ネットワークビジネス(MLM)は違法?法的規制やネズミ講との違いを解説
「簡単に稼げる」「必ず利益が出る」といった誇大な勧誘により消費者被害を引き起こすリスクのあるネットワークビジネス(MLM)がたびたびメディアで取り上げられています。
しかし、実際にはAmwayやHerbalifeなどのグローバル企業をはじめ、国内でも多くの企業が法令を遵守しながら健全なMLMを採用したビジネスを展開しています。
新規事業としてMLMの導入を検討する際は、特定商取引法上の「連鎖販売取引」としての法的規制を正しく理解し、違法な「無限連鎖講(ねずみ講)」との明確な区別を意識することが重要です。
本記事では、MLMビジネスに関連する法規制や禁止事項、法令遵守のためのポイントについて、経営判断に必要な情報を解説します。
この記事の目次
ネットワークビジネス(MLM)とは?
ネットワークビジネス(MLM)とは、「Multi Level Marketing」の略称で、マルチレベルマーケティングとも呼ばれる独特の販売システムのことです。日本では「ネットワークマーケティング」「コミュニケーションビジネス」「組織販売ビジネス」「リレーションビジネス」など、さまざまな名称で知られています。
主な特徴として以下が挙げられます。
- 消費者自身が販売システムに参加できる
- 実店舗での販売ではなく、口コミによる紹介販売を主体とする
このビジネスモデルは1930年代にアメリカで小売販売の一形態として誕生し、1950年代にはタッパーウェアやアムウェイなどの企業が参入しました。日本でも、イーオングループ、山之内製薬、カネボウ、ダイエー、ソニーといった大手企業が参入または設立に関わっています。現在では500社以上のMLM企業が存在し、約2000万人が何らかのかたちで関与しています。
MLMは現在、アメリカの大学で教えられている、マーケティングの一形態です。日本でも平成11年(1999年)から早稲田大学の一般ビジネススクールでMLMに関する講義が開講されています。法律上は「特定商取引に関する法律」の枠組みの中で、「訪問販売」「通信販売」「連鎖販売取引」として規定されています。
違法なねずみ講やマルチまがい商法とは異なり、正当な商品やサービスの流通を伴う合法的なビジネスモデルです。
連鎖販売取引とは(定義/要件)
連鎖販売取引とは、物品(施設を利用し又は役務の提供を受ける権利を含む)の販売(または役務の提供)の事業において、再販売、受託販売もしくは販売のあっせん(または同種役務の提供もしくは役務提供のあっせん)をする者を特定利益を得ることをもって誘引し、その者と特定負担を伴う取引をするものを指します。
連鎖販売取引の要件は以下の4つから構成されています。
- 特定利益の収受可能性があること
- その特定利益をもって加入者を誘引するものであること
- 加入者に特定負担をさせること
- その特定負担を伴う取引であること
特定利益とは、新規会員の紹介や商品販売による報酬のことです。紹介料やマージン、ボーナスなどの形で支払われます。新規加入者や既存会員が支払った金品を原資として配分される利益です。
一方、特定負担とは、連鎖販売取引に参加するために必要な金銭的負担全般を指します。具体的には、商品の購入代金、入会金、登録料、スターターキット代、研修参加費用などが該当します。
以上の要素を含む取引が、特定商取引法における連鎖販売取引として規制の対象です。
連鎖販売取引に対する規制
特定商取引法では、消費者の安全を守るために、連鎖販売取引を行う者に対し次の義務を課しています。
氏名などの明示義務(第33条の2)
連鎖販売取引を行うときには、勧誘に先立ち消費者に対して次の事項を告げなければなりません。
- 統括者(連鎖販売業を実質的に掌握している者)、または実際に消費者に対して勧誘を行う者(統括者を含む)の氏名(名称)
- 金銭などの負担を伴う取引についての契約締結を勧誘する目的である旨
- その勧誘にかかわる商品または役務の種類
広告する際の表示義務(第35条)
連鎖販売取引について広告する場合には、以下の事項を表示しなければなりません。
- 商品(役務)の種類
- 取引に伴う消費者の負担に関する事項
- 他人の勧誘によって得られる報酬について広告をするときにはその計算方法
- 統括者などの氏名(名称)、住所、電話番号
