介護施設管理者のための介護事故対応マニュアル:予防策から対応まで
昨今の介護事故の増加を鑑み、介護事故対応マニュアルの再構築を模索する施設管理者が増えています。時流に合う介護事故の防止策や事故発生時における対応マニュアルの作成が急務です。介護施設の経営者・管理者は、そのための手順を正確に理解する必要があります。
本記事では、介護施設管理者向けの事故対応マニュアルの作成ポイント、介護事故の予防策、事故発生時の対応を詳しく解説します。介護事故のリスクを最小限にし、より安全な介護環境を提供できるようにするための参考にしてください。
この記事の目次
介護事故の概要と実態
介護事故とは、福祉サービスの提供中に起こるすべての人身事故で、身体的または精神的被害が生じたものを指します。事業者の過誤や過失があるかどうかにかかわらず、事故として扱われるのが一般的です。
ここでは、介護事故の基本的な概要と実態について詳しく解説します。
介護事故の定義
厚生労働省の資料(注1)では、全国社会福祉協議会の『福祉サービス事故事例集』による定義を引用し、「社会福祉施設における福祉サービスの全過程において発生する全ての人身事故で身体的被害及び精神的被害が生じたもの。 なお、事業者の過誤、過失の有無を問わない。」と「介護事故」を定義しています。
介護事故が発生した場合、責任は「事業所」と「従業員」の双方に及ぶため注意が必要です。事業所は、利用者がケガをした場合、安全配慮義務違反や注意義務違反による損害賠償責任(民法第415条第1項、第709条)や使用者責任(民法第715条第1項)、工作物責任(民法第717条第1項)を負うケースもあります。
また、行政上の責任として、介護保険法に基づく指定の取消し(介護保険法第77条第1項等)などの措置がとられるケースもあるため注意しなければなりません。
一方、従業員には、不法行為に基づく損害賠償責任(民法第709条)のほかや、業務上過失致傷罪(刑法第211条)として刑事責任を問われる可能性もあります。
注1:厚生労働省|「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取り組み指針 ~利用者の笑顔と満足を求めて~」について
主な介護事故の種類
介護現場では、利用者の安全を確保するためにさまざまな事故のリスクを理解し、予防策を講じることが重要です。ここでは、代表的な介護事故の種類を解説します。
【転倒・転落事故】
転倒・転落事故は、介護現場で最も多く発生する事故です。つまずいてバランスを崩したり、ベッド・椅子からの落下したりすることで起こります。特に高齢者や足腰に不安のある方に多く見られます。
【誤嚥事故】
誤嚥(ごえん)事故は、食べ物や飲み物が誤って気管に入ることで発生します。嚥下機能が低下している高齢者に多く見られ、窒息や肺炎のリスクもあるため、適切な食事介助が必要です。
【誤薬事故】
誤薬事故は、投与すべき薬や時間を間違えた場合に起こります。薬の管理が不十分な場合や、情報共有が不足している際に発生しやすく、利用者の健康に直接影響を与えるおそれもあるため注意が必要です。
【火災・火傷事故】
火災・火傷事故は、施設内での火災や利用者が火傷を負う事故を指します。料理中における火の消し忘れや給湯器の故障が原因となるケースもあります。被害を最小限にするため、予防策の徹底が必要です。
介護事故の発生状況と統計
介護事故の実態を把握するには、統計データの分析が欠かせません。ここでは、公益財団法人介護労働安定センターが実施した調査結果に基づき、介護事故の発生状況を概観します。
この調査は、平成26年(2014年)8月15日から平成29年(2017年)2月27日までの期間に発生した介護事故276事例を対象としています。対象となる事例は、消費者庁へ報告された重大事案であり、おおむね30日以上の入院を伴うものです。
【事故状況分類】
転倒・転落・滑落 | 65.6% |
誤嚥・誤飲・むせこみ | 13.0% |
ドアに体を挟まれた | 0.7% |
盗食・異食 | 0.4% |
送迎中の交通事故 | 2.5% |
その他 | 5.8% |
不明 | 12.0% |
【事故傷病分類】
