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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

【令和8年8月】スマホアプリ・SaaS事業者が直面する景品表示法・ダークパターン規制の最新動向

日本のデジタル経済において、スマートフォンアプリケーションやクラウド型SaaSを通じた各種サービスの提供は急速に拡大しており、企業活動の基幹を構成しています。これに伴い、デジタル空間における取引の公平性と消費者利益の保護を目的として、法制度体系や行政による取締体制は厳格化の一途を辿っています。

特に、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)や特定商取引に関する法律をはじめとする関連法令においては、不透明な課金構造や消費者の誤認を招く広告表示、選択の自由を阻害するデザイン手法に対する監視が強化されています。プロダクトの制作・開発を担う事業者においては、法的要件を正確に把握し、サービス設計やプロモーションに反映させることが不可欠となっています。

本記事では、最新の措置命令事例や法令の規定を踏まえ、これらの事業者が実務上留意すべき法的リスクについて詳しく解説します。

この記事の目次

令和8年8月の消費者庁措置命令に見る景品表示法違反の構造

令和8年8月6日に公表された消費者庁による行政処分は、スマートフォン向けアプリケーションを運用する事業者に対し、プロモーション施策の法的合致性を厳しく再点検する契機となりました。この事例は、単なるSNS上のPR表記の欠落という問題にとどまらず、アプリマーケティングにおける表示責任の所在や特定のアプリ機能に関する口コミ偽装の違法性を浮き彫りにしています。

画像加工アプリ案件におけるステルスマーケティング告示違反の事実関係

本件において消費者庁が措置命令を発出した根拠法令は、不当景品類及び不当表示防止法第5条第3号に基づく「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(令和5年内閣府告示第19号、通称「ステルスマーケティング告示」)および同法第7条第1項の規定です。

問題とされた行為は、画像加工アプリケーション「SNOW」の日本法人であるSNOW Japan株式会社が、令和7年4月2日から同月22日までの間、第三者であるインフルエンサー等に対し、対価の提供を条件として、SNS「X」上に同社が指示する方針に沿った投稿をすることを依頼していたというものです。依頼に基づく投稿は72件に及び、その多くは削除されないまま令和8年6月中旬まで表示され続けていました。対価としては、報道によれば電子ギフト券等により数千円から数万円程度が提供されていたとされます。投稿内容には、アプリ内に搭載された生成AIによる画像加工機能について、あたかも一般の利用者が自発的に使用し、その処理速度や品質を絶賛しているかのような文言が含まれていました。しかし、これらの投稿には「#PR」や「広告」といった、事業者からの依頼に基づく宣伝行為である旨の表示が一切なされていませんでした。

不当景品類及び不当表示防止法第5条第3号は、事業者が自己の供給する商品または役務の取引について行う表示であるにもかかわらず、一般消費者がそれを事業者の表示であると判別することを困難にさせる表示を禁止しています。対価の提供や具体的な投稿方針の指示が存在する場合、その投稿は「事業者の表示」に該当するため、一般消費者が広告であることを識別できない状態に置くことは同条違反となります。消費者庁は同法第7条第1項に基づき、該当する不当表示の取りやめ、一般消費者への違反の事実の周知徹底、再発防止策の構築および役職員への徹底を命じました。

参考:消費者庁|「SNOW」と称するアプリケーションの利用サービスの提供事業者2社に対する景品表示法に基づく措置命令について

なお、本件で発出されたのは措置命令のみであり、課徴金納付命令は行われていません。これはステルスマーケティング告示違反に固有の法構造によるもので、詳細は後述します。

親会社・日本法人の双方に対する措置命令と「表示内容の決定への関与」の認定

本件措置命令の注目すべき法的側面は、韓国に本店を置く親会社Snow Corporationと、日本法人であるSNOW Japan株式会社の2社に対し、それぞれ独立した措置命令が同日付で発出された点にあります(消表対第681号・第682号)。

親会社である外国法人は、日本国内における具体的な表示内容の決定を日本法人に委ねていました。しかし消費者庁は、①親会社が日本法人の議決権を全て保有していること、②親会社の代表理事が日本法人の代表取締役を兼任していること、③親会社が日本法人に対し日本向けコンテンツの制作、日本語への翻訳、国内利用者からの問合せ対応および国内における販促業務を委託していること、④両社が当該サービスを共同して一般消費者に提供していることを認定したうえで、親会社もまた「表示内容の決定に関与している」事業者に当たると判断しました。

