フィリピンの薬機法・医療機器規制を弁護士が解説

フィリピン共和国(以下、フィリピン)において医療機器ビジネスを展開するにあたり、保健省(DOH)傘下の食品医薬品局(FDA)による厳格な規制枠組みを深く理解することは、日本企業にとって不可欠なステップとなります。フィリピンは持続的な経済成長と人口増加を背景に医療機器市場が急速に拡大しており、2019年に制定された普遍的ヘルスケア法(Universal Health Care Act)によって、すべての国民が国民健康保険制度に加入することとなり、医療アクセスの向上とともに政府や民間による医療費支出の大幅な増加が進んでいます。このような市場環境は、高品質な医療機器を提供する日本の製造業者にとって非常に魅力的ですが、市場参入には複雑な法的手続きとコンプライアンス要件が伴います。本記事の要点として、フィリピンで医療機器を合法的に輸入・販売するためには、まず現地企業を介してFDAから営業許可(LTO)を取得することが大前提となります。その後、ASEAN医療機器指令(AMDD)に基づくリスク分類(クラスAからD)に従って、製品登録届出(CMDN)または製品登録証明書(CMDR)を取得するという二段階のステップを踏む必要があります。
日本法(医薬品医療機器等法、いわゆる薬機法)においては、外国製造業者が選任製造販売業者(DMAH)を指定し、民間の登録認証機関が介在する独自の制度が構築されていますが、フィリピンではすべての許認可権限がFDAに一極集中しており、現地の輸入販売業者が品質管理や市販後安全対策の主体となる点で極めて重要な違いが存在します。さらに近年は、段階的な登録規制の完全実施や、eServicesポータルシステムの導入による申請手続きのオンライン化、大幅な製品登録手数料の改定とその一時的な適用停止措置、ならびに厳格な市販後警戒システム(PMAS)に関する新規制が次々と施行されています。また、フィリピン最高裁判所の判例においても、FDAの法執行権限や警察権の行使が強力に支持されており、無許可での輸入や販売に対しては多額の罰金や禁錮刑が科されるリスクがあります。
本記事では、フィリピンの医療機器規制の全体像から最新の規制アップデート、重要な司法判断、そして日本の薬機法との詳細な比較に至るまでを網羅的かつ詳細に解説します。
この記事の目次
フィリピンの医療機器規制を統括する法的枠組み
フィリピンにおける医療機器規制の根幹をなすのは、2009年に制定された共和国法第9711号(Republic Act No.9711)、通称「2009年食品医薬品局法(FDA Act of)」です。この法律により、かつての食品医薬品局(BFAD)が現在の食品医薬品局(FDA)へと改組・強化され、医療機器を含む健康関連製品の製造、輸入、輸出、流通、販売、広告に対する強力な規制権限と準司法権が与えられました。FDAの内部機関である医療機器・放射線保健・研究センター(CDRRHR)が、医療機器の許認可や監視の実務を直接担当しています。
これに加えて、フィリピン政府は2019年に共和国法第11223号(Universal Health Care Act)を施行し、すべてのフィリピン国民を国民健康保険制度(PhilHealth)に自動的に加入させることで、医療アクセスの劇的な改善を図っています。この法律の施行により、診断機器や治療機器をはじめとする医療機器全体の需要が底上げされており、病院施設のアップグレードや最新機器の導入が官民双方で進められているため、市場の魅力がさらに高まっています。
日本の法的枠組みと比較すると、日本の場合は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」に基づき、厚生労働省(MHLW)が行政処分や承認の最終決定等の行政的措置を行い、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が実際の製品審査や市販後安全対策の実務を担うという二元的な構造を持っています。一方、フィリピンでは保健省(DOH)傘下のFDAが一元的に権限を掌握しており、規制要件の策定から製品の技術的評価、さらには法執行部隊による立ち入り検査や製品の押収までを単一の機関が行うという特徴があります。このため、フィリピン市場へ参入する企業は、FDAの動向や行政命令(AO)、FDA回状(Circular)といったガイドラインの改定を直接かつ迅速に把握する体制を整える必要があります。