骨折 | 70.7% |
死亡 | 19.2% |
あ ざ・腫れ・擦傷・裂傷 | 2.5% |
脳障害 | 1.1% |
その他不明 | 6.5% |
【転倒・転落時の業務詳細分類】
見守り中 | 46.7% |
他の利用者を介助中 | 7.2% |
室内移動中 | 5,0% |
目を離した隙 | 3.9% |
車いす移乗時 | 3.9% |
トイレ移動中 | 3.9% |
ベッド移乗中 | 2.8% |
付添介助中 | 2.8% |
おしめ交換中 | 1.1% |
送迎時 | 1.1% |
徘徊中 | 1.1% |
リハビリ中 | 1.1% |
排泄中 | 0.6% |
入浴中 | 0.6% |
着替中 | 0.6% |
その他 | 3.3% |
不明 | 14.4% |
参考:公益財団法人 介護労働安定センター |「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」報告書
事故発生時の対応マニュアル作成のポイント
介護現場では、いつ、どこで、どのような事故が発生するかわかりません。転倒や誤嚥、誤薬など介護事故の種類は多岐にわたり、万が一発生した場合、利用者の生命や健康に重大な影響を及ぼすおそれがあります。
そのため、介護事業者には、事故発生時の適切な対応手順を定めたマニュアルの整備が必須です。ここでは、マニュアル作成のポイントについて解説します。
初期対応の重要性
事故発生時に速やかに適切な初期対応をすることは、事故の拡大を防ぎ、被害を最小限に抑えるためにとても重要です。まずは、利用者の安全の確保を最優先にしなければなりません。具体的には、事故の状況を迅速に把握し、適切な処置をすることが必要です。例えば、利用者の傷害の程度を判断し、必要に応じて止血や人工呼吸、心臓マッサージなどの応急処置を行います。
また、利用者の状態によっては速やかに119番へ通報し、救急車の手配をすることも必要です。これらの初期対応の徹底により事故の影響を最小限に抑え、迅速な事後対応へとつなげられます。
さらに、上司への報告や指示の確認を行い、組織としての対応を行うことも忘れてはなりません。適切な初期対応が、利用者の安全を守るための第一歩です。
報告・連絡体制の構築
介護事故発生時の迅速な対応には、明確な報告・連絡体制の構築が不可欠であり、全職員が手順を理解することで効果的な初期対応が可能となります。
まず、緊急連絡網の整備が重要です。管理者を含む関係職員への連絡体制を24時間対応可能なものとし、管理者不在時の指示系統も明確にしておかなければなりません。
次に、関係機関への連絡手順です。死亡事故は警察署、感染症・食中毒は保健所、そしてすべての事故は事業所所在地における保険者と利用者の保険者へ報告します。これらの連絡先リストや報告基準、様式を事前に準備しておきましょう。
さらに、利用者の家族への連絡も迅速に行わなければなりません。事故の概要や利用者の状況を分かりやすく説明し、理解と納得を得られるよう努めることが重要です。
参考:福岡県介護保険広域連合|介護事故防止対応マニュアル作成の手引
家族への対応と説明
事故発生後、利用者の家族には事故の詳細と対応策を迅速かつ丁寧に説明することが重要です。
まず、事故が発生した直後には、適切な初期対応が行われた事実を報告し、その後の状況やとられた措置について正確に伝えなければなりません。その際、家族の不安を軽減し理解を得るために、冷静な口調での説明が求められます。
次に、家族への説明には、事実を矮小化せず誠実かつ正確に伝える姿勢が重要です。事故の責任の有無にかかわらず、家族の心情に寄り添い、道義的な謝罪と具体的な対応策の提示により信頼関係を築けます。
この過程で、意図的ではなくとも事実を曖昧に伝えると、後々トラブルを招く可能性があるため情報の正確性に細心の注意を払いましょう。
最後に、家族とのコミュニケーションを密にするため、担当者を明確にし、組織として一貫した対応をとることが大切です。窓口の一本化により、家族への説明や質問に対する対応をスムーズに行い、事業者としての信頼性を高めるようにします。
事故報告書の作成方法
