個人情報を晒すのは何罪?人の名前を勝手に載せる行為の罰則を解説

「個人情報を晒した罪」にあたる条文は、日本の刑法にありません。それでも、他人の名前や住所を勝手に書き込む行為は、内容しだいで名誉毀損罪や業務妨害罪にあたり得るほか、民事上の慰謝料請求の対象になることもあります。
掲示板に本名を書かれた。X(旧Twitter)に勤務先まで晒された。「バラすぞ」と脅されている。こうした相談で最初に決めるのは、どの罪にあたるかと、いつまでに動けるかの二つです。
成立しうる罪を条文と法定刑で整理し、請求できる慰謝料の考え方、削除と投稿者特定の手順、責任を追及できる期限までをまとめます。法定刑はすべて2026年9月時点の現行条文です。
この記事の目次
個人情報を晒すのは何罪になるのか
個人情報を晒す行為そのものを処罰する罪名は、日本の刑法に存在しません。成立するかどうかは、何を晒したか、どんな文言を添えたか、何を狙って書いたかで決まります。
罪名がないことと、違法でないことは別です。罪に問えない場合でも、民法709条の不法行為として慰謝料を請求できる場面は残ります。刑事と民事は別の物差しで動きます。
成立しうる罪と法定刑の一覧
▼ 個人情報の晒しで成立しうる罪と現行の法定刑
| 罪名と条文 | 成立する場面 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 名誉毀損罪 刑法230条1項 | 社会的評価を下げる事実を具体的に示し、不特定多数が見られる場所に置いた | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 侮辱罪 刑法231条 | 事実を示さずに、公然と人を侮辱した | 1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料 |
| 信用毀損罪・業務妨害罪 刑法233条 | 嘘の情報を流したり計略を用いたりして、人の信用を傷つけ、または業務を妨げた | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 威力業務妨害罪 刑法234条 | 威力を用いて人の業務を妨げた | 233条と同じ |
| 脅迫罪 刑法222条1項 | 生命・身体・自由・名誉・財産に害を加えると告げて脅した | 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 強要罪 刑法223条1項 | 脅したうえで、義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨げた | 3年以下の拘禁刑 |
| 恐喝罪 刑法249条 | 脅したうえで、金銭や財物を交付させた | 10年以下の拘禁刑 |
| リベンジポルノ防止法違反 同法3条1項 | 撮影対象者を特定できる方法で、性的な画像を不特定多数に提供した | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| ストーカー規制法違反 同法18条 | 好意や怨恨の感情を満たす目的で、名誉を害する事項を知り得る状態に置く行為を反復した | 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 |
添えた文言で成立する罪が変わる
同じ「本名を書き込んだ」でも、添えた一文で結論が動きます。本名を並べただけの投稿は、社会的評価を下げる事実を具体的に示したこと(事実の摘示)にあたらないと判断されることがあります。そこに前科や不倫を示す記述が加われば、名誉毀損罪の問題になります。罵倒だけなら侮辱罪、勤務先を並べて連絡を促す書き方なら業務妨害罪が問題になります。1つの投稿に複数の罪が同時に成立することもあります。
相談で多いのは、いくつかの要素が重なった投稿です。氏名と顔写真だけなら、まずプライバシー権と肖像権の侵害が問題になります。そこに不名誉な事実が加われば名誉毀損罪、勤務先と連絡先が並べば業務妨害罪、「ばらすぞ」という予告が伴えば脅迫罪が視野に入ります。自分のケースにどれが当てはまるかは、投稿に何が書かれているかを一つずつ拾って判断します。

個人情報の晒しで問える刑事責任
名誉毀損罪は真実を書いても成立する
刑法230条1項は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した者を、その事実の有無にかかわらず3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処すると定めています。書いた内容が本当でも成立するのが、この条文の要です。