この判断は、海外で開発されたプロダクトを国内でローカライズ展開する構造や、親会社と子会社、あるいは業務委託関係下でマーケティング施策を分担する組織構造において極めて重要な法理を示しています。実質的な表示作成作業を国内法人や外部の代理店に委ねていたとしても、サービス提供から利益を得る主体であり、表示内容の決定権限や影響力を有している限り、景品表示法上の処罰対象から免れることはできません。グループ企業間や委託関係における統制体制の不備が、企業グループ全体の法的リスクへと直結することが明確化されたと言えます。

アプリ内特定機能の口コミ偽装に対する法的監視の厳格化

従来のステルスマーケティングに関する取り締まり事例では、商品やサービス全体の知名度向上や、ブランド全体の印象形成を目的とした投稿が主な対象となる傾向が見られました。しかし、本件において不当表示と認定された投稿は、アプリ全体の紹介にとどまらず、「アプリ内に組み込まれた特定の機能」である生成AI画像処理機能に関する具体的な体験談の形式をとっていました。

措置命令書別表に掲げられた投稿には、「ChatGPTだと処理が重いけどSNOWならすいすーいとできちゃった」「SNOWなら他のやつより早く画像生成してくれて色々試せて楽しい」といったように、競合する生成AIサービスを名指ししたうえで処理速度を比較する内容が多数含まれていました。

参考:消費者庁|「SNOW」と称するアプリケーションの利用サービスの提供事業者2社に対する景品表示法に基づく措置命令について

こうした、特定の機能性能やユーザー体験(UX)に関する感想を装った口コミの偽装は、一般消費者の購買決定やアプリのダウンロード、さらにはアプリ内課金への誘導に直接的な影響を及ぼします。消費者庁がこうした細かな機能単位の偽装投稿に対しても厳格に景品表示法を適用したことは、デジタルプロダクトにおけるあらゆる機能訴求やマーケティングメッセージがリーガルチェックの対象となることを示しています。機能単位での認知獲得から無料体験、有料サブスクリプション契約への誘導に至る導線全体について、事実に基づかない演出や広告性の隠蔽を排除する厳格な運用が求められます。

アプリおよびSaaSの取引全体を包囲する法的規制体系

アプリおよびSaaSの取引全体を包囲する法的規制体系

スマートフォンアプリやSaaSビジネスにおいては、顧客の集客から契約締結、継続課金に至るビジネスモデルの各段階で、不当景品類及び不当表示防止法や特定商取引に関する法律などの複数の法令が重畳的に適用されます。事業の適正化を図るためには、これらの法律が定める禁止行為や表示義務の全体像を正確に把握しておく必要があります。

景品表示法における不当表示の基本分類と具体例

不当景品類及び不当表示防止法は、不当な表示や過大なおまけ・景品類を規制することで、消費者が自主的かつ合理的に商品・サービスを選択できる環境を保護することを目的としています。デジタルコンテンツやSaaSビジネスにおいて問題となりやすい不当表示は、主に同法第5条各号に掲げられる3つの類型に分類されます。

第一に、不当景品類及び不当表示防止法第5条第1号が規定する「優良誤認表示」です。これは、商品やサービスの品質、規格、その他の内容について、実際のものよりも著しく優れていると一般消費者に誤認させる表示を指します。客観的で合理的な調査に基づかないにもかかわらず「満足度No.1」や「業界最高のAI精度」と謳う行為や、裏付けのない性能向上効果を強調する行為がこれに該当します。

第二に、同条第2号が規定する「有利誤認表示」です。これは、商品やサービスの価格その他の取引条件について、実際のものや競合他社のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認させる表示です。アプリ画面上に「月額500円」と大きく表示しながら、実際には年間契約が必須であり中途解約ができない構造を隠蔽する行為や、「無料体験」と強調しながら自動的に高額な有料プランへ移行させる条件を極小の文字で配置する行為が該当します。

第三に、同条第3号に基づく内閣総理大臣指定の不当表示であり、前述のステルスマーケティング告示などがこれに分類されます。事業者が経済的利益を提供して第三者に投稿させながら、広告であることを隠す行為は、消費者の合理的な選択を妨害する不当表示として一律に禁止されています。

改正景品表示法による直罰規定の導入と行政手続の変更

景品表示法は令和6年10月1日施行の改正法により、違反行為に対する執行体制(エンフォースメント)が劇的に強化されました。特に実務上の影響が大きい改定事項として、「直罰規定」の新設と「確約手続」の導入が挙げられます。

