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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

【令和8年10月】生成AIの学習データ開示を求める内閣府「プリンシプル・コード」の三原則を解説

内閣府は令和8年(2026年)10月26日から、「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(基本原則)」の受け入れ届出の受付を開始しました。この基本原則は、生成AI事業者に対し、学習方法やデータの種類などの概要開示と、一定の場合における権利者・AI利用者からの照会への回答を促すものです。

では、このプリンシプル・コードは、どのような事業者を対象とし、どのような情報開示や照会対応を求めているのでしょうか。この記事では、制度の対象と3つの原則について、分かりやすく解説します。

その生成画像、誰かの権利を侵害しているかも…?

今や、多くの企業や個人が、文章作成や画像制作などのさまざまな用途に生成AIを利用するようになりました。ですが、生成AIがどのようなデータを、どのような方法で学習したのかは、外部から把握しにくいのが実情です。

「生成されたこの画像、誰かの作品に似ていないだろうか」

「この文章の元になった情報に、著作権上の問題はないだろうか」

生成AIを利用する際には、このような不安や懸念が生じ得ます。特に企業が、生成AIで作成した画像や文章を広告、ウェブサイト、商品・サービスなどに利用する場合、第三者の著作権を侵害すれば、差止請求や損害賠償請求、企業イメージの低下といった大きな問題に発展しかねません。

他方で、新聞社やイラストレーターなどの権利者にとっても、自社の記事や作品が生成AIの学習に利用されているのか、また、どの生成AI事業者に確認すればよいのかが分かりにくいという問題があります。

さらに、生成AI事業者にとっては、学習データや開発手法に営業秘密や安全性に関わる情報が含まれるため、全てを公開することも現実的ではありません。このため、権利者やAI利用者が必要な情報を確認できず、適切な対応を取りにくいという問題があります。

そこで定められたのがこの基本原則です。

ブラックボックス化する生成AIの学習プロセス

ブラックボックス化する生成AIの学習プロセス

プリンシプル・コードの内容を理解するには、生成AIの学習と著作権をめぐって、なぜ「透明性」が求められているのかを押さえる必要があります。

多くの学習データを基に文章や画像を生成

生成AIは、文章、画像、音声、動画、プログラムなど、大量のデータからパターンを学習し、新たなコンテンツを生成します。そのため、学習に使われたデータの種類や取得方法、ウェブサイトを収集するクローラの運用は、権利者や利用者にとって重要な情報になります。

もっとも、生成AIの学習には技術的・事業上の情報が含まれます。全てのデータや詳細な開発手法を公開すればよいという単純な問題ではありません。透明性の確保と、営業秘密・安全性の保護をどのように両立させるかが課題になります。

権利者もAI利用者も、必要な情報を確認しにくい

例えば、新聞社やイラストレーターが、自社の記事・作品と同一または類似するAI生成物を見つけたとしても、その記事や作品が学習データに含まれているかを外部から確認することは容易ではありません。

また、企業が生成AIで作成した画像や文章を広告・商品・サービスに使おうとする場合、既存コンテンツとの類似が問題になることがあります。このとき、利用したAIサービスが、類似する既存コンテンツを学習・検証データとして扱っていたかを確認したい場面も考えられます。

こうした「確認の難しさ」を和らげるために設計されたのが、生成AI事業者による概要開示と照会対応の仕組みです。

生成AIのプリンシプル・コードとは

ここでは、制度の正式名称と、法律ではなく自主ルールとして設計されたことを説明します。制度の位置付けや法的拘束力の有無について解説します。

生成AIの知財保護と透明性を目的とする基本原則

正式名称は、「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」です。生成AI技術の進歩と知的財産権の適切な保護を両立させ、権利者・利用者が安心して生成AIを利用できる環境を整えることを目的としています。

2026年10月26日から、コードを受け入れる生成AI事業者による届出の受付が始まりました。

参考:内閣府|生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード

法的義務がない「コンプライ・オア・エクスプレイン」方式

本コードは、法律上の義務や行政処分の根拠になるルールではありません。事業者が自主的に受け入れることを前提とした、法的拘束力のない原則です。

もっとも、事業者が原則を受け入れる場合は「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守するか説明するか)」の考え方に基づきます。すなわち、原則を実施するか、実施しない場合には理由を説明する仕組みです。受入れ事業者は、受入れ表明、各原則への対応、実施しない原則があればその理由を自社サイトなどで公表し、内閣府へ届け出ます。

