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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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デンマークの法律の全体像とその概要を弁護士が解説

デンマークは、北欧に位置する先進国であり、その経済は強固な産業基盤と健全な財政に支えられています。経済的安定性は、低い失業率(2024年・2025年で6.2%台)と健全な財政収支(2025年でGDP比1.5%の黒字)によって裏付けられています。主要産業としては、グリーンテクノロジー・再生可能エネルギー、ライフサイエンス・バイオテクノロジー(特にノボノルディスクに代表される医薬品)、情報通信技術(ICT)、クリエイティブ産業、ロジスティクス・海事技術などが挙げられ、これらは海外からの投資機会も豊富に提供しています。政府による大規模な炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)プログラムなど、環境技術への投資も活発です。労働市場は高い雇用率と実質賃金の上昇が見込まれる一方で、特定の分野(ICT、ヘルスケア、建設)では人材のボトルネックが依然として存在します。

デンマークの法制度は、日本と同様に「大陸法(Civil Law)」システムを基盤としており、成文法典が主要な法源となります。しかし、その運用や特定の分野においては、日本法とは異なる独特の特徴が見られます。例えば、デンマークにはドイツやフランスのような包括的な民法典は存在せず、民事法のルールは個別の専門法で規定されています。また、デンマークの労働市場は「フレキシキュリティ(Flexicurity)」と呼ばれる柔軟な雇用慣行と手厚い社会保障制度の組み合わせで知られており、これは日本の労働法制とは大きく異なる点です。企業は比較的容易に雇用調整が可能である一方で、解雇された労働者には充実した失業給付や再訓練の機会が提供されます。

本記事では、デンマークの法律の全体像とその概要について詳しく解説します。

デンマークの法制度

デンマークの法制度は、日本の法制度と同様に大陸法系に属し、成文法が主要な法源となります。これは、判例法が中心となる英米法系とは異なり、法律が体系的に整理され、明文化されている点で日本と共通しています。デンマークの最古の成文法は1241年のユトランド法に遡り、1683年にはクリスチャン5世のデンマーク法典が制定され、国内法の統一が図られました。

しかし、日本が民法典、商法典といった包括的な法典を持つ「六法」体系であるのに対し、デンマークにはドイツやフランスのような包括的な民法典は存在せず、民事法のルールは個別の専門法で規定されています。特定の取引や関係を規律する個別の法律が多数存在するため、個々の関連法規を特定し、その内容を詳細に把握することが不可欠となります。

デンマークにおける会社設立とコーポレートガバナンス

デンマークにおける会社設立とコーポレートガバナンスは、デンマーク会社法(Danish Companies Act, DCA)によって主に規定されています。DCAは2010年に施行され、公開有限会社(aktieselskaber)と非公開有限会社(anpartsselskaber)の一般的なガバナンス体制を定めています。

会社の種類と設立要件

デンマークにおける主要な会社形態は、日本の株式会社に相当する「公開有限会社(Aktieselskab)」と、日本の合同会社や有限会社に相当する「非公開有限会社(Anpartsselskab)」です。公開有限会社は最低資本金がDKK 400,000、非公開有限会社はDKK 40,000が必要です。これらの会社は独立した法人格を有し、所有者は会社の債務に対して個人的責任を負いません。会社設立に関する具体的な要件については、提供された資料には詳細な記述はありませんが、一般的にはデンマーク商務庁(Danish Business Authority)への登録が必要となります。

取締役会構造と株主の権利

DCAは、公開有限会社に対して、取締役会(board of directors)と執行役員会(executive board)からなる二層構造、または監査役会(supervisory board)と執行役員会からなる二層構造の選択肢を認めています。非公開有限会社はこれらに加えて、執行役員会のみの一層構造も可能です。古典的なデンマークの経営システムでは、取締役会が全体的かつ戦略的な経営に責任を負い、執行役員会を任命して日常業務を管理します。監査役会がある場合は、執行役員会を監督します。公開有限会社の場合、取締役は最低3名必要であり、執行役員会のメンバーが取締役会の過半数を占めてはならないと規定されています。執行役員会は日常業務の管理に責任を負います。取締役は18歳以上で、自然人である必要があります。