- 統括者などが法人で、電子情報処理組織を使用する方法によって広告をする場合には、当該統括者などの代表者または連鎖販売業に関する業務の責任者の氏名
- 商品名
- 電子メールによる商業広告を送る場合には、統括者などの電子メールアドレス
書面の交付義務(第37条)
連鎖販売業を行う者が連鎖販売取引について契約する場合には、以下の2種類の書面を消費者に渡さなければなりません。
- 契約の締結前:概要書面(当該連鎖販売業の概要を記載した書面)
- 契約の締結後:契約書面(契約内容について明らかにした書面)
また、契約書面には、赤色の枠の中に赤字で「クーリング・オフ(契約の解除)」について記載しなければならず、字の大きさは8ポイント以上であることが必要です。
無限連鎖講(ネズミ講)とは(定義・要件)
連鎖販売取引とよく混同されるものに、「無限連鎖講(いわゆるネズミ講)」がありますが、「無限連鎖講の防止に関する法律」では次のように定義されています。
- 金品を出す加入者が無限に増加することを前提として
- 先に加入した者を先順位者、これに連鎖して段階的に2倍以上で増加する後続の加入者を後順位者となり
- 先順位者が後順位者の出す金品から自己の出した金品の価額又は数量を上回る金品を受け取る仕組みの「金品の配当組織」
例えば、先に無限連鎖講に加入した者が2人の後順位者を加入させ、さらにこの2人が同様に後順位者を2人ずつ加入させるという方法を繰り返し、加入者をどんどん拡大させます。
そして、先順位者は、一定の時点で所定の金品を取得して組織を離れ、後順位者も同様に一定の時点で所定の金品を取得して順次組織を離れていくというものです。
上記の事例では問題がないように見えますが、無限連鎖講は加入者が無限に増加することを前提としており、必ずどこかの時点で後順位者の獲得が行き詰まり、破綻することが明白なため法律で禁止されているのです。
ネットワークビジネスとネズミ講の違い
連鎖販売取引(ネットワークビジネス)と無限連鎖講(ネズミ講)との違いは、その定義から明確に区別することができます。
- ネットワークビジネス:物品を販売(または役務の提供など)する事業
- ネズミ講:金品を配当する組織
つまり、商品の販売や役務の提供などの商行為を通じて報酬を得て配当するのが「連鎖販売取引」、単に会員費などの名目で報酬を得て配当するのが「無限連鎖講」ということです。
法的規制の面でも、両者には大きな違いがあります。連鎖販売取引は特定商取引法による規制の下で合法的な取引として認められていますが、厳格なルールに従う必要があります。一方、ねずみ講は「無限連鎖講の防止に関する法律」により全面的に禁止されており、違反すると懲役や罰金の刑が科せられる場合があります。
なお、連鎖販売取引の体裁を取っていても、実質的に商品の販売を伴わず、もっぱら金品の受け渡しを目的としている場合は、無限連鎖講として判断され、法的な制裁の対象になる可能性があります。
連鎖販売取引における禁止事項
連鎖販売取引で違法となるのは、前述の「連鎖販売取引に対する規制」で紹介した、①氏名などの明示義務、②広告する際の表示義務、③書面の交付義務に違反した場合のほか、特定商取引法で禁止している次の行為を行った場合です。
(出典:消費者庁 特定商取引ガイド)
禁止行為(第34条)
連鎖販売取引を行う者が勧誘を行う際、次の行為は禁止されています。
- 勧誘の際、または契約の締結後、その解除を妨げるために、商品の品質・性能など、特定利益、特定負担、契約解除の条件、そのほかの重要事項について事実を告げないこと、あるいは事実と違うことを告げること。
- 勧誘の際、または契約の締結後、その解除を妨げるために、相手方を威迫して困惑させること。
- 勧誘目的を告げない誘引方法(いわゆるキャッチセールスやアポイントメントセールスと同様の方法)によって誘った消費者に対して、公衆の出入りする場所以外の場所で、特定負担を伴う取引についての契約の締結について勧誘を行うこと。
誇大広告の禁止(第36条)
連鎖販売取引について広告する場合に「著しく事実に相違する表示」や「実際のものより著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示」などを行うこと。
未承諾者に対する電子メール広告の提供の禁止(第36条の3)
特定商取引法ではメール送信を承諾しない消費者に対し、連鎖販売取引電子メール広告を送信することを禁止していますが、以下の場合は規制対象外です。
