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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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介護保険法の定める居宅・施設・地域密着型サービスの3類型とその詳細

介護保険制度は、高齢者が住み慣れた地域で、その人らしく尊厳を保ちながら生活できるよう、さまざまなパターンのサービスを提供しています。これらのサービスは、利用者の心身の状態や生活環境に応じて、「居宅サービス」「施設サービス」「地域密着型サービス」という三つの主要な類型に分類されています。居宅サービスは在宅生活の継続を、施設サービスは入所による手厚いケアを、そして地域密着型サービスは、住み慣れた地域で安心して暮らし続けるための小規模な支援をそれぞれ目的としています。

この記事では、介護保険法に規定されるこれら三つのサービス類型について、それぞれの創設背景、目的、そして具体的なサービス内容を詳細に解説します。

介護保険法に規定されるサービス体系の基本理念

介護保険法第1条には、この法律の目的が次のように明記されています。

この法律は、加齢に伴つて生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もつて国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。

介護保険法第1条

この条文からは、高齢者の「尊厳の保持」と「自立した日常生活」を支えることが、介護保険制度の根幹をなす理念であることが明確に見て取れます。介護サービスは、この理念を具体的に実現するための手段であり、多種多様なサービス体系は、利用者がその人らしい生活を送るための選択肢を広げることを目的として構築されているのです。

居宅サービス:自宅での自立生活を支える

居宅サービスは、要介護者が住み慣れた自宅で生活を継続できるように支援することを目的としたサービスです。介護保険法第8条は、居宅サービスとして12種類のサービスを定めています。この12種類は、大きく分けて訪問系、通所系、短期入所系、その他に分類できます。

  • 訪問系サービス
    • 訪問介護:ホームヘルパーが自宅を訪問し、入浴、排せつ、食事などの身体介護や、調理、洗濯、掃除などの生活援助を提供します。利用者の自立を促すことが目的であり、利用者ができることを奪わないように配慮した支援が行われます。
    • 訪問入浴介護:介護職員と看護職員が専用の浴槽を持参して自宅を訪問し、入浴介助を行います。自力での入浴が困難な方や、ご家族の負担が大きい場合に利用されます。
    • 訪問看護:看護師や准看護師が自宅を訪問し、医師の指示に基づき療養上の世話や診療の補助を行います。
    • 訪問リハビリテーション:理学療法士、作業療法士、言語聴覚士といった専門家が自宅を訪問し、心身機能の維持回復や日常生活動作の向上を目的としたリハビリテーションを提供します。
  • 通所系サービス
    • 通所介護(デイサービス):デイサービスセンターなどに日帰りで通い、食事、入浴などの介護や、レクリエーション、機能訓練などを受けます。社会的孤立の解消やご家族の介護負担軽減を目的としています。
    • 通所リハビリテーション(デイケア):介護老人保健施設や医療機関に通い、リハビリテーションを中心としたサービスを日帰りで受けます。
  • 短期入所系サービス
    • 短期入所生活介護(ショートステイ):介護老人福祉施設などに短期間入所し、食事や入浴などの介護、機能訓練を受けます。ご家族の病気や休息(レスパイト)が必要な場合に利用されます。
  • その他のサービス
    • 特定施設入居者生活介護:有料老人ホームなどに入居している要介護認定者が、入浴、排せつ、食事などの介護や機能訓練を受けるサービスです。
    • 福祉用具貸与・特定福祉用具販売:車椅子や特殊寝台といった福祉用具の貸与や、入浴・排せつ用具などの販売を行います。

地域密着型サービス:地域で暮らす安心を確保する

地域密着型サービス:地域で暮らす安心を確保する

地域密着型サービスは、認知症高齢者や一人暮らしの高齢者が増加する中で、住み慣れた地域での生活を継続できるよう支援するために、2006年の介護保険法改正で創設されたサービスです。このサービスは、市町村が指定・監督を行い、原則としてその市町村の住民のみが利用できるという特徴があります。この仕組みは、地域の実情に応じたきめ細やかなサービス提供を可能にすることを目的としています。

地域密着型サービスの種類と役割

地域密着型サービスは、小規模な施設や事業所で、顔なじみの関係性を重視したケアを提供します。

  • 定期巡回・随時対応型訪問介護看護:24時間365日、日中・夜間を通じて定期的な訪問(定期巡回)と、緊急時等の随時対応を組み合わせたサービスです。重度な要介護状態の方でも、自宅で安心して暮らすための包括的な支援を提供します。
  • 夜間対応型訪問介護:夜間帯に特化した訪問介護で、定期的な巡回や、緊急時の通報に対応した随時訪問を行います。
  • 小規模多機能型居宅介護:「通い」を中心として、利用者の状況や希望に応じて「訪問」や「泊まり(宿泊)」のサービスを柔軟に組み合わせて提供します。一つの事業所で多機能なサービスを利用できるため、スタッフとも顔なじみの関係を築きやすいというメリットがあります。
  • 看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス):2012年の改正で創設されたサービスで、小規模多機能型居宅介護のサービスに訪問看護が加わった複合的なサービスです。医療ニーズの高い利用者にも対応できる点が特徴です。
  • 認知症対応型共同生活介護(グループホーム):認知症の要介護者が共同生活を送りながら、専門的な介護や支援、機能訓練を受けるサービスです。要支援1の方は利用できないとされています。
  • 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護:定員29人以下の小規模な特別養護老人ホームで、家庭的な環境の中で介護サービスを提供します。