参考:刑法230条1項(e-Gov法令検索)(現行版 施行日2026年5月21日公表)
例外が230条の2にあります。公共の利害に関する事実、もっぱら公益を図る目的、真実であることの証明。この3つがそろえば罰せられません。私怨で近所の人の借金を書き込んだケースでは、まず通りません。加えて、真実であると誤信したことに相当の理由がある場合には故意が否定されるとするのが判例の立場です。勤務先の不祥事の告発や商品への批判といった書き込みでは、相手方がこの点を争ってくることが多く、結論は証拠の内容によって変わります。
最高裁も、インターネットの個人利用者を特別扱いしていません。相当の理由が認められるのは、確実な資料や根拠に照らして判断できる場合に限られます。ネットの書き込みだから緩やかな要件でよい、という考え方は否定されています。
参考:最高裁平成22年3月15日第一小法廷決定(平成21年(あ)第360号 名誉毀損被告事件)刑集64巻2号1頁
名誉毀損罪と侮辱罪は、刑法232条1項により、被害者本人の告訴(処罰を求める意思表示)がなければ起訴できない親告罪とされています。その告訴には期限があります。
侮辱罪は2022年の改正で厳罰化されている
現行の刑法231条は、事実を摘示しなくても公然と人を侮辱した者を、1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料に処すると定めます。改正前は拘留または科料だけでした。
参考:刑法231条(e-Gov法令検索)(令和4年法律第67号による改正・2022年7月7日施行)
この改正は時効にも影響しました。法定刑が上がったことで、検察官が起訴できる期限である公訴時効が1年から3年に伸び、被害から時間が経った事案でも刑事手続に乗せられる余地が広がりました。ただし侮辱罪は親告罪で、告訴自体は犯人を知った日から6か月以内という別の期限があります。改正後の法定刑が適用されるのも2022年7月7日以後の行為です。
勤務先を晒して電話を促すと業務妨害罪になる
個人名と一緒に勤務先や代表番号まで書き込み、そこへ連絡するよう読み手をあおる。このパターンの相談が最も多く寄せられます。刑法233条は、虚偽の風説を流布しまたは偽計を用いて人の信用を毀損し、もしくは業務を妨害した者を3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処すると定めます。威力を用いた場合は234条の威力業務妨害罪になります。
被害を受けるのは個人だけではありません。従業員の実名を晒された勤務先も、電話が鳴り止まなければ業務妨害の被害者になります。会社として動くか本人に委ねるかは、初動で分けて考えます。勤務先が事実であっても、連絡を促す書き方や実際に架電が集中したかによって、偽計または威力による業務妨害罪が問題になります。投稿者自身を妨害の実行行為者と評価できるかは、態様によって判断が分かれます。
「晒すぞ」と告げた段階で脅迫罪が成立しうる
刑法222条1項は、生命・身体・自由・名誉または財産に害を加えると告げて人を脅迫した者を、2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金に処すると定めています。名誉が保護の対象に入っているため、前科や私生活上の不名誉な事実をばらまくと告げる行為はこの条文の射程に入り得ます。一方、住所や連絡先のように直ちに名誉低下を伴わない情報については、脅迫罪にあたるかが争われることがあります。
そのうえで謝罪や特定の行為を強いれば刑法223条の強要罪、金銭の交付を要求すれば刑法249条の恐喝罪の問題になります。いずれも要求の段階にとどまる場合は未遂として扱われます。まだ晒されていない段階でも、やり取りを保存して相談できます。投稿されてしまえば、削除も投稿者の特定も一段と重くなります。
性的な画像はリベンジポルノ防止法違反になる
撮影対象者を特定できる方法で性的な画像を不特定多数に提供した場合、リベンジポルノ防止法3条1項により3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます。提供させる目的で画像を渡した者も同条3項で処罰されます。被害者の性別は問いません。
リベンジポルノ防止法4条は、後述する情報流通プラットフォーム対処法の特例を定めており、事業者が削除に応じやすい仕組みを置いています。なお同法3条の罪は親告罪で、告訴がなければ起訴できません。告訴期間は犯人を知った日から6か月です。
元交際相手による晒しはストーカー規制法の対象になる
