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クロスボーダー

香港の広告規制を弁護士が解説

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香港の広告規制を弁護士が解説

香港(中華人民共和国香港特別行政区)では、1997年の主権返還の後も「一国二制度」が採られ、中国本土とは別の法体系が維持されています。その基礎は英国から受け継いだコモンロー(裁判所の判例を重要な法源とする英米法の体系)で、香港の憲法に当たる基本法が、外交と防衛を除く高度な自治を認めています。広告やマーケティングのルールも、香港の条例で独自に定められています。

日本企業がまず押さえておきたいのは、香港では不当表示などの違反の多くが刑事犯罪とされている点です。日本の景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)が行政処分を中心にしているのとは対照的です。中心となる商品説明条例(Trade Descriptions Ordinance、Cap. 362)は、景品表示法の不当表示の規制や特定商取引法の不当な勧誘の規制に近い役割を担います。「Cap.」は香港の法令集での章番号です。取締りは消費者保護も担当する香港税関(Customs and Excise Department)が行い、違反者は罰金や拘禁刑(imprisonment)の対象となります。役員や従業員が個人として処罰されることもあります。

医療・健康の広告では、不良医薬広告条例(Undesirable Medical Advertisements Ordinance、Cap. 231)が、がんや糖尿病など条例が列挙する疾患の治療や予防をうたう広告そのものを禁じています。抽選で当選者を決める懸賞キャンペーンには、日本のような景品類の価額の上限がない一方、事前のライセンス(牌照)が必要です。ダイレクトマーケティングでは、個人情報を使う前の本人の同意と、電子メッセージの配信停止の仕組みの両方が問題になります。日本で適法に使っている広告表現やキャンペーンの手法を、そのまま香港で使えるとは限りません。

本記事では、香港の広告規制の特徴を日本法と比べたうえで、分野ごとの規制の内容と、日本企業が広告を展開する際の実務上の留意点を解説します。

香港の広告規制の特徴と日本法との違い

香港の法体系は英国のコモンローを基礎としており、成文法と裁判所の判例が組み合わさって法秩序を形づくっています。香港の立法会が制定する成文法は「条例(Ordinance)」と呼ばれ、日本の「法律」に当たります。日本の地方自治体の条例とは別物です。

日本の景品表示法との大きな違いは、違反に対する執行の方法にあります。景品表示法では、優良誤認表示や有利誤認表示があると、消費者庁が調査をしたうえで措置命令や課徴金納付命令を出すのが中心です(措置命令は都道府県知事も出せます)。措置命令に違反した場合の罰則は従来からあり、令和5年の改正(令和6年10月1日施行)では、措置命令を経ずに罰金を科せる直罰規定も設けられました。それでも、実務の主軸はいまも行政処分です。日本でも薬機法の誇大広告などには刑事罰がありますが、香港では一般的な不当表示まで、もともと刑事犯罪として定められています。

日本と香港のアプローチの違いを整理すると、次のとおりです。

比較項目日本(景品表示法など)香港(商品説明条例など)
執行の中心行政処分(措置命令、課徴金)刑事罰(起訴、罰金、拘禁刑)
罰則の水準課徴金は対象商品・役務の売上額の3%。直罰は100万円以下の罰金商品説明条例は正式起訴で最高50万香港ドルの罰金と5年の拘禁刑(第18条)
主な執行機関消費者庁(措置命令は都道府県知事も)商品説明条例は香港税関と通訊事務管理局(通信・放送の監督機関)。医療・健康広告は衛生署、個人情報は個人資料私隠専員公署、懸賞のライセンスは民政事務総署牌照事務処
個人の責任措置命令違反や直罰では行為者個人も処罰され得るが、執行の中心は事業者への行政処分違反した本人(従業員を含む)は直接処罰の対象。役員は同意・黙認・怠慢があれば処罰の対象(第20条)
懸賞・景品の上限取引に付随する景品は取引価額に応じた上限あり価額の上限の規定はないが、抽選型は事前のライセンスが必要(現金賞品の禁止・結果の新聞掲載などの条件あり)

