ブルネイの建設業規制を弁護士が解説

東南アジアの中心に位置するブルネイ・ダルサラーム国(以下、ブルネイ)は、豊富な原油および天然ガス資源を背景に安定した経済水準を維持しており、法人税制の優遇や個人所得税の免除など、外資系企業にとって非常に魅力的なビジネス環境を提供している国家です。近年、ブルネイ政府はエネルギー資源への過度な依存から脱却し、経済の多角化を目指す長期国家ビジョン「ワワサン・ブルネイ2035」を推進しており、これに伴い官民連携を活用した大規模なインフラ整備や商業施設の建設プロジェクトが多数計画されています。このような市場環境は、高度な技術力と実績を持つ日本の建設関連企業や不動産デベロッパーにとって新たな事業機会として大きな注目を集めています。
しかしながら、ブルネイにおける建設業の展開には、旧宗主国であるイギリスのコモンローを基礎としつつも、自国産業の保護を目的とした独自の厳格な規制枠組みが存在しており、日本国内の法律や商慣習とは根本的に異なる要件が多数設けられています。したがって、同国への進出や事業拡大を検討する日本企業の経営者や法務担当者にとって、現地の法制度を正確に把握し、事前のコンプライアンス体制を構築することは、プロジェクトの成否を分ける最優先の課題となります。
本記事では、ブルネイの建設業規制の全体像について、具体的な法令の根拠と実務的な観点から網羅的かつ詳細に解説を行います。
本記事の要点として、第一に、建設プロジェクトを管轄する開発省(Ministry of Development)および建築管理・建設産業局(ABCi)による厳格なライセンス制度が存在し、企業の資本構成や請負うプロジェクトの規模に応じた強力な外資出資比率の制限(ローカルコンテンツ要件)が適用される点が挙げられます。
第二に、2014年建築基準法(Building Control Order,)に基づく「Qualified Person(有資格者)」制度が採用されており、日本の建築確認申請における建築主主体の枠組みとは異なり、指定された専門家が設計から竣工までの法的な全責任を負う仕組みが構築されています。
第三に、建設現場の労働力の大部分を外国人労働者に依存している同国では、2009年雇用法(Employment Order,)に基づくLPA(Lesen Pekerja Asing)制度を通じて、自国民の雇用を最優先とする極めて厳格な労働力管理が求められます。
第四に、公共調達における入札談合を厳しく禁じる2015年競争法(Competition Order,)の規定と巨額の制裁金リスクについて詳述します。
最後に、政府プロジェクトにおいては国家主権免除の原則から国内裁判所での提訴が制限されるため、2009年仲裁法(Arbitration Act, Chapter)に基づく仲裁手続きが不可欠であること、また、民間紛争における遅延損害金(LAD)の解釈に関する2025年および2026年の最新の現地判例の動向を解説します。
これらの規制の異同を日本法と比較しながら紐解くことで、ブルネイにおける建設ビジネスの法的リスクを低減し、安全な事業展開を実現するための包括的な指針を提供します。
この記事の目次
ブルネイ開発省およびABCiによるビルダーライセンス規制と会社法
ブルネイにおいて事業拠点を設立し、建設業を営む場合、基盤となる会社設立手続きに加えて、建設業特有の許認可を取得する二段構えの法的手続きが必要となります。まず、一般的な法人設立手続きは、第39章会社法(Companies Act, Chapter)に基づいて規律されており、財務省(Ministry of Finance and Economy)の傘下にある法人・ビジネスネーム登記局(ROCBN)に対して行われます。外資系企業は、現地法人(Sdn Bhdなどの非公開株式会社)の設立、または外国会社の支店(Branch)の登録という形態を選択することが一般的です。
法人設立後、建設業の実務を行うための最も重要な監督機関となるのが、開発省(Ministry of Development)の傘下にある建築管理・建設産業局(Authority for Building Control and Construction Industry、以下「ABCi」)です。ABCiは、ブルネイ国内におけるすべての建設、改修、設備工事に関する許認可、建築基準の順守状況の監視、および安全基準の徹底を一元的に管轄する政府機関です。ブルネイで建設工事や関連する付帯工事(一般建築工事、土木インフラ工事、電気設備工事、機械・空調設備工事、配管工事など)を行うすべての企業は、ABCiが発行するビルダーライセンス(Builder License)を取得することが法律で厳格に義務付けられています。このライセンスを持たずに無許可で建設業務を行った場合、進行中のプロジェクトの即時停止処分、多額の罰金、さらには将来の政府入札からの永久除外といった、企業活動にとって致命的なペナルティが科されることになります。