ストーカー規制法2条1項7号は、つきまとい等のひとつに「その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと」を挙げています。ネットへの書き込みは、まさに知り得る状態に置く行為です。恋愛感情や、それが受け入れられなかったことへの恨みを晴らす目的で繰り返されれば、同法18条により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象になります。
この筋の利点は、都道府県公安委員会による禁止命令等という手段がある点です。要件を満たせば、立件の前に加害者へ働きかける道があります。
相手が個人なら個人情報保護法違反にはならない

個人情報保護法違反で訴えられないか。晒された方から必ず出る質問ですが、私生活上の行為として書き込んだ個人であれば、同法の義務規定は基本的に及びません。
個人情報保護法16条2項は、個人情報取扱事業者を「個人情報データベース等を事業の用に供している者」と定義しています。SNSに他人の名前を書き込んだだけの個人は、この定義に当てはまりません。同法の義務規定も罰則も、そもそも向けられていないことになります。
参考:個人情報の保護に関する法律16条2項(e-Gov法令検索)(現行版 施行日2026年7月17日公表)
この法律が誰を規律するものかは、適用除外の規定からも読み取れます。同法57条は、報道機関や著述業、宗教団体、政治団体について適用除外を置いています。ただし外れるのは、報道や著述、宗教活動、政治活動の用に供する目的で取り扱う場合に限られます。名簿や顧客データを事業として扱う者を規律する法律であって、私人のトラブルを裁く法律ではありません。
打つ手がないわけではありません。同法の外側で、刑法上の犯罪と民法上の不法行為が別に成立します。ただし、個人であっても顧客名簿などを事業の用に供していれば、個人情報取扱事業者にあたり得ます。業務で取り扱ったデータベース等を不正な利益を図る目的で提供した場合には、同法179条により個人にも罰則が及びます。
個人情報の晒しで請求できる慰謝料と民事責任
プライバシー権の侵害は不法行為になる
プライバシー権は憲法13条の解釈と判例の積み重ねによって認められてきた権利で、明文の規定はありません。それでも侵害されれば民法709条の不法行為が成立し、同法710条により精神的な損害の賠償も請求できます。
名前や住所は、それだけでも法的保護の対象になり得ます。秘密でも不名誉でもない情報であっても、プライバシーとして法的な保護を受けると最高裁が示しています(後述の平成15年判決)。もっとも、実際に不法行為になるかは、開示の目的・範囲・態様を踏まえた個別の判断になります。
出発点として見られるのは、その情報が私生活上の事実にあたるか、一般に知られていないか、本人が公開を望まないと考えられるか、という3点です。そのうえで実際の結論は、公表されない法的利益と公表する理由とを比べて決まります。住所や勤務先は前者の3点をそろえやすく、氏名だけの場合は他の情報と組み合わされているかで結論が分かれます。
顔写真が含まれる場合は肖像権の侵害も重なる
名前と一緒に顔写真が載っていれば、プライバシー権とは別に肖像権の侵害が問題になります。判断は撮影場所や拡散の程度によって変わり、名前だけの事案とは組み立てが異なります。
慰謝料の金額を左右する5つの要素
慰謝料の額は事案ごとに大きく開きます。自分のケースを見立てるには、裁判所が何を見て金額を決めているかを知るのが近道です。裁判所が重視するのは次の5点です。
▼ 慰謝料の金額を左右する5つの要素
| 要素 | 金額が上がる方向 | 金額が下がる方向 |
|---|---|---|
| 公開された情報の性質 | 住所や勤務先など、身の安全や生活に直結する情報 | 氏名のみで、他の情報を伴わない |
| 拡散の範囲と期間 | 閲覧者の多い場に長期間残り、転載も広がった | 短時間で削除され、転載が確認されない |
| 投稿の目的 | 嫌がらせや報復の意図がうかがわれる | 公益に関わる指摘としての側面がある |
| 実害の有無 | 転居、退職、転職の断念など具体的な不利益が生じた | 実害が確認できない |
| 削除要請への対応 | 求めても応じず、かえって投稿を増やした | 求めに応じて速やかに削除した |
同じ「名前を晒された」でも、住所と勤務先まで並んでいれば評価は変わります。金額を左右するのは、投稿の数、閲覧数、削除までの日数といった事情。だからこそ証拠保全が効いてきます。もっとも、認容される慰謝料が投稿者の特定にかかる費用を下回ることもあります。費用対効果は着手前に確認。
