カザフスタンの薬機法・医療機器規制を解説

カザフスタン共和国(以下、カザフスタン)の医療機器規制は、ユーラシア経済連合(EAEU)が定める統一規則への移行が進んでいます。2025年12月29日に署名された議定書により、国家規則(カザフスタン独自の手続き)による登録の申請期限は2027年12月31日まで延長されており、当面はEAEU統一規則と国家規則のいずれでも登録を申請できる状況です。
日本の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、薬機法と呼びます)においては、国内に製造販売業者を置き、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)や登録認証機関による審査を受ける制度が採用されていますが、EAEU規則では「参照国」と「承認国」という国家間の相互承認システムが導入されている点が最大の相違点です。また、日本国外の製造業者が製品を流通させる場合、EAEU域内に居住する「認定代理人」を選任する義務があり、日本法における選任製造販売業者や外国特例承認制度とは異なる独自の実務対応が求められます。
本記事では、カザフスタンの国内法である「国民の健康と医療システムに関するカザフスタン共和国法典」と、EAEUの「医療機器の安全性、品質及び有効性の登録及び専門的審査の規則について(ユーラシア経済委員会評議会決定第46号)」を紐解きながら、登録手続きの詳細、臨床試験や品質管理に関する要件、行政上の紛争への備え等を交えて解説いたします。カザフスタンという成長市場への参入にあたっては、こうした法規制の枠組みと日本法との違いを正確に理解し、戦略的な法務対応を行うことが不可欠であるということが言えるでしょう。
なお、カザフスタンの法制度の全体像は、以下の記事で解説しています。
この記事の目次
カザフスタンにおける医療機器規制の法的枠組み
カザフスタン国内における医療機器の流通を規律する基本的な国内法令は、2020年7月7日に制定された「国民の健康と医療システムに関するカザフスタン共和国法典」です。同法典第23条1項は、カザフスタンで製造される、あるいはその領域に輸入される医療機器について、国家登録の対象となる旨を定めています。そして同法典第233条においては、国家登録を経ていない医療機器の卸売および小売を明確に禁止しています。
しかしながら、カザフスタンはユーラシア経済連合(EAEU)の主要な加盟国であり、その法体系はEAEUの枠組みと強く連動しています。現在、EAEU加盟国(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、アルメニア)の間では、医療機器の流通に関する統一原則が適用されています。このEAEUにおける医療機器の登録制度を統括する中心的な法令が、2016年2月12日付のユーラシア経済委員会(EEC)評議会決定第46号「医療機器の安全性、品質及び有効性の登録及び専門的審査の規則について」です。同規則の第3条には、医療機器の登録は一つまたは複数の加盟国の領域で流通させるための必須要件であり、参照国の権限ある機関によって行われると規定されています。
このEAEU規則は、加盟国間で医療機器を流通させるための統一要件を定めたものですが、その導入にあたっては長期的な移行期間が設けられ、各国の国内法に基づく独自の登録手続きも並行して認められてきました。国家規則による登録の申請は当初2025年12月31日までとされていましたが、2025年12月29日署名の議定書により2027年12月31日まで認められることとなり、現時点ではEAEU規則か国家規則かを選択して登録手続きを進めることができます。この期限の経過後は、EAEU規則による登録に一本化されていくと見込まれます。この移行により、企業はカザフスタン一国のみの法規に適合するだけではなく、EAEU全域を見据えたより厳格かつ広範なコンプライアンス体制を構築していくことが求められるということが言えるでしょう。
参考:カザフスタン共和国貿易・統合省|EAEUの枠組みで国家規則による医療機器の登録期限を延長(2026年1月13日)
日本の薬機法とEAEU統一規則の主要な相違点

日本の薬機法の下で医療機器を日本国内で流通させるためには、日本国内に所在し、都道府県知事の許可を受けた「製造販売業者」が主体となって、品目の製造販売承認や認証を取得する必要があります。海外の製造業者が日本市場に参入する場合、日本国内の法人を製造販売業者として選任するか、あるいは外国特例承認制度を利用して自らが承認取得者となり、国内の選任製造販売業者に国内における流通管理や安全管理を委託するといった枠組みがとられます。
