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巧妙になる漫画ネタバレサイト 著作権侵害事例を解説

漫画ネタバレサイト

インターネットの世界は情報があふれていますが、その中には著作権を侵害するコンテンツも多数存在しています。漫画のネタバレサイトはその一例で、巧妙な手法で姿を変えながらも規制をくぐって存続し続けています。

ここでは、そのような漫画のネタバレサイトがどのように著作権を侵害しているのか、具体的な事例を通じて詳しく解説します。

「漫画村」事件とは

2018年、漫画を違法に読むことができる海賊版サイトである「漫画村」が大きなニュースになりました。「漫画村」は、最盛期には月に1億アクセスを超える巨大なトラフィックを集めていました。もちろん、こうした海賊版サイトが著作権違反であることは論を俟ちません。

この事件をきっかけに、著作権に関するさらなる制度の見直しについての議論が続けられてきました。2020年の著作権法改正の最大の焦点となったのは、インターネット上に横行する漫画の海賊版への対策でした。

「漫画村」事件以降も、2019年には、海賊版漫画のリーチサイト(アップロード先ではないものの、リンクを集めたサイト)である「はるか夢の址」が著作権法違反による有罪判決を受けました。

令和2年改正著作権法のポイント

こうした状況を受けて、令和2年(2020年)の著作権法改正では、「リーチサイト対策」と「違法ダウンロード規制の強化」という2本柱が設けられました。

この改正により、インターネット上に無断で他者の著作物をアップロードし、莫大な広告収益を得る海賊版漫画サイトは厳しく取り締まられるようになりました。しかし、異なる方法を使って漫画のアップロードを行ない広告収益を得ているサイトは、依然として多数存在しているのが現状です。

それが、単行本やマンガ雑誌の発売日にその内容をネット上において掲載する漫画ネタバレサイトです。ここでは、漫画ネタバレサイトの現状と、近年判決が出た発信者情報開示請求の結果を解説します。

参考:文化庁|インターネット上の海賊版による著作権侵害対策情報ポータルサイト

漫画ネタバレサイトの3つのタイプ

漫画ネタバレサイトの3つのタイプ

漫画ネタバレサイトは、大きく3つのタイプに分けることができます。

まず1つめのタイプが「完全掲載」という、海賊版サイトと同じタイプのものです。連載漫画の最新話の画像全てを、発売日やその直後にそのままネット上に掲載するものです。権利者に無許可で掲載しているのですから、著作権侵害に該当します。

もう1つのタイプが最新話のストーリー展開を、台詞などと共に詳述する「文字バレ」です。漫画画像を掲載することは著作権侵害に当たるという認識があるためか、現存するネタバレサイトの多くはこうした文字丸写しの「文字バレ」型となっています。しかし、漫画により表現されているストーリー展開や登場人物の台詞等も、漫画内の創作的表現部分なので、著作権が及びます。この場合には、自分の感想を記し、それを述べるために、引用して用いていると主張できる余地がなくはありませんし、当事者たちがそう考えているケースもあるのかもしれません。

さらに別のタイプが「一部掲載」です。最新話の1ページや1コマの画像を掲載し、セリフや自分の感想と共に掲載するものです。1ページや1コマの画像を掲載するのみでは著作権侵害には当たるとまでは言えないと考えているのかもしれませんし、自分自身の感想と共に掲載するような場合には、自分自身の文章に漫画画像を引用して用いていると主張できる余地もありえます。

しかし、著作権法上の引用と認められるためには厳しい条件を満たしていなければならず、漫画ネタバレサイトの掲載が引用と認められる可能性は低いでしょう。「引用」については以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:引用がNGとされる「著作権法」の事例について(文章・画像編)

関連記事:動画の引用が許される場合とは?著作権法上の要件と裁判例を解説

「完全掲載」タイプの漫画ネタバレサイトの逮捕事例

「完全掲載」タイプの漫画ネタバレサイトについては、「ジャンプ感想ネタバレあらすじまとめ速報」などを通じて無断配信していた秋田県の男性(31歳)と女性(33歳)を、秋田県警と熊本県警の合同捜査本部が2017年7月29日、著作権法違反(公衆送信権侵害、出版権侵害)の疑いで逮捕しています。

また、「ワンワンピースまとめ速報」を通じて人気漫画「ワンピース」の最新作の内容を無断配信していた秋田県の男性(30歳)、鳥取県の女性(23歳)らを、熊本県警・鳥取県警の合同捜査本部が2017年9月6日、同じく著作権法違反(公衆送信権侵害、出版権侵害)の疑いで逮捕しています。

例えば、このうち、『ワンピース』の最新作の内容を無断配信していた秋田県の男性については、約10か月の間に4回にわたり、発売前の漫画の画像等をアップロードした著作権法違反につき、「自己中心的な動機で、著作権者などの被った損害も大きい」として、懲役1年6カ月執行猶予3年、罰金50万円の判決が言い渡されています(秋田地方裁判所2017年12月8日判決)。

こうした「完全掲載」タイプの漫画ネタバレサイトは、摘発される可能性が非常に高いので、ほとんど見られなくなっています。

関連記事:画像による著作権侵害「損害賠償の相場」と2つの判例を解説

「文字バレ」タイプの漫画ネタバレサイトの裁判例

「完全掲載」タイプの漫画ネタバレサイトに代わって登場し、近年急速に増えたのが「文字バレ」タイプです。

この「文字バレ」タイプでは、「漫画ル~無料漫画感想ネタバレビュー」が問題になりました。このサイトでは小学館の漫画アプリで連載されている漫画、『ケンガンオメガ』のほぼ全ての台詞をそのまま抜き出すとともに、絵で描かれている情景や登場人物の名前を文字に起こして本件漫画と実質的に同一のものといえる記事を掲載していました。さらに本件漫画のコマ部分を複製したとして、作者が著作権を侵害されたとして、発信者情報の開示を請求しました。

