VTuberの契約書とは?キャラクター制作依頼で押さえる条項と著作権譲渡の注意点

VTuberの契約書を調べると、見つかるのは事務所に所属するときの契約の話がほとんどです。けれども個人で活動を始める人や、新人のキャラクターを用意する事務所が最初に交わすのは、絵師やモデラーにキャラクターを作ってもらう契約です。
この契約には、代金を払えばキャラクターを自由に使えるという思い込みがつきまといます。制作依頼の契約書に入れる条項、著作権譲渡で抜けやすい点、事務所や企業が発注するときに法律で課される義務を順に見ていきます。
この記事の目次
VTuberの契約書は主に3種類
VTuberの活動で交わす契約書は、主に3つです。事務所とVTuber本人が結ぶ所属契約、絵師やモデラーにキャラクターを作ってもらう制作依頼契約、企業からPRを頼まれたときの企業案件の契約です。当事者も争いになりやすい点も違うため、自分がどの契約を結ぼうとしているのかを先に確かめます。
▼ VTuberの活動で交わす主な契約書
| 契約の種類 | 当事者 | 目的 | 主な論点 |
|---|---|---|---|
| 所属契約・専属契約 | 事務所とVTuber本人 | 事務所に所属して活動する | 報酬の分配、専属性、禁止事項、退所後の扱い |
| キャラクター制作依頼契約 | VTuber本人または事務所と、絵師・モデラー | 立ち絵やLive2D・3Dモデルを作ってもらう | 仕様、検収、支払、著作権の帰属と利用範囲 |
| 企業案件の契約 | 企業と、VTuber本人または事務所 | 商品やサービスのPR配信を行う | 業務内容、報酬、広告であることの表示、禁止事項 |
キャラクターを誰がどこまで使えるかを最初に決めるのは、制作依頼契約です。所属契約でキャラクターの権利は事務所に帰属すると定めても、事務所が絵師から権利を得ていなければ、その定めは中身を伴いません。所属契約と企業案件の契約は、それぞれの解説記事で扱っています。
このほか、声を担当する人との業務委託契約や、チャンネルの事業譲渡契約もあります。
VTuberのキャラクター制作依頼に契約書が必要な理由

契約は、申込みと承諾がそろえば成立します。民法522条2項は、法令に特別の定めがある場合を除き、契約の成立に書面の作成などの方式は要らないと定めています。SNSのメッセージで依頼して引き受けてもらった時点で、契約自体は成立しているということです。
参考:e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)
困るのは中身が決まっていないことです。何を、いつまでに、いくらで作り、完成したものをどこまで使えるのか。なかでも次の2点は、契約書がないと依頼した側に不利に働きます。
何も決めなければ著作権は絵師やモデラーに残る
著作権法は、著作物を創作する者を著作者と定めています(2条1項2号)。代金を払ったかどうかは関係がなく、キャラクターを描いた絵師やモデルを組んだモデラーが著作者です。
会社の従業員が仕事として作ったものは会社が著作者になる、職務著作の規定もあります(15条)。ただしこれは、法人等の発意に基づいてその業務に従事する者が職務上作成し、法人等の名義で公表するものについて、契約などに別段の定めがない限り適用される規定です。そのため、外部のフリーランスに依頼した場合には通常あてはまらないと解されます。著作権を譲り受けるか、使える範囲の許諾を得るかを契約で決めない限り、依頼した側はキャラクターを思いどおりに使えない可能性があります。
参考:e-Gov法令検索「著作権法」(昭和45年法律第48号)
依頼する側に取引条件を示す義務が生じる
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)は、事業として依頼を受ける人のうち、従業員を使わない個人や、代表者1人だけで従業員のいない法人を特定受託事業者と呼び、保護の対象にしています。事業者がこうした相手に制作を依頼したら、直ちに作ってもらうもの(給付)の内容、報酬の額、支払期日などを、書面かメールなどの電磁的方法で示さなければなりません(3条)。
この義務は、依頼する側が従業員を使っているかどうかを問いません。個人勢のVTuberでも、活動を事業として行っていれば対象になり得ます。事業にあたるかどうかは、収益化の状況など活動の実態から判断されると解されます。
