暗号資産の「金商法」移行で実務はどう変わる?金融審議会WG報告書に見る次世代のコンプライアンス要件

近年、暗号資産を取り巻く技術革新と市場環境の変化は目覚ましく、我が国の法制度もまた、その実態に合わせた劇的な変遷を遂げてきました。
かつて、ビットコインをはじめとする暗号資産は、主に物品の購入や送金に用いる「決済手段」として注目され、2016年の法改正により「資金決済法」の枠組みに組み込まれました。しかし、その後、分散型金融(DeFi)の台頭やビットコインETFの上場などを経て、現在では国内外において「代替的な投資資産」としての地位を揺るぎないものにしています。利用者の多くが決済ではなく「値上がり益」を目的とする現状において、従来の決済インフラとしての規制だけでは、投資者保護や市場の公正性を担保することが困難となってきました。
こうした「決済から投資へ」という歴史的なパラダイムシフトを真正面から受け止め、金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」は、2025年6月の設置以降、計6回にわたる審議を重ねました。そして同年12月10日、暗号資産を「金融商品」として包括的に捉え直す画期的な報告書(以下「本報告」といいます)を公表しました。
本報告は、今後の暗号資産ビジネスの地図を塗り替える一石となるものです。本記事では、本報告の要点と、実務に与える影響を解説します。
この記事の目次
「決済」から「投資」へ――暗号資産の位置づけの変化
我が国の暗号資産規制は、2016年の「資金決済に関する法律」(以下「資金決済法」といいます)の改正により、世界に先駆けて登録制や利用者保護の枠組みが導入されました。その後も、相次ぐ不正流出事案やマネー・ローンダリング対策(AML)の観点から、法改正による制度整備が行われてきました。
しかし、足下の状況を概観すると、暗号資産を巡るフェーズが大きく変化していることが分かります。国内の暗号資産交換業者における口座開設数は1,300万口座を超え、預託金残高は5兆円に達しています(執筆時点)。特筆すべきは利用者の動機であり、アンケート調査によれば、保有者の約87%が長期的な値上がりを期待した「投資」を目的としています。米国等でのビットコインETFの上場や機関投資家の参入も、この投資対象化の流れを加速させています。
その一方で、利用者保護上の課題も深刻化しています。金融庁の相談窓口には月平均350件以上の苦情が寄せられ、その多くは詐欺的な投資勧誘に関連するものです。また、サイバー攻撃による資産流出も継続しており、攻撃者がテロ資金確保を目的とするなど、手口の巧妙化・組織化が進んでいます。
これまでの資金決済法は、暗号資産を「決済手段」として捉えてきましたが、投資実態との乖離が顕著となってきました。証券監督者国際機構(IOSCO)による不公正取引の抑制勧告や、欧州のMiCA(暗号資産市場規制)といった国際的な規制動向も踏まえ、投資者保護の観点から「金融商品」としての包括的な規制を整備することが喫緊の課題となったのです。
「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」報告の4つの柱

本報告書が提示した変革の核心は、暗号資産を「決済の道具」から「金融商品」へと法的な位置づけを昇格させることにあります。これにより、従来の資金決済法による規制から、より厳格な規律を誇る金融商品取引法(金商法)への移行が現実味を帯びてきました。
参考:金融庁|金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」報告の公表について
具体的には、市場の透明性を高め、投資家が安心して取引できる環境を構築するために、以下の4つの重要項目が提言されています。これらは今後の暗号資産ビジネスにおける「新たな基本ルール」となるものです。
根拠法令の抜本的な見直し
本報告の最大の要点は、暗号資産の規制根拠法を、現在の資金決済法から「金融商品取引法」(以下「金商法」といいます)へ移行させるべきであると提言した点にあります。
金商法は、投資性の強い金融商品を横断的に保護することを理念としており、価格変動によるリターンを期待する暗号資産取引の実態は、金商法の規制枠組みと極めて親和性が高いと判断されました。ただし、暗号資産は収益分配等の法的な権利を表章するものではないため、金商法上の「有価証券」とは別の、新たな「金融商品」として位置付けられる方針です。
投資家保護のための開示を徹底
暗号資産は技術的な専門性が高く、発行者や専門家と一般利用者の間に深刻な情報の非対称性が存在します。これを解消するため、新規販売・継続開示の義務化、正確性の担保と責任といった規制が提案されています。
暗号資産の発行者が資金調達を行う場合、性質・機能、基盤技術、リスク、調達資金の使途等の情報提供が義務付けられます。また、販売後も取引判断に重大な影響を及ぼす事象が生じた際の適時開示や、年1回程度の定期的な情報提供を求めるべきとされています。
開示内容の虚偽記載等に対しては、金商法の有価証券届出書と同様の刑事罰や民事責任、課徴金制度の整備が検討されています。また、発行者に監査法人による財務監査がない場合には、利用者の投資上限を設定し、拙速な過大取引を防止する措置も盛り込まれました。
暗号資産交換業者の規制強化
暗号資産交換業者については、金商法上の「第一種金融商品取引業」に相当する厳格な規制が適用される方針が示されています。具体的には、業務管理体制及び顧客保護並びにセキュリティ対策の強化がこの規制にあたります。
業務管理体制と顧客保護として、取り扱う暗号資産の審査体制に加え、顧客がリスク負担能力の範囲内で取引しているかを確認する「顧客適合性」の確保が義務付けられる見込みです。
サプライチェーン全体を含めた包括的なセキュリティ対策が法律上の義務として新設されます。さらに、コールドウォレット等での管理中であってもハッキングリスクは否定できないため、不正流出時の補償原資として責任準備金の積み立てを求める方針です。
不公正取引規制(インサイダー取引規制)の導入
これまで暗号資産には直接的なインサイダー取引規制が存在しませんでしたが、市場の公正性を担保するため、金商法の枠組みをベースとした規制が創設されます。
国内の交換業者で取り扱われる暗号資産(取扱申請中のものを含む)を対象とし、役員等の内部関係者が未公表の重要事実を知って取引することを禁止します。重要事実には、発行者の破産や重大なセキュリティリスク、新規上場・上場廃止、大口取引(発行済みの20%以上等)が含まれる想定です。
規制の実効性を確保するため、証券取引等監視委員会に犯則調査権限を付与し、不公正取引に対する課徴金制度を導入することが提言されています。
企業に求められる対応

