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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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生産連動型優遇策(PLI)の成果と第4次募集:白物家電分野の最新事例

生産連動型優遇策(PLI)の成果と第4次募集:白物家電分野の最新事例

インド経済の急速な成長と政府による製造業振興策を背景に、同国市場への本格的な参入や事業拡大を検討する日本企業が急増しています。インド政府が掲げる「メイク・イン・インディア」政策の中核を担うのが、国内での生産活動と投資を紐付けて奨励する生産連動型優遇策(PLI)スキームです。

本記事では、2025年11月に第4次募集が締め切られ、最新の申請および選定状況が公表された白物家電分野のPLIスキームを具体的な事例として取り上げます。設備投資額や売上増の達成状況がどのように評価されて補助金が交付されるのかという実務的なメカニズムを紐解くとともに、日本の補助金制度との法的な違いや、インド特有の裁判例から得られる教訓を詳述します。

さらに、今後大きな成長が見込まれる半導体や特殊鋼といった他分野において、PLIスキームや関連する優遇措置を活用するための包括的なロードマップを提示します。

インドにおける生産連動型優遇策(PLI)の概要

インド政府が導入した生産連動型優遇策(PLI)は、特定の対象産業においてインド国内で製造された製品の売上増加分に対して、一定の割合で事後的に補助金を交付する成果報酬型の制度です。この制度は単なる外資誘致にとどまらず、インド国内における強靭な部品供給網の構築や、同国をグローバルなサプライチェーンの不可欠な拠点として位置づけるという国家的な戦略目標に基づいています。

中でもエアコンおよびLED照明のコンポーネント製造を対象とする白物家電分野のPLIスキームは、2021年4月に総額約623億8,000万ルピー(6,238クロール・ルピー)の予算規模で承認されました。この制度は完成品の製造を優遇するものではなく、コンプレッサーや銅管、LEDチップなど、これまで輸入に依存していた高付加価値な中間部品の製造を対象としており、現在20パーセントから25パーセントの水準にある国内付加価値を、75パーセントから80パーセントへと引き上げることを目指しています。

白物家電分野のPLIスキームでは、業界からの要望と投資意欲の高まりを受け、第4次募集の申請期間が2025年11月10日まで延長されました。インド商工省産業国内貿易促進局(DPIIT)の発表によると、この第4次募集には合計13件の申請が寄せられ、約束された純投資額は約191億4,000万ルピー(1,914クロール・ルピー)に達しました。これらの投資はインド国内の13地区23拠点にまたがり、地域産業の活性化と雇用創出に寄与することが期待されています。

その後、審査を経て2026年1月には5社が暫定的な補助金受給対象として選定されたことが公表されました。これら5社の生産額は2027年度までに合計約833億7,000万ルピー(8,337.24クロール・ルピー)に達し、新たに1,799人の直接雇用を生み出すと見込まれています。以下の表は、第4次募集で暫定的に選定された5社の投資計画を示しています。

選定企業名確約投資額(億ルピー)製造対象となる主なコンポーネント
Kirloskar Pneumatic Company Limited32.00コンプレッサー、モーター、熱交換器、板金部品
Indo Asia Copper Limited25.90銅管(平滑管および溝付管)
Godrej & Boyce Manufacturing Company Ltd5.87熱交換器、板金部品、プラスチック成形部品
Kryon Technology Private Limited17.50室内機・室外機・リモコン用制御アセンブリ、モーター
Pranav Vikas (India) Private Limited5.00モーター、クロスフローファン、バルブおよび真鍮部品など

参考:PIB(インド報道情報局 / Press Information Bureau)|白物家電(AC・LED照明)PLIスキーム第4次募集の暫定選定結果プレスリリース(2026-01-23, 商工省/DPIIT, PRID 2217743)

インドにおける設備投資額と売上増の達成状況に対する評価方法

インドにおける設備投資額と売上増の達成状況に対する評価方法

インドのPLIスキームにおいて補助金を受給するための評価メカニズムは、厳密かつ定量的な基準に基づいています。白物家電分野の要件として、参加企業は基準年(2019年度)に対する適格製品の純増分売上高の閾値と、前年度の累積追加投資額の閾値の両方を毎年継続して達成しなければなりません。なお、2020年度の監査済み財務諸表で事前資格要件を満たした申請企業については、基準年と2020年度のいずれか高い方の売上高を基準として純増分売上高が計算されます。投資区分には、企業の規模や事業計画に応じて大規模投資と通常投資が設けられており、それぞれに異なる最低投資要件が課されています。

