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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

個人情報保護法「3年ごと見直し」方針を読み解く──企業実務への影響と対応のポイント

令和8年1月9日、個人情報保護委員会は、「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」を公表しました。今回の改正は、AI時代のデータ利活用を促進する一方で、不適切利用には「課徴金」という利活用のルールと規制の在り方が改めて整理され、企業のデータ取扱いにも影響を及ぼす内容が含まれています。

本記事では、企業が押さえるべき実務上の改正ポイントを解説します。

個人情報保護法改正方針の背景と制度的要請

今回の改正方針が策定された背景には、大きく分けて三つの要素が存在します。

法的義務としての「3年ごと見直し」

第一に、制度的な要請です。令和2年の改正法附則においては、施行後3年ごとに、国際的な動向や情報通信技術の進展、新たな産業の創出状況等を勘案し、法の施行状況を検討して必要な措置を講じることが義務付けられていました。

今回の改正方針は、この規定に基づき令和5年11月から開始された検討作業の結論として示されたものです。

参考:個人情報保護委員会|個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しについて

政府全体によるデジタル改革との連動

第二に、政府全体のデータ利活用戦略との整合性です。政府は令和7年6月に「データ利活用制度の在り方に関する基本方針」を閣議決定し、データとAIの好循環を確立するための横断的な法整備を進めています。特に、AIの急速な普及やデータ処理の高度化・複雑化により、本人が自身のデータの取扱いを把握しにくくなっているという課題が顕在化しました。

これに対応するため、個人が安心してデータを提供できる信頼の醸成が不可欠となり、利活用の推進と事後的な規律の実効性確保を一体的に整備することが求められたのです。

社会・技術環境の変化への対応

第三に、個人の権利利益を取り巻くリスクの変化です。

近年では、顔特徴データ(顔の形状やパーツの配置などを数値化し、個人の識別を可能にする情報)に代表される生体情報の利用が広がるとともに、16歳未満の子どもの個人情報の取扱いをめぐる課題も顕在化しています。

また、「闇名簿」を起点とした特殊詐欺やフィッシング詐欺など、個人情報が犯罪に悪用されるケースも後を絶ちません。さらに、データの取扱いを外部に委託するケースが増える中で、委託先が業務範囲を超えてデータを利用するなど、管理の不備に起因するリスクも指摘されています。

こうした新たなリスクに対し、現行法の枠組みでは十分に対応しきれない場面が生じていることが、見直しの背景にあります。

個人情報保護法改正方針の4つの柱とは

改正方針の内容

今回の改正方針は、大きく4つの柱で構成されています。それぞれの詳細について解説します。

適正なデータ利活用の推進

本改正では、本人の権利利益への影響が比較的小さいデータ利用について、本人関与の在り方を見直し、利活用の円滑化が図られます。

具体的には、統計情報の作成やAI開発など、特定の個人を識別できない形での利用が担保されている場合には、一定の要件のもとで、個人データの第三者提供等について本人同意を不要とする方向性が示されています。

また、取得の状況からみて本人の意思に反しないことが明らかな場合(例えば、ホテル予約情報の宿泊先への提供や海外送金時の情報共有など)についても、同意不要とする整理が検討されています。

さらに、生命・身体・財産の保護や公衆衛生の向上に関する例外規定については、現行の「同意取得が困難」という要件を緩和する方向で再整理が図られ、学術研究に関する例外についても、医療機関による臨床研究の円滑化を意図した見直しが検討されています。

リスクに適切に対応した規律

取扱いの態様の変化に応じた規律の整備も重要な論点とされています。

まず、未成年者に関する規律として、16歳未満の本人から個人情報を取得する場合には、原則として法定代理人の関与を求める方向での制度整備が検討されています。また、未成年者の個人情報の取扱いについて、「本人の最善の利益」を考慮すべき旨の責務規定の新設も示されています。

次に、生体情報に関する規律として、顔特徴データなど、特定の個人を継続的に識別し得る情報については、利用目的等の周知の強化や、利用停止請求の範囲拡大などが検討されています。あわせて、オプトアウトによる第三者提供の見直しも論点とされています。

さらに、委託に関する規律については、委託先による業務範囲外の利用を防止するための規律の明確化が検討されています。一方で、委託元の指示に基づき機械的な処理のみを行う場合には、義務の在り方を合理化する方向性も示されています。

