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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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チュニジアのコーポレートガバナンスを弁護士が解説

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チュニジアのコーポレートガバナンスを弁護士が解説

チュニジア共和国(以下、チュニジア)におけるコーポレートガバナンスは、2000年に制定された商事会社法(CSC)を中核的な法的基盤として発展してきました。北アフリカに位置し、ヨーロッパや中東への戦略的なビジネス拠点として注目を集める同国では、外資誘致や投資環境の改善に向けた法整備が急速に進められています。特に、企業の透明性向上や健全な経営体制の構築を目的とした商事会社法の度重なる改正や、チュニジア中央銀行主導による金融セクターのガバナンス強化策は、同国でビジネスを展開する上で極めて重要な要素となっています。

日本の経営者や法務担当者がチュニジアへの進出や現地企業との合弁事業を検討する際、日本の会社法との違いを正確に把握することは、法的リスクを低減し、持続可能な事業運営を実現するための不可欠な前提となります。本記事では、チュニジアにおけるコーポレートガバナンスの詳細な全体像と、日本企業が直面し得る実務上の留意点について徹底的に解説します。具体的には、厳格な最低資本金制度が維持されている設立要件の違いから始まり、取締役会や経営陣と監査役会を分離する双層制といった機関設計の独自性について掘り下げます。さらに、経営トップの解任を巡って「適正手続き」を極めて重視するチュニジア破毀院の重要な判例法理を紹介し、明文の法律と現地の司法判断の実態との間にあるギャップを明らかにします。

加えて、金融機関に先行して導入されている高度なリスク管理体制や独立委員会の設置義務に関する最新動向、そして、少数株主の権利行使要件が日本(3パーセント)よりも高い10パーセントに設定されている「経営鑑定」制度の課題についても網羅します。現地の法令や判例の深い理解に基づくこれらの情報は、チュニジアにおける安全な投資スキームの構築やコンプライアンス体制の強化に直結するものです。

チュニジアの法的及び制度的枠組みの基礎と日本法との比較

チュニジアの企業法制は、2000年法律第93号によって公布された商事会社法を根本規範としています。この法律は、日本の会社法と同様に、企業の設立から運営、解散に至るまでの包括的なルールを定めており、企業経営の基本法として機能しています。制定以降も、国際的な経済環境の変化や金融不祥事の教訓を踏まえ、ガバナンスの強化やデジタル化に対応するための法改正が重ねられてきました。例えば、2005年の法改正(法律第2005-96号)では公募を行う企業に対する監査委員会の設置が義務付けられ、2009年の法改正(法律第2009-16号)では利益相反の防止経営陣の報酬開示に関する透明性の向上が図られました。さらに近年では、投資環境の改善を目的とした2019年法律第47号により、商業会社のガバナンス強化がより一層推進されています。

チュニジアにおいて外国企業が進出する際に主として利用される企業形態には、株式会社(SA)有限会社(SARL)が存在します。日本の会社法では、2006年の大改正により最低資本金制度が撤廃され、資本金1円からでも株式会社を設立することが可能となりました。しかし、チュニジアの商事会社法においては、企業の信用維持と債権者保護の観点から、依然として厳格な最低資本金制度が維持されています。有限会社を設立する場合は最低1000チュニジア・ディナールの資本金が要求され、株式会社を設立する場合は最低5000チュニジア・ディナール(公募を行う場合は50000チュニジア・ディナール)の資本金が法律で義務付けられています。大規模な事業投資や将来的な資金調達を見込む日本企業は、通常、株式会社の形態を選択することになります。

チュニジアの法制度が設立段階から厳格な自己資本を要求しているという事実から、同国の法体系には債権者保護を極めて重視する伝統が色濃く残っているということが言えるでしょう。以下は、チュニジアの株式会社と日本の株式会社における、機関設計や基本要件の直接的な比較を示す表です。

比較項目チュニジア共和国(株式会社:SA)日本(株式会社)
最低資本金5000チュニジア・ディナール(公募時は50000)制限なし(1円から設立可能)
取締役の資格株主である必要はない(従業員の就任も可)株主である必要はない
取締役の最大任期3年2年(非公開会社は定款で最長10年まで伸長可)
業務執行調査権の要件資本金の10パーセントを保有する少数株主総株主の議決権又は発行済株式の3パーセント(一定の場合は1パーセント)

