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BeReal情報漏洩の事例一覧と企業の対策|社員テロの法的責任と就業規則を弁護士が解説

BeReal情報漏洩の事例一覧と企業の対策|社員テロの法的責任と就業規則を弁護士が解説

BeReal.(ビーリアル)は、時刻を予告せず1日1回届く通知を受けてから2分のうちに、前面と背面のカメラが同時に写した1枚を、加工せずに投稿するSNSです。2026年4月、このアプリを通じた情報漏洩が地方銀行や学校で相次ぎ、執務室のホワイトボードやパソコン画面に映った顧客名や同僚の氏名がXに転載されて拡散しました。

投稿した従業員に悪意はありません。それでも企業には、預かった個人情報を漏らさないよう管理する義務(安全管理措置義務)と、社員や派遣・アルバイトを含む従業者を監督する義務があります。漏えいが一定の事態に当たれば、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務になります。さらに2026年7月には、違反した企業に金銭の納付を命じる課徴金制度の新設などを含む改正法が公布され、2年以内に順次施行されます。

発生した事例、企業と従業員がそれぞれ負う法的責任、就業規則で禁止できる範囲、発覚したときに何日以内に何をするかを、条文と個人情報保護委員会の公表資料に沿って整理します。

BeReal情報漏洩が相次ぐ仕組みと3つの原因

BeRealで情報漏洩が起きる直接の原因は、撮影する本人が背景を確認する前にシャッターを切ってしまう設計にあります。通知から2分以内という制限と、前面と背面のカメラが同時に作動する仕様が組み合わさり、自分の顔を映しているつもりで背面カメラが執務室の壁や画面を捉えます。

▼ BeRealで情報漏洩が起きる3つの原因

原因何が起きるか従来のSNSとの違い
2分以内の時間制限通知に反応して反射的に撮影し、背景の書類やホワイトボードを確認する時間がない撮影後に確認画面はあるが、時間制限のため深く確認しないまま投稿してしまう
前面と背面の同時撮影自撮り側の映りに気を取られ、背面カメラに映るPC画面や名簿に気づかない撮るつもりのない方向が同時に記録される
友人限定という安心感内輪だけに見せる意識で職場を撮り、スクリーンショットで外部へ二次拡散される限定公開は情報管理の手段にならない

従来のSNSでは投稿前に文面や写真を見直す時間があり、不適切な内容を控えるという社内教育はその瞬間に効いていました。BeRealはその瞬間を仕様として省いているため、投稿内容を注意する教育だけでは漏えいを止められず、撮影できる環境そのものを設計し直す必要があります。

BeReal情報漏洩が相次ぐ仕組みと3つの原因

BeReal起点の情報漏洩事例一覧

BeReal起点の情報漏洩事例一覧

2026年4月以降に報道された主な事案です。いずれも漏えいした情報は投稿者本人のものではなく、顧客や同僚のものでした。

▼ BeReal起点の情報漏洩事例

発生・公表時期組織映り込んだ情報投稿者その後の対応
2026年4月30日に謝罪を公表地方銀行(福岡市)支店執務室のホワイトボードに書かれた顧客7人の氏名。その後の会見で個人顧客8人の氏名と法人19社の社名、営業目標に範囲が拡大行員5月11日から営業店への私用スマートフォン持ち込みを禁止。6月23日に役員3人の報酬一部を自主返納、全役職員への研修を発表
2026年4月20日投稿・4月23日報道仙台市立小学校職員会議用システムが表示されたノートパソコンの画面。学校名と他の教諭の氏名。児童の情報は確認されず20代の教諭市教育委員会が事実を公表
2026年6月10日に報道川崎市職員が撮影した画像がXで300万回以上閲覧市職員市長が注意喚起の必要性に言及

地方銀行での顧客情報の流出と後日談

2026年4月30日、福岡市に本店を置く地方銀行が謝罪を公表しました。行員が下関支店の執務室で撮影した画像や動画をSNSに投稿し、そこに顧客7人の氏名が書かれたホワイトボードが映っていたという内容です。投稿は第三者がXに転載し、当日午後の時点で1千万回以上閲覧されたものもあったと報じられています。