従来の景品表示法では、行政処分である措置命令を受け、それに違反した段階で初めて刑事罰が科される仕組みとなっていました。しかし、改正後の不当景品類及び不当表示防止法第48条においては、優良誤認表示または有利誤認表示を行った者に対し、措置命令等の行政手続を経ることなく、直接に100万円以下の罰金を科すことができる直罰規定が新設されました。あわせて法人に対する両罰規定も設けられています(同法第49条)。これにより、悪質な虚偽表示や誤導的表示に対する法的追及のハードルが大幅に下がっています。もっとも、本記事冒頭で取り上げたステルスマーケティング告示をはじめとする第5条第3号の指定告示に係る表示は、直罰の対象外とされている点には留意が必要です。

また、同法第8条第1項に基づく「課徴金納付命令」の運用も厳格化されています。不当表示を行っていた期間中の対象商品・サービスの売上高に対し、原則として3%(過去10年以内に違反歴がある場合は4.5%)の課徴金が課されます。算定された課徴金が150万円未満(売上高5000万円未満)の場合は免除される規定(同条第1項但書)が存在するものの、中大規模のSaaSやアプリサービスでは、数千万円から数億円規模の課徴金リスクを直接的に負うことになります。なお、事業者が自主的に違反を申告した場合や、同法第10条および第11条に基づき受領した金銭を消費者に返金する「返金措置計画」を作成し消費者庁の認定を受けた場合は、課徴金額から減額される減免措置が用意されています。

一方で、違反被疑行為を受けた事業者が自主的な是正計画を作成して認定を受けることで、措置命令や課徴金納付命令を回避できる「確約手続」(同法第26条等)も導入されました。これは迅速な是正を促す仕組みですが、認定を受けるためには緻密な改善計画の策定と行政との協議が必要となります。

もっとも、これらの制裁がすべての不当表示に一律に及ぶわけではない点は、実務上正確に押さえておく必要があります。課徴金納付命令の対象は同法第5条第1号(優良誤認表示)および第2号(有利誤認表示)に限られ(同法第8条第1項)、直罰規定の対象も同様に優良誤認表示および有利誤認表示に限定されています(同法第48条)。したがって、同条第3号に基づく指定告示、すなわち本記事冒頭で取り上げたステルスマーケティング告示に該当する表示は、課徴金納付命令および直罰のいずれの対象にもなりません。

「SNOW」の事案において、令和7年4月からの投稿が令和8年6月まで表示され続け、対象投稿が72件に及んだにもかかわらず、処分が措置命令にとどまり課徴金納付命令に至らなかったのは、この法構造によるものです。

ただし、これを制裁が軽微であることの根拠と捉えるのは誤りです。第一に、措置命令それ自体が事業者名を明示して公表され、周知徹底の方法についてはあらかじめ消費者庁長官の承認を受けなければならないなど、レピュテーション面での負荷は極めて重いものとなります。第二に、ステルスマーケティングとして依頼した投稿の内容が、商品・サービスの品質や性能について実際より著しく優良であると示すものであったり、価格その他の取引条件について著しく有利であると誤認させるものであったりする場合には、告示違反とは別に優良誤認表示または有利誤認表示にも該当し、課徴金および直罰の対象となり得ます。インフルエンサーに交付する投稿指示書の内容が、PR表示の有無という論点を超えて、訴求内容そのものの裏付けを問われる局面があることを意味します。

特定商取引法に基づく最終確認画面の表示義務

Webサイトやスマートフォンアプリを通じて非対面で定額制サービス(サブスクリプション)やデジタルコンテンツの購入契約を締結させる行為は、特定商取引に関する法律第2条第2項の「通信販売」に該当します。もっとも、課金がApp StoreやGoogle Playの決済基盤を通じて行われる場合、最終確認画面の設計や解約導線の一部がプラットフォーム側の仕様に依存するため、自社で制御できる範囲と依存する範囲を切り分けたうえで対応方針を整理しておく必要があります。

通信販売に対しては、特定商取引法第12条の6に基づき、契約の申込段階における不当な誘導を防止するための厳格な表示規則が課されています。具体的には、消費者が契約を完了させる直前の「申込最終確認画面」において、一定の重要事項を明瞭に認識できる形で表示することが義務付けられています。