住所地特例と地域密着型サービス

介護保険制度では、原則として住民票がある市町村が保険者となりますが、介護保険施設に入所し、住民票を施設所在地に移した場合でも、元の市町村が引き続き保険者となる「住所地特例」という制度があります。この特例は、施設が集中する市町村の財政負担を防ぐことを目的としています。

重要なのは、地域密着型サービス施設は、この住所地特例の対象外であることです。そのため、住所地特例が適用される施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設など)から地域密着型サービスを利用する場合、原則としてそのサービスは元の市町村にある事業所に限られます。ただし、施設所在地の市町村の事業所を利用する場合、元の市町村の同意を得ることで可能となる場合もあります。

施設サービス:在宅での生活が困難な場合の選択肢

施設サービス:在宅での生活が困難な場合の選択肢

施設サービスは、在宅での生活が困難になった要介護者が、施設に入所して生活全般にわたる介護や医療的ケアを受けるためのサービスです。介護保険法に基づく施設サービスには、主に以下の3つの類型があります。

  • 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム):介護保険法第8条24項に規定される介護老人福祉施設は、長期にわたり入所し、日常生活上の世話、機能訓練、健康管理、療養上の世話を行うことを目的としています。終身利用が可能であり、看取りまで対応する施設も多いことから、「生活の場」としての機能に重点が置かれています。入所対象者は原則として要介護3以上ですが、やむを得ない事情がある場合は要介護1または2でも特例入所が認められることがあります。
  • 介護老人保健施設(老健):介護保険法第8条第26項に規定される介護老人保健施設は、医療機関での治療を終えた高齢者が、居宅における生活を営むことができるよう支援することを目的としています。その役割は、リハビリテーションを通じて在宅復帰を目指す「リハビリテーション施設」であり、入所期間は原則3〜6ヵ月と限定的です。特養とは異なり、長期利用が前提ではない点が大きな違いと言えるでしょう。
  • 介護医療院:2017年の法改正で、廃止が決定した「介護療養病床」の受け皿として創設された新しい施設類型です。介護保険法第8条第29項では、長期にわたり療養が必要な者に対し、療養上の管理、看護、医学的管理下の介護、機能訓練、その他必要な医療、日常生活上の世話を一体的に提供することを目的としています。医療ニーズの高い要介護者向けの長期療養施設であり、生活施設としての機能も併せ持っている点が特徴です。
介護老人福祉施設(特養)介護老人保健施設(老健)介護医療院
目的・役割長期的な生活介護  在宅復帰に向けたリハビリテーション  長期療養と医療・介護の提供  
主な対象者要介護3以上の高齢者(要介護1, 2は特例入所)  医療機関での治療を終えた要介護者  重篤な身体疾患や身体合併症を有する要介護者  
入居期間の目安終身利用が可能  原則3〜6ヵ月程度  長期利用が可能

まとめ:介護保険法に基づくサービスについては弁護士にご相談を

介護保険法に基づくサービスは、「居宅サービス」「地域密着型サービス」「施設サービス」という三つの柱で成り立っています。これらのサービスは、それぞれが持つ独自の目的と機能を通じて、利用者の「尊厳の保持」と「自立した日常生活」という法律の理念を実現するための多様な選択肢を提供しています。

介護業界で働く皆様にとって、この複雑なサービス体系を正確に理解することは、利用者一人ひとりの状況に合わせた適切なサービスを提供し、事業の安定的な運営を確保する上で不可欠です。しかし、度重なる制度改正や、法律上の要件・解釈には専門的な知見が求められることも少なくありません。

当事務所は、介護事業者の皆様が直面する、法令遵守、サービス提供体制の構築、利用者との契約問題、行政手続きなど、多岐にわたる法的課題に対し、専門的なサポートを提供しております。ご不明な点や、事業運営における法的リスクのご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

当事務所による対策のご案内

介護事業は、介護保険法や老人福祉法、会社法など、さまざまな法律の規律が張り巡らされた業界です。モノリス法律事務所は、一般社団法人 全国介護事業者連盟や、全国各都道府県の介護事業者の顧問弁護士を務めており、介護事業に関連する法律に関しても豊富なノウハウを有しております。

モノリス法律事務所の取扱分野:介護事業者の法務

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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