サービス提供中に事故が発生した場合、速やかに市町村に「事故報告書」を提出しなければなりません。具体的な報告先については、各地方自治体によって異なります。
ここでは、東京都北区を例としてとりあげます。東京都北区では、「北区役所福祉部介護保険課給付調整係 事故報告担当」が報告先です。事故報告書の様式は、北区の公式サイトからエクセルファイルをダウンロードでき、メールで送付することになっています。
事故報告書に記載する内容は以下のとおりです。
- 事故状況
- 事務所の概要
- 対象者
- 事故の概要
- 事故発生時の対応
- 事故発生後の状況
- 事故の原因分析 (本人要因、職員要因、環境要因の分析)
- 再発防止策(手順変更、環境変更、その他の対応、再発防止策の評価時期および結果等)
- 損害賠償の状況(ありの場合は状況を記入)
- その他特記すべき事項
なお、重大事故や緊急を要する事故については、速やかに介護保険課給付調整係へ電話報告する必要があります。報告が遅延した場合は、遅延理由書(任意様式)を添付しなければなりません。また、第1報は、少なくとも項目1から6までをできる限り記載し、事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安に提出することが求められています。
職員研修に活用できる事故防止策
介護施設における事故防止のための職員研修は、実際の現場での事故を減らすために欠かせません。日々の業務において、ヒヤリハット事例の活用やリスクアセスメント、コミュニケーションの改善などを通じて職員の意識と対応力を高める取り組みが必要です。
ここでは、職員研修で活用できる事故防止策として、具体的な事例の共有方法や演習の実施方法を詳しく紹介します。
ヒヤリハット事例の活用
ヒヤリハット事例の共有は、介護現場における事故防止に極めて有効な手段です。これは、事故には至らなかったものの、1歩間違えれば大事に至った可能性のある出来事を指します。こうした事例を職員間で共有・分析することで、事故を未然に防止することが可能です。
例として、薬の取り違えでは、スタッフ2名でのダブルチェックや本人確認の徹底が対策となります。車椅子利用者の転落リスクに対しては、段差の確認や速度調整が重要です。入浴時の転倒防止には、介助の徹底や滑り止めマットの使用、床の清掃が効果的といえます。
これらの事例を通じて、職員は具体的な注意点を学び、事故防止意識を高められます。
リスクアセスメントの実施方法
リスクアセスメントとは、職場での事故リスクを事前に抽出・評価し、その重要度に応じた防止策を実施する手法です。実施する際の一般的な流れは以下のとおりです。
【リスクアセスメントの実施】
手順 | 内容 |
1. 危険性または有害性の特定 | 作業ごとに危険性や有害性を特定する。 |
2. リスクの見積り | 特定された危険性や有害性によって発生が予想される災害について、リスク見積りの手法を用いてリスクを評価する。 |
3. リスク低減措置の検討 | 優先度を設定し、以下の順で対策を検討する。 |
1.本質的対策(危険作業の廃止、設計変更など) | |
2.工学的対策(福祉用具の利用) | |
3.管理的対策(作業手順の作成や教育など) | |
4.個人用保護具の使用 | |
4. リスク低減措置の実施 | リスク低減措置を実施した後、リスクを見積もり、残存するリスクに注意を払う。 |
5. 結果の記録 | 今後のリスク管理に役立てるために、ノウハウを蓄積・伝承する。 |
コミュニケーション改善のための演習
職員間のコミュニケーションを改善するための演習は、事故防止に大きな効果があります。まず、定期的な演習を通じて職員同士の情報共有を徹底することが重要です。例えば、ヒヤリハットや事故事例の検討会を開催し、全員が原因と対策について意見を交換する場を設けてください。
職員間のコミュニケーションの改善により、事故が特定の職員だけに起因するものではなく、組織全体の問題として捉える認識が育まれます。また、他の職員の視点を介した意見の聴取により、担当者自身の業務における改善点が明確になる場合もあります。
