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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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カザフスタンにおける外国人投資規制を弁護士が解説

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カザフスタンにおける外国人投資規制を弁護士が解説

カザフスタン共和国(以下、カザフスタン)は、豊富な天然資源と中央アジアにおける地政学的な優位性を背景に、経済の多角化を推進しており、日本企業をはじめとする多くの多国籍企業から新たなビジネス展開の拠点として高い関心を集めています。同国への進出を検討する経営者や法務担当者にとって、外資規制や不動産法制に関する特有の法的枠組みを正確に理解することは、コンプライアンスの遵守および投資リスクの低減において極めて重要です。特に、旧ソビエト連邦時代の法体系から市場経済に基づく法体系への移行期に形成されたカザフスタンの法制は、日本の法制とは根本的な理念が異なる部分が多く、安易な類推は重大な法的リスクを招く恐れがあります。

第一に、日本では外国人による不動産の所有が原則として自由であるのに対し、カザフスタンでは外国人の個人による土地の購入や所有は原則として禁止されており、法人であっても特定の用途に限定されている点が挙げられます。特に農地については、外資による所有およびリースが一律で不可となっており、進出企業における現実的な選択肢としては、最長49年の長期借地権を利用することが一般的です。

第二に、こうした厳格な不動産規制が存在する一方で、国家戦略として外資誘致を促進するための特区制度が充実しています。代表例であるアスタナ国際金融センターでは、コモンロー(英米法)に基づく独立した法制度が整備されており、6万米ドル以上の証券投資を行うことで最長5年の長期投資ビザが取得できるほか、国外源泉所得の非課税措置など、極めて魅力的なインセンティブが提供されています。

第三に、投資家の法的権利を保護するための司法・行政的アプローチが強化されています。各地域への専門検事の配置による行政面からのサポートに加え、アスタナ国際金融センター裁判所による高度な紛争解決機能が確立されています。直近の判例動向からも、同裁判所の専属管轄権に服する合意がある場合、現地の一般裁判所の管轄を排除して外国投資家の権利が強力に保護されるということが言えるでしょう。

本記事では、カザフスタンにおける外国人投資規制、とりわけ土地・不動産の所有および利用に関する厳格な規制と、アスタナ国際金融センターを中心とする革新的な投資優遇措置について、日本法との比較を交えながら詳細に解説します。

カザフスタンにおける外国人投資規制の基本構造と日本法との比較

カザフスタン政府は、世界貿易機関(WTO)ユーラシア経済連合(EAEU)への加盟を通じて国際的な経済統合を進めており、大統領直属の外国人投資家評議会などの公式なルートを通じて、外国直接投資の誘致に向けた積極的な対話姿勢を示しています。同国の法律上、外国の個人および企業は原則として国内企業と同様に事業を設立し、所有することが認められており、完全に外国投資家に対して閉鎖されている産業分野は存在しません。この点において、カザフスタンは外国資本に対して一定の開放性を有していると評価できます。

しかしながら、国家の安全保障や戦略的産業の保護という観点から、特定の分野においては厳格な外資規制が設けられています。メディア・報道機関に対する外国資本の出資上限は20パーセントに制限されており、国内および国際航空運送サービス分野においても49パーセントという上限が設定されています。電気通信事業については、かつて存在した49パーセントの出資制限が法的に撤廃されたものの、国内主要通信事業者であるカザフテレコムを除き、外国投資家が参入する際には政府の特別承認を取得する必要があるなど、実務上のハードルが残存しています。また、民間警備業における外国人や外国企業の所有者としての参加は制限されており、銀行や保険会社へのオフショア企業の参加も制限されています。

日本法との比較という視点で見ると、日本においては外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づき、国の安全等に係る特定の業種(武器製造、原子力、サイバーセキュリティ、インフラ関連など)に対する外国投資家の事前届出制度が広く機能しています。一方で、カザフスタンには米国の外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)や日本の外為法における包括的な安全保障審査システムに相当する単一の法制度は存在しません。その代わりとして、カザフスタンは産業ごとの個別法や、後述する土地法に基づく物理的インフラの徹底した外資排除によって、国家の基盤を保護するアプローチを採用しています。

