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カザフスタンの広告規制を弁護士が解説

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カザフスタンの広告規制を弁護士が解説

カザフスタン共和国(以下、カザフスタン)は中央アジアにおける最大の経済規模を誇り、豊富な天然資源と急速なデジタル化を背景に、多くの日本企業が新たなビジネス展開の有力な候補地として注目しています。しかしながら、カザフスタンへの市場参入やマーケティング活動を計画するにあたり、最も留意すべき法務リスクの一つが、現地における極めて厳格な広告規制への対応です。カザフスタンの広告規制は、基本法である「広告法」を中心として、2023年に新たに施行された「オンラインプラットフォームおよびオンライン広告に関する法」によって緻密かつ強力に管理されています。

まず第一に、言語に関する厳格な義務が挙げられます。カザフスタンにおける広告は、原則として国家語であるカザフ語での表示が法的に義務付けられており、必要に応じてロシア語等の併記が認められるという、日本にはない強力な言語要件が存在します。

第二に、特定の業種に対する広告規制が極めて厳格です。タバコの広告は原則として全面的に禁止されており、アルコールや酒類についても国産ワインに限り深夜帯(22時から翌6時)などの限定的な条件でのみテレビやラジオでの放送広告が認められるなど、物理的な露出や時間が法律で直接制限されています。また、ギャンブルや医療関連の広告についても、厳しい事前承認や媒体の制限が課されています。

第三に、デジタルマーケティングの普及に伴うオンライン広告とインフルエンサーに対する最新の規制強化があります。SNS等のスポンサーコンテンツやターゲティング広告には、それが広告である旨の明確なラベリング(表示の明示)が義務付けられています。さらに、18歳未満の未成年者を対象としたターゲティング広告や、人種や健康状態などの機微な個人データに基づくプロファイリングは全面的に禁止されています。また、影響力のあるインフルエンサーやブロガーに対しては、広告収入に対する明確な納税義務と財務記録の保持が求められており、1日10万ユーザーを超える主要なSNS等のプラットフォーム事業者は、カザフスタン国内に法人の代表者を置くことが義務付けられています。

これらの全体像を踏まえ、現地の法令に完全に準拠したマーケティング戦略を構築することが、カザフスタンでのビジネスを成功させるための必須条件となります。本記事では、カザフスタンの広告規制の全体像と日本法との重要な違いについて詳細に解説いたします。

カザフスタンにおける広告規制の内容と言語および価格表示の義務

カザフスタンにおけるすべての広告活動の基盤となるのが「広告法」です。カザフスタンの法律において広告とは、形式や手段を問わず商品やサービスに対する関心を形成し維持することを目的とする情報を指し、提供される瞬間に特別な知識なしに広告として認識できるものでなければならないと定められています。この原則は、日本の景品表示法におけるステルスマーケティング規制と目的を共有していますが、本件国ではより広範な広告の定義として基本法に組み込まれています。

カザフスタンの規制の中で日本企業が最初に直面する最も特徴的なハードルが、厳格な言語要件です。広告法第6条および「カザフスタン共和国における言語に関する法律」第21条により、国内の広告は原則としてカザフ語で提供されなければならず、広告主の裁量によってロシア語やその他の言語の併記が認められています。内容を他言語に翻訳する際には、元々の広告の趣旨を歪めてはならないという規定も存在します。日本の法律では広告に使用する言語を限定する法的な義務は存在せず、マーケティング目的で外国語のみのキャッチコピーを自由に展開できますが、カザフスタンにおいては事情が異なります。

これらの厳格な言語規定から、カザフスタンは国家語の保護を通じた文化的アイデンティティの維持と主権の確立を極めて重視しているということが言えるでしょう。ただし、適法に登録された商標やロゴマークに関しては、原語のままでの表示が例外的に認められています。

規制項目カザフスタンの規定日本の規定との比較
使用言語の義務カザフ語の表示が必須。ロシア語等の併記は任意。翻訳による意味の歪曲は禁止。法的義務なし。表現の自由の範囲内で任意の言語を使用可能。
商標・ロゴの特例適法に登録された商標・ロゴは原語のまま使用可能。制限なし。
価格・料金の表示国内で販売される商品・サービスの広告価格は法定通貨「テンゲ」での表示が必須。円建て表示が一般的だが、外貨建て参考価格の併記等も状況により許容される。

さらに、価格表示に関しても厳格なルールが存在します。カザフスタンの領域内で販売される商品や提供されるサービスの広告において、価格や料金を表示する場合は、必ずカザフスタンの法定通貨である「テンゲ」で表記しなければなりません。

カザフスタンにおける不当表示の禁止と広告表現の法的基準

カザフスタンにおける不当表示の禁止と広告表現の法的基準

カザフスタンの広告法第7条は、消費者の保護と公正な市場競争の維持を目的として、不当な広告を詳細に分類し厳しく禁止しています。具体的には、広告を「不公正な広告」「不正確な広告」「非倫理的な広告」の三つのカテゴリーに分類しています。