デンマークの公開有限会社における従業員代表取締役の法定権利は、日本の会社法にはない制度です。過去3年間で平均35名以上の従業員を雇用している公開有限会社では、従業員は取締役会のメンバーを選任する法定の権利を有します。従業員代表は、株主によって選任されたメンバーの半数に相当する人数(ただし最低2名)を選出できます。この制度は、企業統治におけるステークホルダー資本主義の強い現れであり、労働者の権利と影響力を重視する北欧モデルの一環と見ることができます。

年次株主総会は「全能」とされており、法律によって取締役会または執行役員会に権限が明示的に割り当てられていない限り、会社に関するあらゆる事項を決定できます。株主の総会への積極的な参加権は、欧州の株主権利指令(Shareholder Rights Directive: SRD IおよびSRD II)によって部分的に定められていますが、歴史的にデンマークの会社法は株主に対して非常に広範な権利を認めてきました。日本の会社法において、株主総会は会社の最高意思決定機関であるものの、日常的な業務執行は取締役会に委任されるのが一般的です。

デンマークにおける海外資本からの投資規制

デンマークにおける外国直接投資(FDI)は、2021年9月1日以降に締結された投資および「特別金融契約」に適用される「デンマーク投資審査法」(Danish Investment Screening Act, FDI Act)が主要な法的枠組みとなっています。この法律は、国家安全保障または公共秩序への潜在的な脅威からデンマークの利益を保護することを目的としています。

強制承認制度(Mandatory Authorisation Regime)

この制度は、以下の3つの要件が満たされる場合に適用されます。

  1. 外国投資家が関与する取引であること: 非デンマークの企業や個人、または外国企業に支配されるデンマークの企業(外国企業がデンマーク企業の株式または議決権の25%以上を直接的または間接的に支配している場合)が対象となります。
  2. 外国投資家が「適格保有」(qualifying holding)を取得すること: 「適格保有」とは、所有権または議決権の10%以上を直接的または間接的に保有または支配すること、あるいはその他の手段による同様の支配を指します。これには、合意による支配、特定の重要決定に対する決定権や拒否権、取締役や上級管理職の少なくとも1名の任命・解任権、資産取引、融資契約を通じた支配、長期の非解約型リース契約を通じた資産支配などが含まれます。また、その後の保有比率の増加(20%, ⅓, 50%, ⅔, 100%)も申請が必要です。
  3. 「特に機微な分野」(particularly sensitive sectors)の企業への投資であること

「特に機微な分野」(particularly sensitive sectors)としては、以下の5つの分野が指定されています。

  • 防衛分野: EU共通軍事リストに記載された軍事用途の兵器、弾薬、技術を開発または製造する企業。デンマーク国防省へのサービス提供の重要性によっては、この分野に含まれる場合もあります
  • 機密情報のIT保護または処理: 機密情報を保護または処理するために使用されるIT製品およびコンポーネントを開発または製造する企業
  • 「デュアルユース」品目の製造: 理事会規則(EC) 2021/821の附属書Iに該当するデュアルユース品目を製造する企業
  • 重要技術: AI、先進産業用ロボット技術、半導体、サイバー・情報セキュリティ技術、宇宙技術、産業用エネルギー貯蔵・変換・輸送技術、量子技術、原子力技術、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー(合成生物学)、3Dプリンティング(工業部品用)など、11の特定の技術を開発または製造する企業(ただし、消費者向け製品は例外)
  • 重要インフラ: エネルギー、ICT、運輸、緊急時計画・市民防衛、ヘルスケア、飲料水・食料、廃水・廃棄物処理、金融・経済、気象、一般的な権限行使、省庁間危機管理の11のインフラ分野で活動する企業(インフラ提供者へのサプライヤーやサブサプライヤーも含まれる可能性あり)

グリーンフィールド投資(新規設立)も対象となりますが、設立後3会計年度の外国投資家の総資本注入額がDKK 7,500万を超えない場合は免除されることがあります。強制承認制度の下では、デンマークビジネス庁の承認が得られるまで取引の完了が停止されます。

任意届出制度(Voluntary Cross-Sectoral Notification Regime)