参考:e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号・2024年11月1日施行)
VTuberのキャラクター制作依頼契約は請負型の業務委託契約
キャラクターの制作依頼は、成果物を納めてもらう契約なので、請負型の業務委託契約として結ばれるケースが多いと考えられます。請負は仕事の完成を約束し、その結果に報酬を払う契約で(民法632条)、報酬は完成物の引渡しと同時に払うのが原則です(633条)。
ラフの確認や差分の追加を重ねる案件では、作業をした分に応じて報酬が生じる準委任に近い要素が入ることもあります。どちらの形で組むかは、契約書に書いておきます。
参考:e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)
VTuberのキャラクター制作契約書に定める条項
制作依頼の契約書に入れる条項は、依頼から支払までの流れに沿って並べると漏れが出にくくなります。
▼ キャラクター制作契約書の主な条項
| 条項 | 決めること |
|---|---|
| 業務内容と仕様書 | 成果物の種類、表情差分や衣装の数、パーツ分け、納品ファイルの形式 |
| 仕様変更 | 変更を申し出る手続、追加料金、日程の組み直し |
| 納期 | 最終の納期と、工程ごとの中間納期 |
| 検収と修正 | 検査期間、無償で修正する回数と範囲 |
| 報酬と支払期日 | 金額、着手金、分割の条件、支払期日 |
| 契約不適合責任 | 納品後に不具合が見つかったときの対応と通知の期間 |
| 著作権 | 譲渡か利用許諾か、その範囲 |
| 実績公開とクレジット | 公開の解禁日、実績としての掲載、名前の表示 |
| 中途解約 | 途中でやめるときの精算の方法 |
以下の条項例は、請負型の業務委託契約を前提に、依頼者を甲、絵師やモデラーを乙としたものです。そのまま使えば足りるものではなく、作るものと使い方に合わせて書き換える必要があります。

業務内容と仕様書
何を作るのかが曖昧なままだと、納品物が想像と違ったときに判断の拠り所がありません。立ち絵の枚数、PSDのパーツ分けの細かさ、表情差分の数、Live2Dで動かす範囲、3Dモデルのファイル形式まで仕様書に書いておけば、検収もそれを基準に進められます。
第●条(業務内容)乙は、甲がVTuber活動で使用するキャラクター(以下「本件キャラクター」という。)のデザイン・モデリングに係る業務(以下「本件業務」という。)を受託し、仕様書にしたがって遂行する。
仕様変更と追加料金
企画の見直しでキャラクターの設定が変わることは珍しくありません。変更は書面で申し出て、費用と日程を合意してから作業に入る。この順番を契約で決めておけば、追加料金の言い争いを避けられます。
第●条(仕様の変更)甲の都合により仕様の変更を甲乙が書面で合意した場合、乙は、甲に対して、既に行った本件業務のうち変更により不要となった部分の遂行割合に応じた委託料と、変更に伴う追加作業の費用として合意した額の支払いを請求することができる。
発注者が取適法(旧下請法)の対象になる場合や、フリーランス法の特定業務委託事業者として1か月以上の依頼をする場合、受注者に責任がないのに給付の内容を変えさせ、受注者の利益を不当に害することは禁じられています(取適法5条2項3号、フリーランス法5条2項2号)。
納期
デビュー配信の日が決まっているなら、そこから逆算して納期を置きます。ラフ、線画、彩色、モデリングと工程ごとに中間の期限を設けておくと、遅れに早く気づけます。
検収と修正回数
検収とは、納品されたものが仕様書どおりかを依頼者が確かめる手続です。期間も回数も決めずに無償で直してもらい続けると、発注者が法律違反を問われることもあります。検査期間と、仕様の範囲内で無償の調整を求められる回数は、契約書に数字で書いておきます。
第●条(検収)1 甲は、納品物を受領後●日以内に、本件キャラクターが仕様書に適合することを検査する。2 前項の期間内に甲が書面で具体的かつ合理的な理由を明示して異議を述べない場合、納品物は検査に合格したものとみなす。3 納品物が仕様書に適合しない場合、乙は、乙の費用で修補する。4 仕様書の範囲内での表現上の調整は●回まで無償とし、仕様書に記載のない変更は第●条(仕様の変更)の手続による。
検査期間を過ぎてから、発注書などの仕様からは必要と分からないやり直しを無償でさせていたとして、公正取引委員会がVTuber動画の配信事業を営む会社に勧告を出した例があります。