その後の会見で、映り込んだ情報は個人顧客8人の氏名と法人19社の社名、営業目標に及ぶことが明らかになり、同行は5月11日から営業店への私用スマートフォンの持ち込みを禁止しました。6月23日には頭取を含む役員3人が報酬の一部を自主返納すると発表し、全役職員への研修と、業務用スマートフォンにシールを貼って私有機と区別する対策を示しています。投稿は前年の1月から10月にかけて繰り返されていました。

参考:読売新聞 2026年6月24日「SNS「BeReal.」巡り行員が顧客情報流出、西日本シティ銀が役員報酬を一部返納」ほか産経ニュース2026年5月20日(2026年6月24日公表)

漏えいした情報の範囲は初報の時点では確定せず、調査を経て広がりました。謝罪の公表、範囲の確定、再発防止策、経営責任の明示という4段階を、発覚から2か月で踏んでいます。

教育現場と自治体の職員による漏えい

仙台市では2026年4月20日の夜、市立小学校の20代の教諭が、職員会議用のシステムが表示されたノートパソコンの画面を撮影してBeRealに投稿し、学校名と他の教諭の氏名が写り込みました。教諭は市教育委員会の聞き取りに、通知が来て深く考えずに撮影したと説明しています。

参考:読売新聞 2026年4月23日「教諭がSNS「ビーリアル」に不適切投稿、「通知が来て深く考えず」職務用のノートPC画面を撮影」(2026年4月23日公表)

川崎市でも職員が撮影した画像がXに転載され、300万回以上閲覧されたと6月に報じられました。公務員の場合、懲戒の根拠が就業規則ではなく地方公務員法第29条にあり、信用失墜行為の禁止(第33条)違反が主に問われる点が民間と異なります。

自宅で業務用の画面を撮った仙台の事案が示すのは、漏えいの現場が執務室に限らないことです。撮影禁止エリアを執務室に限定した規程では、リモートワークや出張先の経路を塞げません。

バイトテロから社員テロへ変わった内部リスク

従業員による不適切な投稿の拡散は、飲食店のアルバイトによる悪ふざけの動画が問題になった経緯から、バイトテロと呼ばれてきました。バイトテロには、撮影から投稿までの間に、公開したらどうなるかを考える余地がわずかでも残っていました。

BeRealを起点とする事案は、正規の行員や教諭が主体で、組織に損害を与える意図がありません。動機が悪ふざけから無自覚な過失に変わったことで、行為者の選別や心構えの教育では防げない内部リスクになりました。正社員による無自覚な漏えいを、当事務所では社員テロと呼んでいます。ただし呼び名は正社員かアルバイトかを分けるためのものではなく、法的な整理は雇用形態ではなく、漏えいした情報の性質と企業の管理体制で決まります。迷惑行為の刑事責任や懲戒解雇の考え方は、バイトテロを扱った記事で整理しています。

BeReal情報漏洩で企業と従業員が負う法的責任

BeReal情報漏洩で企業と従業員が負う法的責任

BeReal起点の情報漏洩では、投稿した従業員、雇用している企業、投稿をXなどに転載して広げた第三者の3者に、それぞれ別の法的責任が生じ得ます。

▼ BeReal情報漏洩で3者が負う法的責任

主体問題になる責任根拠
投稿した従業員就業規則に基づく懲戒処分、企業に対する損害賠償責任、故意に営業秘密を持ち出した場合の刑事責任。公務員は守秘義務違反労働契約法第15条、民法第709条、不正競争防止法第21条、地方公務員法第34条第1項・第60条第2号
雇用している企業安全管理措置義務と従業者の監督義務の違反を理由とする個人情報保護委員会の勧告・命令、漏えい等の報告と本人通知の義務、顧客に対する使用者責任、営業秘密としての保護を失うリスク個人情報保護法第23条〜第26条・第148条、民法第415条・第715条、不正競争防止法第2条第6項
転載・拡散した第三者映り込んだ顧客や同僚に対するプライバシー侵害や名誉毀損の可能性。削除請求は権利を侵害された本人が主体になる民法第709条、刑法第230条・第230条の2

従業員個人の処分と賠償は「従業員への懲戒処分と損害賠償請求はどこまで可能か」の章で扱い、ここでは企業が負う責任を条文の順に見ていきます。

個人情報保護法の安全管理措置と従業者・委託先の監督義務

個人情報保護法第23条は、個人情報取扱事業者に、個人データの漏えい、滅失または毀損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じる義務を課しています。第24条は従業者に個人データを取り扱わせるときの必要かつ適切な監督を、第25条は取扱いを委託した場合の委託先に対する監督を、それぞれ義務としています。

