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介護事故報告書の重要性とは?書き方や注意点について解説

介護施設で事故が発生した際、施設は介護事故報告書を作成する必要があります。介護事故報告書とは、介護事故が発生した際に報告書として提出する資料です。介護事故報告書は、事故の詳細をわかりやすく、具体的に記載します。

本記事では、介護事故報告書で記載すべき事項や、作成する際の注意点を解説します。介護事故報告書の作成時の参考にしてください。

介護事故報告書とは

介護事故報告書とは

介護施設の経営者にとって、介護事故報告書の定義、報告の法的義務、報告書の役割を理解し、事故発生時に速やかに対応することが健全な介護施設の運営につながります。それぞれの詳細を解説します。

介護事故報告書の定義

介護事故報告書とは、介護保険施設で事故が起きた際に、事故の詳細を行政に報告するための文書です。介護サービス事業者の施設で事故が発生した場合は、事業所の所在地の市町村等へ報告することが義務付けられています。介護事故報告書により、事故の内容や原因、再発防止策を明確にし、介護サービスの質と安全性を向上させることを目的としています。

介護事故報告書には、発生した事故の内容、事故発生時の対応、事故原因の特定と分析、再発防止策と改善計画などを記載します。

介護事故報告書に関する法的義務と必要性

介護施設には、介護事故が発生した際には、事故内容によっては行政へ報告する義務があります。行政への報告が義務となる介護事故は下記のとおりです。

  1. 死亡に至った事故
  2. 医師(施設の勤務医、配置医を含む)の診断を受け投薬、処置など何らかの治療が必要となった事故

参考:厚生労働省老健局|介護保険最新情報「介護保険施設などにおける事故の報告様式などについて」

上記以外の事故については、各自治体の定めるガイドラインに基づいて報告が必要かどうかが判断されます。自治体によっては、軽微な事故でも報告を求めるケースがあるため、自治体の規定を確認しておきましょう。

初回の報告は、事故が発生してから5日以内に電話の一次報告と報告書提出が推奨されています。この期間内に速やかに報告書を作成し、関係機関へ提出することが大切です。

また、事故の状況が変化した場合や追加の調査が必要な場合は、2回目以降の報告を行うことがあります。これは必要に応じて追加の情報を提供し、状況を適切に把握するためです。

介護事故報告書が果たす役割

介護事故報告書の作成には、いくつかの重要な役割があります。

1つ目は、介護事故の再発防止です。事故の発生について、介護事故報告書の作成の過程で、その背景や原因を詳しく分析します。このプロセスにより、同じような事故が再び起こらないようにするための予防策が考案され、実行できます。

2つ目は、介護サービスの質の向上と改善です。介護事故報告書は、介護サービスの問題点を明確にして、サービスの改善に役立てるための貴重な情報源となります。報告書をもとに、サービスの提供方法や環境の改善が図られることで、全体的な介護の質が向上します。

3つ目は、介護事故の詳細情報を従業員全員で共有するという役割です。介護事故報告書は、事故の経緯や原因、今後の対策について職員全体に周知し、共通の認識を持たせるためのツールです。これにより、施設内での安全意識が高まり、組織全体としての対応力が強化されます。

4つ目は、訴訟の際の証拠としての役割です。介護事故報告書は、利用者やその家族が、介護施設やその従業員に対して損害賠償を請求する訴訟を起こしたときに、証拠として提出されるケースや賠償責任の判断材料となるケースがあります。請求の根拠として、安全配慮義務違反や注意義務違反に基づく債務不履行が挙げられます。裁判が行われると、施設や従業員が義務を果たしていたかどうかを判断するために、事故報告書が重要な証拠となるのです。

関連記事:介護事故で訴えられたらどうなる?施設の賠償責任と対策を徹底解説

介護事故報告書の基本構成

弁護士

介護事業者が介護事故報告書を作成する際には、報告書の基本構成や記載必要事項について正しく理解し、正しい報告書を作成することが大切です。以下では必須記載事項、再発防止策について解説します。

