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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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香港の会社設立を弁護士が解説

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香港の会社設立を弁護士が解説

日本企業が海外展開や国際的なサプライチェーンの構築を考えるとき、有力な候補になるのが中華人民共和国香港特別行政区(以下「香港」)です。香港はアジア有数の金融とビジネスの拠点で、自由な資本移動、簡素な税制と低い税率、外資に開かれた市場環境など、ビジネス上の利点が数多くあります。ただし、税負担の低さは、日本の外国子会社合算税制の対象になるかどうかの判断にも関わるため、日本側の税務とあわせて検討する必要があります。実際に安定した事業拠点を構えるには、市場性の評価だけでなく、現地の法制度を理解し、適切な法的手続を踏まなければなりません。

日本企業が香港に拠点を設ける形態には、現地法人の設立、日本の親会社の支店の登録(非香港会社の登録)、市場調査などに特化した駐在員事務所の設置という三つの選択肢があります。このうち、現地で独自の法人格を持ち、自ら契約の主体となって売上を計上するなら、現地法人の設立が標準的な選択です。香港で会社を設立し運営する際の基本となるのは、日本の会社法に相当する「会社条例(Companies Ordinance、Cap. 622)」です。香港では立法会が定める法律を「条例(Ordinance)」と呼び、章(Chapter、略してCap.)の番号で整理しています。会社条例は会社の設立や運営のルールを定めた法律で、香港で最も広く利用されている「株式有限責任私人会社(Private Company Limited by Shares。以下「私人会社」)」もこの条例に基づいて設立されます。

記事全体の要点は四つです。第一に、私人会社の機関設計(株主総会や取締役など、会社の意思決定と監督の仕組み)は単純で、最低資本金の定めはなく、取締役も個人(自然人)1名いれば会社を設立できます。第二に、日本では小規模な非公開会社なら監査役も外部の会計監査も置かない設計がとれますが、香港では休眠会社を除くすべての会社に、規模を問わず、毎年の財務諸表について香港の公認会計士の監査が義務づけられています。第三に、香港特有の制度として会社秘書役(Company Secretary)の設置が義務づけられており、これは会社の法定手続を担う役職です。第四に、取締役は、日本の忠実義務に近いコモンロー(判例の積み重ねで形づくられた英米法)上の「信認義務」を負うほか、善管注意義務に近い注意・技能・勤勉さの義務が会社条例第465条に明文で定められています。日本から送り出した駐在員が名前だけ取締役に就く場合でも、この義務は免れません。本記事では、私人会社を中心に、香港で会社を設立する際に押さえるべき進出形態、機関設計、会社秘書役、取締役の義務を、日本の会社法との違いを交えて解説します。

香港への進出形態と適用される会社条例

香港への進出形態と適用される会社条例

日本企業が香港に進出するにあたり、まず検討すべきは進出の形態です。香港の事業拠点は、大きく分けて現地法人、支店(非香港会社)、駐在員事務所の三種類に分かれます。現地法人と非香港会社を規律する基本的な法律が会社条例で、現行の会社条例は2014年3月3日に施行されました。それまでの会社条例(Cap. 32)は、清算などの規定を残して「会社(清盤及雑項条文)条例」に改称されており、会社の清算手続は主にこちらに定めがあります。

現地法人は、香港の法令に基づいて新たに設立される、独立した法人格を持つ会社です。香港で自ら契約の当事者となり、売上を立て、従業員を直接雇用するなど、本格的な営業活動を行う場合には、現地法人の設立が適しています。現地法人であれば、香港での事業上の債務は原則としてその法人が負い、日本の親会社の責任は出資の範囲にとどまります。一方、日本の親会社の法人格をそのまま使って香港に営業拠点を開設する場合は、拠点の開設から1か月以内に、香港政府の会社登記処(Companies Registry)へ「非香港会社」として登録しなければなりません(会社条例第16部、第776条)。日本の会社法における外国会社の登記(会社法933条)に相当する手続です。登録には香港に住む授權代表(authorized representative)の届出が必要で、香港での取引の責任は日本の親会社が直接負います。また、香港で収益活動を行わず、市場調査や本社との連絡業務に限って拠点を設ける場合には、駐在員事務所という形態を選ぶこともできます。駐在員事務所でも、活動の内容によっては商業登記などの手続が必要になる場合があるため、事前の確認が欠かせません。現地で受注や契約の締結を行う段階になれば、現地法人または非香港会社への移行が必要になります。