チュニジアにおける株式会社の機関設計とガバナンス体制

チュニジアにおける株式会社の機関設計とガバナンス体制

チュニジアの商事会社法は、株式会社の機関設計について、伝統的な「取締役会(単層制)」と、経営と監督を分離する「経営陣及び監査役会(双層制)」の二つのモデルを用意しており、企業は定款によっていずれかを選択することができます。

単層制を選択した場合、会社は3名以上12名以下のメンバーから構成される取締役会によって管理されます。商事会社法第189条から第191条の規定によれば、取締役は株主総会において最大3年の任期で選任されます。日本法とは異なり、取締役に就任するために必ずしも株主である必要はなく、会社の従業員が取締役を兼任することも認められています。ただし、特定の個人に権限が過度に集中することを防ぐため、一人の自然人がチュニジア国内に本店を置く株式会社の取締役を同時に8社を超えて兼任することは法律で明確に禁止されています。取締役会は、会社の業務執行を担う経営チーム(最高経営責任者など)を任命し、その業績を評価し、報酬を決定し、必要に応じて解任する権限を持ちます。

他方で、より高度なガバナンスを追求する企業や大規模な企業向けに用意されているのが、双層制(経営陣及び監査役会)の仕組みです。この形態では、最大5名のメンバーで構成される「経営陣」が実際の業務執行を担い、その職務執行を「監査役会(監督取締役会)」が監督するという厳格な機能分離が図られています。経営陣のメンバーは監査役会によって最大6年の任期(再任可)で選任され、監査役会は株主総会において選任されます。

日本の「指名委員会等設置会社」や「監査等委員会設置会社」も監督と執行の分離を志向した制度ですが、チュニジアの双層制は、監査役会のメンバーが経営陣を兼任することを法律で完全に禁じており、業務執行と監督の人的な分離がより徹底されているのが特徴です。この仕組みにより、経営の客観性と透明性が強く担保されています

チュニジアにおける経営陣の選任及び解任に関する実務

コーポレートガバナンスの実効性を担保するためには、経営陣の責任追及や解任のメカニズムが適切に機能することが不可欠です。チュニジアの商事会社法では、経営陣や最高経営責任者を取締役会がいつでも解任できると規定されています。日本の会社法第339条においても、役員は株主総会の決議によっていつでも解任できるとされており、一見すると両国の法制度は同じように見えます。しかし、チュニジアにおける実務上の運用は、最高裁にあたる破毀院の判例によって、極めて独自の発展を遂げています。

日本法では、正当な理由なく取締役を解任した場合、会社は当該取締役に対して残存任期分の報酬相当額を損害賠償として支払う義務を負うにとどまるのが一般的です。これに対しチュニジアでは、解任の「手続き的適正さ」が欠如していた場合、会社が不法行為責任を問われ、精神的苦痛(モラル・ダメージ)に対する損害賠償まで命じられるという厳格な判例が確立しています。

チュニジアのコーポレートガバナンスの実態を理解する上で避けて通れないのが、2018年にチュニジア破毀院が下した重要な判決です。

当事者名及び判決情報:会社対元最高経営責任者、チュニジア破毀院、判決番号第57563号、2018年6月11日判決

この事案は、2002年から長年にわたり株式会社の最高経営責任者を務めていた人物が、大株主との対立を背景に、取締役会によって突如として解任されたケースです。解任された元最高経営責任者は、この急な解任措置が自身の名誉を毀損する不当なものであるとして、損害賠償を会社に求めました。会社側は、商事会社法の規定を根拠に「取締役会はいつでも理由を示すことなく最高経営責任者を解任する絶対的な権限を有している」と主張し、合法的な手続きであることを強調しました。

しかし、破毀院はこの会社側の主張を明確に退けました。破毀院は、取締役会が最高経営責任者の言い分を聴取する機会を与えずに解任を決議したことは、「防御の権利」及び「当事者対等の原則」という基本的人権に等しい重大な権利の侵害にあたると判示しました。そして、会社側のこの行為は契約法上の「権利の濫用」に該当するとして、会社に対して損害賠償の支払いを命じる下級審の判断を支持したのです。