この制度は、非EU/EFTA投資家が「特に機微な分野」以外のデンマーク企業において、株式または議決権の25%以上、または同様の支配を取得し、かつその投資が国家安全保障または公共秩序に脅威をもたらす可能性がある場合に適用されます。任意ではありますが、これによりデンマークビジネス庁が後から介入しないという法的確実性が得られます。任意届出制度の下では、承認前に取引を完了できますが、当局は一時的な差止命令を発したり、事前の承認なしに脅威と判断された投資を解除したりする可能性があります。

取引完了後に解除されるリスクを避けるため、強制承認制度の対象となる可能性のある投資については、デンマークビジネス庁への事前スクリーニング申請(pre-screening request)を検討すべきでしょう。

デンマークの契約法

契約法

デンマークの契約法は、その基本原則を「契約法」(Aftaleloven)に定めています。この法律は、財産法分野における法的取引の基本的な側面、すなわち契約の締結、期限、権利、終了などを規定しています。

契約の無効事由

契約は、強迫、詐欺、または不合理な理由により無効となることがあります。また、その執行が不公平または不合理と見なされる場合、契約は強制執行不能となる可能性があります。特に、責任制限条項など、一方の当事者にとって著しく負担となる条項については、その合意の有効性に関してより厳格な要件が課されることがあります。

デンマークの判例では、ある条項が交渉中に議論されなかったり、契約書上で目立つように強調されていなかったりする場合、無効と判断される傾向があります。また、特に「著しく負担となる」責任制限条項の有効性について、その合意形成プロセス(交渉の有無、強調表示の有無など)を厳しく審査する傾向があります。デンマークで契約を締結する際、特に自社に有利な責任制限条項を盛り込む場合には、その有効性を確保するためのより丁寧なプロセス(明確な説明、合意の証拠化など)が必要となるでしょう。

労働契約における特則

デンマークの労働法は、雇用契約に関して特定の情報(Salaried Employees Act (Funktionærloven)など)を書面で含めることを義務付けています。これは透明性を確保し、雇用主と従業員双方の権利を保護するためです。試用期間は、サラリー従業員の場合最大3ヶ月、それ以外の従業員は契約または団体協約で合意されます。試用期間中は、通常14日の短い通知期間で解雇が可能です。守秘義務条項や競業避止義務条項は、一般的にデンマークで強制力がありますが、競業避止義務は通常、雇用終了後12ヶ月以内と制限されます。

デンマークの不動産法

デンマークの不動産法は、民事法体系に属しますが、一部に英米法の要素も取り入れたハイブリッドなシステムです。EU指令の影響を強く受けており、迅速な実施が特徴です。

不動産登記制度

全てのデンマークの不動産は、中央で管理される土地登記簿(Tingbogen)に登録されており、土地登記裁判所(Tinglysningsretten)がこれを管理しています。登記簿は完全にコンピュータ化されており、オンラインで情報にアクセス可能です。これにより、土地所有者の身元、登録された抵当権、その他の不動産関連の権利(通行権、建築制限など)に関する情報を確認できます。デンマークの地籍(Matrikelsystemet)は、全ての土地を地番で特定し、土地登記簿における権利の順位付けの基礎となります。

原則として、第三者に対して権利を保護するためには、あらゆる種類の不動産に関する全ての権利が土地登記簿に中央登録される必要があります。権利の順位は「先願主義」(first in, first in right)に基づき、登録されていない先行する権利について善意である限り、登録された権利が優先されます。土地登記簿は公開されており、抵当権の登録は第三者に対する有効性の要件です。

所有権の概念

土地の所有権は原則として「自由保有権」(freehold)とされ、登録された所有者の無制限の財産権を意味します。土地所有者は、原則として、不動産を処分、譲渡、担保設定、または賃貸する権利を有します。これらの権利は、地役権、制限的約款、ゾーニング・計画規制などの私法および公法上の制限を受けます。デンマークの不動産法は、一般的に自由保有権と借地権の区別を適用せず、法的所有者であるか賃借人であるかのいずれかです。賃借人は、賃貸借法(Rent Act)および事業賃貸借法(Business Rent Act)により、特定の法的保護(賃料保護や立ち退き制限など)が与えられています。