- 「契約の成立」「注文確認」「発送通知」などに付随した広告
- メルマガに付随した広告
- フリーメール等に付随した広告
ネットショップに関する特定商取引法の規定について詳しく知りたい方は、下記記事にて詳述していますので本記事とあわせてご覧ください。
関連記事:ネットショップの運営と法律 特定商取引法・不正競争防止法
特定商取引法に違反した場合の罰則
特定商取引法に違反した場合には、刑事罰や行政処分が科される可能性があります。行政処分としては、業務改善指示や業務停止命令が行われ、直近ではアムウェイが令和4年(2022年)に6カ月の取引の一部停止命令を受けました。
アムウェイは、氏名などの明示義務違反、勧誘目的を告げず公衆の出入りしない場所での勧誘、迷惑勧誘、概要書面の交付義務違反など、複数の違反行為が認定されています。
参考:消費者庁|連鎖販売業者【日本アムウェイ合同会社】に対する行政処分について
刑事罰については、不実告知や事実の不告知、威迫行為に対して3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。書面交付義務違反には6カ月以下の懲役または100万円以下の罰金、業務停止命令違反には3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。
これらの罰則は、事業継続に重大な影響を与えます。行政処分を受けた場合、その事実が公表されることで企業の信頼を失い、事業継続が困難になるケースも少なくありません。
アムウェイの事例は、法令順守の重要性を示す典型例となりました。会員による違法な勧誘行為が会社としての行政処分につながったことから、事業者は従業員や会員の行為についても適切な管理・監督が求められることを示しています。
連鎖販売取引における消費者の保護
特定商取引法は、連鎖販売取引における消費者保護として、クーリング・オフ、中途解約権、取消権という3つの重要な権利を定めています。
- クーリング・オフ
- 中途解約権
- 取消権
これらの消費者保護規定は、連鎖販売取引において消費者(個人)が不当な損害を被るのを防ぎ、契約からの適切な離脱を可能にして、消費者の利益を守ることを目的としています。
クーリング・オフ制度とは、消費者は法定書面を受け取った日(商品の引渡しが後である場合はその日)から20日以内であれば、書面または電磁的記録により無条件で契約を解除できる制度です。
訪問販売などの他の取引と比べて長い期間が設定されています。事業者が虚偽説明や威迫により消費者が誤認・困惑してクーリング・オフしなかった場合は、期間経過後も行使可能です。
中途解約権とは、クーリング・オフ期間経過後でも、入会後1年以内で、商品の引渡しから90日を経過していない場合において、その商品を再販売しておらず、使用・消費もしていない(事業者が使用・消費させた場合を除く)、かつ自己責任で商品を滅失・毀損していないときは、契約を解除できる権利のことです。
また、中途解約に伴う損害賠償額は特商法で上限が定められており、契約で定めた違約金がその上限を超える場合は請求できません
取消権とは、事業者から不実告知(虚偽の説明)や事実不告知(重要事実の故意の不告知)があり、それによって消費者が誤認して契約を締結した場合に認められる権利です。消費者はその契約を取り消すことができます。
まとめ:新規ビジネスは弁護士のリーガルチェックを
連鎖販売取引(ネットワークビジネス)は、物品の販売や役務の提供を通じて報酬を得る合法的な取引形態です。一方、単なる金品の配当を目的とする無限連鎖講(ねずみ講)は法律で全面的に禁止されています。
事業者には、氏名等の明示義務、広告規制の遵守、適切な書面交付など、さまざまな法的義務が課されています。違反した場合は、行政処分や刑事罰に科されるリスクとなります。
複雑な法規制が存在する連鎖販売取引を採用した新規事業を立ち上げる際には、弁護士のリーガルチェックが推奨されます。ビジネスモデルの設計段階から弁護士によるリーガルチェックを受けることが、将来的な法的リスクを回避する上で不可欠です。
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カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務
タグ: ビジネスモデルの適法化