補助金は、基準年および1年の据置期間を経た後、基準年を上回る適格製品の純増分売上高に対して、6パーセントから4パーセントへと段階的に引き下げられる率で5年間にわたり支給されます。実務上特に重要となるのは、この売上高の証明方法です。適格製品の売上増は、単なる社内帳簿の記述ではなく、物品サービス税(GST)のシステムに登録された検証可能な請求書データによって客観的に裏付けられる必要があります。

企業は毎年度末に監査済みの財務諸表とともに補助金の支払い請求を提出し、政府が指定したプロジェクト管理機関(PMA)がこれを審査した上でDPIITに勧告します。申請企業はPLIスキームのために別法人を設立する必要はないものの、補助金対象となる適格投資によって生み出された資産や、その資産からの生産実績が会計上明確に識別できるよう、独立した元帳や試算表、関連する請求書を厳重に管理することが義務付けられています。ある年度に投資額の閾値または売上増の閾値のいずれかを満たせなかった場合、その年度の補助金は一切支給されません。

ただし、スキームの期間内にその後の年度で再び要件を満たすことができれば、補助金を請求する権利が復活します。

日本の補助金適正化法に基づく制度とインドのPLIスキームの違い

インドでPLIスキームを活用するにあたり、日本の一般的な補助金制度との法的な構造や設計思想の違いを深く理解しておくことが不可欠です。日本では「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)」が、国庫から支出される補助金の交付や執行に関する基本的なルールを厳格に定めています。

日本の補助金制度の多くは、事業者が事前に申請した特定の経費(機械設備の購入費や研究開発費など)に対して、事後にその実費の一部を補填する「費用補填型」の仕組みを採っています。補助金適正化法は公金である税金の適正な使用を担保するため、第11条において、承認された用途以外への補助金の使用を禁止しており、さらに第22条においては、補助金を用いて取得した財産を各省各庁の長の承認なしに目的外に使用したり、譲渡、交換、貸し付け、担保に供したりすることを制限しています。これらに違反した場合、交付決定の取り消しや加算金を伴う補助金の返還義務が生じるだけでなく、意図的な不正受給や虚偽申請とみなされた場合には拘禁刑や罰金といった重い刑事罰が科される可能性があります。

これに対してインドのPLIスキームは、事前の設備投資そのものを補填する制度ではありません。企業は自らの資金とリスクで設備投資を行い、工場を稼働させて実際に適格製品の生産量と売上高を純増させることではじめて、その経済的成果(アウトプット)に対する報酬としてインセンティブを受け取ることができます。つまり、日本のように個々の機械設備の取得費用に対する事前承認や事後の財産処分制限を課すのではなく、結果としての売上増とインド国内での付加価値の向上が評価の中核となります。

ただし、これはインドの制度が緩やかであることを意味するものではありません。インドにおける要件達成の監査は厳密です。投資額として認定されるためには、規定の期間内に資本化された工場や特定の機械設備への投資であることが法定監査人(Statutory Auditor)によって証明される必要があり、土地や建物への投資は計算対象から除外されるなど、精緻な会計処理が求められます。日本企業は、補助金の性質が「費用に対する補填」から「成果に対する報奨金」へと変化していることを認識し、コンプライアンス管理の焦点を資産の維持管理から、正確な売上高の計上とGST申告データの整合性確保へと移す必要があります。

インドPLIスキームにおける法的リスクと裁判例に見る留意点

インドPLIスキームにおける法的リスクと裁判例に見る留意点

インドにおいてPLIスキームのような巨額のインセンティブプログラムに参加する場合、適格性の判断や事前条件の不履行を巡って政府当局との間で法的紛争に発展するリスクが存在します。インドの行政手続きの透明性や法的救済の仕組みを理解する上で、近年の裁判例は重要な示唆を与えます。

重要な判例として、デリー高等裁判所の「JBM Electric Vehicles Private Limited v. Union of India & Anr(W.P.(C) 8047/2022、判決年月日:2022年8月8日、Neutral Citation: 2022:DHC:3007)」があります。この事件では、インド重工業省(MHI)がPLIスキームの要件であるグローバル総売上高(GGR)の算出において、申請企業であるJBM Electric社がグループ企業間の内部売上を不当に含めて虚偽の申告を行ったとして、同社に対して一方的に資格停止(Debarment / Blacklisting)の行政処分を下しました。この処分の影響で、姉妹企業であるJBM Ecolife社までもが別の政府入札から自動的に排除されるという事態に陥りました。