デンマークの不動産法が「自由保有権」を原則としつつも、賃借人に対して「賃貸借法」や「事業賃貸借法」による強力な法的保護を与えている点は、日本の借地借家法における借主保護の強さと共通しています。これは、デンマークの「フレキシキュリティ」モデルに見られるような、社会的なセーフティネットや弱者保護の思想が、不動産分野にも浸透していることを示唆します。日本企業がデンマークで不動産を賃借する際には、賃借人の権利が日本以上に手厚く保護される可能性を考慮する必要があるでしょう。

デンマークの労働法

デンマークの労働法は、その「フレキシキュリティ」(Flexicurity)モデルで世界的に知られています。このモデルは、柔軟な雇用(Flexibility)と手厚い社会保障(Security)を組み合わせた造語であり、雇用主が市場の変化に合わせて柔軟に人員を調整できる一方で、労働者は失業時のセーフティネットによって安心して次の仕事を探せるという、相互に作用する「黄金の三角形」として機能しています。このシステムは、使用者団体と労働組合間の長年の対話と協力に基づいており、賃金や労働条件は主に団体交渉協約によって設定され、政府の介入は最小限に抑えられています。

柔軟な雇用(Flexibility)と解雇規制

デンマークの「フレキシキュリティ」モデルにおける「柔軟性」は、雇用主が従業員を比較的容易に雇用・解雇できることを意味します。しかし、これは無条件の「at-will employment」(恣意的解雇)を意味するわけではありません。デンマークでも、雇用主が労働者を解雇するには「正当な理由」が必要です。この点は日本の解雇規制と共通するようにも見えますが、その解釈と運用は大きく異なります。

日本の労働契約法では、解雇権濫用の法理に基づき、解雇の有効性は厳格に審査され、特に経営上の理由による整理解雇には厳しい要件が求められます。これに対し、デンマークでは、経営上の必要性を理由とする解雇(整理解雇)については、その合理性が日本よりも緩やかに認められる運用がなされています。これにより、企業は市場や経済状況の変化に迅速に対応するための人員調整を比較的容易に行うことが可能です。解雇が不当と判断された場合でも、雇用主は従業員に対して金銭的な補償を支払うことで解決に至る場合が多いです。

サラリー従業員(ホワイトカラー)の場合、勤続年数に応じて1ヶ月から6ヶ月の通知期間が義務付けられています。試用期間中の解雇通知期間は通常14日と短く定められています。この柔軟な解雇制度は、雇用主が新規採用に際して、将来的なリスクを過度に恐れることなく、人材を積極的に登用するインセンティブにもなっています。

手厚い社会保障(Security)

この柔軟な解雇制度を支えているのが、手厚い社会保障と再就職支援です。

デンマークには法定最低賃金が存在せず、賃金水準は主に労働組合と雇用主間の団体交渉協約によって決定されます。これにより、比較的高い賃金水準が維持されています。労働力の約84%が団体協約にカバーされているという調査もあり、労働組合の影響力は非常に強力です。

失業保険は、失業保険基金(A-kasse)と呼ばれる私的な協会への任意加入によって成り立っています。加入者は、失業後に「失業手当(dagpenge)」を受け取ることができ、その額は前職給与の最大90%に達し、最長2年間支給されます。この制度は、特に所得の低い労働者にとって手厚い保障となり、失業中の生活不安を大幅に軽減します。さらに、失業中に一時的に働いた時間に応じて、給付期間を延長できる仕組みも存在します。

同時に、政府は「積極的な労働市場政策」として、失業者が迅速に再就職できるよう、教育・再訓練プログラムやカウンセリングサービスを提供しています。失業手当の受給者は、これらのプログラムに参加する「権利と義務」を持つことが制度に組み込まれており、単なる失業給付の提供に留まらない、労働市場への再統合を強く促す仕組みとなっています。

この「フレキシキュリティ」モデルは、日本の労働法における厳格な解雇規制とは対照的であり、日本企業がデンマークで事業を展開する際には、人員配置の柔軟性が高まる一方で、従業員の流動性が高いことを前提とした人事戦略や、社会保障制度・団体交渉への理解が不可欠となります。デンマークの労働者は、キャリアアップのために転職することにも積極的であり、民間企業の従業員の約25%が毎年転職しているというデータも、このモデルが社会全体に浸透していることを示しています。

