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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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チュニジアの法制度を弁護士が解説

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北アフリカに位置し地中海に面するチュニジア共和国(以下、チュニジア)は、欧州、中東、アフリカの各市場を結ぶ地政学的な要衝として、また優秀で多言語を操る人材を擁する生産拠点として、多くの多国籍企業から注目を集めています。日本企業が同国でのビジネス展開や合弁会社の設立、あるいは現地リソースを活用したアウトソーシングなどを検討する際、現地の法制度を正確に理解することは極めて重要です。

チュニジアの法制度は、フランス保護領時代の歴史的背景からフランス法に強く影響を受けた大陸法(シビル・ロー)を基盤としており、成文法主義を採用している点で、同じく大陸法を継受した日本の法制度と共通する法的思考枠組みを多く持っています。その一方で、家族法や相続法といった特定の領域においてはイスラム法(シャリーア)や固有の慣習法が融合した独自の構成をとっており、ビジネス実務においても属人的な法制が思わぬ影響を及ぼすことがあります。

独立後の近代化や2011年の「ジャスミン革命」を経て、チュニジアでは法体系の民主化や法改正が進められ、さらに近年では2022年に新たな憲法が制定されるなど、現在もダイナミックな変革の途上にあります。このような独自の進化を遂げる法体系は、西洋的なビジネスルールと伝統的な規範が交差する複雑な環境を作り出しており、現地に進出する外国企業に対して精緻なリーガルリスク管理を要求します。特に、言語の壁や制度の運用実態に関する情報の非対称性が高いため、具体的な法令や最新の判例に基づいた客観的な分析が不可欠です。

本記事では、チュニジアにおけるビジネス展開を検討される日本の経営者や法務担当者の皆様に向けて、同国の法制度の全体像と実務上の留意点を詳細に解説します。記事全体の要点として、まずチュニジアの商取引の基盤となる「債務および契約に関する法典」はフランス法をモデルとしており、契約の自由や信義誠実の原則など日本の民法と共通する概念が多いため、日本企業の標準的な契約実務が適用しやすい環境にあります。

さらに、2016年に大改定された投資法は外国人投資家に対する不動産所有や資金送金の自由を強力に保障しており、最新の最高裁判例でも未登録の著名な外国商標の保護が認められるなど、外資誘致に向けた法的環境の整備と知的財産権の保護が着実に進んでいます。しかしその一方で、ジョイントベンチャーの組成などにおいては、イスラム法に基づく独特の法定相続分を定める「個人身分法」が適用される結果、現地パートナーの死亡時に株式が多数の親族に細かく分散し、会社の意思決定がデッドロックに陥るというチュニジア特有の重大なガバナンスリスクが潜んでいる点に注意が必要です。

これらの包括的な理解を通じて、チュニジア市場への安全かつ戦略的な参入に向けた実践的な知見を提供いたします。

チュニジアの憲法および統治機構の変遷と現状

2011年に勃発した「ジャスミン革命」は、中東・北アフリカ地域全体に波及した民主化運動の先駆けとなりました。この革命を経てチュニジアは2014年に民主的な新憲法を制定しましたが、その後の政治的混乱や経済的停滞を背景に、大統領による権限強化を目的として2022年8月17日に新たな憲法が公布・施行されました。

2022年憲法の大きな特徴は、国家のアイデンティティと経済活動の保障に関する明確な規定です。憲法第5条は、チュニジアがイスラム国家の一部であることを宣言し、国家が民主的な体制のもとで、生命、名誉、財産、宗教、自由を保護するという真のイスラムの目的を実現するよう努めなければならないと定めています。また、第6条では公用語をアラビア語と規定しています。一見すると宗教的色彩が強いように感じられますが、国家体制そのものは世俗的な法治国家の枠組みを維持しています。

