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歴史に残る偉人の画像使用に関する肖像権の取扱いについて

歴史に残る偉人の画像使用に関する肖像権の取扱いについて

ブログやSNSあるいは販促資料などで、有名人や著名人の写真を使用する際、公開後に権利侵害を問われたり、損害賠償請求をされたりするのは避けたいところです。

このような場合には、本人やカメラマンなどの権利者から許諾を得るのが通常の手続きですが、故人となっている歴史上の偉人の場合はどうすべきなのでしょうか。

本人が既に亡くなっているため許諾は得られず、そもそも「肖像権」は消滅していると考えられます。ただ、使用後に何かの問題が発生する可能性もあるので安易には使用できません。

そこで、今回は、意外と知られていない歴史上の偉人に関する画像を使用する場合の「肖像権」について法律や過去の判例をもとに解説します。

肖像権とは

肖像権は、法律で規定されている権利ではありませんが、本人の私生活における容姿の撮影及び使用に関して法的に保護される権利です。

学説や判例などでは、肖像権は日本国憲法で保証されている国民の「幸福追求権」に基づくものと考えられています。

第13条すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

e-Gov法令検索|日本国憲法

また、肖像権には、人格権の一種である「プライバシー権」と、財産権の一種である「パブリシティ権」があり、各権利内容は以下のようになっています。

プライバシー権

プライバシー権は、「本人に無断で私生活上の容姿を撮影されない権利」と「撮影された自分の写真を無断で公表・利用されない権利」から構成されており、通常「肖像権」というとプライバシー権を指します。

パブリシティ権

芸能人やスポーツ選手などの有名人の名前や写真などを宣伝広告に使用すると、商品だけの場合よりも売上の増加が期待できます。これは、有名人や著名人の肖像には顧客誘引力、つまり経済的な価値があるためです。

このように、経済的価値のある有名人や著名人の肖像などを保護し、本人の承諾なしに第三者に使用させない権利をパブリシティ権といいます。

肖像画やイラストは「肖像権」の対象となるのか

過去の判例などによると、本人の容姿に関する写実性や本人の判別性などによって対応が異なるようです。

肖像画

写真と同程度に本人の容姿を写実的かつ正確に描かれた肖像画は、肖像権の対象となる可能性が高いと考えられます。

イラスト

作者が主観的に本人の特徴を捉えて描く似顔絵などの場合には、創作物として肖像権の対象にはならない可能性が高いと考えられます。

ただし、本人を正確に描写したものや、本人が容易に判別できるものについては肖像権の対象になる可能性があります。

イラスト・似顔絵に関する肖像権の取扱いについて詳しく知りたい方は、下記記事に詳述していますので本記事とあわせてご覧ください。

死後に肖像権はあるのか?

すでに亡くなっている人は、自分の画像を使用・公開されたことで精神的苦痛を受けることはないため、肖像権は原則として認められていません。

ただし、故人の肖像権に対しては国・地域によって法律が異なり、本人が亡くなっても肖像権が消滅しないところもあります。

特に米国では州によって法律が異なるため、海外の著名人や有名人の肖像使用は歴史上の人物であっても注意が必要です。

また、虚偽に基づく誹謗中傷など、悪意のある画像使用の場合には、刑法で定める名誉毀損罪に該当する可能性があります。

第230条(名誉毀損)1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。2.死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

e-Gov法令検索|刑法

肖像権の侵害について

ここでは、肖像権の侵害をプライバシー権の侵害とパブリシティ権の侵害という2つの側面から解説します。

プライバシー権の侵害

プライバシーを侵害しただけでは刑事罰に処されることはありませんが、誹謗中傷などの不法行為が伴う場合には、名誉毀損として削除依頼、慰謝料請求、損害賠償請求などを受ける可能性があります。

なお、肖像に関するプライバシー権の侵害は次の3つの要件で判断されます。

  • 本人が明確に特定できること
  • 別のものを撮影する際に、本人が偶然映り込んだものではないこと
  • 多くの人が目にする、あるいはSNSのように拡散性が高いメディアで公開したこと

パブリシティ権の侵害

有名人や著名人の場合、本人に無断で写真などの肖像を宣伝広告やそれ自体の販売を行った場合には、民法で定める不法行為に該当するとして、販売の差止請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。