項目日本デンマーク
解雇の容易さ厳格な規制(解雇権濫用の法理)比較的容易(経営上の理由に合理性)
最低賃金有(法定)無(団体協約で決定)
労働時間(標準/最大)週40時間/法定上限週37時間/48時間
残業代の法定義務無(契約・協約で決定)
退職金(法定)有(勤続年数に応じ)有(勤続12/17年以上で1-3ヶ月分)
団体交渉の役割補完的中心的
試用期間原則無(慣行として存在)サラリー従業員は最大3ヶ月
社会保障一定程度充実充実(手厚い失業給付、再訓練)

デンマークにおける広告規制

デンマークの広告規制は、主に「マーケティング慣行法」(Danish Marketing Practices Act)によって定められています。この法律は、企業が消費者に対してどのようにマーケティングを行うべきかの枠組みを提供しており、EUレベルの規制とデンマーク固有の規定が組み合わされています。

一般広告規制

企業は「公正な商業慣行」を遵守しなければならず、マーケティング活動は社会的に許容される規範に適合し、不快または非倫理的であってはなりません。事実と異なる情報、欠落した情報、曖昧または不明瞭な表現、特定の情報を強調しすぎて製品を全体的に良く見せるような表現は禁止されます。例えば、法的権利を独自の提供であるかのように提示することや、「無料」と謳いながら避けられない費用以外に支払いを要求することは禁止されます。

ブログ投稿やInstagram投稿などが商業目的である場合は、受信者に明確に伝わるようにしなければなりません。これは印刷物、オンラインメディア、ソーシャルメディアなど、あらゆる媒体に適用されます。消費者の明示的な同意がない限り、広告メール、テキストメッセージ、電話などの電子マーケティングは原則として禁止されています。新聞、雑誌、書籍、保険契約、救助・患者輸送サービス契約など、一部の業界には例外がありますが、ロビンソンリスト(拒否者リスト)に登録されている消費者への連絡は、これらの例外であっても同意が必要です。

18歳未満の子供や若者は特に脆弱な市場セグメントと見なされ、より厳格な要件が適用されます。広告であることが明確である必要があり、アルコールや薬物など、子供や若者に不適切な製品への言及や画像は禁止されます。15歳未満の子供や若者のソーシャルメディアプロフィールを通じたマーケティングも制限されます。年利が25%を超える消費者ローンのマーケティングは禁止されています。また、ギャンブル関連の広告と併せて消費者ローンをマーケティングすることも禁止されています。デンマーク消費者オンブズマン(Danish Consumer Ombudsman)がマーケティング慣行法の遵守を監督し、違反には罰金が科されることがあります。

医薬品・医療機器広告規制

医薬品の広告は、デンマーク医薬品法第7部(第63条-70条)、医薬品広告等に関する行政命令(Advertising Order)、および医薬品サンプルの供給に関する行政命令によって規制されます。医療機器の広告は、医療機器広告等に関する行政命令(Executive Order no 715 of 24 May 2022)およびEU医療機器規則(MDR)第7条によって規制されます。

全ての医薬品および医療機器の広告は、完全かつ客観的(saglig)であり、誤解を招くものであってはならず、製品の品質を誇張してはなりません。情報は製品のSummary of Product Characteristics (SmPC) に合致している必要があります。

「広告」は広範に解釈され、書面資料、ダイレクトメール、従業員による活動、インターネットやソーシャルメディアの利用、動画、パンフレット、製品サンプル、贈答品、接待など、あらゆる形態が含まれます。デンマークで販売または供給が承認されていない医薬品の広告は禁止されています。未承認製品や未承認適応に関する情報提供は、違法な発売前広告または適応外広告と見なされることが多いです。医薬品の比較広告は許可されていますが、比較対象を明確にし、関連性のある医薬品(通常は同じ適応症を持つもの)に限定し、SmPCの情報に基づいて行う必要があります。OTC製品の比較広告では、一般向け広告で他製品と同等またはそれ以上の効果があるかのような印象を与えることは違法です。