規制分野カザフスタン法における規制内容日本法(外為法等)における一般的な扱い
メディア・報道外国資本の出資上限は20パーセント放送法等により外資規制(20パーセント未満)が存在
航空運送国内・国際ともに外国資本の上限は49パーセント航空法により外資規制(3分の1未満)が存在
電気通信上限は撤廃されたが政府の特別承認が必要NTT等特定企業を除き原則自由(事後報告等)
銀行・保険オフショア企業の参加を制限銀行法等の要件を満たせば外資参入可能
不動産(農地)外国人・外国法人による所有・リースは全面禁止農地法に基づく許可制だが国籍による絶対的禁止はない

カザフスタンにおける土地および不動産に関する法規制の深層

カザフスタンにおける土地および不動産に関する法規制の深層

カザフスタンにおけるビジネス展開において、日本企業が最も留意すべき最大の障壁が土地および不動産に関する法律です。日本の民法および関連法制においては、外国人や外国法人が日本国内の土地を所有することについて、国籍を理由とした包括的な禁止規定はありません。安全保障上重要な施設周辺の土地利用を規制する法律は近年整備されたものの、原則として所有権の取得は自由であり、農地についても農地法に基づく許可を得られれば外国人であっても取得の道が閉ざされているわけではありません。これに対し、カザフスタンの法制度は全く異なる哲学に基づいています。

カザフスタン共和国憲法第6条は、土地、地下資源、水、動植物その他の天然資源は国民に属し、国家が国民を代表して所有権を行使すると定めています。この憲法上の大原則の下、土地の私有は例外的な位置づけとされており、特に外国人に対する制限は極めて厳格です。カザフスタン共和国土地法第23条および第24条等において、外資に関する詳細な規制が明文化されています。カザフスタン共和国土地法の公式な条文は、カザフスタン法務省の法的情報システムで確認することができます。

参考:カザフスタン法務省法的情報システム

第一に、外国人の個人による土地の購入および所有は、原則として全面的に禁止されています。第二に、外国法人(外国資本が参加するカザフスタン法人を含む)による土地の所有については、工場、商業ビル、居住用建築物の建設敷地など、特定の目的を持った開発用地に限定して例外的に認められるにとどまります。

第三に、最も重要な点として、農地に関する外資規制が挙げられます。2016年に発生した外国人の土地貸与に対する大規模な抗議デモを契機として、政府は農地の外国人所有およびリースに対するモラトリアム(一時停止)を導入しました。その後、2021年の法改正を経て、現在では外国資本(外国人、外国法人、および外資が少しでも入っている内国法人を含む)による農地の所有およびリースは一律で恒久的に禁止されています。農業分野はカザフスタンの重要な産業ですが、外国企業が直接農地を支配することは法的に不可能です。

こうした厳格な所有権規制を背景に、カザフスタンで事業拠点や製造工場、商業施設を設ける進出企業にとっての現実的な選択肢は、長期借地権の活用となります。土地法に基づき、農業目的以外の事業用途においては、外国企業であっても最長49年の期間で国から土地をリース(長期賃借)することが一般的な実務となっています。このリース権は相続の対象にはなりますが、自由に譲渡することは制限されており、期間満了時には既存の賃借人が優先的な更新権を有するという仕組みが採られています。日本企業としては、所有権の取得に固執するのではなく、この49年の長期リース権を前提とした投資回収モデルとインフラ整備計画を立案することが不可欠です。

カザフスタンのアスタナ国際金融センターによる投資優遇と特区制度

不動産市場における厳格な規制とは対照的に、カザフスタン政府は金融および特定のサービス産業の育成に向けて、諸外国の制度を凌駕する極めて柔軟かつ強力な投資優遇措置を展開しています。その中核を担うのが、首都アスタナに設立されたアスタナ国際金融センター(以下、AIFC)です。