香港の会社条例の全文は、香港政府の電子法令データベースで確認できます。

参考:香港特別行政区政府|香港電子法例 会社条例(Companies Ordinance、Cap. 622)

参考:香港会社登記処|FAQ – Registered Non-Hong Kong Companies – Registration

香港で最も一般的な株式有限責任私人会社

香港で現地法人を設立する際、最も多く選ばれる形態が私人会社です。私人会社は日本の会社法における非公開会社(株式の譲渡制限がある株式会社)に近い性質を持ち、定款で株式の譲渡を制限し、株主の数を50名以下とし、株式や社債の公募を禁じる会社がこれに当たります(会社条例第11条)。その名のとおり、株主は引き受けた株式の金額を限度に責任を負うだけです(有限責任)。

私人会社の設立は、会社登記処への申請によって行います。申請の前に、商号、株主と出資額、取締役、会社秘書役、登記事務所、定款の内容を自社で決めておく必要があります。会社条例上、最低資本金の定めはありません。ただし、銀行口座の開設や駐在員の就労ビザの申請では事業の実体や財務の状況を確認されるため、事業計画に見合う資本を用意するのが実務です。株主は1名で足り、日本の親会社が単独で全株式を持つこともできます。取締役も、日本の取締役会を置かない非公開会社と同じく1名で足りますが、少なくとも1名は個人(自然人)でなければなりません(会社条例第457条第2項)。日本では法人は取締役になれませんが、香港の私人会社では、上場会社を含む企業グループに属する会社などを除き(会社条例第456条)、法人を取締役とすることも認められています。さらに、香港内に登記事務所を設けることが必要です。これは単なる私書箱ではなく、法的な書類を実際に受け取ることができる住所でなければなりません。設立が容易で運営の自由度が高いことが、私人会社が広く選ばれる理由です。

参考:香港会社登記処|FAQ – Local Limited Companies – Directors and Company Secretary

香港の機関設計と日本法との違い

香港の機関設計と日本法との違い

日本の会社法に慣れた経営者や法務担当者が香港の会社条例に触れて驚く違いの一つが、機関設計の単純さです。日本の会社法では、企業の規模や公開・非公開の別に応じて、株主総会や取締役に加えて、取締役会、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会、指名委員会等といった機関の組み合わせが用意されています。香港の私人会社には、こうした機関の設置を求める規定はありません。

この違いを象徴するのが、会社条例は私人会社に日本の監査役に当たる機関を置くことを求めていないという点です。ただし、これを「日本より緩い」と受け取るのは誤りです。日本では、取締役会を置かない小規模な非公開会社なら、監査役も会計監査人も置かない設計がとれます。これに対し香港では、休眠会社(取引が無いとして所定の手続を経た会社)を除き、規模を問わずすべての会社が、独立した香港の公認会計士による財務諸表の監査を毎年受けなければなりません。会社条例で財務報告の簡素化が認められている小規模な私人会社も、監査は免除されません。会社内部の役員による監視ではなく、外部の専門家による監査で株主や債権者への報告の正確性を担保する仕組みであり、日本の小規模な子会社に比べると、毎年の監査の費用と手間がかかる点に注意が必要です。

参考:香港会社登記処|FAQ – Companies Ordinance – Accounts and Audit

香港で設置が義務づけられる会社秘書役

香港の機関設計には、監査役が無い一方で、日本には無い独特の法定の役職があります。それが会社秘書役(Company Secretary)です。「秘書」という名称から、日本語の語感では役員のスケジュール管理や電話応対を行う事務職を連想しがちですが、香港の会社条例が定める会社秘書役はこれとはまったく違う、責任を伴う法定の役職です。

会社秘書役の主な役割は、会社が会社条例などの法令に違反せず運営されるよう、法定の手続を管理することです。具体的には、登記事項が変わった際の会社登記処への届出、取締役会や株主総会の議事録の作成と保管、年次申告書の提出などを担います。私人会社の年次申告書は、設立日の応当日から42日以内に提出しなければなりません。ただし、届出を怠った場合に責任を問われるのは会社とその役員であり、会社秘書役に任せきりにはできません。会社条例は、すべての会社に会社秘書役の設置を義務づけています(第474条)。就任できるのは、香港に通常居住する個人か、香港に登記事務所または営業所を持つ法人に限られます。さらに、取締役が1名しかいない会社では、その取締役が会社秘書役を兼ねることは認められていません(会社条例第475条第2項)。その取締役が別の法人のただ一人の取締役でもある場合、その法人を会社秘書役に充てることもできません(同条第3項)。