このほか、漏えい等事案への対応についても、リスクの程度に応じて本人通知や報告の在り方を見直す方向での制度設計が検討されています。

不適正利用等の防止

不適正利用等の防止については、犯罪行為等への悪用を阻止するための規律が強化されます。

電話番号やCookie ID等、特定の個人への連絡が可能な情報について、たとえ個人情報に該当しない場合であっても、フィッシング詐欺等の不適正な目的での利用や取得を禁止します。また、オプトアウト制度による提供時に、提供先の身元や利用目的の確認を義務化することで、名簿の不正流通を抑制します。

規律遵守の実効性確保

規律遵守の実効性確保は、今回の改正における最大の懸念事項です。迅速な是正命令を可能にするため要件が見直されるとともに、違反行為を補助する第三者(ホスティング事業者等)への措置要請の根拠規定も創設されます。

さらに、大量の個人情報を収集し、悪質な利用・提供を通じて経済的利益を得る事業者に対し、得られた財産上の利益に相当する額の課徴金納付を命ずる制度を導入します。対象は原則として本人の数が1,000人を超える大規模事案に限定されますが、これにより企業のコンプライアンスリスクは格段に高まります。

個人情報保護法改正に対して企業が求められる対応

企業として求められる対応

改正方針の内容は多岐にわたり、企業は法務・コンプライアンス体制の抜本的な見直しを迫られることになります。具体的に求められる対応を整理します。

委託先管理の再構築と契約の見直し

この改正により、委託先にも直接の法的義務が課されることになります。企業はまず、自社が委託元となる場合、委託先が業務範囲を超えてデータを利用していないか、監督体制を再点検する必要があります。特に、AI開発やデータ分析を外部委託している場合、委託先が独自の学習にデータを利用することは、新法下では明文で禁止されるリスクがあります。

一方で、入力作業などの「機械的処理」のみを委託しているケースでは、義務免除の特例を受けられるよう、契約書において取扱方法の全部を合意し、状況把握措置を明記するなどの新制度への適応に向けた契約改訂の準備が必要です。

未成年者・生体データに関する特別ルールの整備

16歳未満の未成年者向けサービスを提供している企業は、年齢確認フローの構築と、法定代理人の同意を得るためのワークフローの実装が急務となります。さらに「未成年者の最善の利益」を考慮する責務が課されるため、プライバシーポリシーに未成年者向けの分かりやすい説明を加えるなどの配慮も求められるでしょう。

また、顔認証システムを導入している企業は、周知すべき事項(取得者の名称、具体的な利用目的、身体的特徴の内容等)が法定義務化されることに備え、掲示板やウェブサイトの記載内容を精査しなければなりません。

「攻めのガバナンス」としての統計活用

一方で、今回の改正はデータの利活用を促進する側面も持っています。統計作成等に限定した本人同意不要の特例が検討されており、一定の要件のもとで、高度なデータ解析やAI開発への活用の幅が広がる可能性があります。

企業としては、この特例を適切に活用するための社内ルール(目的外利用の禁止、第三者提供の制限、適切な公表手続等)を整備し、イノベーション創出のための法的基盤を整えることが重要です。

厳罰化・課徴金へのリスク管理

今回の見直しにおいて大きな論点となっているのが、課徴金制度や罰則の強化です。大規模な漏えいや不適切利用が発生した場合には、行政による命令に加え、不当に得た利益に相当する課徴金の納付が命じられる可能性があります。

また、法人に対する罰則の強化も議論されており、不適切な名簿業者からのデータ取得や、詐欺的な利用につながるおそれのあるデータ活用を排除するためのコンプライアンス体制の構築が重要となります。

まとめ:個人情報保護法改正方針については専門家に相談を

今回の個人情報保護法改正方針は、単なるマイナーチェンジではなく、AI時代の到来と深刻化するデータ犯罪に対応するための、極めて実効性の高いものとなっています。

改正法案は令和8年の通常国会に提出される予定であり、成立した場合には令和9年から10年頃の施行が見込まれます。改正方針が公表された今、法制化を待たずに現時点から自社のデータガバナンスの在り方を問い直すことが重要です。特に、課徴金制度の導入や未成年者・生体データへの厳格な規律は、経営に直結する課題となります。今後の法制化の動向を注視しつつ、社内の関係各署と連携して、着実な準備を進めることをお勧めします。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。近年、個人情報保護法に関するガバナンスに注目が集まっています。当事務所では労務問題に対するソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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