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インド会社法における重要な管理職(KMP):CEO・CFO・会社秘書役の責任

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インド会社法における重要な管理職(KMP):CEO・CFO・会社秘書役の責任

インドの急速な経済成長は数多くの外資系企業に巨大なビジネスチャンスをもたらしていますが、同時にコンプライアンスの厳格化という大きな課題も突きつけています。インドでビジネスを展開するにあたり、最も注意を払うべき法規制の一つがインド会社法(Companies Act, 2013)です。同法は一定規模以上の企業に対して、重要な管理職(Key Managerial Personnel、以下「KMP」)と呼ばれる役員の選任義務を課しています。KMPには最高経営責任者(CEO)や最高財務責任者(CFO)に加え、会社秘書役(Company Secretary、以下「CS」)が含まれており、彼らは企業統治の要として日々の業務遂行と法令遵守を主導します。

本記事では、インド会社法に基づくKMPの選任義務の基準や、法令遵守における彼らの個人的な法的責任について詳述します。特に会社秘書役(CS)の役割と法定フォームの適時提出に対する責任、そしてKMP交代時の関係当局への報告漏れが引き起こす将来のビジネスリスクまでを扱います。

インド会社法に基づくKMPの選任義務と対象企業の基準

インド会社法におけるKMP(Key Managerial Personnel/重要な管理職)は、同法第2条51項が定める法定の区分で、マネージングディレクター(MD)・最高経営責任者(CEO)・マネージャー、会社秘書役(CS)、常勤取締役、最高財務責任者(CFO)などを一括りにしたものです。2013年法で新設された概念であり、第203条の常勤KMP選任義務と、第2条60項の「義務不履行役員(Officer who is in default)」としての責任が及ぶ範囲を画する役割を担っています。第203条および関連規則は、特定の条件を満たす会社に常勤KMPの選任を義務づけており、具体的には、経営の最高責任者であるマネージングディレクター(MD)または最高経営責任者(CEO)またはマネージャー(不在の場合は常勤取締役)会社秘書役(CS)、および最高財務責任者(CFO)の選任が求められます。

この選任義務の対象となる企業基準は、会社法第203条および2014年会社規則(管理職の選任および報酬)の規則8ならびに規則8Aが定めています。内容は以下の表の通りです。

企業形態資本金等の基準課されるKMPの選任義務
上場企業(Listed Company)基準なし(すべての上場企業)全ての常勤KMP(CEO/MD等、CFO、CS)の選任義務
公開会社(Public Company)払込済資本金が1億ルピー(10クロール)以上全ての常勤KMP(CEO/MD等、CFO、CS)の選任義務
非公開会社(Private Company)払込済資本金が1億ルピー(10クロール)以上常勤の会社秘書役(CS)のみ選任義務

参考:India Code(インド政府法令データベース)|The Companies Act, 2013(Act No. 18 of 2013)本則および同法配下の Companies (Appointment and Remuneration of Managerial Personnel) Rules, 2014

インド官報|Companies (Appointment and Remuneration of Managerial Personnel) Amendment Rules, 2020(G.S.R. 13(E)・2020年1月3日・規則8Aの現行文言)

この制度は、日本の会社法における役員制度とは大きく異なる点に留意する必要があります。日本の会社法では、取締役や代表取締役、あるいは指名委員会等設置会社における執行役といった役職が法定されていますが、資本金の額のみを基準としてCEO、CFO、CSという特定の職位名称をセットで設置する義務は存在しません。特に、日本の企業法務においては社内の法務担当者や外部の顧問弁護士が担うコンプライアンス業務を、インドでは法定の国家資格を持つCSが独立した権限と責任をもって遂行する点が特徴的です。

KMPに欠員が生じた場合の補充規定も置かれています。常勤のKMPの役職に空きが出た場合、会社法第203条第4項に基づき、取締役会は欠員が生じた日から6ヶ月以内に新たなKMPを選任してその穴を埋めなければなりません。また、原則として常勤のKMPは、自社の子会社を除き、同時に複数の会社で役職を兼任することが禁止されています。ただし例外もあり、取締役会の許可を得れば他社の取締役に就任できます。また、他の1社(1社を超えないこと)のマネージングディレクターまたはマネージャーである者を、自社のマネージングディレクターとして選任することも認められています。この場合は取締役会の会議に出席した全取締役の同意による決議を経る必要があり、当時インド国内にいる全取締役へ、当該会議とそこで提出予定の決議の双方についてあらかじめ個別に通知しなければなりません。