報酬と支払期日
報酬額、着手金の有無、支払方法、支払期日を定めます。分割で払うなら、どの工程が終わったらいくら払うのかまで書きます。
支払期日のルールがかかるのは、フリーランス法の特定業務委託事業者、つまり従業員を使う個人や、役員が2人以上いるか従業員を使う法人が依頼する場合です。この場合、給付を受け取った日から数えて60日以内の、できる限り短い期間で支払期日を定めなければなりません(4条1項)。また、委託事業者が中小受託事業者の給付を受領した場合にもルールがかかります(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律3条1項)。起算点は検収が終わった日ではなく、納品物を受け取った日です。検収に時間をかけても、支払期日の上限は後ろにずれません。検査期間は、この60日の中に収まるように設定します。
第●条(委託料の支払)甲は、乙に対し、本件業務の委託料として金●円(消費税別)を、納品物を受領した日から●日以内に、乙の指定する口座に振り込む方法により支払う。
参考:e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号・2024年11月1日施行)
契約不適合責任
納品後に、パーツの欠けや動かしたときの破綻が見つかることがあります。成果物が契約の内容に合っていないとき、依頼者は直してもらうこと(修補)や報酬の減額などを求められます。ただし、不適合を知った時から1年以内に受注者へ通知しなければ、修補、報酬の減額、損害賠償、解除のいずれも求められなくなります(民法637条1項)。受注者が引渡しの時点で不適合を知っていたか、重大な過失で知らなかった場合は、この期間の制限はかかりません(同条2項)。依頼者の指図が原因で生じた不適合は、原則として責任を問えません(636条)。
実務では、検収で見つけられなかった不適合のうち、納品後の一定期間内に依頼者が通知したものを受注者が直す、と期間で区切る定め方がよく使われます。ただし、民法の1年より短くなるので受注者に有利な定め方です。依頼する側は、期間と、損害賠償や解除を残すかを交渉します。
第●条(契約不適合責任)1 納品物に第●条の検収では発見できない本契約の内容との不適合がある場合に、納品後●か月以内に甲がその不適合を発見し、乙に対して通知をしたときは、甲は、乙に対し、修補又は代金の減額を請求することができる。2 前項の規定は、甲による損害賠償の請求及び契約の解除を妨げない。
参考:e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)
実績公開とクレジット表記
デビュー前にキャラクターのデザインが出回ると、お披露目の演出が成り立ちません。公開の解禁日まで秘密にすること、解禁後に絵師が実績として紹介してよいか、配信の概要欄などに名前を出すかを決めておきます。
著作者には、作品に名前を表示するかしないかを決める氏名表示権があります(著作権法19条)。この権利は譲渡できないので(59条)、クレジットの扱いは著作権の譲渡とは別に取り決めます。人格権の不行使特約を広く置くとクレジットの約束と食い違うため、特約の対象と表示の定めをそろえます。
中途解約と納品前のキャンセル
請負では、仕事が完成する前なら、依頼者は、受注者に生じた損害を賠償すれば、いつでも契約を解除できます(民法641条)。途中まで仕上がった部分が分けて使え、依頼者がそれで利益を受けるときは、受注者はその割合に応じて報酬を請求できます(634条)。
デビューの中止や企画の変更に備えて、ラフの提出前、ラフの承認後、彩色の完了後というように、段階ごとの精算額を決めておくと、そのつど交渉せずに済みます。精算額は、その段階までの作業量を下回らないように決めます。取適法やフリーランス法の対象になる発注者が費用を負担せずに取り消すと、禁止行為にあたる可能性があります。準委任に近い形なら、委任の解除の規定によります(民法651条・656条)。
参考:e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)
VTuberキャラクターの著作権譲渡で押さえる条項