日本の建設業法においても、国土交通大臣または都道府県知事から業種ごとの建設業許可を取得する制度が存在し、経営業務の管理責任者や専任技術者の配置、財産的基礎などの要件が定められています。しかし、ブルネイのABCiビルダーライセンスの申請プロセスは、より具体的なプロジェクトの実績と技術者の現地資格の証明に重きを置いています。ABCiへのライセンス申請においては、ROCBNが発行する設立証明書や基本定款(M&A)、最新の年次報告書の提出に加え、技術系主要従業員の雇用契約書、学歴証明書、およびブルネイの関連専門機関(BAPEQSなど)からの専門資格登録証明書を提出しなければなりません。
さらに、監査済みの財務諸表や銀行の残高証明書、過去に完了した建設プロジェクトのリスト、発注者からの評価書(リファレンス)なども要求され、総合的な施工能力と財務の健全性が厳しく審査されます。
ブルネイにおける外資出資比率の制限とローカルコンテンツ要件

ブルネイに進出する日系の建設企業にとって、事業戦略を策定する上で最大の障壁となるのが、自国産業の保護および育成(ブミプトラ政策的アプローチ)を目的とした厳格な外資出資比率の制限です。ブルネイでは、外国の国籍を持つ個人または企業が国内で建設サービス(一般建築、土木工事、機械電気設備工事など)を提供する場合、開発省が定める「請負業者およびサプライヤー登録手続き(Procedures of Contractors and Suppliers Registration)」に従って、「Certificate A(政府および民間プロジェクト向け)」または「Certificate B(民間プロジェクトのみ)」のいずれかの登録を行う必要があります。
政府が発注するインフラ案件や公共事業を含め、あらゆるプロジェクトに参加するために不可欠となる「Certificate A」の登録においては、企業が請負うことのできるプロジェクトの上限金額(クラス)に応じて、外資系企業が保有できる株式の最大比率が法定されています。この具体的な制限は以下の表の通りです。
| クラス | プロジェクトの上限金額(ブルネイドル) | 許可される外国資本の最大比率 |
| クラス I | 50,000まで | 0%(外資参入不可) |
| クラス II | 50,000超 ~,000以下 | 0%(外資参入不可) |
| クラス III | 250,000超 ~,000以下 | 20% |
| クラス IV | 500,000超 ~ 150万以下 | 50% |
| クラス V | 150万超 ~ 500万以下 | 70% |
| クラス VI | 500万超 | 90% |
| 建築スペシャリスト・サプライヤー | 金額制限なし | 90% |
| 機械・電気スペシャリスト・サプライヤー | 金額制限なし | 90% |
この規制構造から、ブルネイ政府が国内の中小規模の建設業者を保護しつつ、大規模案件にのみ外資の資金力と技術力を導入したいという方針を持っているということが言えるでしょう。日本の法律において、建設業の許可要件自体に外資比率の上限が設けられておらず、100%外資の子会社であっても法的な要件を満たせば日本の公共事業に参加できることと比較すると、ブルネイの市場環境は非常に閉鎖的かつ保護主義的です。
日本企業が500万ブルネイドルを超える大規模プロジェクト(クラスVI)を受注するためには、最低でも10%の株式をブルネイ国民または現地企業に保有させる合弁会社(ジョイントベンチャー)を設立するか、現地パートナーとの強固な提携が不可欠となります。さらに、クラスIIIからクラスVの中規模プロジェクトを狙う場合には、過半数またはそれに準ずる比率の株式を現地パートナーに譲らなければなりません。
また、外資系企業には、ブルネイ国内への技術移転や独自の専門知識の共有に関するパフォーマンス要求(Performance Requirements)が課される場合があり、単に資金を投下するだけでなく、現地の産業発展に直接的に寄与することが市場参入の必須条件とされています。
ブルネイの有資格者(Qualified Person)制度と建築基準法
ブルネイの実務において、設計および施工管理の中心的な役割を果たすのが、2014年建築基準法(Building Control Order,)および2014年建築基準法施行規則(Building Control Regulations,)に基づく「Qualified Person(QP:有資格者)」制度です。同法第5条の規定により、建物の新築、増築、改修、構造変更などのすべての開発行為は、施主またはデベロッパーが自ら直接申請するのではなく、必ず任命されたQPを通じてABCiに申請されなければならないと厳格に定められています。