香港では、広告の文言一つで刑事責任を問われ得ます。配信の前には、効能表示が不良医薬広告条例に触れないか、価格や期間などの条件を省いていないか、抽選のライセンスを取ったかを確かめておくべきでしょう。

香港の商品説明条例による不当表示と不公正な営業行為の規制

香港の商品説明条例による不当表示と不公正な営業行為の規制

商品説明条例は、香港の広告規制の中心となる条例です。消費者保護を目的として、商品やサービスについての虚偽の表示や、誤解を招く情報の省略などを幅広く禁じています。

この条例はもともと、商品についての虚偽の表示(第7条)を主な対象としていました。2012年の改正条例が2013年7月19日に施行され、規制の対象がサービス(第7A条)にも広がりました。あわせて「不公正な営業行為(Unfair Trade Practices)」が新たな犯罪として加わりました。これにより、優良誤認・有利誤認に当たる表示だけでなく、消費者の判断を不当にゆがめる販売手法も処罰の対象になっています。

改正で加わった不公正な営業行為には、次の5つの類型があります。いずれも、それだけで独立した犯罪になります。これらの規定は事業者の消費者に対する行為を対象としていますが、事業者間の取引でも、商品についての虚偽の表示(第7条)は処罰の対象です。

条文(Cap. 362)規制類型内容の概要
第13E条誤解を招く不作為(Misleading Omissions)購買の判断に必要な重要情報を省略したり、隠したり、分かりにくく示したりする行為
第13F条威圧的な営業行為(Aggressive Commercial Practices)嫌がらせや強制、不当な影響力によって消費者の自由な選択を損なう販売手法
第13G条おとり広告(Bait Advertising)宣伝した価格や条件で供給できる合理的な根拠がないまま宣伝し、顧客を誘う行為
第13H条おとりから別商品への切替え(Bait and Switch)特定の価格で誘ったうえで、その商品の販売を拒んだり欠陥のある見本を見せたりして、別の商品を売り込む手法
第13I条支払を受けながら供給しない行為(Wrongly Accepting Payment)供給する意思や合理的な根拠がないのに代金を受け取る行為

おとり広告は日本でも景品表示法の告示で、威圧的な勧誘は特定商取引法で規制されていますが、香港ではいずれも刑事犯罪です。とくに第13E条により、平均的な消費者の購買判断に影響する重要な情報を省くことが、それだけで犯罪になり得ます。キャンペーン価格の適用条件や期間、数量の上限、送料などの追加費用を省いた広告が、その典型例です。

美容やフィットネスのサービスでは、威圧的な営業行為が刑事事件になった例もあります。香港高等法院原訟法廷(高等法院の第一審部門で、下級審からの控訴も扱う)が2020年9月4日に判断した事件では、フィットネスクラブの販売員が第13F条違反で有罪とされていました(HKSAR v Li Tsz Tung Yvonne、[2020] HKCFI 2235)。同法廷は原審の拘禁刑15か月を3か月に減軽しましたが、販売員本人に拘禁刑が科されたことに変わりはありません。規制は広告の文言だけでなく、広告から始まる販売の過程全体に及んでいます。

参考:HKLII|HKSAR v Li Tsz Tung Yvonne, 2020 HKCFI 2235

香港の商品説明条例の執行体制と役員の刑事責任

商品説明条例を主に執行するのは香港税関です。税関は捜査権限を持ち、違法な広告や販売行為の取締りに当たります。なお、電気通信条例(Cap. 106)や放送条例(Broadcasting Ordinance、Cap. 562)の免許を持つ事業者については、通訊事務管理局も執行権限を持っています。対象は、通信・放送サービスの提供に直接関わる行為です(第16E条)。

法定刑は重く、重い事件として扱われる正式起訴の手続で有罪となれば、罰金は最高50万香港ドル、拘禁刑は最高5年です。より簡易な略式の手続でも、上限は10万香港ドルの罰金と2年の拘禁刑です(第18条)。さらに第20条により、法人の違反が取締役や経営管理者などの同意・黙認の下で行われたり、その者の怠慢によるものと認められたりすれば、法人とともに役員個人も処罰の対象になります。日本から香港法人に赴任している代表者やマネージャーも、不適切な広告を放置すれば個人として責任を問われるおそれがあります。香港法人を置かずに日本から香港の消費者向けに広告やオンライン販売を行う場合にどこまで適用されるかは、個別に確認が必要です。