法定の表示事項は、①役務の分量(サブスクリプションであれば契約期間・提供回数等)、②対価および支払うべき金銭の額、③支払の時期および方法、④役務の提供時期、⑤申込みの撤回または契約の解除に関する事項、⑥申込期間の定めがあるときはその旨およびその内容です。定期購入型の場合、各回の請求額、無料期間終了後の移行金額および移行時期を、総額とともに明示する必要があります。

もし、最終確認画面において解約条件が不鮮明であったり、購入ボタンの文言が「確定」や「次へ」のように有料契約の成立を直感的に理解しにくい表示になっている場合、特定商取引法違反として業務停止命令等の行政処分の対象となります。さらに、特定商取引法第15条の4の規定により、誤認して申込みを行った消費者からの契約取消権の行使を認めなければならず、事業上の回収不能リスクが発生します。

UI/UXデザインにおけるダークパターンと有利誤認・優良誤認リスク

UI/UXデザインにおけるダークパターンと有利誤認・優良誤認リスク

デジタルプロダクトの画面構成(UI)やユーザーの体験設計(UX)において、心理的な隙や誤解を利用して事業者に有利な行動へ誘導するデザイン手法は「ダークパターン」と呼ばれ、国内外の規制当局から集中的な監視を受けています。表面上は利便性を追求したデザインに見えても、法的観点からは違法と評価されるリスクが潜んでいます。消費者庁は、令和8年(2026年)6月、Webページ等におけるいわゆるダークパターンに対する消費者意識調査の結果を公表しています。

参考:消費者庁|Webページ等におけるいわゆるダークパターンに対する消費者意識調査

ダークパターンの主要類型と各法令における違法性判断

ダークパターンという用語自体を直接定義する法律は存在しませんが、その類型の一部は、不当景品類及び不当表示防止法、特定商取引法、消費者契約法、独占禁止法といった現行法令の規制に抵触し、違法と評価される場合があります。いずれの法令に、どの要件で該当するかは類型ごとに異なるため、個別の検討が必要です。主な類型と法的問題点は以下の通りです。

第一に「隠れサブスク」と呼ばれる手法です。これは、「初回0円」や「お試し価格」といった有利な条件のみを巨大なフォントで視覚的に強調し、実際には定期購入契約がセットになっていることや2回目以降の高額な利用料金、最低利用期間の制限といった不利益条件を、画面の最下部や読みにくい極小の文字で配置するデザインです。この手法は景品表示法第5条第2号の有利誤認表示および特定商取引法第12条の6違反に直結します。

第二に「解約妨害(キャンセルトラップ)」です。契約の申込みはアプリ内のワンタップで完結するにもかかわらず、解約しようとすると複雑なFAQページを何度も遷移させたり、解約ボタンの配色を背景色と同化させて隠蔽したり、平日の限られた時間帯の電話対応のみに限定したりする手法です。

これらのうち、解約を申し出た消費者に対して解除に関する事項につき事実と異なる説明を行う行為は、特定商取引法第13条の2が禁止する「申込みの撤回等を妨げるための不実告知」に該当し、指示(同法第14条第1項)や業務停止命令(同法第15条第1項)の対象となります。また、解約手続を過度に制約する契約条項が置かれている場合には、消費者契約法第10条により、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項として無効と判断される可能性があります。UI上の煩雑さそれ自体を直接違法とする明文規定は現行法上存在せず、有利誤認表示(景品表示法第5条第2号)や適格消費者団体による差止請求(特定商取引法第58条の19)を通じた規律が中心となります。

第三に「事前選択(プレセレクション)」や「偽りの階層」です。有料の追加オプションや最も高額なプランのチェックボックスが初期状態でデフォルトオンになっており、消費者が自ら外さない限り課金が発生する仕組みや、拒否・キャンセルボタンを極小にし、承認ボタンのみを鮮やかなプライマリカラーで巨大に配置する手法です。これらは独占禁止法上の「抱き合わせ販売」や「ぎまん的顧客誘引」、あるいは景品表示法上の誤認誘引として問題視されます。

スマートフォン画面における打消し表示の有効性と視認性ルール

スマートフォン画面はPC等と比較して表示領域が狭小であるため、画面上部で「初月無料」などの強調表示を行い、画面をスクロールした最下部や折りたたみメニューの中に「※翌月以降は自動的に月額3,000円の年間契約に移行します」といった「打消し表示」を配置する設計が頻繁に見られます。