共和国法第9711号の公式な法律文書は、フィリピン食品医薬品局の公式ウェブサイトで確認することができます。
フィリピンにおける事業展開の第一歩となる営業許可の取得

フィリピンで医療機器を製造、輸入、輸出、卸売、あるいは小売販売するためには、FDAから営業許可(License to Operate、以下「LTO」)を取得することが法律で厳格に義務付けられています。行政命令第2020-0017号(AO 2020-0017)に基づき、医療機器を取り扱うすべての事業者は、いかなるビジネス活動を開始する前にも必ずこのLTOを確保しなければなりません。
外資系企業がフィリピン市場に参入する際、法務戦略上最も注意すべき点は、LTOを申請できるのはフィリピン国内に登記された現地の法人に限られるという事実です。したがって、日本の医療機器メーカーが日本法人の名義で直接フィリピンのLTOを取得することはできず、実務上はいくつかの選択肢から最適なスキームを構築する必要があります。一つの方法はフィリピン国内に現地法人(子会社)を設立し、その法人名義でLTOを取得することです。ただし、外資規制により一定以上の外資比率を持つ法人は多額の最低資本金が要求される場合があります。二つ目の方法は、すでに有効なLTOを保有している現地の販売代理店(ディストリビューター)を輸入者として指定し、製品の登録と販売を委託する方法です。三つ目の方法は、独立した第三者のコンサルティング企業などを法定代理人として指定し、ライセンスの保有のみを委託して販売網は別途構築するというアプローチです。
このLTO制度は、日本の薬機法における「製造販売業(MAH)」の許可制度と対比することで、より深く理解することができます。日本の薬機法では、医療機器を日本市場に出荷する最終的な法的責任を負う主体として「製造販売業者」の許可が必要であり、外国の製造業者の場合は日本国内の「選任製造販売業者(DMAH)」を指定することが一般的です。日本の製造販売業者は、品質管理基準(GQP)と製造販売後安全管理基準(GVP)に対する重い責任を負うため、社内に総括製造販売責任者、品質保証責任者、安全管理責任者の三役を設置するという極めて厳格な人的要件が課されます。
これに対し、フィリピンのLTO申請においては「有資格者(Qualified Person)」を雇用することが求められます。医薬品の輸入業者であればこの有資格者は登録薬剤師であることが必須ですが、医療機器の輸入業者や流通業者の場合、必ずしも薬剤師である必要はありません。行政命令第2020-0017号の規定によれば、医療機器の有資格者は、薬剤師のほかに、取り扱う医療機器に関連する工学系(化学工学、機械工学、電子工学など)の学位を持つ専門家、あるいは関連する医療科学の学位を持つ者であれば要件を満たします。日本の総括製造販売責任者の要件に比べると間口が広く柔軟に設定されているように見えますが、この有資格者はFDAとの直接の窓口となり、品質管理システム(QMS)の維持や、FDAの査察対応、製品のリコール等の市販後安全対策において中心的な役割を果たすため、企業における極めて重要なキーパーソンとなります。
フィリピンのASEAN医療機器指令に準拠したリスク分類
フィリピンFDAは、行政命令第2018-0002号(AO 2018-0002)により、東南アジア諸国連合(ASEAN)が主導するASEAN医療機器指令(AMDD)に完全に準拠した医療機器の規制枠組みを導入しました。これにより、医療機器はその人体に対するリスクレベルや使用目的に応じて4つのクラスに分類されることとなり、リスクに応じた段階的な規制が適用されています。
以下の表は、フィリピンにおける医療機器のクラス分類と必要な許認可の種類を示したものです。
| クラス分類 | リスクレベル | 該当する医療機器の例 | 必要な許認可の名称 |
| Class A | 低リスク | 手術用メス、ガーゼ、聴診器、一般的な歯科材料 | CMDN(製品登録届出) |
| Class B | 中低リスク | 注射針、歯科用合金、コンタクトレンズ | CMDR(製品登録証明書) |
| Class C | 中高リスク | 血液透析装置、人工呼吸器、電子内視鏡 | CMDR(製品登録証明書) |
| Class D | 高リスク | 植込み型ペースメーカー、心臓弁、吸収性インプラント | CMDR(製品登録証明書) |