このQPとして活動できるのは、2011年建築士・専門エンジニア・積算士法(Architects, Professional Engineers and Quantity Surveyors Order,)に基づき、BAPEQS(建築士・専門エンジニア・積算士委員会)に正式に登録され、かつ有効な実務証明書(Practicing Certificate)を保持している建築士または専門エンジニアのみです。日本法との最大の違いは、このQPに課される法的責任の重さとその権限の範囲にあります。日本の建築基準法においても、一定規模以上の建築物については一級建築士などの有資格者による設計および工事監理が義務付けられていますが、建築確認申請の法的な主体はあくまで「建築主(施主)」です。しかしブルネイの制度においては、QPが単なる施主の代理人ではなく、建物の設計基準、安全性、インフラ接続、および法規制の順守に関する直接的な法的責任を負う主体として法的に位置づけられています。
ブルネイでの建築プロジェクトは、概ね5つの承認段階を経て進行します。第一段階として、都市計画局(DTCP)に対してe-KPシステムを通じて申請を行い、土地利用計画の承認(Planning Permission)を取得します。第二段階として、QPが署名した完全な建築および構造図面をABCiに提出し、建築承認(Building Approval)を取得します。第三段階として、実際の建設工事を開始する前に、ABCiに対して着工許可(Permit to Carry Out Building Works / Form C)を申請します。第四段階として、工事期間中、QPは定期的な進捗報告と検査結果を提出し、適格な独立審査員(Independent Accredited Checker)による構造的妥当性の検証を受けます。そして最終の第五段階として、建物が完成した際に、QPが発行する監督証明書や完成図書(As-built drawings)を提出し、消防局や電気通信局などの関係機関の最終検査を経て、使用許可(Occupation Permit:OP)を取得します。このOPが発行されない限り、建物を合法的に使用することは一切できません。
したがって、日本企業がブルネイで自社の工場や商業施設を建設する場合、日本の設計事務所が作成した図面をそのまま持ち込んで現地の行政機関に提出することは不可能です。必ずBAPEQSに登録された現地のQPを雇用し、現地法に基づく再設計と行政との折衝、申請手続きのすべてを委任しなければなりません。
ブルネイ2009年雇用法に基づく外国人労働者規制(LPA制度)

ブルネイの建設現場では、マレーシア、インドネシア、バングラデシュ、フィリピンなど近隣諸国からの外国人労働者が実働部隊の大部分を担っています。そのため、外国人労働者の適正な管理と自国民の雇用保護は国家的な重要課題とされており、2009年雇用法(Employment Order,)に基づく厳格な雇用規制が敷かれています。
ブルネイ政府は「ブルネイ化(Bruneianisation)」というスローガンのもと、産業界において外国人が占めている職位を段階的に自国民に置き換えていく政策を推進しています。これに伴い、外国人を雇用するためのプロセスは「LPA(Lesen Pekerja Asing:外国人労働者ライセンス)」と呼ばれる単一の制度に統合されました(同法第112条)。日本企業が現地で建設作業員や専門エンジニアを雇用する場合、直ちに外国から人材を呼び寄せることはできません。事前の義務的なステップとして、まず政府が運営する「JobCentre Brunei」のポータルサイトに企業の登録を行い、最低でも2週間にわたって求人広告を掲載することが求められます。
この手続きの目的は、国内の求職者に優先的な雇用の機会を提供することにあります。このプロセスを通じて適切な現地人材が見つからなかった場合、または応募者の不採用理由が客観的に妥当であると当局に認められた場合にのみ、クリアランスレター(支援状)が発行され、労働局に対してLPAの申請を行うことが可能となります。さらに、申請にあたっては、自国民従業員をTAP(Employee Trust Fund:従業員信託基金)に登録し、そのリストを提出することも必須要件です。
LPAの承認が下りた後も、雇用主には重い義務が課せられます。雇用主は、雇用する外国人労働者一人ひとりに対して、将来的な本国への強制送還費用などを担保するための保証金(現金、銀行保証、またはJITPAと呼ばれる外国人労働者向け保険のいずれか)を差し入れる法的義務を負います。また、労働者災害補償保険(Workmen’s Compensation Insurance)および医療保険(Medical Insurance)への加入が絶対条件となっており、労働局での労働契約締結時にこれらの証明書を提出しなければなりません。
日本の技能実習制度や特定技能制度においても外国人労働者の保護に関する厳格な規定は存在しますが、ブルネイのLPA制度は、JobCentre Bruneiを通じた強制的な「国内労働市場テスト」がプロセスの入り口に組み込まれており、政府が労働市場の需給バランスに直接的に介入しているという点に大きな特徴があります。