根拠法の移行は、単なる名称の変更ではありません。コンプライアンス体制の抜本的な見直しや、追加の財務コスト、さらには人事面での情報管理の厳格化など、多岐にわたる経営判断を迫るものです。以下、立場別に企業に求められる対応の要点を整理します。
暗号資産交換業者・仲介業者に求められる対応
現在資金決済法の下で登録を受けている事業者は、金商法上の第一種金融商品取引業への移行を見据えた体制整備が急務となります。
まず、内部統制とコンプライアンスの再構築として、金商法への移行に伴い、広告規制や説明義務、最良執行方針の策定など、より高度な行為規制への対応が必要になります。また、インサイダー取引規制の導入に伴い、従業員による自己売買管理や、発行者等の関係者情報の遮断体制(チャイニーズウォール)の構築が重要課題となります。
本報告では、ウォレットソフトウェア提供業者等のサプライチェーン全体に対する監督責任も強調されています。このため、委託先管理の徹底や、サイバー攻撃発生時の責任準備金確保など、財務・技術面でのコスト増を織り込んだ事業計画の策定も求められます。
暗号資産の発行(IEO等)を検討する企業に求められる対応
暗号資産を発行して資金調達(IEO等)を行う企業は、財務監査体制の整備やインサイダー情報の管理といった上場会社並みの開示責任を負うことになります。
投資上限規制を回避し、利用者の信頼を確保するためには、監査法人による財務監査を受ける体制を整えることが推奨されます。また、ホワイトペーパーに記載した内容と実際のコードに乖離がないかを確認する、専門性の高い第三者によるコード監査の受諾も必須の実務となるでしょう。
さらに、自社の業務に関する重要事実がインサイダー取引規制の対象となるため、役員や従業員、さらには第一次情報受領者(提携先等)に対する情報管理規定の整備が不可欠です。
金融機関における暗号資産ビジネスの展望
銀行・保険会社については、本体での売買等は引き続き慎重な検討が必要とされていますが、子会社を通じた暗号資産交換業や、十分な管理態勢を前提とした投資目的での保有が容認される方向性が示されました。これにより、金融グループ各社は、顧客への分散投資手段の提供や、カストディ(保管)業務への参入を戦略的に検討する余地が生まれます。ただし、参入にあたっては、金商法上の適合性原則に基づく厳格な勧誘ルールの構築が前提となります。
まとめ:今後の法改正の動向に注目
本報告は今後の法改正の指針となるものですが、細かな要件は今後、内閣府令や自主規制規則で定められる部分も多いと予想されます。また、分散型取引所(DEX)への規制のあり方や、未登録業者への緊急差止命令申立権限の整備など、今後も不断の見直しが行われる領域です。単なる条文対応に留まらず、当局の監督指針や自主規制機関の動向を継続的にウォッチし、経営陣に適切なリスク評価を提示する必要があります。
本報告は、それ自体が法的拘束力を有するものではありませんが、今後の法改正の方向性を見据えるにあたって重要な手がかりとなります。このため、本報告の内容が法制化されることを見込んだ上で、対応を検討する必要があります。
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