参考:個人情報の保護に関する法律 第23条〜第25条(e-Gov法令検索)(現行は2026年7月17日施行版)

個人情報保護委員会の通則編ガイドラインは、安全管理措置を組織的、人的、物理的、技術的の4つに分けて手法を例示し、取扱区域については間仕切りの設置や座席配置の工夫、のぞき込みを防止する措置を挙げています。顧客管理システムなどから転記した顧客名をホワイトボードに書く行為は、個人データを紙媒体に出力して取り扱うことに当たると解されるところです。撮影できる位置に個人データを置き続けていた事実は、措置と監督が適切だったかの判断で不利に働くと解されます。委託先の職員による撮影なら、第25条の委託先の監督として、委託契約の禁止事項と研修の実施状況が問われます。

参考:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-4-2〜3-4-4、別添 10-5 物理的安全管理措置(平成28年11月(令和8年6月一部改正)公表)

違反があれば個人情報保護委員会は第148条に基づいて是正を勧告します。正当な理由なく勧告に従わず、個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認めるときは、命令できます。命令に違反すると、現行法では行為者は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。法人も行為者とは別に罰する両罰規定により、1億円以下の罰金の対象になります。

参考:個人情報の保護に関する法律 第148条・第178条・第184条(e-Gov法令検索)(現行は2026年7月17日施行版)

漏えい等の報告義務と本人への通知

個人データの漏えいが起きたとき、企業は個人情報保護法第26条第1項に基づいて個人情報保護委員会に報告し、第2項に基づいて本人に通知しなければなりません。この義務は令和2年の改正法で新設され、2022年4月1日に全面施行されました。対象になるのは、施行規則第7条が定める4つの事態のいずれかに当たる漏えいです。

参考:個人情報の保護に関する法律 第26条/個人情報の保護に関する法律施行規則 第7条(e-Gov法令検索)(施行規則の現行は2026年6月14日施行版)

▼ 施行規則第7条が定める報告対象事態

報告対象となる事態BeReal事案での当てはめ
要配慮個人情報が含まれる個人データの漏えい等医療機関で患者の受診情報が映った場合など
不正に利用されることで財産的被害が生じるおそれがある個人データの漏えい等口座情報やクレジットカード情報が画面に映った場合
不正の目的をもって行われたおそれがある行為による漏えい等従業員の撮影は過失でも、第三者が不正の目的で転載した場合に当たるかは事案ごとの判断になります
本人の数が1,000人を超える漏えい等顧客名簿の一覧画面が映った場合

報告は2段階に分かれます。まず分かっている範囲を伝える速報を、知った時点から概ね3〜5日以内に出します。次に調査を終えた確報を、知った日から30日以内、不正の目的による事態では60日以内に出します。確報には、概要、漏えいした項目、本人の数、原因、二次被害のおそれ、本人への対応、公表の状況、再発防止策を盛り込みます。知った時点は、事業者内のいずれかの部署が知った時点が基準です。顧客の氏名が数人でも、報告対象事態に当たれば件数の多寡は義務を左右しません。本人への通知は事態の状況に応じて速やかに行い、困難なときは公表や問い合わせ窓口の設置で代替します。

参考:個人情報の保護に関する法律施行規則 第8条・第10条/通則編ガイドライン 3-5-3-3・3-5-3-4・3-5-4(通則編は平成28年11月(令和8年6月一部改正)公表)

氏名だけが数人分映った事案は、第三者の転載が不正の目的によるものと評価されない限り4類型に当たらず、法的な報告義務は生じないと解されます。この場合も委員会への任意の報告はでき、顧客への説明と削除請求は義務の有無にかかわらず必要です。SNSに転載された段階で拡散を止める手段はほとんど無いため、報告義務の判断より先に、削除請求と本人への説明を動かすことになります。