ブルネイ2015年競争法に基づく入札談合の禁止とコンプライアンス
公共インフラプロジェクトや大規模な民間開発案件への参画を検討する上で、企業法務として決して見落としてはならないのが、2015年競争法(Competition Order,)による独占禁止規制です。同法の第11条は、企業間の反競争的合意、具体的には価格カルテル、市場分割、生産・供給制限、および入札談合(Bid rigging / Collusive tendering)を明確に禁止しています。同法は2020年1月1日より反競争的合意に関する規定の本格的な執行が開始されており、規制当局の監視の目は年々厳しさを増しています。
建設業界は、その下請け構造や地域的な結びつきの強さから、世界的に見ても入札談合が発生しやすいセクターとされていますが、ブルネイの財務経済省傘下にある競争・消費者問題局(CCBD)は、公共調達における公正な競争を阻害する行為に対して極めて厳格な姿勢をとっています。競争法第11条に違反する入札談合やカルテル行為が発覚した場合、関与した企業に対しては、事業の全世界的な売上高の最大10%に相当する巨額の罰金が、最長3年間にわたって科される可能性があります。これは企業にとって致命的な経営的打撃となるばかりか、以後の公共事業からの締め出しを意味します。
日本の独占禁止法における課徴金制度と同様に、ブルネイの競争法第44条には、カルテル行為を当局に自主的に申告し、調査に全面的に協力した企業に対して罰金を減免するリニエンシー・プログラム(Leniency Programme)が導入されています。日本企業が現地で合弁事業を展開する場合、現地パートナー企業が過去からの慣習で他社と不適切な情報交換を行ってしまうリスクが存在するため、社内規定の整備、従業員への教育、および厳格なコンプライアンス体制の構築が急務となります。
これらの競争法に関する啓発活動、入札談合防止ガイドライン、およびリニエンシー・プログラムの詳細については、ブルネイ競争・消費者問題委員会の公式ウェブサイトで確認することができます。
ブルネイにおける建設紛争の解決メカニズムと主権免除の原則

建設プロジェクトにおいては、不測の事態による工期の遅延、設計の変更、竣工後の瑕疵の発見など、発注者と請負業者の間で重大な紛争に発展するリスクが常に伴います。ブルネイにおいて政府発注の公共プロジェクトを受注する場合、日本法の下での一般的な商事紛争とは全く異なる特有の前提条件を深く理解しておく必要があります。2004年の憲法改正により、ブルネイ政府は国内のあらゆる裁判所における訴訟提起から完全に免責される「主権免除(Sovereign Immunity)」の絶対的な特権を有しています。そのため、政府または政府関連機関との建設請負契約においては、裁判所での訴訟ではなく、仲裁(Arbitration)が唯一の法的紛争解決手段として指定されることが常識となっています。
ブルネイにおける仲裁手続きは、国内事案については2009年仲裁法(Arbitration Act, Chapter 173:旧 Arbitration Order)、国際事案については2009年国際仲裁法(International Arbitration Act, Chapter 279:旧 International Arbitration Order)によって厳密に規律されています。これらの法律は、世界標準であるUNCITRAL(国連国際商取引法委員会)の国際商事仲裁モデル法を基礎として設計されています。特に国際仲裁法の下では、当事者が合意した仲裁条項が存在する場合、裁判所は訴訟手続きを停止して仲裁に付託することが義務付けられており、仲裁廷には証拠保全や資産散逸を防ぐための暫定措置(Interim measures)を命じる強力な権限が与えられています。また、ブルネイは外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(ニューヨーク条約)の加盟国であるため、ブルネイで下された仲裁判断は、日本を含む世界149カ国以上で強制執行を行うことが可能です。
実務上の仲裁機関としては、2004年に設立されたブルネイ・ダルサラーム仲裁協会(AABD)、および2016年に政府主導で設立されたブルネイ・ダルサラーム仲裁センター(BDAC)が機能しており、当事者が仲裁人の選定で合意に至らない場合には、これらの機関がデフォルトの任命機関としての役割を果たします。政府案件のみならず、外資系企業が関与する大規模な民間建設契約においても、現地の司法リスクを回避するために国際仲裁条項を標準的に組み込むことが強く推奨されます。
ブルネイの建設関連判例における遅延損害金(LAD)の解釈
