オンラインゲームの暴言・誹謗中傷も開示請求できる?相手を特定する裁判手続も解説
オンラインゲームでのユーザー同士のコミュニケーションが活発になる一方で、ユーザー同士での誹謗中傷が深刻な問題になっています。オンラインゲーム内での暴言や誹謗中傷も、名誉毀損罪や侮辱罪、脅迫罪などの刑事罰に問われる可能性があります。
この記事では、オンラインゲームでの誹謗中傷等についての具体的な事例や、発信者情報開示請求の手続きについて解説します。オンラインゲームで誹謗中傷を受けた場合の対処方法も合わせて紹介します。
この記事の目次
オンラインゲームでの誹謗中傷
オンラインゲームの普及と共にユーザー同士のコミュニケーションが活発になる一方で、誹謗中傷の問題が浮上しています。誹謗中傷を受けたケースはもちろん、誹謗中傷の書き込みをしてしまったと相談してくる人も少なくありません。
発信者開示請求とは、匿名の投稿者の情報を特定するための法的手続であり、この手続を使って投稿者を特定し、損害賠償の請求や刑事告訴などの法的措置を取ることが可能です。
開示請求が認められる条件として、誹謗中傷が社会的評価を低下させる内容である、誹謗中傷が特定の人物を対象としていることなどが挙げられます。
開示が認められる条件
プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求が認められるためには、以下の2つの条件が必要になります。
1つ目の条件は、「権利侵害が明らかである」ケースです。具体的には、名誉権侵害、プライバシー権侵害、名誉感情侵害(侮辱)などの権利侵害が該当します。例えば名誉権侵害の場合、社会的評価の低下が認められることなどが要件となる可能性がります。
2つ目の条件は、「発信者情報開示請求に正当な理由がある」場合です。具体的には、損害賠償請求や刑事告訴などの法的責任を追及する目的がある場合場合に可能です。
一方で、以下のようなケースでは発信者情報開示請求を棄却される可能性があります。
- 具体的な事実の摘示がなく、社会的評価の低下も認められないケース
- 開示により取得した個人情報をネット上に公開したりする意図があるケース
また、以下のような理由で発信者情報開示請求が失敗する可能性もあります。
- 問題となった投稿やアカウントがすでに削除されている場合
- アクセスログの保存期間(一般的に3〜6カ月程度)を経過している場合
なお、令和4年(2022年)10月からの改正プロバイダ責任制限法により、従来2段階だった裁判手続きが1回の非訟手続き(簡略化された裁判手続き)で行えるようになり、被害者の負担が軽減されています。
プライバシー侵害が認められた事例
オンラインゲームで「E」というキャラクター名で活動していた原告が、掲示板に原告の名前(名字を除く)を「X1」として公開され、プロバイダに対して発信者情報開示請求の裁判を起こしました。
裁判所はプライバシー侵害を認定し、開示請求を認めました(平成30年2月14日東京地裁判決)。ゲーム内でのキャラクター名と実名の一部が公開されたことが、プライバシー侵害に該当するかどうかが争点となりました。
本件における裁判所の判断を要約すると以下の通りです。
- 原告のゲーム内での名前と実名の関係は、公開を欲しない個人情報であると認められた
- この情報は投稿時点で一般には知られていなかった
- 風俗店に関する投稿が行われている文脈の中で本名が公開され、原告が実際に不快・不安の念を覚えた
- 原告は公的な立場になく、プライバシー侵害を正当化する事情は存在しなかった
この判決では、オンライン上での個人情報の取り扱いで、具体的な判断基準を示した点で意義があります。特に、オンラインゲーム内でのハンドルネームと実名に関しては、プライバシー保護の観点から重要な先例となりました。
開示請求が棄却された事例
オンラインゲーム「ファイナルファンタジーXIV」のプレイヤーが、掲示板への投稿で名誉を毀損されたとして、プロバイダーに対して発信者情報開示請求の裁判を起こしました。
裁判所はこの請求を棄却しました(令和3年12月23日東京地裁判決)。掲示板に投稿された「片手片足しかない」「クソザコナメクジ」の表現が、原告の権利を侵害したと言えるかどうかが争点となりました。
本件における裁判所の判断を要約すると以下の通りです。
- 「片手片足しかない」との表現は、ゲームの技能を論じる際の比喩的な表現にすぎず、原告を身体障害者と認識させるものではないと判断された
- 「クソザコナメクジ(無能で弱々しい、価値がない人間などの意味)」という表現は、インターネット上での一般的な用例として愛嬌のある表現として使われており、社会通念上許される限度を超えた侮辱とは認められなかった