顧客に対する使用者責任と従業員への求償の限界

氏名が拡散された顧客が損害賠償を請求する相手は、投稿した従業員個人に限られません。顧客に対する企業の責任には、契約上の守秘義務違反、安全管理措置を怠った企業自身の不法行為責任、従業員の行為についての使用者責任の3つの構成があり、実務では前の2つが主戦場になることが多いと考えられます。民法第715条第1項は、事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負うと定めています。私的な投稿が事業の執行についての行為に当たるかは、勤務時間中の執務室で撮影されたか、業務上取り扱う情報が漏れたかで判断されます。業務中に執務室で業務情報が映り込んだ事案では、事業と密接に関連する行為として使用者責任が認められやすいと考えられますが、裁判例の蓄積は無く事案ごとの判断です。

参考:民法 第715条(e-Gov法令検索)(現行)

企業が顧客に賠償した後、従業員に支払った分を求めることを求償といいます。民法第715条第3項は使用者から被用者への求償を妨げないと定めていますが、裁判実務では損害の公平な分担という観点から、事業の性格や規模、労働条件、予防策の有無を考慮して、求償できる範囲が制限される場合があります。過失による映り込みで、企業側に持ち込み制限や研修の不備があれば、全額を従業員に転嫁することは難しいと考えるのが実務的です。

漏えいの相手方に支払う金額に決まった相場はありません。氏名だけが数人分映った事案と、口座情報や病歴が漏れた事案では、精神的損害の評価も二次被害のおそれも異なり、漏れた情報の性質、拡散の範囲、事後対応の速さを個別に評価することになります。

不正競争防止法の営業秘密と秘密管理性

映り込んだのが顧客名簿や営業目標、未公開のプロジェクト資料であれば、不正競争防止法による保護を受けられるかが問題になります。同法第2条第6項が定める営業秘密は、秘密として管理されている、事業活動に有用な技術上または営業上の情報で、公然と知られていないものです。秘密管理性、有用性、非公知性の3つをすべて満たしたものが営業秘密です。差止請求と損害賠償請求が認められるのは、相手の取得・使用・開示が同法第2条第1項各号の不正競争行為に当たる場合に限られます。

参考:不正競争防止法 第2条第6項・第3条・第4条(e-Gov法令検索)(現行は2026年5月21日施行版)

経済産業省の営業秘密管理指針は、秘密管理性が認められるには、保有者の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に明確に示され、認識できる状態が確保されている必要があるとしています。誰でも撮影できる位置に営業目標や名簿を掲示していた状態は、秘密管理意思が示されていたとは評価されにくく、営業秘密としての保護を失うおそれがあります。その場合、流出した情報を第三者が利用しても差止めの手段を失うおそれがあります。過失による映り込みの事案で第三者の利用が不正競争に当たるかは事案によります。

参考:経済産業省「営業秘密管理指針」2(2)必要な秘密管理措置の程度(平成15年1月30日策定・最終改訂令和7年3月31日公表)

令和8年改正個人情報保護法で重くなる企業の責任

個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律は、2026年7月10日に成立し、7月17日に令和8年法律第56号として公布されました。施行日は原則として公布の日から2年を超えない範囲内で政令で定める日で、規定ごとに施行時期が分かれます。罰則の強化は2027年1月17日に施行され、課徴金など多くの規定は2028年7月までに政令で定める日から施行されます。個人情報保護委員会は8月26日に政令と規則で定める事項の全体像を示しており、細目は今後のパブリックコメントを経て確定します。

参考:個人情報保護委員会「令和8年 改正個人情報保護法について」および改正法本文 附則第1条(2026年7月17日公布)

BeReal事案のような従業員起点の漏えいに関係する改正点を抜き出すと、企業側の責任が重くなる項目と、手続が軽くなる項目が混在しています。対価を得ない過失の映り込みでは課徴金と罰則強化は直接の対象になりにくく、企業に直接効くのは措置命令の要件見直しと委託先義務の見直しです。

