キャラクターには著作権がない?IPビジネスのための基礎知識
漫画やアニメ、ゲーム、VTuberなど、様々なメディアにおける「キャラクター」は、アニメキャラクターのゲームとのコラボレーションや書籍の出版等、様々なビジネスにて利用されています。
こうした利用を通じて、自分の生み出した知的財産から利益を得るビジネスは、「IP(知的財産)ビジネス」と呼ばれています。
こうしたビジネスに関連して、「キャラクターには著作権の保護が及ばない」ということを聞いたことがある方も多いでしょう。これはどういう意味なのでしょうか。
例えば、他人が作ったキャラクターを無断でゲームに登場させても「著作権侵害」とはならないのでしょうか?
逆に、自社のキャラクターを法的に保護しながらビジネス展開するにはどうしたら良いのでしょうか。
この記事では、キャラクターと著作権の関係について解説します。
この記事の目次
キャラクターと著作権の関係
「アイディア・表現二分論」と著作権法
著作物には著作権が認められます。ここでいう「著作物」を著作権法では、以下のように定義しています。
思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの
著作権法2条1項1号
この定義から、著作物に該当するためには、著作者の思想や感情といった「アイディア」を具体的に「表現」しなければならないことが分かります。
このように、アイディアと表現を峻別し、具体的な表現のみを著作物として保護する原則を、「アイディア・表現二分論」と言います。
「アイディア・表現二分論」の下で、アイディアと表現の保護には以下のように明確な違いがあります。
- アイディア:特許権や実用新案権によって保護を行う。このため「発明」など高度なものだけが保護対象になる。また、出願を行うなど法定の手続を踏まないと権利が発生しない。
- 表現:著作権によって保護を行う。素人が紙の上に10秒で描いた花の絵にも著作権は発生し保護対象になる。また、出願手続なども不要で創作した瞬間に自動的に権利が発生する。
頭の中のアイディアは基本的には皆の物で、たまたま最初に思いついた人への保護は限定的にするべきな上、出願などの手続を経て「このアイディアには誰かの権利がある」と公開させる必要があります。
その一方で、具体的な表現については、表現が芸術的かどうか、価値があるか等を問わず保護することで、表現活動への意欲を高めることが目指されています。
このような基本的な発想が、アイディアと表現の保護の違いに現れています。
「キャラクター」はアイディア
アニメや漫画の登場人物は、その設定や人格などの抽象的概念であるキャラクターと、それを具体的に表現したデザインにより構成されます。
このキャラクターは、それ自体はアイディアであり著作物に当たりません。
「ポパイ」のイラストを無断で描くことが著作権侵害にあたるかが争われた事件(「ポパイ事件」)では、著作権侵害を主張するためには、「キャラクターが無断で利用された」ではなく「ある具体的な絵・イラスト(例えば第●巻の第●話のイラスト)が無断で利用された」というように、「どの絵・イラストを盗まれたのか」を特定するべきであるとの判示をしました。
著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が、反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。けだし、キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないからである。
最判平成9年7月17日
つまり、
- セーラー服姿で口にパイプをくわえていて、ほうれん草を食べると超人的なパワーを生み出す30代の男性海兵(というアイディア)
- 具体的に紙の上に描かれたポパイの絵・イラスト(という表現)
この二つのうち、著作者が持つのは「2(具体的な表現)に関する著作権」であり、ポパイを模倣したイラストを描く行為は「2(具体的な表現)に関する著作権の侵害」にはなり得ても、「1(キャラクター)に関する著作権の侵害」にはならない、という構造です。
商標登録による保護が有効
キャラクターデザインを保護する方法として、商標権を活用することも考えられます。
商標権は商標法により認められている権利であり、図形や文字、立体的形状などの視覚的形状が保護されます。キャラクターデザインも一定の要件を満たせば商標として認められます。
商標権の場合、商標であるキャラクターデザインを模倣したイラストを使用すれば、元のデザインを知っていたかを問わず商標権侵害となる可能性があります。
これに対して、著作権侵害を主張する際には、相手が元のキャラクターデザインを知って、これに基づいて模倣したことを証明しなければなりません。
相手が元のキャラクターデザインを知らずに、自ら独自に作品を生み出したのであれば、著作権侵害とはなりません。
ただし、商標権は商標登録をしなければ発生しない点に注意が必要です。
また、商標権には設定登録から10年の存続期間が定められているため、更新を忘れないようにする必要があります。
商標登録による保護については、以下の記事もご参照ください。
キャラクターデザインをどこまで使用すると著作権侵害となるのか
ポパイ事件の複雑なポイント
ポパイ事件で「キャラクター」と「表現」の区別が最高裁まで争われたことには、一つの特殊事情があります。
ポパイは1929年に生み出されたキャラクターであり、初期作品については米国司法による判断で、著作権による保護期間が満了していた、という点です。
つまり、下記のような構造です。
「一つのキャラクター(アイディア)」について描かれたデザイン(表現)が、時間軸の中で大量に存在し、その中のどれかに基づいて作成されたと思われる「無断作成された絵」が存在する。
これがどの絵に基づいて作成されたか次第で、
- 「著作権切れの絵・イラストに基づいて作成された(したがって著作権侵害とならない)絵・イラスト」なのか
- 「著作権が存続する絵・イラストに基づいて作成された(したがって著作権侵害となる)絵・イラスト」なのか
結論が分かれる、という事案だったのです。