ビジネス環境に関連する重要な規定として、憲法第17条は「国家は公共部門と民間部門の共存を保障し、社会正義に基づき両者の補完性を確保するよう機能する」と定めています。さらに第46条では労働の権利と公正な報酬の権利を保障し、第124条では公正な裁判を受ける権利や適正手続の保障を明記しています。日本の憲法における財産権の保障や職業選択の自由と同様に、チュニジアでも民間企業による自由な経済活動が最高法規によって裏付けられています。

ただし、2022年憲法は大統領への権限集中を強める内容となっているため、政令や大統領令による法規制の急な変更リスクについては、進出企業として継続的なモニタリングが求められます。

チュニジア民商事法の基礎と日本法との異同

チュニジア民商事法の基礎と日本法との異同

契約法の基本原則

チュニジアにおいて、日本における民法の財産編や契約法に相当する基本法典が、1906年に公布され1907年に施行された「債務および契約に関する法典(COC)」です。COCはフランス民法典をモデルとして起草され、その後幾度かの改正を経て現在に至っています。

日本の民法と同様に、COCにおいても「契約自由の原則」と「信義誠実の原則」が柱となっています。COC第242条は「有効に成立した契約上の義務は、当事者間において法律に代わるものとして機能し、相互の合意または法律が定める場合を除き、これを取り消すことはできない」と規定し、契約の拘束力を強力に宣言しています。また、第243条は「すべての約束は信義誠実に従って履行されなければならない」と定めています。これらの規定は、日本の民法第1条(基本原則)や第522条(契約の成立と方式)の考え方と軌を一にするものであり、日本企業が契約書をドラフトする際の基本的なアプローチはチュニジアでも十分に通用します。基本構造が日本法とほぼ同じであるため、国際取引において一般的な英文契約書のフォーマットを使用することに大きな法的障害はありません。

また、社会のデジタル化に伴う法整備も行われています。2000年6月13日の法律第2000-57号によりCOCが改正され、電子署名および電子文書の法的効力が明記されました。例えば、COC第453条の2などの追加により、一定の要件を満たす電子文書は、従来の書面と同等の証拠価値を持つことが認められています。日本法における電子署名法に相当する手当がなされていることから、チュニジアの取引先との間で電子契約システムを利用したペーパーレスな契約締結も、法的に保護される環境が整っているということが言えるでしょう。

会社法とコーポレートガバナンスにおける判例の動向

チュニジアで現地法人や合弁会社を設立する際、日本の会社法にあたる「商事会社法典」が適用されます。株式会社や有限会社といった基本的な機関設計は日本法と類似していますが、実務上は厳格な形式要件や設立の意図が問われる場面があります。

チュニジアの破毀院(最高裁判所に相当)は、会社設立の根幹となる「アフェクティオ・ソシエタティス(共同事業を営む意思)」について、重要な判断を下しています。2018年3月26日の破毀院判決(判決番号50712)において、裁判所は当事者間にこの共同事業を営む真の意思が存在しない場合、会社の設立自体が否定され得る旨を明確にしました。この判決から、節税や名義貸しなどを目的とした実態のない会社設立に対して司法が厳しい姿勢を示しているということが言えるでしょう。日本企業が現地パートナーと合弁を組む際には、契約書面上の出資比率だけでなく、事業運営への実質的な関与やリスク分担の証拠を明確に残しておく必要があります。

さらに、仲裁条項の効力に関する画期的な判例も存在します。2023年に破毀院が下した「Gest-Hôtel事件」の判決において、裁判所は、仲裁合意に直接署名していない親会社であっても、実質的な関与などの一定の例外的な状況下においてはその仲裁合意に拘束されると判示しました。日本法の下では、契約の相対性の原則から、署名していない親会社が仲裁に巻き込まれることは原則として想定されにくいですが、チュニジアの実務においては、グループ企業間の責任分界点や親会社の関与の度合いについて、より慎重な法務設計が求められます。

チュニジアの投資法と競争法による外資誘致と市場ルール

2016年投資法による市場開放とインセンティブ

チュニジア政府は、海外からの直接投資を経済成長の原動力と位置づけ、2016年9月30日に新たな「投資法(法律第2016-71号)」を制定しました。旧投資奨励法を全面的に刷新したこの法律は、外国人投資家に対する強力な保護と自由を明記しており、同国のビジネス環境を飛躍的に向上させました。