▼ 令和8年改正のうち従業員起点の漏えいに関係する項目

改正点内容BeReal事案との関係
課徴金制度の新設違反行為の対価として金銭その他の財産上の利益を得た個人情報取扱事業者に、その額に相当する課徴金の納付を命じる。違反防止のため相当の注意を怠っていなかったと認められる場合と、本人の数が1,000人を超えないなど権利利益を害する程度が大きくない場合は除かれる過失による映り込みで対価を得ることは通常ないため直接の対象にはなりにくいが、相当の注意を尽くしていたかが免責の軸になるため、規程と研修の記録が意味を持つ
措置命令の要件見直し速やかに違反の是正を求められるよう命令の要件を見直し、本人への事実の通知や公表を勧告・命令できるようにする漏えい後の本人対応が不十分な場合に、委員会が通知や公表を直接命じ得る
罰則の強化個人情報データベース等の不正提供の罪に本人などに損害を加える目的での提供を追加し、法定刑を2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に引き上げる。詐欺や不正アクセスなどにより個人情報を不正取得する行為の罰則を設ける。この部分は2027年1月17日に施行従業員が故意に名簿を持ち出す事案に適用され得る。過失の映り込みは対象外
漏えい等報告・本人通知の緩和本人への通知が行われなくても権利利益の保護に欠けるおそれが少ない場合を規則で定め、通知義務を緩和する。速報の一部免除や確報の取りまとめ報告も規則で定める予定細目は規則待ち。現時点では現行の速報・確報・本人通知の運用が続く
委託先の義務の見直し委託を受けた事業者に、委託業務の遂行に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱わない義務を課し、契約で取扱方法を定めた場合の特例を設ける委託先職員の撮影による漏えいで、委託元と委託先の責任分担が契約の定めに左右される

表の1行目のとおり、違反を防ぐ相当の注意を尽くしていたと認められれば課徴金の対象から外れます。相当の注意を尽くしていたことは企業側が示す必要があり、就業規則の改定履歴、研修の実施日と受講者名簿、持ち込み制限の掲示と点検の記録、誓約書がその根拠になります。改正の全体像は、改正方針を読み解いた記事で整理しています。

従業員への懲戒処分と損害賠償請求はどこまで可能か

従業員への懲戒処分と損害賠償請求はどこまで可能か

懲戒処分は、就業規則に根拠があり周知され、事由に当たる事実が認められ、処分の重さが行為に釣り合い弁明の機会など手続も適正であるときに有効になります。損害賠償請求は可能ですが、範囲と回収額には限界があります。アプリ利用そのものの禁止は難しい一方、私生活上の投稿でも顧客情報や業務画面が映り込めば、服務規律違反として懲戒の対象になり得ます。

就業規則のSNS規定と懲戒処分の有効性

労働基準法第89条第9号は、制裁の定めをする場合はその種類と程度を就業規則に記載することを求め、第106条は就業規則を労働者に周知する義務を定めています。労働契約法第15条は、懲戒が行為の性質や態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効と定めています。懲戒には3つがそろう必要があります。就業規則に処分の種類と事由の定めがあり周知されていること。その事由に当たる事実が証拠で認められること。処分の重さが行為に釣り合っていること。弁明の機会を与えるなど手続の適正、同種事案との均衡、同じ行為を二度処分しないことも、相当性の判断に含まれます。

参考:労働契約法 第15条/労働基準法 第89条第9号・第106条(e-Gov法令検索)(現行)

服務規律と懲戒規定に盛り込む項目は4つです。機密情報や顧客情報、社内システムの画面をSNSに投稿することの禁止。職場での不適切行為の撮影と投稿の禁止。勤務時間中の私的なSNS利用と業務に不要な端末の持ち込みの制限。組織や顧客の信用を害する投稿の禁止。処分はけん責、減給、出勤停止、懲戒解雇を段階的に定めます。減給には、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えず、総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えないという労働基準法第91条の制限があります。

BeReal事案の多くは、機密を売る意図の無い過失です。規程で禁止された執務室での撮影を繰り返していた場合と、規程に禁止が無く教育も受けていなかった場合では、相当性の評価は分かれるところです。規程と教育が無い状態で最も重い処分を選ぶと、労働契約法第15条により無効と判断される可能性が高くなります。試用期間中の本採用拒否にも、解雇に準じた合理的な理由と相当性が求められます。

従業員に請求できる損害の範囲と立証

従業員の過失で企業に損害が生じれば、民法第709条に基づく損害賠償請求の対象になります。請求できる損害には、顧客への謝罪と説明の費用、問い合わせ窓口の設置費用、原因調査の費用、謝罪広告の費用といった直接の支出が含まれます。売上の減少や信用の毀損は、特定の投稿との因果関係を数字で示すことが難しく、認められる範囲は限られます。