通常の場合、例えばある漫画キャラクターに関する無断作成イラストがある場合に、「そのイラストは具体的には第●巻の第●話のイラストの模倣なのか」という点が問題になるケースは、あまりありません。
著作権法が禁止する「翻案」とは
著作権法は、あるキャラクターについて描かれた絵・イラストが存在する場合に、そのデッドコピーや単純に模倣する行為は「複製権侵害」として著作権法上禁止されます。
また、それだけでなく、キャラクターデザインを基にして、元のデザインが参照されていることを閲覧者が分かるような作品を別に創作する行為も「翻案権侵害」として禁止しています。
そのため、特定のキャラクターに関するデザインをデフォルメして描く行為も禁止されます。
著作権とライセンス・ガイドライン
「複製権侵害」や「翻案権侵害」になるデザインの作成や公開が、ガイドラインにより一定の範囲内で許されている場合があります。
例えば、バーチャルアイドルとして有名な「初音ミク」の場合、「キャラクター利用のガイドライン」において、二次創作物の公表等が一定範囲で許諾されています。
一般に「版権物」と称されるキャラクターについて、原画をそのままのかたちで、またはみずから描いたイラストなどのかたちにして(いわゆる「二次創作物」)、その権利者の許諾がないままインターネットなどで公表することは、著作権法などの法律によって禁じられています。『初音ミク』などの当社キャラクターも、法律によって同じように扱われます。
piapro(ピアプロ)|キャラクター利用のガイドライン
一方、クリエイターにとって、自ら汗をかいて制作した作品を、それが二次創作物であってもインターネットなどで公表したいと思うことは自然な願望です。当社も、営利を目的としない利用については、当社のキャラクターをできる限り使っていただきたいと思っています。
このガイドラインは、「デフォルメ化などを行っても初音ミクの著作権との関係で翻案にあたることは当然」だが「それを一定範囲では許諾する」ということを明らかにしています。
もっとも、ガイドラインに示されている通り、キャラクターデザインの営利目的での利用は自由に行えません。
営利目的での利用をする場合には、いわゆるIPビジネスが関わることになります。
キャラクターデザインを利用するには
大人気漫画がアニメ化や映画化されたり、グッズの販売などに用いられる場合、キャラクターデザインを利用することになります。
このような営利目的での利用を認めて、その利用料で利益を得るビジネスを「IPビジネス」と言います。
ここでは、IPビジネスのもとで、キャラクターデザインを利用する方法について解説します。
著作権の譲渡
キャラクターデザインを利用する方法として、その著作権者から著作権を譲り受ける方法があります。
なお、著作権の譲渡を受ける際には、「翻案権」や「二次的著作物の利用に関する権利」について注意する必要があります。
これらの権利の譲渡を受けるには、契約書上譲渡を受けることを特に明記しなければ、これらの権利は譲渡者に留保されたものと推定されます。
これらの権利が譲渡されないと、例えばキャラクターデザインをデフォルメ化した作品に対して、譲受者は、著作権侵害を主張できません。
「●●のキャラクターデザインに関する著作権は、乙から甲に移転する」と定めても、「翻案権」等の権利は譲渡されません。
そのため、「●●のキャラクターデザインに関する著作権(著作権法第27条及び28条の権利を含む。)は、乙から甲に移転する」のように、翻案権なども含めて譲渡する旨を明らかにする必要があります。
ライセンス契約を結ぶ
また、著作権を譲り受けるのではなく、著作権者とキャラクターデザインの利用に関するライセンス契約を締結する方法もあります。
ライセンス契約では、キャラクターデザインの利用について、様々な限定を加えることができます。
例えば、キャラクターデザインをどのような態様や頻度で利用するのか、利用期間はどの範囲なのかなどに関して限定することが考えられます。
「キャラクターの著作権」と事業譲渡の注意点
近年、バーチャルYouTuber・VTuberの事業を買収することが多く見られます。
これは、YouTube等のチャンネル登録者数をゼロから増やしていくのが大変なことや、既存のチャンネルやアカウントを買収した方が手っ取り早いことから、その事業買収に需要があります。
バーチャルYouTuber・VTuberを買収する際に、多く用いられるのが「事業譲渡」です。「事業譲渡」とは、
- YouTubeチャンネルの管理権限
- Twitterアカウントの管理権限
- そのVTuberの公式サイトの管理権限や、サイトを構成する各種要素の著作権
のような、「ひとまとまり」の事業を全てまとめて売買等するスキームです。
ただし、事業譲渡をする際には、何の著作権を譲渡するのかを具体的に明記することが重要です。
例えば、
VTuberキャラクター「●●」の著作権
のような記載で事業譲渡を行ってしまうと、「そもそもキャラクターには著作権が存在しないのでは?」という問題になり、具体的に何を譲渡するのかが曖昧になってしまいます。
譲渡対象を明確にするためには、以下のような記載が考えられます。
●●氏がVTuberキャラクター「●●」について●年●月●日乃至●年●月●日に描いた全てのイラストの著作権
バーチャルYouTuber・VTuberの買収・事業譲渡の詳細に関して、以下の記事をご参照ください。
キャラクターと著作権の関係性まとめ
キャラクターは著作物ではないため、著作権により保護されません。しかし、これはキャラクターデザインを許可なく自由に利用できることを意味しません。
具体的なイラスト等は著作権により保護されるほか、キャラクターデザインの商標登録などがされていれば商標権によっても保護されることになります。
キャラクターデザインを参考に二次創作をしたり、ゲームや映画等とのコラボレーションをする際には、このような権利関係に十分注意をする必要があります。
知的財産を幅広く活用することは、様々なビジネスチャンスをもたらすことになります。
そのためには、正確な法的知識が不可欠です。ご興味のある方は、ぜひIPビジネスに詳しい弁護士にご相談ください。
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