しかし、消費者庁が公表している「スマートフォンにおける打消し表示に関する実態調査報告書」等のガイドラインに基づけば、単に画面のどこかに文字を記載しただけでは法的効力(打消し効果)は認められません。打消し表示が法的効力を有するためには、強調表示と同一の視野に入っていること、またはスクロールなしで容易に視認できる位置に存在することが要求されます。強調表示から1スクロール以上離れた場所に記載されている場合、消費者は打消し表示を認識できないため、同一視野にないと判断され、強調表示全体が有利誤認表示となります。

また、背景色と文字色のコントラスト比が乏しく読みにくい場合や、文字のサイズが著しく小さい場合も同様です。さらに、強調表示の内容と打消し表示の内容が論理的に矛盾している場合(例:「完全無料」と強調しながら打消し表示で「※別途維持費がかかります」と記載するケース)は、打消し表示そのものが無効とされ、不当表示とみなされます。近時も、スポーツ動画配信サービスにおいて、月額料金を前面に出しながら実際には途中解約できない年間プランの契約が必要であった事例が社会的に問題視されました(本稿執筆時点で行政処分には至っていません)。このように、実質的な拘束条件は、価格訴求と同等の視認性と近接性をもって提示しなければなりません。

サービス提供主体と受託制作・開発事業者のリスク分担と責任関係

サービス提供主体と受託制作・開発事業者のリスク分担と責任関係

アプリやSaaSのプロモーションおよび画面開発にあたっては、サービスを運営する事業者と、デザインやシステム開発を受託する制作会社・パートナー企業との間で、法的リスクの分担と責任の所在を明確にしておくことがトラブル防止の鍵となります。

サービス提供主体が負う行政上のペナルティと事業リスク

景品表示法上、行政処分の直接の対象となる「表示事業者」とは、該当する商品・サービスの表示内容の決定に関与した主体を指します。自社サービスをプロモーションする事業者は、たとえ広告クリエイティブの制作や画面デザインの構築を外部のデザイン会社や広告代理店に完全委託していたとしても、表示内容の最終的な決定権を有しているため、景品表示法上の責任を免れることはできません。

不当表示と認定された場合に事業会社が負うペナルティは、措置命令の公表や課徴金の納付といった金銭的・行政的制裁にとどまりません。企業の社会的信用の失墜、解約率の急増に加え、AppleのApp StoreやGoogle Playなどのプラットフォーム事業者による規約違反に基づくアプリの配信停止措置や、決済代行会社によるクレジットカード決済機能の突然のアカウント凍結など、事業の継続性そのものを途絶させる壊滅的なリスクへと波及します。

制作会社・クリエイターにおける業務委託契約上の法的責任

一方で、Webデザイン会社、アプリ開発ベンダー、広告代理店などの受託事業者側は、通常、景品表示法上の直接的な行政処分の対象とはなりません。しかし、発注元であるクライアントとの間の「業務委託契約」に基づく民事上の責任を重く問われることになります。

受託事業者が、不当表示や特定商取引法違反となるUI/UXデザイン、あるいはPR表示を欠いた広告クリエイティブを納品し、それが原因でクライアントが措置命令や課徴金納付命令を受けた場合、民法第562条以下の「契約不適合責任」や民法第709条の「不法行為責任」に基づき、クライアントから甚大な損害賠償請求(納付させられた課徴金額やブランド毀損損害など)を受けるリスクがあります。たとえクライアント側からの「解約ボタンを目立たなくしてほしい」「自動更新の注記は極力小さくしてほしい」といった要望に沿って制作した場合であっても、専門業者としての善管注意義務に基づきリスクを指摘・是正提案していなかった場合は、責任割合の議論において厳しい立場に立たされます。

さらに、不当表示やダークパターンの構築を幇助する制作会社としてのレピュテーションが広まれば、業界における取引関係を喪失することになります。受託事業者にとっても、自社を守る防壁として法令適合性を意識した提案力を持つことが重要です。

課金フローおよびプロモーションにおける実務適合チェックリスト

法的トラブルを未然に防ぎ、透明性の高いプロダクト運用を実現するためには、企画・開発・マーケティングの各プロセスにおいて具体的なチェックポイントを運用フローに組み込むことが求められます。以下に実務上の重要項目を解説します。