クラスAの低リスク医療機器については、CMDN(Certificate of Medical Device Notification:医療機器登録届出証明書)と呼ばれる、比較的簡素化された届出プロセスが適用されます。一方で、クラスB、クラスC、およびクラスDの医療機器については、より詳細な安全性と有効性の審査を伴うCMDR(Certificate of Medical Device Registration:医療機器登録証明書)を取得する必要があります。
このクラス分類システムは、日本の薬機法におけるクラス分類とどのように違うのでしょうか。日本の薬機法でも、日本医療機器名称(JMDN)に基づき医療機器を一般医療機器(クラスI)、管理医療機器(クラスII)、高度管理医療機器(クラスIIIおよびクラスIV)に分類しており、基本的には国際的なリスク分類の考え方と軌を一にしています。しかし、決定的な違いはその審査プロセスと関与する機関にあります。日本では、クラスIIの全般およびクラスIIIの一部(認証基準が定められている「後発医療機器(Me-too機器)」)については、国ではなく民間の登録認証機関(RCB:第三者認証機関)が基準適合性認証を行う制度が確立されています。これにより、製造業者は迅速かつ予測可能なスケジュールで市場投入を行うことが可能となっています。
これに対して、フィリピンには日本のような民間の第三者認証機関制度は存在しません。クラスAからクラスDに至るまで、すべての医療機器の申請書類の受理および技術的審査は、FDAの医療機器・放射線保健・研究センター(CDRRHR)が直接行います。したがって、日本市場において登録認証機関を利用して数ヶ月で迅速な認証を得ることに慣れている企業は、フィリピンにおいてFDAの直接審査がボトルネックとなり得ることを考慮し、CMDRの取得には通常6ヶ月から9ヶ月程度の期間を要するという前提で事業計画を策定する必要があります。
フィリピンにおける医療機器の製品登録手続きとガイドライン

フィリピンで医療機器を登録するための具体的な手続きは、クラス分類に応じて明確に分かれています。FDAは近年、行政手続きの効率化とデジタル化を推進しており、申請手法が大きく変化しています。
クラスB、C、Dの医療機器を対象とするCMDRの申請では、ASEAN共通提出書類テンプレート(CSDT)という国際的に調和されたフォーマットに基づいた、極めて広範な技術文書の提出が求められます。この提出書類には、製品の詳細な説明、前臨床試験や臨床評価のデータ、リスク分析報告書、製造業者がISO13485に準拠していることを示す証明書、使用説明書(IFU)、およびラベリング情報などが含まれます。さらに、外国製の医療機器を輸入する場合には、製品の原産国の規制当局から発行された自由販売証明書(CFS)、あるいはこれに相当する外国での承認を証明する公的な書類を、領事認証またはアポスティーユを付した状態で提出しなければなりません。これらの書類はFDAの指定する電子メールシステムを通じて提出され、書類の不備がないことが確認された後、本格的な審査へと移行します。
一方、クラスAの医療機器を対象とするCMDNの申請については、FDAは「eServicesポータルシステム」というオンラインプラットフォームを通じた申請手続きの完全導入に踏み切りました。2025年3月に発行されたFDA勧告第2025-0189号により、2025年3月10日以降、すべてのライセンスを持つ医療機器事業者は、クラスAのCMDN申請をこのeServicesポータルシステムを通じてのみ行うことが義務付けられました。これにより、従来のようなメールベースの申請はクラスAにおいては受け付けられなくなりました。
また、過去数年間にわたりフィリピンの医療機器規制を複雑にしていた「登録の柔軟性に関する移行措置」が完全に終了したことにも強い警戒が必要です。当初、FDA回状第2020-001号により、登録対象となる医療機器のリストが公表され、それ以外の医療機器については登録が免除されていました。その後、リスト外の製品にも規制を拡大するため、FDA回状第2021-002-C号が発行され、一時的にリスト外のクラスB、C、Dの医療機器をCMDNとして受け付けるという特例措置(規制の柔軟性)が設けられていました。しかし、先述のFDA勧告第2025-0189号において、この特例期間が2024年9月30日をもってすでに完全に終了したことが再確認されています。したがって、現在では、あらゆるクラスB、C、Dの医療機器は、例外なく正式なCMDR申請手続きを経なければ市場での販売が認められません。