まず、投資法第4条において「投資は自由である」と宣言され、原則として内外無差別の待遇が保障されています。さらに注目すべきは第5条であり、「投資家は、直接投資業務を行う目的において、非農地用不動産を自由に取得、賃借、および利用することができる」と定められています。また、第6条は「投資家は、現行の為替法規に従い、自己の資本を外貨で国外へ自由に送金することができる」と規定しています。

投資法における主要な保障内容チュニジア法(2016年投資法)の規定外資進出における実務上のメリット
不動産の所有権事業用の非農地用不動産を自由に取得可能(第5条)自社工場やオフィスの直接保有による資産形成と賃料変動リスクの回避が可能
資金の海外送金外貨による資本の国外送金が自由に認められる(第6条)利益配当や事業撤退時の投下資本回収における為替リスクや流動性リスクの低減
外資出資比率原則として全ての経済活動において100%の外資出資が可能(第4条)現地パートナーへの依存を減らし、完全子会社としての機動的な意思決定が可能

中東・北アフリカの多くの国では、外資規制により外国法人による不動産取得が厳しく制限されていたり、過半数の現地資本の受け入れが義務付けられていたりすることが一般的です。しかし、上記の表に示した通り、チュニジアにおいては事業用の土地を自社保有し、利益を外貨建てで円滑に本国へ還流させることが法的に保障されており、これは日本企業にとって極めて大きな投資インセンティブとなります。

競争法と知的財産権の保護に関する最新実務

市場の公正な競争を維持するため、チュニジアでは2015年9月15日に制定された「競争および価格の再編に関する法(法律第2015-36号)」が運用されています。この法律に基づき競争評議会が設置され、カルテルや支配的地位の濫用に対する監視が行われています。日本企業が現地で高い市場シェアを獲得した場合、日本における独占禁止法と同様に、価格操作や排他的取引に対して厳格な調査が行われる可能性があるため、現地のコンプライアンス体制の構築は不可欠です。

知的財産権の保護に関しても、近年、外資系企業に有利な重要な判決が出ています。2024年にチュニジア破毀院が下した画期的な判決(Maison Lumière SA 対 Société El-Manara de Maroquinerie SARL事件、判決番号61293/2024)がそれにあたります。この事案は、チュニジア国内の商標登録簿に特定の図形商標を登録していなかったフランスの高級ブランドに対し、現地の製造業者が模倣品を製造・販売したというものです。控訴院は「チュニジア国内で登録されていない商標は保護されない」として訴えを退けましたが、最高裁である破毀院はこれを破棄しました。破毀院は、工業所有権の保護に関するパリ条約第6条の2(周知商標の保護)やTRIPS協定に基づく義務を根拠に、チュニジア国内で未登録であっても「国際的に周知された外国商標」は保護されるべきであり、現地企業による全体的な外観の模倣はチュニジア商法に基づく不正競争行為に該当すると判示しました。

この判決から、チュニジアの司法は国際条約を尊重し、フリーライドを許さないという強い意図を示しているということが言えるでしょう。日本のアパレル、電子機器、自動車部品メーカーなど、グローバルにブランドを展開する企業にとって、チュニジア市場における模倣品対策を強力に後押しするものです。この判決に関する詳細なレポートは、アラブ法務ガイドの公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:アラブ法務ガイドの公式ウェブサイト

チュニジアの身分法とイスラム相続法がビジネスに与える影響

チュニジアの身分法とイスラム相続法がビジネスに与える影響

チュニジアの法制度において、日本法と最も大きく異なり、かつビジネス上も予期せぬ落とし穴となり得るのが「個人身分法(CSP)」の存在です。1956年に制定されたCSPは、アラブ諸国の中で最も進歩的な家族法として知られており、第18条によって一夫多妻制を明確に禁止するなど、女性の権利保護に大きく舵を切りました。