さらに、演習を通じて職員が互いに信頼関係を構築することも大切です。定期的なコミュニケーションの機会を設けることで、日常的な情報共有が円滑になり、危険な状況に対する早期発見と対応が可能です。
日々の業務での連携が強化されれば、実際の事故発生時にも職員間の協力が迅速かつ効果的に行われるようになります。
以上のように、コミュニケーション改善のための演習は、情報共有を徹底し事故発生時の対応をスムーズにするために不可欠な取り組みです。職員一人ひとりが事故防止に向けた意識を高めることで、施設全体の安全性の向上が期待できます。
事故事例を用いたケーススタディ
職員研修において、過去の事故事例を用いたケーススタディは、職員の対応力向上に非常に効果的です。
まず、事故の状況を詳細に把握し、原因を徹底的に検証することが重要です。例えば、転倒事故の場合、単に「職員が付き添う」だけでなく床の状況確認や障害物除去など、より効果的な対策を考える必要があります。
次に、再発防止策を策定し、その実効性の検証を行います。例えば、電気コード配線の見直すことで、効率的かつ速やかな対応が可能です。
実際に起きた事故からの学びによって具体的な対応策を理解し、実践的な事故防止スキルを身につけることが重要です。
介護事故防止チェックリストの作成
厚生労働省の「介護事故防止チェックリスト(案)」の策定に関する検討によると、介護事故防止チェックリストが案として出されています。自施設でのチェックリスト作成時や見直しの際に役立ててみてください。
大項目 | 中項目 |
1.事故を予防する取り組み | 1-1.事故を予防する取り組みがある |
1-2.入居者ごとにリスク評価を行い、介入を実施する | |
2.職員の教育・研修 | 2-1.新入職員を対象とした系統的な教育プログラムがある |
2-2.職員研修や勉強会が計画的に実施されている | |
2-3.安全、感染に関する外部研修を活用している | |
3.環境整備 | 3-1.事故防止に配慮した環境を整備している |
3-2.感染や衛生に配慮した環境を整備している | |
4.事故発生時の対応 | 4-1.事故発生時に適切に対応している |
4-2.事故の原因を分析し再発防止に努めている | |
4-3.再発防止策について一定期間後に評価する仕組みがある | |
5.転倒・転落 | 5-1.入居者ごとにリスク評価を行い、介入を実施する |
5-2.ベストプラクティスガイドラインに基づいたプロトコルと手順を実施する | |
5-3.転倒・転落予防に関する教育を実施している | |
5-4.リスク評価指標およびプロトコルの有効性を評価し改善している | |
6.入浴時の事故 | 6-1.入浴時の事故防止に取り組んでいる |
6-2.入浴時の熱傷予防に取り組んでいる | |
7.緊急時の対応 | 7-1.緊急事態が発生した場合に適切に対応できる体制を整えている |
7-2.災害時の対応を適切に行っている |
参考:厚生労働科学研究費補助金 長寿科学政策研究事業 分担研究報告書|「介護事故防止チェックリスト(案)」の策定に関する検討
施設の安全対策を見直すためのチェックポイント
介護施設における安全対策の見直しは、利用者の安全と健康を守るために不可欠です。施設内の環境整備や介助技術、服薬管理、そして感染症対策など、各項目を徹底的に見直しが求められます。ここでは、これらの対策の具体的なポイントと実施方法について詳しく解説します。
環境整備のポイント
介護施設における環境整備は、転倒や転落のリスクを減少させるために重要です。以下に具体的なポイントを示します。
【目的の明確化】
環境整備の目的は、利用者が安全に過ごせる空間の提供です。環境整備により、事故の発生を未然に防ぐようにします。
【具体的な整備ポイント】
項目 | 内容 |
ユニバーサルデザインの導入 | すべての利用者が使いやすい環境を整備。公平性や安全性を考慮し、段差の解消や手すりの設置を行う。 |
床材と照明の改善 | 滑りにくい床材を使用し、適切な照明を設置。これらの対策により、視認性を高め、転倒リスクを低減する。 |
通路の確保 | 車椅子でも通行しやすい幅広い通路を確保し、スムーズな移動を可能にする。 |
危険箇所の点検 | 定期的に施設内を点検し、危険箇所を特定し改善。設備の不具合や業務手順の問題点を洗い出す。 |