請求額が認められても個人の支払能力を超えることが多く、全額回収は現実的ではありません。認められた賠償額でも、給与から一方的に控除することは労働基準法第24条の賃金全額払いの原則に反し、従業員の自由な意思による同意がある場合に限られます。実務上は分割の任意弁済で合意する形が中心です。それでも、投稿と拡散の記録を保全し、損害を項目ごとに集計しておくことは、処分の相当性を裏づける資料としても、顧客や監督官庁への説明資料としても意味を持ちます。

刑事責任が問題になる場合と警察への相談

背景に情報が映り込んだだけの過失の漏えいで、投稿した従業員に刑事責任が問われることは通常ありません。刑事責任が現実になるのは、行為に故意がある場合です。

不正の利益を得る目的か保有者に損害を加える目的で、従業員が営業秘密を複製して持ち出し、使用や開示をすれば、不正競争防止法第21条第2項の罪に当たります。法定刑は10年以下の拘禁刑もしくは2,000万円以下の罰金、またはその両方です。組織を貶める目的で不衛生な行為を撮影して投稿する事案では、刑法第234条の威力業務妨害罪や第230条の名誉毀損罪が検討されます。公務員の場合、映り込んだ情報が非公知で秘匿の必要がある秘密に当たれば、地方公務員法第34条第1項の守秘義務違反になります。第60条第2号により1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です。

参考:不正競争防止法 第21条第2項/刑法 第230条・第234条/地方公務員法 第34条第1項・第60条第2号(e-Gov法令検索)(現行)

故意が疑われる事案では被害届の提出や告訴を検討し、相談前に投稿の画面、拡散の経路、社内システムのアクセスログを保全しておきます。

私物スマートフォンの持ち込み禁止や私的SNS制限は許されるか

執務室や業務時間中に限った私物スマートフォンの持ち込みや撮影の制限は、就業規則や職場の規律で定めることができると解されます。根拠は、企業が自社の建物や設備の使い方を決められる権限である施設管理権と、業務上の指揮命令です。地方銀行が営業店への持ち込みを禁止した対応や、ロッカーへの保管を求めることはこの範囲に収まります。

一方で、私生活でBeRealを使うこと自体を禁止したり、アンインストールを命じたりすることは、私生活上の自由に踏み込むため、業務上の必要性との均衡が取れず難しいと考えられます。制限できるのは、場所と時間と対象情報で切り分けられる範囲であり、アプリの利用そのものではありません。ただし、私生活上の投稿でも顧客情報や業務システムの画面が映り込んだ場合は、企業秩序に直接関わる行為として就業規則の服務規律違反になり得ます。服務規律には、場所を問わず業務上知り得た情報や社内の画面を撮影・投稿しない旨を置き、アプリ利用一般の禁止とは書き分けます。

執務室での撮影禁止のような職場秩序の定めは、施設管理権と業務命令の範囲と整理できる余地があります。私物端末の持ち込み自体を禁止する場合は、就業規則の不利益変更として扱うのが安全です。変更には、常時10人以上の事業場では過半数代表者らの意見聴取(労働基準法第90条)、労働基準監督署への届出(第89条)、従業員への周知(第106条)が必要です。労働契約法第10条は、変更後の就業規則を周知し、不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉の状況に照らして合理的であれば、変更後の内容が労働契約の内容になると定めています。漏えいが実際に起きた後の制限は必要性が認めやすい一方、業務連絡に私物端末を使わせていた企業では、代替手段の用意が相当性の判断に影響します。業務に私物端末を使わせるBYODを認めている企業は、BYOD規程側で撮影機能や特定アプリの取扱いを定めて矛盾を避けます。

参考:労働契約法 第10条(e-Gov法令検索)(現行)

組織を守るガバナンス再構築の5ステップ

規程と誓約で処分の根拠を作り、環境で撮影そのものを減らし、教育で行動を変え、監視で漏れを拾うという順序で整えます。誓約書は、就業規則の規定を本人が認識したことの証拠であり、それ自体で就業規則を超える義務が生じるものではありません。