しかしながら、相続の分野においては依然としてイスラム法(シャリーア)の伝統的な配分ルールが法典化されています。CSP第85条から第143条にかけて詳細に規定されている相続ルールでは、日本の民法のように「配偶者と子が均等に分ける」といった法定相続分とは全く異なる体系がとられています。イスラム法の原則に基づき、男性相続人は同順位の女性相続人の2倍の取り分を得るというルールがベースにあり、さらに故人に直系尊属(父母)がいる場合、それぞれに細かく分数で定められた固定割合が割り当てられます。

相続人の構成日本法(民法)における法定相続分チュニジア法(CSP)における法定相続分の概算例
配偶者(妻)2分の1(50%)8分の1(12.5%)
子(長男)4分の1(25%)残余財産のうち、長女の2倍の割合
子(長女)4分の1(25%)残余財産のうち、長男の半分の割合
父母(存命の場合)子がいるため相続権なし(0%)父に6分の1(約16.6%)、母に6分の1(約16.6%)

この相続ルールが日本企業のビジネスにどのような影響を与えるのでしょうか。例えば、日本企業がチュニジアの有力な地元経営者と合弁会社を設立し、株式を50%ずつ持ち合っていたと仮定します。もしその地元経営者が急逝した場合、その保有株式は日本の法定相続のように妻と数人の子供に単純に引き継がれるわけではありません。上の表が示す通り、CSPの規定に基づき、妻、息子、娘だけでなく、存命であれば故人の両親、場合によっては兄弟など、多数の親族に対して株式が細かく分散して相続されることになります。

その結果、日本の親会社は、合弁会社の意思決定において事業に全く関与したことのない多数の遺族(見知らぬ多数の少数株主)と対峙しなければならなくなります。意見の不一致により株主総会での議決権行使や会社のガバナンスが機能不全に陥るリスク(デッドロック)が極めて高くなります。この規定から、チュニジアの個人投資家や経営者とジョイントベンチャーを組む際には、単に会社法上の定款を作成するだけでなく、株主間協定において、個人の死亡時の株式譲渡に関するコールオプション(残存株主が遺族から株式を強制的に買い取る権利)や、譲渡制限の条項を緻密に設計しておくことが不可欠であるということが言えるでしょう。

民商事法がフランス法系で日本に近いからといって油断していると、属人法たる身分法の領域からビジネスの根幹を揺るがす事態が生じかねない点に、チュニジア法務の最大の留意点があります。

まとめ

チュニジアの法制度は、フランス大陸法を基盤とした透明性の高い民商事ルールと、外資誘致を積極的に推進する先進的な投資法を備えており、日本企業にとって非常にアクセスしやすい法的環境を提供しています。契約の自由や信義誠実の原則といった基本概念は日本の民法と共通しており、さらに最新の最高裁判例が未登録の周知商標の保護を認めるなど、外国企業に対する司法の理解も着実に進んでいます。事業用不動産の取得や外貨送金が法的に保障されている点は、周辺国と比較しても際立った優位性を持っています。

しかしその一方で、非署名親会社に対する仲裁条項の適用リスクや、イスラム法の原則が色濃く残る個人身分法の相続ルールが合弁事業のガバナンスに及ぼす影響など、チュニジア特有の法的リスクを正確に把握しておく必要があります。特に、現地のパートナー個人の不測の事態が会社のデッドロックを招くリスクに対しては、契約段階での周到な予防策が求められます。表面的な法制度の共通性だけでなく、現地固有の判例実務や文化・宗教的背景に根ざした法制の細部にまで目を配ることが、チュニジア市場での成功の鍵となります。

モノリス法律事務所では、こうした内容について、日本企業の皆様への法務サポートを幅広く提供し、チュニジアにおけるビジネスの成功に向けてサポートいたします。契約書の精査や合弁事業の組成に向けた法的リスクの洗い出し、予期せぬ現地法制の影響を排除するためのガバナンス設計など、多角的な視点から皆様の安全かつ戦略的な海外展開に伴走いたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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