必須記載事項の確認

介護事故報告書に記載すべき項目と内容は、以下のとおりです。

項目内容
事故状況事故状況の詳細、受診種類、入院、死亡など事故の程度
事業所の概要法人名、事業所名、事業所番号、サービス種別、所在地
対象者介護事故で怪我をしたり損害を受けた利用者の情報
事故の概要事故の発生日時、発生場所、事故の種別、発生時状況、事故内容の詳細
事故発生時の対応発生時の対応、受診方法、受診先、診断名、診断内容、検査処置等の概要
事故発生後の状況利用者の状況、家族等への報告、連絡した関係機関、本人、家族、関係先等への追加対応予定
事故の原因分析本人要因、職員要因、環境要因
再発防止策原因に対応した再発防止策
その他上記以外に記載すべき内容

介護事故報告書を記載する際には、誰が見ても理解できるように客観的な事故内容を記載することが大切です。また、専門用語を多用すると、外部の関係者が理解できない可能性があるため、専門用語や略語などは多用を控えることが望ましいです。

各市町村で、報告書の様式が定められている場合があります。特に様式が定められていない場合には、上記の項目を網羅して作成します。

時系列での事実記録

介護事故報告書の作成において、事故の経過を時系列で正確に記録することは、事故の原因分析や再発防止策を立案するうえで重要です。

事故発生から対応までの流れを整理し、正確に記録します。事故状況、事故の発生日時、発生の状況、家族や関係先などをわかりやすく記載しましょう。

再発防止策の明確化

再発防止策は、各要因に対する具体的な対策を講じることが重要です。例えば、本人要因には個別ケアプランの見直し、職員要因には研修や業務改善、環境要因には施設の安全チェックなどが挙げられます。

また、再発防止策が現実的であり、従業員全員が実践可能な内容であることが求められます。複雑すぎる対策は、現場で実行困難になる可能性があります。

さらに、対策が実施された場合に、事故を防ぐ実効性があるかを事前に検証し、効果の期待できる方法を選ぶことが重要です。

介護事故報告書作成の注意点

介護士

介護事故報告書の作成にはどのような注意点があるのでしょうか。以下では、虚偽記載の禁止、個人情報保護、情報共有の重要性について解説します。

虚偽記載の禁止と倫理的配慮

介護事故報告書の作成は、事故の発生や再発を防ぐことを目的とし、さらに介護サービスの向上や質の改善を図るために行われます。そのため、事実に基づいた客観的な情報の記載が必要です。

また、事故の内容を全従業員で共有し、事故の詳細を正確に把握することも重要です。介護事故報告書に虚偽の情報を記載してしまうと、再発防止策が適切に実施されず、事故が再発するリスクが高まります。

個人情報保護への配慮

介護事故報告書には利用者や関係者の個人情報が含まれるため、個人情報保護法を遵守した管理が必要です。事故報告書に個人情報を記載する際には、必要な範囲の個人情報だけを記載し、不要な個人情報の記載はしないようにします。特に、氏名、住所、連絡先など個人を特定できる情報は厳格な管理が必要です。

また、施設運営の関係者間で情報を共有する機会を設ける場合は、個人情報の取り扱いについて、情報漏洩が起こらない体制を築くことも不可欠です。

迅速な報告と情報共有の重要性

介護事故報告書は、単なる記録としてだけでなく、関係者全体への周知と対応策の共有にも役立ちます。同じ職場や作業環境で働く以上、全スタッフが事故当事者になる可能性があり、過去の事故の詳細が関係者全員に正確に伝わっていなければ、類似事故の再発リスクが高まってしまいます。

報告書を元に事故の再発防止に向けたミーティングを行うことで、精度の高い安全対策を実施できます。事故報告書は個別の事故対応に留まらず、迅速な共有により職場全体の安全性を高めるうえでも重要な情報となるのです。

まとめ:介護事故報告書の重要性を理解し適切な記載を

介護施設

介護施設における介護事故報告書の作成は、法律で義務付けられており、施設全体での事故防止や再発防止において不可欠な役割を果たしています。

介護施設では、高齢者の心身の健康と安全を守ることが最優先の課題ですが、どれだけ注意を払っても、事故を完全に防ぐことは難しいのが現実です。

そのため、施設全体で事故に対する意識を高め、事故が発生した際には迅速かつ的確に対応し、再発防止策を講じることが大切です。

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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