これに対し、EAEU規則における最大の特徴は、域外の製造業者が自ら申請主体となることができるものの、必ずEAEU域内に居住する「認定代理人」を選任しなければならないという点です。EEC決定第46号によれば、認定代理人とは、加盟国の居住者である法人または個人事業主であり、EAEUの領域内で医療機器が使用される際の品質、安全性、および有効性について、製造業者の利益を代表し法的な責任を負う者とされています。日本の製造販売業者はそれ自体が独立した厳しい許可要件(総括製造販売責任者の設置やGVP体制、QMS体制の構築など)を満たし、実質的な市場への出荷判定の責任を負いますが、EAEUの認定代理人は、製造業者とEAEU市場の規制当局とをつなぐ公式な窓口としての性質が強く、法的な権限委譲の契約(委任状など)によって設定される点で、日本法のアプローチとは異なります。
また、登録審査のシステム自体にも根本的な違いが存在します。日本においては、医療機器のリスククラスに応じて、PMDAが詳細な承認審査を行うか、あるいは国から登録を受けた民間の登録認証機関が第三者認証を行うという中央集権的または委譲型のシステムが構築されています。これに対し、EAEU規則では「参照国」と「承認国」という主権国家間の相互承認を前提とした独自の概念が採用されています。申請者はまず、EAEU加盟国の中から任意の国を一つ参照国として選択し、その国の専門機関による主たる審査を受けます。参照国における有効性と安全性の審査が肯定的な結論に至った後、他の加盟国(承認国)がその専門的見解を精査し、自国における流通を承認するという二段階の手続きを経ることになります。
例えば、カザフスタンを参照国として登録手続きを進める場合、カザフスタンの専門機関が一次審査を行い、その審査結果をもとに他の加盟国の市場にも同時並行的にアクセスすることが可能となります。この仕組みは、欧州連合(EU)の旧医療機器指令(MDD)における審査プロセスにも似ていますが、国家機関同士の合意形成を必要とする点で独自の複雑さを孕んでいます。
カザフスタンにおける医療機器のクラス分類と登録のための要件
EAEUにおける医療機器のクラス分類は、人体へのリスクベースのアプローチを採用しており、日本や欧州の制度と共通する部分が多く見られます。具体的には、クラスI(低リスク)、クラスIIa(中低リスク)、クラスIIb(中高リスク)、クラスIII(高リスク)の4段階に分類されています。日本の薬機法における一般医療機器(クラスI)、管理医療機器(クラスII)、高度管理医療機器(クラスIIIおよびIV)という分類と大枠では類似しているため、日本国内でのクラス分類はおおよその目安として活用することができます。
しかしながら、EAEU規則に基づく登録手続きにおいては、提出すべきエビデンスの収集に関して独自の厳格な要件が課されています。EEC決定第46号および関連する評議会決定に基づき、登録ドシエには所定の試験結果を含めることが求められます。
| 試験の種類 | 根拠となるEAEU規則 | 概要と対象となる医療機器 |
| 技術試験 | EEC評議会決定第28号 | 機器の性能および安全基準の適合性確認であり、原則として全ての医療機器が対象となります。 |
| 生物学的影響評価試験 | EEC評議会決定第38号 | 人体に直接接触する機器に適用される毒性試験や生体適合性試験です。 |
| 型式承認試験 | EEC評議会決定第42号 | 測定機能を有する医療機器(血圧計など)にのみ適用されます。 |
| 臨床試験・臨床評価 | EEC評議会決定第29号 | クラスIの体外診断用医薬品等を除く多くの機器で要求され、高リスク機器では域内での臨床試験が必要となる場合があります。 |
クラスIの低リスクな医療機器であっても、技術試験などの基本的な要件をEAEU域内の認定施設で実施し、要件を満たす必要があります。さらに、高リスクのクラスIIbやクラスIIIの医療機器については、EAEU域内で認定された医療機関での臨床評価や臨床調査の実施が要求される場合が多く、日本や米国で取得した既存の臨床データがそのまま完全に受け入れられるとは限りません。くわえて、クラスIIb以上の医療機器においては、製造拠点の品質管理システムに関する査察(GMP監査)が義務付けられており、審査プロセスの一環として実地監査が行われる点にも十分な注意が必要です。
カザフスタン当局の審査プロセスと所要期間

カザフスタンにおける審査期間に関して、カザフスタンの保健省令に基づく国内手続きの基準では、医療機器のリスククラスに応じて明確なタイムラインが規定されています。この規定は、EAEU規則に完全移行した後も、参照国としてカザフスタンが機能する場合の実務的な審査の目安として極めて重要な意味を持ちます。