個人情報の晒しが違法になる例とならない例

違法かどうかがはっきりするケースと、判断が割れるケースがあります。相談の場でも、後者にどう向き合うかが実際の争点になります。
誹謗中傷を添えた公開は違法性がはっきりする
実名とともに、多額の借金がある、過去に不倫していたといった記述を書き込めば、社会的評価を下げる事実の摘示にあたります。迷惑行為の動画に本名を添える書き込みや、個別のやり取りのスクリーンショットを無断で公開する行為も同じ枠組みで評価されます。
問題は、本人だと分かるかどうかです。伏せ字やイニシャルでも、他の情報と合わせて特定できれば同定可能性が認められ得ます。
匿名で活動している人の実名を晒した場合
ハンドルネームで活動している人の本名を書き込む行為は、本人が公表していない私生活上の情報を明かすことになります。活動内容が公になっていても、実名を伏せている以上、その一点についてプライバシーは保たれていると考えられます。
公開済みの情報を再掲載した場合
どこかで公開されていたから問題ないという反論は、加害者側から最も多く出ます。すでに公になっている情報でも、公開の範囲や目的が変われば、あらためてプライバシーの侵害になり得ます。報道された逮捕の事実であっても、公表されない利益のほうが上回ると判断された最高裁の事例があります。罰金刑の効力が失われていたこと、報道記事がすでに削除されていたことなどを総合した判断です。なお、検索エンジンの検索結果の削除については、これとは別の、より厳格な枠組みが示されています。
検索結果の削除について、最高裁は比較衡量の枠組みを示しました。見るのは、事実の性質や内容、被害の程度、社会的地位、記事の目的など。公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に、削除を求められます。投稿そのものの削除より一段高いハードルが置かれています。
参考:最高裁平成29年1月31日第三小法廷決定(平成28年(許)第45号)民集71巻1号63頁
個人情報を晒されたまま放置するリスク
投稿を消さずにおくと、被害は書かれた内容そのものより、そこから派生したもので大きくなります。
情報が他の媒体へ二次拡散する
最初の投稿を見た第三者がまとめサイトへ転載し、別のSNSへ流し、そこへ尾ひれの付いた話が足されていきます。元の投稿を消しても、転載先とアーカイブは残ります。氏名で検索したときの候補語に痕跡が残ることもあります。
嫌がらせや実害が生活に及ぶ
無言電話、身に覚えのない注文、自宅や勤務先への来訪。書き込んだ本人ではなく、それを見た第三者が動く点が厄介です。住所まで晒された事案では、同居する家族にも危険が及びます。
就職や結婚など人生の節目に影響する
名前で検索した結果に投稿が残っていれば、採用の場面でも、結婚に際して相手の家族が調べた場面でも目に触れます。相手には真偽を確かめる手立てがありません。内容が事実かどうかにかかわらず、不利益だけが残ります。
個人情報を晒されたときの対処法
順番を間違えると取り返しがつきません。削除してしまえば証拠は消え、投稿者をたどる手がかりも失われます。まず決めるのは、投稿者を特定して責任を追及するのか、とにかく早く消すことを優先するのかです。前者なら証拠の保全と開示命令を先に進め、削除はその後にします。後者でも証拠だけは必ず残してください。性的な画像や住所が拡散しているなど、時間の経過そのものが取り返しのつかない被害につながる場合は、記録と削除依頼を同時並行で進めます。

証拠を保全する
残すのは、投稿のURL、投稿日時、アカウント名、そして投稿のスクリーンショットの4点です。返信や引用も含めて保存します。
スクリーンショットは、投稿本体だけを切り取らず、ブラウザのアドレスバーと画面右下の時刻まで入れて撮ります。撮影日時が分かる形になっていれば、後から作った画像ではないかという反論を受けにくくなります。長い投稿は縦に分割せず、ページ全体を1枚のPDFとして保存する方法が確実です。
転載先も同じ要領で残します。元の投稿が消えても、転載が残っていれば拡散の範囲を示す資料になり、慰謝料の算定でも使えます。
警察庁も、通報や相談の前に掲載された内容を記録しておくよう案内しています。削除を先に済ませてしまうと、証拠も特定の手がかりも同時に失われます。
投稿先の媒体へ削除を依頼する
削除の根拠は情報流通プラットフォーム対処法です。かつてのプロバイダ責任制限法が改称されたもので、正式名称を特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律といいます。