eServicesポータルシステムの完全導入に関する公式な勧告は、フィリピン食品医薬品局の公式ウェブサイトで確認することができます。
フィリピンの登録手数料大幅改定と一時的な適用停止措置
フィリピンにおけるビジネス展開のコスト構造を左右する極めて重要な要素として、FDAによる各種申請手数料の改定動向が挙げられます。フィリピン保健省は、行政命令第2024-0016号を発布し、FDAの提供するサービスに対する新料金体系を発表しました。この新料金体系は、これまでの非常に低廉であった手数料を劇的に引き上げるものであり、医療機器業界に大きな衝撃を与えました。
具体的には、旧来の料金体系(AO No. 50 s. 2001に基づく)では、医療機器のクラスに関わらず、初期登録費用は5年間有効で基本料金7,500ペソに1%の法的調査基金(LRF)を加えた7,575ペソで一律に設定されていました。しかし、新たな料金体系では、クラスAが81,810ペソ、クラスBが109,080ペソ、クラスCが112,110ペソ、クラスDが118,170ペソ(いずれも6年間有効)へと、実質的に10倍以上の大幅な値上げが規定されていました。
以下の表は、新旧の医療機器登録手数料の比較を示したものです。
| クラス分類 | 旧料金体系(5年間有効) | 新料金体系(6年間有効) |
| Class A | 7,575 ペソ | 81,810 ペソ |
| Class B | 7,575 ペソ | 109,080 ペソ |
| Class C | 7,575 ペソ | 112,110 ペソ |
| Class D | 7,575 ペソ | 118,170 ペソ |
しかし、この急激な手数料の引き上げに対して産業界から強い懸念とフィードバックが寄せられた結果、保健省は省令第2025-0240号を発布し、新料金体系の適用を60営業日にわたり一時的に停止する措置を講じました。さらに2025年9月5日付の省令第2025-0382号により、この適用停止期間は追加で60営業日延長されることが決定されました。この一時停止期間中、企業は従来の非常に安価な旧料金体系(7,575ペソ)のまま医療機器の登録申請を行うことが法的に認められています。
日本企業にとって、この適用停止措置の延長は極めて重要な戦略的意味を持ちます。市場参入や新製品の追加登録を検討している企業は、この一時的なウィンドウを最大限に活用し、手数料が10倍以上に跳ね上がる前に申請を完了させることで、多大な初期費用の削減を実現できるからです。
フィリピンの市販後安全対策と品質管理システムにおける厳格化

医療機器が市場に投入された後の安全性監視についても、フィリピンにおける法規制は日本や欧米に匹敵するレベルへと急速に厳格化の道を歩んでいます。フィリピン保健省は、行政命令第2025-0030号を発布し、AMDDの附属書5に規定されている「市販後警戒システム(PMAS)」の要件をフィリピンの国内法として正式に導入し、義務化しました。
この新規制により、医療機器の製造業者、輸入業者(マーケティング承認保持者:MAH)、および流通業者は、製品のトレーサビリティを確保するための詳細な輸入・流通記録の保持、体系的な苦情処理メカニズムの構築、および有害事象(Adverse Event:AE)の迅速な報告体制を確立することが義務付けられました。とくに有害事象の報告期限については、事象の深刻度に応じて極めてタイトなタイムラインが法律で設定されています。
以下の表は、フィリピンFDAに報告すべき有害事象の性質と、その法的な報告期限を示したものです。
| 有害事象の性質 | FDAへの報告期限 |
| 公衆衛生に対する深刻な脅威となる場合 | 認識した時点から48時間以内 |
| 患者の死亡、または健康状態の深刻な悪化をもたらした場合 | 認識した時点から10暦日以内 |
| 再発した場合に死亡や深刻な悪化を招く可能性のある事象 | 認識した時点から30暦日以内 |