VTuberのキャラクター制作の契約では、著作権を含む知的財産権に関する定めが最も重要な事項となります。長く使うキャラクターは、著作権をまとめて譲り受けるか、使える範囲を契約ではっきりさせておきます。グッズ展開や演じる人の交代まで考える事務所なら譲渡、用途が配信やSNSに限られる個人勢なら許諾、というのが選び方の目安です。
第●条(本件キャラクターに関する著作権)
1 乙は、本件キャラクターに関する成果物(中間成果物を含む。)の著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)を、乙又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、委託料の支払いが完了した時に甲に譲渡する。譲渡の対価は、委託料に含まれるものとする。
2 乙は、甲又は甲が指定する者による本件キャラクターの改変(衣装・髪型の追加や変更、表情の追加、3D化、デフォルメ化を含む。)について、同一性保持権を行使しないものとする。氏名の表示は、第●条(実績公開とクレジット)の定めによる。
3 乙は、第1項で除いた著作物について、甲及び甲が指定する者に対し、本件キャラクターの利用に必要な範囲で無償で利用を許諾する。
短い条文ですが、1項の括弧書きと2項には、それぞれ置く理由があります。

著作権法27条と28条の権利を明記する
27条は著作物を翻訳したり変形したりして翻案する権利、28条は元の作品から生まれた二次的著作物を利用する権利です。新衣装の立ち絵を起こす、2Dの立ち絵から3Dモデルを作る、グッズ用にデフォルメしたイラストを描く、といった使い方がこれらの権利にかかわり得ます。
著作権法61条2項は、著作権を譲渡する契約で27条または28条の権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定すると定めています。特掲とは、権利を名指しで書くことです。「著作権の一切を譲渡する」とだけ書いた契約では、こうした派生の権利が絵師の手元に残ると推定されるおそれがあります。
参考:e-Gov法令検索「著作権法」(昭和45年法律第48号)
著作者人格権には不行使特約で備える
著作者人格権は著作者の一身に専属し、譲渡することができません(著作権法59条)。著作権をすべて譲り受けても、絵師には、作品を意に反して改変されない同一性保持権(20条1項)などが残ります。
髪型や衣装を変える、表情を足す、別の絵師に描き下ろしを頼むといった運用は、同一性保持権とぶつかる可能性があります。そこで、甲や甲が指定する者に対して著作者人格権を行使しないという特約が広く使われています。特約がどこまで及ぶかについては議論があるため、想定している改変の中身を具体的に書いておくと、後の食い違いを減らせます。
参考:e-Gov法令検索「著作権法」(昭和45年法律第48号)
利用許諾にするなら範囲を決める
絵師が譲渡に応じない場合や、譲渡の対価を抑えたい場合は、著作権を絵師に残したまま利用の許諾を受ける方法があります。許諾を受けた者が使えるのは、許諾された利用方法と条件の範囲内に限られます(著作権法63条2項)。
▼ 利用許諾で決めておく範囲
| 項目 | 決める内容の例 |
|---|---|
| 独占か非独占か | 同じキャラクターを他の人に使わせないか |
| 期間 | 年数か終わりの時点を具体的に決める。あいまいにすると解約を主張されるおそれがある |
| 媒体と用途 | 配信、SNS、グッズ、広告案件、書籍 |
| 改変 | 衣装の追加や3D化を認めるか |
| 第三者による利用 | 事務所、グッズの製造委託先、切り抜き動画での利用を認めるか |
許諾の範囲に書かれていない使い方をすると、著作権の侵害を問われる可能性があります。活動が広がってから使いたくなる用途まで見越して、最初に範囲を決めておきます。なお、絵師が著作権を第三者に譲っても、許諾を受けた利用権はその第三者に対抗できます(著作権法63条の2)。
Live2Dモデルや3Dモデルは絵師とモデラーの両方と契約する
絵師が描いたイラストをもとに、別のモデラーがLive2Dモデルや3Dモデルを作ることはよくあります。このときのモデルは、原画を翻案して作った二次的著作物(著作権法2条1項11号)にあたり得ます。
モデルを使う場面では、原画を描いた絵師も、モデルを作ったモデラーと同じ種類の権利を持ちます(28条)。モデラーからモデルの著作権を譲り受けても、原画を描いた絵師の了解がなければ、モデルを自由に使えない可能性があります。絵師とモデラーのそれぞれと契約を結び、絵師との契約でモデル化とその利用を認めてもらっておく必要があります。絵師との契約と立ち絵の納品を先に済ませ、原画データの扱いを決めてからモデラーに発注する順になります。