同法は大規模特定電気通信役務提供者について、22条で申出方法の公表を、23条で申出を受けた際の調査を義務づけています。25条は、措置を講じたかどうかを、申出を受けた日から総務省令で定める期間(14日以内)に申出者へ通知するよう求めています。これらは通知に関する義務であって、削除そのものを義務づけるものではありません。
参考:情報流通プラットフォーム対処法22条・23条・25条(e-Gov法令検索)(現行版 施行日2026年7月17日公表)
返答が来ないまま放置される状況は、以前より起こりにくくなりました。ただし対象は大規模な事業者に限られ、小規模サイトや海外事業者には及びません。窓口と様式は事業者ごとに違います。
発信者情報開示命令で投稿者をたどる
投稿者が匿名でも、特定にたどり着く手続が法律に用意されています。情報流通プラットフォーム対処法5条が定める要件は2つ。権利が侵害されたことが明らかであること、開示を受けるべき正当な理由があることです。これを満たせば、発信者情報の開示を請求できます。8条は、裁判所が決定で開示を命じる発信者情報開示命令を用意しています。
従来は、サイト運営者に仮処分でIPアドレスを出させ、次に接続事業者へ訴訟を起こす二段構えが必要でした。開示命令では、提供命令によってサイト運営者から接続事業者の情報を得て、接続事業者に対する申立てを併せて審理してもらうことができ、従来より一体的に進められます。あわせて消去禁止命令を申し立てれば、審理中に通信記録が消えることを防げます。
ここで効いてくるのが時間です。接続事業者が通信記録を保存する期間に法律上の定めはなく、数か月で消えることもあります。記録が残っているうちに始める必要があります。
警察に相談して刑事責任を追及する
被害届は被害の事実を知らせる書面で、告訴は処罰を求める意思表示です。名誉毀損罪と侮辱罪は刑法232条1項の親告罪のため、告訴がなければ起訴できません。この違いが結論を分けます。
都道府県警にはサイバー犯罪相談窓口があります。法務省は電話の「みんなの人権110番」と「法務省インターネット人権相談受付窓口」を設けており、削除の求め方について助言を受けられます。
相談に行くときは、保全した証拠一式と、いつ何が起きたかをまとめた時系列のメモ、相手の心当たりがあればその根拠を持参します。名誉毀損罪と侮辱罪は告訴がなければ起訴できないため、処罰を求めるなら告訴状を用意します。受理されなかった場合でも、民事の手続は別に進められます。
弁護士に相談して民事責任を追及する
刑事の手続とは別に、慰謝料の請求ができます。削除の申出、開示命令の申立て、特定後の交渉と訴訟は連続した流れで、途中で担い手が変わると引き継ぎに手間がかかります。費用は着手金と報酬、実費に分かれ、手続ごとに発生します。開示命令から特定までにかかる期間は、事業者の対応や裁判所の進行によって変わります。回収できる慰謝料より費用が上回る見込みなら、削除だけで止めるという選択もあります。最初の相談でこの見通しを聞いてください。
個人情報の晒しで責任を追及できる期間
締め切りは複数あり、起算点がそれぞれ違います。最も短いのは告訴の期限です。
▼ 個人情報の晒しで責任を追及できる期間
| 何の期限か | 期間 | いつから数えるか |
|---|---|---|
| 親告罪の告訴期間 名誉毀損罪・侮辱罪・リベンジポルノ防止法3条の罪 | 6か月 | 犯人を知った日 |
| 慰謝料請求権の消滅時効 | 3年 | 損害および加害者を知った時 |
| 消滅時効(長期) | 20年 | 不法行為の時 |
| 名誉毀損罪・侮辱罪・脅迫罪などの公訴時効 | 3年 | 犯罪行為が終わった時 |
| 接続事業者の通信記録の保存 | 法律上の定めなし | 事業者の運用しだいで数か月程度のこともある |
刑事訴訟法235条は、親告罪の告訴は犯人を知った日から6か月を経過するとできなくなると定めます。投稿者が誰であるか具体的に分かってから半年を過ぎると、名誉毀損罪と侮辱罪については告訴ができなくなります。もっとも起算点の判断は事案によりますし、業務妨害罪や脅迫罪など告訴を要しない罪は残るため、期間を過ぎたと思っても確認する価値があります。
参考:刑事訴訟法235条(e-Gov法令検索)(現行版 施行日2026年8月13日公表)
民事は民法724条により、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年です。投稿者が分からないうちは3年の時計が動き出さない一方、20年の消滅時効は投稿の時から進みます。