さらに、会社の定款で認められているか、単一の事業のみを営んでいる場合を除き、同一人物が会長職(Chairperson)とCEOまたはマネージングディレクターを兼任することは原則として禁止されています。

インドにおけるCEO・CFO・会社秘書役(CS)の法定機能と権限

インドにおけるCEO・CFO・会社秘書役(CS)の法定機能と権限

KMPを構成する各役職は、インド会社法第2条51項で定義されており、その役割と責任は第203条や第205条および関連規則が定めています。これらの役員は、会社の日常的な業務運営を監督し、法令遵守を確実にするための第一線の責任者として位置づけられています。

まず、マネージングディレクター(MD)またはCEOは、会社の日常的な業務運営と戦略の実行に実質的な権限を持つ役職です。彼らはステークホルダーとの最初の接点となり、事業計画の策定や財務パフォーマンスの監督など、企業活動の根幹を担います。会社法第2条54項において、MDは、定款、会社との契約、株主総会決議または取締役会決議によって、会社の業務運営に関する実質的な権限を委ねられた取締役と定義されており、名称の如何を問わずMDの地位を占める取締役もこれに含まれます。他方、取締役会の授権に基づく会社印の押捺や小切手の署名といった定型的な事務行為の権限は、ここでいう実質的な権限には含まれません。MD、CEOおよびマネージャーのいずれも置かない場合は、常勤取締役(Whole-Time Director)を選任しなければなりません。

次に、CFO(最高財務責任者)は、企業の財務戦略の立案、資金管理、および財務報告の正確性の担保に責任を負います。財務諸表の作成や監査対応において中心的な役割を果たし、企業の財務状況に対する透明性を確保する役割も担います。

そして、インドの会社法において最も特筆すべき役職が会社秘書役(CS)です。インドにおけるCSは、単なる事務職やアシスタントではなく、インド会社秘書役協会(ICSI)の資格を持つコンプライアンスの専門家です。インド会社法第205条は、CSの機能と義務を法定しています。CSの主な役割は、会社法・関連規則その他会社に適用される法令の遵守状況を取締役会に報告し、あわせて会社が適用ある秘書基準(secretarial standards)を遵守するよう確保することです。また関連規則により、取締役がその職務・責任・権限に関して求める助言を行うことが求められています。

また、各種法定機関や規制当局に対して会社を代表して対応し、取締役会や株主総会の運営、議事録の作成といった重要な法定手続きを統括します。日本の法律には完全に合致する役職が存在しないため、インドに進出する企業は、このCSという役職の重要性と権限の大きさを正しく理解し、適正な人材を確保する必要があります。

インド会社法におけるKMPの個人的な責任とペナルティ

インド会社法は、法令違反があった場合の責任の所在を明確にするため、「義務不履行役員(Officer who is in default)」という概念を第2条60項で定義しています。この定義には、常勤取締役やKMPが明示的に含まれています。つまり、この定義は会社法が義務不履行役員に罰則を科すと定める規定について働くもので、会社が同法上の提出義務を怠ったり規定に違反したりした場合に、KMPは「義務不履行役員」として個人的に責任を問われうる立場にあります。

例えば、KMPの選任義務を定めたインド会社法第203条に違反した場合、会社およびKMP等の役員に過料が科されます。第203条第5項に基づく具体的な過料(penalty)の内容は以下の表の通りです。

対象者罰則・ペナルティの内容
会社(Company)50万ルピーの過料
義務不履行の取締役およびKMP1人につき5万ルピーの過料
違反が継続する場合(継続違反)義務不履行の取締役およびKMPについて、最初の違反以降1日あたり1,000ルピーの追加過料(合計50万ルピーが上限)

このように、KMPは会社のコンプライアンス違反に対して直接的な金銭的ペナルティを負うリスクを常に抱えています。手続的な法定要件の不履行や情報開示の遅滞などについては、刑事的な悪意(Mens rea)の有無を問わず、登記官(ROC)以上の職位にある中央政府の官員が裁定官として行政手続で過料を科す仕組みとなっており、KMPが個人として制裁を受けるケースが多い点に注意が必要です。

刑事事件におけるKMPの代位責任とインド最高裁判所の判例

刑事事件におけるKMPの代位責任とインド最高裁判所の判例

会社が手続的な違反ではなく、より重大な刑事犯罪(過失致傷や詐欺など)を引き起こした場合、KMPがどこまで個人的な刑事責任(代位責任)を負うかについては、インドの最高裁判所で重要な判例が確立されています。その中心にあるのが、Sunil Bharti Mittal対中央捜査局(Sunil Bharti Mittal v. Central Bureau of Investigation、インド最高裁判所、2015年1月9日判決)です。

