老人福祉法に基づく施設とは?その他の福祉施設との違いや入居条件等を解説
現代は少子高齢化が進み、高齢者への介護・福祉サービスの需要がますます大きくなっています。介護や福祉のサービス需要が高まる中で数多くの種類の高齢者福祉施設があり、それぞれの特徴や違いは多岐にわたります。
高齢者向けの福祉施設ごとの特徴を知ることは、福祉事業を運営していくにあたって必要不可欠です。それぞれの施設の違いをしっかり理解し、施設内でのトラブル対応のポイントを理解しておくことで、適切かつスムーズな福祉事業の運営を実現できます。
本記事の内容は、老人福祉法に基づく施設の種類の紹介と、施設ごとによる特徴や違いの詳しい解説です。また、老人福祉施設を円滑に運営するにあたっての注意点や、トラブルが発生した際の対処のポイントについても具体的に説明します。
この記事の目次
老人福祉法とは
老人福祉法とは、昭和38年(1963年)に制定された法律で、高齢者向けの福祉施設や高齢者福祉の事業について定めています。1963年当時は高度経済成長期であり、多くの人が地方から都心へと流れて核家族化が進み、家庭内での高齢者へのサポートや介護が難しくなってきた背景があります。
老人福祉法が定める内容は、主に以下の4つです。
分類 | 詳細 |
福祉の措置 | 65歳以上で身体上または精神上の障害で日常生活に支障がある高齢者が、やむを得ず介護サービスを受けることができない場合、市町村の自治体は必要な便宜を供与する。 |
老人居宅生活支援事業 | 高齢者の居宅での生活を支援するため、老人居宅介護等事業、老人デイサービス事業、老人短期入所事業、小規模多機能型居宅介護事業、認知症対応型老人共同生活援助事業、複合型サービス福祉事業の6種類の事業実施について定める。 |
老人福祉施設 | 老人デイサービスセンター、老人短期入所施設、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、老人福祉センター、老人介護支援センターの7種類の福祉施設について定める。 |
有料老人ホーム | 有料老人ホームの設置や運営について定める。 |
上記の4つのうち、老人福祉施設と有料老人ホームについては、さらに詳しく後述します。
また、老人福祉法第20条の8により、市町村は老人居宅生活支援事業及び老人福祉施設による事業の供給体制の確保に関する計画を定めるものとするとされており、老人福祉計画の作成が義務付けられています。
老人福祉法に基づく介護福祉施設
老人福祉法で定められている4つの主な内容のうち、老人福祉施設については以下の7種類について規定されています。
- 老人デイサービスセンター
- 老人短期入所施設
- 養護老人ホーム
- 特別養護老人ホーム
- 軽費老人ホーム
- 老人福祉センター
- 老人介護支援センター
これらの7種類の施設について解説します。
老人デイサービスセンター
老人デイサービスセンターとは、65歳以上で身体的や精神的に障害がある高齢者に入浴・食事・排泄などの日常生活の支援や介護、そして生活に対する助言やレクレーション・機能訓練などを日帰りで提供する施設です。
老人短期入所施設
老人短期入所施設とは、65歳以上で介護者の家族の疾病や冠婚葬祭など一時的な理由によって、自宅での在宅介護が困難になった要介護の高齢者が短期間だけ入所する施設です。一般的にショートステイと呼ばれ、在宅介護が困難な期間中に日常生活の介護や支援を提供します。
養護老人ホーム
養護老人ホームとは、65歳以上で経済上や環境などの理由で自宅での生活が困難になった高齢者を入所させて養護する施設です。2006年に、介護保険制度が見直されて特定施設に追加され、入所の理由から「身体上および精神上」が除外されました。
特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームとは、65歳以上で身体上または精神上の著しい障害があり、常に介護を必要とするが、在宅での介護生活が困難な高齢者に入浴・排せつ・食事などの日常生活の世話をする施設です。
入居資格として、要介護認定で要介護1以上に認定された高齢者が入所できますが、要介護1か要介護2でも、やむを得ない事情による場合は特例的に入所が可能です。
近年は、制度の見直しや法改正によって入所定員が29人以下の地域密着型の施設ができたり、介護サービスの情報公開が義務づけられたりしています。
軽費老人ホーム
軽費老人ホームとは、身体上の障がいなどで自立した生活を送ることに不安があり、かつ家族からの介護や支援を受けるのが困難な高齢者が、比較的低額な料金で入所できる施設です。
食事が提供されるA型、自炊をするB型、ケアハウスのC型の3種類が規定されています。平成20年にケアハウスへの一元化が示され、A型とB型についてはそれ以前から運営されていた施設に限り、経過的に存続が認められています。
老人福祉センター