一方で、条例は違反を問われた側の反論(抗弁)も認めています(第26条)。認められるのは、違反の原因が誤り、他人から得た情報を信じたこと、他人の行為、事故など自分では防げないものである場合です。そのうえで、違反を防ぐために合理的な予防措置をすべて講じ、相当の注意(due diligence)を尽くしていたことが必要です。他人の行為や情報を理由にするときは、審理の7日前までに書面で通知しなければなりません。表示の根拠資料、審査した人と日付、修正の経緯、代理店への指示などを記録しておけば、抗弁を主張する材料になります。

刑事訴追のほかに、違反をやめさせるための仕組みもあります。税関などの執行機関は、律政司司長(Secretary for Justice。政府の法務部門の長)の書面の同意を得て、事業者から確約書(undertaking)を受け入れることができます(第30L条)。確約書は、違反行為をやめることなどを約束するものです。受け入れられると、その事項については捜査も訴追もされません(第30M条)。ただし、受け入れが撤回されれば訴追される可能性があります(第30N条)。また、執行機関は裁判所に差止命令を求めることもできます(第30P条以下)。日本でも令和6年10月から景品表示法に確約手続が設けられていますが、香港の確約は刑事訴追を避けられるかどうかに直結する点が異なります。

法的な執行機関ではない消費者委員会(Consumer Council)も、苦情を受け付けて悪質と判断した事業者の名前を公表することがあります。月刊誌「CHOICE」の商品テストで、宣伝と実際の品質の違いが明るみに出ることもあります。実名の公表は企業の評判に大きく響くため、刑事責任と並ぶ実務上のリスクといえます。

参考:香港税関|Unfair Trade Practices(Trade Descriptions Ordinance)

参考:香港電子版法例|Trade Descriptions Ordinance(Cap. 362)

香港の不良医薬広告条例による医療・健康広告の規制

香港の不良医薬広告条例による医療・健康広告の規制

健康食品や化粧品、医薬品などを香港で販売する日本企業にとって、特にハードルが高くなりやすいのが医療・健康の広告規制です。不良医薬広告条例は、特定疾病用の医薬品の広告を制限する日本の薬機法第67条に近く、健康食品の効能表示まで規制する点では健康増進法の誇大表示の禁止とも重なります。所管は衛生署(Department of Health)です。

不良医薬広告条例は、医薬品、医療用具、治療法について、附則1に列挙された疾患や状態の予防や治療をうたう広告を禁じています(第3条)。附則(Schedule)は条例の末尾に置かれた一覧で、日本の法律の「別表」に近いものです。附則1には、腫瘍(がん)、結核を含む感染症、心臓・循環器の疾患、糖尿病を含む内分泌の疾患など14の項目が並んでいます。附則2では、性的能力の増進や、変形の矯正・手術による容姿の変更などを目的とした広告も禁じられています。

香港では、医薬品として登録されているかどうかにかかわらず、列挙された疾患の治療や予防をうたう広告であれば違反になり得ます。化粧品の広告でも、こうした疾患の治療や予防をうたえば対象になり得ます。違反した場合は、初犯で最高5万香港ドルの罰金と6か月の拘禁刑、再犯では最高10万香港ドルの罰金と1年の拘禁刑が科され得ます(第6条)。なお、医薬品や中成薬(漢方製剤)を香港で販売するには、広告規制とは別に登録が必要になる場合があります。根拠は、薬剤業及び毒薬条例(Cap. 138)や中医薬条例(Cap. 549)です。