肖像権侵害について詳しく知りたい方は下記記事にて詳述していますので本記事とあわせてご覧ください。

死後の肖像権に関する事例

亡くなった人には法的に人格権の保障がなく、プライバシー権や肖像権も認められないため、それを侵害したとしても直接的な刑罰は科されません。しかし、遺族の権利侵害という点において他の法令による罰則が科されるリスクがあります。

2025年4月、亡くなられた八代亜紀さんのCDに20代のヌード写真が封入され発売されたことに対し、批判や署名活動が行われ一時問題になりました。

本件に関して、亡くなった方には法的な人格権の保護が及ばず、プライバシー権や肖像権は認められていません。しかし、遺族の深い悲しみや故人への敬意を損なう「敬愛追慕の情」を侵害していると主張し、遺族がレコード会社に差し止めや賠償を求める可能性が考えられます。

また、本人が生前に広く配布を許していたとは考えにくく、「リベンジポルノ防止法」により私的な性的画像を不特定多数に提供する行為は犯罪とされているため、違法となる可能性もあります。

こうしたトラブルを防ぐためには、まず故人に関する画像や映像を使用する際、著作権・所有権の確認を徹底し、遺族や権利管理者に事前に許諾を得ることが不可欠です。

さらに、社会的評価や故人の名誉を損なうおそれがある内容の使用は避け、企業や制作側は社内ガイドラインの整備や法務チェックを行い、公開前に専門家へ相談することで法的リスクを回避できます。

著作権とは

本記事では「肖像権」にフォーカスしていますが、実際に歴史上の偉人の肖像を使用する場合には、保護期間が長い「著作権」は必ずチェックする必要があります。

著作権とは、知的財産権の1つで、写真、絵画、音楽などの著作物を排他的に利用する権利のことで、人格的な権利を保護する「著作者人格権」と、財産的な権利を保護する「著作財産権」の2つから成っています。

著作物

著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもので、以下の要件をすべて満たす必要があります。

  • 「思想または感情」を表現したもの(単なるデータや事実は含まない)
  • 「表現した」もの(頭に浮かんだだけのアイデアは含まない)
  • 「創作的」な表現(単なる模倣は含まない)
  • 「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」に属するもの(工業製品などは含まない)

著作者人格権

著作者が作品と結びつく人格的利益を守るために認められる権利です。

項目内容
公表権未公表の著作物を公表するかどうか等を決定する権利
氏名表示権著作物に著作者名を付すかどうか、付す場合に名義をどうするかを決定する権利
同一性保持権著作物の内容や題号を著作者の意に反して改変されない権利

著作財産権

著作者が作品の経済的利用に関して独占的に持つことができる権利です。

項目内容
複製権著作物を印刷、写真、複写、録音などにより再製する権利
上映権・演奏権・上映権・展示権著作物を公に上演、演奏、上映、展示する権利
公衆送信権著作物をインターネットや放送で公開する権利
譲渡権映画を除く著作物の原作品および複製物を公衆に譲渡する権利
貸与権映画を除く著作物の複製物を公衆に譲渡する権利
翻訳権・翻案権等著作物の翻訳、編曲、変形、脚色、映画化、翻案する権利
その他口述権、頒布権、二次著作物の利用権

著作権における保護期間

著作権は、著作物を創作した時点で発生し、原則として著作者の死後70年間を経過した時点で消滅します。

保護期間の例外

著作権の保護期間には、名義や著作物の種類によって次のような例外があります。

項目保護期間
無名・変名(周知の変名は除く)の著作物公表後70年(死後70年経過が明らかであれば、その時点まで)
団体名義の著作物公表後70年(創作後70年以内に公表されなかったときは、創作後70年)
映画の著作物公表後70年(創作後70年以内に公表されなかったときは、創作後70年)

譲渡が可能な「著作財産権」と異なり「著作者人格権」は著作者の死亡により消滅しますが、著作者の死後も著作者人格権の侵害となる行為は、著作権法で禁止されているので注意しましょう。

まとめ:故人の画像に関する取り扱いは弁護士に相談

今回は、故人となっている歴史に残る偉人の画像を使用した場合の「肖像権」について、肖像権の構成、肖像権の対象、故人の肖像権、肖像権の侵害、および「著作権」について詳しく解説してきました。

故人の肖像であっても使用方法によっては、刑事罰や損害賠償請求を受ける可能性があるため独自に判断するのではなく専門的な知識や経験が豊富な弁護士に事前に相談することをおすすめします。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。近年、著作権をめぐる知的財産権は注目を集めており、リーガルチェックの必要性はますます増加しています。当事務所では知的財産に関するソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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