これに対し、東京地方裁判所は、

原告は、本件漫画の著作権者であり(争いのない事実)、本件漫画のコマ部分(コマ絵及び台詞)の著作権を有するところ、本件記事には、本件漫画のコマ部分(コマ絵及び台詞)が掲載されており、本件記事のアップロードは原告の複製権及び公衆送信権を侵害するものであり、他に著作権侵害を阻却する事由も認められない。したがって、原告の複製権及び公衆送信権が侵害されたことは明らかといえ、請求原因を認めることができる。

令和3年3月26日東京地方裁判所判決

として、「複製権」(著作者が作品を無断で複製されない権利)と「公衆送信権」(著作者が作品を無断で公衆に向けて発信されない)の侵害を認めました。そして、原告は著作権侵害を理由に損害賠償請求する意思を有しており、そのためには本件発信者情報の開示が必要であるからとして、経由プロバイダに、発信者情報の開示を命じました。

このネタバレサイトには、2019年1月から2020年5月まで、合わせて63話のセリフと絵の一部が無断で掲載されていました。小学館編集部はこの判決を受けて、「マンガのすべての内容を詳細に投稿するサイトが続々と出現し、重大な問題となっている。大変な苦労の上に作品を生み出した著作者の権利を守るため、あらゆる侵害行為に対し、今後も断固とした対応を行っていく」とコメントしています。

「一部掲載」タイプの漫画ネタバレサイト

「一部掲載」というタイプは、最新話の一頁やひとコマの画像を掲載し、セリフや自分の感想と共に掲載するものですが、これに対しては、2020年9月10日に、『キン肉マン』の作者であるゆでたまご(嶋田隆司・中井義則)氏から、「SNSやブログ等、ネット上における『キン肉マン』画像利用についてのお願い」が発表されています。

対象を特定したものではありませんが、「先日の8月31日、319話が『週プレNEWS』で公開されると同時に、ネット上には感想を述べあうという必要性以上に作品内容がわかってしまう文章や画像を含んだものがたくさん見受けられ、とても悲しくなりました」とコメント。さらに「私たちの血肉ともいえる漫画原稿のうちの一枚が、私たちの意図が伝わらず望まない形でSNSに上げられただけで20ページの原稿をすべて読んだように思われたことも非常に残念でした。20ページすべて読んでくれたら、もっとおもしろいのに」とあるので、「一部掲載」タイプの漫画ネタバレサイトが含まれていると推察されます。

この「お願い」において、ゆでたまご(嶋田隆司・中井義則)氏が問題としたのは、著作権侵害ではなく、まだ読んでいない読者に内容を教えてしまう、漫画を読む楽しみを奪うという配慮のなさでした。ゆでたまご氏以上に踏み込んだコメントを出したのが人気作『進撃の巨人』の担当編集者バック氏です。バック氏は2021年3月30日に自身のTwitterで、『進撃の巨人』の違法アップロードや発売前の情報漏洩を行なった複数の個人、アカウントに対して訴訟の手続きを進めていると発表しました。それにあわせて、「画像やテキストによる違法投稿について、国を問わず対応します」ともコメントし、英文コメントも添えています。

この「一部掲載」タイプの漫画ネタバレサイトに関し、興味深いニュースが入ってきました。

2021年6月23日、宮城県警は映画の内容を10分ほどに編集した「ファスト映画」をYouTubeで無断配信し、不当に広告収益を得ていたとして、著作権法違反の疑いで札幌市の男ら3人を逮捕しました。「ファスト映画」の投稿を巡っての逮捕は全国初です。

「ファスト映画」は2020年春ごろからYouTubeで増え始めた動画スタイルの一つで、短時間かつ無料で映画の内容を把握できることから人気が高く、中には700万回近く再生される動画や、合計の再生数が8000万回を超えるYouTubeチャンネルもあるといい、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の推計では、これまでの累計被害額は950億円超にのぼる(2022年6月時点)とされており、業界でも問題視する向きが強まっていました

映画の内容を10分程度に切り取り、ナレーションをつけるなどして編集した「ファスト映画」は「一部掲載」タイプの漫画ネタバレサイトと同じ構造であり、映画を編集したものが「ファスト映画」であり、漫画を編集したものが「一部掲載」タイプの漫画ネタバレサイトであるといえます。ファスト映画同様に、「一部掲載」タイプの漫画ネタバレサイトも問題となる可能性が高いでしょう。

関連記事:賠償5億円判決も…ファスト映画の法的責任は?刑事・民事責任を弁護士が解説

まとめ:著作権侵害の被害は専門家に相談を

著作権侵害は、著作権者等の関係者に大きな経済的損失を与もたらす場合もある重大な犯罪です。さまざまに形を変えて存在し続けている漫画ネタバレサイトでも、逮捕事例がありますが、ネット上での著作権侵害事例は後を絶ちません。

著作権等の知的財産権の侵害に対しては、民事・刑事の両方で法的な対応が可能です。個別の事例により対応が異なるため、詳しくは専門家にご相談ください。

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モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。近年、著作権をめぐる知的財産権は注目を集めています。当事務所では知的財産に関するソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

モノリス法律事務所の取扱分野:各種企業のIT・知財法務

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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