▼ 組織が今すぐ取り組むべき5つのステップ

ステップ実施内容目的
ルールの明文化就業規則へのSNS規定追加、ソーシャルメディア・ポリシーの策定処分の法的根拠の確立と行動指針の提示
誓約書の取得入社時やポリシー改定時にSNS利用に関する誓約書を交わす。違約金や損害賠償額の予定は労働基準法第16条で禁止されるため記載しない従業員の心理的抑制と違反時の証拠確保
物理的環境の整備撮影禁止エリアの設定、スマホ持ち込み制限の再徹底衝動的な撮影を物理的に遮断
最新事例教育BeReal.等の具体例を用いたリスク研修の定期実施無自覚な漏えいに対する危機意識の醸成
モニタリングSNS監視サービスの導入や内部通報制度の活用炎上の早期検知と被害の最小化

物理的な環境では、私物端末の持ち込み制限を定義し直し、ロッカーの設置と撮影禁止の掲示を徹底します。PC画面のフィルター、使用後のホワイトボードの即時消去やカバーは、撮影されても読めない状態を作る手段です。掲示や規程の存在は、物理的安全管理措置を講じていた証拠にもなり、営業秘密の秘密管理性を示す事実にもなります。

教育は、誹謗中傷をやめるという抽象的な注意から、前後カメラの同時撮影の仕組みを見せて、どの位置で撮ると何が映るかを体験させる内容に切り替えます。派遣社員や短期のアルバイトも同じ研修の対象に含め、委託先には契約で同等の研修と誓約書の取得を求めます。ガイドラインに載せる項目は、従業員向けSNSガイドラインの記事で整理しています。

組織を守るガバナンス再構築の5ステップ

BeReal情報漏洩が発覚したときの初動対応

発覚から確報の期限までは、原則として知った日から30日、不正の目的による事態でも60日です。この知った日は支店や現場の部署が事態を認識した日を基準に数えるため、現場で発覚したら当日中に本社の担当部署へ第一報を入れる決まりが要ります。SNSでの拡散は数時間で進むため、事実確認と削除の依頼、委員会への速報、本人への説明を並行して動かします。

▼ BeReal情報漏洩が発覚したときの初動対応の流れ(報告と通知の期限は報告対象事態に当たる場合)

順序やること期限の目安根拠
1投稿の特定と証拠保全。投稿者への削除指示、転載先への削除請求の開始発覚当日後の処分と賠償請求、警察相談のすべてに使う。削除より先に画面を保存する
2映り込んだ情報の範囲確定。個人データか、要配慮個人情報や口座情報を含むか、本人の数発覚から数日報告対象事態に当たるかを施行規則第7条の4類型で判定する
3報告対象事態に当たる場合、個人情報保護委員会へ速報知った時点から概ね3〜5日以内個人情報保護法第26条第1項、施行規則第8条第1項、通則編3-5-3-3
4本人への通知(報告対象事態に当たる場合)。困難なときは公表と問い合わせ窓口で代替事態の状況に応じて速やかに第26条第2項、施行規則第10条、通則編3-5-4
5取引先、監督官庁、委託元への連絡範囲確定後すぐ契約上の通知義務。自社が委託先なら委託元への速やかな通知で自社の報告義務は免除される(第26条第1項ただし書)。自社が委託元なら通知を受けた時点で報告義務者になるため、委託契約に通知期限を置く
6公表の要否と文面の判断本人通知と同時期拡散が先行している事案では公表が事実上必要になる。謝罪文の主語を拡散ではなく自社の管理に置く
7委員会への確報(報告対象事態に当たる場合)。従業員の処分と再発防止策の確定知った日から30日以内(不正の目的の事態は60日以内)施行規則第8条第2項、通則編3-5-3-4

通則編ガイドラインは、通知がかえって被害を広げる場合の例外を認めています。掲示板などに漏えいデータが残り、削除要請などの初期対応が終わっていない段階では、通知を待ってよいという整理です。ただし通知そのものが免除されるわけではなく、削除請求を進めている間に、通知の文面と問い合わせ窓口を準備しておくのが実務的な順番です。

参考:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-5-4-2 通知の時間的制限(平成28年11月(令和8年6月一部改正)公表)

公表するかどうかは、報告義務とは別の判断です。報道や万単位の閲覧に至った事案では、公表しない選択は事実上ありません。当日中に削除でき、閲覧が限られ、本人全員に個別に通知できた事案では、本人通知のみで足りる場合が多いと考えられます。本人が特定できず通知が困難なときは、第26条第2項の代替措置として公表します。文面で何を主語にするかが信頼の回復を左右します。適時開示との関係や公表すべき事項、大規模漏えいでの危機管理の進め方は、次の2本の記事で整理しています。