さらに、2005年の改正で附則4が加わり、口から摂取する製品の効能表示が制限されました(第3B条)。この部分は2012年6月1日に施行されています。対象となるのは、乳房のしこり、泌尿生殖器の機能、内分泌・ホルモン、血糖、血圧、血中脂質・コレステロールの6分野に関する効能表示で、似た趣旨の表示も含まれます。このうち血糖・血圧・血中脂質の3分野は、定められた文言(血糖値の安定を助ける、といった趣旨のもの)に限って使うことができます。また、ラベルを付けた容器や包装で製品を販売すること自体が、広告の公表に当たります。日本で機能性表示食品として届け出ている「血圧が高めの方に」といった表示は、香港では原則としてそのまま使えないと考えるべきでしょう。条例が認める文言に置き換え、現地の確認を受けるのが安全です。

参考:香港衛生署薬物弁公室|Undesirable Medical Advertisements Ordinance

参考:香港電子版法例|Undesirable Medical Advertisements Ordinance(Cap. 231)

香港の食品表示とたばこ・酒類・賭博に関する広告規制

包装済み食品のラベル表示を定めているのは、食品・薬物(成分及び表示)規則(Food and Drugs(Composition and Labelling)Regulations、Cap. 132W)です。「規則」は、条例に基づいて定められる下位の法令です。この規則の附則3により、食品名、原材料、賞味期限または消費期限、製造者などの名称・住所を、英語か中国語、またはその両方で表示しなければなりません。日本語だけのラベルでは足りません。附則5は栄養表示と栄養強調表示(Nutrition Claims)の要件を定めており、エネルギーと7つの栄養素を表示する「1+7」の仕組みが取られています。「低脂肪」「無糖」といった表示をするには、規則が定める含有量の基準を満たしている必要があります。

たばこの広告は、喫煙(公衆衛生)条例(Smoking(Public Health)Ordinance、Cap. 371)により、印刷物、掲示、放送、インターネットなどの媒体で禁じられています。さらに2021年の改正条例により、2022年4月30日から代替喫煙製品(Alternative Smoking Products)が禁止されました。電子たばこや加熱式たばこなどの輸入、製造、販売、営業目的の所持、宣伝が対象です。日本では財務省の指針や業界の自主基準の範囲で広告が行われている加熱式たばこも、香港では販売も宣伝も禁じられています。

酒類については、通訊事務管理局が定めるテレビ・ラジオ広告の実務基準(業務守則)に時間帯の制限があります。無料テレビ放送とラジオでは、午後4時から午後8時30分まで酒類の広告を流せません。賭博については、賭博条例(Gambling Ordinance、Cap. 148)が違法な賭博の勧誘や宣伝を禁じています(第16B条など)。競馬やサッカーくじ、政府の宝くじ(マークシックス)など、法律で認められたもの以外の賭博を宣伝することはできません。

香港の懸賞キャンペーンに必要なライセンス

日本で懸賞や総付景品のキャンペーンを行う場合は、景品表示法に基づき、取引に付随する景品類について、取引価額に応じた最高額や総額の上限を守る必要があります。香港の条例には、景品類の価額の上限を直接定めた規定は置かれていません。ただし、当選数や賞品の内容・価値の表示が実態と違えば、商品説明条例の違反になり得ます。また、運や偶然によって賞品を割り当てる抽選は、賭博条例が規制する「くじ(Lottery)」に当たり得ます。

香港で抽選を伴う販売促進を行うには、事前に商業推廣競賽(Trade Promotion Competition)のライセンスを取得しなければなりません(賭博条例第22条)。発行するのは、民政事務総署(Home Affairs Department)の許可担当部署である牌照事務処です。ライセンスを取らずに抽選キャンペーンを行えば、違法なくじの主催として刑事罰の対象となるおそれがあります。

牌照事務処の申請ガイドによれば、主な条件は4つあります。賞品を現金や現金と引き換えられるものにしないこと、参加料を取らないこと、広告にライセンスの番号を表示することです。さらに、抽選や審査の後10日以内に、英字紙と中文紙それぞれ1紙に結果を掲載しなければなりません。申請の手数料は1,590香港ドルで、ライセンスの条件に違反すると、最高5万香港ドルの罰金と2年の拘禁刑の対象になります(第22条第7項)。上限がないからといって規制が緩いわけではありません。開始日から逆算して、申請を含めた準備を進めておきましょう。