老人福祉センターとは、無料または低額な料金で高齢者の生活全般の各種相談に応じるとともに、高齢者への健康の増進や教養の向上を目的としたサービスを提供する施設です。活動サービスの種類には、例えば社交ダンス講座や俳句講座などが挙げられます。
老人福祉センターは、市町村が運営して日常生活全般の相談や健康増進などの活動へのサポートをする特A型、社会福祉法人が運営して各種相談や指導、そして教養講座などを実施するA型、そのA型を補完するB型に分けられます。
老人介護支援センター
老人介護支援センターとは、高齢者が直接入所する施設ではありません。自宅での要介護の高齢者や家族などを対象に必要な情報を提供して支援したり、在宅介護や生活の悩みなどの相談に応じたりする施設です。介護を受ける高齢者と家族などの当事者と、老人福祉事業者との間の連絡調整や援助などを総合的に行います。
連絡調整や援助を迅速にするために、夜間や緊急時なども含めて24時間体制で対応するため、特別養護老人ホームや病院に併設されているケースが多いです。
有料老人ホームとは
老人福祉法で定められている老人福祉施設について解説しましたが、有料老人ホームは老人福祉施設に該当しません。ただ、老人福祉法第29条で、有料老人ホームについて以下のように定められています。
老人を入居させ、入浴、排せつ若しくは食事の介護、食事の提供又はその他の日常生活上必要な便宜であつて厚生労働省令で定めるものの供与をする事業を行う施設
引用:老人福祉法第29条
有料老人ホームは老人福祉施設には該当しませんが、老人福祉法で定められており、老人福祉法の規制の対象になる施設です。各施設によって、入居者の要介護度や年齢などの入居条件が異なるのも特徴です。
介護保険法に基づく施設とは
介護保険法に基づいて介護保険サービスを利用できる公的な入居施設には、以下の3種類があります。
- 特別養護老人ホーム(特養)
- 介護老人保健施設(老健)
- 介護医療院・介護療養型医療施設
以前は、医療保険と介護保険の両方の適用を受けられる長期療養施設の介護療養型医療施設もありましたが、2024年3月末で完全に廃止となりました。
特別養護老人ホームと介護老人福祉施設の違い
特別養護老人ホームと介護老人福祉施設は、入所対象者やサービス内容などに違いはありません。しかし、規定されている法律が異なります。特別養護老人ホームを規定する法律は老人福祉法で、介護老人福祉施設を規定する法律は介護保険法です。
そのため、特別養護老人ホーム(特養)と介護老人保健施設(老健)については、入居条件やサービス内容などが異なります。
以下に、特別養護老人ホームと介護老人保健施設の違いを表でまとめます。
特別養護老人ホーム(特養) | 介護老人保健施設(老健) | |
入居条件 | 65歳以上要介護3以上 | 65歳以上要介護1以上 |
施設の役割 | 身体介護と支援を受けて居住する | リハビリを受けて在宅復帰を目指す |
設備 | 生活をするための設備が中心 | リハビリをするための設備が中心 |
入居一時金 | 不要 | 不要 |
入居期間 | 終身利用 | 原則3カ月 |
入居しやすさ | 待機者が多く、数年待ちもある | 待機者が比較的少なく、数カ月待ち |
施設の役割や目的として、特別養護老人ホームは入所後に介護を受けながら生活するのに対し、介護老人保健施設はリハビリを受けて自宅での生活に復帰するのを目的としています。そのため、利用者の入居期間が終身利用であるかどうかが大きく異なります。
月額の費用はどちらも大きく変わりませんが、入居のしやすさとして特別養護老人ホームは入居待機者が多くなってしまうのが特徴です。待機期間が長いケースでは、数年待ちになってしまうケースもあります。
老人福祉施設・有料老人ホームの届出について
老人福祉施設や有料老人ホームなど、老人居宅生活支援事業を開始・変更・廃止または休止する際には、厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出なければならないと老人福祉法第14条で定められています。
また、老人福祉施設に該当しない有料老人ホームの場合でも、事業を始める場合には都道府県知事に届け出なければならないと老人福祉法第29条で定められています。
届出の流れ
事業開始や立ち上げにあたっての届出の流れは以下のとおりです。
- 事業内容の決定と関係機関との調整する
- 開設計画書を提出し、設立の趣旨や事業内容を説明する
- 自治体の社会福祉法人認可等審査委員会による審査や事前協議を行う
- 融資や資金の申し込み手続きなどを行う
- 施設の開設許可申請を行う
まず、自治体の担当部署に事業開始の相談をします。開設のスケジュールを具体的に決めたり、施設の建設場所を決めたりする準備が含まれます。また、今後の進行や相談のために関係機関との調整を図っておくことも重要です。
自治体の担当部署との事業開始の相談を経て、計画が固まったら、自治体の指定する様式の開設申込書および開設計画書を提出します。提出の期日が指定されるため、期日に遅れないように提出してください。また、開設計画書は提出後の変更は原則として認められないため、十分に検討して作成しましょう。