内閣府は、届出事業者の一覧と、各社が公表したページへのリンクを掲載します。ただし、届出内容そのものを審査する制度ではありません。

プリンシプル・コードが対象とする範囲

対象となる事業者は、生成AIシステムを公衆に実質的に提供する「生成AI開発者」と、生成AIを組み込んだサービスを公衆に提供する「生成AI提供者」です。日本向けにサービスを提供する海外事業者も対象に含まれます。

一方で、社内など限られた範囲だけで、自社保有データのみを使う生成AIシステム・サービスは、原則として対象外です。単に一般向け生成AIを利用する企業は直接の対象ではありませんが、顧客向けに自社の生成AIサービスを提供する場合には、対象となる可能性があります。

プリンシプル・コードが定める3つの原則

本コードは、抽象的に「透明性を高める」ことだけを求めるものではありません。情報の概要開示、権利者からの照会、AI利用者からの照会という3つの場面に分けて、生成AI事業者に対応を促しています。

原則1:学習方法・データの種類・知財保護措置の概要開示

事業者は、モデルの名称・来歴・トレーニング方法、学習・検証データの種類や収集方法、クローラーに関する情報などの概要を、誰でも閲覧できるウェブサイトで開示します。

学習データについては、テキスト・画像・音声・動画といったデータの種類、ウェブクローリングの有無、非公開データセット・公開データセット・合成データの利用などの情報が想定されています。また、robots.txtやペイウォールへの対応、海賊版サイトの回避、学習ログの保存、出力による権利侵害を防ぐ技術的措置、電子透かし・C2PA、権利者の相談窓口といった知財保護の取組も開示対象です。

ただし、営業秘密や安全性・セキュリティに関わる機微情報の開示を強制するものではありません。開示できない事項がある場合には、その理由を説明します。つまり、これは「学習データの全件リストを公開する制度」ではなく、学習方法や保護措置について、比較・確認可能な水準の情報を公表する仕組みです。

原則2:法的手続を進める権利者からの照会への回答

映画、音楽、文芸、写真、漫画、アニメ、ゲーム、プログラムなどの権利者で、訴訟、調停、ADRその他の法的手続きを現に行い、または準備している者は、一定の要件を満たした場合に照会できます。

権利者がURLなどを特定して照会した場合、生成AI事業者は、そのURLなどの情報が学習・検証データに含まれているかについて、事業者が容易に確認できる範囲で回答します。生成AIサービス提供者が回答できない場合には、モデル開発者の名称を示すことも求められます。

これは、単に「自分の作品は学習されたでしょうか」と広く問い合わせるための制度ではありません。権利者は、法的手続との関係、回答の利用目的、照会するURLなどを特定する必要があります。また、事業者に詳細な学習データ全体の開示までを求めるものではありません。

原則3:AI利用者からの照会に回答

生成AIを使って画像や文章などのコンテンツを作成した利用者が、自らの生成物と同一または類似する既存コンテンツを発見した場合、一定の要件を満たすことで、そのコンテンツの掲載URLなどについて照会できます。

AI利用者は、生成物、使用したプロンプト、回答の利用目的、照会対象となるURLなどを示します。生成AI事業者には、照会されたURLなどが学習・検証データに含まれるかについて、確認可能な範囲で回答することが求められます。

これは、AI利用者が生成物を利用する際のリスクを確認するための仕組みです。原則2のように、権利者が法的手続を準備する場合の照会とは、目的と要件が異なります。また、原則3に基づく回答を、訴訟・調停・ADRの申立て目的で利用しない旨の誓約が必要です。

権利者・AI利用者は何を確認できるのか

では、実際にどのような情報を確認できるのでしょうか。自分の作品に似たAI生成物を見つけた権利者と、AIで生成したコンテンツの利用を検討する企業、それぞれのケースを具体的に見ていきましょう。

権利者が、自作と類似するAI生成物を見つけた場合

例えば、イラストレーターが、自作と同一または類似するAI生成画像を発見した場合を考えてみましょう。法的手続を行うまたは準備する段階であれば、自作を掲載したウェブページのURLなどを示し、そのドメインがクローリング対象又は第三者提供データの取得源に含まれていたかを照会できます。

その前提として、どの生成AI事業者がコードを受け入れているか、どのような照会窓口・対応方針を公表しているかを確認する必要があります。また、回答は著作権侵害の有無を自動的に決めるものではなく、事実確認や法的対応を検討するための手がかりの一つです。