BeReal情報漏洩が発覚したときの初動対応

BeReal情報漏洩に関するよくある質問

投稿を転載して拡散した第三者にも責任はありますか

あり得ます。映り込んだ顧客や同僚の氏名を本人が特定できる形で転載し広めた行為は、プライバシー侵害を中心に民法第709条の損害賠償の対象になります。内容と態様によっては刑法第230条の名誉毀損罪も検討されますが、不祥事を報じる目的の転載には免責の余地があり、事案ごとの判断です。削除請求ができるのは権利を侵害された本人です。顧客の氏名については顧客本人が請求主体になるため、企業は本人の申立てを支援するか、委任を受けて代理で請求します。営業秘密や自社の信用が侵害された部分は、企業自身が請求できます。

公務員が漏えいさせた場合の処分はどうなりますか

公務員の懲戒の根拠は就業規則ではなく地方公務員法第29条にあり、信用失墜行為の禁止を定める第33条の違反が主に問われます。映り込んだ情報が職務上知り得た秘密に当たれば第34条第1項の守秘義務違反も問題になり、第60条第2号により1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です。

位置情報の共有は企業のリスクになりますか

なります。投稿に位置情報が付いていれば、映り込んだ画面や書類がどの事業所のものかを第三者が特定しやすくなります。規程では業務中の撮影禁止と合わせて、私生活の投稿でも職場の所在や制服、社員証が写らないよう注意を求めることになります。

業務委託先や派遣社員、アルバイトの投稿にも企業は責任を負いますか

負い得ます。個人データの取扱いを委託している場合、個人情報保護法第25条により委託先を監督する義務があり、委託先の職員による漏えいでも委託元の監督が問われます。派遣社員やアルバイトの漏えいでも、企業が顧客に負う責任や委員会への報告義務は正社員の場合と変わりません。ただし派遣社員の懲戒処分は雇用主である派遣元が行うもので、派遣先は派遣元への通知と派遣契約に基づく対応をとります。委託先の従業員には、委託契約で研修と誓約書の取得を委託先に義務づける形で対応し、直接の指揮命令は避けます。

BeRealそのものが危険なアプリなのですか

企業にとって危険なのはアプリではなく、職場で撮影できる状態です。リスクはアプリの仕様と職場での撮影が組み合わさったときに生じます。企業の対応は特定のアプリの名指し禁止ではなく、執務室での撮影と私物端末の持ち込みをどう扱うかというルールの設計です。アプリを列挙する方式は、次に流行するアプリが出た時点で意味を失います。

まとめ:BeReal情報漏洩への備えは弁護士に相談を

BeReal起点の情報漏洩は、2分以内の時間制限と前後カメラの同時撮影が、背景の確認という工程を仕様として省くことで起きます。投稿者に悪意はなくても、企業は安全管理措置と従業者の監督の義務を問われ、報告対象事態に当たれば速報と確報、本人への通知が義務になります。顧客に対しては使用者責任を負う可能性があり、従業員への求償には限界があります。

令和8年改正法は未施行ですが課徴金制度を新設します。対価を得ない過失の漏えいは直接の対象ではなく、実務への影響は措置命令要件の見直しと委託先義務の見直しが中心です。懲戒処分は就業規則の根拠と周知、事実の認定、弁明の機会を含む手続と処分の相当性がそろったときに有効です。アプリ利用そのものの禁止は難しく、制限は執務室と業務時間、そして業務情報の映り込みを軸に設計します。発覚したら、証拠保全と削除請求、速報、本人通知、確報を30日の中で並行して進めます。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、ITとインターネットに関する法律問題を中心に扱う法律事務所です。従業員のSNS投稿による情報漏えいについては、個人情報保護委員会への報告と本人通知、転載先への削除請求の支援、顧客や取引先への説明に対応します。従業員の処分と損害賠償請求の判断、就業規則とソーシャルメディア・ポリシーの整備、令和8年改正法への対応まで、初動から再発防止の体制づくりまで一貫して扱います。上場企業からシードステージのベンチャーまで顧問弁護士を務めてきた経験をもとに、事業の実態に合った規程と運用を設計します。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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