前述の通り、政府案件では仲裁が主流となりますが、純粋な民間企業間の建設紛争(例えば現地の民間デベロッパーと外国資本の請負業者間のトラブル)については、通常の民事訴訟を通じてブルネイ高等裁判所(High Court of Brunei Darussalam)で争われるケースも多数存在します。建設実務において最も頻発する「工期遅延」とそれに伴う「遅延損害金(Liquidated and Ascertained Damages:LAD)」の取り扱いに関して、実務上の重要な指針となる最近の判例を紹介します。
第一の事例は、『Chuon Tzu Construction Company Sdn Bhd v Tang Soon Won』(民事訴訟事件番号第12号/2022、ブルネイ高等裁判所、2026年7月27日判決)です。本件は、ブルネイ・ムアラ地区キウラップにおける商業施設(店舗、オフィス、ホテル、アパートメントを含む複合施設)の建設プロジェクトに関する紛争です。約1,116万ブルネイドルのランプサム契約(総価請負契約)において、工期が遅延したこと、および建物に多数の瑕疵が発生したことを理由に、デベロッパー(原告)が請負業者(被告)に対して42万ブルネイドルのLADと、瑕疵修補費用の支払いを求めて提訴しました。これに対し、請負業者は遅延の主たる原因がデベロッパー側の度重なる設計変更や指示の遅れにあると主張し、未払いとなっている契約代金残額と契約保持金(Retention monies)の返還、およびデベロッパー起因の遅延による損害賠償を反訴しました。
第二の事例は、『Ho Guan Heng v Haji Abdullah bin Haji Metassim (as administrator of the estate of the late Haji Metassim Bin Abdul Rahman@Haji Metassim)』(上訴事件番号OM/3/2025、ブルネイ高等裁判所、2025年10月29日判決)です。本件も同様に、開発契約に基づく工期の遅延とLADの請求に関する事件です。この事件の争点は、安全性に関する当局の工事停止命令(Stop-Work Order)を理由として、プロジェクト・アーキテクトが詳細な根拠を示さずに125日間の工期延長(Extension of Time:EOT)を証明した行為の有効性でした。契約上の規定(Clause 2.7)では、アーキテクトによる証明は「最終的であり、決定的であり、当事者を拘束する」とされていたため、この証明に明白な誤り(Manifest error)や不正行為がない限り、裁判所は当事者の合意による専門家の判断を尊重するという厳格な解釈が示されました。
これらの判例から、ブルネイの裁判所は、当事者間の建設契約書に明記された条項(特にEOTに関するプロセスの遵守と、工期遅延に対するLADの算定式)を極めて厳格かつ文字通りに解釈し、適用するということが言えるでしょう。日本の民法第420条(賠償額の予定)の概念と類似していますが、英米法系の契約法理に属するブルネイでは、定められたLADの金額が法外な「ペナルティ(罰則)」として認定されない限り、実際にデベロッパー側が生じた損害額を詳細に立証しなくとも、契約書に記載された計算式に基づく日割り計算による損害賠償額がそのまま執行される傾向が非常に強いです。したがって、日本企業がブルネイで建設契約を締結する際には、不可抗力(Force majeure)条項の定義、工期延長申請の厳密な通知期限、およびLADの上限設定などについて、自社に不利な条件となっていないかを事前に徹底的に精査し、法的保護を確実にする契約ドラフティングが求められます。
これらの判決に関する公式な情報は、ブルネイ・ダルサラーム国司法府の公式ウェブサイトで確認することができます。
まとめ
本記事で詳細に解説した通り、ブルネイにおける建設業規制は、外資系企業に対する厳格な出資比率の制限(Certificate A/Bによるランク付け)、Qualified Person(有資格者)が全責任を負い主導する建築承認プロセス、そして自国民の雇用保護を徹底的に優先したJobCentre Brunei経由でのLPA制度など、多岐にわたる独自の保護主義的かつ厳密なルールによって構成されています。また、競争法に基づく入札談合への巨額の制裁リスク、政府案件における主権免除と仲裁の義務化、そして厳格に文言通り適用される遅延損害金(LAD)の現地判例からも分かるように、事前の緻密な契約交渉と社内コンプライアンス体制の構築がプロジェクトの成否を大きく左右します。
日本の建設法規や緩やかな商慣習の感覚をそのまま現地に持ち込むことは、プロジェクトの強制停止や罰金、ライセンスの剥奪といった重大な法的リスクを招くことになります。したがって、現地法令のニュアンスに即応した戦略的な法的アプローチが不可欠です。当事務所では、こうした内容についてサポートいたします。ブルネイにおける建設市場への新規参入や、既存プロジェクトにおける法的課題の解決をご検討の際は、ぜひご相談ください。
カテゴリー: クロスボーダー
タグ: ブルネイ・ダルサラーム国海外事業
