整理整頓の徹底 | 施設内を常に清潔で整頓された状態に維持。床に落ちた紙片や濡れた床は速やかに対処し、滑り止めマットを設置する。 |
【効果の確認と改善】
整備後も効果を定期的に確認し、必要に応じて改善を加えます。これらの改善により、常に最新の安全基準を維持できます。
介助技術の見直し
介護施設における事故防止には、職員の介助技術を定期的に見直し、適切なスキルを身につけることが不可欠です。スキルを身につけ、利用者の安全を確保し、質の高いサービスを提供するよう努めましょう。
【見直しの重要性】
介助技術の見直しは、リスクの見落としを防ぎ問題箇所の明確化により、サービス提供の改善につなげられます。
【具体的な取り組み】
項目 | 内容 |
基本的なサービス提供方法の確立 | 文書化された明確な方法を定め、サービスの質を一定レベルに維持する。 |
利用者情報の共有 | 利用者の心身状況を適切に記録し、関係者間で情報を共有する。必要に応じて介助方法を見直す。 |
事故防止対応マニュアルの周知徹底 | 全職員にマニュアルを周知し、研修を通じて理解を深める。さまざまな状況に臨機応変に対応できる力を養う。 |
定期的な研修の実施 | 新規採用時だけでなく、定期的に研修を行う。事故発生時には随時研修を実施し、職員の意識向上を図る。 |
緊急時対応の訓練 | 人工呼吸やAEDの使用方法など、緊急時に落ち着いて対応できるよう訓練する。 |
これらの取り組みを通じて、職員の介助技術を常に最新かつ適切な状態に保ち、事故防止に努めましょう。
服薬管理の徹底
服薬管理の徹底は、誤薬事故を防ぐために重要です。薬の管理方法や確認手順を明確にし、適切な対策が求められます。
まず、薬の取り扱い時には、複数回のチェックを行うことを習慣化することが大切です。薬を配薬ボックスや薬袋から取り出すとき、利用者に手渡すとき、飲む前の3回のタイミングで、その薬が正しいか確認します。こうした確認により、ヒューマンエラーによる誤薬を防げます。複数の職員による確認も効果的です。
次に、薬の取り扱いに関するルールについて、チーム内で統一しておくことが大切です。薬の確認が不足しがちな状況や、食事時間に重なるケアの中での混乱を防ぐためにはルールを明確にし、全員が理解できるようにしなければなりません。
さらに、利用者が薬を口に入れた後、飲み込むまでを確認するようにしましょう。薬を飲み込む前に吐き出す場合もあるため、最後までの確認が重要です。
最後に、チェックリストを活用して、事業所での取り組み状況を定期的に見直しましょう。見直しにより、常に最新の管理方法を維持し、誤薬のリスクを最小限に抑えられます。
感染症対策の強化
介護施設における感染症対策の強化は、利用者の健康を守るために極めて重要です。定期的な消毒や手洗いの徹底により、感染リスクを最小限に抑えるようにします。
手洗いは最も基本的かつ効果的な対策です。介護従事者は感染リスクの高い業務に頻繁に関わるため、手指の衛生管理が不可欠であり、施設内の設備や医療機器の定期的な消毒も重要です。特に、利用者が頻繁に触れる場所への消毒を徹底しましょう。
飛沫感染対策として、職員はマスクの着用やうがいを行うことも大切です。これにより、感染症の拡散を防げます。さらに、感染症対策の周知徹底が重要です。職員への教育や研修を通じて、最新の対策を常に実施できる体制を整えましょう。
感染症発生時には迅速に保健所へ連絡し、適切な対応を取ることが求められます。また、職員の感染も想定し、事前に「事業継続計画」を策定しておくことが望ましいでしょう。
リスクマネジメント体制の構築
介護施設におけるリスクマネジメント体制の構築は、利用者の安全を確保し、質の高いサービスを提供するために不可欠です。効果的なリスク管理を行うためには、組織全体での取り組みと継続的な改善が求められます。
ここでは、リスクマネジメント体制を構築するための具体的な方策について解説します。
リスクマネジメント委員会の設置
介護施設におけるリスクマネジメントを効果的に推進するには、施設全体で取り組む体制の構築が重要であり、そのための有効な手段の一つが「リスクマネジメント委員会」の設置です。