デンマーク医薬品庁(Danish Medicines Agency, DKMA)とデンマーク保健省(Danish Ministry of Health)が医薬品広告の遵守を監督します。医療機器についてもDKMAが市場監視を行います。製薬業界の自主規制機関として、製薬業界倫理委員会(ENLI)があり、医療専門家向けの医薬品広告に関する行動規範(Promotion Code)を発行しています。

デンマークの資金決済法

資金決済法

デンマークの資金決済サービスは、EU加盟国としての枠組みの中で、特に改定決済サービス指令(PSD2)に準拠した国内法によって規制されています。主要な規制機関はデンマーク金融監督庁(Danish Financial Supervisory Authority, Finanstilsynet)です。

決済サービス規制の枠組み

デンマークは、EUのPSD2に準拠しており、これにより決済業界における競争とイノベーションが促進されています。PSD2は、銀行に対し、口座保有者の同意を得て第三者プロバイダーに口座情報へのアクセスを許可することを義務付けています。「デンマーク決済サービス・電子マネー法」(Danish Payment Services and Electronic Money Act)がPSD2に整合しており、不正な決済取引が発生した場合、支払者は直ちに返金を受ける権利があると規定しています。ただし、支払者が詐欺行為に関与した兆候がある場合は例外です。

デンマーク金融監督庁(Finanstilsynet)は、金融機関を監督し、市場の信頼を維持する主要な規制機関です。その役割には、銀行、証券取引所、証券・マネーマーケットブローカー、決済・登録機関、保険会社、年金基金などの規制、監督、統計収集が含まれます。デンマーク決済評議会(Danish Payments Council)は、デンマーク国立銀行が議長を務め、決済分野の主要な関係者が知識や見解を交換し、市場の効率性と安全性を促進するフォーラムです。

FinTech企業へのライセンス要件

デンマークにはFinTechビジネスに特化した特定の規制は存在しませんが、金融サービスを提供する場合は既存の金融ビジネス規制の枠組み内で活動する必要があります。以下の活動を行う場合、ライセンスが必要となる可能性があります。

  • 預金受入活動
  • 消費者向け貸付
  • 決済サービスの提供(PSD2の付属書で定義されるもの)
  • 電子マネーの発行
  • 外国為替関連サービス
  • 投資サービスおよび/または投資助言
  • 保険活動

電子マネー機関(EMI)ライセンスを取得するには、デンマークに実際の会社を設立し、EUの標準要件(35万ユーロから)に従って授権資本を預託する必要があります。取締役は自然人であり、公開株式会社の場合、金融・電子決済分野での経験と知識を持つ少なくとも3名の取締役が必要です。デンマーク金融監督庁は、FinTech企業が新しい技術やビジネスモデルを安全な環境でテストできる「FT Lab」という規制サンドボックスを提供しています。これにより、企業はライセンスが必要かどうかを効率的に明確にできます。

デンマークの薬機法・医療機器規制

デンマークにおける医薬品および医療機器の規制は、EUの広範な法的枠組みに統合されており、デンマーク医薬品庁(Danish Medicines Agency, DKMA)が主要な監督機関です。

医薬品の承認・販売規制

医薬品の承認と管理、製造・保管・取り扱いを行う企業の監督は、デンマーク医薬品法(Danish Medicines Act)によって規制されています。デンマークで医薬品を販売または供給するには、原則としてDKMAまたは欧州委員会による承認(Marketing Authorisation, MA)が必要です。申請者は、医薬品の便益がリスクと副作用を上回り、安全で、十分な品質と一貫性があることを示す必要があります。

承認手続きには、EU全体で承認を得る中央集中型手続き、複数のEU/EEA加盟国で同時に承認を得る分散型手続き、デンマーク国内でのみ承認を得る国内手続き、既に他の加盟国で承認を得ている医薬品について他の加盟国でも承認を得る相互承認手続きの4つの種類があります。

医薬品の臨床試験を開始・実施するには、DKMAの承認と、関連する国家医療倫理委員会の承認が必要です。EUの臨床試験規則(CTR)に基づき、申請はClinical Trials Information System (CTIS) を通じて提出され、EU加盟国間での協調審査をサポートします。デンマークで販売される医薬品には、デンマーク語の製品概要(SPC)、添付文書、表示が義務付けられています。医薬品会社は、製品および原材料が承認された要件(効力、溶解速度、純度、表示など)を満たしていることを確認する必要があります。欧州薬局方(European Pharmacopoeia, Ph. Eur.)に掲載される基準がデンマークで施行されます。