開設計画書を提出後、自治体の審査委員会によって計画の内容や妥当性を審査されます。審査委員会の審査に通った場合でも、自治体の整備計画と合わない場合は却下されてしまうおそれがあるため注意が必要です。また、もし審査に合格した場合でも、通知を受けた翌年度末までに整備に着手しなければなりません。
実際に施設の建築や整備に着手する際は、融資や資金の申し込みが必要です。独立行政法人福祉医療機構融資に申し込むと、資金を融資してもらえます。ただし、自治体の市長などの意見書が必要なため、意見書を交付してもらうのを忘れないでください。意見書の交付を忘れるなどして融資を受けるのが遅れると、計画全体の遅れにつながってしまうため注意が必要です。
施設や事務所の内部の設備や人員配置などにおいて、規定を満たしていることが確認できたら開設許可申請をします。その後、原則として各月の1日を開業日として事業を開始できます。
届出をしない・虚偽の届出をした場合の罰則
事業を開始するにあたって、届出をしない場合や虚偽の内容で届出をした場合は、老人福祉法第40条により30万円以下の罰金を科されるおそれがあります。老人福祉施設でも有料老人ホームであっても、どちらの場合でも罰則は変わりません。
老人介護施設を円滑に運営するための3つのポイント
重要なことは事業を開始したのちに適切に運営していくことです。老人介護施設を円滑に運営するためのポイントを、以下に3つまとめました。
契約時に施設の説明をする・同意を得る
入居希望者と契約を結ぶ際に、十分な説明をして同意を得ておくことはとても重要な部分です。のちのちトラブルを引き起こさないように、説明義務違反だと言われないように、事前の説明をして同意を得ておきます。
例として、退去や解約の際に返還金をめぐってのトラブルや、入居中にほかの入居者とのトラブルがあったときの対応や責任などについての問題が挙げられます。
事故防止・対応マニュアルを用意する
老人福祉施設を運営していく中では、なんらかの事故が起こってしまうリスクは否定できません。事故内容は、転倒・誤嚥(ごえん:食べ物が気管に入ること)・入浴事故・感染症・物損事故などいろいろなケースが想定されます。
また、入居者の事故だけでなく、職員や他の入居者との間に起こる事故やトラブルなどのさまざまなケースが考えられます。想定される事故をあらかじめ防止するために、マニュアルを作成して職員の中で徹底周知しておくことが重要です。
ただ、どれだけ注意をしても不運なことに事故が発生してしまうというケースもあります。そのため、事故が発生したときの具体的な指示が書かれた初動対応のマニュアルを作成しておくことが重要です。
事故発生時の対応マニュアルをあらかじめ作成して周知徹底しておくことで、すべての職員が事故が起きたときにあわてずに落ち着いて対処が可能になります。また、重大事故につながるトラブルがあった場合は、ヒヤリハット事例として職員の間で情報を共有し、マニュアルを更新しておくことで、その後の同様の事故を防止できます。
介護関係の法律に詳しい弁護士に相談する
老人福祉施設を運営していく中で、事故・トラブルが発生してしまうおそれは否定できません。入居者との契約トラブルや、入居者同士でのトラブル、また想定外の事故が発生してしまうケースもあります。
トラブルや事故を防止したり適切な初動対応をしたりするために、事前の説明で同意を得ておくことや、マニュアルを作成しておくことが必要だと解説しました。しかし、契約書等においてどのような説明項目を設けておけば良いのかわからない、マニュアルをどう作成すべきかわからないなどの不安を覚えることも当然あります。
不安なときは、介護・福祉関係の分野に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。介護・福祉の分野の法律に詳しい弁護士に相談すれば、専門家としてのアドバイスや注意を受けられます。また、施設を運営していく中で適宜相談をしていくことで、安全で円滑に運営し続けられます。
まとめ:老人福祉法の施設について理解し、適切な運営をしましょう
少子高齢化の現代では、高齢者向けの福祉施設や介護施設の需要は決してなくなることのないサービスです。
しかし、サービスを提供する施設には多くの種類があり、事業の開始や運営にも注意点やポイントが数多くあります。また、入居者とのトラブルや重大事故は、訴訟リスクや営業停止のリスクなども含んでおり、トラブル・事故防止や初動対応は施設の運営にとってとても重要なものです。
そのため、老人福祉法をはじめとする関連する法令をよく理解し、事業を安全に適切に運営していくことがなによりも大切です。もし、事業の開始や運営に不安があるなら、老人福祉法などの分野の法律に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
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