リスクマネジメント委員会は、施設長・介護士・看護師・リハビリスタッフ・相談員など多職種で構成され、さまざまな視点からリスクを検討し、より実効性の高い対策を立案できるようにします。
委員会では、定期的に会議を開催し、主に以下の活動を行います。
- 施設内で発生したヒヤリハットや事故の事例を収集し、その原因や背景を分析する。
- 分析結果に基づき、事故防止に向けた対策を検討し、具体的な対策マニュアルを作成する。
- 作成したマニュアルを職員へ周知し、研修などの実施により、理解と浸透を図る。
- 定期的にリスクアセスメントを実施し、既存の対策を見直し、改善策を検討する。
リスクマネジメント委員会を組織の中核として、継続的かつ組織的なリスクマネジメント活動を行います。
PDCAサイクルを用いた継続的改善
リスクマネジメントは、一度実施すれば終わりではありません。重要なのは、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を継続的に回し、リスク管理と対策の改善を行うことです。
具体的には、ヒヤリハット事例の活用において以下のように適用できます。
- 原因分析と対策立案(Plan)
- 対策実行(Do)
- 効果検証と評価(Check)
- 改善策の立案(Action)
このサイクルを継続的に回しリスクへの対応能力を高め、事故の発生を抑制できます。また、仮に事故が発生した場合でも迅速かつ適切な対応が可能となり、再発防止につながります。
PDCAサイクルを効果的に機能させるためには、リスクマネジメント委員会などの組織を活用し、定期的な活動状況の評価・改善が重要です。
外部専門家の活用
効果的なリスク管理体制を構築するには、外部の専門家の知見活用が重要です。弁護士などの専門家は、法的な観点からリスクを分析し、適切なアドバイスを提供してくれます。
例えば、介護事故に精通した弁護士を顧問弁護士として契約することにより、事故発生時にの迅速かつ適切な対応を受けられるというメリットがあります。
具体的には、事故発生時の初期対応や、利用者やその家族との示談、訴訟への対応など専門的な知識と経験が必要とされる場面において的確なサポートを受けられます。
外部の専門家の活用は、施設のリスク管理体制を強化するだけでなく、職員の心理的な負担軽減にもつながります。専門家のサポートを受け、施設職員が安心して業務に専念できる環境を整えましょう。
ICT機器の導入による安全管理
介護現場におけるICT機器の導入は、リスクマネジメント体制の強化に大きく貢献します。具体的には、ナースコールシステム、見守りカメラシステム、エリア検知システム、業務マネジメント支援サービスなどです。
これらのシステムは、利用者の安全確保と同時に、スタッフの業務効率化を実現します。例えば、見守りカメラシステムは、AIによる画像解析機能により転倒や転落などの事故防止が可能です。
また、エリア検知システムは、利用者の離棟や危険区域への侵入を即座に検知しスタッフに通知します。
さらに、業務マネジメント支援サービスは、スタッフの動線のデータ化により業務負担の分散やケアにおける質の向上につながるでしょう。これらのICT機器の導入で、人手不足の解消やスタッフの定着率向上も期待できます。
まとめ:介護事故の防止と準備を徹底しよう
介護施設での事故を防止し、万一の際にも迅速かつ適切に対応するためには、日々における予防策の実践と職員の意識向上が重要です。事故の概要を理解し、報告体制や家族対応方針の明確化により、対応力を強化できます。
また、リスクマネジメント体制の構築や研修での事故防止策の共有、施設の安全対策の見直しなど、総合的なアプローチが求められます。これらを徹底により介護事故のリスクを最小限にし、より安全な介護環境を提供できるよう努めましょう。
当事務所による対策のご案内
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モノリス法律事務所の取扱分野:IT・ベンチャーの企業法務
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