さらに、市場からの製品回収や使用中止の指示など、安全性に関連するフィールド安全是正措置(FSCA)を自発的に実施する場合、MAHはリスク評価に基づき是正措置の必要性を決定した時点から14暦日以内に、規定のフォーマットを用いてFDAのCDRRHRに報告書を提出しなければなりません。これらの要件を継続的に満たすために、フィリピンのMAHは、苦情処理、製品リコール、および不適合製品の廃棄手順などを含む包括的な品質管理システム(QMS)とリスク管理計画(RMP)を文書化し、社内で運用することが求められます。FDAは定期的な立ち入り検査(オーディット)を通じて、これらのQMSが実際に機能しているかを厳しく確認します。
日本の薬機法における市販後安全対策との比較において、日本では安全管理基準(GVP)と品質管理基準(GQP)が明確に省令として法制化されており、選任製造販売業者(DMAH)が市販後安全対策の要として厳密に機能しています。日本は世界で最も厳格な不具合報告制度やリコール対応の仕組みを運用している国の一つですが、フィリピンにおけるこの一連のPMAS要件の導入と報告期限の厳格化から、フィリピン当局がAMDDという国際調和の枠組みを積極的に利用し、日本と同等レベルの高度な市販後監視体制を国内に定着させようとしているということが言えるでしょう。
市販後警戒システム(PMAS)の導入に関する行政命令の概要は、以下のURLで確認することができます。
フィリピンにおける医療機器の表示(ラベリング)および広告規制
フィリピン市場において医療機器を販売する際、製品の表示(ラベリング)および広告活動についても、独自の規制要件を遵守する必要があります。ラベリングに関する基本要件として、製品のパッケージや使用説明書に記載される情報は、英語またはフィリピノ語で記載されていなければなりません。
日本法においては、医療機器の法定表示事項(薬機法第63条等)として、製造販売業者の氏名や住所、製造番号、一般的名称などを日本語で明記することが求められますが、フィリピンでも同様の厳しい要件が存在します。フィリピンでの必須記載事項には、製品名(ブランド名)、ネットの内容量、FDAから発行された登録番号(CMDNまたはCMDR番号)、製造業者およびマーケティング承認保持者(輸入業者・流通業者)の名称と住所、ロット番号またはシリアル番号、製造年月および有効期限、滅菌状態、そしてリスク分析によって特定された警告、禁忌、特別な保管条件などが含まれます。とくに、現地の輸入業者(MAH)の情報を物理的なラベルに明記させ登録番号を印字させることは、製品のトレーサビリティを販売パッケージの段階から視覚的に担保するためのFDAの強力な方針によるものです。
広告規制についても、日本とフィリピンでは共通して厳しい態度がとられています。日本の薬機法第66条では、虚偽・誇大広告が厳しく禁じられており、未承認の医療機器に関する広告活動も第68条によって禁止されています。フィリピンの共和国法第9711号においても、FDAの適切な承認を得ていない健康製品(医療機器を含む)の広告、プロモーション、スポンサーシップは完全に違法とされています。さらに近年、フィリピンFDAは電子商取引(オンライン販売)の監視を飛躍的に強化しており、FDA回状第2020-010号を通じて、LTOやCMDN/CMDRを取得していない無登録の医療機器をオンラインプラットフォームやSNSで販売・宣伝する行為に対し、徹底的な監視網を敷き、即時の取り締まり措置を実行しています。
規制違反に対する罰則とフィリピン最高裁判所の判例

フィリピンにおいて、FDAの承認を得ずに医療機器を製造、輸入、販売、または広告する行為は、単なる行政上のルール違反にとどまらず、共和国法第9711号によって厳しく処罰される重大な犯罪行為とみなされます。同法第11条によって禁止行為が規定されており、第12条においてその罰則が定められています。これによれば、違反行為に対しては1年以上10年以下の禁錮刑、または50,000ペソ以上500,000ペソ以下の罰金、あるいは裁判所の裁量によりその両方が科されます。さらに、違反者が製造業者、輸入業者、または流通業者である場合は一段と重い罰則が適用され、最低でも5年以上10年以下の禁錮刑、および500,000ペソ以上5,000,000ペソ以下の多額の罰金が科される可能性があります。
フィリピンにおける健康製品の規制に関して、FDAの法的な権限の強さと司法のスタンスを如実に示す、フィリピン最高裁判所の重要な判例が存在します。日本企業の法務担当者は、フィリピンの司法が法執行機関の権限をどのように解釈しているかを理解しておく必要があります。
Department of Health v. Philippine Tobacco Institute(最高裁判所、2021年7月13日判決)