しかし、デリー高等裁判所はこの政府の決定を違法として取り消しました(2022年4月25日付および同月29日付の各通知の取消し)。裁判所は、政府側が資格停止という重大な不利益処分を下すにあたり、事前の理由開示通知(Show Cause Notice)を発行せず、企業側に弁明の機会を一切与えなかったことを重く見ました。加えて、PLIスキームにもガイドラインにもグループ内売上を除外すべき明確な規定はなく、除外を義務づける会計基準や業界標準も示されていないと認定し、規定が多義的である以上、本件で示された理由では虚偽申告を理由とする資格停止を正当化できないと判断しました。裁判所は、こうした手続きを欠いた処分が「自然の正義(Natural Justice)」というインド法の根源的なデュープロセス原則、および法の下の平等を定める憲法第14条の要請に違反するものであり、不合理かつ恣意的な権限の行使であると断じました。

この判例は、インド政府によるPLIスキームの厳格な運用の中にあっても手続き的な公正性が求められることを示すとともに、企業が不当な行政処分に対して司法手続きを通じて救済を得られることを裏付けています。もっとも裁判所は、適格性や資格停止の当否そのものには立ち入らず、双方の主張をいずれも未決のまま、自然の正義に従った手続きで改めて判断するよう政府側に差し戻しました。また本件については、政府側が最高裁判所に上訴しています。

参考:Indian Kanoon|M/s JBM Electric Vehicles Private Limited v. Union of India & Anr.(Delhi HC, W.P.(C) 8047/2022, 2022-08-08判決, Neutral Citation 2022:DHC:3007, doc/199519293) / 公式PDF

さらに、PLIスキームへの参加に伴う特有の法的義務として銀行保証(Bank Guarantee)の提出があります。インドの制度では、申請が承認された企業は約束した投資額の一定割合に相当する銀行保証を政府に差し入れることが義務付けられています。その割合はスキームごとに定められており、白物家電分野では確約投資額の0.5パーセント、食品加工分野では3パーセントとされています。銀行保証の法的性質について、インドの裁判所はこれを原契約から独立した自律的な契約とみなしており、銀行保証の基礎そのものを損なうほど甚だしい詐欺(Fraud of an Egregious Nature)、回復困難な不正義(Irretrievable Injustice)、または特段の衡平上の事情(Special Equities)が存在しない限り、政府による銀行保証の実行(現金化)を差し止めることは困難であるという厳格な立場をとっています。

しかし、スキームの初期段階における銀行保証の未提出がどのような法的結果をもたらすのかについて指針を示したのが、デリー高等裁判所の「M S Asandas and Sons Private Limited v. Union of India & Anr(LPA 134/2025、判決年月日:2025年9月19日、原審:W.P.(C) 1173/2022)」の控訴審判決です。この事案では、食品加工分野のPLIスキームで承認を受けた企業が、インセンティブを年平均成長率(CAGR)15パーセント相当に制限する政府の決定と、約束した投資額約81億ルピー(810クロール・ルピー)の3パーセントに相当する銀行保証の提出を求める通知とを争って提訴しました。同社が銀行保証を提出しないまま審理が進み、単独裁判官は2024年5月に請求を棄却して銀行保証の提出を命じましたが、同社はこれを不服として控訴し、控訴審の段階でスキームからの撤退を表明しました。

裁判所は、承認から所定の期間内に銀行保証を提出しなかった場合の効果は、承認が取り消され申請が撤回されたものとみなされるという性質のものにとどまり、企業に対して違約金や制裁金その他の金銭的な負担を課す根拠にはならないと判示しました。ただしこれは、承認レターおよび政府側機関の通知が未提出の効果を「承認の取消」「みなし撤回」と定めていたことの解釈であり、政府側も撤退によって財政的な損失は生じないと法廷で認めていました。これにより、銀行保証を提出しないまま早期にスキームから離脱する場合の法的な帰結が明確になりました。もっとも、食品加工分野のPLIガイドラインは、承認を受けた企業が途中で辞退した場合にはインセンティブの請求権が失効し銀行保証が実行されると定めており、すでに銀行保証を差し入れた後の離脱では扱いが異なり得る点に注意が必要です。

参考:Indian Kanoon|判例 M S Asandas and Sons Private Limited v. Union of India & Anr.(Delhi HC, LPA 134/2025, 2025-09-19判決, doc/117171283) / 公式PDF

インドの半導体および特殊鋼分野におけるPLI関連スキームの動向

白物家電分野の事例や法的要件の枠組みを踏まえ、インドが国家戦略として育成を急ぐ半導体特殊鋼の分野で、PLIスキームや関連するインセンティブの活用を検討する企業に向けて、実践的なロードマップを提示します。