日本の親会社が香港に現地法人を設立し、日本から派遣した駐在員1名を唯一の取締役とする典型的な設計では、その駐在員は会社秘書役を兼ねられません。ほかに香港在住の社員がいなければ、自社の人員だけで要件を満たすことは困難です。取締役を2名にし、香港に住む別の社員を会社秘書役にすれば社内でもまかなえますが、事務の負担から、現地のコーポレートサービス会社や会計事務所、法律事務所などに業務を委託するのが一般的です。会社秘書役の業務を事業として請け負うには、原則としてマネーロンダリング及びテロ資金供与対策条例(Anti-Money Laundering and Counter-Terrorist Financing Ordinance、Cap. 615)に基づく信託・会社サービス提供者(TCSP)の免許が必要です。委託先が免許を受けているかは、会社登記処の公開名簿で確かめられます。

参考:香港会社登記処|Trust or Company Service Providers Registry

香港の取締役に求められる信認義務と注意義務

会社を経営する取締役の義務と責任についても、日本法と香港法では基礎となる法体系が異なります。日本の会社法では、善管注意義務(会社法330条・民法644条)と忠実義務(会社法355条)が取締役の行動規範の根幹をなしており、判例上、忠実義務は善管注意義務を具体化したものと解されています。一方、イギリスの法体系を受け継ぐ香港では、裁判所の判例の積み重ねで形づくられたコモンローのもとで発展してきた信認義務(Fiduciary Duty)が、取締役の義務の基盤です。信認義務とは、他人の利益のために行動する者が負う忠実の義務です。取締役は常に会社の利益を優先し、会社との利益相反を避け、地位を利用して不当な利益を得てはなりません。

さらに、会社条例は、コモンロー上の義務を補完するために、取締役が尽くすべき注意・技能・勤勉さの水準を第465条で明文化しました。同条第2項は、二つの基準を重ねて当てはめる形で定めています。一つは客観的基準で、その会社で取締役が担う職務を遂行する人物に合理的に期待される一般的な知識・技能・経験の水準です。もう一つは主観的基準で、その取締役自身が実際に持っている知識・技能・経験に基づく水準です。客観的基準が最低限の水準となり、本人の知識・経験がそれを上回る場合は、より高い水準が求められると解されています。日本でも取締役の地位や状況に応じた注意が求められますが、香港では本人の能力による上乗せが条文に明記されている点が違います。

この基準は、日本企業が香港に子会社を設立し、日本からの駐在員や本社の役員を取締役に就かせる場合に大きな意味を持ちます。日常の業務執行は現地のスタッフに任せ、自身は名前を貸しているだけであっても、会社条例に基づく義務は免れません。会社の財務状況を示す危険信号を見過ごしたり、必要な調査を怠ったりすれば、第465条の注意義務に違反したとして、会社から損害賠償を求められるおそれがあります。届出義務の違反では、会社とともに責任のある役員が罰則の対象にもなります。香港で取締役に就く以上は、定期的に財務報告を受けて記録に残すなど、事業内容や財務状況を自ら把握し、監視と意思決定を続ける体制を整えておく必要があります。

参考:香港会社登記処|Major Changes Affecting Directors

参考:香港特別行政区政府|香港電子法例 会社条例第465条

まとめ:香港での会社設立は弁護士にご相談を

本記事では、日本企業が香港で会社を設立する際に押さえるべき会社条例のルールを解説しました。現地で収益を上げるなら、最低資本金の定めがなく運営の自由度が高い私人会社が一般的な選択です。支店(非香港会社)は法人を新たに作らずに済む一方、香港での債務を日本の親会社が直接負います。私人会社には監査役の制度はありませんが、規模を問わず毎年の外部監査が必要で、香港に居住する個人などによる会社秘書役の設置も義務です。取締役には、コモンロー上の信認義務に加え、会社条例第465条による注意・技能・勤勉さの義務が課され、名目的な就任でも責任は免れません。進出形態の選択から設立後の運営体制まで、日本の会社法との違いを踏まえて準備することが、香港でのビジネスを安定させる前提になります。

香港での会社設立や組織運営には、日本の法制度とは異なる特有のルールや、企業に対するコンプライアンスの要求が多くあります。進出形態の比較、会社秘書役の委託先の選定、駐在員を取締役にする際の責任の整理など、設立前の段階で検討しておくべき事項は少なくありません。当事務所では、香港での会社設立や事業展開に伴う法務手続、ガバナンス体制の構築についてサポートいたします。香港における法人設立の手続や取締役の法的義務についてご不安があれば、ぜひ一度ご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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