AIFCは、「アスタナ国際金融センターに関する憲法的法律」(Constitutional Statute on the Astana International Financial Centre)に基づいて設立された経済特区であり、国内の一般的な大陸法(シビルロー)体系から切り離され、英国法(コモンロー)の原則に基づく独自の法域を形成しています。この特区制度の最大の魅力は、日本法制には見られない大胆な税制優遇とビザ発給要件の緩和にあります。

AIFCが提供する「投資税務居住者プログラム」は、富裕層や機関投資家を対象とした画期的な制度です。具体的には、アスタナ国際取引所(AIX)に上場している適格証券に対して6万米ドル(または他通貨での相当額)以上の投資を行うことにより、投資家およびその家族は最長5年間の長期投資ビザまたは一時滞在許可を取得することができます。さらに、このプログラムの認定を受けた投資家は、国外源泉所得(カザフスタン国外から得られる個人的な所得)に対する所得税が完全に免除されるという強力なメリットを享受できます。

日本の入管法および税法と比較すると、その特異性が際立ちます。日本では、外国人が中長期的な事業ビザ(経営・管理ビザなど)を取得するためには、物理的な事業所の確保や常勤職員の雇用、あるいは一定額以上の実体的な事業投資が要求されます。また、日本の居住者となれば、原則として全世界所得に対して課税される厳しい税制が適用されます。一方、カザフスタンの投資税務居住プログラム(ITRP)は、わずか6万米ドルという比較的低額な証券投資のみで長期居住権を付与し、さらに国外所得を非課税とする点で、伝統的なオフショア金融センターに匹敵するインセンティブを提供しています。

また、個人投資家だけでなく法人に対する優遇も充実しています。AIFCに関する憲法的法律第6条の規定により、AIFCの参加企業のうち、イスラム金融、再保険、資産運用、証券仲介業などの特定の金融サービス、ならびにそれらを支援する法律・会計・監査・コンサルティングサービスを提供する法人に対しては、2066年1月1日までの約40年間にわたり法人所得税を免除する措置がとられています。アスタナ国際金融センターに関する憲法的法律の公式な規定は、同法務省データベースで閲覧可能です。

参考:アスタナ国際金融センターに関する憲法的法律

カザフスタンにおける投資家の権利保護メカニズム

カザフスタンにおける投資家の権利保護メカニズム

海外直接投資において、実体的な優遇措置と同等に重要なのが、投資家の法的権利が侵害された際の救済プロセスと司法の独立性です。カザフスタン政府はこの点において、行政面と司法面の両輪で改革を進めています。

行政面においては、政府は外国投資家の法的権利を不当な行政指導や腐敗から保護するため、専門の検事(プロセキューター)を各地域や大都市に配置する制度を導入しています。カザフスタン共和国検察庁の投資家向けフロントオフィスは、投資プロジェクトの実施過程で生じる官僚的な障壁を排除し、行政機関とのトラブルに対して迅速な介入と法的サポートを提供する役割を担っています。

司法面においては、AIFC内に設置されたアスタナ国際金融センター裁判所(AIFC Court)および国際仲裁センター(IAC)が決定的な役割を果たしています。AIFC裁判所はカザフスタンの一般の司法制度から完全に独立しており、英国の著名な元裁判官らによって構成され、審理はすべて英語で行われます。AIFC参加企業間の紛争だけでなく、当事者が書面による合意によって管轄を付与した場合には、カザフスタン国内の一般企業と外国企業との間の民事・商事紛争についても専属的な管轄権を行使することが可能です。

このAIFC裁判所の強力な権限と実効性を示す極めて重要な最新の判例が存在します。2025年2月7日および同2月20日にAIFC裁判所(第一審、ルパート・ジャクソン裁判官)において下された「Freschette Limited v. Enegix Limited Liability Partnership & Others」事件の判決です。

