この判例に関する公式な文献は、以下のURLなどで確認することができます。

参考:英国枢密院判決「Royal Brunei Airlines Sdn Bhd v Tan [1995] UKPC 4」

この厳しい判決から、ブルネイにおいては「法人の有限責任」という建前に隠れることなく、信認義務違反を主導または関与した経営者個人の責任を追及することに対して、司法が極めて強い姿勢で臨んでいるということが言えるでしょう。日本企業の駐在員や現地法人の取締役が、現地の資金管理ルールや法令を軽視し、本社からの指示のみを優先して不適切な資金移動やコンプライアンス違反に関与した場合、本判例の法理に基づき、莫大な個人的損害賠償責任を負うリスクがあることを深く認識する必要があります。

まとめ

本記事で詳細に解説した通り、ブルネイ・ダルサラーム国のコーポレートガバナンスは、市場の自律的な監視機能に依存するのではなく、会社法制をはじめとする法律、金融当局によるガイドライン、そして政府機関による直接的な監督を通じた「規制当局主導型」のアプローチによって強固に構築されています。

日本企業がブルネイへの進出を検討するにあたっては、日本法との違いを正確に把握することが不可欠です。会社法(Cap.)に基づく現地居住取締役の選任義務や、事業年度ではなく設立日や前回の開催日を基準とする定時株主総会(AGM)および年次報告書の厳格なスケジュール管理は、日本国内の緩やかな実務感覚のままでは対応を誤る危険性があります。また、会計監査の免除規定が存在するものの、法人株主が存在する時点で免除の対象外となるため、日本企業の子会社は実質的に毎年の法定監査を義務付けられる点にも十分な注意が必要です。

さらに、市場を牽引するダルサラーム・アセッツ傘下の政府系企業(GLC)との取引においては、相手方が国際基準の高度なガバナンスコードに従って動いていることを理解し、自社にも同等水準のコンプライアンスが求められることを想定すべきです。2026年より本格稼働する「個人データ保護令2025(PDPO)」への対応など、法務リスクの管理対象は伝統的な会社法からデジタル領域へと急速に拡大しています。そして何より、「Royal Brunei Airlines Sdn Bhd v Tan」事件の枢密院判決が示すように、ブルネイの司法は、信認義務に反した経営者の客観的な不誠実さに対して、個人的責任を追及する厳格な判断を下す環境にあります。

このように、ブルネイでのビジネス展開には、現地の法的要件の遵守と、経営者自身の厳格なリスクマネジメントが不可欠です。モノリス法律事務所では、海外進出に伴う現地の会社法制の調査、コンプライアンス体制の構築、コーポレートガバナンスに関連する法的リスクの評価など、日本企業の皆様がブルネイにおいて適法かつ安全に事業を推進するための法務面からのサポートいたします。未知の市場での事業立ち上げと持続的な成長に向けて、ぜひ当事務所のリーガルサービスをお役立てください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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