この裁判において最高裁判所は、刑法典(IPC)において代位責任を規定する明文の法律がない限り、会社の行為に対する刑事責任を自動的に取締役やKMPに負わせることはできないと判示しました。法人擬制の法理において、経営陣の意図を会社の意図とみなす「帰属の理論(Alter ego)」は存在しますが、最高裁判所はこれを逆方向に適用することはできず、会社の犯罪意図を自動的に経営陣個人のものとみなすことはできないと明確にしました。取締役やKMPを刑事告訴するためには、彼らが犯罪行為に積極的な役割を果たしたこと、および犯罪の意図(Mens rea)を有していたことを証明する十分な証拠が必要であるとされました。

この法理は、その後のShiv Kumar Jatia対デリー首都圏政府(Shiv Kumar Jatia v. State of NCT of Delhi、インド最高裁判所、2019年8月23日判決)においても再確認されました。この事件は、宿泊客を訪ねてきた来訪者がホテル(ハイアット・リージェンシー・デリー)の6階テラスから4階へ転落し、重傷を負った事故に関するものです。この事故に関連して、同ホテルを運営する上場会社Asian Hotels (North) Limitedのマネージングディレクターが、刑法典(IPC)第336条・第338条(第32条と併せて)および喫煙規制法(COTPA 2003)第4条の罪で起訴されたものです。最高裁判所は、単にマネージングディレクターであるという地位や、会社の会議に出席し決裁していたという漠然とした事実だけでは、個人的な刑事責任を問うことはできないとして、当該マネージングディレクターに関する限りにおいて(qua the said appellant)、刑事手続き・チャージシートおよび召喚命令を取り消しました。他方、ホテルの支配人(ジェネラルマネージャー)についてはCOTPA第4条の罪の部分のみが取り消され、その余の手続は存続しています。

これらの判例は、インドにおけるKMPの個人的責任が、個人の積極的な関与や意図のない刑事事件においてまでは無制限に拡張されないことを示しています。ただし、会社法やその他の特別法(小切手不渡りを罰する Negotiable Instruments Act 第141条など)に、会社の罪について「違反当時、会社の業務の遂行について会社を統括する立場にあり、かつ会社に対して責任を負っていた者」を有罪とみなす明示的な代位責任や罰則規定がある場合はこの限りではなく、法定の報告義務違反や法令上の手続違反については役員個人が責任を問われます。もっとも同法第141条第1項には、当該違反が自らの知らないうちに行われたこと、または違反防止のために相当の注意(all due diligence)を尽くしたことを本人が立証すれば免責されるという但書が置かれており、無過失責任ではありません。この免責は同項に固有のもので、会社法第203条第5項の過料のように第454条の裁定官が科す制裁には及びません。

参考:インド最高裁判所 判決原本|Sunil Bharti Mittal v. Central Bureau of Investigation(Criminal Appeal No. 34 of 2015・2015年1月9日判決)

Shiv Kumar Jatia v. State of NCT of Delhi(Criminal Appeal No. 1263 of 2019・2019年8月23日判決)

法定フォームの適時提出に対する会社秘書役(CS)の責任

前述の通り、CSは企業のコンプライアンスを最前線で管理するKMPですが、その最も重要な実務の一つが、インド企業省(MCA)に対する法定フォームの適時提出です。KMPの選任手続きにおいて、取締役会での決議を経た後、会社は規定の期間内に必要なフォームをMCAに提出しなければなりません。

具体的には、KMPを含む取締役の任命や辞任、変更があった場合、会社は任命等から30日以内に「フォームDIR-12」を提出する義務があります。また、マネージングディレクター、常勤取締役、またはマネージャーの任命に関連して、2014年会社規則(管理職の選任および報酬)の規則3に基づき、任命から60日以内に「フォームMR-1」を提出する必要があります。これらのフォームの提出にあたっては、CSがその内容の正確性を確認し、手続きを主導することが求められます。

もしこれらのフォームの提出が遅延した場合、会社およびCSを含むKMPは前述の「義務不履行役員」として罰則の対象となります。特にCSは、コンプライアンスオフィサーとしての職務を全うしていないとみなされ、個人的なペナルティだけでなく、職業倫理上の責任を追及される可能性もあります。適正なCSを選任し、彼らに十分な権限と情報を提供して適時提出を徹底させることは、企業防衛の観点から不可欠です。