- 全体として権利侵害の明白性が認められないと判断された
この判決は、インターネット上の表現について、文脈や使用される場面での一般的な受け止められ方を考慮して判断すべきとの重要な基準を示した点にあります。
単に表現が不適切に見えるだけでは権利侵害の明白性は認められず、オンラインコミュニティにおける表現の自由に一定の配慮を示した先例となりました。
ハンドルネームと本人が紐づいているかどうかもポイント
オンラインゲーム等における誹謗中傷では、ゲーム内のキャラクターと実際のプレイヤーの「同定可能性」ポイントになります。同定可能性とは、誹謗中傷を受けた人が、その書き込みが自分に向けられたものであると、第三者にも特定できることを指します。つまり、誰が誰を誹謗中傷しているのかが明らかになる程度に、書き込みの中に具体的な情報が含まれているということです。
オンラインゲームにおいて、同定可能性を判断する基準として、以下の要素が挙げられます。
- ゲーム内でのオフ会やイベントへの参加実績
- 他のプレイヤーとの交流によって本名が知られている程度
- ゲーム内での活動と実社会での活動の結びつき
例えば、あるオンラインゲームで仲良くなった仲間に個人情報を晒されたケースでは、顔写真と誹謗中傷の内容がX(旧Twitter)に投稿され、被害者は弁護士に相談し、X(旧Twitter)に対して発信者開示請求を行い、裁判所はこれを認めました。個人情報が晒されるケースでは、開示請求が認められる可能性は高くなります。
一方、ゲームを行うグループから追放され誹謗中傷を受けたケースでは、キャラクターネームが本人の実名と紐付いていなかったため、名誉毀損と認められず開示請求はできませんでした。このようなケースでは、相手をブロックしたり運営に報告するなどで対応するしかありません。
オンラインゲーム内での誹謗中傷に対して法的措置を取るためには、キャラクター名が本人と明確に紐付いていることが重要です。
関連記事:名誉毀損などの「同定可能性」とは?認められるケースを弁護士が解説
オンラインゲーム内の暴言で問われる可能性が高い刑事罰
オンラインゲームだからこそ、チャットやボイスチャットを通じてヒートアップして暴言を吐いてしまうというケースもしばしば見受けられます。しかし、オンラインゲームだからといって、その場での発言が許されるわけではありません。
実際にオンラインゲーム内での暴言や誹謗中傷が罪として認められる可能性もあります。ここでは、刑事罰となる名誉毀損罪、侮辱罪、脅迫罪について説明します。
名誉毀損罪
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法第230条
以下のような発言で誰かの社会的地位を落とした場合、名誉毀損罪に該当する可能性があります。「〇〇はチートを使ってゲームをしている。」「〇〇は他のプレイヤーに詐欺行為をしている。」
名誉毀損罪が成立すると、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。ネット上での発言には、事実であっても他人の名誉を傷つける内容は避けるべきでしょう。
関連記事:Youtubeで他人や企業の誹謗中傷を行った場合の名誉毀損罪について
侮辱罪
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
刑法第231条
ネット上で誰かを罵倒したり馬鹿にしたりする発言をした場合には侮辱罪に該当する可能性があります。例えば「しね」「バカ」「アホ」「金の亡者」などの発言が該当します。
名誉毀損罪との違いは「事実摘示の有無」です。事実摘示とは、具体的なことを示しているかどうかを指します。そのため、具体的な内容なら名誉毀損罪、抽象的な内容なら侮辱罪に該当します。ここでの「事実」とは、本当かどうかは関係ありません。
ネット上での発言においては、事実を示さずに公然と侮辱すると侮辱罪に該当する可能性があるため、注意が必要です。侮辱罪については、次の記事で詳しく解説しています。
関連記事:侮辱罪とは?具体的な言葉の例や名誉毀損罪との違いを解説
脅迫罪
第二百二十二条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
刑法第222条
オンラインゲーム内であろうと、「〇月〇日に〇〇を殺す。」など、人を脅すような発言をすると脅迫罪にあたります。脅迫罪は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金を科せられます。