| 医療機器のクラス分類 | 全体的な法定審査期間の上限 | 審査プロセスの主な内訳 |
| クラス1およびクラス2a(試験を伴う場合) | 70営業日以内 | 初期審査(10営業日)、専門的審査(30営業日)、実験室試験(20営業日)、最終結論の形成(10営業日) |
| クラス2bおよびクラス3(試験を伴う場合) | 110営業日以内 | 初期審査(10営業日)、専門的審査(50営業日)、実験室試験(40営業日)、最終結論の形成(10営業日) |
| 登録ドシエの変更(試験なし) | 50営業日以内 | 初期審査(10営業日)、専門的審査(30営業日)、最終結論の形成(10営業日) |
| 実験室試験を伴うタイプIの変更 | 65営業日以内 | 初期審査(10営業日)、専門的審査(30営業日)、実験室試験(15営業日)、最終結論の形成(10営業日) |
EAEUの枠組みへの完全移行後においても、参照国におけるドシエの専門的審査と、承認国における合意形成プロセスを経るため、全体的な手続きには数ヶ月から1年以上(クラスによっては10ヶ月から15ヶ月程度)を要することが一般的です。日本におけるPMDAの標準的審査期間と比較して、加盟国間での調整プロセスが含まれる分、より長期のスケジューリングが必要になるということが言えるでしょう。
なお、特筆すべき利点として、カザフスタンの旧来の国家登録では登録証明書の有効期間が原則として5年とされていましたが、EEC決定第46号第5項によれば、EAEU規則に基づいて発行された登録証明書は無期限で有効となります。この更新手続きが不要となる点は、長期的なビジネス展開において非常に有利に働く要素です。
カザフスタンにおける司法統制と行政紛争への備え
カザフスタンにおける医療機器や医薬品の登録、そして市場における適正な流通の監視に関する実務では、監督当局である保健省医療・医薬品管理委員会の判断が絶対的な影響力を持ちます。同委員会は、登録手続きにおける提出書類の不備や、試験結果の解釈、品質基準への適合性などについて厳格な審査を行っています。そのため、日本から進出する企業にとって、申請内容と当局の技術的な解釈との間で法的な見解の相違が生じるリスクは常に想定しておくべき課題です。
こうした見解の相違が生じた場合、当局の決定については、行政上の不服申立てや裁判所での手続きを通じて争うことが考えられます。医療機器を含む高度な科学技術分野では、行政機関に一定の裁量が認められうる一方で、その判断の客観性や合理性、手続きの適正さが争点となりうると解されます。
また、EAEU域内においても、医薬品や医療機器の管理当局による決定に対して、企業が異議を申し立てる行政紛争が生じることがあります。もっとも、行政機関は法規の文言を厳格かつ保守的に解釈する傾向があるともいわれ、司法審査において企業側の主張がどこまで認められるかは、個別の事案や提出できる証拠の内容によって異なると解されます。
日本の行政訴訟において、高度な専門性を伴う行政機関の裁量が広く認められやすい傾向にあることと比較すると、カザフスタンをはじめとするEAEU圏内においても、企業側が行政の判断に異議を申し立てる法的手段がありうることを把握し、紛争に備えて証拠を整えておくことは、日本企業にとって重要です。
まとめ
カザフスタンの医療機器市場は、ユーラシア経済連合(EAEU)の統一規則による枠組みへの移行の途上にあり、国家規則による登録の申請期限は2027年12月31日まで延長されています。日本の薬機法が、国内の製造販売業者を通じた単一国での審査および流通管理を前提としているのに対し、EAEUの制度は、域内の「認定代理人」を法的窓口とし、参照国と承認国による加盟国間での相互承認を前提とした広域的なシステムです。日本企業がカザフスタン市場へ医療機器を輸出・流通させるためには、日本でのクラス分類や審査対応の経験を活かしつつも、EAEU独自の厳格な審査基準、現地指定機関での技術試験や臨床評価、品質管理システムの査察、そして加盟国特有の要求事項に適合した登録ドシエの構築が不可欠となります。
また、万が一現地の規制当局との間で法令や技術データの解釈について相違が生じた場合には、適切な法的根拠と客観的な技術的エビデンスを準備したうえで、行政上の不服申立てや裁判所での手続きを通じて争うことが考えられます。モノリス法律事務所では、こうしたカザフスタンをはじめとするEAEU諸国の法規制や現地実務に関する複雑な法的課題について、日本企業の皆様が安心してビジネスを展開し、成長市場において確固たる地位を築くことができるよう、法務面から多角的にサポートいたします。
