SNSプロモーションおよびインフルエンサー運用の適正化要件

第三者にSNS等での情報発信を依頼する場合は、経済的利益(報酬、商品提供、無料アカウントの付与等)の有無を確認し、利益が存在する場合は必ず消費者が一目で認識できる位置に「#PR」「広告」「〇〇社からの提供」といった表示を義務付ける指示書(マニュアル)を整備しなければなりません。投稿本文の末尾や多数のハッシュタグの中に埋もれさせる表記は、判別困難とみなされるリスクがあります。

また、インフルエンサーが自身のSNS上で適切に「#PR」と表示して投稿した場合であっても、その投稿内容や画像を自社の公式Webサイト、LP(ランディングページ)、あるいはアプリ内の紹介画面に転載・二次利用する際には注意が必要です。転載時に「#PR」の表記を除外して掲載した場合、自社サイト上で口コミを偽装した「自社サイト転載型ステルスマーケティング」と判定され、景品表示法違反となります。投稿の依頼から二次利用に至るまで、PR表示が維持されているかを定期的にモニタリングする体制を構築する必要があります。

プラン選択画面および最終確認画面におけるデザイン設計要件

無料体験プランから有料サブスクリプションへ移行する画面設計においては、体験期間の終了日時、自動更新の有無、および移行後の確定料金を、申込ボタンの近傍に同じ文字サイズで明記しなければなりません。無料期間の強調のみを行い、有料移行の条件を画面遷移の奥深くに配置することは有利誤認表示にあたります。

また、特定商取引法第12条の6に適合させるため、申込最終確認画面においては、購入・契約するサービスの全容(契約期間、総支払額、各回の請求額、解約期限)が一画面で確認できるスクロール不要なレイアウトを意識する必要があります。決済を完了させるアクションボタンの文言についても、「確定」や「送信」といった曖昧な表現を避け、「有料プランに申し込む」「自動更新に同意して購入する」など、金銭の支払義務が発生することを直感的に理解できる文言を採用することが法的要件を満たす鍵となります。有料オプションの選択に関しても、デフォルトでチェックを入れる「事前選択」方式を禁止し、ユーザーの能動的なチェック行為を要求する設計へと変更する必要があります。

解約導線の対称性確保とアクセス容易性の確保

解約・キャンセル手続の設計においては、欧米の規制議論で用いられる「選択の対称性(Symmetry of Choice)」という考え方が実務上の有用な指針となります。これは、契約締結に要するステップ数や難易度と、契約解除に要するそれとを同等に保つべきとする考え方です。日本法上、これを直接定める明文規定は現時点で存在しませんが、解約手続の著しい非対称性は、後述のとおり特定商取引法上の評価や消費者契約法上の条項審査、さらには行政による監視の端緒となり得ます。

アプリ内で2〜3タップで完了したサブスクリプション契約に対し、解約時にはWebブラウザへ遷移させ、複雑なパスワード再設定を要求したり、数十項目におよぶアンケート回答を強制したり、電話窓口のみに限定したりする設計は、特定商取引法やダークパターン規制の観点から違法と判断される可能性が極めて高くなります。マイページやアカウント設定画面の直感的な位置に解約手続きへのリンクを配置し、不必要な引き止め画面や心理的障壁を排除したスムーズな解約導線を整備することが、規制対応のみならず中長期的なブランド信頼の確立につながります。

まとめ:アプリのUI/UXデザインにもリーガルチェックを

令和8年8月6日の「SNOW」に対する措置命令に象徴されるように、消費者庁をはじめとする規制当局は、デジタルプロダクト、スマホアプリ、およびSaaSビジネスにおけるマーケティング手法やUI/UXデザインに対する監視を急速に強めています。短期的なコンバージョン率や売上高の獲得のみを優先し、法的適合性を軽視した画面構成や広告施策を放置することは、行政処分、巨額の課徴金、刑事罰の適用にとどまらず、アプリ配信停止や企業ブランドの破綻といった致命的な損害をもたらします。サービスを運営する事業者のみならず、制作を担うクリエイターやデザイン会社にとっても、不当表示やダークパターンのリスクを早期に検知し、適正な画面設計とプロモーション体制を構築することが事業継続の不可欠な条件です。法令に基づく定期的なリーガルチェックと社内体制の整備を速やかに進めることが推奨されます。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に豊富な経験を有する法律事務所です。近年、ネット広告をめぐる優良誤認などの景品表示法違反は大きな問題となっており、リーガルチェックの必要性はますます増加しています。当事務所はさまざまな法律の規制を踏まえた上で、広告やLPのリーガルチェック、ガイドライン作成などのサービスを提供しています。下記記事にて詳細を記載しております。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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