インドにおけるKMP交代時の報告漏れが引き起こすビジネスリスク

インドにおけるKMP交代時の報告漏れが引き起こすビジネスリスク

外資系企業がインドで事業を展開する上で、会社法の遵守だけでなく、外国為替管理法(FEMA)の遵守も重要です。FEMAの管轄機関であるインド準備銀行(RBI)は、外国からの直接投資(FDI)に関する厳格な報告ルールを設けています。KMPの交代や経営陣の変更に伴って株式の発行や譲渡が行われた場合には、MCAへの報告(DIR-12等の提出)だけでなく、RBIに対する報告義務も別途発生します。

現在、RBIへの外国投資に関する報告は、FIRMS(Foreign Investment Reporting and Management System)プラットフォーム上のSingle Master Form(SMF)を通じて一元的に行われます。株式の発行があった場合はForm FC-GPRを発行日から30日以内に、非居住者が本国送金可能な形で保有する株式が譲渡された場合はForm FC-TRSを譲渡または資金の受領・送金のいずれか早い日から60日以内に、指定銀行(AD Bank)を通じてRBIに報告しなければなりません。FC-GPRを提出するのは株式を発行したインド法人ですが、FC-TRSを提出するのは会社ではなく譲渡の当事者です。居住者と非居住者との間の譲渡では居住者側の譲渡人または譲受人が、非居住者間の譲渡では本国送金ができない形で株式を保有する側の非居住者が提出し、認可証券取引所を通じて非居住者が譲渡する場合は当該非居住者自身が提出します。

参考:RBI(インド準備銀行)|Master Direction – Reporting under Foreign Exchange Management Act, 1999(RBI/FED/2015-16/13; FED Master Direction No.18/2015-16・2016-01-01発出/2026-06-24更新)

KMPの交代時にMCAへの登録変更を怠ったり、それに伴うFDIの報告が遅延したりすると、重大なビジネス上の支障をきたします。報告漏れや遅延が発覚した場合、企業はRBIのコンパウンディング(Compounding of Contraventions:違反者の申請に基づき当局が違反を確定して金銭を科し、手続を終結させる制度)を利用して事態を収拾する必要がありますが、これには多大な時間と専門的な対応コストがかかります。

さらに問題なのは、これらのコンプライアンス違反が未解決のまま放置されると、将来的に会社を売却したり、他社と合併(M&A)したりする際の法務デューデリジェンスで致命的な欠陥とみなされる点です。また、親会社への配当金の送金や、ロイヤルティの支払いといった海外送金の手続きにおいて、指定銀行がコンプライアンスの不備を理由に送金を拒否するリスクも高まります。適正なKMPの選任と管理、そして関係当局への適時報告は、法律問題にとどまらず、インドでの事業継続と資金還流を左右します。

まとめ

インド会社法に基づくKMP(CEO・CFO・会社秘書役)の選任義務は、一定規模以上の企業にとって避けては通れない厳格な法定要件です。これらの役職は、日々の業務運営を牽引するだけでなく、法令遵守の要として機能し、万が一違反が生じた場合には「義務不履行役員」として個人的な金銭的罰則を受ける重い法的責任を負っています。特に会社秘書役(CS)は、法定フォームの適時提出や取締役会への法的助言を行う独自の国家資格専門職であり、日本の会社法にはないインド特有の重要な存在です。最高裁判所の判例により、犯罪の意図がない事案における無制限な刑事責任の追及には歯止めがかけられていますが、手続的違反については、犯罪の意図の有無を問わず過料が科されます。KMPの交代時に企業省(MCA)やインド準備銀行(RBI)への報告を怠れば、将来のM&Aの阻害や海外送金の停止といった致命的なビジネスリスクを招きかねません。事業の成長と安全を守るためには、適正な人材の選任と、彼らが十分に機能するための継続的な管理体制の構築が急務です。

このように複雑かつ厳格なインドの法規制に対応するためには、現地の法令や実務手続きに精通した専門家のサポートが不可欠です。モノリス法律事務所は、IT関連法務において高度な専門性を有するだけでなく、インドの現地法律事務所と強固な提携関係を構築しています。KMPの選任や権限委譲に関する法的アドバイスをはじめ、MCAやRBIに対する複雑な法定報告手続きの代行、さらには現地特有のコンプライアンスリスクを未然に防ぐための社内体制構築まで、インドでビジネスを展開される皆様を現地法令に則して網羅的にサポートいたします。適切な法的支援を通じてリスクを最小化し、インド市場での事業成功を確実なものにするために、ぜひモノリス法律事務所へのご相談をご検討ください。

モノリス法律事務所は、インド法務に関する調査および情報提供を目的として、現地法律事務所Quest IP Attorneysと非独占的な提携関係(Associate Firm / Correspondent Firm)にあります。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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