この事件において、フィリピン最高裁判所は、FDAが共和国法第9711号に基づき、タバコ製品を「健康製品(Health Products)」として規制する権限を有することを明確に認めました。下級審である地方裁判所では、タバコ製品は別の省庁間委員会が専管するべきであり、FDAの規制権限は及ばないと判断されていましたが、最高裁判所はこの判決を破棄しました。最高裁は、人々の健康に有害な影響を与える製品を規制することはFDAの正当な権限であり、憲法が保障する国民の健康権および国際的義務(WHO枠組み条約)に合致すると判断しました。この判決から、フィリピン司法は「人々の健康に影響を与える製品」に対するFDAの包括的な規制権限を極めて広く、かつ積極的に解釈しているということが言えるでしょう。
参考:フィリピン最高裁判所判決
Venus Commercial Co., Inc. v. Department of Health and Food and Drug Administration(最高裁判所、2021年11月18日判決)
この事件では、健康製品を扱う施設に対するFDAの捜索・差押え権限、いわゆる警察権の行使の合憲性が真っ向から争われました。原告である企業は、共和国法第9711号によってFDA長官に与えられた「施設を閉鎖する権限」や「製品を押収する権限」が、憲法で保障された不合理な捜索・差押えからの自由を侵害しており、通常の裁判所の令状なしに行われるべきではないと主張しました。しかし、最高裁判所は原告の訴えを退け、公衆衛生の保護という重大な国益を達成するために、FDAによる行政的な立ち入り検査や製品の廃棄命令、施設の閉鎖命令などは、国家の正当な警察権の行使であると認定し、FDAの広範な法執行権限を完全に支持しました。この判決から、FDAは公衆の安全を守る目的であれば、裁判所の令状を待たずとも迅速かつ強制的な措置を講じる強力な法的裏付けを有しているということが言えるでしょう。
これらの判例が示す通り、フィリピン最高裁判所は、公衆の健康と安全を守るという大義において、FDAの強力な規制権限と行政的法執行権限を揺るぎなく支持しています。したがって、無許可の医療機器を輸入・販売した際の法的リスクは単なる罰金で済むものではなく、経営陣の刑事責任や即時の事業停止に直結する極めて深刻な事態を招くため、厳密な法令遵守が不可欠です。
まとめ
本稿では、成長著しいフィリピン市場における医療機器規制の全体像について、多角的な視点から詳細に解説しました。フィリピン市場への参入にあたっては、現地法人や提携先企業を介した営業許可(LTO)の取得がすべての前提となり、日本の製造販売業(MAH)制度とは異なる、フィリピン独自の有資格者(Qualified Person)要件や法的責任の所在を正確に理解する必要があります。また、ASEAN医療機器指令(AMDD)に準拠したクラス分類のもと、FDAが直接審査を行う製品登録(CMDN/CMDR)プロセスを、CSDTフォーマットやeServicesポータルを活用して遅滞なく遂行することが求められます。近年は、法制度のアップデートが頻繁に行われており、製品登録手数料の大幅な見直しとその戦略的な適用停止期間の発生、ならびに市販後警戒システム(PMAS)における厳格な有害事象報告ルールの導入など、目まぐるしく規制環境が変化しています。
さらに、最高裁判所の最新の判例が明確に示している通り、違反時のFDAによる警察権を伴う法執行権限は極めて強力であり、法令違反は企業の存続を揺るがす致命的なリスクとなります。このような複雑かつ流動的な海外法規制に対し、独力で完全なコンプライアンス体制を構築し維持することは容易ではありません。モノリス法律事務所では、日本国内の薬機法に関する高度な専門的知見を活かしつつ、フィリピンをはじめとする海外市場での医療機器ビジネスの展開を検討されている企業様に対し、現地の最新法令の調査、最適な進出スキームの法的検討、および現地の法的要件を満たすコンプライアンス体制の構築に至るまで、法務面から総合的にサポートいたします。新たなグローバル市場への挑戦において直面する法的課題や懸念事項について、ぜひお気軽にご相談ください。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務

