参考:民政事務総署牌照事務処|Trade Promotion Competition Licence

香港のダイレクトマーケティングと電子メッセージの規制

香港の個人情報保護法である個人資料(私隠)条例(Personal Data(Privacy)Ordinance、Cap. 486)は、2013年4月1日施行の第6A部でダイレクトマーケティングを規制しています。事業者は、個人情報をダイレクトマーケティングに使う前に、使う個人情報と宣伝する商品・サービスの種類を本人に知らせ、同意を得なければなりません(第35C条・第35E条)。本人が「異議はない」とはっきり示した場合も同意に含まれます(第35A条)。一方、監督機関である個人資料私隠専員公署(PCPD)のガイダンスでは、何も答えないこと(沈黙)は同意になりません。つまり、事前に本人の意思表示を得るオプトイン型の仕組みです。日本の個人情報保護法では、利用目的を通知・公表していれば自社の顧客へのダイレクトメールに同意は要らないため、日本の運用をそのまま持ち込まないよう注意が必要です。

違反は刑事罰の対象です。同意なく個人情報をダイレクトマーケティングに使えば最高50万香港ドルの罰金と3年の拘禁刑(第35E条)、対価を得て第三者に提供すれば最高100万香港ドルの罰金と5年の拘禁刑(第35J条など)が定められています。実際の事件では、利用停止を求めた顧客に自社サービスを勧める連絡をした通信事業者が、2015年9月に治安判事裁判所(比較的軽い刑事事件を扱う第一審の裁判所)で有罪となり、3万香港ドルの罰金を科されました。控訴を受けた香港高等法院原訟法廷は、2017年1月26日に控訴を棄却しています(HKSAR v Hong Kong Broadband Network Limited、HCMA 624/2015)。停止の求めに確実に応じられる顧客管理の仕組みを整えておきたいところです。

参考:香港個人資料私隠専員公署(PCPD)|Guidance on Direct Marketing

電子メール、SMS、FAX、録音音声の電話などで送る商業メッセージは、迷惑電子メッセージ条例(Unsolicited Electronic Messages Ordinance、Cap. 593)の規制を受けます。日本から香港の受信者に送る場合も、この条例の対象になり得ます。日本の特定電子メール法は、平成20年(2008年)の改正以降、原則として事前の同意を求めるオプトイン方式です。これに対し香港のこの条例は、事前の同意がなくても送ること自体は禁じていません。受信者から停止を求められたら送信をやめなければならない、オプトアウト(配信停止)型の規制です。メッセージには正確な送信者情報と配信停止の手段を入れなければならず、停止の求めを受けたら10営業日以内に送信をやめる必要があります。

また、通訊事務管理局の事務局である通訊事務管理局弁公室(OFCA)は、FAX、SMS、録音音声の電話の3つについて受信拒否の登録簿(Do-not-call Registers)を設けています。登録された番号には、同意がない限り商業メッセージを送れません。電子メールの登録簿はなく、人が直接話す勧誘電話はこの条例の対象外です。ただし、顧客の氏名やメールアドレスなどの個人情報を使って送ったり電話をかけたりする場合は、前述の個人資料(私隠)条例による事前の同意が別に必要です。

参考:OFCA|Unsolicited Electronic Messages Ordinance(Information for Senders)

香港のインフルエンサー広告・比較広告・放送広告の留意点

香港のインフルエンサー広告・比較広告・放送広告の留意点

SNSでの口コミやタイアップ投稿も、商品説明条例の規制から外れるわけではありません。香港税関の執行ガイドラインは、次のような行為が誤解を招く不作為(第13E条)に当たり得るとしています。広告と分からない記事広告、契約関係を明かさない有名人の起用、事業者やその代理人が消費者を装ったSNSへの投稿です。日本でも令和5年10月から景品表示法でいわゆるステルスマーケティングが規制されていますが、香港では刑事罰の対象になり得る点が異なります。インフルエンサーに投稿を依頼する場合は、報酬が商品の無償提供であっても、広告であることを投稿の中で分かるようにしておくのが安全です。