もっとも、実務で最初に立ちはだかるのは、これらの期限ではありません。接続事業者の通信記録が消える日です。記録が失われれば、時効を残したまま請求先が分からなくなります。
裁判例からみる個人情報の晒しの判断

条文だけでは、どこから違法になるかがつかめません。最高裁の2つの判断を手がかりにします。
1つ目は、氏名や住所それ自体が保護されるかという問題です。最高裁は、大学が講演会の参加申込者から集めた学籍番号・氏名・住所・電話番号を、プライバシーに係る情報として法的保護の対象になると判断しました。そのうえで、本人の承諾を得るのが難しい特別な事情は見当たらないとして、大学がこれらの情報を無断で警察へ渡した行為は不法行為にあたると判断しました。
参考:最高裁平成15年9月12日第二小法廷判決(平成14年(受)第1656号 損害賠償等請求事件)民集57巻8号973頁(平成15年9月12日公表)
名前を晒されただけでは大したことがない、という見方はこの判断とかみ合いません。
2つ目は、いったん公になった事実を残し続けてよいかという問題です。最高裁は、建造物侵入の被疑事実による逮捕を摘示した投稿の削除を認めました。最高裁が重く見たのは次の点です。逮捕から約8年が経ち、罰金刑の前科としての効力がすでに消えていたこと。報道記事も削除されていたこと。投稿がその時点の速報を目的としていたこと。氏名で検索すると表示される状態にあったこと。その人が公的立場にないこと。
参考:最高裁令和4年6月24日第二小法廷判決(令和2年(受)第1442号 投稿記事削除請求事件)民集76巻5号1170頁(令和4年6月24日公表)
報道された事実ですらこう判断されています。私怨で書かれた投稿なら、残し続ける理由はさらに弱いと考えられます。
個人情報の晒しに関するよくある質問
相手が匿名でも訴えられますか
多くの場合は可能です。発信者情報開示命令の手続で投稿者を特定してから、損害賠償を請求する流れになります。ただし、通信記録が残っていない場合や、海外事業者・匿名化サービスが介在する場合には特定に至らないこともあります。特定できるかどうかは通信記録が残っているかに左右されるため、投稿を見つけた時点で動くのが確実です。
自分で削除を求めて断られた後でも依頼できますか
依頼できます。断られた経緯とやり取りは、削除を求めた事実と時期を示す記録として残しておく意味があります。相手方が求めに応じなかった事実は、慰謝料の算定で考慮される要素です。
未成年の子どもが晒された場合、親が手続をとれますか
親権者が法定代理人として、削除の申出も発信者情報開示命令の申立ても行えます。告訴についても、刑事訴訟法231条1項により法定代理人は独立して告訴をすることができます。主要なSNSは保護者からの削除申請を受け付ける窓口を設けているので、まずそこへ申し出ます。各都道府県警には少年の相談を受ける窓口もあります。加害者が同じ学校の生徒であれば学校への申入れが早いこともありますが、投稿者が分からない段階では、学校に伝える前に証拠を保全してください。
会社が従業員に代わって削除を求められますか
投稿に社名や店舗名が含まれ、会社自身の営業上の信用が下がっている場合には、会社の名義で申し出られます。従業員の氏名や私生活上の情報だけが晒されているなら、求めるのは本人です。両方が重なる事案では、本人の委任を得たうえで一括して進めるのが実際的。ただし、従業員本人の権利侵害について会社が代わりに削除請求や開示請求を行うと、弁護士法上の問題が生じ得ます。本人名義で行うか、代理人弁護士を立てるのが安全です。
まとめ:個人情報を晒されたら証拠を残して早めに相談を
個人情報を晒す罪という条文はありませんが、名誉毀損罪から業務妨害罪、脅迫罪、ストーカー規制法違反まで、内容しだいで複数の罪が成立します。個人情報保護法は相手が個人であれば及びませんが、民法709条の不法行為として慰謝料を請求できます。
動ける期間は限られています。親告罪の告訴は犯人を知った日から6か月、慰謝料の請求権は3年。そして実務で最も早く来るのは、通信記録が消える日です。まず証拠を残してください。削除を求めるのはその後が原則です。ただし性的な画像や住所が拡散している場合は、記録と削除依頼を同時に進めてください。
当事務所による対策のご案内
モノリス法律事務所は、ITとインターネットに関する法律問題を中心に扱う法律事務所です。個人情報を晒された事案では、証拠の保全から削除申出、発信者情報開示命令による投稿者の特定、損害賠償請求と示談交渉、刑事告訴までを一連で担当します。従業員の名前を晒された企業のご相談では、本人の保護と会社の対応を分けて設計します。

