AI利用者が、生成物と似た既存コンテンツを見つけた場合

例えば、企業が画像生成AIで作成した広告用画像と類似する既存画像を見つけた場合を考えます。AI利用者は、生成物、プロンプト、利用目的、既存画像のURLなどを示して照会できます。

回答によって確認できるのは、既存画像が掲載されたURLのドメインが、クローリング対象や学習データの取得源に含まれていたかといった情報です。個別の画像そのものが学習されたかどうかまで確認できるとは限りません。

プリンシプル・コードの企業への影響と実務上のポイント

企業への影響と実務上の確認ポイント

プリンシプル・コードは、生成AIを開発・提供する企業だけでなく、AIサービスを利用する企業やコンテンツの権利者にも関わるものです。それぞれの立場で、どのような点を確認しておくべきなのでしょうか。

生成AIサービスを開発・提供する企業が確認すべきこと

生成AIサービスを開発・提供する企業は、まず自社が「生成AI開発者」または「生成AI提供者」に当たるかを確認します。受入れ表明を行う場合には、モデル、学習データ、クローラ、知財保護措置について、どの範囲まで概要開示するかを整理する必要があります。

また、原則2・3の照会に対応できるよう、学習・検証データに関する記録、窓口、社内の担当体制、モデル提供元との役割分担を整えることが重要です。実施が難しい原則があれば、単に利用規約で制限するのではなく、実施しない理由を説明する必要があります。

生成AIを利用する企業・コンテンツ権利者が確認すべきこと

一般的なAI利用企業は、直ちに本コードに基づく新たな法的義務を負うわけではありません。ただし、利用するAIサービスが、どのような透明性・知財保護の取組を公表しているかは、サービス選定、利用ルール、生成物の利用リスクを検討する材料になります。

自社のコンテンツが無断学習・権利侵害に関わる懸念を持つ場合には、問題となる生成物や自社コンテンツ、URLなどの証拠を保存した上で、提供事業者の窓口や公開された対応方針を確認します。

プリンシプル・コードの限界と今後の注目点

プリンシプル・コードによって、生成AIの透明性はどこまで高まるのでしょうか。期待される効果とともに、法的拘束力や情報開示の範囲など、制度の限界についても見ていきましょう。

直ちに制裁や損害賠償責任が生じるルールではない

コードは法律ではなく、自主的な受け入れを前提とするものです。情報開示をしなかっただけで行政罰が科される制度ではありません。

一方で、受入れ事業者と開示ページが公表されるため、透明性への取り組みが市場や利用者から評価されることが期待されています。今後、コードを受け入れる事業者がどの程度増えるか、また、各社がどの程度具体的な開示・照会対応を行うかが注目されます。

開示・回答の対象と範囲には限界がある

営業秘密や安全性・セキュリティに関わる情報の強制開示は予定されていません。原則2・3の回答も、事業者が容易にアクセス・確認できるURLなどに関する情報が中心です。

また、本コードは、権利侵害の有無や損害賠償責任の有無を判断する制度ではありません。著作権侵害などが実際に生じているかは、別途、著作権法その他の法令や具体的な事実関係に基づいて判断されます。本コードは、そうした判断や法的対応の前提となる情報を得やすくするための仕組みと位置付けられます。

まとめ:プリンシプル・コードについては専門家に相談を

プリンシプル・コードは、生成AI事業者に対して、学習方法やデータの種類、知的財産権の保護に関する取組の概要開示と、権利者・利用者からの一定の照会への対応を促す自主ルールです。法的拘束力はありませんが、生成AIの透明性を高め、権利者・利用者・事業者の相互理解を促すことが期待されています。

一方で、実際の対応にあたっては、自社がコードの対象となるか、どの範囲まで情報を開示するか、権利者や利用者からの照会にどう対応するかなど、さまざまな検討が必要です。また、生成AIを利用する企業にとっても、生成物の著作権侵害リスクや、既存コンテンツの利用に関する法的な問題は無視できません。

プリンシプル・コードへの対応や生成AIをめぐる知的財産権の問題について不安がある場合には、生成AIや著作権に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に豊富な経験を有する法律事務所です。近年、著作権をめぐる知的財産権は注目を集めており、リーガルチェックの必要性はますます増加しています。当事務所では知的財産に関するソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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