参考:香港税関|Enforcement Guidelines for the Trade Descriptions Ordinance

比較広告で他社の登録商標を使うことは、商標条例(Trade Marks Ordinance、Cap. 559)の下で一定の条件付きで認められています。他社の商品であることを示すために他社の登録商標を使っても、原則として商標権の侵害にはなりません。ただし、その使い方が産業上・商業上の誠実な慣行に沿わない場合は侵害になります(第21条)。他社の商標を不当に利用する、その識別力や名声を害する、公衆を欺くといった場合です。比較の内容が虚偽であったり誤解を招いたりすれば、商品説明条例の違反にもなり得ます。比較の内容によっては、コモンロー上の営業誹謗などの責任を問われることもあります。

テレビやラジオの広告では、通訊事務管理局が放送条例などに基づいて定めた業務守則(Generic Code of Practice on Television Advertising Standards など)を守る必要があります。業務守則は、児童向けの広告や、視聴者を誤解させる表現などについて詳しい基準を置いています。わいせつ・下品な表現は、わいせつ及び下品な物品の規制条例(Control of Obscene and Indecent Articles Ordinance、Cap. 390)で規制されています。物品がどの区分に当たるかは、専門の審判機関である淫褻物品審裁処(Obscene Articles Tribunal)が判断します。広告の表現を作る段階から、香港の基準を意識しておくことが大切です。

日本企業が香港で広告を展開する際の実務上の留意点

ここまで見てきたとおり、香港の広告規制は日本とは異なる考え方と執行の仕組みの下にあります。日本で成果を上げた広告表現や効能表示を、そのまま翻訳して香港のウェブサイトやSNSで使うと、思わぬ刑事責任を招くおそれがあります。

まず、社内で広告を審査する体制を整えます。企画の段階で効能表示と抽選の有無を決め、表示が商品説明条例や不良医薬広告条例に触れないかを確認します。抽選があればライセンスを申請し、配信リストは本人の同意と受信拒否の登録簿で確かめてから配信します。万一訴追されたときに第26条の抗弁を主張できるよう、表示の根拠となるデータと審査の経過を記録しておくことも求められます。ただし、不良医薬広告条例で禁じられた疾患の治療・予防の表示は、根拠となるデータがあっても許されません。

次に、香港向けのウェブサイトやSNS広告、インフルエンサーの起用では、表示の確認の責任を誰が負うのかをはっきりさせる必要があります。現地の広告代理店や販売代理店との契約では、広告表現の適法性を最終的に確認する当事者と、捜査を受けた場合の弁護費用や損害の分担を定めておきましょう。罰金そのものを相手方に補償させる条項は香港法上効力が認められない可能性もあるため、条項の内容は現地の弁護士と確認しておくことが大切です。税関の捜査では商品や書類が押収されることもあり、事業への影響は小さくありません。

まとめ

香港は自由貿易港として参入しやすい市場ですが、消費者保護の分野では、商品説明条例や不良医薬広告条例をはじめとする刑事罰を背景とした執行が行われています。日本の景品表示法や特定電子メール法とは、規制の組み立てが大きく異なります。本記事の内容は、2026年10月時点の法令に基づいています。

香港で広告を始める前に押さえておきたいのは、次の4点です。第一に、商品説明条例による不公正な営業行為の処罰と役員個人の責任。第二に、不良医薬広告条例による疾患の治療・予防広告の禁止と、口から摂取する製品の効能表示の制限。第三に、抽選を伴う懸賞キャンペーンのライセンス。第四に、個人情報を使ったダイレクトマーケティングの事前同意です。

当事務所では、現地の法律事務所と連携しながら、香港などの海外市場に進出される日本企業の皆様をサポートいたします。健康食品や化粧品の効能表示の確認、懸賞キャンペーンのライセンスの要否の検討、ダイレクトマーケティングの同意文言の作成、インフルエンサーや代理店との契約書の作成・確認などが、その例です。香港での広告や販売促進について気になる点があれば、お気軽にご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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