医療機器の承認・販売規制

医療機器は、EU医療機器規則(MDR: Regulation (EU) 2017/745)および体外診断用医療機器規則(IVDR: Regulation (EU) 2017/746)によって規制されます。これらの規則は2021年5月(MDR)および2022年5月(IVDR)に発効し、従来の指令を置き換えました。医療機器は当局による事前の承認を必要としませんが、CEマークの取得が義務付けられています。CEマークは、製品がEU規則およびデンマークの行政命令の該当要件を満たし、適合性評価手続きを経たことを示します。

製造業者は、機器が法的要件(EU規則の付属書Iに定められた一般安全・性能要件など)に適合していることを確認し、その文書(リスク分析、監視システム、証明書、臨床評価など)を作成する必要があります。リスククラスI以外の医療機器の場合、製造業者は製品文書の審査のために、当局が指定したノーティファイドボディを選択する必要があります。ノーティファイドボディは、製品が市場に投入される前に適合性を評価する機関です。デンマーク国内にもノーティファイドボディが指定されています。製造業者は、市販後監視システムを設置し、機器の性能と安全性に関する情報を体系的に収集・処理する必要があります。重大なインシデントやフィールド安全是正措置は当局に報告する義務があります。デンマークに設立された医療機器の製造業者、認定代理人、輸入業者、販売業者、専門販売店は、DKMAに登録する必要があります。

デンマークの税法

法人税とVAT

デンマークの法人税率は22%です。デンマークに居住する法人(デンマークで登記されているか、実質的な経営地がデンマークにある場合)およびデンマークに恒久的施設または不動産を持つ外国企業が課税対象となります。デンマークのVAT税率は25%であり、軽減税率は存在しません。売上高がDKK 5,000万を超える企業は、毎月VATを申告する必要があります。輸出や国際輸送など、特定のシナリオでは0%のVAT率が適用されます。

外国親会社への配当は、親会社がデンマーク企業の株式の10%以上を保有し、かつEU親子会社指令または関連する租税条約に基づき免除または減額の対象となる場合、デンマークの源泉徴収税が免除されます。それ以外の場合、原則として27%の源泉徴収税が課されますが、非居住者企業株主には22%の配当税率が適用されることがあります。デンマーク企業株主による非上場株式の売却益は一般的に非課税です。上場株式の売却益は22%で課税されます。外国株主は、デンマーク企業の株式を第三者に売却しても、デンマークのキャピタルゲイン税の対象とはなりません。

研究開発(R&D)税制優遇

デンマークは、R&D活動を奨励するための税制優遇措置を提供しています。2023年から2025年まで、R&D費用に対して108%の控除が可能です。2026年以降は110%に調整されます。この控除は、プロジェクトの種類に関わらず適用されます。R&D費用が税務上の損失をもたらした場合、企業はこれらの損失に関連する費用の22%を現金で還付を受けることができます。上限はDKK 550万です。これらの優遇措置は、OECDフラスカティ・マニュアルのR&Dの広範な定義に合致する、新しい科学的または技術的知識の獲得を目的としたR&D支出に適用されます。

移転価格税制と国際課税

2025年6月3日にデンマークの移転価格文書化に関する新法が可決され、2025年会計年度から適用されます。多国籍企業グループに属するデンマーク企業は、以下の連結ベースの閾値のいずれかを超える場合、移転価格文書の提出が義務付けられます。

  • 従業員数: 250 FTEs(変更なし)
  • 売上高: DKK 3億9,100万(旧DKK 2億5,000万)
  • 貸借対照表合計: DKK 1億9,500万(旧DKK 1億2,500万)

総取引額がDKK 500万未満、かつ期末の関連者間債権債務がDKK 5,000万未満のデンマーク企業は、上記の閾値を超えていても文書提出が免除されます。ただし、無形資産/IP関連の取引(ロイヤリティ支払いなど)や、デンマークが情報交換協定を結んでいない国との関連者間取引は、値に関わらず常に文書化が必要です。移転価格文書に関する監査人声明の要件が廃止され、移転価格文書の提出期限が、法人税申告書の延長期限と自動的に一致するようになります。文書化義務の有無に関わらず、全ての関連者間取引は独立企業間原則(arm’s length principle)に準拠する必要があります。