この事案は、外国投資家である原告(Freschette Limited)とカザフスタンの債務者等との間で締結された和解契約および抵当権(不動産および農地等に対する担保権)設定契約に関する紛争でした。契約書には、紛争解決の専属管轄をAIFC裁判所とする旨の合意が含まれていました。債務不履行が発生したため、原告はAIFC裁判所に対して抵当権の実行(担保不動産の競売等)を求める訴えを提起しました。これに対し被告側は、カザフスタン共和国民事訴訟法第31条が「不動産に関する権利の紛争は、その不動産の所在地を管轄する裁判所の専属管轄に属する」と定めていることを根拠に、カザフスタンの国内一般裁判所のみが管轄権を有しており、AIFC裁判所には不動産に関する紛争を裁定する権限がないと主張し、管轄権を争いました。

AIFC裁判所は被告の主張を完全に退け、自らの管轄権を肯定する画期的な判断を下しました。判決において裁判所は、AIFCに関する憲法的法律第13条が当事者の合意によるAIFC裁判所への管轄移譲を認めていることを重視しました。カザフスタン民事訴訟法第31条の規定は、あくまでカザフスタンの「国内一般裁判所システム内部」における土地管轄を定めた規則にすぎず、憲法的法律によって特別に創設され、当事者間の契約に基づくAIFC裁判所の管轄権を無効化するものではないと判示しました。

さらに、AIFC裁判所は、被告側が不法に国内一般裁判所(アルマトイの経済裁判所)へ並行して提訴していた行為に対し、直ちに訴えを取り下げるよう命じる訴訟差止命令(アンチ・スーツ・インジャンクション)を発出する措置を講じました。本判決の詳細な裁定内容は、アスタナ国際金融センター裁判所の公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:アスタナ国際金融センター裁判所の公式ウェブサイト

この判決から、投資家の権利が強力に保護されているということが言えるでしょう。現地の厳格な不動産法制や複雑な民事訴訟手続きを逆手にとって契約上の義務を逃れようとする現地企業に対し、AIFC裁判所がコモンローの原則に基づき、契約の自由と外資保護の理念を徹底して貫徹した形です。日本企業がカザフスタンでビジネスを行う際、投資契約や各種担保契約において「AIFC裁判所を専属管轄とする条項」を組み込むことが、法的リスクを劇的に低減させる最も有効な防衛策になるということが、この最新判例によって実証されました。

まとめ

カザフスタンにおけるビジネス展開は、同国独自の法体系と国家戦略のバランスを正確に読み解くことが成功の鍵となります。これまで見てきたように、外国人や外国資本に対する農地の所有・リースの全面禁止や、事業用地であっても原則として最長49年の借地権に留められるなど、不動産法制においては日本の民法体系とは大きく異なる保護主義的かつ厳格な規制が存在します。安易に日本国内の不動産取引の感覚で投資スキームを構築することは、後に重大な権利喪失のリスクを招きます。

しかしその反面、アスタナ国際金融センター(AIFC)を中心とした投資インセンティブは、6万米ドルの証券投資による長期ビザの取得や、2066年までの法人所得税の免除、さらには国外所得の非課税措置など、国際的に見てもトップクラスの優遇措置を誇ります。さらに、検察庁による行政面での投資家保護メカニズムに加え、最新のFreschette Limited事件の判例が示す通り、契約書においてAIFC裁判所の管轄権を適切に設定することで、現地特有の司法リスクを回避し、英米法に基づく極めて高いレベルでの法的保護と権利の実現を図ることが可能です。不動産の物理的な所有に固執するのではなく、AIFCの法務・税務インセンティブを最大限に活用し、司法保護の網を契約によって担保することが、カザフスタン投資における最適解といえます。

モノリス法律事務所では、海外進出を検討される日本企業の皆様に対し、現地の複雑な外資規制の調査から、カザフスタン等の特殊な法制度を踏まえた最適なスキームの構築、ならびにAIFCのような特区制度や国際的な紛争解決メカニズムを有効に活用するための各種契約書のレビューおよび作成まで、ビジネスの実情に即した多角的な法的サポートを提供しております。国境を越えた商取引には予期せぬ法的落とし穴が潜んでいますが、事前の緻密なリーガルチェックと適切な契約保全によってその大半は回避可能です。カザフスタン市場への安全かつ円滑な進出に向けた法的課題の解決につき、当事務所がサポートいたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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