チュニジア破毀院の公式な判決や関連情報は、同院の公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:チュニジア破毀院の公式ウェブサイト

この判例の存在から、チュニジアにおいては、明文の法律上はいつでも役員を解任できるとされていても、実務上は解任対象者に対して事前に弁明の機会を付与するなどの適正手続きを踏まなければ、会社が多額の賠償責任を負うリスクがあるということが言えるでしょう。日本人経営者がチュニジアの子会社において現地の役員を更迭する際には、日本的な感覚で即日解任の決議を行うことは極めて危険であり、現地の労働慣行や判例法理に則った慎重なプロセスが求められます。

チュニジアにおける監査体制と専門委員会の設置義務

チュニジアにおける監査体制と専門委員会の設置義務

チュニジアにおける監査体制は、外部監査人としての「法定監査人」の選任と、社内機関としての「監査委員会」の設置という二本柱で構成されています。

すべての株式会社は、商事会社法第13条及び第260条の規定に基づき、原則として3年の任期で法定監査人を選任する義務を負います。法定監査人は、会社の財務諸表の正確性を担保する重要な役割を担っており、取締役や経営陣の親族などが就任することは利益相反の観点から厳格に禁止されています。また、同一の監査人による長期にわたる監査業務を制限するため、連続して就任できる任期に上限が設けられており、監査の独立性が制度的に保護されています。

さらに、公募を行う大規模な株式会社に対しては、2005年の商事会社法改正により、恒常的な監査委員会の設置が商事会社法第256条の2によって義務付けられました。この監査委員会は、財務報告プロセスの監視や内部統制システムの評価において中核的な役割を果たします。チュニジアのコーポレートガバナンス・ガイドラインによれば、監査委員会は少なくとも3名のメンバーで構成され、そのうち最低1名は会社から独立した「独立役員」でなければならないと強く推奨されています。監査委員会は、法定監査人と密接に連携し、会社の直面する財務的及び税務的なリスクを事前に把握・評価することが求められています。

チュニジアの金融セクターにおける改革と厳格なガバナンス対策

チュニジアのコーポレートガバナンスを牽引しているのが、金融セクターにおける先進的な取り組みです。チュニジア中央銀行は、国営銀行や商業銀行における業績改善やリスク管理の甘さを是正するため、ガバナンスに関する強力な規制を段階的に導入してきました。

その嚆矢となったのが、2011年に発出された通達(Circular 2011-06)です。この通達により、すべての金融機関は取締役会に最低2名の独立取締役を選任することが義務付けられました。加えて、監査委員会、リスク委員会、クレジット委員会という3つの専門委員会を設置することが法的に強制され、経営陣に対する監視機能が大幅に強化されました。

さらに2021年には、金融機関に対するより包括的で厳格なガバナンス枠組みを定める通達(Circular 2021-05)が施行されました。この新しい通達では、取締役会会長と最高経営責任者の職務の完全な分離が求められ、特定の個人への権限集中を排除する仕組みが構築されています。また、コンプライアンス体制の抜本的な強化や、不良債権の予防と解決に向けた早期警戒システムの構築など、極めて実務的かつ具体的な要件が金融機関に課せられています。

金融セクターにおける先駆的なガバナンス要件は、現時点では銀行や金融機関に限定されていますが、チュニジアにおけるガバナンスのベストプラクティスとして、将来的に一般の事業会社にも波及していくことが予想されます。最新の金融ガバナンス規制に関する詳細な通達文書は、チュニジア銀行・金融機関協会の公式ウェブサイトなどで確認することができます。

参考:チュニジア銀行・金融機関協会公式ウェブサイト

チュニジアにおける少数株主の保護と経営権の監視メカニズム

チュニジアにおける少数株主の保護と経営権の監視メカニズム

海外進出において、日本企業が現地パートナーと合弁会社を設立し、マイノリティ出資(少数派株主)となるケースは少なくありません。このような場合、自社の投資資金が不正に流用されていないか、現地の経営陣が適切な業務執行を行っているかを監視するための法的手段がどの程度確保されているかが投資判断の重要な鍵となります。