日本との租税条約

日本とデンマークは、2017年10月11日に新たな租税条約を締結し、2018年12月27日に発効しました。これはOECDモデル租税条約に概ね沿った内容です。主な変更点として、人為的なPE認定回避を防ぐための規定導入や、本店と支店間の内部取引を認識し独立企業間原則を適用して事業利得を計算する規定導入が挙げられます。配当、利子、使用料については、一定の条件を満たす場合、源泉地国での税率が0%となるなど、大幅な引き下げが実現しました。

デンマークにおけるAI(人工知能)関連法分野

AI(人工知能)関連法分野

デンマークにおけるAI規制は、欧州連合(EU)のAI法(EU AI Act)の枠組みに沿って進められています。デンマークは、EU AI Actの規定を実施するための国内法を早期に採択した最初のEU加盟国の一つであり、2025年8月2日に施行されます。

EU AI Actの国内法化と規制の枠組み

2025年5月8日、デンマーク議会はEU AI Actに準拠したAI規制の追加規定を導入する法案を可決しました。この国内法は、EU AI Actの実施と適用を可能にするためのガバナンス枠組みと刑事制裁制度を組織することを目的としています。デンマークは、デジタル政府庁(Agency for Digital Government – Digitaliseringsstyrelsen)を通知機関、市場監視機関、単一連絡窓口として指定しています。デンマークは、限られた数の当局を指定し、既存の機関に全面的に依存する集中型ガバナンス枠組みと、分野横断的な一般管轄権を持つ当局を選択する一般主義的アプローチを採用しています。EU AI Actは、その性質上、国内法への転置を必要としない「規則」であるため、デンマークの採択した法律は、EU AI Actの実施を円滑にするための組織的・罰則的な枠組みを定めています。違反に対する刑事罰は、その性質に応じて金銭的なものに限定され、刑事責任および5年の時効期間が規定されています。

AIと既存法制度の統合

デンマークはこれまでAIに特化した法律を持っていませんでしたが、今回の法案はAIルールを既存の法的枠組み(GDPRおよびデンマークデータ保護法、デンマーク雇用差別禁止法、デンマーク著作権法、企業秘密法など)に統合するものです。

特に注目されるのは、ディープフェイク規制に関する動向です。デンマークは、AI生成ディープフェイクの影響から個人の権利を保護するため、デジタル著作権法の一部として新たなディープフェイク法案を提案しています。これは、個人の顔、声、身体に対する所有権を著作権法で認めることで、同意のない使用を違法とする画期的なアプローチです。この権利は、アーティストの死後50年間まで延長される可能性があります。日本の肖像権やパブリシティ権の議論とは異なる、明文化された、広範な権利保護のアプローチと言えるでしょう。

まとめ

デンマークは、医薬品、グリーンテクノロジー、ICTといった革新的な産業が牽引する堅調な経済成長を背景に、日本企業にとって魅力的なビジネス展開先となり得ます。しかし、その法制度は日本と共通する大陸法系を基盤としつつも、EU加盟国としての特性やデンマーク独自の社会経済モデルに起因する顕著な違いが存在します。

本記事で解説したように、デンマークの法制度は、包括的な民法典を持たず個別の専門法が多数存在するため、特定の取引においては詳細な法規の特定と理解が不可欠です。

海外からの投資に関しては、デンマーク投資審査法(FDI Act)が特に防衛、重要技術、重要インフラなどの「機微な分野」への投資に厳格な強制承認制度を設けており、AIやバイオテクノロジーといった広範な「重要技術」の定義は、日本企業が想定する以上に多くの投資が審査対象となる可能性があります。最も顕著な違いは労働法に現れる「フレキシキュリティ」モデルです。これは、解雇の容易さと手厚い失業給付・再訓練制度を両立させ、法定最低賃金が存在しない代わりに団体交渉が賃金決定の中心となるという、日本の終身雇用慣行とは対照的なシステムです。これは、日本企業の人事戦略において大きな転換を必要とします。

関連取扱分野:国際法務・海外事業

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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