不公正な広告とは、自社の商品やサービスを他者のものと不当に比較する表現や、他者の名誉やビジネス上の評判を傷つける表現を含むものを指します。また、自社の商品を利用しない人々を差別したり嘲笑したりするような表現も明確に禁止されています。日本の景品表示法においても優良誤認や有利誤認に基づく不当な比較広告は規制されていますが、カザフスタンでは競争相手に対する名誉毀損的な要素や、特定の消費者層を嘲笑する行為に対する禁止が法律上でより直接的かつ具体的に明文化されています。

不正確な広告(虚偽表示)については、商品の性質、成分、製造方法、認証の有無などに関する事実に反する情報の提供が該当します。市場に存在しない商品を宣伝することや、国家の象徴(国旗、国章、国歌)を商業広告に不当に利用する権利を主張することも違法行為とされています。また、客観的な根拠のない統計データを誇張して提示することも厳しく禁じられており、透明性の高い情報提供が求められています。

カザフスタンにおける特定業種に対する全面的な禁止と厳格な制限

日本法とカザフスタンの法律を比較した際、最も顕著な違いが現れるのが、国民の健康や公序良俗に直接的な影響を与える特定業種に対する広告規制の度合いです。日本では業界団体の自主規制ガイドラインに基づく時間帯の配慮等に委ねられる部分が大きいですが、カザフスタンでは法律によって物理的な露出や放送時間帯そのものが直接的に制限、あるいは完全に禁止されています。

タバコおよび酒類に関する強力な制限

タバコおよび関連製品の広告は、カザフスタンにおいて原則として全面的に禁止されています。アルコール製品に関しても厳しい制約が課されており、未成年者へのサンプル配布や、アルコールを消費しているプロセスそのものを広告映像内で描写することが禁止されています。テレビやラジオにおけるアルコール広告の放送は、原則として深夜の23時から翌朝6時までの時間帯にのみ許可されています。また、広告には保健当局が承認した「健康への悪影響に関する警告文」を明確に付す必要があり、テレビ広告の場合は画面全体の10パーセント以上の面積を占め、かつ3秒以上表示させなければならないという厳密な数値基準が存在します。

なお、国産ワインに関しては別途限定的な条件で放送広告が認められていますが、アニメーションの利用禁止や、ワインに医療効果があると主張することの禁止など、細部にわたる表現の制限が設けられています。

ギャンブルおよび医療分野の情報統制

ギャンブルに関する広告規制も近年さらに強化されています。カザフスタンの広告法第5条の1の規定により、電子カジノおよびインターネットカジノの広告は全面的に禁止されています。さらに2024年の新たな法規制動向として、ブックメーカーやトータリゼーター(スポーツ賭博等)の屋外広告やマスメディア、インターネット上での宣伝活動を原則として禁止・縮小し、スポーツ施設内や選手が着用するユニフォーム等に限定する法案が推進されています。

医療・医薬品に関しても、広告法および「国民の健康と医療システムに関する法典」によって保健当局の厳格な事前承認と統制下に置かれています。特定の病気の確実な治癒を保証するような表現や、消費者の不安を煽るような非倫理的な表現は固く禁じられており、適応症などの正確な情報の提供が義務付けられています。

カザフスタンのオンライン広告とインフルエンサーに対する法規制

カザフスタンのオンライン広告とインフルエンサーに対する法規制

2023年に施行された「オンラインプラットフォームおよびオンライン広告に関する法」は、デジタル空間におけるユーザーの権利保護と透明性の確保を目的とした画期的な法律です。

ターゲティング広告とプロファイリングの禁止事項

本法律の最も革新的な側面は、ターゲティング広告におけるプロファイリングの厳格な制限です。人種、国籍、政治的見解、健康状態に関する情報、さらには個人を特定できる生体認証データに基づくプロファイリングを用いたターゲティングは禁止されています。さらに、プラットフォーム側によって18歳未満の未成年者であると識別されたユーザーに対して、ターゲティング広告を配信することも直接的に禁止されています。日本の個人情報保護法がデータの取得と利用目的の同意プロセスに重点を置いているのに対し、カザフスタンでは特定の機微なデータを利用した広告配信そのものを一律に禁止しており、未成年者の保護と基本的人権の尊重を最優先するアプローチが採用されています。

インフルエンサーに対する表示義務と納税制度

オンライン上で活動する影響力のあるブロガーやインフルエンサーに対する規制も大幅に強化されました。オンラインプラットフォーム上で展開されるスポンサーコンテンツやオンライン広告は、それが広告であることを識別できるように明確にマーキング(ラベリング)されなければなりません。インフルエンサーが商品やサービスの独占的な利用条件を享受している場合なども広告に該当し、「жарнама(カザフ語で広告の意)」や「на правах PR(PRの権利において)」といった具体的なテキスト表示が義務付けられています。