VTuberの引退・転生・退所に備えて決めておくこと
キャラクターの権利を誰が持つかは、活動を終えるときや事務所を離れるとき、転生と呼ばれる別キャラクターでの再出発をするときに初めて表に出ます。制作を依頼する時点で、終わり方まで決めておくと安心です。
▼ 活動の終わりに備えて制作依頼契約で決めておくこと
| 場面 | 契約で決めておくこと |
|---|---|
| 事務所が発注したキャラクターでの退所 | 退所後に本人がキャラクターを使えるか。著作権が事務所にあれば使えないのが原則のため、活動名やアーカイブの扱いとあわせて所属契約の定めとそろえておく |
| 個人勢の活動終了 | 活動を終えたあと、絵師がそのキャラクターを使ったり描いたりしてよいか |
| 演じる人の交代や別キャラクターでの再出発 | 同じキャラクターを別の人が演じることを認めるか、別キャラクターで活動を再開するときに制限を設けるか |
事務所が発注者になる場合は、絵師との制作依頼契約と、本人との所属契約の中身がかみ合っていないと、退所の場面で三者の言い分がぶつかります。所属契約で退所後のキャラクターや名前の扱いをどう定めるかは所属契約の記事で、競業避止の定め方はM&Aの場面を扱った記事で解説しています。
VTuber事務所や企業が制作を発注するときのフリーランス法と取適法

事務所や企業が絵師やモデラーに制作を依頼する場合、契約書の中身とは別に、発注のしかたそのものに法律のルールがかかります。個人のクリエイターへの発注なら、まずフリーランス法です。一定の規模を超える会社が取適法の取引類型にあたる発注をする場合は、取適法も適用されます。自社の宣伝用にキャラクターを作らせる場合などに類型にあたるかは、個別の判断です。
フリーランスの絵師やモデラーに依頼するときの義務
▼ フリーランス法で発注者が負う主な義務
| 義務 | 対象となる発注者 | 内容 |
|---|---|---|
| 取引条件の明示(3条) | 業務委託事業者。従業員の有無を問わない | 給付の内容、報酬の額、支払期日などを直ちに書面か電磁的方法で示す |
| 支払期日(4条) | 特定業務委託事業者。従業員を使う個人、または役員が2人以上いるか従業員を使う法人 | 給付を受け取った日から60日以内の、できる限り短い期間で定める |
| 禁止行為(5条) | 特定業務委託事業者で、1か月以上の業務委託をする者 | 受領拒否、減額、返品、買いたたき、購入や利用の強制、経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更とやり直し |
立ち絵とモデルを1か月以上かけて作る依頼は珍しくありません。その場合、従業員を使う事務所は、明示と支払期日に加えて禁止行為の規定まで守る必要があります。違反したときの罰則は、フリーランス法の罰則を扱った記事で解説しています。
参考:e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号・2024年11月1日施行)
参考:e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令」(令和6年政令第200号)
取適法の対象になる発注者の基準
取適法は、下請代金支払遅延等防止法(下請法)を改正し、令和8年1月1日に施行された法律です。正式名称は、製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律です。イラストや動画用のモデルは情報成果物にあたり得ます。事業者が業として提供するためにその作成を他の事業者に任せることは、情報成果物作成委託にあたります(2条3項・7項)。成果物がプログラムにあたる場合は、下の表ではなく、資本金3億円と1,000万円を境にする基準で判定されます(2条8項1号・2号)。
▼ 情報成果物作成委託で取適法の対象になる組み合わせ
| 委託事業者(発注者) | 中小受託事業者(受注者) |
|---|---|
| 資本金5,000万円を超える法人 | 個人、または資本金5,000万円以下の法人 |
| 資本金1,000万円を超え5,000万円以下の法人 | 個人、または資本金1,000万円以下の法人 |