オンラインゲーム内でも常に冷静な言動を心がけ、問題が発生した場合は適切な対処を行うことが重要です。脅迫罪については、次の記事で詳しく解説しています。
関連記事:過激なネット投稿は脅迫になることも 「殺す」や「死ね」は脅迫に当たるのか
オンラインゲームの誹謗中傷を開示請求する場合の流れ
誹謗中傷する情報を発信した者に対して損害賠償請求をするためには、まず発信者を特定しなければなりません。
発信者情報開示請求の手続でよくある誤解は、開示請求を行えば一度の請求で発信者が特定される(発信者の住所・氏名等の情報が開示される)というものです。しかし、実際には、発信者の情報にたどり着くためには、以下のような手順で二段階で情報をたどっていく必要があります。
- サイト管理者に対する請求
- インターネット業者に対する請求
サイト管理者に対する請求
まず、オンラインゲームの運営者に対して、発信者の通信ログ等の開示を仮処分で請求します。オンラインゲームの運営者は、発信者のIPアドレスや発信時間などの情報を持っていることが多いため、まず相手のIPアドレスを開示してもらうことになります。
発信者情報開示請求により、発信者に関する以下の情報(通信履歴ログ)の開示を受けます。
- 発信者のIPアドレス
- 携帯端末のインターネット接続サービス利用者識別番号
- SIMカード識別番号
- 発信時間(タイムスタンプ)
- IPアドレスと組み合わされたポート番号
一般的に、本案訴訟の提起ではなく、仮処分を求める手続きを用います。これは、経由プロバイダの通信ログが保存期間が数カ月程度であるため、本案訴訟を提起している間に通信ログが削除されてしまう恐れがあるためです。
インターネット業者に対する請求
次に、仮処分の手続きで開示を受けたIPアドレスを元に「経由プロバイダ」(インターネットサービスプロバイダ)を特定し、これに対して発信者情報開示請求を行います。
この手続きでは、プロバイダ契約者である発信者に関する以下の情報の開示を受けます。
- 住所
- 氏名
- メールアドレス
プロバイダに対する開示請求は、保全の必要性が認められにくいため、原則として本案訴訟の提起が必要になります。
また、情報開示の手続きをとる前、または同時に、経由プロバイダに対して発信者情報消去禁止の仮処分命令の申立てを裁判所に行うことができます。
このように、オンラインゲーム内での発信者を特定するためには、複数の段階を経る必要があり、それぞれの段階で適切な手続きを踏むことが重要です。詳しくは以下の記事でも解説しています。
関連記事:発信者情報開示請求とは?改正に伴う新たな手続きの創設とその流れを弁護士が解説
令和4年10月1日開始の「発信者情報開示命令事件」とは
令和4年10月1日より、「発信者情報開示命令事件」という新たな手続きが始まりました。これは、一度の手続きで投稿者の住所氏名の開示を実現できる手続きで、訴訟ではない「非訟事件」という手続きのため、開示までの期間の短縮が期待できます。
事案により従来の手続きと「発信者情報開示命令事件」を使い分けることになります。発信者情報開示命令事件については、以下の記事にて詳しく解説しています。
関連記事:令和4年10月1日開始の「発信者情報開示命令事件」を解説 投稿者特定が迅速化される
まとめ:オンラインゲームで誹謗中傷を受けた場合は弁護士に相談をしましょう
オンラインゲーム内での誹謗中傷や暴言は深刻な問題であり、弁護士事務所には成人だけでなく中学生や高校生などの未成年者が相談してくるケースも多く見られます。
誹謗中傷を受けた場合、匿名の加害者の情報を特定するために発信者情報開示請求を行う必要があります。
まず、オンラインゲームの提供者に対して発信者の通信ログ等の開示を仮処分で請求し、その後、経由プロバイダに対して発信者の住所や氏名などの情報開示を行います。投稿者特定の手続きは複数の方法があり、事案に応じて適切な手続きを選択することが重要です。
さらに、オンラインゲーム内の発言が名誉毀損罪や侮辱罪、脅迫罪に該当する場合もあるため、まずは弁護士に相談し、適切な対応を取りましょう。
当事務所による対策のご案内
モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面で豊富な経験を有する法律事務所です。近年、ネット上に拡散された風評被害や誹謗中傷に関する情報は「デジタルタトゥー」として深刻な被害をもたらしています。当事務所では「デジタルタトゥー」対策を行うソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。
モノリス法律事務所の取扱分野:デジタルタトゥー