半導体分野では、電子情報技術省(MeitY)が主導する「インド半導体ミッション(ISM)」のもと、「Semicon India」プログラムが推進されています。このプログラムは、売上増加に連動して事後的に支払われる一般的なPLIスキームとは一線を画します。半導体ファブ、ディスプレイファブ、化合物半導体、および後工程のATMPやOSAT施設の設立にかかるプロジェクト費用(資本的支出)の最大50パーセントを、政府が財政支援(Fiscal Support)として同順位(pari-passu)で直接補助する異例の枠組みです。

さらに、設計段階の企業を支援するために、対象となる設計費用の最大50パーセントを補助し、その後の売上高に対してもインセンティブを付与する設計連動型優遇策(DLI)も併設されています。このスキームを活用するためには、申請段階における精緻な資本的支出の見積もりに加え、資金使途の妥当性や政府との共同出資比率に関する財務省支出等審査委員会(Expenditure Finance Committee)との交渉力が不可欠です。

一方、特殊鋼分野では鉄鋼省が管轄するPLIスキーム(PLI 1.2)の第3次募集が開始されており、最新の市場動向を反映して価格計算の基準年が従来の2019年度から2024年度へと更新されました。MECON社がプロジェクト管理機関(PMA)としての役割を担い、超合金、CRGO、高張力鋼板、チタン合金といった高付加価値かつ輸入依存度の高い製品を対象に、純増分売上高に対して4パーセントから15パーセントの高いインセンティブが設定されています。特殊鋼分野のPLIでは、原料から最終製品に至るまでの製造工程をインド国内で完結させる「エンドツーエンド」の製造体制が求められるため、サプライチェーン全体の現地化が前提となります。

これらの他分野で日本企業が成功するためのロードマップは、以下の段階的なアプローチに集約されます。第一歩は、自社の製品が各省庁の定める適格製品の定義や技術基準(インド規格等)に合致しているか、そしてインド国内でのバリューチェーン構築が技術的・財務的に実現可能であるかを詳細に検証する実現可能性調査(フィージビリティ・スタディ)の実施です。次に、インド会社法に基づく現地法人の設立や外資規制(FDI)の遵守を確認した上で、設備投資の資本化プロセスとGST申告に基づく売上高の証明を、PMAの監査に耐えうる水準で管理できる社内会計体制を整えます。

さらに、前述の裁判例が示すように、銀行保証の差し入れに関する実務的な取り扱いや、行政機関との間で負う契約上の義務を正確に把握しておく必要があります。そのうえで、政府当局との見解の相違や紛争が生じた際に、インドの司法制度を通じて法的権利を主張できる危機管理体制をあらかじめ整えておくことが、長期的な事業の安定につながります。

まとめ

インドにおける生産連動型優遇策(PLI)は、白物家電分野における最新の第4次募集の盛況ぶりや、半導体・特殊鋼といった国家的な重点分野への巨額の財政支援策の展開からも明らかなように、インド市場での製造業の成長と輸出競争力の強化を加速させる原動力となっています。この制度の恩恵を最大限に享受するためには、事前の周到な事業計画の策定にとどまらず、設備投資の着実な実行から監査に耐えうる正確な売上高の証明に至るまで、インドの現地法令や独自の会計基準に準拠したコンプライアンス体制の構築と維持が要求されます。また、日本の補助金適正化法に基づく費用補填型の制度とは異なる「成果連動型」の法的概念が適用されるため、現地における銀行保証の厳格な取り扱いや、行政機関による不測の処分に対する法的な防衛策など、インド特有の法的リスクへの事前の備えが欠かせません。

モノリス法律事務所は、特にIT関連ビジネスに深い専門性を有するとともに、国境を越えた複雑なビジネス展開を法務面から力強くサポートする法律事務所です。モノリス法律事務所はインド現地の有力な法律事務所と強固な提携関係を築いており、絶えず変化する現地の最新法令の調査や、政府機関に対する複雑な行政手続き、さらにはコンプライアンス体制の構築に迅速かつ的確に対応することができます。インドという世界最大級の成長市場において、PLIスキームをはじめとする各種の優遇制度を戦略的に活用し、法的リスクを最小限に抑えながらビジネスを成功へと導くために、実務に即した確固たる法的基盤の構築を全面的にお手伝いいたします。

モノリス法律事務所は、インド法務に関する調査および情報提供を目的として、現地法律事務所Quest IP Attorneysと非独占的な提携関係(Associate Firm / Correspondent Firm)にあります。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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