チュニジアの商事会社法には、「経営鑑定」と呼ばれる強力な少数株主保護制度が存在します。これは、会社の特定の経営判断や取引に疑義がある場合、少数株主が裁判所に対して専門家(鑑定人)の選任を申し立て、客観的な調査報告書の作成を求めることができる権利です。日本の会社法に規定されている「業務財産検査役の選任」に相当する制度であり、経営陣の不正や重大な任務懈怠を牽制する効果があります。

しかし、この権利を行使するためのハードルは、日本法と比較して非常に高く設定されています。日本の会社法第358条では、総議決権又は発行済株式の「3パーセント」(非公開会社などの要件によっては1パーセント)以上を保有する株主であれば、裁判所に対して検査役の選任を申し立てることが可能です。これに対し、チュニジアの商事会社法第139条(有限会社向け)及び第290条の2(株式会社向け)では、この経営鑑定を申し立てるために資本金の「10パーセント」以上を保有していることが厳格に要求されます。

この法的な差異から、日本企業がチュニジアの企業に10パーセント未満の少額出資を行う場合、現地の制定法だけに依存していては、経営に対する十分な調査権限や監視権限を行使できないということが言えるでしょう。したがって、出資比率が低いマイノリティ投資を行う場合には、会社法上の権利不足を補うために、投資契約や株主間協定において、詳細な情報開示請求権や独自の会計監査権限、さらには重要な意思決定に対する拒否権などを明記しておくなど、契約実務を通じたガバナンスの補完が絶対的に不可欠となります。

チュニジアの課題と投資環境の改善に向けた展望

チュニジアにおけるコーポレートガバナンスは、金融セクターを中心に急速な近代化が進んでいる一方で、銀行セクター以外の一般事業会社においては、法制度の理念と実際の執行体制との間に依然としてインフラ整備が道半ばである側面も否めません。とりわけ、伝統的な家族経営の色彩が強い企業においては、所有と経営の分離が十分に機能しておらず、少数株主の保護や経営の透明性確保に向けた課題が残されています。

こうした現状を打破するため、チュニジア政府は外国直接投資を呼び込み、経済の活性化を図る一環として、2019年に法律第47号を制定し、投資環境の抜本的な改善に乗り出しました。この法改正は、商業会社のガバナンス強化を中核的な柱の一つに据えており、特定の要件を満たす企業に対する独立取締役の登用促進や、利益相反取引に関する監査の厳格化など、経営の透明性を飛躍的に高めるための措置が盛り込まれています。これらの継続的な法制度のアップデートは、チュニジアが自国のコーポレートガバナンスを国際的な標準に適合させようとする強い意志の表れであり、長期的に見れば日本企業にとってもより予測可能性が高く、安全な投資環境が整備されていくことが期待されます。

まとめ

チュニジアのコーポレートガバナンスは、フランス法の伝統を受け継ぐ商事会社法を強固な基盤としつつ、度重なる法改正や中央銀行の強力な指導によって、透明性と健全性の向上が図られています。本記事で解説したように、株式会社には単層制と双層制という異なる機関設計が用意されており、日本の会社法とは似て非なる厳格な要件や機能分離が存在します。とりわけ実務上留意すべきは、取締役や最高経営責任者の解任に際して防御の権利を重んじる独自の判例法理が確立しており、適正手続きを欠いた解任は会社に多額の賠償リスクをもたらすという点です。また、少数株主が法的な調査権限を行使するための要件が日本よりも著しく高い10パーセントに設定されている点など、マイノリティ投資を行う際には契約による強力な手当てが必要となります。

チュニジアにおけるビジネスを成功に導くためには、単に現地の法令を字面通りに解釈するだけでなく、背後にある法理や実務慣行、最新の法改正の動向を総合的に把握することが求められます。モノリス法律事務所では、チュニジア共和国をはじめとするアフリカや中東地域へのビジネス展開を検討される日本企業の皆様に対し、現地のコーポレートガバナンス要件への適合に向けた助言や、合弁契約における少数株主権の効果的な確保など、多岐にわたる法務面からのサポートいたします。未知の法域への進出には特有の不確実性が伴いますが、適切な法的枠組みとガバナンス体制を事前に構築することで、そのリスクを最小限に抑え、事業の成功確率を高めることが可能です。現地の法制度と日本法との違いを踏まえた、戦略的かつ安全な海外展開の実現に向けて、尽力いたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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