また、カザフスタンはインフルエンサーの経済活動を正式な課税ベースに組み込む措置を講じています。年間収入が一定の基準(法定の最低賃金の12倍等)を超えるインフルエンサーは、個人事業主(IP)として正式に登録し、財務記録を保持した上で税務申告を行う義務を負います。

課税制度の区分対象となるインフルエンサー・ブロガーの条件適用される税率の目安
自営業者(自己雇用)年間収入が一定水準(約1500万テンゲ相当)以下の小規模な活動を行う者。個人からの収入は4パーセント、法人からの収入は6パーセント。
個人事業主(IP)登録年間収入が法定最低賃金の12倍を超えるなど、本格的な事業規模で活動する者。簡易課税制度を選択した場合、得られた全収益に対して6パーセント。

プラットフォーム事業者に課せられる法的義務

1日あたり10万ユーザーを超える主要なSNS等のプラットフォーム事業者に対しても、厳重な法的義務が課されています。これらの大規模プラットフォーム事業者は、カザフスタン国内に法人の代表者を置くことが義務付けられており、国内の法執行機関との迅速な連携体制を構築する必要があります。また、ユーザーがオンライン広告を容易に識別できる技術的な機能(自動マーキング等)を提供し、配信された広告に関する情報を保存する安全なデータストレージを維持しなければなりません。違法なコンテンツやサイバーいじめが発見された場合には、所管官庁からの命令に従い24時間以内に削除するなどの迅速な対応が求められます。

法律違反に対するカザフスタンの行政罰と実際の裁判例

カザフスタンにおける広告法制への違反は、行政違反法典第455条に基づく直接的な行政処罰と罰金刑の対象となります。罰金の額は違反を犯した主体の規模(個人、小規模事業者、中規模事業者、大規模事業者)に応じて細かく階層化されており、企業の規模が大きくなるにつれて飛躍的に増大する仕組みが採用されています。言語要件の違反、不当表示、規定外の時間帯での放送、法律で禁止されている商品(違法ギャンブル等)の広告などに対して、厳格な法執行が行われています。

具体的な実務上の適用例として、カザフスタンの行政管轄を担う裁判所においてインターネット事業者に対して適法な取り締まりが行われた事例が存在します。2023年9月15日にアルマトイ市専門行政裁判所(Specialized Inter-district Administrative Court of Almaty)において審理された事案(当事者:カザフスタン国内のインターネット通信販売事業者)では、当該事業者が自社のウェブサイト上で法律により広告が禁止されている「冷兵器(刃物類)」に関する広告を違法に掲載したとして、行政違反法典第455条に基づき有罪判決と罰金刑が言い渡されました。この事案に関する現地の報道記録は、カザフスタンの情報ポータルサイトの記事で確認することができます。

参考:カザフスタンの情報ポータルサイト(Inform.kz)の報道記事

この裁判例から、カザフスタンの当局はインターネット上の事業活動であっても常時監視体制を敷いており、広告規制の違反に対しては容赦なく行政罰を科しているということが言えるでしょう。

まとめ

本記事で解説してきたように、カザフスタンにおける広告規制は日本法と比較して極めて厳格かつ広範な領域に及んでいます。国家語であるカザフ語の使用義務から始まり、酒類やタバコおよびギャンブルといった特定業種に対する全面的な禁止や時間帯制限、さらには不当表示や差別的表現に対する厳しい監視体制が法律によって明確に規定されています。また、2023年に施行されたオンラインプラットフォームおよびオンライン広告に関する法によって、ターゲティング広告における機微データのプロファイリング禁止や未成年者保護、インフルエンサーに対するラベリング義務や納税義務、そして1日10万ユーザーを超えるプラットフォーム事業者の国内代表者設置義務など、デジタル空間における規制も急速かつ緻密に整備されました。

これらの法規制に違反した場合、事業者の規模に応じた高額な罰金が科されるだけでなく、違法な広告の即時削除やビジネスのブランドイメージに対する致命的なダメージを被るリスクが存在します。日本の法律や自主規制を前提とした商習慣の感覚のままカザフスタンでマーケティング活動を展開することは多大な法務リスクを伴うため、事前の綿密な法的検討が不可欠です。

モノリス法律事務所では、カザフスタンでのビジネス展開やデジタルマーケティングの実施を検討されている日本企業の皆様に対して、現地の広告規制への適合性に関する調査や、法務コンプライアンス体制の構築などを法的な側面からサポートいたします。言語要件の確認やインフルエンサーを起用したプロモーションの適法性チェックなど、複雑な現地の法令に準拠した安全なビジネス展開を実現するための助言を提供することが可能ですので、カザフスタンにおける広告展開に不安や疑問をお持ちの企業様はぜひ一度ご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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