| 常時使用する従業員が100人を超える法人 | 常時使用する従業員が100人以下の個人または法人 |
委託事業者は、発注の内容を直ちに書面か電磁的方法で示さなければなりません(4条1項)。そのうえで、受領拒否、支払の遅れ、減額、受注者に責任のない給付内容の変更ややり直しなどが禁じられます(5条)。受注者が従業員のいない個人の絵師であれば、取適法とフリーランス法の両方の対象になることがあります。
参考:e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(昭和31年法律第120号・令和7年法律第41号による改正・2026年1月1日施行)
無償のやり直しで勧告を受けたVTuber事業者の事例
公正取引委員会は令和6年10月25日、VTuber動画の作成や配信を行うカバー株式会社に対し、当時の下請法に基づく勧告を行いました。
公表資料によると、同社は個人や資本金5,000万円以下の事業者に、VTuber動画に使うイラストや2Dモデル、3Dモデルの作成を委託していました。そのうえで令和4年4月から令和5年12月までの間、納品物を受け取った後に、発注書などで示した仕様からは必要と分からないやり直しを無償でさせていたとされています。対象は23名、合計243回です。検査期間を過ぎてからやり直しを求めた例や、受け取りから支払まで600日を超えた例も示されています。
勧告の理由は、受注者に責任がないのに無償でやり直させたことで、不当なやり直しを禁じた旧下請法4条2項4号にあたるとされました。支払の遅れは、勧告ではなく指導の対象でした(旧4条1項2号)。これらの規定は、取適法では5条2項3号と5条1項2号に引き継がれています。仕様書で求める内容を具体的に書き、検査期間と無償修正の範囲を契約で区切ることが、同じ違反を防ぐ最も直接的な手段になります。
参考:公正取引委員会「カバー株式会社に対する勧告等について」(令和6年10月25日公表)
VTuberの契約書に関するよくある質問
ひな形やテンプレートをそのまま使ってもよいですか
そのままでは案件に合わないことが多いと考えられます。作るものがイラストかLive2Dモデルか、著作権を譲り受けるのか許諾にとどめるのか、発注者がフリーランス法や取適法の対象になるのかで、必要な条項が変わるからです。ひな形は抜けを確かめる手がかりにとどめ、中身は案件に合わせて書き換えます。
VTuberの活動名だけで契約を結んでもよいですか
契約の当事者が誰かを特定できないと、揉めたときに請求の相手を示せません。活動名で匿名性を保ちたい場合でも、契約書には当事者を特定できる情報を書き、相手が知った情報を外に出さないよう秘密保持の条項で縛る方法が考えられます。事務所を通じて発注し、事務所を契約の当事者にする方法もあります。相手が未成年の場合は、法定代理人の同意がない契約は取り消されるおそれがあるため、保護者の同意書をもらっておきます(民法5条)。
著作権譲渡の対価はどう決めればよいですか
法律で決まった相場はなく、当事者の合意で決まります。ただし、取適法の委託事業者や、1か月以上の依頼をするフリーランス法の特定業務委託事業者が、通常の対価より著しく低い額を不当に定めると、買いたたきにあたる可能性があります(取適法5条1項5号、フリーランス法5条1項4号)。
まとめ:VTuberの制作依頼は契約書で権利と条件を先に決める
VTuberの契約書は、所属契約、制作依頼契約、企業案件の契約の3つが中心です。制作依頼契約では、仕様、検収と調整の回数、支払期日、中途解約までを依頼の流れに沿って決めます。
著作権を譲り受けるなら27条と28条の権利を明記し、人格権の特約を置きます。モデルは絵師とモデラーの両方と契約し、事務所や企業の発注ではフリーランス法と取適法の義務も確かめてください。
発注書や契約書のひな形を作る段階、著作権の範囲を決めかねている段階で弁護士に確認しておくと、後の交渉が短く済みます。
当事務所による対策のご案内
モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。VTuberのキャラクター制作契約書の作成とレビュー、所属契約や企業案件の契約、取適法とフリーランス法に沿った発注書と契約書のひな形の見直しまで、VTuberの活動にかかわる契約を幅広く扱っています。

































